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LOWE IF_592_第06話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:49:20

僕は一体誰なんだろうか。
そして、ここは何処なんだろう。僕は誰なんだろう。ここは何処なんだろう。
僕は走ります。僕は持ち上げます。僕は動かします。僕は戦います。
僕の周りの人はどんどんいなくなります。悲しくはありません。
僕たちは物です。僕たちは人形です。僕たちは連合のために戦います。
僕たちは連合の忠実な戦士です。だから悲しくありません。
僕たちは戦うための力を与えられました。僕たちは戦います。僕たちは…。僕、は…。

『どうした7号。戦闘を開始しろ。…ええい!8号やれ!』
『はっ…』

僕の目の前に赤いMSがいます。僕は黒いMSに乗っています。僕は。

『キラァ。こんなとこに居たのかよ、カトー教授がお前のこと探してたぜ』

キラ?誰の事でしょうか。

『お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな』

僕は戦うしかありません。守ってもらって、とは?僕は貴方を知りません。

『キラ!』

あの戦闘機は。あの戦闘機はあのあの…あのMSは。あのあの赤い。

『どうした7号!!お前の力を見せてみろ!あのイージスを』

うああああああ!ああ!

「トォォル!!」

イージス殺すアスラン殺すトールを殺したあいつらを殺す。僕を弄んだ奴を殺す!殺す殺す殺す!
殺して…や…る…!

『…まさか。ここまでやるとは。バーサーカー、いやスーパーコーディネイターの力は並ではないか。しかし、まあ酷い惨状だ。
いやはや…ブロックワードをつけておく必要があるかもしれませんな。ヘルメットの洗脳装置だけで持つ事やら』
『八号の死体は?』
『あがりません。もはや潰れているようです。…イージスのほうも、大破。使い物になりませんね』
『まあいい。…この最強の戦士さえ出来れば、連合の勝利は確実…くく…はは…あはははは!!素晴らしいじゃないかストライク、素晴らしいじゃないか、キラ・ヤマト!』

僕はキラ・ヤマト。僕は憎悪。待っていろアスラン。僕はお前から、全てを奪ってやる。

第6話 So sad

「…それで、サトー様は何と仰っていたのですか?」

後にブレイク・ザ・ワールドと呼ばれる事件の後、ミネルバは着水し、補給と修理、そしてカガリを送るため、オーブへと向かっていた。
そんなミネルバの医務室。暫く気絶して眠っていたラクスだったが、体と頭に包帯を巻いていたが、それ以外は至って正常、元気そのものだった。
丁度ケイからの見舞い品のリンゴを頬張っていたとき、彼女の許にシンが見舞いに現れた。勿論、用件は見舞いだけではない。
あのテロリスト、サトーの事を報告しようと、参上していた。
そんなシンの話にラクスは耳を傾ける。

「あの男、サトーは言った。これより戦争が始まる。それをどうする?お前はどうする?そういっていた。
それと、新しい時代を地獄から見ているって…。ザフトじゃないけど、コーディネイターがしでかした事だ。これから、あの人が言ったとおり、戦争が始まっちまうかもしれないな…」
「そうですか…、悲しい事ですね…。あの人は憎しみに心を囚われてしまった人。でも…
それでも彼を否定する事なんて、出来ませんわ…。これからどうするんでしょうかね…」

ラクスは表情を暗くする。それを見たシンは少し言葉を選ぶのに戸惑いながらも、話を進めた。

「さあな。ただ、議長は先手を取って、各地の援助にザフトを向かわせているみたいだ。ただ…ブルーコスモスが今騒動を起こしているみたいだけど…。
本当に戦争になっちまうかもしれないな」

誤魔化さず、ラクスに自分の意見を言うシン。それを聞いて、ラクスは掛け布団を握る手の力を強める。完敗。
結局ラクス達は彼の行いをとめることが出来ず、被害は世界中に広がってしまった。そして、悲しみは広がった。

「…過ぎた事は仕様がない。まずは行動…っていうには少し、被害が大きすぎたのかもしれませんね。…すいません、私、後悔ばかりしてますわ」

ラクスは窓の外の光景を見ながら、少し声のトーンを落としながら言った。その声色から、相当の悔恨の念があるのだろうと感じられる。しかし、シンにとって、それが気に入らなかった。
やる事をするしかない。わかっているじゃないか。それに、声にするだけなら誰にだって出来る。シンは、拳を強く握り、そして言った。

