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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第32話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:36:02

「状況は諸君らも把握しているだろうから、省略する。我々の任務は至って単純だ。
現在原因不明の戦闘行為が行われているオーブに進入、速やかに民間人を保護する。
戦闘の当事者はオーブ軍と……所属不明勢力だ」
 ガルナハン北部基地の司令を務めていた連合軍大尉は、突然の転属命令によって3日前にオーブ近海の連合軍艦隊に配属されていた。
地図が映るスクリーンの前でポインターを引っ込める。
「なお、我々の救出および保護活動を妨害する者に対しては攻撃が許可されている。とはいえ各小隊の隊長は、敵を見誤らないよう注意して貰いたい。
オーブは、いわば我々の本部だからな」
 後ろの席の方で、兵士の1人が手を上げた。今年度から正式配属となったコーディネイター兵士である。
 プラント出身の彼はやや個人主義に傾いており、特に情報の非対称性を嫌っていた。
「ん、質問かね?」
「大尉殿、民間人の救出および保護を行い、妨害者は攻撃して良いという事になりますと、場合によっては侵略行為と解釈されませんか? もしくは叛乱、と」
「空気読めよ、コーディネイター。兵隊は命令に従うもんだ。余計な口を挟むな」
「空気の前に作戦の意図を読むべきでしょう、先輩。我々にも責任があるのですから」
 殆ど毎度、似たような言い合いをやらかす新兵2人にあちこちから苦笑が上がる。
「なるほど。君はつまり……本作戦の正当性を疑っているのか?」
「はい。命令というのはピラミッド構造のトップからボトムに伝わっていくものだと教わりました。
となると、本作戦はオーブ軍総司令部から発令されたものとなります。不自然では?」
 数人の下士官が溜息をついた。なまじ軍事教練に忠実な分、注意が難しい。
「ふむ、不自然かね?」
「妨害者は排除してよいという事は、自国部隊との戦闘をも容認するに等しいですから」
「ならば君はどう選択する? 君には人間として、意に沿わぬ行為を拒む権利があるが」
 大尉は笑みを消さない。今噛み付いている新兵は、丁度自分の息子ほどの年齢だった。
「その命令書は正当な手続きを経ているのですか?」
「作戦前に説明した通りだ。命令書は、正式なものだ」
「であれば、連合軍兵士として命令に則り行動します。質問は以上です」
 兵士が着席すると、溜息とは別の深い吐息があちこちで漏れ聞こえた。コーディネイターの彼はMSの操縦技術に秀でるが、扱いがやや難しい。
「島内の、特にオノゴロ島の情報は伝わってこないので、上陸直前に作戦を組みなおす。
各隊長には臨機応変な判断が求められるので、期待する……以上、解散」
 兵士達が一斉に立ち上がり、敬礼した。

 アマギの通達で出撃したオーブのMSは全軍の4割弱。しかしそれでも、ミハシラ軍には充分すぎた。
かつ、タチの悪い事に彼らの多くは真っ直ぐに空港を目指さない。
空港に程近い市街地に布陣し、主兵装であるビームライフルの射程が届くギリギリまでしか接近せず、建造物を盾に輸送機を包囲したのだ。
こうすれば遮蔽物越しにミハシラ軍の機体を攻撃できる上、焦れた相手が接近してくれば市街戦となる。テロリストによる無差別攻撃を演出する事が可能だ。
 2年前のオペレーション・フューリーの際に使った手でもある。中立国が攻められる時は、あくまで『被害者』とならねばならない。
まして今回の相手は海賊だ。どうなろうと、誰も困る事はない。市街地に布陣した理由も容易に説明できる。海賊の猛攻を受け、押されてしまえば『仕方が無い』。
『MSを狙え! 攻撃手段を失えば、投降も早まるというものだ』
 彼らが投降した所で、全てを無かった事にする。その後、兵士を装った何者かに連れ去られたカガリを『事故死』させれば終わりだ。
ラクス=クラインと歌姫の騎士団に対する言い訳さえ考えておけば、全てを ゼロから立て直せる。再び、『勝者』となれる。オーブは、オーブのままだ。
『撃……!?』
 隊長が命令を下そうとしたその時、ビルの谷間から射撃を行おうとしたM1アストレイの頭部が、金属がひしゃげる甲高い、それでいて腹に響く異音と共に破壊される。
右目の下に着弾した実体弾は機体の内部で止まり、全ての衝撃を受けた反対側が膨れ上がってツインアイが砕け散った
『な……何事だ!?』
 ひしゃげた頭部が根元から外れ、アスファルトに叩き付けられる。無論、MSなので頭部を失っても致命傷とはならない。
しかし、有効射撃距離が大幅に狭まり、海賊を攻撃する為には市街地を出ざるを得ない。隊内に動揺が広がっていく。
『お、おそらく……長距離狙撃です!』
 別のM1の右腕が、肩の辺りから千切れ飛ぶ。ビームライフルを取り落とした。
『ならば、狙撃点を割り出せば良いだろう! 輸送機に隠れているに違いない!』
『駄目です! 光学照準のみを使っているようで……探知不能です!』

