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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第09話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:24:03

 メンテナンスベッドに『転がされた』その残骸を、2人の研究員が覗き込む。赤と黒の巨大な背部ユニット。
目元に涙のようなラインが入った頭部パーツ、そして、掌に砲口の付いた右腕。

「ZGMF-X42Sデスティニー。ザフトの開発した、空前絶後の欠陥ワンオフ機、だ」

 白衣を着た壮年の男が、深々と溜息をついた。正面のスクリーンにはデスティニーの設計図、そして図面から再現されたCGモデルが映し出されていた。

「素体は良い。素晴らしい。開発中のベイオウルフにも役立つかもしれん。だが」

 スクリーンの映像が代わり、デスティニーの所持している武器が上から順に表示される。

「この装備類がまずい。特に大型ビームソードと長射程ビーム砲は救い様が無い」
「まー、慣性モーメントが大きすぎますよねえ。高機動戦には使えないな」
「そもそもこの2つのウェポンラックによって、ウィングユニットの可動範囲が大幅に狭められている。
ヴォワチュール・リュミエールが、単一方向への加速にしか役立っていない。そして」

 メサイア攻防戦の時に撮影されたと思われる、交戦映像が分割表示された。

「ミラージュコロイドシステムも……ほら、残像が機体の後ろをついてくるだろう。コロイドの展開するフィールドが、機体速度に追い付いておらん。これでは殆ど、ただのエネルギーロスだ」
「おまけに、1G下で飛行できるように推力を設定されてるもんだから、姿勢制御スラスターの位置も偏って、動きに柔軟性が失われるってわけですね」
「そう。真っ直ぐ突っかかって、真っ直ぐに逃げるような、素人の操縦を強いられる。武装の話に戻るが……」

 とんでもない仕事を安請け合いしてしまった運の無い研究員が、疲労の色を滲ませつつ続ける。

「ビーム……フン、ビーム・ブーメランは、敵機への誘導機構と自機に戻ってくる為の機能にビームの発生器が押しやられ、ビーム刃は短く、遅く、何より攻撃前に投擲モーションを取らねばならず、隙になる」

 嘲笑を込めて、彼は手元のリモコンを操作してスクリーンを切り替えた。

「唯一救いがあるのは、このビームライフルだが……掌にビーム砲がついている以上、デッドウェイトに成り下がる危険性も大。掌部ビーム砲も隠し武器として使えれば良いが、これは派手に発光して察知される」
「つまり、結論としてどうなんです?」
「デスティニーのリファインはどうやりようも無い、って事だ」

 研究員はそう言って、リモコンを机の上に放る。

「ストライクフリーダムのように、高機動移動砲台に徹するか、たとえ重装備でもインフィニットジャスティスのように独立したサポートユニットで推力を補うか……どちらも出来ないんだ、これは」
「どう頑張った所で、粗悪なレプリカにしかなりませんか……」
「まず手持ち武器を、このロクデナシ共を何とかしてやる必要がある。ヴォワチュール・リュミエールを最大限に活用するには、機体の軽量化が急務だ。更にミラージュコロイドを排除し……」
「それだと、リファインになるんですかねえ?」
「そこだ、問題は」

 露骨に不快感を顔に出した年嵩の研究員が頷く。

「お嬢様が何をお考えになって『デスティニーのリファイン』を、などと仰ったかが解らん。単に我社の、ダイアモンドテクノロジーの『技術』を披露するだけなら、レプリカで充分。だが……」