「…そうやって、塞ぎこむだけなら誰にもできるさ」
「シン、さん?」

そんなシンの言葉にラクスは戸惑い、彼の顔を見つめる。彼の表情は怒りこそ混じっているものの、決意が含まれている。
その強い表情に、ラクスは魅かれて不思議と目をそらすことなく、見つめていた。

「俺達はやるしかないんだ。やれるだけの事を…。俺は、それをあの男に言ってやったんだ。だから、やらなきゃいけない。まだ、何をすべきかはわからないけど。
でもきっと見つかるし見つけてやる。あんたもそうなんだろう?」
「…やるべきことをやる。そう、ですわね。簡単そうだけど、一番難しい事。でもそれをしてこそ、彼らに顔向けができますね!」

彼の言葉を聴いて、ラクスは表情を少し明るくする。確かに塞ぎこんでも仕様がないのだ。だから、自分の目の前にある事は絶対にやる。
目の前で苦しんでいる人たちがいるならば、その人たちを助けよう。できる事があれば全部やる。
それしかないのだ。だから、進むしかない。今はそのためのひと時の休息。

「やっぱ、あんたバカピンクだよ。立ち直るの早すぎだって」
「それが取柄ですから…ってシンさんまでバカピンクって呼ばないでくださいまし。最近、私本名で呼ばれていない気がします…」
「気のせいだって、ははは」

そんなラクスの立ち直りの早さに呆れつつ、彼女の定番の仇名を言ってみると、今度はラクスの表情が落胆した。
この振幅の大きさにシンはついに吹いてしまい、そのまま笑ってしまった。ラクスも怒ろうとしたが、釣られて笑ってしまった。
場が和やかになり、ラクスは少し心の中の錘が軽くなった気がして、気が楽になった。しかし、サトーの事は、やはり忘れられなかった。

一方ハッチではというと、昼休みとなっていた整備班達は各々休憩をしていて、ケイもまたヴィーノやヨウランと昼飯を食べながら雑談していた。
ヴィーノはサンドイッチを頬張りながら、だるそうに喋り始めた。

「それにしても、大変な事件だったなぁ。全く」
「ほんとほんと。お陰で忙しいのなんのって。本当は今頃、月軌道でゆっくりと警備活動だったのになぁ」
「文句言うなって。これもお仕事だろうに」

それに賛同するヨウランに対し、苦笑しながら言うケイはストローでジュースを口に運ぶ。
ヴィーノはだるそうな表情のままケイの方を向き、一度ため息をついてまた言う。

「ケイさん、大人っすねぇ。さすがおやっさんにしごかれているだけあるや」
「そりゃどうも。おやっさん怖いからなぁ。今のところは優しいところだけど」
「ああ~。教官時代も、怖かったなぁおやっさん。本当、俺たちを虫けらとしか思ってなかったんじゃないかってくらい」
「でも、川に投げ込まれたりとかはなかったでしょ?昔は大変だったのさ…。ふっ…」

何やらかっこつけたように悲観な様子を出そうとするケイに流石のヴィーノとヨウランも苦笑してしまう。ただ、ケイとしては心外といわんばかりに首を振って、
それ以上は言わなかった。またストローで中身を吸出しながら何かを考え始める。

「しっかし。これどうするのかな…」

目の前に広がる惨状。ラクスのジンとゲイツR、そしてザクウォーリア。この三機は先の戦いで被害が大きかった三機で、特にジンに関しては元々カスタム機なのと、
大気圏突入の際のポッドでは防ぎきれなかった分の温度上昇による故障により、これが次に実戦にでるとしたら、それは棺おけとして、というくらいだった。
幸い、武器に関しては特に以上は見られず、他のMSさえあればラクス自身の出撃で同じ武装にはできるが、その予備さえも破壊されているのだから、忙しない。
この場合、オーブから何か頂戴するか、それとも比較的近いカーペンタリアの基地から頂戴するか。まあ兎に角補給が欲しいのは確かだ。
ミネルバといえども空母ではない。その役目は速い足で敵をかき回すいわば強襲役なのだから。

「大切にしてる奴だからなぁ。あいつ泣くなぁ多分」
「ナタリーさんか?ああ…そういや、結構大事にしてたっすね。でも、MSの執着心なんて…」
「馬鹿。あれにナタリーは二年間も乗っているんだぞ?ロートルもいい所なのに。相棒を失うって言うのは、結構辛いものがあるよ。
…シンやあのテロリスト達も、そういう感情、いやそれ以上だったんだろうね」

