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LOWE IF_uLM3T8C/3g_第02話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:40:37

夢を見る。
ここ最近、時折見る悪夢だ。
悪夢と言うには語弊があるかもしれない、ただ一人の男と話すだけの夢なのだから。
でもそれが酷く不快だった。
今夜も、また――

『行かせて下さい!僕を!オーブに!』
『止めろキラ君!今君が行っても無意味だ!』
『でも、それでも僕は!』
『民間人の避難は出来ている!被害も最小限に抑えたらしい!それに君の身体ではどうにもならないぞ!』
『・・・くぅっ・・・!』
『それみろ。・・・いいかキラ君、今オーブは混乱の極みだ、今行っても情報は無いだろう。
 君の身体が完治し、リハビリもしてきちんと動くようになってから行動すべきだと僕は思うね。』
『・・・はい、分かりました』
『君がオーブの事を心配なように、僕達もまた君の事が心配なんだ、その事を分かってほしい』

「ふむ・・・君は皆に愛されているようだな、羨ましい限りだよ」

金髪の男が微笑む、少しの嘲笑を含めて。
眼下では数ヶ月前の、オーブの事を聞いた僕とチャーリーがいた。
僕は部屋を見下ろすように浮いている、向かいには金髪の男、またあの夢の男。

「だがそれも偽りだ、君に与えられた居場所は偽りでしかない」

最初にこの男が現れたのが二ヶ月ほど前、真っ暗な空間にそいつは突然現れた。
そしてこう言ったのだ
『驚いた、…くっくっく…君もまた私と同じ存在だったのだな…久しぶり…いや、初めましてかな、キラヤマト君?』
と。
それ以来、彼は僕の夢に時折出てくるようになった。
顔は見えず、ただぼんやりとしか映らず、それでも何故か会った事があるような、そしてこの嫌悪感
良いものでは無い、ただそれだけが分かっていることだった。
「偽りなんかじゃない、僕は皆が必要だし、きっと皆も僕を必要としてくれている」

怒りを込めて言葉を吐く、しかしこの男はいつもの調子でかわすのだ

「必要?…フフ、面白い冗談だ、戦いのために生まれた君が、この争いの無い地で必要とされるとでも?」
「僕は戦いのために生まれた訳じゃ無い!確かに僕はコーディネーターだけど、その力は他の事に活かせるはずだ!」
「違う。違うのだよ君は。君は特別なんだ、まだ理解できないのかね!」
「理解できない!人は争わなくても生きていけるんだ!戦う事なんてしなくてもいいんだ!世界がこの島のようになれば!」
「無駄だよ。人は争う生き物だ、争わなければ生きていけない、DNAに刻まれていることだ。それに…君は戦うさ、必ずな」
「そんなこと!」
「あるんだよ。良いかね?君が戦いに行くんじゃない、戦いが君の元に行くんだ。逃れられるハズは無い。逃れられない…」

男が虚空に消えていく、朝が近いようだ。
何時もそう、この男は言いたい事を言うと消えてしまう、自分勝手な存在である。
気持ちが悪い。
ただただ、気持ちが悪かった。
それは嫌悪からだろうか、それとも図星を突かれてしまったからだろうか。
馬鹿馬鹿しい、戦いの為に生まれた?そんな存在がある訳が無い、あって良い訳が無い。
――ああ、今日の寝起きは最悪なんだろう、出来れば一日が良い日でありますように――

『Childhood's End』             第二章

僕がこの島に来てもう一年が経とうとしていた。
正確に言うともっと経っているかもしれない、不思議とここでの時間の流れは曖昧だ
一年も経つと難民キャンプのようだった頃に比べ、今じゃ村のようになってきている。
廃墟のような建物も綺麗になり、作業用のジンが歩き回る。廃棄されたゾノを修理し漁業に使う。
今じゃこの島も立派に自立できるようになってきた。

「まーようやく戦争も終わったし、これからだね。この島がどうなるか、ってのは」
チャーリーが喋る、彼も忙しい人間の一人だ。この島の医療を一手に引き受けていると言っても良いのだから
「僕達はどういう扱いになるんでしょう?やっぱり難民なんでしょうか?」
「だろうね、難民扱いになればどこにも行けなくなるけど、逆に言えばどこにいても良いって事だから
 僕達の事を処理する側からしても丁度良いはずさ」

