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LOWE IF_592_第05話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:47:02

最初は熱かった。その次に痛かった。その次は眠かった。
そして気がついたときには僕は変なベッドの上で寝かされていた。朦朧とする意識の中、眩いライトの光が僕の視界に入ってきて、不愉快だった。
だけど、僕は体を動かすどころか首も動かす事も出来ない。それに、足や腕が無いような感覚に陥っている。何だろう、この感覚は。不愉快、不快、不満、不安。
視界も、ぼやけて何が何だか。僕は何とか左目を閉じてみる。どうやら、右目はしっかりしていて、左目がやばいらしい。いや、今はそんなことどうだっていい。
ここは何処なんだ?僕は、ストライクに乗っていて…アスランのイージスが自爆して…。それから記憶がない。残っているのはその時の熱さだけだ。
あ、誰か来た。白衣が見える。何だここ、病院なのかな?で、僕は助けられたのか。ああ、よかった。僕は、助かるのかな。

『…どうだ、体のほうは?』

だい

『概ね回復。皮膚も移植完了…。精製、可能です』

何だよ、精製って…僕は…生きているんだ…。くそ…眼開けてるんだよ…。何だ、くそ…僕に、何を…

『おや…どうやら意識が戻ったようだ。可哀想に、眠ったままのほうが幸せだったのにな。まあいい。絶望に伏せたほうが自我を捨てられるだろう。実験体7号、いやキラ・ヤマト君』

実験体だと!?僕に何をするんだ!!くそ、声が、声が出ない…!手が動かない、足がない…畜生、ちくしょうぉ…!

『今日から生まれ変わる。君は、最強の戦士として…皆を守るのさ…青き清浄なる世界のために…コーディネイターを滅ぼすのさ…さあ今はお休み』

あんまりな言葉に、反抗しようと僕は口を開いたけど、その時、僕の心臓が激しく、まるで暴れまわる猛獣のように動き始めた。
痛いいたいいたいイタイイタイィ…チクショウ…ボクガナンデコンナメニアワナキャイケナインダ
ボクハボクハヘリオポリスノガクセイダボクハミンナヲマモルンダデモソンナボクヲダメニシタノハダレダヨ
アアトールヲコロシタアイツダアイツガイケナインダ。シンユウトカイッテボクヲシツヨウニオイツメタアイツガ
コロスコロシテヤル。マッテロヨボクハ…ボクハダレニモマケナイ。ヤクヅケニサレヨウトモココカラデテキミヲコロシテヤル…

アスラン ザラァ

第五話 THE END OF THE WORLD~憎しみは愛よりも深く~

一方、プラントでもこのユニウスセブンの異変が観測され、プラント評議会は慌てて招集をかけていた。そして、その知らせは勿論ミネルバにいる議長デュランダルの許へも送られていた。
知らせを聞いたデュランダルはすぐさま艦長のタリアと今後の対策について相談をし、またオーブ代表であるカガリを艦長室へと呼び出した。
緊急事態だという話に何事かと慌てて駆けつけたカガリとアスランは、デュランダルの言葉を聴いて唖然としてしまった。

「ユニウスセブンが…動いている…?一体何故!?」
「それは分かりません。ですが、動いているのです。現に今もかなりの速度で地球に向かっています。危険な軌道でね」
「それはこちらの艦でも確認済みです。間違いありません」

デュランダルの言葉に加え、タリアの報告にカガリは言葉を失う。問いただしたい事が山ほどあるのに、あまりの出来事に言葉が出てこない。
それを感じ取ったか、アスランが代わりにデュランダルに質問をした。といっても、彼自身も驚きを隠せず、未だに信じられないという表情をしているのだが。

「しかし、何故そんなことに?あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」
「隕石の衝突か、はたまた他の要因か…兎に角動いているのですよ」
「…もし」

と、ここでゆっくりとカガリが俯いたまま口を開き、全員の注目が一瞬で集まった。

「もし地球に落ちたら、どうなってしまうのだ?オーブは…いや地球は!」
「あるほどの質量です。言わずとも、姫にはお分かりでしょう?」
「…」

敢えて聞こうとしたのか、それとも。デュランダルは流石に心の中で呆れつつも、冷静にカガリを悟らせる。
カガリも心の中ではわかっていたのか、俯いていた顔を更に俯かせて考え込んでしまった。

