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MH-seed-プロローグ

Last-modified: 2011-06-07 (火) 17:29:10
 

「い…痛ぅっ……」
シン・アスカは、頬にそよそよと吹き付ける、
涼やかな風の心地よさによってその瞼を開けた。
最初に目の中に入ってきたのは、眩しさしか感じない太陽の光。
そしてその日の光に照らされて美しく輝く、緑の葉っぱ達であった。
しかし、それらを認識する間は彼には与えられず、彼の全身を痛みが襲う。
至る所を打ち付けてしまっていたのだろう、各所で打ち身のズキズキとした感覚がある。
シンは、それを我慢しながらゆっくりと身体を起こした。
痛む頭に手を当てて、再び目を開けて周囲の状況を確認しようと、
もう片方の手で地を付いた瞬間、彼の脳を激しい“違和感”が支配する。
〈 ちょっと待てよ? 俺、確かデスティニーに乗って……!? 〉
記憶を辿って、自分は気絶するまで確かに、
月面でレクイエムを護るためにデスティニーを駆り、
かつての仲間であった裏切り者、アスラン・ザラと戦い、敗北した。
そこまではハッキリと覚えているのだが、そこから先はうろ覚えだ。
目を覚ましたのなら自分はそのデスティニーのコクピットの中、
放り出されたのだとしても、月面にいなければならないはずである。
 しかし、今自分の手の下にあるのは何だ!?
 自分の周りに広がっているこの森は何なんだ!?
シンは、グニッとした何かを手で押さえつけていた。
それが地に生えた何かだと知る前に、彼は咄嗟にそれを引きちぎっていた。
「……なんだコレ? 青いキノコ?」
彼の手の中にあったのは、少し大きめで鮮やかなブルーのキノコであった。
ふと、周りを見渡してみる。少なくとも宇宙だとか月面でないことは、馬鹿でも解る。
シンは、デスティニーのコクピットではなく、何処なのかも解らない森の中にいた。
正確に言えば、森の中でも広々とした場所で、日当たりと湿気がちょうど良い場所である。
シンは、ヘルメットの通信装置の電源を入れてみる。
しかし反応は返ってこず、ただノイズだけが流れている状態であった。
「くそっ、どうなってるんだよ!」
シンは悪態を付いてヘルメットを投げ捨てた。大きく、深呼吸してみる。
空気は悪くないどころか澄み切っており、初めて味わう美味しい空気であった。
渓流の軽やかな音色も、彼の心を落ち着けるのに一役買って、彼は立ち上がる。
シンはこの広い場所に敵がいないか見渡してみる。
幸いなことに、ZAFT支給品のナイフと拳銃は無事だった。
自分が何故このような森にいるのか定かではないが、敵がここにいないとは限らない。
ふと、人間ではない別の何かが、彼の視界に入ってきた。
シカだ、と最初シンは思ったが、プラントやオーブの図鑑で見たシカとは微妙に違う。
雄と雌両方いて、それらが群を成して草を食べていた。
ほのぼのとした動物番組みたいな絵面であったが、シンが注目したのはあれらではなく、
シカ達の内数頭がフンフンと臭いを嗅いでいるものであった。
それが何であるか脳が理解したとき、シンは思わず叫び駆けだしていた。
「……ルナ! ……レイ!」
ぐったりと力無く倒れていたのは、二人のノーマルスーツを着た人間。
自分の大切な仲間であるルナマリア・ホークと、レイ・ザ・バレルであった。
シンは二人の臭いを嗅いでいたシカ数頭を追い払うと、
二人の首筋に手を当てて、脈がしっかりと残っている事に安堵しつつも、
意識がないことに焦り、二人の頬を血相を変えて叩く。
「おい、起きてくれよ!」
「…ぅ…ぅうん?」
「ぐぅ……?」
シンと同じように痛みがあったのだろう。
少し顔をしかめた二人は、うっすらと目を開けてシンを視認すると、
レイは驚いた表情を見せ、ルナマリアは歓喜の表情を浮かべる。
シンは驚かないようにと二人に言い聞かせて、二人もゆっくりと周囲の状況を確認する。
「何で!? あたし達、レクイエムを護って戦ってたよね?」
「そうなんだけど、俺がその……アスランにやられたあたりから覚えて無くて」
「俺は、メサイアでギル…議長と一緒に瓦礫に呑み込まれた時からだな」
「レイもそうだったの? あたしは、多分シンと一緒だと思う。
 デスティニーがレクイエムの方に流れちゃって、アスランと二人で追っかけて、
 レクイエムが爆発した……と思ったらそれっきり」
シンは、あのアスランが自分を心配していたのだと知ると、
妙にむずがゆく悔しさと何かが入り交じった、複雑な感情がわき上がる。
だが、そんな事を気にしている場合では無いことも承知していた。
レイが早速通信を試みようとし、シンは繋がらないと告げた。