重い表情を浮かべながらケイは握り飯を頬張る。梅干の酸っぱさが何故か普段よりも強く感じられ、ケイは顔を顰める。
ヨウランもサンドイッチを頬張り、鎮痛な表情を浮かべながら言った。

「…大事なものを失う、か。ショーンの奴…。勝手に死んじまいやがって…。あいついい奴だったのにな…」
「…ああ。でも、何時までも塞ぎ込んでられないよ。ショーンの分も、俺たちががんばらなきゃな」
「そうだね」

握り飯をもう一度含みながら、ヴィーノの言葉に賛同するケイ。彼はふと思い出してみる。あの時、フレイを失った時。ケイはまるで全てを失ったかのような感覚に陥った。
その恨みが一種の力となり、プロヴィネンスを操るラウ・ル・クルーゼと相討ちに持ち込めたのだろう。だが、それが今、コクピット恐怖症の原因となっている。
何故あそこまでフレイの事が大切だったのか。それは、一人目の記憶が自分も持っていたからなのだろうか。だとすれば良い道化師だ、自分は。偽りの記憶を呼び起こし、偽りの怒りを露にする。
だが、偽りでも目の前で大切な人が死んだら許せないし、許さない。だからこそ、戦った。そんな自分を偽りたくない。

「さて、そろそろ到着と昼休み終わりかな。やれやれ…」
「ケイさん、行こうぜ」
「あ、ああ。先行っててよ。まだ中身残ってるんだよ」

立ち上がり、持ち場に戻ろうとするヴィーノとヨウラン。それを、ケイは手の代わりにカップの中のジュースの残りを横に振って、彼らを送る。
彼らは自分にとって大切なのだろうか。ミネルバは。シンは、ルナマリアは、レイは。そして、ナタリーいやラクスは。本当に大切なものなのだろうか。
全てを偽ってきた自分に対し、ケイは嫌悪感を感じていた。

『ふふ、だから言っただろう。君は許されざる者、誰も君を許さない。故に君は、人を愛せない』
「!!」

と、ケイは急に何か気配を感じ、声が聞こえてきたので、振り向いてみる。しかしそこには誰もおらず、壁のみが目に入ってくる。
だが、聞き間違えるわけがない。このはっきりとした声。

「(ったく。二年ぶりか…。聞きたくもない声を聞いちゃったな。クルーゼの声まで聞こえるなんて、よっぽど僕は未練がましい男だ)」

カップの中身を全て吸い込み、蓋を開けて氷を3個ほど口に含んで噛み砕く。キーンと頭に電撃のようなものが走るが、意識ははっきりした。
だがふと、ケイは歩きながら考える。そうだ、オーブに行くのも二年振り…というか、自身はオーブに戦闘に出たようなものだが。
兎に角、二年振りなのだ。想いもたくさんある。もしたどり着いて、上陸許可でも出たら、謝ろう。いろんな人に。
それが贖罪になるなんて思ってはいない。だが、謝ろう。そこからはじめるんだ。

『まもなくオーブ領海に入ります。各員上陸準備を。繰り返しお伝えします…』
「さて、お仕事お仕事っと。…あ~めんどくさ」
「何ぼやっとしてやがる!無駄口叩く暇があったら手を動かせ!」
「あいた!!」

そんなケイの思いは、マッドの拳骨でとりあえずはしっかりと刻まれつつ、気を取り直せたのだった。

オーブにたどり着いたミネルバを待っていたのは、オーブの官僚であるユウナ・ロマ・セイランとその父ウナト、そしてオーブの兵達だった。
まるでパレードでもやるのかというくらい華やかに飾られているその場に流石のカガリも呆れてしまう。

「やあカガリぃ!無事で何よりだよ!」
「ユ、ユウnうわ!」

そんなカガリとは対照的に、ユウナは満面の笑みを浮かべ、ミネルバから降りてきたカガリを出迎え、彼女を抱きしめて二度背中を軽く叩いてまた放す。
カガリは突然の事で少し呆然としていたものの、気を取り直してユウナの顔を見る。