「原因の究明や回避手段の模索に今プラントは全力を挙げています。またもやのアクシデントで姫には大変申し訳ないのですが、私は間もなく終わる修理を待って、このミネルバにもユニウスセブンに向かうよう特命を出しました。
幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれを御了承いただきたいと」
「無論だ!!これは私達にとっても…いやむしろこちらにとっての重大事だぞ。私…私にも何かできることがあるのなら…」

慌てて立ち上がって、カガリは自身の意をデュランダルにぶつける。確かに、オーブの代表として彼女はこのような非常事態に落ち着いていられる事などできないだろう。しかし、それをためらいもなく表に出す彼女の姿が何処か滑稽だった。
そんな彼女の様子を見て、デュランダルは苦笑しながら彼女を宥める。

「お気持ちは解りますが、どうか落ち着いて下さい、姫。お力をお借りしたいことがあればこちらかも申し上げます」
「難しくはありますが御国元とも直接連絡の取れるよう試みてみます。出迎えの艦とも早急に合流できるよう計らいますので」
「…ああ…すまない…」

デュランダルとタリアの言葉に平静を取り戻したカガリはそのままソファーに座り込んだ。

こんな最中、勿論ミネルバクルー達にも話は広まっていて、シンなどの一部のクルーは休憩室に集まり、その事について話していた。

「ふーん…けどあれが何でさ?」
「隕石でもぶつかったか、何かの影響で軌道が変わったか…」

赤毛のメッシュが特徴的なヴィーノの質問に対し、黒人系の男、ヨウランが考察して答える。それに対し、ケイは泡だった飲み物を口にしながら言った。

「まあこのままだと、地球直撃コースだなぁ…何?ナタリー」
「ケイさん何飲んでいますの?それ…」
「ん?ファンタファンタ」
「…赤色のファンタなんて聞いたことないですけれど。それにお酒の匂い…」
「気のせいだって」

と、ラクスはケイの飲み物を何やら疑いの目で見ていた。ケイは誤魔化していたが、実は彼が飲んでいるのはタリアの部屋から頂戴したカクテルのカシスオレンジだった。
勿論、任務中に酒を飲むことなどご法度であり、ケイもそれを分かった上で嗜めていた。が、ラクスが顔を近づけてくるので、それを振り払おうとして飲むことが出来なくなった。

「それ本当なのか?」
「うん。な、メイリンちゃん」
「え?ああ、そうみたい。バートさんが言ってた」

シンがケイに聞き、それを尚もコップに視線を送るラクスの顔を手で押し引き離しながらメイリンにケイは振った。
メイリンは急に振られた事で少し硬直していたが、すぐに気を取り直して答えた。

「はぁ~、アーモリーでは強奪騒ぎだし、それもまだ片づいてないのに今度はこれ?どうなっちゃってんの」
「仕方ないってルナちゃん。僕達軍人の仕事はそういうもんさ。特に、下っ端現場兵隊は特にね、上の失態を片付けなきゃいけないしさ」
「…はあ辛いですねぇ…それって…あ、何ですそれ?」

ケイの言葉に落胆するルナマリア。憧れと現実の狭間を知ればこんなものである。その上で軍人は働かなければいけないのだ。弱き者たちを守るために。
そんな時、ルナマリアはケイが机で何やら眺めていたものを見つけた。ケイは少しにやけながらそれを手にしてルナマリアに見せ付ける。

「ふふん、宝くじ」
「ふぅん…ケイさんも理想に生きる男?」
「夢に生きる男といって欲しいね。当たったら奢ってあげるよ」

ケイの自信満々の言葉にルナマリアは少し呆れ気味に、受け流しながら話をそらす。

「期待しないで待ってますよ。で、今度はそのユニウスセブンをどうすればいいの?」

ルナマリアに流された事は気にせず、ケイは少し思考しながら答えた。

「う~ん…まあ軌道を変えられるならそうしたほうがいいんじゃない?映画のようにさ。最近でもあったよね、『コメット』とか」
「いやケイ、それは不可能だな。ユニウスセブンはもうすでに地球のそばにいる。引力から飛び立たせるのは不可能だな。もう少し離れていれば、遥か彼方に飛ばせただろうが…」