僕らが巻き込まれた戦争は、数ヶ月前のヤキン・ドゥーエ攻防戦を持って停戦した。
戦争は数多くの難民を生み、世界の政府はそれらをどうするかに追われた。
大きな国や主要都市近辺は各国の法に沿った対応をしているが、この島のような僻地にはまだそれらはいきわたっていない。
帰る者、残る者、去る者…多くの難民は自由に行動し始めた、それに伴い対応も変化、
結局、難民とされた者は各自の責任をもって、自由に振舞える権利を得たのだ。ある意味政府は見捨てたとも言えるが。

「キラ君、君はオーブには戻らないのかい?そろそろ向こうも安定しているだろうと思うんだが」
「そうですね、もうしばらくしたら一度向かおうと思います。会いたい人もいますから」
「向かう、か…じゃあまたここに?」
「はい、前にも言いましたが此処の方々には多くの御恩があります。それに此処には待っててくれる人もいますし」

そう、僕には待っててくれる人がいる。この島に。
チャーリーさん、子ども達、建設作業班の皆…僕の大切な人たちだ、離れたくはない。
「あー…うんうん、カレンちゃんかー、流石キラ君だよなー、可愛い彼女作っちゃってなー」
「って違いますよ!何でカレンさんを名指しなんですか!!皆のことですよ!!」
「ええっ!?じゃあネーヤなのかい?君はロリコンだったのかい!?」
「ちょっとぉお…誤解を招く言い方しないで下さいよぉぉぉおお!!」

何時ものようにからかわれて、何時ものようにふざけあう。
身体も完治とまでは行かなくて、傷も障害も残ってしまった所もあるけど、ここじゃそんな事気にすることは無い。
本当にここは楽園なんだろう、出来ればここに、皆を、フレイやサイ、アスランも連れて来たい。

「お~い、キラくーん!お姉さんがお弁当作ってきてやったぞー!食べろ~!」
「にーちゃーん!ごはんにしよーぜーーーーー!!!」

遠くから僕を呼ぶ声がする、カレンさんとネーヤだ。お昼の時間みたいだ。
何でかカレンさんは僕の事を気に入ってるみたいで、よく構ってくれる。お姉さんみたいでくすぐったい
ネーヤは最初から変わらない、元気な妹のような、それでもお姉さんみたいに頼れるところもあったりで。
最近は主に三人でご飯を食べたりしている、労働の間のご飯がこんなにおいしいものだとは知らなかった。
食べた後は日向ぼっこをしたり、ウトウトしたり。午後の時間までゆっくりと過ごすのだ。

「おや~?キラ君眠そうだねぇ~?お姉さんが膝枕してあげようか?」
「い、いや大丈夫ですよ!眠たくないですから!」
「そうか!じゃあにーちゃんあそべ!とりあえずこの、ひのついたライターをまるいちにち、けさないようにして…」
「いや、無理だよそれ!」
「膝が嫌なら別におっぱいでもいいのよ~?ねえ青少年、午後から仕事なんだから今の内に休んだ方がいいわよ?」
「その休むの響きが嫌な予感します!僕は休まなくて大丈夫です!」
「じゃあにーちゃん、このかえるをだな、いわのうえにおいて…」
「止めて!ネーヤ止めて!それも無理だから!!そんな効果音出ないから!!」

ゆっくりと過ごすのだ。

本当に楽園だった。自由と、心地よい不自由がない交ぜになった楽園だった。
本当に楽園だった。平和と、スパイスになるトラブルがちょっとある、そんな楽園だった。
本当に楽園だった。笑いと、多くの哀しみを背負った楽園だった。

…そう、本当に、楽園『だった』――

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「こっちです!早く!!」
                         「女、子どもが先だ!野郎はまだ入るな!!」
   「はぐれた奴はいないか!?皆ちゃんといるか!?」
                                        「あたしの事はいいから、この子だけは…お願い」
 「西にはもう誰もいない!早く隔壁を閉めろ!」
                                   「無理です!閉まりません!!壊れてます!!」
     「だったら直すんだよ!それでも無理なら人力で閉めるんだ!」
                                                 「ママ…ママ…!」

悲鳴と、焦りと、恐怖の三重奏が響いている。
ユニウスセブンの破壊と落下のニュースが届いて数分、島はパニックに陥っていた
元々情報が伝わるのが遅いところだ、ほぼリアルタイムで伝わってきたのは幸運だったと言えるだろう。

