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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_The Red Impulse(仮)_体験版

Last-modified: 2009-04-18 (土) 01:13:55
 

デブリにその身を押しつけたMSのコクピットに、ザフトレッドのパイロットスーツを着た男がひとりいた。
生気のない白い肌はライトに照らされて淡く発光しているように見え、
血のような瞳を持つ目が細められている。

 

2キロ前方から傍受した通信が、機内に垂れ流されている。
 よくある小競り合いであり、少々おとなしめの日常だった。
戦後、最初の誕生日を迎えたキラ=ヤマトには刺激が強かったようだが。

 

『クライン議長は身内の囲い込みを止めろ! 血税を私物化するな!』
『もうこんな馬鹿な事はやめて下さい! ラクスがどれほど皆の事を考えているか……
 どうして解らないんですか! 僕は撃ちたくない! 撃たせないでください!』
『毎日の食べ物が不足しています! 循環システムも修理できず、汚れた水と空気で暮らしているんです!
 子供のミルクやおむつも無いんです!』
『わたくし達の考えは、一昨日のスピーチで示した筈です。暴力は何も生み出しません。
人は手を取り合って、未来へと歩んでいかねばならないのです』

 

 ストライクフリーダムと戦艦エターナルの前に、輸送船をブリッジで繋げた急造のバリケードがある。
その背後には、戦略砲レクイエムで切り裂かれた砂時計型コロニーの半分が大写しになっていた。
本格的な修繕が出来ず、船のバッテリーや生命維持装置を取り付けた仮設住居が剥き出しになっており、
その内の幾つかは既に故障していた。

 

『クライン派は全てを手に入れているじゃないか!
 カネになる仕事を自分達の企業で独占し、彼らだけは肥え太っている!
 これがお前らの言っていた自由か! 未来か!』
『そんな!』

 

「そうさ」

 

 口ごもるキラと同時に、インパルスに搭乗するシン=アスカは短く呟いた。憎々しげに
吐き捨てた先は、ラクス達でない。戦う力を持たない、守るべき人々。

 

「全部、アンタ達が選んだんだ」

 
 

『シン、発見しました』
 思考に割り込んだ声に、シンは広域回線を閉じた。左手傍のキーを叩く。
「外国製の重火器か? それとも手製の爆発物か? アイリス」
『船内に、モビルスーツです。現在いる一隻だけでゲイツRを1機確認しました』
 アイリスと呼ばれた女性の声は、落ち着いた調子を崩さず淡々と報告する。
音声のみの相手に対し、シンは眉根を寄せた。
「映像を俺の所へ送った後、情報収集を続けろ。突入する理由が欲しい」
『突入? 船内は労働者達で溢れています。このデモ自体、元ザフト兵の扇動で……』
「奴らは敵だ。構わない」
 アイリスの声を遮るシン。僅かに唇を開き、噛み締めた歯が覗く。

 

口数を少なくしたのは、言葉を節約する事が敵の威嚇に繋がると知ったから。
笑顔を見せなくなったのは、もう楽しい事も嬉しい事もないからだ。

 

『……はい、シン』

 
 

『いいか……キラ=ヤマトは甘ちゃんだ。
 こっちから攻撃したりMSを動かしたりしない限り、撃ちはしない。
 5分経ったら2番と4番の船をふっ飛ばして、目くらましに使う。
 遅れるなよ。……そっちは異常ないか?』
「ありません」
『よし』
 通信機が音を立てて切れると、顔立ちに幼さを残す少年兵は全身を震わせ始めた。
喉元に突き付けられた黒いナイフを持っているのは、背後から彼の身体を抑え込むスニーキングスーツ姿。
四方にカメラアイが配置されたフルフェイスメットを、少年の顔に近づける。

 

「まだ幾つか、私に話したい事が残っているのではありませんか?」
「こ、殺さないで……俺、無理矢理参加させられたんです。何でも喋ります……本当です」

 

 ダストシュートのある薄暗い通路で1人敵兵を確保したアイリスが、投棄口の蓋に少年の頭を押し付ける。
再び少年から溢れた涙が、無重力状態の壁面を転がった。
「置いてあるのは人間用の携行火器と、MSだけですか?」
「あ、後は……対MS用の防御砲塔が3つ……バリケードの内側に向いています」
 MS隊が無理矢理回り込む事も考慮しているのだろう。
いずれにしろ、その場合犠牲になるのはデモをやっている一般市民だ。
メンテナンスベッドに固定されたゲイツRを一瞥した後、身体をぴったり押し付け、
動きを封じながら耳元に囁きかける。
「砲塔の止め方も喋りたくありませんか?」
「無人式だから……多分、一括管理してる5番船でケーブルを切れば……」
「ご親切にどうも」
「殺さないでください……もう嫌だ、何で俺だけ……」
 吐息のような音が僅かに上がり、少年の身体が力を失って宙に漂う。

 

