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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_The Red Impulse(仮)_第03話

Last-modified: 2009-05-05 (火) 02:21:09

『退屈な曲がり角♪ 広がる奇跡、吹き込む運命♪ メロン! Ah~メロン!』

 

「へえ、それでプラントに。この時期じゃ大変だろ?」

 

 胸開きラメ入りシャツを着たアフロヘアの男が、女子高生にビンタを貰って錐揉み回転する。
そんなミュージックビデオを映したテレビを見上げつつ、隻眼のアンドリュー=バルトフェルドは
義肢の左手で器用にコップを固定し、水気を拭き取っていた。
虎のアプリケが刺繍されたエプロンが良く似合っている。
 軍を抜けた彼は、ヤラファス島の外れで小さなコーヒーショップを営んでいた。
領土、領海のほぼ全域が戦闘状態に陥っているオーブでは、数少ない休息の場であり、
今カウンター席に座っているような傭兵その他、非正規の兵士達には重宝されている。

 

「大変は大変だが、向こうじゃ仕事と儲け話に困らないんだそうだからよ。
 何せ、総動員体制で造られた物資がまるで管理されてねえんだ。
 そいつをかっぱらうか、もうかっぱらった奴らから奪い取るか……趣味と実益の両立ってやつだ。な?」
 あちこちが破損したボディアーマーを着て、アサルトライフルを背負う兵士が左を向く。
MSのパイロットらしく、細身の男が機体情報を入力したPDAを神経質そうな仕草で操 作していた。
視線を感じ、無言のまま頷く。

 

「しかもそれとは別に、プラントの方で大々的に傭兵部隊をかき集めているらしい」
「ほーぅ、誰が? クライン議長かな?」
 テレビのチャンネルを変えつつ、バルトフェルドが訊ねた。
半年以上前に記録されたカガリ=ユラ=アスハの演説と、
彼女の生誕から現在に至るドキュメンタリー番組しかやっていない事を確認し、
再びアフロ男のミュージックビデオにチャンネルを戻す。
「議長って、あのピンク姫の事か? まっさか! プラント自身にもうそんなカネはない。
 こいつは俺の見立てだが、恐らく地球連合が動いてるね。
 俺達みたいなチンピラや鉄砲玉をぶつけまくって、高みの見物としゃれこんでいるんだ」
「連合、ねえ。ここやプラントと違って平和な場所らしいが、実際どうなのかな」
「さあな。俺の知り合いも銃だのMSだのを捨てて、連合に行ったのが何人もいる。
 行ったきりで2度と帰ってきやしねえし、連絡も寄越さねえ」
兵士の話に頷きながら、バルトフェルドは拭き終えた何個目かのコップを逆さにして並べ、窓の外を見た。

 

抉れたアスファルト、路傍に転がったまま動かない人々。建物に穿たれた無数の弾痕、
割れた窓。風に乗って遠くから聞こえる砲声、銃声。

 

「ま、馬鹿デカイ勢力圏の割に、情報を出さない国だからな。
 あんまり良い所って訳じゃないかもしれん。マシだとは思うが。
 ……さて、そろそろ行くよ。仲間は気が短いんでな」
 2人は席を立ち、カードで支払いを済ませた。現在オーブは自国民の囲い込みを図っており、
正規軍かオーブ正統政府の関係者でない限り、個人の資産で国外に出ていく事は殆ど不可能である。
この傭兵達は、ジャンク屋ギルドが手配したシャトルを利用するのだ。

 

 ドアが閉まり、『アイシャ』という短い、カフェには不似合いな名前が刻まれた看板が揺れる。
天井で回り続けるファンを見上げ、バルトフェルドは椅子に座って頬杖を突いた。

 
 

 白刃がきらめき、初手に刺突を選んだ敵が床を蹴って、姿勢を低く保ちアイリスに跳びかかった。
通路から漏れる薄明かりが生み出したシルエットが、壁に影を生み出す。
銃が金属音と小さなガスの噴射音を上げ、壁で弾丸が砕ける。
人型の影が、細い物に貫かれた。

 

「はぁっ……」

 

 小さく喘ぐアイリス。間一髪の所で身をかわし、刀を掴む敵の右手首を脇で挟んでいた。
その肘を捉えようと手が動く寸前、胸部を強打されて突き飛ばされた。
猫のように身体を丸め、両足裏をアイリスの胸に叩き付けた敵が、反発力で距離を取る。
 バック宙で姿勢を立て直したアイリスが、ゴムの摩擦音を立てつつ着地した。
4つの青いカメラアイが輝度を増して敵の姿を捕捉した時、敵は天井と壁に足を付けて身体を固定させ、
背中から取り出した銃器を構える寸前だった。

