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SCA-Seed傭兵 ◆WV8ZgR8.FM 氏_古城の傭兵(仮)_第09話

Last-modified: 2009-07-30 (木) 22:06:08

オーブ首長国連邦改め、正統オーブ国首都、ニューウズミ。
形骸化した首長制からアスハによる専制性への移行に伴い、遷都された都市。
プラントとの綿密な、見ようによっては癒着とも言える連携の結果、
都市の三割を占める巨大な基地にタケミナカタ級陸艦五隻、
配備された総機動兵器数三万超と、過剰なまでの防衛戦力を抱えた都市でもある。

 

その煌びやかな市街の中央に位置する余りにも豪華な政庁の最上階の執務室で、
落ち着き無くディスプレイと向き合っている女。
正統オーブ終身代表、カガリ・ユラ・アスハ。
歴代オーブ頭首の中でも、国民支持率99.89パーセントを誇る最高の君主である、
とオーブ、プラントの教科書に記されている彼女は今、ディスプレイに表示された数値と
呻きを上げながら戦っていた。
「……なんで毎回あいつ等はこんな事をするんだ……私たちは何もしていないのに……」
ぶつぶつと呟きながら彼女が眺める数字―オーブの真っ赤に染まった経済状況。
クライン政権下のプラントによる第二次Nジャマー投下より数日後、
突如として地球連合から通達された経済封鎖が原因だった。

 

少なくとも彼女の記憶では、
プラントはともかく自分達は地球の諸国家に対し何もしていない、 となっている。
投下後、被害が出始めた辺りでの自分の発言の内容は、彼女の脳内から綺麗さっぱり消え去っていた。

 

と、自動ドアとなっている執務室の扉が開き、廊下から侍女が書簡を携えて執務室へと入ってきた。
「カガリ様。アスラン様の意識が回復されたと、プラントから連絡が入りました」
「何!? 本当だな!」
侍女の言葉から半秒も置かずに叫ぶカガリ。
執務と相対していたときの倦怠感はまとめて吹き飛び、
尻尾が付いていればぶんぶんと振っているだろう程に満面の笑みを浮かべている。
そのまま椅子から立ち上がり、あっと言う間に執務室から飛び出していく。

 

後ろで溜息をついている侍女には気がつくはずも無く、
数字の他に陳情や要望などが表示されていたディスプレイの電源は、とうに落とされていた。

 
 

「艦長、あと150でアルテミスとの安全交信可能域に入ります。指示を」
絶え間なく更新される画面を眺め、手を動かしていたオペーレーターが椅子から半身を乗り出して言った。
プラント領空離脱より既に十四時間が経過しているが、交代制ゆえかその顔に疲れは見られない。
「そうか……よし、可能域に入り次第通信を開いてくれ。閣下に報告を行う」
そう指示し、制帽を被りなおすケーニヒの顔と声にも疲れは見られなかった。
横に立つ大尉も微動だにしない。
ただ毅然と前方を睨みつけけながら、口を開く。
「艦長、報告が終り次第休憩なされてはいかがですか?」
「大丈夫だ、大尉。私を誰だと思っている?
 この艦の艦長の私が職務を放り出して眠る訳には行かないだろう?」
むしろ君こそ休んだらどうだ? と続けるケーニヒ。
「いえ、私もこの艦の副長でありますので。
 艦長がお休みにならない以上、部下の私が休む訳には参りません」
きっぱりと言い、前を向く大尉。
こっそりと聞いていた砲手が、この艦に配属されて以来何度と無く見てきたやりとりに
呆れたように溜息をついた。
「艦長、交信可能域に入りました。回線を開きます」
やり取りを聞いていなかったのか、オペレーターが冷静な声で言う。
ケーニヒの頷きの直後、ケーニヒの手元のディスプレイにウィンドウが開く。
『おお、十日と二十一時間ぶりだな、中佐』
映像が安定したウィンドウに現れた男が、労う様に喋りだす。
「ええ、御久しぶりというべきでしょうか、ガルシア閣下」

 