「はぁ…ほんとにもう君は。心配したよ」
「ああ、いや…あの…すまなかった」
「これユウナ」

場を考えずユウナはカガリとまるで恋人と接するかのような接し方をするユウナに対し、ウナトが前に出て諌める。ユウナは小恥ずかしそうに手を後頭部に置きながら、照れてみせる。
そんなユウナとは対照的に、冷静いや冷徹そうな表情を浮かべて、ウナトはカガリの前に立つ。

「気持ちは分かるが場をわきまえなさい。ザフトの方々が驚いていらっしゃる。…お帰りなさいませ代表。ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」
「ああ、ウナト・エマ。大事な時に在ですまなかった。留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況など、どうなっているか?」
「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが幸いオーブに直撃はなく…詳しくは後ほど行政府にて」

ウナトは簡単な報告をカガリにして、今度は一緒に下艦していたタリアと副長アーサーの許へと歩いていく。それに応じて、タリアとアーサーは敬礼をしながら彼に応対する。

「ザフト軍ミネルバ艦長タリア・グラヴィスであります」
「同艦副長アーサー・トラインであります」
「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ。この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」

ウナトは右手を差し出し、タリアもその手を握る。少し高圧的ではあるが、とりあえず今のところは好意的な態度を取ってくれているようだ。
だが、タリアはそれ以外のものも感じ取っていた。この男の、腹底にある黒いもの。まあ、今は特に気にすることなく、素直に答える。

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」
「お心遣い痛み入る。ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう。補給もこちらで是非、やらせていただきたい」
「ありがとうございます」

タリアとの挨拶も終わり、再びウナトはカガリの許へと行く。そして、車のほうへと案内しながら言った。

「カガリ様、まずは行政府の方へ。ご帰国そうそう申し訳ありませんがご報告せねばならぬ事も多々ございますので」
「あ、ああ…あの、その…」

と、当のカガリはというと、何かモゴモゴと言おうとしていたのだが、こういう場でしかも、流されてしまったため、言い出せず、そのまま車に乗る羽目となった。
ユウナもそれに続こうとした時、ふと立ち止まって、カガリと一緒にミネルバから降り、後ろにいたアスランに声を掛ける。

「あぁ、君も本当にご苦労だったねぇアレックス。よくカガリを守ってくれた、ありがとう」
「いえ…」
「今日はゆっくり休みたまえ。報告書も出さなくてもいいよ。その羽をゆっくり休ませたまえ。ああ、そうそう後ほど彼等とのパイプ役など頼むかもしれないからね」
「はっ」
「では、行こうか」

ねぎらいの言葉をアスランに投げかけ、そして優雅に車へと向かうユウナ。そんな彼の言葉を真面目に受け、その後を追うアスラン。
ケイとラクスはその様子を甲板の上から見下ろしていた。

「まあまた何かと変な奴がいるなぁ。あの蒼髪」
「ユウナ・ロマ・セイラン。オーブ連合首長国の五大氏族セイラン家の跡継ぎですね」
「へぇ」

感心したような表情でラクスの顔を見つめるケイ。それに対し、心外だと言わんばかりの表情を浮かべているラクス。

「何なんですの、その顔は」
「いやぁ。まさかバカピンクがそういう事をちゃんと知っているとは思わなかったからさ…」
「ふふ~ん、こう見えて私、新聞テレビラジオは欠かさずにいるのです!だから、世界情勢は…」
「とかいって、本当は海賊音楽ラジオとか音楽番組とかアニメとかテレビ欄しかみていないんだろ~…目を逸らすなよ」

ケイが皮肉も込めて、冗談混じりに言った事だったのだが、どうやら図星らしく、そっぽを向いていた。ケイは呆れて物が言えず、ため息をついた。
と言ったものの、ラクス自身はニュースもしっかりみているが、それは自分がみたい番組までの繋ぎであって、主に見ているわけではない。
戦時中は兎も角今ではネットを使えば、音楽などその手のサイトで好きなように購入、ダウンロードできるような時代なのだが、ラクスは好き好んでマニアックな海賊ラジオに聞き入っている。
彼女曰く、ナチュラルの曲を聴くにはこれが一番手っ取り早いとか。確かに、プラントにいる以上、いまだナチュラル嫌悪が収まらない今、そういう音楽を手に入れるにはマニアックな店に行くしかない。
しかし、彼女は軍人。そんな暇などありやしない。だから、一番手っ取り早いのだ。
アイドルだった頃からの趣味。そういえば、あの偽者はそんな趣味を持っていなかったなとケイは思い出してみる。

