Top > LOWE IF_592_第01話2
HTML convert time to 0.007 sec.


LOWE IF_592_第01話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:39:40

「落ち着きましたか?」
「…」
「ああ、掃除の事は御気にせずに。私、これでも掃除の名手ですから!なんの「なんでだよ」はい?」
「何で、僕に優しくするんだ」
「何でって…困っている人を助けるのは人として当然でしょう?」
「…」

キラの低い声の質問に、にっこりと微笑んで答えるラクス。そんな彼女の様子にキラは軽くため息を吐いた後言った。

「…キラ・ヤマトはスーパーコーディネイター。人類の夢なんだってさ。人類の夢、欲望を全て託した最高のコーディネイター。
数多の犠牲の元に成り立ち、誰もがキラ・ヤマトのようになりたい。故に許されない存在だって。…あの男、クルーゼが言っていたんだ…」
「…」
「クルーゼも、そういう欲望の犠牲者だった。僕は、今だったら彼の憎しみが全て理解できるかもしれない。
はは…笑えるよね。僕は必死に彼の言葉を拒絶しようと、否定しようと必死に戦った。だけど、僕もあの人と同じ存在だったんだ。
僕は、そのスーパーコーディネイターのクローン。全て、わかっちゃったんだ」

顔を手で押さえ、狂ったように口だけを笑みを浮かべ、キラは一つの過去を思い出す。
自分が生まれたとき、暗い地下施設で、何かの液体に自分の体はびしょぬれになっていた。
そして、ぐったりした彼を研究員らしき白衣を着た人間が二人、まるで宇宙人か何かを連行するように両肩を持ち上げ、何処かへ連れて行こうとしたとき。
キラは一瞬だけだが、傷のない、『ラクス・クライン』の姿を目撃していた。
その後は記憶を埋めこめられ、自分はオリジナルのように振舞っていた。この事実も記憶の彼方に追いやっていた。
しかし…ハイネの言葉で全てが思い出された。わかりたくもなかったこと。キラは、絶望を感じた。
自分もまた、呪われた存在。最も否定したかった、クルーゼと同じ存在なのだと。

「ふふ…はは…ははは…あっはっは!!ふざけるなよ!!畜生!!」
「キラ様」

狂ったように笑った後、キラは精一杯の怒声を部屋中に響かせた。ここが防音加工でなければ他のクルー達にも聞かれているところだ。
そんな彼を呼び止めようとするラクスだが、それに構わずキラは頭を抱えて怒声を発する。

「結局なんだ!?クルーゼのいう事は間違っていなかったじゃないか!何だ、こんな事を言う僕やクルーゼは狂っているのか!?」
「キラ様!!」
「違う、狂ってるのはこの世界のほう…」

そこで、キラの狂ったような叫びは途切れた。ラクスが思いっきり握りこぶしを作ってキラの頬を殴ったのだ。
非力な彼女の拳では歯を折るまでも行かず、逆に彼女が殴った拳を痛そうに振っていたが、その痛みをこらえて、涙になりながら言った。
「…クルーゼ様が何を言って、何を実行させようとしたか。それは私にはわかりません。けれども、そうやって貴方が彼のように世界をうらむのはただの逆恨みではありませんか!」
「それは…違う…!」

ラクスの言葉を必死に否定しようとするキラだったが、しかし、ラクスはキラの肩を掴んで更に大声で問いただした。

「どこが違うんですか?じゃあ貴方は貴方のお友達も恨むのですね?狂った世界にいるからと、ただそれだけの理由で!」
「違う!僕は…!」
「今まで守ろうとしていたもの、それを怨むのですか、貴方は!」
「僕は…」
「僕は僕はと言ってないで、少しは主張なさい!」
「くっ…うぅ…どうしろっていうんだよ…クルーゼはやってはいけない事をした…だから、止めるために討つしかないと思った。だけど…結局変わってない…何にも…」

キラは泣き崩れた。膝を抱え、丸くなって泣き出す。そんなキラに対し、ラクスは少し涙を払った後言った。

「…キラ様」
「何だよ」
「この手、すっごく痛いんですの。包帯やシップを使わず、キラ様の手で直してくださりませんか?」
「…それ、本気で言ってるの?」

いきなりの無理難題、というより不可能な事をやれとせがまれ、キラはラクスを怪訝そうな表情で見るが、ラクスは至って本気らしく、手をさし伸ばした。

「ええ。スーパーコーディネイターならできるでしょう?ほら」
「…出来ないよ、そんなこと」
「…ほらごらんなさい。貴方がスーパーコーディネイターだろうがそのクローンであろうが、こういうことはできないでしょう?それに、ほら。貴方綾取りとかできますか?」
「…できない」
「そうでしょう?結局貴方には切欠を与えられているだけなんですわ。だから、こうやって綾取りでは…んしょと」

