Top > SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第16話
HTML convert time to 0.007 sec.


SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第16話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:28:11

『それで、2人は?』
「はい、命に別状ありません。医務室で寝かせています」
『そうか。なら良い』

 中継基地の奥にある通信室で、モニターに映ったロンド=ミナ=サハクは、3人の女性の前で頷いた。

「シンが、あれほど激しやすい性格とは思いませんでした……」
「まあ、馬鹿な男同士の友情確認みたいなもんさ」

 エコー7の嘆息に、直ぐ隣のヒルダは楽観的に笑う。半眼になるシホ。

「一撃目から急所を狙い合った、あれのどの辺りで友情を確認できるのですか」
『それはともかく。フム、救世同盟か……』

 ミナが視線を逸らし、顎に手をやって考え込む素振りを見せた。

『単なる、体制に反抗するレジスタンスの一派では無いというのだな』
「現在、地球のレジスタンスの主張は資源、資産の再分配に集約されています。つまり、2度の大戦と2つの大規模な災害で荒廃した世界の復興が進んでいないのは、体制側の無能ゆえだと言っているのです。そういう組織は、通常MSや戦艦を頻繁に使いません」

 そう説明し、エコー7は一息ついた。ミハシラ軍に所属して1年経つが、ミナの前では未だに緊張する。

『それはそうだろう。自分達もまた弱者だ、という建前があるからな』
「その点、救世同盟は異常です。ディオキア基地を襲撃した彼らは正規軍並の装備を持っていました」

 シホが口を開き、エコー7が頷いた。

「更に、撤退時の迅速さを見る限りでは、戦術指導を行った人間か、優れた指揮官の存在が考えられます」
「優秀な指揮官が1人いても命令は伝わらない。部隊まるごと元軍人か、『外注』だ。
あと、奴らは間違いなく弱者の味方じゃあない。善人ぶるんだったら、奪ったMSを街と難民キャンプに向かわせるなんて事はやらない」

 愉しげに隻眼を瞬かせたヒルダが、話に割り込んだ。

「無理にでも市街戦に持ち込んで、正規軍に街を壊させたかったんだろうよ」

 その手の破壊活動、妨害工作を愛して止まない彼女の言葉に、モニター外の2人が顔を顰める。

「オマケに、コーディネイターしか使えない『筈の』ザフト製MSばかり使ってる。救世同盟は、コーディネイターへの反感を焚き付けてるのさ。何の為かは、解らないけどね?」
『……解った。救世同盟の調査を命じよう』
「司令官。我々は、公式には海賊です。ガルナハンに機動部隊を派遣するとなると……」
『直接ガルナハンへ向かわせるような真似はせぬ。連合軍基地に協力を依頼する』

 ミナはエコー7へ静かに微笑み、おもむろに横を見遣った。

『現在、北部の連合軍基地でテロリストに対する戦術アドバイザーを求めているそうだ』
「また……随分、丁度良い場所で募集しているのですね」

 警戒心を露にしたシホの言葉に、目を細めるミナ。

『うむ、幸いだったな』
「『協力者』は信頼できるのですか?」
『ビジネスパートナーとしては、な』

 しばし正面から見つめ合い、先に視線を落としたのはシホの方だった。

「解りました……覚悟は、固めてきましたから」
「良いんだけど、そこ、コーディネイターは立ち入りOKなのかい?」
『特定措置として認められたそうだ』
「おおらかなナチュラルもいるもんだ」

 心にも無い事を口にし、ヒルダは小さく口笛を吹いた。ガルナハンの外周に締め出された連合軍が、利権を奪還する『風穴』を欲しているという事は、政治に疎い彼女でも理解できる。

『では、最終合意へと詰めていこう。ハーネンフース、其方の言葉は、ジュール隊の総意と受け取って差し支えないか?』
「構いません。此処へ来る前に、隊長から万一の際の交渉役に任じられています」
『フ、万一の際か。ではジュール隊は良いとして……予らの編成をどうすべきだろうか』
「多分、ベッドに転がってるもう1人が志願するんじゃないかね。あたし達もセットで」

 ヒルダの言葉に、ミナが視線を向けた。

『恐らくあの男は首を縦に振るだろう。しかし、お前達は?』
「あたし達はシンの部下だからね。あいつが行く所は何処でもついて行くさ」
「ヒルダ、本当に状況を理解しているのですか? ミハシラ軍としての支援は殆ど出来ませんし、何よりガルナハンは、要塞化された基地に多数の機動兵器が置かれているという以外、全く情報が無いのですが」

 エコー7の言葉に、ヒルダは不敵な笑みを浮かべる。

「だから、良いんじゃないかぃ」
『では……眠っている2人の回復を待って最終決定としよう』
「よろしいのですか? 司令官、下手をすれば、ミハシラ軍は正規軍といざこざを起こす事になります。
せめて、我が方の部隊員を一時的に除名して……」
『エコー7。いざこざなど、既にミハシラ軍結成の際から起きているのだ。しかも、我らは海賊。隊員の除名を行うとすれば、メディアを通じて宣伝するしかない。余計に疑われるではないか』
「しかし……」
『安心するが良い。予自らが救世同盟の調査を命じたのだ。つまり派遣したミハシラ軍が現地で如何なる行動を取ろうと、それは全て予の命令によるものという事になる』
「は……」