猫の身を縮め、床と壁に手足を張りつかせながら通路を進むアイリス。
すぐ左横でドアのスライド音が聞こえ、暗がりで歩みを止めた。
4つの青い光が弱まると同時に、床を蹴った男2人が目の前を流れていく。
肩にかけた小銃の先端が、乏しい照明を受けて黒光りした。
「あの馬鹿と連絡が取れない! 確か、5番船にはロケットランチャーがあったよな?」
「奴はキレると何をするか解らんぞ……様子を見に行かないと。クソ、どこも暗いな」
 スーツを密閉モードにしたアイリスは、バリケードを監視しているシンのインパルスに
通信を呼びかけつつ、男達の後を追う。船どうしを繋ぐブリッジのドアが開き、閉まる前に滑り込んだ。
天井へ張り付き、即席の溶接跡に指を引っかけながら進む。
『シンだ』
「悪い知らせです。
 敵はこの場から脱出するべく、5分後に幾つかの船を爆破し、混乱させようとしています。
 加えて、バリケードの内側はMS用の防御砲塔3基で守られており、接近は困難です。
 火線を避けられたとしても、敵を刺激し……」
『爆破する船が解れば、離脱しろ。俺は距離を離しつつ、バリケードの横に回り込む』
 一方的に会話を終えたシンに溜息をつき、アイリスはスーツに外気を取り込ませた。

 

 別の船に辿り着き、敵兵2人を見送った後で天井のダクトに潜り込む。
シンのインパルスが突入するとあれば、砲塔のパワーは切るべきだ。
しかし、与えられた命令は情報収集のみ。かつ時間が無い。
這い進んでいくうちに光が漏れている場所に出くわし、その下を覗き込む。
1人の男がノートPCに向かって何かを打っていたが、10秒もしない内に席を離れた。
視界の外にいるらしい人物に話しかけている。

 

「ああ、爆破装置の確認は済んだ。オーブ製は単純で良いな。いま行くよ」

 

 壁や床に手足を突く音が遠ざかっていくと、ダクトの蓋を外し、無音で部屋に入り込んだ。
直前に聞いた言葉の真偽を確かめるべくPCにアクセスする。

 

「モルゲンレーテ……オーブの国営企業が、軍用爆薬の横流しを?」

 

 発破装置のマニュアルを持っていたメモリスティックに保存し終え、
更に詳細を調べようとアイリスが表示を切り替えた時、鋭い声が横あいから上がった。

 

「おい! 何してる!」

 

 開け放たれたままのドアを振り向き、ホルスターからサイレンサーピストルを抜き放つ。
が、誰も来ていない。そして声は続いている。

 

「どうせこんな作戦、上手くいきやしないんだ! 一矢報いてやる!」
「止めろ! 俺達全員を殺す気か! 奴を押さえろ!!」

 

 通信を傍受しつつ、アイリスから送られてきたゲイツRのデータを見ていたシン。
耳障りな笑い声が突然混じり、視線をメインモニターへと上げた。

 

『何が未来だ……何が世界は変わらなければならないだ……いつまでも好き勝手出来ると思うなよ!
 お前らの敗北は、今日ここから始まるんだ!』
『やめろぉ! 殺せ! あいつを撃ち殺せ!』

 

 小さな、か細い光がバリケードの一角で上がる。
僅かに左右へぶれつつ、ストライクフリーダムの脇を抜けたそれはエターナルの装甲に当たり、
炎の華が咲いた。
人間を五体散華させるには十分なロケット弾だが、装甲タイルを数枚焦がすだけに終わった。

 

『どうして……』

 

 僅かに震えたキラの低い声に、シンの片眉が跳ね上がった。
「アイリス、潜入ポイントまで戻れ。トラブルだ」

 

『あなた達はああぁっ!!』

 

 フットペダルを目一杯押し込み、スラスターでデブリを吹き飛ばしたインパルスが急発進する。
高密度のデブリゾーンをトップスピードで抜け、バリケードに向かって飛んだ。
みるみる近づく内に、翼を広げて舞い上がったストライクフリーダムの姿が見えてくる。
金色の関節が鈍く光り、両手のライフル、分離させたスーパードラグーン、
そして腹部の高出力ビーム砲全てを駆使し、ありったけの火力をバリケード目掛けて注ぎ込んだ。

 

「ビーコンを起動させて、現在地を教えろ。俺も回収に向かう」
「危険です、シン。船内にはMSがありますし、パイロットもいる筈です。防御砲塔も動いています。
 私は小型艇か何かを見つけて脱出しますので、待機を続けて下さい」
『無駄口を叩くな』
「あなたは、いつもそうやって」
 またも一方的に会話を終えられ、スーツを密閉したアイリスが首を横に振った。
船の小窓が砕け、凄まじい勢いで空気が吸い出されていく。
その向こうにフルバーストを続けるストライクフリーダムの姿を捉え、
アイリスは強制的な減圧で起こる轟音と船体のメインフレームがねじ曲がる軋み音の中、
勢いをつけて壁を蹴り、通路へと逃れた。
「あっ!? 貴様……」
 出くわした敵の鼻先に掌底を叩き込み、次の相手を警戒しようと背後を振り返った直後、
ストライクフリーダムの腹部ビーム砲がアイリスのいる船を撃ち抜き、
中心に大穴を開けて真っ二つに裂いた。
爆発によって弾き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
意識が遠のきながらも、なんとか船どうしを繋いでいたブリッジに這いずりこんだ。
安全からは程遠いが、宇宙遊泳よりはマシである。
その破れ目からMSのスラスター光を確認し、アイリスは通信を開いた。
「シン、モビルスーツが出ました。ゲイツRが2機です!」
「了解」