「ま、まあ。それらも見ているわけですが。ていうかアニメはあんまり…最近のアニメは全然わかりませんよ。ちっちゃい頃は見ていましたが…(御父様には反対されましたけど)」
「(そんな事言って、西暦時代のロボットアニメちょこっと見てる癖に)まあそんな事はどうでもいいとして。前話したけど、カガリとアスランは出来てたと思ったんだけどなぁ。何かそうも行かないみたいだね。…ラクスはアスランの事、
どう思っていたの?」
「え?…ああ…まあ…秘密ですわ」
「…秘密、ね」

ケイは少し自分の迂闊さを呪った。どうやらラクスの古傷を抉ってしまったようだ。自然の流れゆえに謝るわけにも不自然だし、どうすればいいかケイは悩んだ。
と、そんな二人の許にルナマリアがやってきた。助かったとケイは心の中で安心しながら、彼女に話しかける。

「ルナじゃないか。どうしたの?」
「ううん、ちょっとね。何となくです。お二人は?」
「いやちょっと下の様子を眺めてたのさ」

ケイは下の方を指差す。ルナマリアはそれを受けて甲板から覗いてみる。すると、そこからオーブの港が一望できた。
タリアとアーサー、マッドが何やら二人組と喋っていた。ミネルバを視線にしているようで、モルゲンレーテの関係者だろう。制服も確かその会社のものだ。

「覗き見ですか?」
「まあそんなとこ。声までは聞こえなかったけどね~。結構な人数だったよ。な、ナタリー」
「ええ、そうでしたね。…。ちょっと私、喉が渇いたので何か飲んで来ます。では…。今は分からないことばかりだけど~信じるこの道を進むだけさ~どんな敵でも~…」

ラクスは少し表情を重くしながら無理に笑い、歌を口ずさみながらその場を後にした。ルナマリアは呼び止めようとしたが、ケイがそれを制止する。

「ごめん、ちょっと放っておいてあげて。…っていうか僕が悪いんだよな…。彼女の古傷を抉っちゃったよ…とほほ…」
「うわ~…ケイさんカッコワルイ…でも古傷って?」
「ん?昔許婚だった人の事。ちょっと似ている人がいたから、そのことを聞いてみたんだけど…。後で謝らなきゃ」

ケイは少し後悔したような表情で、苦笑いしながら頭を掻く。ルナマリアはきょとんとした表情で言った。

「ふぅん…。許婚ですか…。もう、駄目ですよケイさん。女の子はそういう事聞かれると、傷ついちゃうんですから」
「ああ、次は気をつけるよ。迂闊で残念な人にはなりたくないからね」
「私に言ってもしょうがないんですけどね~。ところで、オーブに付いたからにはショッピングに行きたいですけど、上陸できますかね?」
「それこそ僕に言ってもしょうがないんじゃない?」
「ごもっとも」

軽いジョークを交わし、この場はどうやらまた和やかな雰囲気に戻ったようだ。そんなこんなでケイは急いでラクスの許へ行き、そして一言謝って事なきを得た。
ラクス自身もそう深くは思いつめていなかったらしく、ケイの謝罪の言葉に素直に応じ、すぐさま何時もの調子を取り戻したのだった。

『やめろよこの馬鹿!』
『あんただってブリッジに居たんだ!ならこれがどういうことだったか解ってるはずだろ!?
ユニウスセブンの落下は自然現象じゃなかった。犯人が居るんだ!落としたのはコーディネーターさ!』
『あそこで家族を殺されてそのことをまだ恨んでる連中が、ナチュラルなんか滅びろって落としたんだぞ!?』
『そして…そのリーダーは、パトリック・ザラが目指した世界を実現してみせるって、言ってたんだ!!』
『あんたってほんと、何も解ってないよな。あの人がかわいそうだよ』

「カガリ…カガリ!」
「あ…すまない。何だ?ユウナ」
「いや…ずうっと上の空だったからさ。どうしたんだい?」

オーブ首長国政府御用達の車は行政府へと向かっていた。そんな中でカガリはミネルバにいたときの事を思い出していた。
ケイ・クーロンの事、シン・アスカの事。そして、テロリストの事。たくさんの事を思い出していた。
そんな彼女の様子が気がかりだったのか、隣にいたユウナは声を掛ける。
少し反応に遅れたカガリは、少し声を弱くして答えた。

