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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第19話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:29:33

 ブリュッセルにある地球連合軍のオフィスへ自ら出向き、新型量産機の開発状況を説明したアズラエルは、将官用のラウンジに招かれていた。
「お疲れ様でした。お若いのに大変ですな、アズラエル女史」
「いいえ。新商品を売り込む為には、やはり代表が率先して行かねばと思っていますから」
 何時も通り、地味な灰色のツーピース姿の少女は微笑んで、紅茶のカップに口を付ける。
自分を囲むように座る年老いた3人の将官の素性は、既に掴んでいた。オーブ軍が連合軍の上にやって来た時、彼らは連合軍高官としての表舞台から引きずり落とされ、日陰へ追いやられたのだ。
 ムルタ=アズラエルと同じ色の肌、髪、瞳を持った彼女の笑みが、一瞬年齢不相応のそれに変わる。
「ところで、弊社が提供させて頂いた、新型OSとサポートAIの評価は如何でしょう?」
「ああ。既に評価試験を終え、MS部隊に行き渡らせてあります。パイロットからは好評ですよ。
ハードと違ってソフトの方は、行き渡らせる事も改良する事も容易で、有難い限りです」
「何よりです。最早、MS性能はオーブ軍やザフトに引けを取らなくなった訳ですね?」
 アズラエルの発言に対し、3人はさり気無く、互いに周囲を気にし合った。
「……いやあ、それは、解りませんな。そういうテストは、実施しておりませんから」
「そうですな。オーブやプラントはもう敵国ではありませんからな」
「確かに。どれほどシステムを改良しようとも、歌姫の騎士団には勝てませんものね」
 先程よりも解りやすい反応を示した、親子以上の歳の差がある3人の将官に、アズラエルはあどけない笑みを顔面に貼り付けた。
彼らは老獪だが、一度持った権力を奪われた者は、時に非合理的な判断を下してしまう。それは、群れを成して生きる人間の性でもあった。
「クライン議長とアスハ地球連合軍最高司令官は、これからの世界を導く御方ですし」
「いや、それは、彼らを過大評価し過ぎではありませんかな?」
「失礼ですがロマンティシズムが過ぎましょう、アズラエル女史」
「彼らはどう言い繕おうとも、テロリストですからな。流石に世界を導けるとは……」
「まぁ……」
 周囲にオーブ軍人がいない事を確認したのか、いきなり饒舌になった3人の物言いに、少女は口に手を当て驚いて見せた。
『元』連合軍司令部の面々の話は更に続く。
「実際に、基地の将兵もオーブやプラントに対する不平を日々こぼしていると聞きます。
やはり、近い内に交渉し、彼らの待遇改善を陳情せねばならんでしょう」

「そう。我々事務方は構いませんが、実際に市民の安全の為に戦う兵士の意思は尊重するべきです」
「大体歌姫の騎士団にしても、規模はごく小さい。戦略的な脅威には値しません」
「王族への忠誠心しかないオーブ軍や、命令系統が無きに等しいザフトならともかく……」
 アズラエルは幼少時から人形遊びが好きだった。今もそうだ。血肉を持った生の人形を、不可視の糸で躍らせるのだ。
もう会話には参加せず、笑みを浮かべて幾度か頷くのみである。
「ですが今は平時。治安維持に努めるのが軍の務めである以上、事は荒立てられませんな」
「その通りですな。何をしでかすか解らない相手は、迂闊に触れませんから」
「まあ何か、アクシデントでもあれば、直ぐに行動を起こすべきでしょうが……」
 クールダウンした3人を見遣り、アズラエルは席を立った。
「申し訳ありませんが、そろそろお暇させて頂きます」
「おお、そうですか。アズラエル女史、まあ、此処での会話は……」
「ええ、聞かなかった事に、見なかった事に」
 小さく頭を下げる少女に、3人は笑みを浮かべる。
「そうして頂けると助かります。我々は、平和の為の業務を遂行せねばなりませんからな」
「うむ、平和の為に。より多くの利益と幸福の為に……」