「見え見えなんだよ……何処にいるか、何を考えてるのかも、な」
 空港に建つ航空機用の格納庫の裏で、長銃身のスナイパーキャノンを構えた、黒と濃灰のMSが片膝を立てる。
狙撃用の高性能照準器が装備されたフェイスガードが降り、十字スリットの中で青白い光が往復運動を繰り返す。
両肩には迎撃用の散布式短距離ミサイルランチャー。
スナイパーキャノンは2つのバレルが上下に備わっており、ビームと実弾を撃ち分ける事が可能だ。
長距離狙撃にも、大出力のビームキャノンによる火砲支援にも対応できる。
 機内のディアッカ=エルスマンが下唇を舐め、スコープを覗き込む。
「ハッ、無駄だよ。MSはデカブツだぜ? 狭い所でうろちょろしても……」
 訓練通り、左右に動いて狙撃を回避しようとするM1の1機に狙いをつけた。ビルの隙間から左膝を補足する。
4重の複合照準環が真っ直ぐに並んだ。無意識に呼吸を止める。
「かわせない……っ」
 トリガーを引き絞った。スコープによって赤みがかったオレンジ色に染まる視界の中、脚部を撃ち抜かれたM1がもんどりうって転倒した。
『こちらシホです。エルスマン? 聞こえる?』
「はいはいこちら、バスターノワールのディアッカ=エルスマン。感度良好だぜ?」
 息を吐き出すディアッカ。スコープをシートのヘッドレストに戻し、機体を屈ませたまま移動させ始める。
電子ロックオンを使っていないとはいえ、狙撃点を割り出されると拙い。
『輸送機の離陸準備は後5分ほどで終了します。そろそろ戻る事も考えて』
「5分じゃあ、遅すぎるぜ」
 飄々とした態度のディアッカに、シホの表情が険しくなった。
「今は良いよ? 近くの駐屯基地からゾロゾロとやってきてる最中だ。だが5分もすりゃ、ムラサメがオノゴロ島から大挙して襲ってくる。
輸送機じゃ逃げ切れないし、数の差も絶対的だ」
 キャノンの砲身を肩に立て掛け、レーダーを極力反応させないよう、バスターノワールがゆっくりと移動する。
どれだけ目立たない存在になるかが、狙撃手の腕の見せ所と言っていい。
『では、どうしろと?』
「先手を打つ。経戦能力が高い奴に、攻めに行ってもらう他ない」
 と、そこまで言って、ディアッカは頬をかいて苦笑した。
「つっても、無理だよなぁ。シンがどんなに凄い奴でも、4機以上相手にしたら進めない。
今んとこ、俺達は優勢でほぼ無傷だ。だが……3分もしたら勝負はつく。負けるね」
 狙撃手とは、常に戦場を俯瞰するべき存在だ。だから、ディアッカはそう言った。
「投降しても、俺達は海賊。助からないな。……運が無かったねぇ、シホちゃん」

