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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第25話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:32:16

「雇いたい? 俺達を?」
「はい。傭兵として、弊社の警護に加わって頂きたいのです」

 連合軍基地のラウンジにやってきた背広姿の男は、そう言って頭を下げた。

「けど俺達はテロリストになってるんだ。企業がそんなもの雇って大丈夫なのか?」
「御存知かと思いましたが……弊社はテロ支援企業に指定されています」
「なっ……!」

 言葉を失うシン。やり方が強引すぎる。自分達個人を悪と断じるのは容易く、世間への影響も軽度で済むだろうが、いち組織となると話は別だ。関係ない大勢を巻き込むからだ。

「既にディオキアのミハシラ軍基地へも、社員が出向いています」
「何たってそんな……」
「テロリスト同士、身を固め合うべきだろうとお嬢様は仰っていますが」
「……なるほど」

 歯に衣着せぬ、かつ煽動的な物言いは初対面を思い出させ、シンは思わず苦笑する。しかし、同時に心の何処かで同意してもいた。
 相手は尋常ではない。かつて戦争を終わらせた時と同じようになりふり構わず、敵を指定して追い掛け、排除しようとしている。ならば此方も、今までのルールに従うのではなく、柔軟かつ積極的な対応を取らねばならないのではないか。たとえ汚名を被ろうとも、『真実』を伝える為に。
 そこまで考えて、シンはきつく首を振った。話が悪い方向へ進みかけている。シンにとってアズラエルは相変わらず危険人物であり、ミナから言われた言葉も記憶に残っていた。
 人が、自分に真実を語っているなどと思ってはならない。必ず其処には意図があり、自分に何かをさせたがっているのだ、と。
 だが、と、シンの奥底が囁きかけてきた。今のお前に、他の選択肢があると思うのか?

「確かに突然かつ危険な話であると理解しております。何せ……」

 アズラエルの命を受けて基地までやってきた社員は、彼女から渡されていたカードを切った。

「テロリスト討伐隊は、『あの』アスラン=ザラが指揮しているそうですから」
「お、なつかし」

 ディアッカが能天気に応える横で、シンの表情が強張った。
 あの男。かつて自分の上司として居座り、あの時のテロリストであったキラ=ヤマト達を擁護し、立場が悪くなって脱走し、現在の輝かしい地位を手にした男。

 裏切り者、日和見主義者。イザークに対して以上に、シンは彼に怒りを覚える。復讐心ゆえであった。

「困ったねぇ。アスラン=ザラじゃあ相手が悪い」

事情を少なからず知っているヒルダが、わざとらしく溜息をついた。

「束になっても勝てるかどうか定かじゃない。シン、此処は大人しく投降してみるのも悪くないんじゃないかぃ。ほら、平和的に真実を伝えていけば」
「馬鹿な」

 ヒルダの言葉を遮って、シンは彼女を睨み付けた。笑み混じりに肩を竦める隻眼の女。

「アスランは嫌な奴だが間抜けじゃない。今回だって、本当の事を知ってる筈だ」
「そうか?」
「そう。知っててやってるんだ。あの裏切り者は何時でも計算してる。自分に良い待遇をくれる所があれば平気で尻尾を振る。イザークとは、根元が違うんだ!」
「……あ、そぅ」

 シンが、これほどまでに他人を罵った所を見た事が無かったディアッカは、とりあえず頷いておく。
彼の批評は感情的で公平性を欠いていたが、敢えて指摘はしなかった。面白そうだからだ。

「冗談じゃない。投降? ごめんだね、意味も無い! あいつが自分の為以外に動くかよ!」

 怒りに任せて口走り、シンはヒルダへと振り向いた。

「サハク司令官の指示を待ってる余裕は無い。……俺と一緒に来るか?」
「いつまでも、どこまでも。マーズとヘルベルトも多分同じだろ。確認はするけどね」

 当然ながら、首肯するヒルダ。正規軍であれば敬礼のひとつもやっていただろう。正に、彼女達の望んだものが到来したからだ。

「ジュール隊はどうするんだ? ディアッカ」
「イザーク次第だ。コンプトン級のトライン艦長は、責任を不問にされてみたいだし」
「良かった。副長……もとい艦長まで俺達と同じにされちゃ、可哀想だからな」

 シンはひとつ頷いて、社員の方を振り返った。

「というわけだ。少なくとも俺と3人の部下は加わる。最悪の場合はミハシラ軍を抜ける」
「有難うございます。早速、MSの搬入作業を始めましょう」

 深く一礼し、社員の男は踵を返した。

 会見の席でフラッシュを浴びるアズラエルは、何時もと変わらぬ笑みを浮かべていた。

「私が最も心配している事は、テロリストの支援者として名指しされた弊社の行く末でなく、テロ支援者とそうでないもののボーダーラインです」

 手元のメモに書かれた、記者達の所属リストに軽く目をやる。ビデオカメラで撮影されている事も意識して、彼女はつとめて平易な表現を用いた。

「弊社が指名された理由は明白です。中立地帯の治安を実質的に守っている、サハク代表率いる非合法の武装組織に出資しているからです。しかし……」

 華美な服装で―戦災孤児の施設を訪問する時でさえも―人々の目を引き付けるラクス=クラインとは違い、アズラエルのフォーマルな服装は常に似通っていた。灰色系のツーピース、もしくはスーツ。
美しいジュエリーの1つも身に着けず化粧も薄く、失礼でない程度。とかく地味である。

