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Lnamaria-IF_第07話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:18:22

 氏族会議は、結局大西洋連邦と同盟を結ぶという事で終わった。
当然カガリには納得のできる物ではなく、会議が終わるやいなや彼女は早足で部屋を出ていく。
その後ろを見送っていたユウナは、演劇じみた動作で首を振る。

「やれやれ、あれじゃあ国家元首としては失格だねぇ?」
「そう言うな。お飾りにすぎん小娘だ、所詮はその程度」

ウナトの辛辣な一言に、ユウナは笑みを浮かべて息を吐いた。他の氏族も部屋から出ていき、話を聞いていないのを見計らって問う。

「そして、僕たちの意思に従わないお飾りはいらない……と?」
「そういう事だ。情報のリークは完了している。後は動くのを待つだけだ。
 奴らの性格なら……予想通りに動く。お前はお前の動きをしておけ」
「了解です、父上。―――全てはセイラン家のために」

詐欺師の笑みを浮かべて、ユウナはその場から歩き去っていく。
その様子を見ながら、ウナトは一人呟いた。

「新たなるオーブの守り、村雨……ザフトを討つ事になるその守り、ザフトの力で完成させてもらうとしようか」

 ミネルバが入港して6時間が経つ。ルナマリアとシンは未だオーブ軍施設の医務室にいた。
既に太陽も落ちかかっているにも関わらず、二人はまだ艦に戻されていない。焦燥感を募らせだした時、突然扉が開いた。

「やぁ、二人とも。元気だったな?」

そう明るい様子で言ったのはユウナだった。
胡散臭い目で―――更にルナマリアは敵意も込めて―――見つめる二人だったが、口には出さない。
ユウナの脇には、マシンガンを携行している兵士がいた。

「何の用でしょうか?」
「なに、一つだけ『お願い』があってね。それが終わったら君たちを艦に戻そうと思ってるのさ。
 立てるかい、シン君。車椅子が必要かな?」

できるだけ丁重に聞いたルナマリアだったが、友達に話しかけるかのようなユウナの様子は全く変わらない。
そんなユウナに、シンは多少苛つきながらもはっきりと答えた。

「必要ありません、立てます」
「ふぅん、それはよかった。じゃ、ついてきてくれ」

そう言うや否や、ユウナは部屋を出ていく。同時に随行していた兵士達がルナマリアとシンの脇に移動した。その意図ははっきりしている。
下手な動きをすれば撃つ―――

「こいつら……」
「シン!」
「分かってるさ!」

怒りを露わにしたシンだったが、銃を持つ兵士に喧嘩を売るほど馬鹿ではない。吐き捨てた後、早足でユウナの後を追っていった。
思わずルナマリアはため息を吐いたが、彼女もシンの行動を理解できないわけでもない。脇に立っている兵士に怒りを込めて一瞥をくれた後、確かな足取りで後を追った。

 そうして歩いていった先は、モビルスーツ格納庫。そこで二人は意外な人物を見かけた。

「タリア艦長!」
「久しぶり……というには、時間が経っていないかしらね」
「………」

思わず声を上げたルナマリアを見て、タリアは安心した声を出した。
しかし、タリアの表情にはまだ周囲に対する警戒の色が残っている。
それは黙っているシンも同様だ。シンの場合は、タリアの脇にもいる兵士達への反感が強かったが。
そんな表情に全く気付いていないのかのように、ユウナは明るい声で話し出した。

「さて、みんな揃ったところみたいだね。では、『お願い』を始めさせてもらおうか。
 タリア艦長。補給物資が必要だと父上に言ったらしいけど、それだけでいいのかい?」
「……おっしゃる意味が分かりかねますが」
「なあに、簡単さ。修理までこっちでやってあげようってわけだよ。
 ―――『お願い』を聞いてくれたら、の話だけどね」

言うと同時に、ユウナの笑みが詐欺師じみた物に変わる。
それが合図だったのかのように、周りの兵士が銃を構えた。

「簡単な『お願い』だよ。ミネルバとかいう艦とこの新型、データを渡してくれると助かるんだけどね?」

 ユウナの口から発せられたのは、口調も内容もこれ以上なく挑発的な言葉だった。
元々シンもルナマリアも我慢強いほうではない。ただ、対応の仕方が違うだけだ。

「なんですって、この……」
「てめぇ!」
「やめなさい、二人とも」

ルナマリアが思わず口を開きシンが一歩踏み出したその瞬間、タリアの静かな、しかしはっきりとした声が響く。
振り返った二人に、タリアは目で言葉を伝えた――動いてはいけないという命令を。
とっさに反論する言葉を探す二人だったが、その前に場違いな拍手が響きだした。