『腰抜け揃いがッ!! それでも軍かぁ!護るべき市街地をバリケードに使うなど!』
 イザークの怒声が外部音声でやかましく響き渡り、シホは機内で頭を抱えた。現状も充分拙いが、彼の挑発に乗ってオーブ軍が接近してきても拙い。
乗っている機体の両腕に搭載されたビームシールドの出力を調整しつつ、同時にタクティカルマップも確認して敵の増援に気を配る。
 純白のイージスブランは、名の通り頭頂部センサーが真上に突き出た姿が特徴的なイージスタイプの派生機である。
マーシャンが持ち込んだ機体『ガードシェル』を元に開発された、防御に特化したMSだ。
大型のバックパックは大容量エネルギーパックと通信機器が積み込まれており、PS装甲とビームシールドの併用に耐えられると同時に、高い索敵能力と通信ネットワーク形成能力を持つ。
 無重力空間では甲殻類を思わせる防御形態に変形する事が可能であり、防御能力は更に上がる。反面、武装は頭部、胸部に装備された4門の防御機関砲とビームカービン1丁とシンプルな上に機動性も低く、僚機とのコンビネーションが大前提とされる機体である。
『オノゴロ島に突入して、敵の本陣を直接揺さぶるしかない。そうなんだろ? タイミングを教えてくれ』
 通信モニターに現れたシンの言葉に、シホはかぶりを振る。
「喩えそれしか方法が無かったとしても無理です。敵の守りが厚すぎて……此方の10倍以上の機体を相手にしなければなりません。突破できません」
『此処で数に押し潰されるよりマシだ! 俺が突っ込めば、可能性はあるんだろ!』
「ゼロではありませんが、奇跡に近い確率です! 奇跡に期待はできません!」
 眼前で、自分を守る為にブルデュエル改が敵の足元を狙って牽制射を行う。胴体を狙って外せば、建物に当たるからだ。
M1からビームライフルで射撃され、青白いシールドがスパークする。
「シン、相手は正規軍……どうしようも、ありません……」

 ベッドの傍に、空になった沢山のアンプルが転がっている。ムウ=ラ=フラガは最後の無針アンプルを首筋に押し当て、シリンダーを押し込んだ。苦痛に表情が歪み、脂汗が新たに流れ落ちる。
 薬液が無くなった事を確認し、それを足元に投げ捨てた。汗が引かぬまま、ジャケットを軽く羽織る。

「ムウ……本当に、行くの?」
「ああ。誰かにガッカリされたままってのは、性に合ってないんでね」
 寝室の入り口で、2人は擦れ違う。声を震わせたマリューが、弾かれたように振り返った。
「どうして!? ネオ=ロアノークはもういないわ!!」
「いるさ。俺の中で生きてる。ベルリンを灰にしたネオは、遊びたい盛りの子供を人殺しの道具に使ったネオは……熱血な坊主の約束を踏みにじったネオは、全部俺が覚えてる」
 こけた頬で笑い、ネオはマリューに振り返った。激しく咳き込み、しばし俯く。
「眠れなかった。毎晩毎晩、この2年間夢に見続けた。……ダメなもんだな。周りが幾ら言っても、記憶に残っちまってたらどうしようもない。声まで……思い出せる」
「命じたのは全部ジブリールじゃない! あなたも……犠牲者なのよ!」
「だから、俺自身がそう思ってないから、駄目だったんだ」
 踵を返す。
「もう、ゆっくり寝たい。……おやすみ、マリュー」
 閉まるドアの前で、マリュー=ラミアスは泣き崩れた。