『やめてくれ。閣下と呼ばれるほど私は偉くない』
生真面目に言うケーニヒに、口の端に苦笑を滲ませるガルシア。
笑みとともに、目の下に焼き付いた隈が歪む。
『冗談はここまでにしよう。中佐、例のものは回収できたのかね?』
「ええ、KYゲノムユニットは回収できましたし、不可能と判断した物は抹消しました」
『それは結構。本国も大喜びだろう……もう一つだが、レッドアイの任務はどうかね?』
「そちらについても上々です。詳しくは帰還時に報告しますが……矢張り上層部の読みが当たりました」
無感情のまま、事実を事実として伝えるケーニヒ。
その内容にガルシアの眉が歪む。
良いとは言えない顔色が更に暗くなった。
『よし、よくわかった……交信域に入ったと言うことは、あと一時間ほどだな?
 エスコートを出しておいた。そろそろ着くだろう……
 本当にご苦労だった、終わり次第ゆっくりと休養したまえ』
「お気遣い感謝します、閣下……また痩せましたな。流石に睡眠二時間半はどうかと」
『やるべきことは山ほどある。おちおち寝ていられんさ』
ガルシアとケーニヒが全く同質の笑みを浮かべ、ウィンドウが閉じる。
その笑みを消したケーニヒが椅子から立ち上がり、指示を飛ばす。
「あと少しとは言え、帰還するまでが任務だ。最後まで気を抜かずに行くぞ」
艦橋に響いた声に、各部署から返礼が続く。
いつの間にか、デメテルの左右を固めるようにMSより一回りほど大きい流線型の影が二つ現れていた。

 
 
 

『メンデル襲撃事件の続報です。
 ブルーコスモス系テロリストと思われる武装集団による攻撃を受けたメンデル4では
 未だ混乱が続いており、被害の実態は未だに不明のままで――』
『犠牲者の総数は数百人とのことです。
 なお、地球圏守護騎士団の発表によると今回の襲撃を行ったと思われる部隊は連合のものと思われ、
 プラント中央議事会ならびに守護騎士団では正式な抗議を――』
『キラ様が生誕なされた地への不埒な行為に
 「歌姫の騎士団」名誉顧問兼ザフト副司令―ザザッ―氏は
 「大変遺憾である」とのコメントを発表されています。
 また、今回の襲撃とほぼ同時に発生した幾つかの事件の関連性について――』
『ですからね、報復をとっとと行うべきでしょう!?
 連中はほっとけばどんどん増長する!またユニウスみたいになるぞ!
 実際アレの精製も調整もとっくに終ってるんだから――』

 

アメノミハシラ、中央ブロック。
その執務室のモニターにプラントの公共放送を傍受したものが映し出されている。
大同小異な内容を繰り返し、時折ノイズが走るそれを
ミハシラ製の栄養ドリンクを片手に睨みつける麗人が一人。
端正な顔に冷笑を浮かべ、強靭にして豊満な身体を漆黒のスーツで押さえつけた女。
「大慌てだな……余程驚いたと見える」
空いている方の手で長く黒い髪を整え、口元を歪める。
両脇に立つ無表情な男達が無言で頷いた。
と、モニターの片隅に新しくウィンドウが開き、妙齢の女性が映し出された。
『ミナ様。アルテミスより連絡が入りました』
「……マリーン・A。予定通りということか?」
『はい。現在のままいけばレッドアイの到着は三時間後ということです』
その金髪の女性の言葉にゆっくりと頷くミナ。
紫のルージュで彩られた唇が幾らか和らぐ。

 

「そうか。整備班に急ぐように言っておけ」
『かしこまりました。降下用機は如何致しますか?』
「それも予定通りにだ。例の物も忘れるな」
『了解しました……ミナ様、申し訳ありませんが質問させていただいて宜しいでしょうか?』
「……構わん。何だ?」
『任務中で無いのに何故コードネームで呼ぶのですか?』
張り付いた表情を僅かに曇らせたマリーン。
再び冷たい笑みを浮かべたミナが口を開く。
「三人もいてわかり難いのでな。あと二人の仕事は順調か?」
『はい。Mはタルタロスに派遣されていますし、Jは例のジャンク屋と火星に』
再びそうかとミナが言い、ではとマリーンが表示されたウィンドウを閉じる。
執務室の中に、プラント公共放送の騒音が戻ってきた。

 
 