「…いや、なんでもない。少し、考え事をしていたんだ」
「へぇ…カガリが考え事なんて珍しいね。明日は久しぶりのスコールかな?」
「お前!!」
「冗談だって。こういうのウィットにとんだジョークっていうんだよ」

そんな彼女を元気付けようとしたのだろう。ユウナは冗談の一つを言ってみる。すると、生真面目なカガリは怒って彼に詰め寄ってきた。
だがユウナはというと、何時もの調子を取り戻した彼女に満足し、微笑みながら彼女を宥める。

「…全く!」
「そうそう。カガリはそうでなくっちゃ。まあ疲れているし、いろんなことがあったかもしれないけどさ。
あんまり思いつめているとその綺麗な顔も台無しになっちゃうよ?」
「…ふん」

すっかりふてくされ、頬杖をつきながら窓の外の光景を見つめるカガリ。ユウナはそんな彼女に肩をすくめながら苦笑し、前を向きなおす。
そして車内はそのままの状態で進み、そして行政府へとたどり着く。そこで、カガリを待っていたことは。

「なんだと!大西洋連邦との新たなる同盟条約の締結!?一体何を言ってるんだこんな時に!今は被災地への救援、救助こそが急務のはずだろ!」

会議室の机を強く叩き、立ち上がるカガリ。オーブは永久中立国である。同盟条約を結ぶという事は、オーブはその中立国という立場を失う事になる。
そのことはカガリにとって許せる事ではなかった。父が命を賭けて守り抜いたその理念に反する事だから。だが、その気持ちにも揺らぎが生じていた。
シンの言葉、ケイの言葉。本当にそれは正しい事だったのか。しかし、次こそは。父が守り抜いた理念を、無駄にしてはいけないと思った。
しかし、そんな思いとは裏腹に、官僚達の言葉は酷く現実味を帯びていて、カガリを追い詰めていく。

「こんな時だからこそですよ、代表」
「うぅ…」
「それにこれは大西洋連邦とのではありません。呼びかけは確かに大西洋連邦から行われておりますが、それは地球上のあらゆる国家に対してです。
約定の中には無論、被災地への救助、救援も盛り込まれておりますし。これはむしろそういった活動を効率よく行えるよう結ぼうというものです」
「しかしだな…」

官僚の言葉に反論の言葉も見つからず、狼狽するだけのカガリを見かねて、ウナトはため息を一つ吐いた後に言った。

「はぁ…ずっとザフトの艦に乗って居られた代表には、今一つ御理解頂けてないのかもしれませんが。地球が被った被害はそれは酷いものです。そしてこれだ」
「あ…ああ…」

ウナトがプロジェクターを使ってモニターに映したもの。それはユニウスセブンでのテロリスト達のジンの姿やフレアモーターであった。こんなものが何故流れているのだ。
もしや、あの強奪部隊の仕業か。そう考えてみるものの、決定的な証拠は自分の記憶のものというあいまいなもので、何もいえない。

「我等、つまり地球に住む者達は皆、既にこれを知っております」
「こんなものが…一体何故!?」
「大西洋連邦から出た情報です。だが、プラントも既にこれは真実と大筋で認めている。代表も御存知だったようですね」
「…だが、でもあれはほんの一部のテロリストの仕業でプラントは…現に事態を知ったデュランダル議長やミネルバのクルーはその破砕作業に全力を挙げてくれたんだぞ!
だから、だからこそ地球は…!」

必死に弁護しようとするカガリだったが、それを水疱にする発言が、ユウナの口から出される。

「それも解ってはいます。だが実際に被災した何千万という人々にそれが言えますか?」
「う…」
「貴方方は酷い目に遭ったが地球は無事だったんだからそれで許せ、と。この惨状を見なさい。人々は皆、悲しみと憎しみに包まれている。この事件は、コーディネイターがしでかした事に変わりありません。
エイプリルフールクライシスから間もないのにも関わらず、それと同等、いや下手をすればそれ以上の被害が起こったかもしれないのにもかかわらず…ね。
「…」

何もいえなかった。確かに、ユウナの言うとおりだった。地上の人々はいまだ、エイプリルフールクライシスの悲しみから立ち直れていない。その上でこの事件だ。
ザフトも総力を挙げて被害を小さくしたとはいえ、コーディネイターがしでかした事なのだ。ブルーコスモスが黙っちゃいない。憎しみは、もはや深いところまで言ったのだろう。
何もいえない。言う権利など、ない。カガリは黙り込んでしまった。