だが不運な事にこの島は小さなものであって、破片の直撃一発で消滅しかねないのだ
それでなくても、墜落の衝撃がもたらす津波は容易に島を飲み込んでしまうだろう、今、この島は未曾有の危機に喘いでいる。
そしてこの僕もまた然り、だが不思議な事に、修羅場を潜ってきたせいか頭はとても冷静だった。

「そこはロックがかかりません、これで溶接して下さい!」
「了解!すまんな兄ちゃん、指揮ってくれてありがとうよ!」

ユニウスセブン落下に伴い、高い可能性でこの島を津波が襲うことは想像がついた。
そこで避難をすべきなのだが、この島には高いところは無い。そこで地下施設へと避難することになったのだ。
我先に、と押しかけてきたせいで入り口近辺は大混乱に見舞われてしまったのである。
それに問題はそれだけではない、施設の耐久性にも不安点が残っていた。
元々軍の施設なのである程度は耐えられるだろうが、島を覆う規模の水害に耐えられる造りなのだろうか?
もしどこかに穴が開いていたら、そこから水が入り、後はアリの巣に水を入れたように…
そんな意見が出た時に、少数が地下に避難するのを止めた。
彼らはこの島で最も高台のあるところに避難するらしい、危険だ、と止めたのだが、行ってしまった。
もう僕らに出来る事は、無事を祈る事と、自分達の生存率を少しでも上げる事だけだった。
カレンさん率いる作業員部隊と共に、怪しい箇所を緊急補強する。
避難先を最も安全と思われるところに絞り、そこに被害が及ばないようにする。
最低限の食料だけは保管しておく、念のため酸素もキープしておく。
外を回り、逃げ遅れている人がいないか確認する。
すべき事はたくさんあった、それでも刻限は容赦なく近づいて来る、悪夢だ。

「見えた!降ってくる!!」
「やっぱり軍は間に合わなかったか、相変わらず役に立たないなどこも!」
「早く、僕達も避難を!」

出来る限りの事はやった、あとは僕達が入って、隔壁を閉めるだけ
助かるかどうかは分からない、神様なんていないけど、それでも祈らずにはいられなかった。

「ちょっと…なんで最後まで閉まらないのよ!」

ああ、やっぱり神様はいない
隔壁は故障していた、途中までしか閉まらなかった。

「この隔壁無しでももたないかな?」
「無理だな、これを除いたらあとはシャッターや扉しかない、このまま放置は出来ん」
「そうよね…まずいなあ。直撃や津波が来ないと良いんだけど…」

カレンさんと作業員の人が話している、確かに津波は来ないかもしれない。その可能性は充分にある。
でも楽観視は出来ない。最悪の事を考えて、それを打開する術を考えておく。これが生き残る鉄則だ。
だから、みんなで生き残るためにあえて、僕は走る!

「ちょっとキラ君!どこ行くの!?」
「隔壁の隙間をジンで塞ぎます!2人は避難してて下さい!」

少し離れた所に、作業用のジンが置いてあった。
それを使えば隔壁を力ずくで閉める事が出来るはずだ、最悪、身体で塞げばいい
足を引きずって、昔のように走れないけれど、それでも走る!
時間が無いんだ!早く、早く!もっと――!!
「ッツ…!うわっ!」

ピキッ という音。痛む足、傾く体。
目の前には地面がある、衝撃と痛み。転んだ。

「痛・・・こんなもの!!」

くじいたのかもしれない、足首が重く痛む。
もう走れない、と身体がサインを出す、脂汗がにじみ出る、諦めかける。
――その全てに反逆する!!

「このぉぉおお…!」

身体全体にある裂傷、それに伴う痛み・・・・・・無視。
感覚の無い左足、ほとんど動かない。右足首に鈍痛・・・・・・無視。
身体が警告を出す・・・・・・無視。
全てを無視して立ち上がる、そしてまた駆ける!