所変わってデメテル内、ミーティングルーム。
壁に設置されたスクリーンに依頼の詳細が次々と表示されている。
「……以上のように、今回の任務では専用の機体が用意されているとの事です」
一通りの説明を終え、アビーが息を吐く。
「成る程な……じゃあ弾薬費とかもあっち持ちってことか」
スクリーンの正面で食い入るように眺めていたシンが安堵したように呟く。
「そうなりますね。但し幾つか条件があるようで……」
「条件?」
「ええ、現在の段階で提示されているものでは専用服の着用、騎士長の指揮下につくこと……
 あと、パイロットはシン一人だけだそうです」
「待て、最初のと二番目はわかるけど俺一人ってどういうことだ?」
条件に驚いたシンが頭の上に疑問符を浮かべて言う。
それに合わせる様に、シンの隣に座っていた壮年の男が口を開いた。
「おいおい、じゃあ俺の出番無しか?」
「……ファッターフ、自重して下さい。貴方の砲撃は確かに百発百中ですがそれだけ弾薬費も増えるんです」
それに今回は護衛です。砲撃援護は余り必要ではないかと、と締めたアビーにファッターフが口を噤んだ。
隆々とした肩が下がり、浅黒い肌に浮かび上がった隈が更に深くなったように見える。
「貴方とコニール、それにシェフィールドで合流する予定の何人かは
 市民の整理等にあたることになりますね」
「……まあ、さっき山ほど撃てたからいいけどな」
さっき―メンデル襲撃。
目標の奪取の為のモビルスーツによる援護砲撃を担当していた男は、そう言って笑った。
その為にメンデル周辺で二日ほど不眠不休で待機していた為にできた隈が、吊り上った表情筋と共に歪む。

 

「……お取り込み中失礼します。レッドアイ、艦長からの連絡です」
ファッターフの笑い声に紛れてシンの背後に現れていた女性士官が、音も無くシンの肩を叩いた。
ぎょっと後ろを振り向いたシンの表情―仕事のときの仏頂面ではなく、実年齢よりもいささか幼い―に、
女性士官の顔が少しばかり綻んだ。
「レッドアイ、貴方方とジュール氏たちはアルテミス到着後、
 残念ながらすぐに乗り換えてアメノミハシラに向かうことになります」
―アルテミスにももうじき到着しますので。移動の準備をお願いします―
その綻んだ顔のまま、ケーニヒからの支持を告げる女性士官。

 
 
 

光波防御帯を展開したアルテミスから少し離れた場所に、
機体の具合を確かめるように各部のスラスターをふかすモビルスーツ達の姿があった。
ジンにザクファントム、ムラサメなど、所属する勢力はてんでバラバラだったが、
一様に白く塗装されている。
周囲には同じように白い塗装が施されていただろう残骸が漂っていた。
カメラガードに罅が入ったゲイツRの頭部が、ふよふよと流れていく。
その頭部が無傷のムラサメに接触した瞬間、宇宙空間に光がはしった。

 

光―スラスター光。
白いモビルスーツ達とは別の方向から現れたそれは、有機的な軌跡を描きながらモビルスーツ達に迫る。

 

それを認識し、計五機の白いモビルスーツ達は一斉に動く。
連携が充分にとれた回避運動。
まるでプログラムされたような―実際、モビルスーツ達のコクピットに人影はない。
自動操縦のままに回避を行うモビルスーツの一機――ジンハイマニューバに狙いを定めたのか、
青白い尾を曳きながらそれは肉薄した。
青く塗装された流線型の樽に砲身を取り付けたようなそれ――ガンバレルの砲口が火を噴く。
だが、正確な射撃故予測していたのか、AMBACを用いて回避するジンハイマニューバ。
が、足を振り回して自分の機動を変化させたジンハイマニューバが元の機動に戻ろうとした瞬間、
背後からの閃光がその胸部を貫く。
最初に現れたものとは別のガンバレルが、真後ろの空間に浮かんでいた。

 

一瞬後に爆散したジンハイマニューバを見ながら、未だ健在の機体たちがそれに的を定めて
一斉に己が持つ武装のトリガーを引く。
一見適当に、だが乱戦においては最も適した形で撃ち出されたそれらが、青いガンバレルに迫る。
しかしガンバレルは見切ったかのような動きでそれを全て躱し最初のガンバレルと合流、
更に四基のガンバレルが現れ、お返しとばかりに一斉掃射。
回避が間に合わなかった二機が直撃を食らって爆散する。
残る機体たちがその閃光に反応した瞬間、ガンバレルが出現した方角に向かって戻りだす。
それらと逆に猛進してきた濃紺と鈍色で構成されたモビルスーツのバックパックの
メインスラスター左右に配置されたアームへと接続する。
具合を確かめるようにアームが上下左右に動作し、コクピット内部のディスプレイが緑色に点灯した。
それを見ていたパイロットの両手が動き、コンソールを操作し出す。
連動して機体の頭部カメラアイの上下装甲が口を開くように展開し、
宇宙空間を映したような虚ろな黒が露になった。
――その黒を、真紅の光が駆け抜ける。

 

