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LOWE IF_592_第10話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:56:34

インド洋連合基地近海。
地球連合軍第81独立機動群ファントムペインに所属し、部隊隊長を務めているネオ・ロアノークは、一人揚陸艦の隊長室で窓の外の朝日を眺めていた。いやに爽やかな日差し。
そんな日差しを少し浴びて、部屋の中にもう一人、男の影が浮かんできた。ネオは男に話しかける。

「遠くローエングリンゲートからご苦労なこって。だけど、MS開発部直属の実験部隊の中尉殿が、ここに何の用だ?しかも一人とはね」

男は無表情を崩さず、右手に持った胡桃をいじくりながら答える。

「大して貴方と仕事は変わりませんよ、ロアノーク大佐。俺はあんたが持っている、ザフトから強奪した三機のMSのデータが欲しいだけです。それも、実戦データをね。
それを隊長に頼まれたから、俺が来ただけです」
「ふ…ニシオカ大尉殿は元気にやってるのか?」
「隊長は無能な上司に無理を押し付けられつつも、何とかまあ、やってます」
「そうか、お互い変な上司の下につくと大変だな」

ネオは自分の机の引き出しからある書類とディスクを取り出すと、男が座っているソファーの前のテーブルの上におく。男は少し内容を確認した後、少しだけ不敵な笑みを浮かべて、それを懐にしまう。

「さて…これでお前さんの仕事は終わったわけだが、これからどうするんだ?」
「噂に寄れば、これから派手にドンパチをやらかすとか…。あのファントムペインと互角に渡り合えた新型艦ミネルバと…。どうせ何時かは戦う事になりましょうし、威力捜索ということで、俺も戦闘に参加させてもらいます」

男の言葉に、ネオは少し意外そうな顔をしながら、確認するように聞く。

「あのダガーLでか?」
「ええ。任務を遂行した後の私情として。コーディネイター、空の上の化け物は叩いておきたいんでね。やつらにはまだ、返しきれない恨みがある」
「そういう君こそ、コーディ…」
「それ以上は言わないでください。俺は地球連合軍第十七MS実験部隊マクスウェル所属オディオスです」

ネオが彼の素性を口にしようとした時、オディオスと名乗った男はそれを止めた。オディオスは胡桃を握りつぶし、そして中身を口の中へ放り込む。
ネオは仮面の向こう側から、この男を興味深そうに見ていた。この男は自分達と同じナチュラルではなく、元々はプラントに住むコーディネイターだ。
しかし彼らも全てがすべて、あの宇宙に暮らしているわけではない。オーブはその典型で、ナチュラルとコーディネイターが共存する国だ。まあ、それでもお互いの弊害はあるらしく、差別なども消えてはいないようだが。
そして、それは連合内部でも同じことだ。そして彼らもまた、エイプリルフールクライシスの被害者でもある。その強靭な体を持ってしまった彼は、ナチュラルの妻を亡くし、そして父と母を亡くした。
全てを失った男は軍隊に入り、ブルーコスモスとして、コーディネイターと戦う道を選んだ。
サトーとは対極の思いを持ち、そして同じ境遇に立っている男。男もまた全てを失い、その憎しみを押し込めて、そして今日もまた、敵を討つ。

全ては青き清浄なる世界のために。

第10話 「BLUE」

オーブより少し離れた海底。ここに、アークエンジェルがその羽を休めていた。
何とかブラックk7やオーブ軍を振り切り、フリーダムはアークエンジェルへとたどり着くも、その機体はボロボロになり、海に叩きつけられた衝撃によってカガリは気絶してしまった。
キラはすぐにカガリを抱きかかえて機体から出て、医務室へと彼女を運んだ。幸い、彼女は一時的に気を失っているだけで、他に体の異常は見られないということらしく、
キラや他の者達は胸をなでおろして、その回復を待ちつつも、今後の行動について話し合っていた。
さて、そんな最中に、やっとカガリは目を覚ます。起き上がり際、少し頭痛がし、彼女は頭を右手で抑えつつも、首を横に振って意識をはっきりさせる。
記憶が少し錯乱していて、整理がつかない。ここは何処だろうか?自分は確か、結婚式を行っていたはずだ。そのときに、フリーダムに攫われ、黒いストライクに襲われ…。