ケイの回答にレイは反論する。それに対し、ケイは腕を組んでレイに答えを求めた。

「じゃあどうするのさ?」
「砕くしかない」
「…砕く?あの大きなものをですか?すごいですわね…それ」

レイの言葉に一同は騒然とし、ラクスは息を呑んで言った。確かに、単純な方法であるが、それこそ映画のような事だ。
それに対し、レイは静かに頷きながら言う。

「軌道の変更など不可能だ。衝突を回避したいのなら、砕くしかない。最悪、落ちるとしても被害は少なくなる」
「でもさ、ナタリーさんの言うとおりだぜ。あんな大きなもの、どうやって砕くんだよ、レイ?」
「それに、あそこには死んだ人がまだ…」
「だが衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ。そこに生きるものも」
「確かにね…」

レイの冷たくもありえるであろう未来を言い、一同は再び騒然とする。あの大きさの隕石が落ちれば、それがどんな結果を生むかは誰の眼にも分かる事だった。
その場の雰囲気は冷たく固まってしまった。

「…地球滅亡、ね…」
「はぁ…でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ?不可抗力だろう?けど変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントには」
「ま!ヨウランさん、それはちょっとご冗談にしては過ぎませんか?ちょっと笑えませんわよ」
「あ、わり…」

バタン!!!

と、ヨウランが雰囲気を変えようと冗談を言って、それをラクスが少し真剣な表情で注意し、ヨウランが謝ろうとしたとき、休憩室の入り口から激しい音が鳴り響いた。
何事かとその場にいた全員…いや、唯一人その音に驚いた勢いで先ほどのカシスオレンジを盛大にこぼしたケイが何やら床に突っ伏してもったいなさそうにティッシュで拭き取っていたが…それ以外の全員が入り口のほうを向く。
すると、そこには怒りを露にしたオーブの代表カガリが入り口に手を押さえながら立っていた。

「よくそんなことが言えるな!お前達は!しょうがないだと!?案外楽だと!?これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのかッ!?お前達はッ!!」
「(か、カガリめぇ!!僕の折角艦長室からいただいた限定版の高級カシスオレンジを台無しにしてぇぇ!僕は今泣いているんだ!!ていうかもったいないぃぃ!!うわぁぁ!)」

カガリの怒りの言葉に辺りの空気が悪くなり、誰もが沈黙してしまう。そんな中、ヨウランはカガリに向かって謝罪した。

「すいません」
「くっ…やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!」

だがそれもむなしく、頭に血が上ったカガリはプラント全体に対する暴言ともいえる一言を吐いてしまった。アスランは一瞬その言葉に顔を顰めながらも、他の者達に聞こえないよう小さな声でカガリを宥めようとする。

「あれだけの戦争をして、あれだけの想いをして、やっとデュランダル議長の施政の下で変わったんじゃなかったのかッ!!」
「よせよ、カガリ…」
「…くっ…」
「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも。そんくらいのことも判んないのかよあんたは」

と、カガリがやっと叫ぶのを止めたと同時に、シンが座って眼をつぶったまま、呆れたように冷めた言葉をカガリにぶつける。
それを聞いたカガリは再び怒りのボルテージを上げてシンに掴みかかろうとしてアスランに止められながらも叫んだ。
空気が一気に険悪状態になり、流石のケイも真剣な表情でシンを見つめていた。

「何だと貴様!!」
「やめろカガリ!!」
「シン、言葉に気をつけろ」
「そうですわよ…ああ、カガリ様も落ち着いてくださいませ」

シンを冷静に注意するレイに対し、ラクスはそれに賛同しつつ、カガリのほうを正面から抑えて宥めようとする。その時一瞬ラクスとアスランの顔が急接近した時、アスランは少しだけ何かを感じたが、それが何かはわからなかった。
いや、こんな状況だと、カガリを宥めなければいけないので頭が一杯で、彼女がラクス・クラインだと考える事などできないだろう。ただ、似ているとだけ感じた。
ラクスも久しぶりにアスランの顔を間近で見つめてしまったので、少しばかり顔を赤くしつつも、すぐに視線をカガリに戻して誤魔化した。
しかし、そんな彼女らの努力を水泡にするかの如く、シンは嘲笑しながら言った。

