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SCA-SEED_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第56話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:46:55

 エンブレイスと対峙するデスティニーⅡを確認した地球連合軍のMS隊から、どよめきが上がる。
 オーブでの戦いは、連合兵の間で語り草となっていたからだ。

『シン=アスカ……あれはシン=アスカだ!』
『まさか、金的のシンか!? ミハシラ軍のエースの、金的のシンなのか!?』
『いや、色はそっくりだが機体は似てるだけだ。それに、何で奴があっちから来るんだ?』
『声は一緒だった! 俺はあの時オーブにいたんだ……それにな、あの化物相手にたった1機で、
 あんな事を言える馬鹿は金的のシンしかいねえ!!』

 地球連合軍発足史上、これほど金的という単語が通信で飛び交ったのは初めてであろう。
アガメムノン級の女性オペレーターが、顔を真っ赤にして私語を慎むよう呼びかけるが、誰も聞いていない。
『やっぱりシン=アスカは只者じゃなかったんだ! オーブの時もそう思ってたが、奴は実際、
 スーパーコーディネイターを超えるスーパーな金的野郎だ!』
『コーディネイターにああいう男がいるとはな。今なら信じられる! 金的のシン……!』
『金的! 金的!』
『金的! 金的!』
 金的コールは止まず、宇宙が金的で満ちる。当然その広域通信はジェスの乗る報道船に拾われており、
地球全土にライブ放送されているのだが、それは彼らの知った事ではない。

「何なのだ? 金的のシンとは」
 アークエンジェルのブリッジ。デスティニーⅡに追随するオオツキガタを介して伝わる通信に、艦長が腕を組んで唸る。
 プラント領内の状況は殆ど沈静化していた。クライン派にとっては悪夢の連続であり、
彼らに扇動されていたザフト兵もすっかり意気消沈してしまったからだ。
「シンとは、シン=アスカ君で間違いないとして……なぜ金的なのだ?」
『あれ? 連合軍なのに知らないんすか?』
 通信モニターにディアッカが映り、艦長が眉を寄せつつ頷く。
「我々はオーブ戦に参加しておらず、しかも月方面での任務を終えたばかりだった。私もクルーも、
 オーブ戦で何が起こったかは知らんのだ。結果以外はな」
『騒ぎが収まったら話しますよ。ちょっと長くかかるから』
「ああ。頼む」
 通信が切れた後、艦長は再び腕組みし唸った。手元のコンソールを操作し、ザフト艦隊が引き裂かれた時の映像と、
現在の状況を同時に映し出す。
「無駄な砲撃が多い……単なるパフォーマンスに過ぎんな、これでは」
 火器や推進機関を撃ち抜かれ、機能を失った艦に尚降り注ぐ黄金の輝き。だが、意味が無い。
 死に体の兵器をいたぶるより、中枢を一撃で仕留める方がより多く殺傷できる。
「いや、それが目的か。だとすれば誰に見せている? ナチュラルにか? ……何の為に?」

 デスティニーⅡの機内で苦い表情のシンが手元のキーを叩き、通信チャンネルを幾つか遮断する。
 このまま回線を開きっぱなしだと戦闘不能に陥りそうだった。
『災難ですね、アスカさん』
「要らない事は言わなくて良いです」
 全く気の毒そうでない研究員に短く返答し、シンはエンブレイスを睨む。
「何で攻撃してこない……こっちを待ってるのか?」
『仕掛けるまでもないと思ってるかも知れませんねえ。欠陥機を押し付けたつもりは毛頭ありませんが、
 これはどうも相手が悪すぎイタタタッ!』
 背後にアズラエルが立った直後、背筋を仰け反らせる研究員。通信モニターは狭いので、何が起こっているかは解らない。
『も、もし戦うなら……ヴォワチュール・リュミエールの出力に気をつけて下さい』
「え、どうして?」
 半分涙目の研究員に言われ、シンは首を傾げる。
 どの道戦闘が始まれば、出力など気にする余裕は無い。しかも、エンブレイスが相手では。
『非公式調査なので確かな事は言えませんが、完全な状態で動くユニットを装備した2機の機体間で、
 相互干渉が起こり得るらしいのです』
「相互……干渉?」
『ええ。妙な報告だったので、今でも覚えていますよ……では、幸運を』
 通信モニターから研究員とアズラエルの姿が消え、シンは息をつく。戦う直前に、余り嬉しくない話を耳に入れてしまった。
「だけど、このまま逃げるわけにはいかないんだよ!」

 自分に叫び、シンは目の前の巨体をロックする。殆ど同時にエンブレイスが3つのユニットへと分離した。
 シュレッダーを撃つも殆どが外れ、左翅に着弾した2、3発も、ダメージらしいダメージを与えられなかった。
 PS装甲を有する敵に対し、シュレッダーは強烈な衝撃を与える事で内部機構を破損させる。
 デスティニーⅡの2倍以上あるエンブレイスは、ただ回避行動を取っただけではない。
 大部分が曲面で構成された機体を傾ける事で衝撃を受け流したのである。
「アンタはザフトを撃った! 何でだ!? アンタの言う事を聞いたのに……!」
 脚部のハッチを開き、ミサイルを連射しつつデスティニーⅡが突進する。
 進路上に射出されたドラグーンがそれらを避けた。1機1機、手動で操作されているも同然だからだ。