「あ…目が覚めましたか。何処か痛む場所はありませんか?」

ベッドを仕切るカーテンが開かれ、女医が声をかけてきた。やっとの事記憶と意識がはっきりしてきたカガリは彼女の質問に首を横に振って答えつつ、今度は自分が質問を返した。

「ここは…アークエンジェルか?」
「ええ。アークエンジェルの医務室です。ご無事で何よりです、カガリ様」
「ご無事で何より、か」

どうやら助けられてしまったようだ。確かにあの時、黒いストライクに襲われたときは怖かった。といっても、あれはどう考えてもキラを狙っていたものだから、どちらにしろ彼らが誘拐などしなければ
こちらはあんな恐怖に襲われなかったが、それは置いといて、あのどす黒い殺意は今まで戦場にいたこともある彼女も感じた事はなかった。しかし、その恐怖も生きているうちだったのだろう。
現にそれを思い出したのは立った今、起き上がったときだ。いっそのこと、このまま眠ったままだったらどれだけ楽だっただろうか。責任や形式などに囚われることなく、恐怖からも解放され、自分は自由になれたはずだ。
しかしそれはただの理想。そして逃避。今も逃避中ではあるが。どうあがいても、もう自分は何からも逃げられないのだろう。そういう生き方を選んだはずだ。
そして、もうすぐ諦めがついたというのに、それを邪魔されて。冷静に考えれば酷く残酷な事をされたと思う。責務を果たせないで、そのまま逃げたことになっているのだ、自分は。

「キラ達は何処にいる?」
「え?ああ、ブリッジにいらっしゃると思いますが。皆さん心配していましたよ?」
「そうか」

いや、まだその責任を果たせる時間はある。自分はまだ生きている。生かされているのだ。生きると言う事は、戦う事なのだから。
カガリは着替えを済ませて、キラ達がいるであろうブリッジに向かっていく。そして、いくつかの扉を潜った後、広い空間を持つ部屋にたどり着く。
ブリッジにたどり着いた彼女が最初見たのは、通信席の隣で大型のモニターを見ているキラと、その次に見たのが通信席に座っているラクス。
そして艦長のマリューとバルドフェルドとその他もろもろの、かつてのアークエンジェルの乗組員の一部だ。どうやら戻ってきていない者もいるようだが、まあ当然だろう。
こんなことに付き合う事自体馬鹿げているというのに、よくもまあコレだけ集まったものだ。

「…あ、カガリ!」
「カガリさん」

キラとラクスが同時に振り返る。カガリは不機嫌そうな顔をして、彼らの横を通り、そしてブリッジ正面の窓を見つめる。まるで水族館のような綺麗な光景だが、
それもカガリにとっては今では嫌味にしか見えない。やれやれ、そこまで私はひねくれ始めたかと少し自重した後、口を開いた。

「…全く、余計な事をしてくれたな、お前達は!こんなことをしてただで済むと思っているのか!?公式の場から国家代表を誘拐して!お前達は国際的な誘拐犯として
手配されてしまうんだぞ!?」
「いや、まあそれはわかっているのだけどねぇ…」

そんなカガリに対し、バルドフェルドははぐらかす様に言う。カガリはそんな彼の態度が気に食わず、更に怒りで顔を赤くしながら感情的に叫び散らす。

「正気の沙汰だとは思えないな!こんなことをしてくれと誰が頼んだ!ええ!?」
「でも、仕方ないじゃない。こんな状況の時に、カガリにまで馬鹿なことをされたらもう、世界中が本当にどうしようもなくなっちゃうから」

と、そんな彼女に暴言とも言うべき言葉がキラから発せられた。だが彼の瞳には邪な感情など見られず、何か考えがあってこのセリフを出したらしい。
しかし、そういう事実があるとしても、今のキラの言葉はカガリの神経を逆撫でするだけだった。