「今これを見せられ、怒らぬ者などこの地上に居るはずもありません。幸いにしてオーブの被害は少ないが、だからこそ尚、我等はより慎重であらねばならんのです。
理念も大事ですが我等は今誰と痛みを分かち合わねばならぬものなのか、代表にもそのことを充分お考えいただかねば」
「…」
「…ふぅ。父上…いやウナト様。カガリ様は長旅でお疲れのご様子…。今日はお休みになられ、明日ご決断をしていただきましょう。今日はこの辺でお開き、という事で」
「仕方ありませんな」

ユウナの一言で、とりあえず会議は切り上げられ、書類を纏めた官僚たちはその部屋を後にしていった。カガリとユウナも、最後に部屋から出て、お互いの自室へと向かっていた。
その最中、カガリがずっと重い表情なのを見かねて、ユウナは少しばかりのフォローをする。

「まあそう落ち込むなってカガリ。若いのに君はよくやっていると思うよ。ただ、経験が足りないね、経験が…。叔父様のようになりたければ、もっと年を重ねるしかないんだ。
まあ、慌てるなよ。そのうちみんなもカガリの言う事を聞いてくれるさ」
「…だがこのままではオーブの理念に反してしまう…。どうすればいいんだ…。これでは御父様が守った理念が…」
「理念…ね。カガリは理念と国民の命、どっちが大事なんだい?」
「そりゃ…国民の命だ」

フォローを受けてもなお、重い表情を変えず、理念と言う言葉を出す。そんな彼女に少し呆れたのか、ユウナは少しばかり意地悪な質問をした。
カガリは一瞬、返答に困ったが、後者を選ぶ。理念とは謳っていても、結局国を守れなければそれは唯の言葉である。その例がシンではないか。
カガリの父ウズミはそれを分かっていたのだろう。だからこそ、外交から内政、全てにおいて配慮を重ね、そして中立を守っていた。だが、最後の最後で手を誤ってしまった…らしい。
しかし、彼の手腕が優れていたのは確かだ。それに比べ、自分はどうだったのか。国家代表とはいい飾り立てで、殆どはこのユウナやウナト、他の官僚たちの言いなりになっている。
これでは天国に行った父に顔向けできない。今も、ユウナの思惑通りな返答をしてしまった。

「ふふん。じゃあ、連合と同盟を組むしかないね。あそこの恐ろしさは、前大戦でカガリもよく知っているだろ?理念もいいけど、まずは国民一人一人を守んなきゃ。それに、理念じゃ人は食わせられない、ね」
「…くっ…」
「彼らはオーブを焼いた。だけどそれと同時に、国を短期間で再建できたのも彼らの援助金にお陰…。恩も仇もプラマイゼロ。ま、国民は納得しないだろうけどね。それを納得させるのが僕達の仕事なんだし?
…ただ、連合に心を許せって言っているわけじゃない。あの映像だって絶対編集したものだな。割と理不尽だよ、あの押し付けはね。ま、それでも扇動するにはもってこいというわけだけど…。
やれやれ」
「な…そこまで分かっているなら何故!?」
「あのね、カガリ。これはあくまで僕の推測。証拠は何処にもないし、言葉で言っても、コーディネイターがしでかした事は間違いない。僕達だって殺されそうになったんだ。それは事実だろ?」
「…ああ」
「仕様がないさ。これが政治ってものでね、結構汚いものだよ?でも、そこまでやってこそ、僕達は国を守っていかなきゃいけない。時には手を取り合い、時には頭を下げ、時には騙して。利害一致すれば協力して、決裂ならそれ相応の対処をしなければならない。
回りに回って、ようやく国家が成り立つものさ。叔父様もそういうところは心がまえていたんだろうねぇ。さあて、僕もお仕事しなきゃ。君も休みなよ。あんまり疲れていると、正しい判断なんかできやしないよ」

ユウナはカガリの部屋の前にたどり着いたのを見計らって話を切り上げ、そして手を上げてそのまま去っていった。
カガリも力なく部屋に入り、そして執務用の机の椅子に座る。そして、机に突っ伏して、そのまま暫くは動こうとしなかったのだった。

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