救助を呼ぼうにも、通信装置の電波が届かないのか、
そもそも電波を受信する所そのものが無くなってしまったのか、
この訳の解らない樹林を抜けて確認しなければならないのである。
不思議と三人はパニック状態にはならずに済んでいた。一歩手前であるが。
生存本能がそうして判断能力を失うことを防いでいるのかは知らない。
しかし、これは幸運と言って良いはずである。
三人は、とりあえず持ち物の確認を行った。
・ZAFT支給品の拳銃とナイフ
・宇宙に放り出された時用の携帯酸素
・非常用宇宙食『レーション・ブリティッシュ風味』一日分
正直言って、ホイッスルや発煙筒等が欲しい所であるが、
ノーマルスーツに邪魔にならない程度で携行できたのはこれくらいだ。
心許ない状態であったが、ナイフと食料があるだけでもありがたかった。
「ここにずっと居るわけにはいかない、どこか人里を探そう」
「人里って言ってもここって、月面都市の中とかじゃないの?
 ダイダロス基地のブロックの一つとかさ」
「こんなに凝った森が月面都市にあるわけない無いだろ、ルナ。
 見ろよ、あの太陽の光。本物以外の何者でもないぞ」
鬱蒼と生い茂る木々の間を、ナイフで枝を切り払いながら進んで行く。
近くに川があるようで、勢いよく流れる水の音をBGMに、
三人はとりあえず水のある所へ行こうという事になった。
水のあるところには必ず、生き物が集まってくる。
人間が現れないとは限らないという一縷の望みが、三人の頭をよぎったのである。
身体を傷つけないようノーマルスーツは来たままであったが、それもだんだん邪魔になってくる。
機密性が高く気温調整能力のある宇宙服と言っても、
電気を供給出来ず長時間放置すればただの蒸し風呂だ。
だが鋭い木々の枝葉の存在もあって脱ぐこともままならず、
汗だくになりながら、三人はやっとの事で渓流の水辺に出ることが出来た。
「水だぁっ!」
これ以上何かを考える余裕は三人にはなかった。
ノーマルスーツの上半身を脱ぎ、川の水で一度手や顔の汗を洗い流す。
そして両手で器を作り、水をすくってすすり込み、喉の渇きを潤した。
こうも水は上手いものなのか! と、三人の思考はその時シンクロし、
太陽光で暖められた石の上に身を横たえる。
この時になって、ようやく三人は自分達が消耗しきっている事に気付く。
戦闘の疲れが残ったまま、この森にいたらしい。
冷静になって考えてみようとするも、落ち着けば落ち着くほどこの状況は理解できなかった。
「なぁ、どうして俺達こんな森の中に居るんだろうな?」
「私が聞きたいわよ、そんな事……」
「『飛ばされた』等と、SFじゃあるまいしあり得ないが……」
ハァ…とため息までもシンクロし、
三人は一度考えるのを止めるべきだという点では一致した。
これ以上考え続ければ脳みそが沸騰してしまいそうだった。
その時、ガサガサッと、後ろの茂みで何かが動いた。
三人は跳ね起きて、拳銃をホルスターから取り出し構える。
耳を、すませる。一つだけではない。自分達三人を、何かが囲んでいる。
お互いの背を護るように、三人は背中を向かい合わせて待ちかまえる。
少し時間が流れて、シンのこめかみを一粒汗が流れ落ちたとき、
黒い影が、茂みから飛び出してきた。
三人は、銃口を其方に向けその存在を視界に入れたとき、思考が止まった。
「何だ、あれ?」
シンの言葉が、全てを表していたと言っても過言ではなかった。
薄紫やサーモンピンクを基調とした爬虫類が、そこにいた。
いや、爬虫類は爬虫類でも『トカゲ』等という陳腐なものでなく、
かつて人類が地球に搭乗する前地球を支配していた『恐竜』という生物によく似ている。
小さい頃、映画でよく見た小型で敏捷な肉食恐竜にそっくりな生物が目の前に現れたのだ。
「何って、アレ……恐竜?」
「いや、まさか。そんなはずは……」
小型の恐竜は、此方を視認するや金切り声を上げ、
同時に茂みの中から、次々と同型の恐竜が姿を現し始める。
数は、考えたくなかった。多分、八頭程であったろう。
仲間が登場したことで自身を付けたのか、そのうち一頭が、
シンめがけて飛びかからんと駆けだして、シンは咄嗟に銃弾を放っていた。
弾丸は真っ直ぐ恐竜の眉間に吸い込まれ、
ソイツは力を失い地べたに落下すると、そのまま動かなくなった。
「やったの!?」
「いや、まだだ……」
ルナは一頭やられればきっと群は逃げるだろうと思ったのか、
そう声を上げるが、レイは冷静だった。シンは、黙して群を見やっている。
一頭やられただけでは此奴等は退かないと、すぐに悟ることとなった。
群はますますヒートアップした様子を見せ始めたのだ。
「ルナ、レイ……」
「ああ……」「ええ……」