「馬鹿なことだとぉ!?」
「キラ!」
「大丈夫だよ、ラクス」

カガリは今にもキラに食って掛かろうとして、ラクスは彼を諌めようとするが、彼は笑みを浮かべてそれを止める。
何が大丈夫だというのだ。更にキラのことが気に食わなくなりつつ反論する。

「…なにが…なにが馬鹿なことだと言うんだ!私だっていろいろ悩んで、考えて、それで…!」
「それで決めた。大西洋連邦との同盟やセイランさんとの結婚が本当にオーブの為になると、カガリは本気で思ってるの?」
「な!?本気に決まっているだろうが!あれはな、ユウナと二人で話し合い、そして私が決めた事だ!あいつの言うとおり…私には、この国を再びを焼くことなどできない!この道しか…ないんだ!」
「でも、そうして灼かれなければ他の国はいいの?」

カガリの反論に、キラは再び疑問を投げかける。その疑問に、カガリは思わず閉口してしまう。今までしてきた事、世界の全てが再び戦いを起こし、あの悲劇を二度と起こさないようにしようとしてきた。
だが、今やっている事はなんだろうか。ザフトに強い力は戦いを呼ぶことになると謳いながら、自分の国を守るために強い力に頼るしかない今。
自分の今までやってきた事は一体なんだったのだろうか。しかし、それを認めようとすると余計に苛立ってくる。何なのだ、このジレンマは。

「もしもいつか、オーブがプラントや他の国を灼くことになっても、それはいいの?」
「…言い訳がないだろ…」
「ウズミさんが言った事は?」
「ああ、そうさ!私は理念を捨て、自分のいったことさえも守れない卑怯者だ!そうはっきり言ったらどうなんだ、ええ!?」

キラの投げ掛けに堪らなくなったカガリは思わず彼の胸倉を両手で掴み、そして言い寄る。その瞳には涙が浮かんでおり、どれだけ思いが溜まりこんでいたのかがわかる。
そう、彼女だって本心でしてきた事ではない。それは彼女自身が分かっていた事だ。だが、それを他人に指摘された瞬間、彼女の心は崩壊した。

「お前達に何がわかる…お前に何がわかる!!2年間何もしなかったお前達に…ただ…何もせずに…貪っていたお前達に…」
「カガリ…」
「カガリさん…」

だが、そのカガリの勢いもすぐに弱まった。泣き崩れるようにその場に膝まつき、彼女は涙を流しながら俯いた。ぽろぽろと、涙がブリッジの床に落ち、その涙のしずくから、彼女の表情が見えた。
溜まりこんでいた事が全て吐き出され、そしてその反動で気力が抜けていく。まるで、張り裂けそうだった風船の中の空気が全て抜けるように。そんな彼女にキラは優しく声をかけた。

「カガリが大変なことは解ってる。今まで何も助けてあげられなくて、ごめん。でも、今ならまだ間に合うと思ったから。僕達にもまだいろいろなことは解らない。でも、だからまだ、今なら間に合うと思ったから」
「…」
「みんな同じだよ。選ぶ道を間違えたら、行きたい所へは行けないよ。僕達は今度こそ、正しい答えを見つけなきゃならないんだ、きっと。逃げないでね」
「正しい答え…か」

そんなものあるのだろうか。独りよがりの答えに何の価値がある。ああ、そうだ。二年前だって、独りよがりの答えを出した結果、あんな犠牲を出してしまったのだ。

「(ナタリー、私、こんなことをしているんだぞ。こんなことをしていて、答え、見つかるかな?お前がここにいたら…何て言っていただろうな)」

そんなことを思ったところで言葉は返ってはきやしない。何だか急にカガリは寂しくなりつつ、どうせ今オーブに戻ろうとしても戻れる状況じゃない。彼らが止めるだろう。無理やりにでも。
だから、この状況にでも甘えて、少し休もう。そうカガリは思っていた。この選択が、何時か彼女の運命を変えることは露知らずに。