地球連合機らしいシルエットの濃紺と鈍色の機体――先行試作型ハンドレッドダガー。
ストライクをより厳つくしたイメージの機体フレームを持つ地球連合軍の次期量産機。
タルタロス・ユニオンの一つとして軍事企業各社の提携により生み出された、
同プロジェクトのフラッグシップ的な機体。
ストライクや従来のダガータイプと同じくストライカーシステムを採用し、汎用性を高めている。
各ストライカーパックも再設計が施され、性能を高めた物を使っていた。
他にも、イーゲルシュテルンの貫通力向上やビームライフルへのグレネードランチャーの標準装備など
火力の向上が図られ、センサー類も新技術であるIDEシステムと信頼性の高い従来のものとの併用により
強化されている。

 

「――次だ」
パイロットの低い呟きと共に左腰部から跳ね上がった円筒を左手が受け止め、
円筒の先端部から閃光が溢れ出す。
マニュアルどおりに後退しながらM1Aアストレイから流用されたロングレンジビームライフルを
連射するムラサメを目標に定め、機体が一気に加速した。
狙いを逸らさずに撃ち続けられる閃光を最低限の動作で回避しながら、距離を詰める。
至近を掠めたビームの粒子が装甲に当たって焦げるような音を立てた。

 

「これで、四つ目」
フォームも何も無く振りぬかれた刃がまずロングレンジビームライフルの銃身を切断し、
更に返す刃でコクピットハッチを貫く。
機能を停止したムラサメのシールドを引き剥がし、援護に回っていた残る一機に向かって投げつけた。
その機体―ブレイズザクファントムは上方へとスラスターをふかし回避する。
「残念だが……無駄だな」
だが、それと同時にハンドレッドダガーのビームライフルが放たれ、投げつけたシールドに反射、
ブレイズザクファントムを股から脳天まで貫き爆発させる。
巻き起こった爆光が、ハンドレッドダガーの左肩に刻印された月に吼える獣を照らし出した。

 

レーダーに表示されていた敵影の消失を確認し、パイロットの男が息を吐き出しながら通信回線を開いた。
「オペレーター、これで終わりか?」
『はい、機体試験レベルA-09は以上で終了です。シュバリエ少佐、ハンドレッドダガーは如何ですか?』
「悪くないな。むしろ良好と言っていい。これが次期量産機か……」
『ええ、コンペは圧勝でしたし上層部からの評判も上々ですので。
 タルタロス・ユニオンで開発された他の機体も概ねそのようですよ?』 
「ほお、そいつは凄いな……ん?」
誇らしげに言うオペレーターに頷き返しながら、モーガンは正面を向いた。
何かが近付いてくると、彼の感覚が告げていた。
「……そろそろ次のレベルの開始時間か?」
『あ、そうですね。次が最終レベルとなります……少佐、次の相手は手強いですよ?』
にまりと猫のように意味深な笑みを浮かべるオペレーターに適当な返事をしつつ、
休止させていたハンドレッドダガーの戦闘システムを立ち上げていくモーガン。
大型機を示すアイコンが、レーダーサイトに躍る。

 

「……おいおい、味方の最新鋭機か?」
やがて姿を現したその敵の姿に、思わず驚愕の声を漏らすモーガン。
嘗てのユークリッドのサイズを半分にした上でより鋭角にした機体がモニターに映し出されていた。
それを聞いたオペレーターが奇妙なほどに楽しげに答える。

 

『冗談でも何でもありません。最終レベル、S-00の敵機はそのモビルアーマー……デザルグです!』
その声に答えるように、デザルグの砲門が閃いた。

 
 

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本編は以上です
ついでにもう一つ、以前の擬人化ネタの際乗り遅れた物を

 
 

ちゃぷん。
水の音に眼を開けると、シン・アスカは水の上に立っていた。
水平線は遥か彼方に霞み、下を見ると大分下のほうに水底が見える。
まるで不可視の板の上に立っているよう。

 

――貴様らには水底がお似合いだ。

 

不意に浮かんだそんな言葉を掻き消して、空を(こんなところに空があるのかどうか怪しいが)見上げる。
自分は何処にいるのだろう。そんなことを考えながら。

 

「レッドアイ」

 

急転直下。
真後ろから聞こえたハスキーな声に、灰色の空を見上げていたシンは即座に臨戦態勢をとった。
傭兵ともあろうものが何の気配も察せずみすみす背後を取られるとは情けない。
そんなことを脳裏に過ぎらせつつ、袖口に携帯しているナイフを手首を動かし引き抜く。

 

いや、引き抜こうとした。
「……っ!」
普段なら訓練された犬さながらに掌に収まるスローイングナイフの重みは全く感じられず、
手馴れた手首の動きも空しく終る。

 