 これは、己への報いだ。ロンド=ミナ=サハクは敵陣に切り込みつつも、そう悟っていた。このオーブ兵達は、かつての己そのものだからだ。
 国の何たるか、その本質さえ理解せずに、民を消耗品として考えて己の野望の糧とする。
一片の怒りさえ、眼前の敵機には抱く事が出来ない。怒りは、深く胸に沈む。
「うつけが!」
 M1のパイロットにかつての自身を重ね合わせ、ミナは気焔を吐いた。アマツの左肩、漆黒の大鎌が上がり、仕込まれたアンカーが飛び出して肩と顔面の中央を撃抜く。機体を急速旋回させて無様なダンスステップを踏む敵機に、トツカノツルギを振り下ろす。バッテリーパックを叩き潰され、M1は機能を止めた。アマツの左腕が咄嗟に動き、装備されたオキツノカガミがシールドモードとなってムラサメから撃ち込まれたビームを受け止める。
 アマツを射撃したムラサメが2撃目を放とうとした時、黒と紅のデスティニーⅡが割り込んだ。応急修理が施された右腕のビームクローで背部のバックパックを引き裂き、左手でビームライフルを握り締め、破壊する。戦闘能力を失ったムラサメを蹴飛ばし、市街地上空から追いやった。
「済まぬ。お前達は来させるべきではなかった。ああ伝えたのは、予の誤りであった」
 自分を援護した禍々しい機体を見上げ、ミナはシンに対し、初めて後悔の言を口にした。

『はい?』
「予は本来、オーブを預からねばならぬ立場であった。予にとってこれは当然の責任だが……お前には何の関わりも無い。巻き込んでしまったな」
 ムラサメがやってくるオノゴロ島に機体を向けるデスティニーⅡの機内で、シンは声を上げて笑った。
『ハハッ! どうしたんです司令官、いつもは無駄に偉そうなのに』
「なに?」
 せっかくしんみりした所で水を差され、視線に剣呑な物を含ませるミナ。
『此処に来たのは命令されたからじゃない。だいたい、命令しなかったでしょ?』
 夥しい数の敵がやってくる。市街地も未だ安全ではない。手を出しかねている敵勢に囲まれるアマツと、デスティニーⅡ。エコー7の乗るムラサメ偵察型が、変わらずMA形態で空中を哨戒し続けている。
『敵、3時の方向から3機、M1です。8時の方向、オノゴロ島よりムラサメ2機接近』
泣き言のひとつも聞こえてこない。淡々と、絶望的な戦況を報告し続ける。
『やべえ。こっちの位置バレた』
『くっそおぉ!! 多すぎぞ、貴様ら!!』
『正規軍なんですから当たり前です、ジュール隊長!』
『俺も……みんなも、自分の意思で来たんです。特に俺には目的がある』
 喋りながらも手は止まらない。光翼を広げたデスティニーⅡが、ムラサメの編隊へと向かっていく。
『誤解を解いて、ミハシラ軍が元の姿に戻れるようにする。俺はこれからも、中立エリアの治安維持を手伝っていきたいんです。司令官、俺は『試行錯誤』したし、『選択』したんですよ』
 悲観は無く、捨て鉢になっているわけでも無い。笑みを浮かべるシンに、つられてミナも少し笑った。
「そうか。ならば……良かった」
『11時の方向より、ムラサメ6機および……アカツキです』
『来たな! あの金ピカ!!』
 ムラサメ隊に格闘戦を挑み、懸命に射線を避けつつ4機と組み合うデスティニーⅡ。左右から振り下ろされたビームサーベルをクローで受け止めるも、2機が前後から襲い掛かる。
 連戦を続け、シンの集中力が切れたのだ。大体、多勢に無勢にも程がある。
『しまっ……!』
 しかし、上空からの2本のビーム光がその2機を正確に撃ち抜いて、飛行不能とさせた。
『あーあー、ミハシラ軍……で良いんだっけ? とりあえず、海賊の諸君』
 誰もが空を見上げ、光に目を細めた。MS形態のムラサメ6機に囲まれた金色がひとつ。
『援護する』
 軽薄な男の声に、シンは聞き覚えがあった。オーブの象徴と呼ばれたMSを睨み付ける。
アカツキが空中で反転し、陽光を受けて輝くと、オーブ軍目掛けて突撃していった。

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