 ラウンジを後にしたアズラエルは、秘書も連れず、人も殆ど通らないガラス張りの通路を歩いていた。
ふと、足を止めて外を見遣る。張り出した木の枝に広がった蜘蛛の巣に、蝶が引っ掛かっていた。
「ふふ。シン、貴方様は……平和を望んでいらっしゃるのですよね」
 黒い羽に赤いまだらの入ったその蝶は、粘ついた糸から逃れようと必死にもがく。
しかし、もがく程に粘糸はその身体に食い込んで、動きを封じていってしまう。
 蝶はその事を知っているのだろうか? アズラエルはそんな想いを巡らせて、再び笑った。
「貴方様のその願い、恐らく叶わないでしょう。けれども」
 蝶に、足の長い蜘蛛が這い寄った。器用に糸を伝って、動けない獲物に近づいていく。
「けれども、もがいて傷ついて、それでも戦う貴方様は、何より素敵……」
 蜘蛛の牙が蝶の肉を噛み破る様に、アズラエルは小さく背筋を震わせ、熱っぽい息を吐き出した。

 早朝。ガルナハンの連合軍北部基地の医務室で、ベッドに胡坐をかいたシンは、眉間に皺を寄せて一冊の本を読んでいた。本のタイトルは『The Ancient KARATE』。

「あった。あったぞ……なになに、腹筋を巧みに操り……何だよ、『巧みに』の内容が書いてないじゃないか!」
 しばらく文面に目を通したシンは、やおら本を投げ出してベッドに転がった。
コニールの蹴りがスイートスポットを直撃した為、精密検査が必要と言い渡され、このザマである。
 しかも、ディオキアのエコー7へ『シンが撃墜された』などという余計な報告がヒルダから行ってしまった為に、連合軍兵士の前で事細かに状況を説明させられ、踏んだり蹴ったりである。
ある兵士は遠慮なく大笑いし、またある兵士は何度も頷きながら肩を叩いてきた。
 何しろ退屈な基地勤務である。
自軍である筈のザフトに激怒して、真正面から舌戦した白服と、女性の蹴り一発で急所を撃ち抜かれて悶絶した元ザフト特務隊『FAITH』の一員という、異色すぎる2人のコーディネイターの噂はあっという間に広まった。
「アスカさん、検査結果ですが、生殖機能に問題は無いようです。良かったですね」
「はぁ、どうも」
 医務室にやってきたナチュラルの軍医にぎこちなく礼を言い、シンは座り直した。
「……あまり長居するつもりは無いので、安心してください」
「どういう事です?」
 カルテを書いていた軍医が振り返り、シンは姿勢を正す。
「コーディネイターが、ナチュラルに良く思われていないのは、知っていますから」
「ああ。最近は、少しずつ変わってきていますけどね」
「そうなんですか?」
「ええ。特定の疾患を予防する為の遺伝子調整まで忌み嫌うのは、理屈に合わないでしょ。
そうなると、何処からがコーディネイターなのかという垣根があやふやになる」
 軍医の言葉に、シンは頷いた。
「ま、代わりに、遺伝子情報によって婚姻を統制したり、コンピューターで議員を選出したりするプラントこそが問題なのではないかという議論を、最近の政治家達がやってますが」
 カルテを書き上げた医師は、ペンを置いてシンの方を振り返った。
「ともかく、メンツが潰れない程度に戦争を控えたい。誰もがそう望んでます。種族間の確執はともかく、このままいがみ合い続ければ、一緒に絶滅しかねませんからね」
 再び、シンは頷いた。確かに今、世界は危機に陥っているのだ。戦争している場合ではない。
「アスカさん、お仲間が呼んでますよ」
 基地の兵士の声に、シンは顔を上げた。

