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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第12話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:25:34

 黒海におけるミハシラ軍の活動は、残念ながら迅速にして効率的と形容するには程遠い状況だった。さながら太古の大航海時代の如く、MS輸送船で港伝いに移動し、海路と港湾を監視するのだ。

「この辺りの海賊って、何処から出てくるんです?」
『活動拠点は黒海のど真ん中だろう、というのが我々の推測です』

 大きな湾内の岸伝いに進む船の上空を、ムラサメ偵察型とダガーLが哨戒する。

「だったら、ディオキアの基地にいるザフトに呼びかけて殲滅すれば良いじゃないですか」

 ダガーLの機内で、シンはムラサメに乗るエコー7に口を尖らせた。

『海賊は高性能なECMに加え、指向性のミラージュコロイド設備を有しています。つまりレーダーでは追えず、高高度偵察機では察知できません。しかも拠点とはいえ、移動しますので』
「じゃあ、南西のボスポラス海峡で網を張って補給線をストップさせるとか」
『その手は1年半前、ミハシラ軍が当地域に派遣された時点で既に試みました。ですが』

 エコー7は少し間を置いて、ヘルメット越しに憂いを帯びた表情を見せた。

『お恥ずかしい話、海賊の情報網は我々のそれを上回っているのです。陸上でも同じです』
「何で、また?」
『シン、海賊とはいえ機動兵器を使う集団です。もはや無頼の輩ではない』
「支援している連中がいるって事ですか?」
『恐らく企業です。言わば、彼らは私掠船団なのです』

 その言葉に、シンは信じられないと言わんばかりにかぶりを振った。

「そんな……俺達は企業の船を守ってるんですよ?」
『しかしこの辺りでは激しい企業間の抗争が行われています。南東のガルナハンにあるパワープラントから生み出される電力を求め、彼らは自分達の手駒を送り込み、また他者を追い出そうと必死なのです』
「電力を、求めてか……」
『勿論、ユニウスセブン落下によって大きく縮小した、人間が居住可能な地域もです』

 エネルギーと土地。土地は言うに及ばず、仮にNJCで原発が稼動可能になったとしても、ライフラインの回復が終わらねば意味が無い。かつ、ザフト側の開発したNスタンピーダー技術の潜在脅威と、その活動を全く取り締まれていない海賊、非合法武装組織などによるテロ行為の危険性が大きすぎる。

『シン、地球は今、最も原初的な要素の不足に苛まれているのです』
「地球だけじゃない。プラントも、レクイエムで……」

 ブルーコスモス最後の盟主、ロード=ジブリールがトリガーを引いた戦略砲レクイエム。
それによって破壊されたプラントは6基。しかし、その計算方法は極めて楽観的だった。
 数に入っているのは、あくまで全壊し再利用が不可能になったプラントのみ。実際はレクイエムの射線が掠めていった実に20基以上のプラントが甚大な被害を被っている。国力換算すれば、プラントは地球と同等か、もしくはそれ以上のダメージを最後の最後で受けたのだった。

「そうか。だから……『歌姫の騎士団』は歓迎されたんだ」
『はい? すみません、ちょっとノイズが入って……』

 かつてデュランダル側に立って最後まで戦い、敗れたシンは独りごちる。

「エネルギーと土地。奪い合いになった時、最後の最後で使われるのは武力だ。最強の武力を持ったクラインとアスハを、世界中が受け入れない筈が無いじゃないか……そうだったのか」

 デュランダル亡き後に開かれた、ラクス=クライン達の盛大な凱旋パレードを思い出したシンは、エコー7の問いに答えず何度も頷く。

「だからクラインやアスハは敵じゃない。戦ったり、倒したりするような価値が無い……」
『シン?』
「力だ。彼らは力で……ぁ、はい!」

 元よりシンは思い込みが激しく、その思考は袋小路に入りやすい。でなければ、デスティニープランなどという、遺伝子で人類社会を制御しようという計画は支持できなかっただろう。
ひとえに、己の無力を知りつつも、全てを救おうと足掻く傲慢さと欲深さ故である。
思考の深みから浮き上がって、慌ててエコー7に返答した。

