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R-18_Abe-SeedDestiny_安部高和_12

Last-modified: 2007-12-08 (土) 05:57:14

ジブラルタル、ザフト軍基地。
デュランダル議長に連れられて、シンとレイとアスランは格納庫に向かっていた。
先日のベルリンでの戦闘で、シンとアスランはMSを失っていた。インパルスはダルマ状態なので
修理に時間が掛かり、アスランのガズウートに至っては元々動いていたのが奇跡と言えるような
シロモノだった。レイはまぁ、話の流れで。白ザク地味だし。
「これがキミ達の新たな刃だ」
カッ、と格納庫に照明が灯る。
ZGMF-X42S デスティニーガンダム
ZGMF-X666S レジェンドガンダム
ZGMF-X19A インフィニットジャスティスガンダム
先日ロールアウトしたばかりの、最新型MSだった。
「す、すごい・・・」
――あらゆる戦局に対応すべく作られた、決戦用MS。
「これは・・・」
――ドラグーンが搭載された、かつてのプロヴィデンスを彷彿とさせるMS。
「インフィニットガズウートとか出てこなくてよかった・・・」
――生ジャスティスとの違いが分からねぇ新型MS。
それを見て、三人は声を洩らした。
「気に入ってもらえたかな・・・?」
「はい!ありがとうございます、議長!」
「これなら連合にも勝てます、ギルおじ・・・・・・議長」
「ジャスティスとの違いが分からない・・・」
「喜んでもらえて何よりだ。・・・さて、それでは私は用事があるので失礼させてもらう。皆、しっかりと
調整に励んでくれたまえ」
「「「はっ!」」」

ジブラルタル、記者会見場。
デュランダルの手により、各地のマスコミがここジブラルタルへと集められた。
ざわ・・・ ざわ・・・
「あー皆さん、どうか静粛に」
ぱんぱんと手を叩いてマスコミを静めるデュランダル議長。
「私が皆さんを集めた理由・・・・・・先日のベルリンでの出来事を覚えておられるかな?」
一斉にこくんと頷くマスコミ一同。
「あの悲劇の灯火となった者・・・・・・ついに明らかになりました!!」
『な、なんだってー!!』
「こちらをご覧ください!!」

デュランダルの言葉と同時に、上部のモニターにある男の顔が映し出された。
――ラブリーな黒ぬこを抱いた、不健康そうな紫唇の男性。
彼の名はロード・ジブリール。ブルーコスモスの現盟主であらせられた。
「彼こそあの悲劇、ひいてはこの戦争の首謀者だったのです!!」
『な、なんだってー!!』
「そして私、ギルバート・デュランダルは、彼を逮捕するとここに宣言します!!」
カシャカシャとフラッシュがたかれる中、デュランダルは声高にそう宣言した。

某国、ジブリ邸。
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!??!?」
その記者会見をテレビで見ていたジブリールは、文字通りひっくり返った。
「デュランダルめ・・・・・・ついにやってくれおったか!」
わなわなと震えるジブリール。しかし力は篭っていても猫を撫でる手つきは優しい。彼は愛猫家なのだ。
と、不意に窓ガラスがパリーンと割れた。
「な、何事ぞ!?」
慌てて窓から外を覗くジブリール。そこには――
「おらっ、出て来いジブリール!!」
「ジブリールめ、死ねぇ!!」
「おまえは生きていてはいけないんだ!!」
「おまえの黒猫キモイんだよ!!」
暴徒と化した民衆の姿があった。
「おのれ愚民ども・・・!許せん!特に最後のは許せん!体中にちくわを撒きつけて猫がいっぱいいる地下室に
放り込んでくれる!!猫拳でも会得するがいい!!」
群がる民衆にそう毒づき、ジブリールは避難を始めた。