ラクスは少し手間取りながらも綺麗なブリッジを紐で作ってキラに見せる。

「こんな小娘に綾取りではキラ様は勝てない」
「…何が言いたいの?」
「貴方は私達と変わらない、ただの人間です。ただちょっとだけ多才なだけで、結局それを生かすには努力と根性、ですわ!」
「努力と、根性」

復唱するキラの言葉を聴いてラクスはニマっと笑う。そういえば、あのビデオではラクスが負った傷は頬の傷だけだが、顔の所々にはいろんな怪我を負っている。
それは、彼女がここまでいろんな困難を乗り越えてきたという証拠なのかもしれない。

「そう!私だって、全然MSを動かした事はなかったですし、動かした当初も酷いものでした。ですが、今では何とかものにはなっています、多分…。
だから…人にそんな事で憎まれようと、許されないでいようとも、堂々としていてくださいまし。貴方は貴方なのですから。
キラ・ヤマトではないのかもしれない…でも、貴方という人はここにいます。この世界を守りたかった貴方は、ここに。
貴方は自由の未来を選べるんです。他の皆様みたいに。努力と根性さえあれば」
「…ラクス…」
「笑いましょうよ、キラ様。とりあえず生きていれば、人生はやり直せます。ようやく平和になったんですから、死んでいった人達が安心して天国に生けるように、
私達は大丈夫です、これからは皆が笑って暮らせるような世界を作りますって。命が弄ばれないような世界を作りますって。
確かに人の命を弄ぶ人は許せません。だけど、それに縛られて、まずあなた自身が幸せになれなかったら駄目じゃないですか。それに、お友達だって一杯いたのでしょう?
彼らまで同じように怨む必要なんてありません。そして」
「そして?」
「たとえ世界中の人間が貴方を憎もうとも、私は貴方を愛し続けます。貴方が貴方である限り」
「…強いんだね、貴方は…」
「ううん、強くなんかありません。ただの強がりで、泣き虫で、頭が悪くて、世間知らずの唯の役立たずお嬢様。ハイネ隊長からはバカピンクバカピンクって罵倒されたり…だけど」

キラがラクスの顔を見たとき、彼女の瞳が輝いた、気がした。まるで、一等星のように。

「だけど、諦めだけは悪いんですの」
「…達が悪いや。でも、いいなぁ…はは、ははは…」
「そうそう、そういう笑顔は私は大好きですわ!」

キラの乾いてはいるが笑いを見て、手を合わせて子供のように喜ぶラクス。それを見たキラもまた、諦めたように笑顔をこぼした。
「あ…そうですわ。ちょっとお待ちくださいまし」
「え?」
「いいからいいから」

何を思い立ったか、ラクスは小急ぎに部屋から飛び出していった。突然の行動にキョトンとするキラだったが、
ラクスはすぐにキラの元へと戻っていった。二つの黄色い缶コーヒーを手に。その一つをキラに渡す。

「…これは?」
「新たなる人生を祝って。このマックスコーヒーを一緒に飲むのがラクス流のお祝いの仕方ですの」
「マックスコーヒー…聞いたことないなぁ」
「美味しいですわよ?ではかんぱぁい!」
「乾杯」

お互いの缶をこつんとぶつけ、蓋を開けて中身を口にする。と、キラはそこで動きを止め、固まってしまった。
そして、びっくりしたように中身をぶちまけた。

「…ぶぼぉ!あまぁぁぁい!まるでカガリとアスランが孤島で愛し合っているくらいあまぁぁぁいよ!ていうか甘すぎ!」
「え?そんなに甘いですか?美味しいのに…」
「絶対味覚変だって!これはバカピンクって言われるのも無理…」
「何ですって!?」
「いや、その…」
「それ、飲み干すまで帰しませんから!!」
「そんなぁ…」

プンスカと怒るラクスに対し、MAXコーヒーとにらめっこするキラ。しかしどうやら元気は取り戻したようで、それにはラクスも満足のようだ。
すぐに談笑が始まった。
二人目のキラ・ヤマトにも、やっとの事平穏が訪れたのだった。

そして、翌日。

「んしょ…と。あ、すいません…ハイネ隊長のお部屋はどちらでしょうか?」

あの後部屋に戻ったキラは医療スタッフに無理を言って外出許可を貰い、ハイネの部屋へと行くために女性クルーに声をかける。
女性はキラに丁寧に道を教え、その場を去っていった。キラは深く頭を下げてお辞儀をし、ハイネの部屋へと向かっていく。
教えられたとおりに進むと、そこにはハイネの名が部屋があった。キラは外来用のブザーを鳴らし、中へ呼びかける。すると、ハイネではない男の声が聞こえてきた。

