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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_SEEDDtheUntold_第05話

Last-modified: 2009-02-07 (土) 17:20:49

「コニール……どうしてだ。どうして俺を援護した? どうしてラクス様を侮辱した?」

 

 パイロットスーツを脱いでオーブ軍の制服を着たシンが、
目の前のベッドに横たえられている少女に問いかけた。
その瞳は虚ろで、あちこちに揺れる様は極度の不安を示していた。

 

『ゆりかご』によって刷り込まれたロジックがぐらついている。
ラクス達の敵は、自分の敵。
ラクス達を傷つけられることは、自分を傷つけられること。
逆もまた然り。ラクス達は正しく、それに従っている自分もまた正しい。
素晴らしいラクス達に従い、一体となっている自分もまた、素晴らしい。
その筈なのに。

 

 外傷を処置され頬にガーゼを当てたコニールは、天井を睨みつけている。
「俺を惑わそうとしても無駄だ! ラクス様への敵対行為は許さない!
 ラクス様のやっていること、やろうとしていることは全て正しいんだ!」
「だまれ」
 コニールは静かに短く言葉を返した。MSキャリアのエンジン音が大きく聞こえる。
「お前が誰を信じていたって、それはあたしの知った事じゃない。
 ラクス様だろうがカガリ様だろうがキラ様だろうが、好きに崇めれば良い……
 助け出してくれた事にも礼を言う」
「シン、コニールの治療はまだ終わってない。後にでも……」
 医務室に顔を覗かせたヴィーノが、中を見て口をつぐんだ。
「気に入らないのは、ラクス様の為になんて言いながら、
 ラクス様の為に全くなっていない事を平然とやらかすお前自身だよ、シン!
  だからイカレ信者だと言ったんだ!」
 点滴の管を波打たせながら、コニールが跳ね起きた。眦を吊り上げてシンを指差す。
「こ、コニール……」
「お前らが言うラクス様は何者だ!? 『お前が信じているラクス様』はどんな女だ!?」
「全ての人々の平和を願い、憎しみの連鎖を断ち切ろうとする方だ!」
 胸の奥のざわつきを覚えつつ、シンは刷り込まれたままの知識を口に出す。
意識のどこかが、これはおかしいと叫んでいた。胸と眉間が、裂けるように痛む。
「あたしがお前を罵った時、お前はその女の名前を出して攻撃した!
 解るか?『ラクス様』はそんな事を願っているのか!? 自由と平和を願う歌姫が!」
「……!」

 

 瞼が小刻みに震え、瞳の揺れが酷くなる。両手で頭を抱えて黒髪を掻き乱した。
最強度の洗脳が生み出した矛盾は、常人ならば深層意識が働いて無視してしまう。
だがシンは違う。
経験の浅い彼が最新鋭機インパルスのパイロットに選ばれたのは、適応能力の高さだ。
ロジックの食い違いが生じた時、やるべき事は逃避ではなく、修正である。
「お前の信じる通りに答えろ! 『ラクス様』の為に、お前は何をするんだ!
 ラクス=クラインの信者として、お前はどうあるべきなんだ!」
「全ての人の平和を願い……全ての、生命は……た、戦って……キラ=ヤマトは、敵であっても命を奪わない……け、けれども、俺の家族、は……? い、いや、俺の家族は、物心付く前に死んだ! でも、ステラ! だ、誰だ? ステラ? 女の名前なのか……」
 機械によって強制的にインプットされた言葉を並べたてる。
上体を仰け反らせ、シンが全身を痙攣させた。
医務室に入り込んだヴィーノが彼を羽交い絞めにする。
何事かと、薬剤の選定を中断して顔を出した医師に頷いてみせた。
 不意にシンの身体から力が抜け、すかされたヴィーノがよろける。
「うん。確かにその通りだな、コニール。俺はおかしかった」

 

 同一人物とは思えない落ち着きぶりに、勢い込んでいたコニールも拍子抜けして頷いた。
「そ、そう、だろ?」
「ああ。ラクス様を信じているなら、ラクス様の代行として振舞わなきゃならない。
 ラクス様を馬鹿にされて怒るのは、別段ラクス様の為にならないし。何で俺、あんな事を」
 信仰対象の名を何度も口にして、シンが腕組みする。
「ま、まあそう大きな問題じゃないさ。1人でも多く助けて、あの場から逃げだせたし」
 ヴィーノが慌てて口を挟んだ。肩越しに同僚を振り返り、シンはゆっくりと首肯する。
「今のところはな……ヴィーノ、機体の武装を見直そう。連合のMAはとにかく頑丈だが、 無敵じゃない。
 MSの火力でも、距離を詰めて弱点を突けば戦えるはずだ。
 コニールは休んでくれ。連合軍から十分離れたら、降りられる場所を探すから。
 俺達に付き合う必要はない」
 言いながら椅子から腰を上げ、足早に医務室を出ていくシンを、ヴィーノとコニールが見送る。
しばらくして、ヴィーノが溜め込んでいたように長い息を吐き出した。