 

それがサブマシンガンであると認識した途端、アイリスは通路に身を逃す。

 

 けたたましい音と閃光が室内で荒れ狂い、彼女を狙った死の豪雨が灰色の壁を穴だらけにする。
アイリスのサイレンサーピストルに装填された特殊弾とは違い、建造物へのダメージが考慮されていない。
「シン、敵です! 援護をお願いできますか!?」
 通信機を介し、こちらへ向かっている筈のインパルスに呼びかける。声が上ずっていた。
正体不明の敵―組み付いた時の感触からして女性だとは解ったが―は、自分よりも近接戦闘、
しかも無重力中での戦闘に長けている。武装も優秀だ。潜入任務を主とする自分とは違う。
敵を探し出し、自ら進んで殺して回る訓練を受けた相手だった。
シンの答えが返って来る事は無く、ノイズが流れるのみだ。

 

サブマシンガンから吐き出された空薬莢が細いバイザーを横切り、『e7』という左肩の記号にぶつかった。
腰を屈め、身体が浮き上らないようにしてゆっくりと足を進める。
通路へ銃口を突き出し、扇状に動かしてから身体を壁に沿わせた。

 

 エアロックの小部屋へと戻ったアイリスが、ドアのコンソールに指を這わせる。
反応がない。腰のポーチからツールを取り出して接続する。ハッキングされた形跡が見つかった。
タイミングを考えるに、敵は間違いなく待ち構えていた。
貿易商社のコンピューターから情報を手に入れた事も発覚していた可能性が高い。
ドアのプログラムを上書きしながら、アイリスは己の失態を悟っていた。
ロミナ=アマルフィを過小評価していたのだ。

 

「シン、応答して下さい……」

 

 呼びかける声にも力が入らない。上司が気付いたとは考えにくい。銃声は当然届かないし、
マズルフラッシュも少し角度を変えれば完全に見えなくなる。
MSに乗っている彼にそこまでの観察力は期待できなかった。
そして、自分のハッキングも間に合わない。
 死の危険と自分への失望に打ちのめされる。
怒りっぽくて投げやりで、会話の度に気が滅入っていたシンの声を思い出しつつ、
アイリスは一心にキーを叩き続けた。

 
 

「アイリス……アイリス?」

 

 ドックの管制室を横切る寸前に見えた光を、シンは見逃していなかった。
通信を送るが聞こえてくるのはノイズだけだ。
スラスターを吹かして機体を後退させ、管制室の窓にカメラの焦点を合わせる。
窓越しに漂う物体を見つけ、それが人である事を確認すると、視線が鋭くなった。
殺したにしろ気絶させたにしろ、アイリスは光や音を立てる武器を使わない。
小さな爆発でも起きたか、それとも電気を点けて直ぐに消したか。
あるいは―

 

「何処にいる。答えろ、アイリス」

 

声に棘が混じる。怒りと苛立ちを込めて部下の名前を呼ぶシン。
機体の各所に装備された防御機銃を使えば、建物を破壊して状況を確認できる。
ただ、アイリスは巻き込めない。

 

「部下の補充が面倒だからな」
 唐突に声を発した後、シンは咳払いした。誰がいるわけでもないのに。

 

事前に彼女から送られてきた、ドック内の地図をサブモニターに呼び出した。
複数の人体を発見した管制室の周囲を見ると、螺旋状の通路によってエアロックと繋がっている。
そこに至る順路を指でなぞる。かぶりを振った。MSに乗っている以上、細やかな動きは取れない。
 いっそ、何もせず待つか。ひょっとすると、それが最善策かも知れない。
プロの領域は、プロに任せるのが一番だからだ。あるいは、MSから降りて救援に向かうべきか。
沢山の選択肢と結果が浮かんでは消え、希望的観測と悲観が入り混じる。時間は進んでいく。

 

「リーダーが、聞いて呆れる……何だ!?」

 

 不意にロックされ、俯いていたシンが視線を跳ね上げさせた。
矢印上のマーカーをヘルメットのフェイスプレートに映り込ませ、目を見開き真紅の瞳が左側を向く。
吐息によって一瞬、プレートの下が曇った。グローブが握り締められ、
鼓動と同時にペダルを蹴飛ばす乾いた音が機内に上がった。

 