そのオーブではというと。

「き・さ・まぁぁぁ!!」
「うひぃぃ!」

ユウナが代表代行として現在働き場所としている、執務室にて。ユウナは部屋の隅っこで震え、頭を抱えながらみをちぢこませて、それに対し、ブラックk7は義手を指を力を込めながら握ったり離したりしている。
どうやらカーペンタリアに行く前にアスランがここに立ち寄り、入国拒否され、追い出されたという事実をブラックk7には隠されていたというか知らされていなかったらしく、
それに憤慨したブラックk7が執務室へと忍び込み、穏便かつ激しく詰め寄ってきたのだ。ただの政治家であるユウナにとって、殺人鬼の殺意は恐ろしいだろう。今にもいろんなものが出そうなくらいだった。

「ま、まままままあおちちちついてよ!これには深いわけがあって…」
「訳って何だよ、訳ってよぉ!おいこらぁ!なめてるのか!おら!」
「ヒィィ!」

言い訳がましく言うユウナに対し、ブラックk7は蹴りかかる。わざとユウナの顔にあたらぬよう、かつ恐怖を与えるように左へ右へと、ユウナの顔を避けて、その後ろにある壁をけり続ける。
一度の蹴りで壁は徐々に削られていくのだから、その威力はまさに目に見えていたので、結果的にユウナは動く事ができなかったので、本当に左右という感じだったが、それでも効果覿面だ。

「ヒィ、ヒィ…」
「ちっ…まあいいや。…で、訳を聞こうか。それ次第では…わかってるよね?」
「あ…ハァ…ハァ…うん…わかっているさ」

ブラックk7はユウナが完全にひるんだのを確認して、舌打ちした後、高そうなソファーに座り込む。ユウナは息を荒げ、涙目になりながらも、何とか虚勢でもいいから張ろうとしつつ、自分の椅子に座る。
しかし、まだ落ち着かない。内心震えながら、彼はことの事情を説明し始める。

「一応、追い出した建前は知っているよね?」
「ああ、連合との同盟でしょ?敵であるザフトの君は入国できません、即刻退去すべき。だったら僕を呼べば、ザフトに行ったあいつをこの手で殺してやるつもりだったのに」

ブラックk7はもう一度舌打ちをする。彼にとってはアスランへの復讐も、生き甲斐の一つとして存在している。そのチャンスをうやむやにされたのだから溜まったものではない。
そんな不機嫌な彼に対しまだ怖気つきながらも、ユウナは続けた。

「本当ならね。でも、それができなかったのはタイミングの所為さ。僕らオーブはまだ、プラントとのつながりを持っていなくちゃいけないから、あくまで『連合の言いなりになる小国』を演じなければいけない。
それなのに、むやみに撃墜なんてしてみなよ。何かいいかがりを付けられて、ここを攻められるかもしれない。そしたらオーブは完全に終わり。デュランダルは、何らかの形でこのオーブを欲しがっているはずだから。同盟であれ、占領であれ」
「ふぅん、それで黙って逃がしたと」
「黙ってじゃない。ちゃんと手続きを踏んで、正当な遣り方で追い返したんだよ。タイミングが大事なのさ…」

ブラックk7の揚げ足にユウナが少しいらつきながら言い返す。どうやらそろそろ冷静さを取り戻したようだ。恐慌状態と平静の状態ではユウナという男は極端に表情を変える。
それは、ポーカーフェイスを持ち味にしなければいけない政治家にとって、多少、いやかなりの欠点ではあるが、彼自身の持ち味であった。ブラックk7も、何となくこういうところをからかいたくなる。

「…!!」

そら来た、とブラックk7はくっくと笑いながらユウナの事を見る。ユウナは自分の股間に起こった惨劇に彼も気がついていると知り、顔を真っ赤にしつつ、部屋から出ようとする。

