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Mercenary’s Memory_第01話

Last-modified: 2008-03-13 (木) 01:07:49

1 旅立ち、再び

 

緑が香る町、クレスタの入り口に、ちょっとした人だかりができていた。どうやら旅立つ者への見送りらしい。
「それじゃ、行ってくるよ。」
 赤い軍服を着込んだ黒髪の少年、シンは赤い瞳を金髪のハリネズミ、カイル・デュナミスに向けつつ言う。シンの背には皮袋がある。寝袋や非常食などが詰まっているのだ。
「一人で大丈夫なのかい? 俺もついていこうか?」
 未だ記憶が戻りきっていないカイルが、心配そうな瞳を向けた。しかし、シンは明るい顔で応じる。
「問題ないよ。カイルにはやることがあるはずだ。俺たちとの戦いの記憶を取り戻してくれないと。そのためにリアラと一緒に話をして……そうだ、二人で狩りをするっていうのもいいな。」
 薄手のピンク色をしたワンピースを身に着けた、濃い茶色の髪を持つ少女が頬を赤らめたらしい。彼女がリアラである。シンと同じく、フォルトゥナによって生み出された存在であったが、時の吹き溜まりから脱出してからは、神の化身としての力は失った。とはいえ、高生態エネルギー蓄積物質、レンズを用いた晶術は十分に使えるので、狩りには参加できるだろう。
「からかうなよ、シン。俺さ、記憶が戻ったら、旅の内容を本にしてみようと思う。売れるかどうかはわかんないけど、でも、君の言う通りの旅だとするなら、皆に知ってもらいたいんだ。俺たちが目指したものが何だったのかをさ。」
 シンはカイルに感心しながら口を開く。カイルはリアラ、シンと再会したラグナ遺跡からクレスタに戻る道すがら、自分たちが成し遂げたことを二人から聞いていた。最初は信じられないと思っていた。
だが、次第に二人の話に込められた思想が、自分が生きようと思う道と全く一致していたことに気づいた。そして、共感したのだった。
「悪くないな、そういうの。まあ、名前は適当に変えておいてくれ。名前まで同じだったら『何だ、この自己投影自己満足の話は!』って言われかねないからな。」
「そうだね、そうしよう。でも、『この話はフィクションです。』なんて書けないよ。嘘になるし。」
「そこは飛ばしておいてかまわないだろう。どうせ俺たちが成し遂げたことの証拠なんかどこにもないんだ。フィクションかどうかまで書かなければいい。」
 歴史が元通りになる過程で、エルレインによる歴史の改変の残滓どころか、その存在した記憶ですら、人々の記憶から完全に消え去ってしまっていた。エルレインによって復活させられたバルバトス・ゲーティアが引き起こした、四英雄が一人、スタン・エルロンの暗殺もなかったことになっていた。
つまり、カイルたち7人の苦労の証拠は全て消え去っている。この状態で無理に「本当のことだ」と主張すれば、おかしな目で見られることだろう。それを示唆したのだ。
「まあいいや。こんなことしてたら、いつまで経ってもシンは出発できないしね。そろそろ、いってらっしゃいだな。」
「そうね、シン。ハロルド探し、頑張ってね。」
「二人とも、ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ。」
 シンは軽く拳を振り上げながらクレスタから出発していった。入れ替わるように、カイルとリアラの背後から誰かが息を切らせて駆けてくる。
「レオーネ、どうしたんだ?」
 レオーネと呼ばれたのは、黒いショートカットの髪と、カイルとそっくりな青い瞳を持つ少女だった。モスグリーンのワンピースを身に着けている。年の頃13歳くらいであろうか。軽く肩が上下している。余程急いでいたのだろう。
「ねえ、兄さん。今の人、どうしたの?」
「うん、俺の友達。大事な人を探すために旅に出たんだ。」
 カイルは優しげな瞳をレオーネに向けている。二人の間柄は、実の兄と妹である。
この名前は両親であるスタンとルーティが「黒い髪の子供が生まれたら、リオンにちなんだ名前にしよう」という趣旨でつけられた。リオンはルーティの弟であり、敵対せざるを得なくなったがために死なせてしまった。そのため、せめて名前だけでも、ということらしい。
 レオーネはシンが去っていったクレスタの外を見て呟いた。
「……全く、灯台下暗しとはよく言ったものね。まあ、シンのことだからここに戻ってくるでしょうし、気長に待っててあげるわ。」
 カイルとリアラはぎょっとした目でレオーネを見つめていた。