「あ、そうでしたね。この人偉いんでした。オーブの代表でしたっけ」
「おまえぇ!!!」
「おーちーつーいーてーくーだーさーいー!はい落ち着く!ああ、もう!シンさんもあんまり彼女を怒らせてはいけませんよ!!」

まるでカガリの神経を逆なでするかのような言葉に、彼女はついに殴りかかろうとしたが、ラクスに、腰に腕を回されてそのまま抑えられていて進むことが出来ず、もどかしさだけが彼女を更に激昂させる。
ラクスも必死に抑えるが、意外と力が強く、危うく振り払われそうになるのを絶えつつ、シンを咎める。が、シンは反省していないような表情でそっぽを向いてしまった。

「いい加減にしろ、カガリ!!」

と、ここでアスランが国家代表とは思えぬカガリの態度についに怒り、彼女を叱りつつ、彼女の前に出る。ラクスはそれをカガリを抑えながらじっと見つめる。
アスランは少しばかりシンを睨んで言った。

「君はオーブがだいぶ嫌いなようだが、何故なんだ?昔はオーブに居たという話しだが、下らない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのなら、ただでは置かないぞ」
「くだらないだって…?」

しかし、このアスランの言葉はシンの逆鱗に触れた。それを、ケイは感じ取り、彼らに背を向けて表情を暗くする。

「…くだらないなんて言わせるか!関係ないってのも大間違いだね!俺の家族はアスハに殺されたんだ!」
「!!」

激昂したシンはアスランに向かって力一杯叫び散らす。その覇気と言葉にアスランは少したじろいでしまった。
シンは額に血管を浮かべながらカガリとアスランに向かって叫んだ。

「国を信じて、あんた達の理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、ボロボロで殺された!!」
「え…?」
「シンさん…」

呆然とするカガリを放し、ラクスはシンを悲しい視線で見つめる。あの時トレーニングルームで自分に告白してくれた事だ。それを知らなかったとはいえくだらないと言われたら、それは怒るだろう。

「だから俺はあんた達を信じない!オーブなんて国も信じない!そんなあんた達の言う綺麗事を信じない!この国の正義を貫くって…あんた達だってあの時、自分達のその言葉で誰が死ぬことになるのかちゃんと考えたのかよ!」

シンは休憩室から飛び出ようとした時、一度カガリの横に止まって自分の怒りを直接ぶつける。カガリは彼を見ることが出来ず、顔をそらしてしまった。
それを見たシンは思い切り舌打をして、怒りに顔を顰めたままその場から歩き去ってしまった。アスランもとめようとしたが、もうすでに彼は立ち去っていた。

「あ、シン!」
「シンさん!」

それを見たヴィーノとラクスは彼を駆け足で追いかけていく。カガリは、唯呆然としているだけで、何もいえなかった。
そんな彼女をちらっと後ろ眼で見たケイは一度ため息を吐いてつぶやいた。

「なんだかなぁ…」
「ケイ?どうかしたか」
「ん…。いやまあ…うん…」

レイはそんな彼を背中で見送っていたケイの様子の変化に気がつき、声をかける。頭を掻きながら、ケイは少し考え、そして言葉にする。

「代表さん。何で貴方はそうやって唖然としているんです?何で、そんなに傷ついているんです?」
「…!!」

カガリははっと顔を上げ、ケイの背中を見つめる。その背中は何処か寂しげだった。

「オーブは交戦する事を選んで、そして負けた。その中で犠牲になった人はたくさんいるし、それを指揮した人物が、責任を取るべき人物が恨まれるのは当たり前でしょうに…。
それを現実として全て受けて、そしてそれを糧に二度と過ちを繰り返さないようにするのが、それが国を治める者の宿命でしょう?」
「あ…」
「…なんだか当たり前の事言っちゃったな。ま、理想もいいけれど、彼の言ったとおり、その犠牲となる者たちの事も忘れないでやってください。ヨウラン、行くぞ!仕事だ仕事!」
「え!?あ、はい!」
「…ガンバレよ」