 胃の辺りに手をやりつつ、彼は眉間に皺を寄せた。

「だが、もし……ともかく、お嬢様にお伺いしよう。『何があればデスティニーと言えるか』という事をな」
「今出した問題点もまとめて報告します。……ねえ、先輩」

 若手の方が、スクリーンに映る戦闘を見遣ってぽつりと疑問を漏らす。

「こんな機体に乗って、そこそこ戦えてたシン=アスカってのは、どんな奴でしょうね」
「知らん。だが、化物さ。キラ=ヤマトのフリーダムを墜としたんだぞ、そいつは」

 吐き捨てるように言い放ち、忌々しげに残骸を見下ろす。

「御伽話に腐るほど登場する化物の1匹だ、きっとな。化物を殺せるのは、化物だけだと昔から決まってる」

 内部に仕込んだ調査機器が誤作動を起こしたか、デスティニーのツインアイに、ひび割れた保護カバーの奥に、一瞬だけ緑の光が灯った。

「寒……冷房、効きすぎじゃないか?」

 平和記念式典の騒動から1日が経過し、独房の中に入ったシンは小さく身震いした。オレンジ色の囚人服を着て、壁に固定された折り畳み式ベッドに腰掛けている。

「にしても良く考えたら拙かったな、昨日……司令官に苦情行ってないかな」

 深く溜息をつき、抱いた膝に顔を埋める。

「シン=アスカ、出ろ」

 小銃を提げた看守の声に、シンは顔を上げた。

「取り調べですか?」
「そんなようなものだ。お前も知っているだろう、ザラ一佐がお会いになる」

 廊下を歩きつつ、手錠と足枷を嵌められ不自由に歩くシンが嘆息する。

「……あの人? チェンジお願いできません?」
「囚人にそんな自由はない」
「分ってますよ、言ってみただけ」

 肩を竦め、シンは取調室の前に立った。看守がインターフォンを押す。

「シン=アスカを連れて参りました、ザラ一佐」
『中に入れてくれ』
「ハッ。……入れ」

 後ろから押され、シンは取調室に入る。真正面に厳しい表情のアスランの姿を見つけ、軽く息を吐き出した。

「座れ」

 式典に出る前までなら、シンはアスランに対し噛み付いたことだろう。だが、アスランとカガリに対し望みが尽きてしまった今のシンは、まるで診察室にやってきた病院嫌いの子供のような表情で着席した。

「何の御用でしょう、ザラ一佐」
「どうしてあんな事をした、シン」
「どの事でしょうか」

 嫌々ながら、丁寧語で応答するシン。このアスランと同じ部屋にはいたくないが、妙に抵抗して難癖をつけられるのも面倒だった。要するに、関わり合いになりたくないだけであった。

「カガリは泣いていたんだぞ!」
「別に泣けって言った訳じゃありません。答えてくれって言ったら泣いたんです」

 その時の状況を思い出し、シンはかぶりを振る。

「今のアスハは地球連合主席ですよ? あの場で毅然とした態度を取るって想像するのが普通じゃないですか」
「くっ……カガリは、大きすぎる物を背負っているんだ! ザフトを脱走して、キラやラクスの想いを裏切って、海賊になったようなお前とは違う! 大体、生きていたならどうして……」
「だってザフトが役に立たなかったんですから、仕方ないでしょ」
「何の役に立たなかったんだ! お前は何をザフトに期待していた!?」
「単純な事ですよ」

 まくし立てるアスランに対し、シンが事も無げに言った。

「自分を守る力を持たない人達を助ける事、です。ザフトはそれをしなかった」
「戦争は、軍はヒーローごっこじゃないと言った筈だ。何事も順序がある!」
「その順序の所為で、助けられる人が死んだら何の為の順序です? アスラン、ザフトは何も変わってませんよ。
奴ら、民間船がナチュラルのものだって分った途端にのんびり準備し始めたんだから」

 その言葉に愕然とするアスラン。彼としては、ラクスやキラがプラントに行った時点で、内部構造が著しく改善され、民主主義による所の理想の軍隊に変貌したと信じていたからだ。

「アスラン、俺は……」

 話している内に、シンは段々と身を乗り出してきた。本来、人に絶望できるような、冷徹な男ではないのだ。

「俺は力の無い人間を守りたかった。そうする事で自分の無力を誤魔化せると思ってたんです。だから、デスティニープランに賛成した。デュランダル議長の……」
「今の議長はラクスだ。それに、デスティニープランは間違いだった」
「そんな事はどうだって良いです。ともかく……あの考え方が、世界を平和にすると信じていた……!」

 熱の入り始めたシンに、アスランは溜息をついた。

「人の未来を殺す計画だ。そんなもので平和になった世界には、意味が無い!」
「意味が無くたって、俺は二度と……戦争なんて起こって欲しくなかったんですよ」

 きつく目を閉じ、俯いたシンが呟くように言った。

「だから戦争が終わってザフトに戻って、せめて……『守る』事だけでも、って……」
「シン……」
「そうしたら……ザフトはそういう所じゃなかった。だから、俺は守る事の出来る場所に行ったんです。
それがたまたま、非合法の武装組織だっただけで。アスラン、俺は変わってません……」
「シン、カガリに謝罪してくれないか?」

 自分の話をまるで聞いていなかったようなアスランの一言に、シンはぼんやりと彼の顔を見上げた。

「…………えっ?」
「お前の気持ちは分った。だから、昨日の事をカガリに謝って欲しい」

 呆然としたシンの前で、アスランは淡々と言葉を紡いでいく。

「過去に拘るのは止めて、戦争の無い世界の為に手伝ってくれ、シン。お前の望みだろう?」

 その時、インターフォンが鳴った。言葉が上手く飲み込めていないシンを置いて、アスランは振り返る。

「どうした?」
『シン=アスカの弁護士を名乗る男が、ザラ一佐に面会を求めています』

「この度は公共の場で騒ぎを起こしてしまい……申し訳、ありませんでした」
「いや、私も……取り乱して済まなかった」

 カガリ=ユラ=アスハの執務室にて、頭を下げたシンとカガリが握手する。一晩寝てすっきりしたのか、カガリは至極晴れやかな表情だった。2人に対しカメラを回していた男が親指を立てる。