『誰だ?』
「あれ?部屋間違えたかな…?ハイネさんはいらっしゃいますか?」
『…ん?ああ、いる。隊長、客だ』
『おお?おお、通してくれ』
『助けてーくださーあっー!!』

…なにやら悲鳴が混ざった気がするが、キラは「気にするな、僕は気にしない」と自分に言い聞かせ、ロックが外れたドアを開いて中へと入る。すると、なにやら色々とカオスな光景が待っていた。

「アーレー!!フォール、フォォォル!ハイネ隊長フォール!」

ハイネに海老反り固めを食らって悲鳴を上げているラクスと。

「ふはは!俺のデコにイタズラした罪はでかいぞナタリー!そしてここにはロープはない!」

ラクスをナタリーと呼びながら、至極愉しそうに海老反りを決めるハイネと。

「隊長、客客」

呆れながらキラの事を指差す黒制服の男がそこにいた。なんだこりゃ、とキラは呆れながらハイネのほうを向いて答えた。

「お?よう、体のほうは良いのか?」
「え?ああ、はい。何とか。無重力空間の中であれば」
「そうか、そりゃよかった。ま、かけてくれ。艦長、あんたは戻ってくれないか?」
「わかった。では失礼した」

艦長と呼ばれた黒服の男はキラと入れ替わるようにその場から去っていった。残っているのは事情の知る三人のみ。

「…ラクスから大体聞いた」
「尋問したんじゃないですか?そんなこと言って」
「はは、ばれたか」
「ひゃう!」

ハイネは海老反りをやめ、自分の机にへと動く。解放されたラクスだったが、あまりにいきなり話されたため、思いっきり足を床にぶつけ、シクシクと泣き始めた。

「酷い…お母様にも海老反りされたことないのに…」
「(そりゃあったらすごいでしょ…)」
「さて、キラ君」
「あ、はい!」

床で不貞寝しているラクスを放っておいて、ハイネはキラに声をかける。完全に油断していたキラは体を強張らせてしまった。
「何びっくりしてんだ。話があんのはそっちだろ?」
「ああ、そうでした。…昨夜、色々と考えてみたんですが。今あのエターナルのラクスの元へ戻っても、恐らく僕の代わりがすでに活動している頃でしょう。
彼女は綺麗好きのようですし、僕が生きていると知った時は僕を全力で消そうとする。だから、僕は…」
「…」

ハイネは黙ってキラの言葉に聞き入る。キラは、真剣な眼差しをハイネにぶつけた。

「僕は、ここでラクスの手伝いをしたいと思います。いえ、ここでいろんなことを学び、活かしたい…」
「…そうか。で?」
「始めはMSパイロットかな、と思ったんですけど。昨日ここから脱走しようとMSに乗って、操縦桿を握ったら、激しい嘔吐感を感じたのを思い出し、止めました」
「コクピット恐怖症か…。ま、いろんなことがあったからな」

コクピット恐怖症。その名の通り、パイロットであった人間がMSに乗る事を生理的に拒絶してしまう症状のことだ。
この現象は戦場であまりに恐ろしい出来事にあったか、または悲しい出来事があったか。どちらにしろ、強烈に残る記憶が操縦する事を反射的に拒絶してしまうため、キラのように嘔吐や体の震えが起こってしまう。
キラの場合、フレイを死なせてしまった事やクルーゼとの決戦に原因があるのだろう。どちらにしろ、簡単に直るものではなかった。

「はい。だから、オリジナルがストライクの整備をしたり、僕自身もフリーダムの整備をしていましたから、その経験を活かしてメカニックマンになろうと思います。そのための勉強をここでしたいんです。駄目ですか?」
「メカニックマンか。確かに本艦は先の戦いで人材不足だからな、何の咎めもなく臨時志願兵ということで組み込めるはずだ。だが、うちのおやっさんは厳しいぞぉ。それでもいいなら、俺は構わんぜ。あいつも喜ぶしな」

そういわれて指を指されるラクス。全く、彼女は平和の歌姫だったはずだが、ここではそんな面影さえも感じない。

「…ラクスと親しいんですね」
「まあな。戦友なんでね、大事な存在だよ。ま、俺の妹みたいな感じ?」
「そうですか。でも、あんまりバカバカ言うと、本気ですねちゃいますよ?」
「いいのいいの!そんなことよりも」