『彼らがコーディネイターの中においても、特に愚かで野蛮であったからです』

 エミュレイターの言葉が、ナチュラルとコーディネイターへ伝わっていく。
「なに……っ!?」
 分離したエンブレイスに包囲されまいとデスティニーⅡが全力で加速し、振り返り様にシュレッダーの弾をばら撒いた。
 ストライクフリーダムに機動性で劣り、また大型である今の機体では、囲まれてしまうと回避も防御も反撃も出来ない。

『根拠も権利も無い私の指示に従うなど、愚の骨頂であると申し上げたのです、シン』
 エミュレイターはそこで、シンをファーストネームのみで呼んだ。
「目の前であんな事をやったアンタが、それを言うのか!? 皆を怯えさせたアンタが!」
『ザフトはキラ=ヤマトに助勢しなかったばかりか、私をラクス=クラインであるとして彼を攻撃しました。
 無論、本心である筈はありません』
 ビームの嵐を、シンはヴォワチュール・リュミエールの出力を最大に上げ回避する。
青白い光の中、紅の光翼が頼りなげに瞬いた。平の部分を前にしたクリーバーにビームが 何発も着弾し、光刃の端がスパークを放つ。
 シュレッダーとミサイルで撃ち返すも、全く効果を発揮しない。多方面からの猛攻を受け、狙っている余裕さえ無いのだ。
『彼らは目先の利益にとらわれ、主を入れ替えただけなのです。2年前、ラクス=クラインに形だけの賛同を示し、
 ギルバート=デュランダルを裏切った時のように』
「それは……っ」
 目を見開き言葉に詰まるシン。2年前の自分が抱いていた意思を代弁されたからだ。

『エイプリルフール・クライシスによって喪われた命は10億に上ると報告されています。
ニュートロンジャマーによって電力が断たれ、インフラは破壊され、生命を終えた者の殆どは持たざる人々……
 代替エネルギーや物資を手に入れられない弱者です。シン、彼らは自身を弾圧されている弱者と称しつつ、
 弱者を殺戮したのです。野垂れ死にという方法で。それが、コーディネイターなのです』
 ⊿フリーダムの機内で状況を静観していた男が、静かに目を閉じる。セクメトの艦長が手元のコンソールに視線を落とした。
『彼らは更に、ブレイク・ザ・ワールドを引き起こしました』
「あれはッ! あれをやったのは、プラント政府でもザフトでもない!」
『しかし、責任はプラント政府にあった筈です。ユニウスセブンを管理していたのは、彼らなのですから』
 作戦の当事者として阻止できなかったシンは、彼女の言葉に応える事が出来なかった。
 その通りであるとしか、今の狂気に染まった彼には考えられなかったからだ。
 クリーバーの真横で撃っていたシュレッダーをビームが掠める。火花が上がった。
 『50人』の忠告通りだった。単機では勝てない。機体性能が違いすぎるのだ。
 そこで、シンは己を否定する。違いすぎるのは機体性能だけではない。力量の差も然りだ。
『コーディネイターの野蛮で愚かな行為によって、争いを繰り返していた地球の勢力は1つに結集し、
 宇宙からの脅威に立ち向かう準備を整えました。コーディネイターは役目を果たしました。
 そして、最早何の機能も持ってはいません』
「そんな事はない! どんな人間にだって可能性はある! 生きている限り!」
 自分の言葉が嘘か真か、シンは知らないし興味が無い。
 ただ、このエミュレイターに無用と言い放たれた存在がどうなるか、それのみを考えて叫んだ。
『勿論、責められるべきはコーディネイターだけではありません。そもそも彼らを創造し、
 宇宙開発という重要な役目を与え、かつ管理を怠ったナチュラルも同罪でしょう』

 シンの空虚な言葉に応えず、エミュレイターは語り続ける。
『自らの道具、家畜すら満足に制御できず、外へと進出する欲求にのみ任せた彼らは無能にも、
 未だ2000万人程度の叛徒を鎮圧できずにいます。これは許し難い怠慢です』
 分離したまま、エンブレイスが全てデスティニーⅡの正面へと回る。分かたれた3つの 蒼翼が膨張し、
純白の巨体がデスティニーⅡと向かい合った。
『シン。今の貴方がたに、独力での生存は不可能です。
 自制心を何処かへ置き忘れた人類は、取るに足らぬ種族間の確執でいがみ合い、無策に大量破壊兵器を撃ち合っています。
 より強力でより優れた存在が、貴方がたを管理せねばならないのです』
 シンの目蓋が僅かに震え、血のような眼が見開かれた。
「アンタには、それが出来るっていうのか」
『その通りです。その為にも、まず無価値の人類を削減せねばなりません。
 ナチュラル、コーディネイターを問わず。だからこそ、私は撃ったのです』
「より優れたアンタが、劣った俺達を導くって事か?」
『その通りです、シン』