 
 

 一方のシンは、クレスタから西にあるダリルシェイドに向かっていた。ハロルドは自分の事を捕まえると言っていた。流石の天才科学者も、光速に近い速度で移動するような乗り物でも作らない限りは、肉体ごと1000年という時間を越えることはできまい。文献によれば、ハロルドがそのような装置を作った形跡はなかった。つまり、姿形が変わっている可能性がある。
 しかし、性格まで変わることはないだろう、とシンは見当をつけていた。レンズ技術の発明が大好きな人物で、変わり者を探せばいい。それに、ハロルドのことである。男にはなってはいないはずだ。その辺りは流石に調整可能だろうと信じたかった。
「多分……大丈夫だとは思うけど。まあ、何とかなるだろう。でも、路銀はどうするかな……。」
 世界中を旅して回る以上、路銀は絶対不可欠なものとなる。陸路だけでは限界がある。とりあえずある程度の金額をカイルから借りはしたものの、十分な額とはいえなかった。
歴史が戻る以前ならば、ハロルドが開発した超高速航空機、イクシフォスラーに乗ることもできたが、あれはファンダリア王国が管理している。カイルとのつても当てにならない以上はイクシフォスラーが使えるとは思えなかった。
「今の俺にできることといえば、やっぱりあれしかないかなあ……。」
 今のシンには、荒事で稼ぐ選択肢しか残されていなかった。目つきも口も悪い彼には接客が向いているとは思えなかった。料理も適当にしかできない。傭兵稼業がちょうどよいだろう。ハロルドから貰った剣、アロンダイトもある。
「問題は……これだよな。」
 彼は左手のガントレットの甲を見た。8つの小型レンズが円を為して配されている。その中央には窪みがある。この窪みにはフォルトゥナの力が詰まった結晶体が嵌め込まれていたのだが、その結晶はこの世界に戻る際に壊れてしまった。
 シンはかつての乗機であるインパルスとデスティニーの能力をベースにした戦闘スタイルを有していた。それは偏にフォルトゥナの力によるものであった。しかし、それが失われた以上、それまでの戦闘スタイルは全て使用できないだろう。
「まあ、いいか。元々フォルトゥナの力を放棄するつもりだったし。剣を振り回したり間合い取ったりした経験はあるわけだから、どうにかなるだろう。」
 前向きに生きていこうと、シンは歴史を巡る戦いの中で誓った。それを覆すような真似はできない。今までの戦い全てを否定するわけにはいかないのだ。自分たちを信じて消滅したジューダスに申し開きできない。
「まずはダリルシェイドで仕事探しから始めないと。カイルに借金返してからが本番だな。」
 道中モンスターが襲うも、次から次へと斬り倒していく。技など使わなかった。使えなかった。自らに舌打ちしながらも、彼はダリルシェイドに向かった。

 
 