「いやぁ、さすがは新鋭艦の艦長だ。自分の立場がわかっているらしいねぇ?」

演劇じみた、大げさな様子で言うユウナ。
もっとも、その演劇じみた様子は彼だけの物だ。周りの兵士には全くない。
だからこそ、ユウナの態度は余計挑発的に映るのだが。
苛立ちを押し殺し、タリアは静かに言った。

「なぜわざわざ私達に許可を求めるのですか?
 データが欲しいのなら、もっと単純かつ簡単な手段があると思われますが」

下手をすれば命取りになりかねない、タリアの問い。
実際兵士の幾人かは眉を吊り上げたし、シンもルナマリアも驚いた様子でタリアを見つめたが、言われた当人であるユウナの表情には変化がない。
咎めることもなく、談笑するかのように口を開く。

「ん~、それはあくまで『最終手段』さ。
 どうせやるならスマートな方がいいと思わないかい?」

相変わらずの様子でユウナは答えたが、タリアはその視線が一瞬鋭いものになったのを見逃さなかった。
明らかにこの男、他に考えがある。その考えが、自分達に利益をもたらす事を祈るしかない――
タリアは、渋面を作りながらも口を開いた。

「……指示に従います」
「……ッ!」
「艦長!?」

シンとルナマリアは非難するような視線をタリアに向けたが、タリアはそれを完全に無視して正面を見つめた。
その先には、勝ち誇った笑みを浮かべたユウナが立っている。

「物分りがよくて非常に助かるよ。
 それじゃあ、三時間後までにデータを送ってくれたまえ。確認しだい補給と修理を開始させてもらうよ……あ、そうそう」

いったんは背を見せて歩き出したユウナだったが、ふと足を止めてシンの方をみやり、こう告げた。

「パイロット二人は残って、今からここでデータのコピーを始めてくれるとありがたいねぇ。
 そっちとしてもいちいち整備士を説得する手間が省けていいだろう?」

そう言って、返事も聞かずにユウナは歩き去っていく。
断るなどという馬鹿なことはしまい――その背中がそう告げている。
シンとルナマリアにできることは、その背中をにらみ付ける事だけだった。

 オーブの、とある海岸。
その周辺は都市部から離れていて、建物といえば孤児院が一つ存在するだけ。
道路は整備されているものの、人通りもなく交通量も皆無に等しい。
そんな場所を、車が一台通っていく。乗っているのはアスラン・ザラ。
彼の車が孤児院の前に止まると、庭で遊んでいた子供たちが騒ぎ出した。

「あー、アスラン!」
「違うよ、アレックスだよ!」
「アスランだよ!」
「アレックス!」
「こらこら、ジュンもトモエもそんな事で喧嘩しちゃだめだよ」

言い合いを始めた子供たちの間に入ったオーブ軍の制服を着た青年――というには少し幼いところがあるが――に、アスランは親しげな笑みを浮かべて話しかけた。

「久しぶりだな、キラ。ずいぶん帰りが早いみたいだが」
「僕もさっき着いたばっかりだけどね。なんでもムラサメに新しいデータが入るから、それの調整をするまで実機テストはお休みだってさ」

アスランに笑みを返しながら答えたのはキラ・ヤマト三尉。
三尉というのはオーブ独特の階級で連合で言う少尉、つまり小隊長クラスの人間なのだが、彼からは人を率いる者としての威厳が感じられない。
いや、そもそも誰か彼を知らない人物が見た時、軍人と言われても信じないだろう。
どう考えても、どこかの学生という方がしっくりくる。

「君こそここに来るだけでも珍しいのに、平日にわざわざ来るなんてどうしたの?」
「ああ……少しな。立ち話もなんだし、中に入らないか。……ラクスにも話したいことだし」
「……うん、わかった」

アスランの声色に何かを感じたキラの表情に、真剣な物が映る。それは激戦をくぐり抜いた戦士の顔だ。
キラはもう一度子供たちに笑顔を向けた後、玄関へ歩き出した。
中に入ったアスラン達を出迎えたのは、独特の雰囲気を持つ桃色の髪の少女――ラクス・クラインだった。
彼女は前大戦を終結させた「三隻同盟」の中心人物ではあるが、その過程で行った数々の行動は法の上では許されざる物であったのも事実だ。
結果として、三隻同盟のメンバーのほとんどは姿を隠し、ひっそりと生きることを余儀なくされた。
とはいえ、未だ世界情勢は不安定なことも事実だ。そのためいざという時に動けるよう、彼女達はあらゆるルートから情報を集めている。
そのためアスランの一言に、ラクスもキラもあまり驚いた様子は見せなかった。