勝手に話し出し、勝手に終えて、ケイはヨウランを連れてその場から立ち去った。その時、ケイはカガリとすれ違う時に少しだけ優しい笑顔を見せて、つぶやきながら軽く背中を叩いてやった。
これが、弟を演じさせられた男のせめてもの恩返し。自分を弟だと思ってくれた、優しい姉への。せめてものの言葉だった。
それを見たカガリははっとケイの背中を見ようとするが、すでにケイはその場から去っていた。
カガリは、少し涙を浮かべながらも、頭を彼に対し、軽く下げた。

一方ラクスとヴィーノは怒りとやるせなさで、暴言を吐いたままその場を後にしていたシンの横をずっと歩きながら彼に話しかける。

「シンさん!」
「何だよ、うっせぇな!!俺が間違った事を何か言ったかよ!!」

ラクスが掴みかかってシンを制止しようとするのを、シンは振り払って尚をも歩こうとした。

「おい、シン!!お前の女性に」
「…シンさん!!」

それを見たヴィーノがシンに掴みかかろうとしたが、それよりも早くラクスが彼の両肩を掴んで彼を自分の正面に向かせる。
シンは戸惑いながらも彼女をにらみつけたが、ラクスはそれ以上の眼力でシンを見つめる。

「シンさんの言った事は間違ってはいませんし、あのようにカガリ様に真正面から言った事は、自分の気持ちをぶつけられていいことだと思います。ですが!
嫌味ったらしい言い方と、言いっ放しでは何も解決しないでしょうに!」
「…いいだろ、別に!俺の事は放っておいてくれよ!」

シンはその視線から眼をそらし、そしてラクスを振り払って走り去ってしまった。ラクスはそれを呼び止めようとしたが、ヴィーノに肩を叩かれてやめる。

「やめとけよ、ナタリーさん。ありゃ、俺達がどうといえる問題じゃないぜ」
「だけど!…ああもう!」

ラクスは何かもどかしい思いを隠しきれないまま、ただシンの背中を見送る事しかできなかった。

さて、時間は過ぎてアスランとカガリは自室として割り当てられていたゲストルームへと戻っていた。
暗い部屋の中、カガリは机の前で、暗い表情で何かを思いつめている様子だった。そんな彼女に、アスランがジュースを差し出して優しく話しかける。

「飲むか?」
「…ありがとう、アスラン」

カガリは無理やり笑顔を作り、アスランからジュースを受け取る。アスランはカガリの隣に椅子を持ってきて座り、静かに口を開く。

「あまり思いつめるな。あの男の言うとおり、解っていたことだろう?ああいう人もいるはずだって」
「…わかっている。わかっているけど…。お父様のことをあんな風に言われると……お父様だって苦しみながらお決めになったことだから…。
それが…あの男…シンのような奴も生んでしまったと思うと…怖いんだ…私は…」

あの時、カガリの父ウズミがオーブの理念を守り、最後まで戦ったその姿はカガリにとってかけがいの無いものだったし、それ以上に父を最期まで尊敬していた。
だから自分はオーブ代表を受け継ぎ、そして理念を守ろうと努力してきたつもりだった。しかし、あのシンのような人物に改めて出会うと、それを説く自信があるかと言われれば、ない。
それに、あの男の言葉を聴いた瞬間、何故か、キラに叱られたような気分になって、それが彼女の心を揺さぶっていた。
何故だろう。何故、彼とキラを合わせてしまうのだろう。やはり、あの男はキラなのか。だがしかし、それではオーブにいるキラは一体…。カガリの思考は混乱していた。

「カガリ、大丈夫だ…。君は強い。君なら、憎しみも悲しみも乗り越えられるさ…。俺も、できる限り協力する」
「…ありがとう、アスラン…。…それにしても、あのケイという男は何者なんだろう?私はやっぱり、あいつがキラとしか思えないんだ」
「…まだそんな事を考えていたのか。そういえば、確かにあのケイという男はキラにそっくりだし、声も同じようにも聞こえるが…。
しかし、他人の空似だろう?」
「何でそういいきれるんだ、お前は!」