「失礼します…っとと、ユウナ殿?」
「忘れ物を思い出した。一度屋敷へ戻る!書類は机の上に置いておけ!」
「え、しかし」
「いいから!」

部屋の前でノックしようとした軍人、トダカを押しのけて、ユウナはそそくさとその場から立ち去ろうとした。当然何事かとトダカはユウナを呼び止めようとするのだが、その前にユウナは走り去って言った。
まあ彼に起こった惨劇は、彼のプライドをづたづたにするようなできことであり、誰にも知られたくない事だから、その焦りは察すれど、しかし逆にそれが彼の惨劇を皆に知らせてしまう結果になってしまう。
トダカも何事かと呆然としていたが、何となく部屋に入って、ブラックk7の存在に気がつき、何となく察してしまって、ため息を吐きながら書類を置き、ブラックk7と向かい合うようにソファーに座って声をかける。

「あまりいじめてやるなよ」
「隠し事をしたあいつが悪い。殺されなかっただけマシだと思わなきゃ」
「…ふぅ…」

やれやれと肩を落としながら、もう一度ため息を吐くトダカ。ブラックk7はなおもケタケタと笑いつつ、腰に差していたナイフを皮製の鞘に入れたまま取り出し、それを自分の真上に投げては取って遊び始め、そして不意にトダカに声をかける。

「ところで、カガリ…さんやテロリスト達の行方はつかめたいのかい?」

ブラックk7は少しカガリを様付けすることに躊躇しながらも、極力感情を込めず、自然と喋る。とりあえず自分がキラ・ヤマトのオリジナルと言う事は、ユウナだけが知っている事になっている。
あまり騒ぎになっても仕方ないし、そもそもこの国はカガリとラクスとキラを崇拝するものが多く、内通者がいるやもしれない。知られてしまえば、ブラックk7を手駒とする計画が台無しになってしまうのだ。
元々ブラックk7も正体を教えるつもりはさらさらなく、余計な面倒ごとも嫌いなので、ユウナの思惑に自然と乗っている。それでも、自分に正直な彼は意外に演技がへたくそだ。

「いや…はっきり確証のあるものはな…。ただ、地上で彼らを迎えられるところといえば、数少ないだろうが」
「そうかぁ。まあ、そう簡単に彼らが見つかるとは思ってないけどねぇ。隠れるのは得意だろうし、それに諜報員が隠している可能性もあるし」
「なめないで貰いたい。確かに彼らは英雄だが、今回彼がやったことで何人の怪我人が出ていると思っている。それに加えて元首誘拐。これはれっきとした犯罪だよ」
「さてさて、勤労なことでご苦労様ですけど。生憎ですけど僕はこの国の言葉はあんまり信じないんでね。態度で示して欲しいなぁ」

投げたナイフが振ってきたのを掴むと、今度は右手で、左手の掌に刃の部分をぱし、ぱしとたたき始める。トダカは冷や汗をかきつつ、目の前にいる男を見続ける。
傭兵として自分の部隊に配置された時から、この男は何処か得体の知れない何かが感じられていたが、今もそれをチリチリと感じられる。

「他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せずね。言葉は綺麗だけど、実際は言葉は言葉だしね」

段々、心なしか掌を叩く音が大きくなっていく。それに連れて、ブラックk7の顔が段々歪んだ笑顔になりつつある。

「全ては実体をえられたもの、目に見える形のものしか、僕には真実として映らない。何を為したか、だけだ。その点ではわりとユウナのやつは価値があるけどね」

トダカはブラックk7に、何時かの少年…そう、彼が2年前、連合がオーブに侵攻した際、戦闘に巻き込まれ家族をなくしたシンを保護し、プラントに行けるよう手配したのだが、そのシンが一時期見せた瞳と同じものを見て、
それが何かが理解した。これは、憎悪だ。しかも数段狂喜も混じって、混沌としたものだ。