「これでよし、と」
ラクスはパソコンを操作し、全ての証拠を消し去った。
ここはエターナル。宇宙に上がったラクスは、ジブリールとデュランダル双方に送ったメールの足跡を
消していた。
ラクス・クライン。彼女こそ、戦争の発端となった人物だった。双方にメールを送り、両者の戦意を
巧みに煽ったのだ。まさか『桃色女神』がラクスだとは、デュランダル、ジブリールはもとより、
このスレを覗いている方々も気が付かなかったであろう。ラクス・クライン・・・恐ろしい子っ!
「さて、あとはキラに新しいMSを渡せば勝利はもう目前ですわね♪」
キラの洗脳状態は良好だ。洗脳を繰り返しすぎて時折「ギギギギギ・・・」とか「ガボッ、ガボガボッ」とか言い出す以外は、
ラクスの手足として良く働いてくれていた。
次なる戦場はヘブンズベース。ラクスは既に、そこに新たな手駒を差し向けていた。

「ありがとうジブリール様・・・・・・そしてさよならですわ♪」

ヘブンズベース。
ジブリールが逃げ込んだここは、さっそく戦場になっていた。
ダガー、ウィンダムとバビ、ザク、グフに代表される連合軍、ザフト軍の小競り合いは元より、今回は
新たな勢力が戦線に加わっていた。
「ほら行くよ、野郎ども!!」
『『了解、姐さん!!』』
十字架目玉のMS、ドムトルーパー。
かつての三隻同盟、その旗艦『エターナル』の軍勢。
戦局は三つ巴となり、そして混迷していく――

「阿部高和、インモラル出るよ!」
阿部とファントムペインに下された命令は、ジブリールの護衛だった。
もはや隠れ家と言うにはあまりに各軍勢の入り乱れたヘブンズベース。逃げたばかりなのに、
ジブリールはまた逃げるハメになった。
『ま、死なない程度にやってくれ』
ネオからの通信。先日MSがぶっ壊れたので、彼は今日は大義名分付きでJPジョーンズのブリッジに座っていた。
『オーケェ、やってやろうじゃねぇか!』
『あんまはしゃぐなよスティング』
『おまえが死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
それぞれカオス、アビス、ガイアに乗った三人も、戦場に身を投じた。
「時にネオ。MSがないと不便じゃないか?」
『まぁ、いざって時に必要だからなぁ、MSは』
部品を回収してなかったため、ネオのウィンダムは修理が出来ない状態にあった。
――「JPジョーンズを軽く解体すれば修理できるぜ?」
という阿部の申し出は丁重にお断りした。旗艦を軽く解体されてはたまったものではない。
「ま、いずれ調達してきてやるさ」
そして、阿部の乗るインモラルも戦場へと身を投じた。

「ジェットストリーム・アタァァァック!!」
『ぐわぁぁぁぁぁぁ!!』
一直線に並んだドム三機は、スクリーミングニンバスを展開して次々と敵機を落としていった。
ちなみにスクリーミングニンバスとは相手の光学兵器を無効化するバリア、通称スク水である。
「よし、次だ!」
『『了解、姐さん!!』』
隻眼の女ヒルダ・ハーケンの言葉を受け、魚のホネを加えたヘルベルト、眼鏡っ男のマーズは
威勢良く返事をした。
彼らの手により、連合、ザフトのMSはその大多数がスクラップと化していた。やはりザク、グフ、ジムでは、
最新鋭のドムには敵わないのだ。ってか初期GATシリーズを遥かに凌駕するザクが瞬殺されるほどの
性能を持つドムの出現により、カガリ様の乗るストライクルージュはもはやゴミ同然なのではなかろうか?
「はい次ぃ!!」
また一機のMSを落としたドム達。
そして次なる獲物は――
「次はあいつだ!私達を差し置いて一人大活躍する、あの肉色だ!」
『『了解、姐さん!!』』
三機のドムは、インモラルの方へと向かって行った。
――【追悼】ああ・・・ドム隊【通夜】