『ディオキアに帰還します。先に船へ戻って下さい』
「了解」

 レドームを背負ったMA形態のムラサメが高度を上げ、最後の偵察行動に入る中、シンはMSを船へと向ける。上空から見下ろす真昼の海はちょっとした見物だ。燦々と降り注ぐ太陽の光に海面が輝き、船影をぼんやりと浮かび上がらせる。

「そう、ただの力。やつらは、それを解ってたから……いや。本当に解ってるのか?」

「あ、イザーク、昼飯何にする?」
「ディアッカ。半年間ブルーコスモスの活動がゼロなんだが、どう思う?」
「会話が繋がってねえよ……ブルーコスモスがどうしたって?」

 ナスカ級高速戦闘艦『ボルテール』。毎度のすれ違いに、ディアッカは思わず額に手をやって天井を仰いだ。

「静か過ぎる。テロは勿論、最近は集会も無い」

 まるで原住民族の飾りか何かのように、大量のメモリスティックを制服のホルダーに掛けたイザークが唸る。

「妙だねそりゃ。時勢を考えれば、流行真っ盛りだろうに」
「そうだろう? デュランダルの言った通り、連中は思想、主義者の集まりなんだ。なのに」
「で、イザーク、昼飯は?」
「T式レーションとサプリ」
「よくもまあ、それだけで生きてけるな……珍しく天然食材があるのにさ」
「2年前の記録が曖昧な所も気に入らん。クライン議長に報告すべきか? いや、まだ……」

 ディアッカには応えず、イザークは眉間に深い皺を寄せて何かを呟きながら艦内通路を流れていった。

「大丈夫かアイツ……お、シホちゃん」
「あの人って、いつも何考えているんでしょう」

 何時の間にかディアッカの背後に立った、ジュール隊唯一の女性隊員、シホ=ハーネンフースが溜息混じりにイザークの後姿を見送っていた。

「前の戦争の時だって、いきなりクライン議長の艦を援護するって言い出して……」
「まー良かったじゃん? 俺達、ぎりぎり勝ち馬に乗れて……裏切り者にはなったけど」

 肩を竦め、ディアッカは何時もの軽薄な笑みで応える。

「前議長のデスティニープランってのも、正体がうやむやになったし、結局ただの権力闘争だったのかね?」
「さあ……ねえ、エルスマンは、何でジュール隊長に従ったんです?」
「だって、あいつ面白いじゃない」
「お、面白いですか?」
「いやあ。奴本人の命令ってのもあったけどさ」

 絶句するシホの前で、ディアッカが唇の端を吊り上げた。

「昔から、奴にくっ付いてくと大抵面白くて美味しい思いが出来た。だが、奴は何も考えてないんだ。
あのイザークには、楽しめるネタを探す独特の嗅覚みたいなのがあってね……ところで」

 半眼になったディアッカが、シホの鼻先に人差し指を突き出した。

「そっちこそ、何で汚名被ってイザークについて、俺と同じ裏切り者になったんだ?」
「私は命令で動きました。上位指揮系統が混乱する中で、エターナルを援護するというジュール隊長の指示だけが伝わったからです。それが結果としてどうなろうと……何です? その顔」
「んー見え見えだね。射撃シミュレーションのランクDメニューくらい見え見えだね」

 顔の前でくるくる指を回され、三白眼になるシホ。

「何が、言いたいん、ですか!」
「べーつーにー?」

 何度もディアッカの指を掴もうとするも、紙一重で避けられて虚しく宙を掻く。

「……機体の整備、忘れないで下さいね、副隊長!」
「はぁい」

 勢い良く背中を向かれて飛んできた髪の房を、背中を反らしてかわすディアッカ。無重力状態の通路でそのまま宙返りになり、先程まで天井だった所に緩く手を突いた。

「いやはや……」

 すらりと伸びたシホの脚に表情を緩ませつつも、浮かんだ笑みは何処か皮肉げだった。

「俺達みたいな裏切り者が平然と居座れる、上意下達さえあやふやな義勇軍組織。戦争が無くなって、直接監視も届かないディオキア在住の誇り高きザフトは、一体どんな惨状を呈しているのやら、なあ?」