「嘘だ」

 エンブレイスの攻撃が、唐突に止んだ。しかしシンは反撃に転じない。
 クリーバーによる防御を解くデスティニーⅡ。機体には、高出力ビームが掠めた痕跡が幾筋も刻みつけられていた。
「違うなんて言うつもりはない。ただ、アンタは今みたいな事を伝えたがっていない」
『何を根拠に?』
「もしアンタが本当にそう考えてるなら、俺にあんな事を言ったりはしないからだ!」
 シンが吼える。エンブレイスに設置されたモノアイが瞬き、光が波のようにうねる。
「為すべきを為せって言ったな? アンタに武器を向けた俺を直ぐに叩き落とさなかったのは、
 アンタと戦う事が俺の為すべき事だと、アンタ自身が考えていたからだ。でなきゃ、アンタを撃った時点で俺は殺されてた」
『シン、貴方は私の言った事が理解できていないようですね』
 エンブレイスが再びドラグーンを射出し、ビーム砲の砲身が全てデスティニーⅡへと向く。だが、シンは機体を動かさなかった。
「いいや違う! 理解したから言ってるんだ! 俺を攻撃したザフトを撃ったのは、俺を攻撃したからだ!
 アンタと戦わなかったからだ! もしアンタの言葉通り、間違ってるラクス=クラインに従った愚かで野蛮な
 コーディネイターを排除するっていうんなら、最初から皆殺しにしてる! だから、頼む!」
 ターゲットロックを解除し、シンは叫んだ。相手に、自分の意思を伝えようとした。
「アンタの、本心を聞かせてくれ! きっと、俺達は戦わなくても……」

 だからこそ、対応しきれなかった。

 両翅から放たれた青白いビームを回避したと同時に、自機を3次元的に包囲したドラグーンが、デスティニーⅡの脚部を撃ち抜いたのだ。
 安全装置が働き、炸薬ペレットの光と共に脚部が排除される。
 ミサイルランチャーを内蔵した脚部が閃光と共に大爆発を起こし、デスティニーⅡの上半身が吹き飛ばされた。
 そして一度損傷しバランスを崩してしまった以上、機体性能と操縦技術で劣るシンには為す術も無い。
 右翅のビーム砲で、左肩のスラスターが破壊される。
 交差するように飛び込んできた左翅にシュレッダーごと左腕を粉砕され、破片が頭部アンテナの半分をへし折った。
 間髪入れず撃ち込まれるドラグーンの射撃を回避したが、エンブレイスの胴部に肉薄される。
 クリーバーを構え直そうとするが間に合わない。胸部ビーム砲が開いた。
「く……!」
 しかし閃光が放たれる寸前、何本ものビームと砲弾がエンブレイスの胴部へと殺到し、巨体を引き離した。
 大破寸前のデスティニーⅡを庇うように、MS達が立ち塞がる。
 黒に塗装され、翼を広げた鷲の意匠をシールドにペイントしたゲイツが4機。
 キラにもシンにも攻撃をかけなかった彼らは、セレニティのターゲットにならなかったのだ。

『要するに、根性見せろって事か。ああ……やってやるよ!』
 ウィンダム1機に率いられたダガーLが2機。彼らは、大きく戦場を回りこんでいた。
 隊長機に搭乗するのは、ガルナハン基地の件でシン達に協力した連合軍の大尉である。
『我が軍は現在、さる企業連合と絶賛癒着中でね……諸般の事情により、援護させて貰う』
 そして、3機のドムトルーパー。ミナの命令に背き、シンを追ってきていたのだ。
『悪い悪い、こっちはバッテリー機なもんで、飛ばせなくてよ』
『形無しだな、シン』
『突出するにも程があるんじゃないのかぃ? ま、ひとつ貸しだね』
 総勢10機に阻まれたエンブレイスの行動は速かった。1秒未満で合体し、最大出力でヴォワチュール・リュミエールを起動。
 輝く翼が羽ばたき、放たれた矢の如く巨体が翔ぶ。
 その先で、金色の光が広がった。
 降り注ぐビーム射撃がMS達の足を止めている間に、 青白い3枚の光翼は見る見る内に小さくなっていった。

「前にも言ったが……君は底無しの馬鹿だな、アスカ君」
 デスティニーⅡを守る10機のMSに視線を向け、⊿フリーダムに乗った男が吐き捨てた。
 セクメトから通信が入る。
『帰艦して。この宙域から離脱するわ。月方面に進路を取る』
「解った」
『ストライクフリーダムを回収したわ。中身は棄てておいたけど……シン=アスカ辺りが拾うでしょう』
「機体の方にも、使い道があるかどうか……まあ良い。了解した」
 身を翻した⊿フリーダムが一気に加速し、回頭を始めたセクメトへと飛ぶ。3つの
流れる光がそれに追いつき、蒼と白の艦が巨大なスラスター光と共に闇へと消えた。

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