 お手上げ、とばかりにエコー7は溜息をついた。元五大氏族という、いわば『王族』の血を引くミナは、時に理屈を超えた強引さを発揮する。こうして責任の所在をはっきりされてしまったという事は、最早 意見無用という事なのだ。一抹の不安を覚えつつ、小さく敬礼する。ミナの強引さと自信も、ミハシラ軍を継続させる要素の一つだったからだ。

『急ぐとしよう。Msハーケンの仮説が正しければ、時間は救世同盟に味方している』

 ミナの言葉に、3人は思い思いに首肯した。

「起きているか?」
「ああ」
「良い拳だった」
「アンタも」

 基地の医務室。背中合わせで横たわるシンとイザークが、苦い表情で言葉を交わす。

「なぜ……プラントを棄てた、シン」
「え?」

 何処か苦しげなイザークの言葉に、シンは目を見開いた。ただ高圧的に罵声を浴びせて来るとばかり思っていたからだ。

「お前の力は、プラントの守りに必要だった。何故プラントを、ザフトを見捨てた?」
「……笑わないか?」
「言ってみろ。下らん理由なら笑う」

 その言葉に一瞬詰まった後、シンは意を決した。

「ザフトに入ったのは、力が欲しかったからだ。力が無い所為で、家族を失くしたから」
「……」

 無言で先を促すイザークに、シンは続ける。

「だから戦争が終わって、ザフトに復隊したのも、戦う力が無い人を、守る為だった。
けど、ザフトはそういうつもりじゃなかった。コーディネイターの組織が守るのは、やっぱりコーディネイターだけだったんだ」
「オクトーベル3宙域で起こった、商船襲撃事件のことか」
「そうだよ。『歌姫の御手』は、ナチュラルを助けようとしなかった」
「報告書には、『御手』が率先して救出した、とあったが」

 イザークの言葉に、シンは鼻を鳴らした。

「『御手』が書いた報告書だろ。……どっちを信じるかは、任せるけど」
「良い。話を続けろ。まだ、お前がミハシラ軍に入った理由を聞いていない」
「単純さ。力が欲しかったのは、守りたかったから。ミハシラ軍は、守らせてくれるんだ。ナチュラルも、コーディネイターも。それだけだ。本当に、守りたかっただけなんだ。……笑えよ」
「何処を笑えば良いかさっぱり解らん。感動しろと言われる方がまだ簡単だ」

 どちらからともなく向かい合った時、イザークの表情は真剣その物だった。

「するとミハシラ軍では、ナチュラルとコーディネイターが融和出来ているのか」
「そういう綺麗で格好良い話じゃないと思うし、サハク司令官に心酔しているわけでも無い。俺達は自分達の力を、サハク司令官が用意した『環境』で役立たせてるだけなんだ、きっと」

 シンの言葉に、イザークは幾度か頷いた。

「そうか……。非合法組織でありながら、人材が集まるのはその為かも知れんな」

 しばし2人の間に沈黙が降りた後、ふとシンが口を開いた。

「俺の方も、聞きたいんだ」
「何でも聞け」

 身体を起こしたイザークに倣いつつ、シンは訊ねた。殴られたこめかみを軽く押さえる。

「何で、デュランダル議長を裏切ったんだ?」
「デスティニープランが、コーディネイターに都合が良過ぎたからだ」

 明瞭過ぎるイザークの物言いに、シンは一瞬反応に困った。

「……何だって?」
「遺伝子調整技術の蓄積でいえば、プラントは地球の2、3歩先を行っている。試行錯誤を繰り返したからな。プランが導入されれば、必然的に我々コーディネイターが先に立つだろう」

 未だ良く飲み込めていないシンに、イザークは眉間に皺を寄せて言った。

「先に立つという事は、その分だけ自分達に有利に物事を進められる」
「……!」
「遺伝子で職業適性を算出し、社会的役割を決めて最適に保つのがデスティニープランの目的だ。では、遺伝子のデータはどうやって収集し、整理する? 機械でだ。機械は誰が調整する? 人だ」

 虚を突かれたようなシンを、イザークはしっかりと見据える。

「ならば、遺伝子技術で先んじる俺達コーディネイターが、高い地位と賃金を伴う職業を独占する事も、また可能だろう。そういう風に、データベースを調整してしまえば良い」

 イザークの言葉に、シンは思わず反発した。

「デュランダル議長は、そういう事だって考えに入れていた筈だ!」
「考えに入れていたのなら、なぜ概要に引き続いて詳細を発表しなかった?」

 イザークの言葉に、シンの言葉が喉奥で詰まった。

「それは……じゃあ何で、コーディネイターのアンタはプランを否定したんだ?」
「コーディネイターを有利にする計画それ自体は支持する。だが、デスティニープランは有利過ぎ、ナチュラルの反発を招く。それはプラントにとって害悪以外の何物でもない」
「……」
「そして、デュランダルはプランの詳細を説明する代わりに、大量破壊兵器で世界を威嚇した。俺は彼にプランの詳細を問い、それを全世界に広めるべきと訴えたが、聞き入れられなかった。
『いずれ解る』、とだけ言われてな」