アスランのあまりにあっさりとした返事に、カガリは不満げに言い寄るが、アスランはふっと笑った後諭すように答えた。

「この旅に出る前、俺はキラとラクスに会ったよ、オーブでな。元気そうにしているようだし、そもそもプラントにはキラ達を恨んでいる人だって多くいるんだから、わざわざその中に飛び込もうとはしないさ。
それに、あの男はキラと違って体格がいいし、皮肉屋のようだしな。キラはもっと素直で純粋だよ」
「…そうだろうか…。私には、何か…ああもう!わからない!私は寝る!」
「疲れているだろうし、それがいいさ。おやすみ、カガリ」
「ああ、お休み!」

カガリは悩むのを止め、今は唯眠りに呆ける事にした。どちらにしろ、今ここで悩んでも仕方が無い。オーブに戻り、全てが分かるまで。

「ふぇ…くっしょい!!」
「ぎゃー!汚いですよ、ケイさん!」

と、噂されていたケイはというと、くしゃみをルナマリアに食らわせてそうになった。幸い、ルナマリアは驚異的な反射神経でそれを避けたが。
ケイはちり紙を取り出して鼻を拭き、そして捨てながら自信満々に言った。因みにここはMS格納庫前。ルナマリアはパイロットスーツを着ていた。
いつでも出撃が出来るよう、準備せよという命令が出ていたからだ。

「ごめんごめんルナマリアさん。どうやら誰かがこのカッコ良くて眼鏡とバンダナとスパナが似合う僕の噂をしているようだ」
「うわーケイさん自意識過剰ー」

あまりに変な事を真顔で言うため、ルナマリアは苦笑しながら彼に突っ込みを入れる。それを待っていたのか、ケイも軽く笑って言った。

「ごめんごめん、スパナは余計だったかな?」
「いい加減にしなさい」

更なるケイのボケにルナマリアが苦笑したまま呆れて手の甲で彼の胸をぽんと叩いた。そして、二人の間に笑いが広がる。こういうコミュニケーションをケイが取れるようになったのも、
日ごろ夫婦漫才をラクスとしている所為と、人脈が増えた事にあるのだろう。

「さて、冗談はこれくらいにして…。ルナマリアさんのザク、ガナーじゃ使いづらくない?よかったらスラッシュでも使ってみない?」
「ルナでいいですよ。あたし射撃の成績、訓練学校じゃあトップクラスだったんですけどねぇ…正直、実戦だと違いますよね。でもガナーでいいと思いますよ、私は。好きですし。あれが相棒ってやつ?」
「う~ん。そうか、じゃあ…もうちょっとオルトロスの射撃補正をしっかりさせて…かつもっと連射の聞くように…もうちょっと使いやすくなんないかな~」
「ねえ、ケイさん」
「ん?」

と、不意にルナマリアは考えふけているケイに話しかけた。ケイは考えるのをやめてルナマリアのほうを向く。

「何?」
「いやね、あの時さ…。ケイさん、アスハ代表に優しい声掛けてて、何か、知合いみたいだったから」
「ああ、あれね」

やっぱ図々しかったか、と少し反省しつつケイは答える。

「別に、当然のこといったまでじゃない?」
「そうかなぁ…それに、何かすれ違い様になにか言いながら肩叩いてたし」
「(結構観察眼いいなぁこの子は)ああ、あれは流れって言うか何と言うか」
「…本当に、あの前大戦の英雄キラ・ヤマトじゃないんですか?」

ルナマリアの言葉にケイは肩をすくめる。もうミネルバに乗ってから何度目なんだろうか。髪型も変えたし、雰囲気も変えたというのに、全部カガリの所為だ。
そう考えつつ、ケイは横に首を振る。

「いやだなぁ。僕はキラ・ヤマトじゃないって。他人の空似、僕はケイ・クーロンさ。疑うようであれば、ヴェステンフルス隊の隊長、ハイネ・ヴェステンフルスに聞いてみるといいよ。ハイネさんだったら僕の両親まで知ってるから」

前半は真実、後半からははったりをかましてみる。が、ルナマリアは驚いたようにケイを見つめながら言った。

「ええ!?あのハイネ・ヴェステンフルスさんとお知り合いなんですか!?」
「(よし話がそれた!)うん、ほらこれ証拠品」

心の中で小さなガッツポーズをしながら、ケイは懐からあるものを取り出し、それをルナマリアに渡す。
と、それを見た瞬間、ルナマリアの表情がぱあっと明るさを増した。

「わああ、本当だ!ハイネさんとケイさん、それにナタリーさんが写った写真かぁ!あのフェイスとしても、軍人音楽家としても有名なあのハイネさんとお知り合いなんて…ケイさん実はすごい?」