「……プラントへ、ですか」
「ああ。ユニウスセブンを落とした奴らの事は?」
「知ってるよ。ザラ派のテロリストだって劾さんが言ってた」
                                   
劾とは有名な傭兵部隊であるサーペントテールの部隊長・叢雲劾のことだ。
バルドフェルドやダコスタと深い仲らしく、キラやアスランも直接会ったことがある。
現在は、傭兵だからこそ手に入る最新情報を極秘裏に流してもらっていた。

「奴らの一人が言っていたよ……コーディネイターにとって一番正しい道は父上の取った道だってな」
「……」
「おかしな話だ。父上はただ母上の死と向き合えなくて、あんな道を取っただけだっていうのに」

そこまで言った後、いったんアスランは言葉を切ってラクスが淹れた紅茶を飲み干した。
その表情はまるでブラックコーヒーを飲んだかのように苦々しい。

「だけど、ああやって未だに父の言葉に踊らされている人もいる。
 議長と話して、俺でも何か手伝えることがあるなら、俺はそれをしたい。
 アスラン・ザラとしてでもアレックスとしてでも……な」

そういうアスランの表情には、決然としたものがある。
キラは止める気にはなれなかったが、ラクスには気がかりなことがあった。

「一つだけ、よろしいでしょうか。カガリさんにはこのことをおっしゃったのですか?」

ラクスの質問に、アスランは表情を曇らせてぽつりと言った。

「あいにくだけど、言えそうにないんだ。代わりにキラ、お前が言っておいてくれるか?」
「え? なんで?」
「今日付けでクビになったんだ。職権乱用の罰でな。まぁ、だからこんな決意をしたんだけど……」
「それは本当ですか!?」

アスランの言葉を、突然ラクスが遮った。その表情には驚きの表情がある。
あまりに彼女らしくないその様子に、キラもアスランも驚くしかない。
先に驚きから立ち直ったキラが困惑しながら問いかけた。

「どうしたのさラクス、そんな声出して?」
「少し信憑性が薄い所からの情報だったのでカガリさんにだけお話ししていましたが……
 実は、セイラン家にカガリさんを殺害しよう、という動きがあるらしいのです」
「えっ!?」
「なっ!?」

今回は、驚きの声を上げたのはキラとアスランの方だった。
二人を見やってから、ラクスはゆっくりと続ける。

「しかし、もし今回のアスランの人事がセイラン家の手によるものだとすれば……
 この情報の信憑性は高いといえます。アスランが身近にいるのといないのとでは全く違いますから」

「確かにそうだ……俺はオーブに残ったほうがいいみたいだな」

アスランは考え込みながら言ったが、その言葉にラクスは首を振った。

「いえ、アスランはこのままプラントに行ってください。もうチケットは取ってしまったのでしょう?」
「うん、まあ……」
「ならば、ここで急に取りやめるのは不自然な動きとして映ってしまいますわ。下手をすれば、私達が感づいたことを知られかねません。
 アスランはそのままプラントへ。カガリさんの事は私達が対処いたします」
「だが……」
「君の気持ちも分かるけど、ラクスの言うとおりだ。
 僕もオーブ軍にいるし、劾さんも今やってる任務が終わったら地球に来るらしいからなんとかなるよ」
「……」

確かに、アスランも理屈の上では分かっている。
例え残ったところでアスランにできることは何もない。
クビになった以上カガリの側にいることはできないし、もしこれがセイラン家の仕業だとすれば今も動きを探られているだろう。
下手に動けば、事態を悪化させるだけだ。しかし……

(理屈では分かってる……でも、納得できない)
 
カガリに危機が迫っているかもしれないというのに、自分は何もできないというもどかしさ。
本当に自分にできることはないのか――必死にアスランは頭の中でそれを考える。だが、いくら考えてもそれは思い当たらない。

『力があるのに使えない、認められない……それじゃあ意味がない』

アスランの頭に思いついたのはシンの言葉――プラントへ行くことを後押しした言葉。
今の彼には、恐ろしいほどに説得力があるように感じられた。

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