スローイングナイフが無い。
いや、それどころか服は愚かインナーにまで仕込んである武器の重みが全て消えている。
シンの顔から血の気が引き、同時にその脳裏で「武器を用いる」という選択肢が消えた。
その間にも、ちゃぷり、ちゃぷりと足音が近付いてくる。
シンの後方三メートルほどの距離で、それは足を止めた。
間合いは十分だろう。シンがそう判断し身構える。

 

「レッドアイ? 聞こえていますか――!?」

 

それが再びハスキーな声で言葉を紡ぎだした瞬間、シンは後ろを向いてそれに襲い掛かった。
油断していたのか、それは飛び掛ってきたシンを避けようともせず、そのまま押し倒される。
一気にマウントポジションに持ち込んだシンが、その喉元を押さえようと手を伸ばす。

 

だが。
「レッドアイ……積極的なのは良いですが、私にも心の準備がいるんです!」

 

それ―濃紺の髪を無造作に流し、理想的と言える豊満な肢体に漆黒のゴシックロリータを纏った
紫紺の目の少女―が細い足をばたつかせ、
偶然にもその殺人ブーツの爪先が、シンの下半身のある一点に突き刺さる。

 

 どす と キン、という不協和音があたりに響いた。

 

―何処かで俺ではない俺が手を振っている。そんな感覚を刹那覚え、
圧倒的な痛みに押し流されシンは意識を失った。

 
 

「何やってるんですかネロ。私たちが出てくる前に気絶させるって……」
「だからこれは事故だと何回言えばわかるんですか。この年増」
「年増はパイロットの話であって……」
「しっかりして」

 

―先ほどのハスキーボイス以外に2つほど声が増えている。
妙齢の声と薄ぼんやりな感じの。
そんな風に感じながら、シンは再び瞼を開いた。

 

「あ、おきた」
と、覗き込むようになっていたハーフリムの眼鏡をかけた無表情な顔と目が合う。
瞬間なぜか股間に鈍痛がはしり、両腕の筋力だけでその少女から後ずさるシン。
「な、なんなんだよあんた達!」
心のままに口を開くと、ここ二、三年ほど出していない焦りきった声が迸った。

 

「シン、私のことわすれたの?」
青い髪をショートにし、歳相応の平均的な身体に髪と対照的な赤いカーディガンを羽織った
無表情な眼鏡少女は言った。
水色の瞳と頭上に疑問符が浮かんでいる。
「忘れたというよりも……悲しいですけど貴女とレッドアイの縁は
 深い物ではなかったということかもですね」
三人の中では最も小柄で色々と薄っぺらい身体に黒く染めた連合の制服を着た少女が、
その黒い瞳に自信と断定を滲ませながら言い切る。
黒いツインテールが頭の動きにあわせて揺れる。
「……それを言うならあなたはそもそもシンに会っていないのでは?」
ゴスロリ少女が咎める様に呟いた。
「気にすることでは無いです。これからがありますから」
「あなたは私の未完成版でしょうに。いずれシンに会うのは私だけです」
「へえ、でも貴女が完成しなかったら私があなたのポジションに……」

 

「いや、そもそも三人とも知らないんだが……」
言い合いを始めた二人―よく見たらそっくりだ―にシンが口を挟むが、聞く耳をもっていない。

 

「そもそもあなたにはもうパイロットが居るじゃないですか。年増同士お似合いだと思いますよ?」
「あ、あれは緊急だから仕方が無いんです! 私は年増なんかじゃ!」
白熱し始めた言い争いを横目に、シンがゆっくりと後ろに下がる。
逃げようとしているのだが、その足を何かが鷲掴み阻害する。

 

「ねえ、シン……わたしのこと、わたしとの三年間のこと、本当にわすれちゃったの?」
力なく項垂れながらも、シンの足をがっしりと掴んだ眼鏡少女。
俯いている為顔は見えないが、それが逆に恐怖を煽る。
「だったら……だったら……他の人に渡すくらいだったら……」
「三年間……完成……まさか……」
「シンをころしてわたしも……!」
「待ちなさいウィンダム!」
「殺してもなんにもなりません!」
物騒なことを言い始めた眼鏡少女を、後ろから言い争っていた少女二人が押さえ込む。
それと同時にシンが何かに気がついたように顔を上げる。
「あんたち、まさか――」
その言葉を言い切る寸前、シンの視界は何かに覆われ、真っ白く染まった。

 

「……シン、シーン?」
赤い目を見開いたまま呆然としているシンの顔をはたくコニール。
それでようやっと気がついたのか、シンの目に生気が戻る。
シンとコニールの前では、アビーが依頼の詳細な説明を始めようとしていた。

 
 
 

今度こそ以上です
一月近く間を空けてすみません

 

…何故か前回以上に命の危険を感じるので逃げさs

 
 

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