 

 ストライクフリーダムの強力無比な砲撃によって急造りのバリケードは、
プラントの市民達が立て篭もっていたガラクタの寄せ集めは、あちこちから火を噴き、
ねじ曲がってバラバラになっていく。
ラクスの乗るエターナルを攻撃されてタガが外れてしまったのか、 砲撃の手を緩める気配がない。
 折れて飛んできた船首を避け、作業船の一部らしきクレーンをビームライフルで撃ち抜き、
回転する甲板を両足で踏み抜き、シンのインパルスはビーコンの位置を目指す。
不意にモニターの周囲が赤く染まり、ロックされた事を伝えた。
辺りに散乱するスクラップが緑色のビームで散らされ、
その一瞬で射線を読んだシンが操縦桿を引き戻して急減速した。
 両脚を左右逆に振って、強引に向きを変えざまの一射。
幾つもの残骸を掠めて緑の光条を宇宙空間に刻み、その先で爆発を起こした。
「何を撃った。砲塔か、モビルスーツか」
『砲塔です。残り2基の筈です。敵MSは健在』
 独りごちたシンに、アイリスの答えが返ってきた。彼女の位置は移動している。
外の様子を確認しながら、シンの命令に従っているのだ。
「脱出に専念しろ」
 投げ捨てるように言ったシンが、センサーに視線を戻す。
全方位に大小様々なデブリが漂い、索敵できない。
メインカメラの映像が1秒に満たないとはいえ、遮られた。
ツインアイの前を塞いだデブリが流れていく寸前、もう一度ロックオンアラートが響く。
 左肩のスラスターが光を吐き出し、側転のようにスピンしながらインパルスが横へ跳ぶ。
レール砲の弾がその場を駆け抜けた。
弾き飛ばされたデブリの流れが弾道を示し、メットに赤い照準環が映り込む。
2機のゲイツRが固まっているのを見て、息を鋭く吸い込んだ。

 

「フン」
 小馬鹿にするように鼻を鳴らし、シンはインパルスに8の字を描かせて敵のビーム射撃を回避しながら、
ライフルの銃口を右へ流れさせた。ロックオンマーカーを見つけた瞬間、 トリガーを引き絞る。
デブリを輝かせながら光が走り、2度目の爆発。
 2機の射撃が乱れた。防御砲塔の射程に誘い込んで十次砲火を見舞おうとしたのだろう。
敵パイロットの動揺を手に取るように察知したシン。
インパルスのツインアイが光を強め、螺旋の軌道を描き、細かいデブリを弾き飛ばしながら相手へと迫る。
散開しようとも、標的は決まっていた。離脱が一瞬遅れた方へ襲い掛かる。
 スラスター出力で勝てないと悟ったか、シールドの先端からビームサーベルを伸ばして
横へと振り抜くゲイツR。
光刃の切っ先が触れ合う寸前、逆噴射を使った高速ターンで左側に回り込み、
ライフルを腰部のマウントへ収めたインパルスが、シールドの内側に右手を差し込んだ。
2機がぶつかり合い、腹部を抉られたゲイツRが各所をスパークさせながらデブリの中へ消えていき、
右手で緑色に輝くビームサーベルを握っていたインパルスが反対方向へ飛び上がる。
その横顔を大爆発が照らしだした。
 2機目のゲイツRの首が回転しながら真横をすっ飛んで行き、左脚がシールドにぶつかる。
ストライクフリーダムの砲撃を受けたのだろうか。
キラはコクピットを狙わないので、 撃ち抜いた船の裏側にいた可能性が高い。センサーに目をやった。

 

「位置を確認した。そこから……5メートル下がれるか?」
『可能です、シン』
 半壊した船に急接近したインパルスが、かざしたビームサーベルを振り下ろす。
融解した金属が飛沫を上げ、船体に亀裂が入った。
『乗れ』
 進もうとした先に光が溢れ、漆黒の宇宙空間とインパルスの頭部、胸部が見えた後、
アイリスが立ち上がって船内通路を走る。
コクピットハッチが開いてザフトレッドのスーツを確認するや床を蹴った。
直後、背後からの爆発で身体があおられる。

 

「……っ」

 

MSの装甲に叩き付けられるか、宇宙の果て目掛けて飛んでいくか。
強張ったアイリスの身体はしかし、しっかりと受け止められた。
機体の外へ身を乗り出したシンが、腰を抱いてコクピット内に引きずり込み、ハッチを閉める。
「す、すみません」
「掴まってろ」
 船の大爆発を尻目に、姿勢を立て直したインパルスがメインスラスターを噴かした。

 
 

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