 

「「「 逃げよう! 」」」

 

三人は踵を返し、全速力で下流の方向へ駆けだした。
無論奴らも黙ってはおらず、驚異的な敏捷性で彼らを追いかけ始める。
人間 対 肉食動物。その差は歴然であり、距離は瞬く間に詰められる。
時折振り返っては、一頭一頭に銃弾を撃ち込んで、時には外すことを繰り返す。
しかし、総量が減ったような感覚が感じられない。
一頭仕留めればまた一頭、そして仕留めてはまた一頭現れる。
「ちくしょう、これじゃきりがない!」
銃弾を真っ先に使い切ったのはシンであった。
ただのウェイトと化した拳銃を捨てナイフに持ち替え、
時折追いついて横から飛びつこうとする奴を切り下げる。
レイは、一発一発を確実に奴らに撃ち込んでいたが、其方もいつ弾が尽きるのは時間の問題だ。
ルナも拳銃で応戦するも、しばらくしてシン同様に使い切り、ナイフに持ち替えていた。
こうして必死に逃げている中で、三人は頭の冷静な部分で、
どうして自分達がこんな目に遭うのかと、ずっと考えていた。
何やら訳の解らない場所に放り込まれた事をゆっくり考える暇も与えられずに、
こうやって肉食生物に追いかけられなければならないのは何故だ?
やがてレイの銃も弾丸が付き、所々でナイフで切り払い、
またはかぎ爪を引っかけられ傷を負いながら、下流の広い場所に出た。
細い道だから囲まれずに済んでいたものの、体力も限界に近かった三人は、
肉食恐竜達に包囲される形となってしまった。
ハァハァと荒く息を吐きながら三人は、
自分達の命がここで尽きようとしているのだと自覚する。
もっと、やりたいことはあったなぁと、ふと考えた。
死にたくない。そう思いつつも、もう無駄なのだと割り切っている自分もいた。
一頭が、身を屈めて、宙へと飛び上がる。
……終わった。そう考え三人は目をつぶった。
その時だった。
ビュゥンと、空気を切り裂く音がしたと思った瞬間、奇声が聞こえた。
目の前にいた恐竜の断末魔であったと気付いたのは、
何やらナイフらしき物体が首筋に突き刺さったソイツの死体を見たときであった。
「無事か!」
聞き慣れた声が、三人の耳に入った。
広場を見下ろせる岩の上に、男が立っている。
三人も恐竜たちも、男の方へと目をやった。
初見で解ったのは、鎧を身に纏っていることだ。
一昔前のヨーロッパで見られるようなアーマーと、
ブルーを基調とした爬虫類の鱗と皮を貼り合わせた外観。
ちょうど、周りを囲んでいる恐竜の肌を青くすればあの感じになるであろう。
背中には、強大な鋼鉄製の剣を背負っており、少し時代外れな雰囲気があったものの、
日の光に照らされた顔を、三人が忘れているはずもなかった。
「嘘……何で?」
「貴方は……死んだはずだ……」
仲間になったと思った矢先に、ガイアの手で海の藻屑となった男。
明るいその性格は、ミネルバに不可欠だったと、失って気が付かせてくれた男。
「手ぇ貸すか? ミネルバのヒヨッコ共……」
「……ハイネ!」
ハイネ・ヴェステンフルスが、そこに立っていた。

 

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