「フンッッ!!」
『ア ッ ー !』
敵味方が入り乱れすぎて判別がおぼつかなくなった阿部は、とりあえず近くにいるMSを次々と貫いていった。
「ひゅう♪おむつがムレムレじゃないの」
男性用オムツ『バンパンツ』。戦闘中の射精にばっちり対応、2リットルまでOK!
そして次なる獲物を探し求めると、三機の十字架目玉が突っ込んできた。
『ジェットストリーム・アタァァック!!』
わざわざ技名を叫びつつ突っ込んでくる三機。
「おっと――」
先頭の一機を避けるインモラル。すると――
「おや?」
後ろにいたドムが頭を出し、バスーカを撃ち出した。
「アウチ!?」
直撃。そしてインモラルが怯んだ隙に、三機目のドム。サーベルを握り、インモラルを突き刺さんと迫ってきた。
「あぶねっ!」
かろうじて回避する阿部。まさに紙一重、阿部ならではの芸当だった。
『ちっ、運の良い男だ!野郎共、もう一回だ!!』
『『了解、姐さん!!』』
そして再びインモラルに突進をかけるドム三機。
阿部はそんな彼らを見て、こう口にした。
「よし。もう覚えた」

「もらった!!」
再度インモラルに突進する、一列に並んだドム三機。
次はどう回避するのかとあれこれ予測を立てるも、しかし今度はその肉色のMSは微動だにしなかった。
「はっ!観念したか!!」
それならば、とサーベルを引き抜いて、インモラルを斬り裂くヒルダドム。
しかし――
「なにっ!!?」
良い男の為せる業、質量を持った残像。ヒルダドムが斬り裂いたMSは、蜃気楼のようにゆらゆらと揺れて消えた。
「ちっ!野郎はどこだい!?」
あちこち周囲を見回すも、インモラルの姿は見えなかった。
「逃げたか・・・はっ、腰抜けが!おい野郎共、次行くよ!!」
『『『了解、姐さん!!!』』』
三機のドムが、ヒルダドムに続いて戦場を駆けた。
「――?」
しばらくして、ヒルダは微かな違和感を覚えた。
ジェットストリーム・アタックとは、三機のドムが一列になって敵機に突っ込むというもの。
それはドム隊の誇る必殺の陣であり、彼らの通った後には残骸しか残らない。
それはいい。それは問題ない。しかしだとしたら、これは明らかにおかしい。もしそれがジェットストリーム・アタック
であるというのなら――

「――マーズ、後ろだ!!」
――自分の後ろに、“三機の”ドムが続くのは、明らかにおかしな事だった。
『ンフフフフフフフフフ』
ヒルダドムの後ろにいたのは、正確にはドム二機とインモラルガンダム。
そう――阿部は、残像を囮にして三機の後ろにくっついていたのだ!
「こいつ、舐めたマネを!!」
速度を上げ、必死にインモラルを引き離しにかかる三機。
しかし、どう考えてもインモラルを引き離す事はできません本当にありがとうございました。
そして、最後尾のマーズドムの腰に、インモラルの手がかかった。
「マーズ!!」
『姐さん!振り切れません姐さん!!』
『フンッッ!!』
『姐さア ッ ー !』
容赦のないゲイ・ボルグ。マーズの後ろの貞操は、ここに散華した。
くたっとなったドムを放り投げ、阿部は今度はヘルベルトドムの後ろについた。
これで三機。数の上では正常だが、機体の構成は変わらず異常だった。
「くそっ!散開するよ!!」
『『了解、姐さん!!』』
ヒルダの言葉にヘルベルト、そして阿部は頷き、各機は散開した。
「あいつは――」
「――どこだ!!」
素早く周囲を見回すヒルダとヘルベルト。
「ヘルベルト!!」
『――??』
ヒルダはすぐに異変に気付いた。しかし、ヘルベルトはそんなヒルダの言葉にきょとんとしていた。
「後ろだ!!」
インモラルは、散開した後も変わらずヘルベルトドムの後ろに引っ付いていた。
『なっ――!?』
素早く後ろを振り向くヘルベルト。だが、インモラルの姿は捉えられなかった。
『ね、姐さん?いないッスけど』
「だがら後ろだ!!」
再度振り返るも、インモラルの姿は相変わらず捉えられえなかった。