「OKです」
「じゃ、失礼します」

 疲れ切った表情のシンが、弁護士と共に出て行く。その後姿をアスランが苦い表情と共に見つめていた。

「シン……あいつは何も変わってない。昔の、甘やかされて増長するあいつのままだ!」
「……さあ、どうかね」

 横に控えていたアンドリュー=バルトフェルドが、小さく笑う。

「だって見たでしょう! 相変わらず反省せず、嫌な話には聞く耳を持たない。周りがああやってシンに現実を見せなければ、あいつはまた駄目になってしまう!」

 熱の篭ったアスランの言葉に、バルトフェルドは隻眼を閉じて軽く肩を竦めた。

「挙句、海賊なんかになって……誰かがあいつを導かなくちゃいけないのに……!」
「でも……きっと、シンがあんなになったのは、私の所為なんだろうな……」
「カガリの責任じゃない。俺が……俺があいつの性根を叩き直し損ねたから……」

 アスランの言葉に、カガリは執務室の窓から空を見上げた。

「上手く、いかないな。ホント」

 Tシャツに薄手のジャケット、ジーンズというラフな出で立ちでオーブの軍警察署から出てきたシンと、全身スーツで固めた弁護士の行く手に、黒塗りの車が止まる。弁護士は助手席に乗り込み、立ち尽くすシンの前で後部座席のドアが開いた。

「シン……どうぞ。港まで向かいますから」
「港? ……あ、そっか。お願いします」

 奥から顔を覗かせたアズラエルに会釈し、シンも乗り込んでアズラエルの隣に座る。

「お疲れ様でした」
「1日独房に入ってただけだから、そんなに疲れてないですよ。でも……ハハッ」

 乾いた笑いと共に、シンは頬杖を突いて海沿いの景色に目をやった。

「変わってなかったな、アスラン。変わらず偉そうで、説教臭くてよく解んなかった」
「ザラのような男が、信奉者ばかりのアスハ体制を更に悪化させている原因なのでしょう」
「かもね……ああ、有難うございました。たった1日で釈放されるとは思わなかった」

 シンが顔を上げ、アズラエルに頭を下げた。

「大きな借りを、作っちゃいましたね」
「別にシンに助けろと頼まれたわけではありませんので、お構いなく……ああ、そうそう」

 濃灰のツーピースを着たアズラエルが、思い出したように口を開いた。

「今回手配したMSは汎用性に富む機体ですが、シン、MSには何が必要と思われます?」
「は? 量産機だったら、何より汎用性でしょ。けど……」

 16歳の少女が口にするには余りに異質な話題とは思いつつ、兵器産業の社長だからと納得したシンが続ける。

「やっぱり……速さ、じゃないですかね。単純なスピードじゃなくて」
「機動性ですか」
「そう。どんなに強くて大きな武器を持ってたって、命中させられなくちゃ意味が無いし、ビームを当てられれば、大抵の装甲は意味がありませんから。機動性だと思います」
「武器を小さく、機体は軽くするのが良いという事ですか?」
「ええ。……どうして? 新製品の参考にしたいとか?」

 デスティニーでの経験もあり、何とは無しにそう答えたシンが訊ねる。その問いに、アズラエルは目を細め、薄っすらと浮かべた笑顔のみ返した。

「ま、良いや。それより、有難うございました」
「え? ですから、私は貴方様に頼まれたわけでは……」
「いや、そうじゃなくて」

 アズラエルの言葉を遮ったシンが、彼女とは違う、憑き物の落ちたような笑顔で告げる。

「あの時、式典で、『助けさせて』くれて有難うございました」

「大活躍だったようだな」
『すみません、司令官……』

 オーブの港にあるダイアモンドテクノロジー社の通信端末にネットワーク接続させたミナは、手元の新聞をシンの映るモニターに見せた。高解像度モニターに映された紙面に、シンが恐縮する。

「ふふ、およそ7時間前、シン=アスカを逮捕したという通信がオーブ軍警から入り、1時間前、カガリ=ユラ=アスハ主席の温情により釈放したので感謝せよという旨の通信を受けた。まあ、委細は予の知り得る所では無いのだが、とにかく良しとして……お前の任地が決まった」

 その言葉に背筋を伸ばしたシンに微笑を向け、ミナは言葉を続けた。

「黒海沿岸都市、ディオキアだ。洋上任務が主となる。既に機体を手配されたそうだが、大丈夫か?」
『大丈夫です。機体にはフライトユニットがついてます』
「ほう、何を寄越してきたのだ?」

 ミナの言葉に、シンは読みかけと思われるマニュアルの表紙に目を落とした。

『GAT-02L2 ダガーLです。ジェットストライカーパックを貰ってますよ』
「なるほど。ダガーLとはソツが無いな。では現地に到着後、連絡するように」

 そう言い渡して、ミナは通信を切る。

「ダイアモンドテクノロジー社……フン、悪趣味な社名だ。わざとらしい程にな」

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