「ディオキアが襲われたんですって!?」
『ディオキア基地です。ザフトの拠点です』
「基地が!? 嘘だろ……」

 ミハシラ軍所有の輸送船格納庫。MSに乗り込んだシンは、通信に愕然となりながらも手早く発進準備を整えていく。

『20分前、ボズゴロフ級潜水母艦3隻を港湾前の海中に確認。最初の雷撃で湾内のザフト艦船を航行不能にさせた後、アッシュ、ゾノの混成部隊を出撃させて基地を強襲した模様です』
「何で、そんな簡単に!」
『また、未確認ですが基地内に陸戦隊も送り込んだようです。MS格納庫が襲撃を受け、既に何機かハイジャックされたらしい、という情報をキャッチしました』

 同じく出撃準備を続けるエコー7が、此処で声の調子を落とす。

『襲撃者はどうやら、ディオキア基地の詳細なスケジュールを入手していたようです。最も手薄な状況を狙って、戦力を集中させたと思われます』
「海賊の仕業じゃないな。こんな派手な事は、しない……!」

 望遠カメラで撮影された、各所で火災が発生するディオキア基地の映像を見つつ、シンは歯噛みする。

『規則上、我々は基地に進入できません。基地周辺で待機し、被害拡大を食い止めます』
「周辺には何があるんです?」
『2キロ先に港町が、そしてすぐ手前に難民キャンプがあります』
「難民?」
『ブレイク・ザ・ワールドで住む場所を失った人達が避難し、定住化した場所です』

 それを聞いたシンが肩を落として俯く。自分の過失を思い出させられた気分だった。

「そうか。2年で回復するような被害じゃ、無いもんな……」
『そしてもう1つ。『同業者』に気をつけて下さい』

 エコー7の言葉に、シンは顔を上げた。

「同業者?」
『私達と同じく、海賊やレジスタンスを専門に狙う非合法武装組織があるのです』
「味方ですか?」
『かもしれません。MS3機のみの編成ですが、いずれもエース級の技術を持っています』

 ムラサメを起動させたエコー7が、輸送船のポートへと機体を歩行させていく。

『黒と紫で塗装されたザクウォーリアが3機です。現れるかも知れませんので、攻撃する際は注意して下さい』
「了解です! あの、共闘した事はあるんですか?」
『1度だけ。見事なフォーメーションでした。では、行きます』

 レドームを背負った彼女のMSがスラスターを噴かして飛び上がり、MAに変形して基地方面へと飛んで行く。シンもダガーLのマシンステータスを最終確認し、発進コールに備えた。

 ディオキア基地へと続く舗装路に停車した3台のMSトレーラーから、3機のザクが立ち上がっていく。
黒を基調とし、腰前のアーマーなどを紫に染めたそれらのモノアイが、濃いピンク色に輝いた。
 通信モニターに、額の左側を古傷が走った眼鏡の男が映る。

『何時もの連中がまだ来てない。こいつはチャンスだ、2週間ぶりだぜ?』
「良いねえ。襲われてんのが軍の基地でなきゃもっと良かったんだけどねぇ」

 オレンジ系の赤毛を後ろへ流した女の、眼帯で覆っていない左眼に獰猛な光が宿る。
通信画面が分割され、髭面の男が割り込んだ。

『暇潰しにはなるさ。な?』
「フン、まあ良い。獲物は獲物だ。ともかくドンパチがやれる。それで満足しておく」

 ウィザードを装備しない最軽量モードの3機が、大地に降り立ってビーム突撃銃を構える。

「さあ遅れるんじゃないよ野郎ども! 今日は、ミハシラ軍に休暇をくれてやるんだ!」

 女の叫びと共に、3機のザクはスラスター噴射による跳躍準備姿勢を取った。

 ディオキア基地傍の市街を背負ってダガーLが着地する。MA形態のムラサメ偵察型が、レドームを起動させて上空を大きく旋回していた。

「他に味方は来ないんですか?」
『はい。残念ながら間に合いそうにありません。防衛線が伸び切っていますから』
「そうですか。……持ち逃げされたMSはどう動くんだ?」
『索敵完了しました。奪取され、基地を出たMSは現在ゲイツR2機、ザクウォーリア2機』

 エコー7は一旦言葉を切って、溜息混じりに続けた。

『全機……最高速度で此方へ移動してきています』
「何で!?」

 叫ぶシンに、エコー7は口調に諦観を滲ませて応えた。

『市街地を横断して逃走し、追撃側を迂回させるつもりなのです』
「確かに迂回させられるでしょうけど! でもこの連中は、海賊じゃなくて……」
『彼らがレジスタンスかどうかは、推測の域を出ません。それより心配なのは、追撃側がまず間違いなく迂回しないであろうという事です』