真空の闇の一角から光が走り、つんのめるようにして前へ流れたインパルスの
背部メインスラスターを掠めた緑色の光が、虚空に吸い込まれていく。
全身のサブスラスターを噴かして向きを変えるが、レーダーとFCSは何も捉えない。
無論、視界に何か映る事もない。ビームライフルを向けるが、状況は同じだ。

 

「は……何だ? 何を撃たれた、何処からだ!? ビームを……MSのライフル? 敵は?」

 

疑問の声を繰り返し、シンは自問自答する。MS戦の専属教官と初めて行った模擬戦を思い出す。
ザフトレッドに選ばれたのは、何も見つけられずに4回連続で撃墜判定を貰い、
5回目で逆に教官をロックしたその時だった。今度は、5回目まで待ってくれそうにない。
 アラートが響きメインモニターの上部分にマーカーが現れ、
インパルスはドックの管制室を潜るようにして回避行動を取る。
遮蔽物から出た途端、脳天を撃ち抜くようにしてビームが降り、急制動をかけてやり過ごした。

 

「発射までディレイ! 何で? 正確に狙撃する為か? 考えろ……考えろ……っ!」

 

 敵の姿は見えない。レーダーにも映らず、周囲にMSや艦船はない。
高密度のデブリと、アイリスがいるだろうドック。そして彼方で輝く恒星。
アラーム音と共にモニターの右側へ現れる、矢印状のマーカー。
橋のように突き出したドックに機体を滑り込ませた。

 

「撃ってこない! こっちが使う遮蔽物を壊さない理由はなんだ!?」
 訓練用のバトルレコーダーのように事象を捉えて声に出し、耳に入れて脳で再処理させる。
右の目蓋と呼吸が震え、意識を集中させる。
敵は、間違いなく殺意を持って自分を狙っている。にも拘わらずドックごと破壊する事はない。
敵の攻撃は、常に自機の死角から、そして建造物を外すようにやってくる。
 モニター下部に表示されるロックオンアラート。警報音が響く一瞬前、瞠目したシンの瞳が焦点を失う。
インパルスの背部各所が展開し、光を背負って相対的上方に急加速した。
下方で発射光が生まれると同時、シールドで胸部を覆う。
撃ち上げられたビームが盾の中央に着弾し、アンチビームコートによって緑の輝きが四方に散った。
インパルスが急降下し、歪んだ可動橋のようになったドックを、管制室とエアロックを繋ぐ通路を蹴り砕く。

 

 ドアロック相手に格闘していたアイリスは、曲がり角に現れた影を見て身を強張らせた。
サイレンサーピストルを両手で構え、壁にぴったりと身を寄せた。
黒光りするサブマシンガンの銃口が現れると、反対側に移って身体を丸める。
それがゆっくりと扇状に動き、敵のブーツの爪先が見えた途端、

 

激震と金属を引き裂く凄まじい音が襲い、敵の姿が消えた。
インパルスが一瞬で通り抜け、空気が吸い出されてアイリスの身体が浮く。
スーツを密閉しつつ真空中に飛び出した彼女が見たのは、
大きめの破片を次々に跳び移って離脱する敵の姿だった。

 

「シン! 無事ですか!」
『退避していろ』

 

 正面から破片が飛来し、身をよじってかわす。胸に手を置いて早まる鼓動を感じつつ通信を送る。
何時も通りの投げ捨てるような言葉と声に、アイリスは深い溜息をついた。

 

「逃がすかっ!!」
 暗闇に垣間見えた揺らめきを捉え、シールドを正面に構えたインパルスが急加速する。
手動で照準したビームライフルを連射し、緑色の光条が幾度も黒い霧のような何かを貫く。
手足を持った人の姿が浮かび上がった。手にしていたゲイツのビームライフルを捨て、
青白いツインアイがインパルスを振り返り、ブレードアンテナが鈍く光る。
距離が急速に縮まった。黒と金の豪奢な機体が左腰の鞘に触れ、スカートアーマーの左前が僅かにめくれる。
刹那、闇色の霧が全身から生まれ、インパルスへと吹き付けた。
「な、ぁっ!?」

 

『このヨモツが、モビルスーツ1機に捕捉されるとはな』

 

敵機をロックしかけた寸前の出来事。
レーダーとセンサーが死に、嵐のような音が機内に満ちる中、
メインモニターに映っていたのは青白い双眸と刀のように反った光刃のみ。

 
 

闇を斬り裂いた一閃でインパルスの首を刎ねた機体が、黒霧に包まれ悠然と姿を消した。

 
 

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