「此処で名前を出す事は致しませんが、その非合法武装組織……今ではミハシラ軍として広く認知されている部隊に出資しているのが弊社だけでない事は、皆様ご存知の通りです」

 会見室が小さくどよめいた。初めて、『ミハシラ軍』という名称が公的の場で発言されたからである。

「不公平だと申し上げているのでは無い事を、御理解下さい。そういう問題ではなく……
一体弊社の後どれほどの人が、組織が、支援者として平和の名の下に裁かれるのでしょう」
「具体的には、旧ロゴス系の企業という事ですか?」

 最前列の右端に座った記者が手を上げ、アズラエルは其方に顔を向けた。彼は大西洋連邦からの記者。
この場限りの味方である。

「それもあります。かつ、旧ロゴスのネットワークは広大であり、ロゴスと取引の無かった企業は皆無でありましょう。思い出して頂きたいのです……2年前、故デュランダル氏による、ロゴス撲滅宣言の後に起こった事を。あの混乱を」

 その時、暴徒が襲撃したのはロゴス系の企業やメンバーの邸宅だけではなかった。熱狂と共に市街を練り歩く彼らは、ショーウィンドウや看板を叩き割り、プラント系以外の企業のロゴに放火して回った。

「しかし、ロゴスは現に」
「思い出して頂きたいのです」

 オーブからの記者が口を開いた瞬間、アズラエルは言葉を覆い被せた。

「故ジブリール氏を匿ったとされたオーブが受けた、あの攻撃を、起こった悲劇を」

 場の雰囲気が変わり始めた。当初は、アズラエルを糾弾する会見であった筈だ。
 16歳の小娘とは思えぬ眼光に射竦められ、記者の言葉が尻窄みになる。

「その上、オーブ軍広報によって流された今回の放送には、カガリ=ユラ=アスハ主席とラクス=クライン議長の御名前が使われています。つまり人類世界を守護するお2人の、公的発言という事です。これが、二点目の心配事です」
「つまりアスハ主席とクライン議長からは、特別な意図を感じるという事ですか?」

 ユーラシア連邦出身の記者からの発言に、アズラエルは笑顔と共に小首をかしげる。

「さあ、それはなんとも。私などにお2人の真意は計りかねますが、このように重大な判断を間違われる方々ではないはず。やはり、確固たるお考えがあるのでしょうね」

 静まり返った会見室。フラッシュさえも無いその席で、アズラエルは笑みを深めた。

「そう……公式の場で地球連合軍を批判した事も、何かお考えがあるのでしょう」

 記者らは、アズラエルから真実など聞き出そうと思っていなかった。企業の経営者としては幼すぎる彼女を外見で侮り、記事に書きたい内容を喋らせようとしていただけである。
 彼らの誤算があったとすれば、アズラエルがその意図を見抜いていたという事だ。

「いずれにせよ、弊社は法の定める範囲内で社会的責任を果たしていく所存です」

 少女はそう締め括り、席を立つ。

「先の戦争が終わって2年足らずです。この平和が終わらぬ事を、心から願います」

 あどけない笑みを作って、深く一礼した。

 その日、世界は動いた。ダイアモンドテクノロジー社の記者会見が放送された直後、オーブ軍の下部組織として組み込まれていた地球連合軍が独自に声明を発表。ガルナハンで起こった事件について、オーブ軍広報がもたらした情報は誤っており、ザフトに入り込んだコーディネイターのテロリストが全てを画策したと発言。これに対し、ザフト広報は責任を果たせなかった過失に対する子供の言い逃れだと反発。
オーブ軍広報もザフトに同調し、連合軍が公開した証拠を捏造したものと一蹴した。
 これに対し憤ったのは連合軍の下士官や兵卒であった。あれやこれやと難癖を並べ立て連合軍を無能呼ばわりし、かつ自身らの放送については物証さえ提示しない。ちっぽけな島国の軍隊に土足で踏み込まれ、しかも上位組織として幅を利かされ、日頃から不満を募らせていた彼らの怒りは、ここぞとばかりに噴き出した。
 ブリュッセルの旧連合軍総司令部に千人弱が押しかけ、一時は叛乱の様相を呈したが、4時間後に無事鎮圧。しかし何故か、連合軍の高官達は彼らに重罰を課さず、軍隊の責務は平和を保つ事であり、乱す事では無いというありきたりな訓示をたれるに留めた。
 ラクス=クラインとカガリ=ユラ=アスハは沈黙を保った。ラクスは揺るぎない決意の下、あくまでテロリストを叩くという意思を変えず、事実を調査しようとしたカガリは、アスランが残していった『信頼出来る部下』に事実上命令をサボタージュされ、流れに乗り遅れた。
 この両者の沈黙は憶測を呼び、辛うじて保たれた様々な均衡に亀裂を入れる事となる。