不意にハイネは立ち上がり、キラが座っているソファーの隣へとどかっと座り、キラの肩に自分の肩を回すと笑顔で言った。

「箱入り娘なんだ…」
「…え、ちょ…」
「手ぇ出したら…わかるよな?」
「ちょっと、いたたた…」

ハイネの肩を掴む力が一層強くなり、キラはただならぬ空気を感じ、顔を引きつらせる。

「ん?」
「はい!わかりましたって!」
「よろしい」

ハイネはキラの返事に満足したか、彼を解放し、自分の机へと歩いていった。
キラも一つため息を吐いた後、立ち上がり、ハイネの机の前に立った。

「で?キラ・ヤマトじゃあ色々と問題あるんだろ?違う名前探さないと、な」
「その事についてですが…」
「ん?もう決めていたのか」
「はい。キラの頭文字Kで、ケイ、と名乗ろうと思います。ケイ・クーロン。それがこれからの僕の名前です」
「はは、クローンだから中国語の九龍とかけてクーロンか。いいじゃねぇか。じゃあケイ・クーロン」
「はい!」

敬礼をするキラ。その瞳にもはや揺らぎはない。

「これからは我が隊の整備見習いとして任務についてくれ。指揮は現場に従う事。以上」
「はい!ケイ=クーロン。精一杯やらせていただきます!」
「宜しく御願いしますわ、ケイ!」
「ああ、宜しく。ラクス、いやナタリー」

今ここに、ケイ=クーロンという名の男の新たなスタートラインが今切られた。
だがしかし、彼らは知らない。
すでに、運命の輪に巻き込まれている事も。そして、これから再び戦いが起こることも。

その前兆として、地球のある無人島では、小さく、しかし後に大きな意味を持つ事件が起こっていた。

『実験体7号が逃亡!係員および警備員は装備008でこれを追い、捕獲せよ!また実験体は4人の研究員と警備員を殺害し、武器を強奪している!捕獲できない時はこれを『破壊』せよ!」
『第七ブロック配置急げ!!来るぞ…ぐあ…!』
『早い、もうこんな、とこうああああ!』
『第七ブロックを突破された!奴は格納庫に向かっている!絶対に逃がすな!』
『駄目だ、第六ブロックも突破された…奴は、化け物か!?』
『その通りだ!だから殺す気でいけ!』

暗い雲が空を多い、ただでさえ日の光が入らないその研究所は更に暗黒を深めていた。
そんな中、鮮血の赤が研究所の通路を彩る。血の池が出来、その中には警備員の死体が沈んでいた。
そんな間を一人の男が歩いていく。患者服のようなものを赤く染めつつも、薄らと笑みを浮かべ、不気味に血の池を進む。
瞳は虚ろで、患者服から露出している右腕や両足は金属のような光を発している。男は、普通ではなかった。

「いたぞ!!もはや銃殺命令が出た!構わん、殺せ!」

と、彼の前にアサルトライフルを装備した警備兵が立ちふさがった。彼らは躊躇なく銃弾を男に放つが、男は不気味に笑みを大きくしながら、
身を低くして突撃していく。弾が男の体を掠めるが、痛みを感じていないように迷いなく、男は距離をつめ、そして交差すると同時にナイフで切り殺す。

「…」

すでに肉塊となった警備兵達を目の当たりにしても、まるで何も感じていないように、表情を変えずにその場後にする男。

「もう少しだ」

淡々と喋る男。そして、彼は目的地である試作型MS格納庫へとたどり着いた。ここでは極秘にMSを作られ、それは男のようなある「特別な処置」を
受けたものが使う事になっていたものだ。勿論、男にも使う事ができた。

「ああ…懐かしいなぁ…」

男は一つのMSの前に立つと、先ほどの表情から一片、何かを懐かしむような表情でMSを見ていた。

「そうだよね、君も、復讐をしたいだろ?あの男に、そして僕の全てを奪った奴らにさ…くっくっく…」

男はMSのハッチを開き、そのコクピット席に座ると、キーボードをまるで疾風のように素早く打ち、OSを自分用にアレンジさせる。
そして、全てが終わった後、男はMSを起動させた。他のMSがすでに動いており、自分を取り押さえようとするが構わない。
MSに大きな対艦刀を二つ持たせ、二刀流にすると、他のMSたちをなぎ倒して外へと逃げていった。
圧倒的だったその光景に呆気にとられ、恐怖を感じた警備員達だったが、すぐに追撃命令を送る。
男は逃亡しながら、自身のMSを見て言った。黒く、闇の底のようなMS。

「ブラックハウンド、いやストライク、僕の相棒…。君の雪辱戦をかねてトールの仇討ちだ…。さあ、殺しに行こう…アスラン・ザラを…そして、二人目を!」

男の顔は、キラ・ヤマトそのものだった。

第二話 Fire Crackerに続く

【前】 【戻る】 【次】