『ンフフフフフフフフフフフ』
確かにヒルダの言う通り、インモラルはヘルベルトドムの後ろにいた。
――ただ、ヘルベルトドムが振り返るたび、インモラルはその視角外へと身を動かしていただけだった。
『さて、ではそろそろ・・・』
遊びは終わりと、がしっとヘルベルトドムの腰を掴むインモラル。
『ね、姐さん!!!』
「ヘルベルト!!」
『フンッッ!!』
『た、助けア ッ ー !』
そして彼もまた、阿部によって貫かれた。
『ふぅ・・・ごちそーさん、と』
事が終わり、ぽいっ、とヘルベルトドムを捨てるインモラル。
「くそっ、こいつ!!」
二機を失ったヒルダは、怒りに任せてやぶれかぶれの突進をかけた。
しかしそこは、女には情け容赦のない阿部さん。
『フンッッ!!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鉄拳一つで、ヒルダドムを吹き飛ばした。

その頃のジブリールさんはというと・・・
「ええい、早くだせ!!」
「り、了解!!」
この混乱に乗じて、とっととヘブンズベースから脱出していた。
目指すはオーブ。そこなら安全だと、ジブリールは考えた。

「オーブなら・・・・・・中立国のオーブならば、誰も近づけないはずだ!!」

オーブ首長国。
この国には、かつての面影は残されていなかった。
中立国であるはずのオーブ、その近海には、多数の連合軍艦が展開されていた。ウズミの提唱した『他国に介入せず云々』は、
広く展開された連合艦隊を見れば分かる通り、もはや何の力も持たなかった。
それもそのはず。今のオーブは、アスハではなくセイランによって支配されていた。
ウズミはセイランの地下室に監禁され――表向きは『行方不明』とされ、代わりにセイランが首長の座に就いているのだ。
『では手筈どおり頼むぞ』
「おまかせください、ジブリール卿」
通信が切れる。
連合艦隊の内側に展開されたオーブ艦隊、その最奥にある旗艦タケミカヅチに、現オーブ代表であるユウナ・ロマ・セイラン
は乗艦していた。
オーブを束ねる者、是戦場に於いて指揮を執るべし・・・・・・これはオーブの伝統であり、ウズミの娘カガリも、
それに従い砂漠でレジスタンスをしていたのだ。小学校すら卒業せずに行ったのはどうかと思うが。
そしてユウナも、それに従って本日は戦場に出向かれた。体の弱いユウナはカガリのように戦場で暴れるなんて
事は出来ないので、一番安全なタケミカヅチで指揮を執っていた。
「ほらおまえ、何をしているんだ!キリキリ働け!!」
通信士に檄を飛ばすユウナ。当然オーブ兵はユウナの事を快く思ってはおらず、運悪くこの艦に同乗した
クルーの指揮はだだ下がりだった。
「ユウナ様、指揮官らしくどっしりとお構えください」
ユウナを諌めたのはトダカ一佐。ナイスミドルのオジサマであり、タケミカヅチの艦長さんだ。原作ではシンの
八つ当たりによって殺され、そしてシンがそれを悔いるシーンもないというなんとも不憫な扱いだったが、本作でも
この艦に乗っているあたり不憫なのは変わらないようだ。カワイソス。
「う、うるさいぞトダカ!僕に意見するのか!?」
「・・・・・・。失礼しました」
「ふん、分かればいいんだ。で、ザフトは来たのか?」
「はっ。間もなくオーブの領海へと到着するでしょう」
「そうか。・・・いいなおまえ達、ジブリールなんて人間はここにはいないんだからな!?」
「しかし、どう誤魔化されるおつもりで?オーブにジブリールがいる事など、ザフトもとうに掴んでいるはずですが・・・」
「うるさい!いないったらいないんだ!!おまえ達は黙って僕の言う通りにしていればいいんだ!!」
「・・・・・・、了解しました」
オーブは・・・セイランはジブリールを匿っていた。
連合軍に忠誠を示すため、そして数々の便宜を図ってもらうためである。
今のオーブは、地球連合軍の一員となっていた――