「いやあそれにしてもまだかなぁ。楽しみでしょうがないや」

ブラックk7はナイフを左手で受け止め、そしてそれを少しだけ抜いて、刀身を見ながら、最大限に感情を込め、歪んだ笑顔を見せる。
トダカは彼のMSの操縦する腕はオーブの中でも随一なのは認めており、大変な戦力になるのは間違いないが、しかし、この男は諸刃の剣だ。
オーブにとって毒薬になるか、それとも良薬になるか。それはユウナ次第なのだが、トダカには彼にブラックk7を上手く扱えるとは、到底思えなかった。

インド洋
一方のジブラルタルに向かうミネルバ一行。ミネルバは海にその体の下半分を浸からせ、悠々と進んでいく。そんな中、海原をブリッジでアーサーは外部カメラを自分の席のモニターに映して眺め、タリアもリラックスした状態で
書類を見ていた。

「いやぁ、しかし、護衛に潜水艦一機を付けてくれるとは、カーペンタリアの司令官殿はふとっぱらですなぁ」
「それだけ期待されてるって事よ。逆にここでヘマしたら、どれだけ大目玉を受けるか分からないわね」

アーサーのお気楽な発言に、タリアは少しだけ釘を刺しておく。ミネルバの下、海中にはカーペンタリアより潜水艦が護衛として付いている。あの司令官の計らいだった。
そもそも、ミネルバとは宇宙用の戦艦であり、地上の運用はおまけ程度、という風に考えられたものだ。カーペンタリアで様々な調整はされたものの、それでもまだ弱い。
それにあの謎の部隊に奪われたアビスの襲撃にも備えなければいけなかったから、潜水艦による護衛は助かるものだった。

「ま、どっちにしろカーペンタリアの司令官に借りが出来た、て言うわけね。彼には何時か、恩返しをしなくちゃいけないわね」
「ははは、ではとりあえず高い葉巻でも贈られてはいかがですか?艦長に似て、司令官殿は愛煙家でいらっしゃるようですから」
「へぇ、そうなの。じゃ、御抓みに酒も付けて贈りましょうか」
「残念ながら、司令官殿は下戸であられるようですが」
「それは残念だわ」

アーサーの提案に、更に付け加えようとしたタリアだったが、意外な事実に彼女はがっくりとする。正直に言えば、彼とは一度酒を交えてみたかったのだが、まあしょうがないだろう。
さて、こんなそんななミネルバだったが、緊張感もある。現にタリアは今、この辺りの静けさに警戒心を抱いている。すでにここは、連合の領地なのだ。
シンらパイロット達もパイロットスーツに着替えて戦いに備えている。

「(さてと…連合はどう出るかしらね。こんな大きなもの、彼らは見逃すつもりかしら?)」

恐らくそんなことは無いだろう。ミネルバは彼らにとって厄介者なのだから。その証拠に、インド洋連合軍基地の近くでは、揚陸艦JP・ジョーンズはその身を海に貫く岩岩の間に隠していた。
艦の格納庫では慌しく出撃準備が進められている。ファントムペインの面々は打倒ミネルバに燃えていた。それはエクステンデッドであるスティング達にとっても同じであった。
中でもアウルにいたっては、宇宙での戦いの借りを返さんと一際燃えていた。

「今度こそあのピンクヤローをぶっ潰す」
「おいおい、女に対してヤローはねぇだろ」
「うるせぇ」

アウルの発言に対し、スティングが突っ込みをいれ、それをアウルは悪態をつきながら返す。あのユニウスセブンの戦い後、どさくさにまぎれて地球に降下した彼ら。
彼らの精神を整えるゆりかごによってアウルはラクスとの会話を忘れてしまっていたが、それでもなお、心の奥底ではどこかで彼女の事を覚えており、そしてそれは何時しかライバル心へと変わっていた。
普段そういう感情を出さないアウルにスティングは苦笑しつつも、彼自身もまた、あのインパルスに対してリベンジを果たさんと燃えていた。
そんな二人の様子を興味なさそうに隣でそっぽを向いていたステラは、急に何か待ちわびていたものを見つけたように、急に顔を上げて通路の方を見る。

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