 コニールとジェスの話が終わると、基地の休憩室は静まり返った。
シンは額に手をやり、イザークは呆気に取られたまま固まり、シホは俯き、そしてディアッカとヒルダ達3人は、諦観した表情で頷いた。
「にわかには……信じがたい」
 腕組みしていた大尉は、唸るように声を発する。
「するとMsアルメタにMr.リブルは、基地のあるエリア全体が、『救世同盟』の巣窟になっているとでも?」
「そうです。今、写真と動画でお見せした通りです。しかも」
「レジスタンスをまとめているのが、さっきのザフトの白服だと……!?」
 連合軍の基地に招かれ、ガルナハン基地のザフトがどれほど他者に非協力的であり、閉鎖的であったか、大尉から説明を受けていたイザークは、放っておけばそのまま卒倒しそうだった。
「確かに……彼らはオーブ軍からの直属命令によって、我々の哨戒スケジュールを手に入れる事が出来る。かつ、彼らに情報をもたらす義務は無い。完全な上位組織だからな」
「それより、本当なのかよコニール! 現地の人まで、レジスタンスに協力してるって!」
 食って掛かるシンに、彼女は沈痛な面持ちで頷いた。
「その……脅されて無理矢理協力させられてるとか」
「そう言えたら、どんなに楽だろうな……」
「悪いが、そんな雰囲気じゃない」
 ジェスはそう言って、シンに数枚の写真を見せる。
「基地が出来て、住民とトラブルが起こり始めた頃から、一部の連中はこのザフト士官と深く関わってた。さっき俺達を追いかけてたのも、アルメタさんの顔見知りだ」
「……馬鹿な」
「誰もが、アンタが助けたい弱者じゃないって事さ、シン」
 事も無げに言い放ったヒルダが、シンの肩に手を置いた。
「押さえつけられた貧しい奴らの中にはね、物を知らない癖に、ずる賢くて、誰かをハメる事を何とも思わないどうしようもない連中が湧いて出るんだよ、たまにね」
「最初からそうだったわけじゃない!!」
 コニールが悲痛な声で叫び、ヒルダは肩を竦める。勿論、最初からである筈は無い。
真っ当に働いても一生手に入らない程の金やその他の品物に、『憐れな貧者』達が釣り上げられたという事は、容易に想像がつく。そんな彼らの心情を、コニールは痛いほど理解できた。
 しかも、無能な体制を打倒するという良心の痛まないお題目まで用意されているのだ。
一生を水の精製と家畜の世話で終える筈の彼らにとって、抗い難い誘惑であっただろう。

「事実を整理しよう。つまりレジスタンスの頭目は、ガルナハン基地を完全に掌握した上、内外の情報を完全にコントロールし、基地のMSを不正に使用している。そうだな?」
 大尉の言葉に、ジェスは頷いた。周囲から溜息が漏れる。狂気の沙汰だ。
「しかし、残念ながらMr.リブル、貴方の持ち込んだ物は証拠にならない。写真や動画は幾らでも加工できてしまうし、それに失礼だが……」
「フリージャーナリストに、社会的な信用は無い、ですよね? 解ってます。だがコイツは紛れも無い真実だ。
どう言われようと、俺は公開しますよ」
「それは一向に構わない。問題なのは、貴方の身柄とMSを預かっている我々がどう行動するか、だ。Msアルメタの事もある……」
 瞑目して指を組む大尉の目の前に、イザークは拳を振り下ろした。
「決まっているだろう大尉! ガルナハン基地に踏み込み、動かぬ証拠を押さえるッ!!」
「駄目ですよジュール隊長! まずこの件をプラント本国に報告して……」
「それは勿論、同時並行するが! しかし許可を待っていては、掴みかけた尻尾が!」
「どうかねえ?」
 ディアッカの言葉に、シホとイザークが振り向いた。
「連中、もう隠す気無いんじゃないか?」
「どういう意味だ?」
「コソコソしようと思うんだったら、何よりそこのお2人を渡せって言ってくる筈だ」
 ジェスとコニールを交互に指差し、ディアッカは何時もの皮肉気な笑みを浮かべた。
「映像と証言が証拠にならなくたって、パワープラントエリアから追い出された連合軍は自分達に有利になるように利用する。それは、簡単に考えられるだろう?」
「では何が目的だと、お前は考えるんだディアッカ!」
「まさに、お前がやろうとした事さ、イザーク。踏み込んで、捜索して欲しいんだ」
「馬鹿な! そんな事をして何の得に……」
 一笑に伏そうとしたイザークが凍った。そう、ディオキアを出発する前に仮説は立っていたのだ。
救世同盟の目的は、コーディネイターへの反感を焚き付ける事ではないのか、と。
「救世同盟はザフトの基地を襲う。ザフトは、地上はまだ安全じゃないっていう格好の言い訳を手に入れて、軍備の引き上げを渋る……」
 再び静まり返った所で、シンが呟いた。
「ナチュラル達は、ザフト製のMSが暴れているのを見て、コーディネイター達の仕業だと思う。プラント側も、自分達のMSがナチュラルにも操縦できる事を認められない……
自分達とナチュラルとの差を大きく宣伝して、今までやって来たから……」
「極め付けに、あたし達が騎兵隊ぶって基地に踏み込んでみたらアラ不思議。救世同盟とザフトの癒着を書きたてた『証拠』が出るわ出るわ……って、感じかぃ」
 愉しげなヒルダの言葉に、イザークは銀髪を揺らしてよろめいた。