アークエンジェル、ブリッジ。
ラクスの命により、彼らはジブリールを捕らえるためにオーブにやってきた。
「艦長。間もなくオーブの領海に接触します」
「あ、そ。んじゃローエングリンスタンバイ」
「艦長!!我々はオーブ所属の艦なのですよ!!?」
「ありゃ、そだっけ?てっきりテロリストの一味かと思ってたわ、私」
「断じて違います!!そもそもアークエンジェルが動いた訳、もうお忘れになったのですか!?」
「うん」
「・・・・・・」
ざらざらざら、と胃薬を出すナタルさん。相変わらず胃薬は相棒だった。
アークエンジェルが動いた理由・・・それは、連合軍をオーブから追い出すためだった。
これまで散々ラクス様の提唱したラクシズムという名のテロリズムに従い戦場を荒らしまわってきたが、本来の目的は
オーブの奪還だった。
そしてジブリールがここに潜伏しているとの情報をラクスから受け取り、彼らはこうしてオーブに来たのだ。
「しかし、本当にジブリールはここにいるのでしょうか・・・?」
ラクスの情報は、出どこが不明なものだった。ただラクスが一言『オーブにジブリールがいるとの情報がありました』
と言っただけで、信憑性などカケラもなかった。
「いるんじゃない?あの子、勘だけはめちゃめちゃ良いから」
「それはそうですが・・・」
もちろん勘などという不確かなものではなく、ラクスがこれまで組み立ててきた計画によって生まれた
明確な事実なのだが、それはマリューもナタルも知らぬところだ。
「オーブに着いたんだってな!!」
と、ここでカガリがブリッジにやってきた。
「カガリ嬢!もうじき戦闘が始まるかもしれないのです!部屋にお戻りください!」
「戦闘だって!?バカを言うな!お父様がそんな事許すはずがないだろう!?」
カガリは、父ウズミがユウナに監禁されているとは知らなかった。
「・・・実はな、カガリ嬢――」
「それに私が出ればもっと大丈夫だ!任せろ!!」
「ま、待て!カガリ嬢――」
そしてナタルが事情を話す前に、カガリはMSデッキへと向かった。

ミネルバ、ブリッジ。
「あーあー、てすてす。こちらはザフト軍所属の艦、ミネルバです。オーブ軍、応答願います」
ミネルバもまたジブリール拿捕作戦に参加しており、タリアはオーブ軍に向けて通信を入れた。
『これはこれはお久しぶり。私がオーブ代表、ユウナ・ロマ・セイランです』
「・・・?いつから代表はセイランに代わったのですか?」
『こちらも色々とあるのです。それで、用件はなんですか?貴艦はオーブの領海を侵犯しつつありますよ?』
「それでは手短に。ザフトはロード・ジブリールの引渡しを要求します」
『・・・ああ、その件ですか』
するとユウナは嫌味な笑みを浮かべ、そしてタリアにこう告げた。
『ここにジブリールはいません。ですから帰ってください』