その明るい表情でルナマリアは写真を眺める。普段着の三人。しかも、表情豊かで、ラクスはハイネにいたずらをされている。こんな写真は知合い同士でなければ撮れないだろう。

「うん、実はグゥレイトゥな男だよ僕は。あ、よかったら食事でも行く?僕の口利きでハイネさんも誘えるよ?」
「わあー!本当ですか!?いやん、嬉しいわぁ!」
「(ついでにナンパ成功!やめてよね~僕に掛かればこれくらい当然じゃない?)」
「まあ、それは私も一緒に行きたいですわね!」

と、ルナマリアを食事に誘えたことに心の中でガッツポーズを決めていた最中、恐怖とも言える一言がその場に聞こえてきた。
普段と変わらぬ一声。だが、それがケイにとって恐ろしく思えた。ケイはまるで油が切れた機械のような動きでその声の方向に振り向く。

「あ、あ…なたりーさん?」
「ケイさん、ルナさんとお食事に行くんですよね?では私も一緒に行きますわ!いいですわよね?」
「はい…構いませんが何か」
「お食事会、楽しみですわねルナさん!」
「(…バカピンク追加か…は、はは…ていうか天然かよ畜生!)」
「そうですね~!そういえば、ナタリーさんもハイネさんの知合いなんですってね!」
「ええ、私のお師匠様みたいな人ですわ!尊敬している上司です」
「いいわね~。私もその指導受けてみたいわ~!あ、そうだメイリンとかも誘おうっと!いいですよね、ケイさん」
「いいよ、任せとけ~(…まあ何はともあれいいか。これで二人ゲットかぁ。レイとかも誘うか。)」

どうやらケイにとってラクスは勘定には入っていないらしい。まあ、この二年間近くで生活を過ごしてきたのだから、お互い慣れてしまったというのはあるのだろうが。その割には友達宣言されて落ち込んでいたはずなのだが気にしない。
と、そんな所へシンとレイがパイロットスーツを着て現れた。まずはシンが、そしてその次にレイが。それに釣られて三人は沈黙する。
華やかな話をしていた三人とは対照的に、二人の雰囲気はどこかどんよりと暗い。レイは普段からそうだとして、シンのほうは先ほどのことを引きずっているのだろう。
時々レイのほうをチラッと見ては眼をそらしていた。
そんな彼の様子に気がついたか、レイはシンを背にしたまま、コンソールを操作しながら話しかけた。

「なんだ?」
「いや、別に」
「…気にするな、俺は気にしていない。お前の言った事も正しい」
「あ…」
「ん?ふっ…」

必死に誤魔化そうとしていたシンの心情を知ってか、レイは一言彼に投げかけてやった。と、その言葉がそこにいる男、ケイが自分に言った言葉だったのを思い出し、少し笑いをこぼした。
それに対してシンは、自分がふてくされているのをバカにされたのと勘違いし、レイに対し少し怒った表情を浮かべていった。

「な、何笑ってるんだよ!」
「あ、いや何でもない。少し思い出し笑いをしただけだ。それとも、笑って欲しかったか?」
「だ、誰がだよ!」

レイのからかいにシンは顔を真っ赤にして反論するが、レイはその様子がおかしかったのか、思わず笑ってしまった。
その光景がものめずらしいのか、終始見守っていたケイ達だったが、ついに噴出して、レイと同じように笑ってしまった。

「はははははは!」
「な、なんだよ!あんたらまで!」
「まあまあ、皆さん。あんまりシンさんをからかってはなりませんわよ。お茶でも飲んで落ち着きましょう!」

と、そんな光景に見かねたか、苦笑しながらナタリーは全員分の紙コップを用意して、いつの間にか取り出した水筒の中身をそこに注ぎ、全員に渡す。
それは、少し赤色のした、仄かな香りがするお茶のようなものだった。恐らく紅茶だろう。

「ん…?」
「へぇ、ナタリーさんこういうことできるんだ。意外というか意外じゃないというか」
「ええ、まあ。何を隠そう、私はお茶入れの達人だったんですぅぅ!!ぎゃう!」
「やかましい、バカピンク!」