 その日、確かに世界は動いたのだ。

『司令官、送信が終わりました』
「ご苦労、フォー・ソキウス」

 ロンド=ミナ=サハクはそう答えた。パイロットスーツを着ていない彼女の黒髪が無重力に身を任せ、薄暗く狭い空間をたゆたう。

『この基地も包囲されつつあります。速やかな離脱を提案します』
「うむ。アルファ1が戻り次第、直ぐに出る」

 白髪に薄灰色の瞳を持つ青年に頷き、ミナはアマツのコクピット内で嘆息した。

「ラクス=クライン……あの補佐官が抑えられなかったにせよ、早まった事をする」

 事態の流れは少しばかり早過ぎた。ミハシラ軍の責任を問うという当初のオーブ軍広報のスピーチは僅か2時間で撤回され、ミハシラ軍とその支援者こそがガルナハン襲撃事件の首謀者であるという放送が全世界に流れた。
そしてザフトとオーブ軍の手によって通信妨害が始まる寸前に、ディオキアのエコー7から入手した報告書をそのままプラントのアプリリウス・ワンに送った所、返って来たのは返信でもプラントからの使者でもなく、オーブ軍、ザフトの連合部隊だった。
 まず、ミナの指示によって人員や機材を引き上げた最初の中継基地に無警告で攻撃が加えられ、大破。
次いで付近の民間船航路に検問を設け、それは現在も継続している。

「余らを、単なる宙賊として扱う事にしたわけだな」

 デブリ海の只中に浮かぶ、戦艦の残骸に偽装したこの中継基地も捕捉されつつあった。
敵は至る所に網を張っており、最短距離にある通信衛星にアクセスし、地球にデータを送信した時点でトラッキングを受けたのである。

『戻りました、司令官』

 40前半の女性が通信モニターに映り、ミナはひとつ深呼吸した。

「ご苦労。では、行くとしようか」

 船腹に大穴の空いたアガメムノン級の殻を被せた基地から、3機のMSが離れていく。
1機はアマツであり、その左右を固めるのはモスグリーンのMS。G型の頭部パーツを持ったそれは、右腕に射撃武器を内蔵したシールド、左腕に鈎爪、腰には片刃の実体剣。
 NダガーNというコードで呼ばれたその偵察用MSが、黒と金の主に寄り添う。3機を霧状の粒子が包み、周囲と同化させていく。発光するカメラアイが最後に残り、消えた。

「コロイド濃度は最低で構わん。このデブリ密度では、ディテクターもほぼ用を為さぬ」

 ミナの言葉に、2人は声無く頷いた。ミラージュコロイドの境界面からアンカーが突き出し、近くのデブリに食い込んで小さな破片を散らした。左右からアマツを抱えた2機が、両手両足のアンカーを使ってデブリ海を渡っていく。
 ミナにとって不快でない計算違いもまた存在した。地球連合軍の不在である。オーブ軍の下部組織として この『掃海任務』に加わっているとばかり思っていた彼らが、影も形も見えなかった。

「戦闘は無し、か。よい事だ」

 2機のNダガーNを護衛する為にアマツで同行したミナだったが、その口調には何処か不満が混じる。
やはり、平穏よりは動乱を愛する性分なのだ。

『敵部隊、基地に接近します』
「では……いや、まだだ。ナスカ級を待つ」

 デブリ海に尾を引くスラスター光が見え隠れする。本来の通信を終えた後も、あの基地はデタラメな情報をデタラメな場所に向けて発信し続けている。

『発信限界エリアです』
「起爆せよ」

 ミナの言葉と共に、フォー・ソキウスが視線を落とし、キーを幾つか叩いた。
中継基地に仕掛けられた爆薬が炸裂し、デブリ海に一際強い光が生まれた。周囲の残骸も爆ぜて、今まさに攻撃をかけようとしたゲイツRやM1Aアストレイが吹き飛ばされ、デブリに叩き付けられた。
 ナスカ級の船腹にも破片が衝突し、あるものは食い込んで装甲を抉る。

「コロイドを解除し、全速で宙域を離脱。イズモと合流する」
『了解』

 姿を現した3機は宙を蹴って方向転換し、スラスターを吹かし一気に飛び去っていった。

「戦いを望むならば、付き合ってやろう。ただし、海賊の流儀でな」

 地球そして宇宙の部隊に向けて伝えたデータには、戦略マップと今後の作戦内容が収められていた。
といっても至って単純なものである。正規軍との衝突を避け、合流する事。
 地球連合軍が手出ししてこなかった以上、彼らはミナ達に利用価値を見出している。ならば、それを最大限に利用するだけだ。そして、あのダイアモンドテクノロジーもである。

 ミハシラ軍は、ひとつの終焉を迎えた。

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