「ですから、ジブリールはここにはいないんですよ」
タケミカヅチから、ユウナはそうザフト軍に告げた。
「ゆ、ユウナ様、それはあまりに――」
「いちいちうるさいぞ!いないったらいないんだ!!」
まるで子供のような言い分に、トダカの胃はキリキリと痛んだ。
確かに確たる証拠はない。しかしジブリールがヘブンズベースの後に向かうのはオーブくらいしか考えられず、
加えてユウナの子供のような言い分に、ザフト軍は一斉にビキビキ(♯^ω^)となった。
『ふざけるな!!いいからさっさと出せ!!』
「いないものは出せませんよ」
『んな言い訳通るか!』
「だからいないんだってば、もう。分からない?」
『寝惚けた事言ってんじゃねぇぞ!おら早く出せ!!』
「ああもう!だからいないんだってば!しつこいよ!?」
ザフト軍の通告に、ユウナは『いない』の一点張りだった。
『これ以上隠すつもりなら攻撃を仕掛けるぞ!!』
「――!?ば、バカなマネはやめろ!そ、そんな事をして許されると思っているのか!?」
『ならさっさと出せや!!』
『出・せ!出・せ!出・せ!』
そして気付けばザフト軍からの出せコールが響き渡った。
「ああ、んもう!どうしてこうなるんだ!?」
頭を掻き毟るユウナ。その姿はとてもオーブの代表には見えなかった。
「ユウナ様。どうなされますか?」
「うるさい!今考え中だ!!」
ザフトの出せコールの中、ユウナは必死に考えを巡らせた。
――と、その時。全ての艦に、彼女の声が響いた。
『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉ!!』
カガリ・ユラ・アスハ。ストライクルージュに乗った彼女は、叫んだ後にザフト軍と連合軍の間にその身を置いた。
「か、カガリぃ~」
『ユウナ!お父様はどうした!?』
「え!?い、いや、それがちょっと・・・・・・急病で・・・・・・」
『そうか!・・・・・それでユウナ、ジブリールは本当にいないんだな!?』
「――!?あ、ああ、もちろんだよカガリ!」
『そうか・・・・・・』
そしてカガリは黙り込んだ。
「・・・・・・カガリ?」
ユウナとカガリは幼馴染だった。もっとも、カガリはすぐに砂漠へと行ってしまったが、それでもそれまでの間は二人で
よく遊んでいた。
「ま、まさか・・・」
だから、ユウナはカガリの事を良く知っていた。彼女は曲がった事は決して許さず、どんなに傷つけられても自分の
信念は曲げない女の子であると。
故にユウナは、カガリはひん曲がっているジブリールを引き出すために何かをしでかすつもりだと、もしかしたら
アスハの名で兵に命じて自分を拘束するのだと、そう思った。
「か、カガ――」
そしてユウナが言い訳をしようとした瞬間、カガリの乗ったストライクルージュはオーブ艦――タケミカヅチに
背中を向け、ザフト軍にこう告げた。

『聞け、ザフト軍!ここにジブリールはいない!!即刻軍を退かれたし!!』
「え――?」
予想だにしなかったカガリの言葉。ユウナはおろか全ての艦の者は、しばし言葉を失った。
『繰り返す!ジブリールはここにはいない!!さっさと退け!!』
しかしそれも束の間。すぐさまザフト艦からの罵詈雑言がカガリに向けられた。
――『ふ・・・ふざけるな!何を言い出すんだ!!』
――『いいからそこをどけ!!』
――『邪魔をするな!!』
ユウナに向けられたのと同じ内容の言葉。しかし、カガリは一歩も引かなかった。
『うるさい!ユウナがいないって言ってるんだ!だからここにはいないんだ!!』
「か、カガリ・・・」
当のユウナはまだ呆気に取られていた。
自分でも分かっている嘘。あまりに子供じみた言い分。
それをカガリは、何一つ疑う事なく信じきっていた。
『ユウナは良い奴なんだ!苛めたら許さないからな!!』
「――!?」
その言葉にユウナははっとし、そして思い出した。
子供の頃、体の弱かったユウナはよく苛められていた。
ただ泣きながら、やめてやめてと繰り返すだけだった自分。
そんな自分を、いつもカガリは守ってくれた。
――「やめろ!ゆうなは良い奴なんだ!苛めたら許さないからな!!」
石をぶつけられ、バカにされ、だけどカガリはユウナの前にずっと立っていた。
その背中。憧れて、追いつこうとしたその背中が、ストライクルージュの背中に重なった。
「・・・・・・僕は、」
その背中を見続けていた自分は今、何をしているのだろうか?
ウズミを監禁し、その政権を奪い取っている。
ベルリンを破壊し、そして戦争を裏から操るジブリールという明確な悪を匿っている。
そして今、自分を守ってくれた彼女を危険に晒しているのだ。
『ユウナは私に嘘をついた事がないんだ!!あいつはいつでも約束を守ってくれた!!』
「――!?」
そうだった。体の弱かった自分はカガリを守る事が出来ないので、せめて約束だけは守るようにしていた。
遊ぶ約束はもちろん、カガリが「パイナップルが食べたい!」と言えば、食堂に侵入して取ってきた事もある。
「黄色い花が欲しい!」と言えば、わざわざ遠くまで行ってそれを取ってきた事もある。
それはとても大変な事だった。時には叱られた事もあった。
だけどそんな事が気にならないくらい、自分には嬉しい事があった。
――「ありがとう、ユウナ!!」
そう言って笑うカガリの顔が、たまらなく愛しかったのだ。
そんな彼女を今、自分は危険に晒している。嘘をついて、守ってくれた彼女を裏切っている。