 

「推測だが、シンは何かされてる。
 コニールがもうちょいやんわり言ってやれば、さり気なく探れたかも知れなかったけど……
 たぶん、今ので悪化したな」
「ごめん。別に誰の信者でも良いんだけど、あんまり格好悪い事ばかり言うからさ」
 力無く笑うヴィーノに、コニールは肩を竦めた。そしてシンの後を追おうとする男に声をかける。
「なあ、ラクス=クラインっていうのは本当に、平和の歌姫なのかな?」
「少なくとも、今のシンが信じているラクス=クラインは。それで充分だ」
 医務室のドアが閉まれば、コニールが再びベッドに横たわった。負った傷が痛むのか、眉を寄せる。
「やっぱりあたし、まずい事言った?」

 
 

「アスラン、やっぱりシンを元に戻そう」
 オーブ、オノゴロ島。
軍の司令部にあるアスラン=ザラのオフィスにやってきたキラは、1人では無かった。
批難の意を込めた目を細めている、現プラント最高議長も一緒だった。
「キラから話は聞きました。アスラン、あなたは何を考えているのです?」
「確認を取っただけだ。『ゆりかご』を使うまでもなく、シンは慰霊碑の前で俺達と争う
 意思を放棄してみせただろう」

 

 PCのディスプレイに上がっているのは、今や地球各地で活動しているオーブ軍の報告書だ。
国を滅ぼしかけた理念は、それを押し通した者自らが破壊してしまった。
戦争の勝者として義務を果たすと言えば聞こえが良いが、そんな理屈を受け入れられるのは
言った本人か被害を受けなかった者だけである。
 鈍い音がしたので、そちらに目を向ける。机に拳を打ちつけたキラがいた。
「彼はあの時、信じた全てを失くしていた!
 戦いに勝った僕らを前にすれば、本当の気持ちを殺してでも、と思ったって不思議じゃない!」
「アスラン、わたくし達がデュランダル議長と戦ったのは世界の覇権を握る為ではありません。
 彼のデスティニープランによって生み出される死の世界を阻止するためです。
 あなたがアスカさんにやった事と議長の企みは、何が違うのです?」
 厳しい口調を崩さないラクスを、アスランは冷めた瞳で見返す。

 

何も言わないのは、返答に窮しているからではない。
アスラン=ザラの正義は、そんな所に無いからだ。

 

「とにかく、シンは元に戻るべきだ。もう決めたんだ、アスラン」
「お前でなく、ラクスが決めたんだろう」
「え?」
 聞き取れない小声にキラが首を傾げ、アスランは席を立った。2人の横を通り過ぎる。
「アスラン……」
「アスラン!」
「好きにすれば良い」
 椋の木を用いたドアを開け、部屋を出ていくアスラン。
僅かに振り返った彼の目に、不安によってラクスの手を握るキラと、彼に肩を回すラクスの姿があった。
緑の瞳に一瞬だけ憎悪をよぎらせ、扉を閉める。

 

「ザラ一佐!」
 丁度その時、オーブ軍の制服を着たコーディネイターの少年が走ってきた。
着ている服に反して彼はクライン派。情報組織『ターミナル』との仲介役だった。
「地球各地でザフトとオーブ軍の基地が連合軍に襲撃されています。しかも、その戦力は」
 少年の顔に掌を向けて制し、アスランは差し出された紙媒体の報告書に目を通す。
「……これは、まだ公開するな」
「でも、キラ様の戦い方が通用しない相手です! デストロイの時を考えれば……」
「キラならやってのける。それより、オーブ軍が無用のパニックに陥る方が怖い」
 少年の肩に手を置くアスラン。彼の姿が曲がり角に消えると、報告書を折ってポケットに押し込んだ。
キラの能力を疑問視する事は許されない。少年が沈黙を守る事は自明である。

 

「潮時かな」
 独りごちた後、自分の執務室には戻らず司令部の長距離通信ルームへと歩いて行った。

 
 

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