無駄にテンションの高いナタリーの背中をケイがツッコミ代わりに蹴飛ばす。それでもラクスは自分の分と水筒を上に向けてこぼさないようにしているところを見ると
もはやコンビ芸である。それを呆れながらルナマリアは見ていた。

「本当、仲いいのねお二人さん」
「まあ、二年間もこんなボケされたら突っ込みもそりゃ上手くなるさ」
「ボケたつもりは無いですけれど…」
「お前は存在自体がボケみたいなものだよ」
「そんな酷い!」
「あー…もう。まあいいや、皆で飲んでみようぜ」
「そうね」

シンは誤魔化され何か釈然としないままケイとラクスの夫婦漫才?を終わらせ、一同はコップの紅茶を口に含んだ。その瞬間、ラクスを除いた全員の動きが止まる。
確かに、彼女が自分で言うくらいなので、紅茶自体の風味などは素晴らしいし、美味しいはず、美味しいはずなのだが。

「(あ、甘い、甘すぎる!!こいつは…ただの紅茶じゃない!砂糖茶)」
「いい味だ」
「な、何ぃぃ!?」

そんな中で意外すぎる反応を見せたレイに対し、ラクス以外からの総突っ込みが彼に集まる。が、それを気にせず、レイは二口目も行く。
その表情に満足したのか、ラクスがレイに加勢する。

「美味しいですよねぇ?」
「うむ。この風味、この甘み。洗練されたものだ…。もう一杯くれ」
「はいはいどうぞ」

レイに催促されてラクスは彼のコップに紅茶を注いだ。そして、レイとラクスは同時に口に運ぶ。何やらいい関係のようなその光景を見たケイは少し何かもやもやした感情が浮かび上がって、わけもわからずイラついた。
そんな彼の心情を読み取ってか、レイはケイを見た後、ふっと少しばかり嘲笑した。

「(あ、あいつぅぅ!)」
「(ふっ…)」

別にレイ自体ラクスに惚れた訳でもなく、彼自身別に恋愛に興味など無い。本当に紅茶の味をほめただけなのだが、ケイの表情を伺うと、どうやらこのいい雰囲気に嫉妬しているようだ。
だからレイは敢えてこの流れに乗り、ケイを少し小馬鹿にしてみたかった。これが、少しばかりの彼に対する嫌がらせ、というには少し幼稚だが。まあ、こういうのもいいのだろう。

そんな事は露知らず、ケイはレイを睨み続ける。と、そんな所へもう一人、同じミネルバ乗員のMSパイロット、ゲイルが現れた。
彼もまた手続きを終えたところで、ケイ達に気がつく。その時、ケイが睨んだままゲイルを見てしまったため、ゲイルはひるみながら眼をそらした。
ケイは少しその光景を不審に思いつつも、表情を緩めて挨拶をする。

「やあゲイル」
「や、やあケイさん…それに皆。今日も良い天気だね…」
「良い天気も何も、宇宙船の中じゃわからないだろ?」

ゲイルの発言にシンが空かさず突っ込みを入れる。確かにそうだ。ゲイルとてそんな事くらいわかっているだろう。
ゲイルは苦笑いをしながら答えた。

「はは…そうだね。じゃ、じゃあ俺、ゲイツの調整あるから…」

そう答えると、ゲイルはそそくさとその場を後にした。まるで集団で行動するのを避けるがの如く。ケイとラクスはきょとんとしてしまったが、
シン、レイ、ルナマリアはまたか、という表情を浮かべて、コップを置き、さっさと作業へと戻ろうとする。
ラクスは不思議に思い、ルナマリアに問う。

「ルナさん、ゲイルさんどうしたんですか?」
「え?ああ、あれは元々。ゲイルってば、プラントのお金持ちの息子らしくて、それで士官学校入れたらしいんだけど、気が弱いのよ。だから、本当は通信士とかになりたかったらしいんだけど、
何か知んないけどMS操縦適正があってさ、選ばれちゃったのよねぇ。気が弱いから断れないしさ」
「ふぅん…そうなんですか。大変なのですね」

ラクスはゲイルの背中を見る。その背中は何処か、寂し気な空気を漂わせていた。

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