『貴様!それ以上邪魔をするのなら砲撃をかけるぞ!!』
「――!?」
ユウナははっと顔を上げた。そしてそこには、カガリの乗るストライクルージュに向けられた砲門が映った。
ユウナは咄嗟にマイクを取り、叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
静寂。そしてユウナは、ザフト軍に向かってこう告げた。
「ジブリールは・・・・・・ジブリールはマスドライバーにいる!繰り返す!ジブリールはマスドライバーにいる!!」
「ゆ、ユウナ様!」
「うるさい!あんなの匿ってられるか!あんな奴、逃がしちゃいけないんだよ!!」
自分のするべき事。随分と回り道をしてしまったが、ユウナはようやくそれを自覚した。
ユウナの言葉を受けて、ザフト艦は次々とマスドライバーへ向かった。
『ユウナ・・・・・・』
「ごめんよカガリ・・・・・・僕はキミに嘘をついた。軽蔑してくれ」
『何を言ってるんだ!ユウナは本当の事を言ってくれたじゃないか!!』
「カガリ・・・」
『ありがとう、ユウナ!!』
そして、ストライクルージュもマスドライバーへ向かった。
「はは・・・・・・ありがとう、だってさ・・・」
――それは僕のセリフだよ、カガリ・・・
「ユウナ!!」
と、ユウナの父ウナトが、怒鳴り声と共にブリッジに入ってきた。
「ユウナ貴様!何て事をしたんだ!?」
「父上・・・」
「これは連合への立派な裏切り行為だ!どうしてくれるんだ!!」
「父上!我々はこんな事をしていてはいけないんです!!」
「な、なんだと!?」
「オーブを束ねる一族のすべき事はオーブの民を守る事です!政権争いなど民は望んでおりません!」
「だ、だからこうしてセイランが首長の座に――」
「いいえ父上!オーブは中立国なのです!それをこんな風にして・・・これで民が喜びますか!?連合に
与して、戦火に巻き込まれる事を民は望んでいるのですか!?」
「し、しかし――」
「ジブリールを匿ったおかげで、オーブはザフトに撃たれるところだったのですよ!?民を危険に晒してまで
連合に与する必要がどこにあるんですか父上!!民を危険に晒してまで権力にしがみ付く必要がどこにあるのです!」
「ユウナ・・・・・・」
ウナトはふっと体の力を緩め、そしてユウナの肩に手を置いた。
「・・・ワシは政治家失格かもしれんな」
「父上・・・」
「政権を失いつつあるというのに、息子の成長を嬉しく思ってしまう・・・・・・いやユウナ、立派になったな」
「・・・・・・ありがとうございます、父上」