「ジュール隊長……!」
 力なく壁にもたれかかったイザークを、シホが支える。
「そうだ……当然個人の責任でなく、ザフト全体に関わる問題となる。そうなれば……」
 そして、自分達は何の躊躇いも必要としない、と地球連合軍大尉は胸中で独りごちた。
彼らに明かしていないが、連合軍司令部から受け取った新たな命令書がある。
『問題が起きたと判断すれば、構わず踏み込んで捜索せよ』という趣旨だ。
 まさに、現在のようなシチュエーションの為にある命令書である。都合が、良すぎる。
「まだ……」
 シンの、搾り出すような声が重苦しい空気の中に吐き出される。
「まだ、ナチュラルとコーディネイターを戦わせたい奴がいるのか……!」
 突然響き渡ったサイレンに、大尉は直ぐ傍のインターフォンを押した。
「何事か!」
『が、ガルナハン基地より発進したMS部隊が、当基地へ向かってきます! 既に無人監視エリアの簡易隔壁を破壊され、通信にも応じません!』
 基地司令部オペレーターの言葉に、シンは拳をきつく握り締めた。

「クライン議長閣下!!」
 砂時計コロニーの中心軸、循環システムに取り付けられた、柱状の保安装置を見学していたラクスに、『御手』メンバーである白服2人が飛んできた。小型船である為、機内は無重力だ。
「ガルナハン基地から緊急通信です! 所属不明のMS部隊から、強襲を受けていると!」
「何て事……あそこは、ユーラシア西部のエネルギー拠点でしょう!」
 滅多に見せぬ狼狽した表情を浮かべ、ラクスは思わず傍らのキラの手を握った。
「襲撃者は、解らないのですか?」
「詳しい状況はまだ。ですが、周囲には連合軍の基地しか無いはず。なのに、何故……」
 自身を落ち着かせようと、ラクスは小さくかぶりを振った。
「とにかくすぐに、議事堂にいらっしゃる補佐官をお呼びして下さい」
「その補佐官ですが、議長閣下……」
 もう1人の白服が――アプリリウス・ワンの路地裏で『D』と名乗った男が――ラクスに書類を差し出した。
「最近不審な行動が目立っておりましたので、調査してみました所、このような……」
 それに目を走らせていたラクスの顔色が青ざめ、見る見る内に紙のように白くなった。
「ブルーコスモスの、支持者?……活動資金に、プラントの予算を流用……!?」
「残党を率いて、プラントに潜入させる計画まで立案しているとの事です。尤も、此方は未だ信憑性が低く、調査は続けます。しかし、補佐官は遠ざけた方がよろしいかと」
「……ええ。アプリリウス・ワンに、戻りましょう」
 キラに付き添われて自室に向かうラクスを見送った後、『D』は酷薄な笑みを浮かべた。

 掛け違われた歯車は軋みを上げ動き出す。歪みを、秘めて。

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