「くぅ・・・!」

倒れてもまた立ち上がる
それで、立ち上がれなくなったら、腕だけでも進めばいい、そんな覚悟をしていた
と、そこに、僕を覆うようにして影が現れた。

「ダメだよキラ君、腕は大事にしないと。特に君みたいな青少年はね」
「カレンさん!?」
「隔壁側は男連中に任せてきたよ、MS使うんなら腕は大事でしょ?もっと大事にしないとね~」
「そんな、避難しなかったんですか?」
「アレほっといて避難しても同じでしょ、さ、とっとと片付けるわよ。」

そう言うとカレンさんは、僕の肩と足の下に手を回した。
「よっこい…しょっと!さ、行くわよ~」
「うわ、うわぁぁあ!?」

持ち上げられた!?
驚いている暇も無く、全力疾走を始める。速い
これまでの速度とは比べ物にならない、人一人担いで出せる速度じゃない、何でこんな事を彼女は出来るのだろうか

「カレンさん、重くないんですか!?」
「大丈夫よ、コーディネーターだから!」
コーディネーターじゃあ、しょうがないな。
そんな事思っている間に到着しました。
「大丈夫?動かせる?」
「平気です、これくらい・・・!」

OSを起動、燃料の残量を確認、問題無し。
隔壁の閉鎖には、このままのジンではパワー不足の恐れがあるので、プログラムを書き換える必要がある。しかし悠長に書き換えている暇は無い。
右手で操縦し、左手で書き換え作業を開始する、単純な作業なのに、手が上手く動かないせいで上手くいかない

「キラ君はそっちに専念して、操縦は私が」
カレンさんが手を伸ばし、操縦桿を握り締めた。密着する形になる。
普段なら、柔らかさとか匂いとか気になるんだろうけど、この時は気にしてる暇は無かった。
「リミッター解除、バランス調整完了、ポンプ正常稼動確認。…よし、いける」
ジンの調整が完了するのと、目的地の到着はほぼ同時だった。

後は、意外と簡単に事が進んだ。
もう一度隔壁を開き、ジンを内部に入れ、もう一度閉める。
途中で止まるので、後はジンが力ずくで押して閉める。そこまで苦戦はしなかった。
作業が終わろうとした時に、地震が起こった、ユニウスセブンが落ちてきたのだ。
せめて島に直撃だけはしませんように、と祈りつつ、僕達は隔壁を閉めた、これでもう逃げることは出来ない。
ユニウスセブンの落下が収まるのと、津波の警戒が解かれるまで大体24時間、丸一日ここで過ごす事になる訳だ。
バリケード代わりにはなるだろうと、守り神のようにジンを隔壁に座らせる、そういえばこれ以外のジンは外に置きっぱなしだった。
一夜明けて、外に出た時世界はどうなっているのだろう?
僕達は本当に夜を明かす事が出来るのだろうか?外の高台にいる人々は無事だろうか?
皆が不安だった、暗闇の中、まるで儀式のように静まり返っていた。

「寝なよ、キラ君。お姉さんが膝枕してあげるからさ」
カレンさんが僕に話しかける、いつもの調子を装って。
彼女も不安なんだろう、少し震えているのが分かった。きっと何時ものようにして不安を打ち消そうとしているんだろう
それとも誰かと触れ合っていたいのかもしれない、それは僕も同じだった。
すみません、と一言かけて横になる、足はまだ痛んだ。
「皆やチャーリーさんはどこにいるんでしょうか…」
「これだけ人がいるからね、私もちょっと分かんない、でもきっと大丈夫よ。皆頑張ったもん」
「そうですね、…大丈夫ですよね」
「うん、大丈夫だよ、大丈夫。・・・お疲れ様。」
頭を撫でられる、不思議と不安だった心が幾分か和らいだ気がした。
それから僕達は言葉を交さず、ただ撫でられるだけの時間が過ぎていった。

そういえば、こうして頭を撫でられるのなんて何年ぶりだろう、いつの間にか、僕は意識を手放していた。
大きな揺れと音が来て、眼を覚ますまで。

24時間後、暗闇から開放された僕達の目に映ったのは、水浸しの荒野だった。
建物も、木も、MSも、ほとんどの物が無くなっていた中で、僕達のいた施設だけ無事だったのは奇跡と言えるだろう
でも僕達が築き上げてきた物は全て流されてしまっていた、高台にいた人々の命も含めて。

幸い僕の怪我はすぐに良くなった、一週間もすれば元気になっていたと思う。
その一週間のうちに島を離れる人々も多く、半分近くは船に乗ってどこかに行ってしまった。
島にあった船は全滅だったけど、どこかの救助隊が来てくれたのだ。定員オーバーになるまで乗せてくれたのには感謝している。
どうか、彼らが無事でありますように。そして戦争がこれ以上被害を産み出しませんように。
この時の僕には祈る事しか出来なかった。

第二章  終わり

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