 その言葉を聞き、シンは鳩尾の辺りにむかつきを覚えつつ、既に頭の中で答えが出かかっていた問いを口にした。

「どうして、です?」
『ディオキア基地はザフト部隊がおり、難民キャンプと港街に住む大部分がナチュラルだからです』
「役立たずが!」

 悪態をついてしまった後、シンは激しくかぶりを振った。罵っている場合ではないのだ。

「全速力で向かってくる4機のMSを、2機で止めるのは難しい。攻めましょう!」
『ええ。……シン、新手です』
「まだ来るんですか!?」
『ザクウォーリアが3機、レーダーレンジに入りました。恐らく例の同業者です』
「味方じゃないですか! 良かった……」

 安堵の溜息をつくシンに、エコー7は首を横に振った。

『油断はしないで下さい。我々もそうですが、あくまで非合法の武装組織なのですから』
「賊を専門に襲う賊なんでしょ? 俺達を襲うかもしれないけど、街やキャンプは眼中に無いはずだ」

 自信あり気に頷いてみせるシン。思わずエコー7は苦笑した。

『確かに、彼らは1度として、戦闘不可能な対象を攻撃、破壊した事はありませんが』
「じゃ、大丈夫です。きっと俺達の『敵』にも食い付きますよ!」

 ヒルダ=ハーケン、マーズ=シメオン、ヘルベルト=フォン=ラインハルト。3人の初陣はC.E.70, 世界樹攻防戦にまで遡る。ザフトのラウ=ル=クルーゼが大戦果を挙げ叙勲される傍らで、彼ら3名に光が当たる事は無かった。物量で圧倒的に劣るザフトでは、何よりも個人主義が重視されたからである。
 結局、三位一体の連携攻撃を主とし、3人がかりとはいえクルーゼに迫るほどのハイスコアを叩き出したにも関わらず、撃墜数をそのまま3等分された上、クルーゼを引き立たせる為に何の賞与が贈られる事も無かった。連携よりも個人技が評価されるというこのザフトの悪習は、後世まで引き継がれる事となる。
 勿論、彼らの叙勲見送りはそのような事情だけによるものではない。彼らが組織内部において、半ば公然と『プラント批判』を続けていた事もあった。後のオペレーション・ウロボロス発動を重営倉内で知った際の発言は特に有名で、当時のプラント評議会メンバーにして国防委員長であったパトリック=ザラ直属の部下が、彼らの口を塞ぐ為だけに反逆罪を『改正』しようとした、という逸話まで残っている。
 過激な言動に加え、トラブルと戦闘をこよなく愛する性分もまた、『平和の守護者』を自称したいザフトの意思決定者達を悩ませる事となった。幾度と無く最前線に3人を送り込んだが、その度に戦果を挙げて生還してしまう。戦果は挙がる度に握り潰し、その功績は断固として認められなかったが、当の彼らは全く気にしなかった。彼らが欲したのは勲章や賞賛などでは無かったからである。
 そのような彼らがクライン派に属し、名目上『戦争を終わらせる戦い』に歌姫側として参戦した事は、当時ザフト各所に疑問を生んだが、直ぐに忘れられていった。与えられていたドムトルーパー1機を、訓練中の事故で全壊させた責任を取るといってザフトを脱隊した時も、厄介者がいなくなって何よりと、ザフトホワイトの間でシャンパンが開けられた程度であった。
 彼らは路傍の石であった。しかし石ころにつまずいて転ぶ人間は、何時の時代にも存在するのである。

 ディオキア基地はパニック状態だった。ボズゴロフ級潜水母艦3隻とMS10機以上の一斉投入など、明らかに海賊の行動とは思えなかったし、何より機動部隊の多くがペルシャ湾のマハムール基地に移動した隙を突かれるなど、完全に予想外だったからである。

「さっさと迎撃しろ! こっちは正規軍だぞ!」
「第2ゾノ部隊との通信途絶! 水中戦力を喪った!」
「マハムールとの連絡はまだ繋がらないのか!?」
「真っ先に通信設備を破壊されたんだ、無茶を言うな!」