 ダリルシェイドは相変わらずの荒れようだった。18年前に起きた災厄の影響で、建造物が土砂に埋もれたまま押しつぶされている。18年も放置したままなのだ。これ以上誰かが手を加えようともしないらしい。
「とはいえ、いい加減復興作業を始めないと都市として成り立たなくなるぞ。どこまで無気力なんだ、この街は。」
 テントで商売をしている者もいるようだが、しっかり建築した店舗もなく、住居もない。これまで18年間、ずっとこの調子らしい。これでは仕事にありつけそうにない。シンはそう思った。
 しかし、その彼の目に一枚の張り紙が映った。
「復興作業の警護募集。近々アタモニ神団によって本格的な土砂の撤去作業を行います。20日間の見張り、3交代制。治癒晶術師、食事あり、テントをお貸しします。一日当たり2000ガルド。ただし、武器は自己負担でお願いします。」
 この手の事業には大規模投資が行われるため、盗賊に襲撃されることも少なくない。そのための護衛であろう。さらに、隣には似たような内容が書かれた紙が張ってある。こちらは土砂の撤去作業の人員募集要項らしい。
 シンは右手で頭をかきながらぼやいた。
「遅すぎる復興作業だな。しかし、一石を投じるくらいにはなるはずだ。」
 傭兵稼業を一生の仕事にする気はないが、と彼は思いながら、連絡先である旧ヒューゴ・ジルクリスト邸、現在のアタモニ神団ダリルシェイド支部へと足を向けた。
 その途中で屈強な男たちが集まっているのをシンは見た。どうやらアタモニ神団も本気らしい。ダリルシェイドの荒廃ぶりは目も当てられない。アタモニ神団としても放置できないのだろう。
「まあ、神団だろうがなんだろうが、最終的に儲けるのが目的だからな。宗教団体なんてそんなもんだからな……。」
 ダリルシェイド復興は神団としてもうまみのある話だ。現在のセインガルドの首都はアイグレッテであり、大量の物資を必要とする。ダリルシェイドはアイグレッテと、セインガルド有数の穀倉地帯であるクレスタの中間地点にあり、中継基地としてはもってこいなのだ。
 現在、クレスタからの穀物の輸送途中の休憩はダリルシェイド近郊にテントを張って行っており、治安や穀物に対するダメージを考えるとあまり好ましくない。ダリルシェイドを整備すればアイグレッテに輸送できる穀物の量が多くなる。そして、穀物の量が増えればアイグレッテの人口も増やすことができる。そうすれば信者の寄進も増えるというわけだ。慈善事業には必ず裏があるものだ。
「いいさ、それが誰かのためになるのなら。」
 正義という言葉を振りかざすのは好きではなかったが、結果的に誰かのためになることをシンはしたかった。それがヒーローごっこと言われようと構わない。その程度の汚名は甘んじて受けよう。彼はそう思った。

 
 

 アタモニ神団ダリルシェイド支部には、既に多くの男たちが集まっていた。大半は作業員のようだが、中には剣や鎗、斧や弓矢を携えた傭兵も見受けられる。
「おっと、失礼。」
 屈強な男たちと並ぶと、シンは異様なほど貧相な体格だ。危うく突き飛ばされそうになり、何とかバランスを保って転倒だけは免れた。
 神団側からの説明も終わり、傭兵部隊の配置を決める段になった。傭兵部隊を指揮するのは神殿騎士団のメンバーである、ウィーグラク・フォムフという人物である。誠実そうな顔と金と茶の中間のような髪色を持っており、瞳は琥珀色だった。
「さて、傭兵諸君。私は君たちの指揮に当たるウィーグラクである。君たちの任務は20日間ダリルシェイドの警護と、アイグレッテからの物資輸送部隊の護衛である。人員を割り振るが、異論がある者は後で私に直接言うように。」
 ウィーグラクの指示により、シンは市街地の警護に当たることになった。最も襲撃される確率の低い場所だ。自分の体格と技量を考えれば当然とも言える。別にシンには不満はなかった。
 傭兵部隊と神殿騎士団の総勢は1000人と少ない。アイグレッテの警備を怠ることができないこと、そしてダリルシェイドで人員を集めることができなかったためだ。
「この状況で大規模襲撃されたらアウトだぞ。せめて技が使えたらな……。」
 シンの不安は異様なほど的中する。それは今度も例外ではなかった。