 俯き、拳を握り締めるイザークに、シンは溜息をついた。

「考えた事も、無かった。俺はただ、戦争を無くすなら、何でも良いと思って……」
「ともかく、そこへクライン議長が圧倒的武力と共にやってきた。俺は……認めよう、シン。俺は裏切った。
デュランダル議長をプラントの最高指導者としてではなく、狂った一個人として社会的に抹殺する為、エターナルを援護した。全てを有耶無耶にして、プラントへの矛先を反らそうとしたのだ」
「デュランダル議長に……プランの事を聞いて、それで……決めたんだな」
「当たり前だろうが!自分の地位の為ならば、幾らでも危険の伴わない裏切り方があった。何度も何度も問い続け、ようやく戦闘の最中に返って来た返答が、『いずれ解る』だったのだ!」

 枕を殴りつけるイザークに、シンは項垂れる。議員の息子として『名門』に拘るイザークが、どんな覚悟で裏切り者の汚名を被ったか、当時の自分がどれほど視野狭窄で、デスティニープランによって生じる不満や軋轢を無視していたか、今ならば理解できる。『平和』に、憑かれていたのだ。

「俺の裏切りに根拠はない。直感だ。だが、シン……仮にデュランダルが全てを理解していたとしても、それがその他大勢に伝わらなければ、デスティニープランはただの『檻』でしかない!」

 イザークの言葉が胸の奥に突き刺さる。シンは、喩え檻だろうとも構いはしなかった。
戦争の無い世界以上に素晴らしい世界などは、彼の中には存在しないからである。
 しかしシン以外の大部分はそう考えていないし、シンの思いなど知った事ではない。

「そうか……何も、知らなかったんだなあ、俺は」

 2年前、わけも解らぬ内に全てを武力で叩き潰され『終わった』シンは、寂しげに笑った。

『私は、クライン打倒に燃える諸君こそが真のコーディネイターだと、確信している!』
『私は宣言しよう。最早コーディネイターは単なる障害。排除されるべき存在なのだと!』

 薄暗い基地司令部の中央席に腰掛けた、ザフトホワイトの制服を着た男が、メインスクリーンに出された2つの画像に見入っていた。野戦服を着た2人が、別々の場所で拳を振り上げる。

『プラントの歪なる独裁体制に楔を打ち込まんとする、進化した人類たる諸君は!』
『劣悪な遺伝子操作による、人類種の汚染を食い止めんと立ち上がった前衛たる諸君は!』

 異なる声、異なる聴衆、変わらぬ熱狂。そして変わらぬ、扇動者の意思。

『誰よりも力を必要としている筈である! 我々は、今後も変わらぬ支援を続ける事を約束しよう!』

 声が調和し、独りで耳を傾ける男は小さく頷いた。スピーカーから歓声が聞こえてくる。

『ナチュラルとの共闘を厭う者も居るだろう。しかし彼らなどは進化への踏み台に過ぎん』
『落伍して尚、権力にしがみ付こうとするコーディネイターなど、気に留める必要はない』

 傍らの写真を、薄明かりの元で見遣った。河の傍のキャンプ場に映った3人家族。はにかんだ笑みの少女。幸せそうに微笑む女性。少女の肩に手を置く、30半ばの自分自身。

『今しばらく、愚鈍で野卑なるナチュラル共を、肉の盾として使い棄てる事を辛抱し……』
『今しばらく、地球人類の1割を殺戮した、宇宙の化物共の醜い争いを看過する事で……』

 隔てられた2つの会場の熱気は、徐々に高まっていく。

『我々は世界の救い主たりえるのである! 諸君らは誇り高き尖兵となり、クラインの走狗と化したザフトの兵器で、その日まで恥辱を耐え抜き、戦い抜いて貰いたい!!』

 再び唱和する声。上がる歓声。扇動者が退席し、映像も途切れた。
 数分後、2人の男が司令室に入ってくる。ザフトの黒服、オーブ軍制服を纏っていた。

「ジュール隊が、動いているそうだな」
「ああ。だが問題ではない。我々の手助けをして貰う」
「ミハシラ軍と接触したらしいが」
「より好都合だ。まとめて手伝って貰う」

 写真を制服の胸ポケットに収めた男が、立ち上がって司令室を出て行く。2人が続いた。

「『我々』に敵はいない。コニール=アルメタも、小うるさく嗅ぎ回るジェス=リブルも、信頼のおける、頼もしい味方だ。『我々』は全てに味方し、また全てを味方とするのだ」

 通路も、通り過ぎたラウンジも、何処もかしこも無人。全自動の空調が不気味に響く。
男3人は、能面のような無表情を保ったまま、細長く真っ白な道を歩いていった。

】【戻る】【