 時折爆発の震動が襲う基地司令部に怒号が飛び交う。ザフトは平時でさえ命令系統があやふやな為、統制の取れた敵部隊を押し返さねばならない際は、優秀なパイロットに依存する。全てが義勇兵であり、兵の不満を抑える為に上下関係を極力排除してしまっている所為で、チームワークもこの上なく希薄であった。
エースがおらず指揮に秀でた者もいないザフト部隊は、ただただ悲惨である。現在のディオキア基地がまさにそれだった。

「上空から降下ポッド接近! ザフト、ジュール隊のシグナルを確認!」
「あの裏切り者共か! 癪だが、今は味方だ。仕方が無い! データを送ってやれ!」

 オペレーターに指示を飛ばし、ザフトホワイトは傍の壁に拳を打ち付けた。

 大気圏突入の際の熱を耐え切った降下ポッドの外殻が割れ、熱風と共に内側から吹き飛ぶ。ポッドの外縁に取り付けられていた減速用バーニアが推進剤を使い切ってリング状の部品が弾けた。背中合わせに搭載された白のグフイグナイテッド、黒のガナーザクウォーリア、そして肩に鳳仙花の意匠がプリントされ、左腕に大型シールドをハードポイントされた青色のゲイツRが、そのまま前のめりになって落下する。雲を裂き、青空に白い尾を引いて急降下する3機のモノアイに光が灯った。

『くっそおぉ!! 基地が崩壊寸前だぞ! 何てザマだ!』
『Great…どうしてこう、俺の予感は悪い方にバシバシ当たるかなぁ』
『高度ぎりぎりで制動をかけましょう。あと15秒!』
『分った。良いか、このグフにはフライトユニットがあるが、お前らは気をつけろ! しくじるなよ!?』

『ディン2機が加わりました。約30秒で接敵します』
「チッ……エコー7、俺は前進します!」

 シンは覚悟を―ザフトを脱走して以来、幾度と無く決めてきた覚悟を―決めた。此方は2機だが、大型のレドームを装備したムラサメ偵察型は機動力に不安があるのだ。

『ですがシン、それ以上はディオキア基地からの警告が……』
「この距離じゃ、難民キャンプに被害が出るんですよ!」

 難民キャンプは、まさにその名が相応しい有様だった。雑多なテントが寄り集まり、車も冷暖房も無い、命以外の一切を放り捨てて、かつ未だ何も取り戻せていない人々の集まりだった。

「巻き込めません、絶対! ……ザク3機が何をやってるか、分りますか!?」
『それが……基地には目もくれません。このままでは、敵6機に合流します』
「そんな。まさか今度は敵なのか……!?」

 目の前が暗くなる。2対9など、どうしようも無い戦力差だ。上空のムラサメ偵察型がMSに変形し、その場でホバリングする。

『分りません。何より、彼らの行動原理が……あ』

 突然、遠巻きについてきていただけのザク3機が一気に加速し、6機の強奪MSに向けてビーム突撃銃を斉射した。ディン1機がスラスターの左側を破壊され、高度を落とす。彼らの前進が止まった。
 地上に降りていたシンのダガーLに通信が入った。

『ミハシラ軍だね? ……おや、誰かと思ったらシン=アスカじゃないか』

 通信モニターに眼帯をした女が映る。パイロットスーツではなく、平服姿だった。

「ああそうだ! 助けてくれるのか!?」
『助けるどころか、あんた達が来る前に全部片付けてやろうとしてたんだ。にしても、ちょっと前までオーブにいたと思ったら、もうディオキアかい? 死んでるクセに落ち着かない野郎だよ』

 喋っている間も手足は休めない。振り切ろうとする6機相手に散開し、突撃銃を向け続けている。
無論、それはシンもエコー7も同様だ。5対6だが、形勢は逆転しつつあった。

「分った。この状況を乗り切った後、俺が叶えられる頼みだったら何でも聞く!」
『何でもだって? マーズ! ヘルベルト! 聞いたね? 分った。協力する』
「そうか、ありがとう!」

 何ら疑念を感じさせないシンの笑みに、ヒルダ=ハーケンは一瞬驚いた後、愉快気に笑い返した。

『礼を言うにはまだ早い。こいつらをフクロにするのが先さね』
「ああ!」

 今度路傍の石に蹴つまずいたのは、シン=アスカという名の男だった。

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