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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第38話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:38:41

「とりあえず、ま、こんなトコでどうでしょうかね? アスカさん」
 ダイアモンドテクノロジーの輸送機は、内部に簡単な整備施設を有している。メンテナンスベッドに寝かされたデスティニーⅡの改修を終えた研究員が言った。
「腕部が左右非対称なもので、バランスを取る為に大きな武器を持たせました。足部のビームエッジは結局直らなかったので、追加装甲を取り付けましたよ」
「助かります。これで、何時戦闘があっても大丈夫だ」
 両足のビーム発生器は、30秒以上の連続照射によって先端部が溶解してしまっていた。
腕部のそれとは違い小型なので、放熱に問題があったのである。
応急処置を施したまま使用していた右掌部ビーム砲も、過負荷によって前腕部内のジェネレーターでエネルギーの逆流が発生し、オーバーホールを必要とする状態だった。
 そこで互換性の効くウィンダムの右前腕部を接続し、同機の主兵装である長銃身のビームライフルを持たせた。
完全なワンオフマシンでなく、量産機のカスタムだからこそ取れた処置である。
 結果、無骨でツギハギ感のある仕上がりとなった。塗装して色を合わせても、違和感は拭えない。
「しかし気が早いですな。折角一段落ついたのですから、ゆっくりされれば良いのに」
 キャットウォークから自機を見下ろして何度か頷くシンに、研究員は肩をすくめた。
「アスカさん自身、昨日アスハがやったスピーチに満足だったみたいじゃないですか?」
「勿論です。けど、俺達ミハシラ軍の仕事は、民間船の航路で暴れる海賊を襲う事です。
プラント関係……もといラクス=クライン関係のトラブルはこれで終わったけど、むしろ此処からが本番なんですよ。1秒でも早く業務を再開しなくちゃ」
 妙に活き活きと返答し、手元のコンソールを操作してマシンスペックを確かめるシンに苦笑いする研究員。
「てっきり、クライン議長に話をつけに行くのかと思ってましたよ」
「必要ないですよ、俺の話なんてどうせ聞きゃしない。彼女やキラ=ヤマトはね、お友達にだけ甘いんですから……あ、やっぱり右腕に重量が偏ってるな」
 普通の神経の持ち主であれば、ラクスやキラに計り知れない恨みを持っている筈のシン。
しかしそんな素振りはまるで見せず、まるで路傍の石の如く言い放つ。
「ああ、ある程度の重量が無いと安定しないんです。ウィンダムのライフルは大ぶりですが、その分威力や命中精度が高い。対艦攻撃力も期待できますよ」
「なるほど。戦艦と正面から戦う気は無いんですが……牽制にはなる、かな?」
 その時、空気の抜ける音が上がってドアが開いた。エコー7が格納庫へ入ってくる。
「シン、ラウンジへ来て下さい。ラクス=クラインがスピーチを発表しています」
「あーそうですか。勝手に喋らせれば良いですよ、内容は想像できますから」

「いいえ、シン。来て下さい。ご自分で確認されるべきです」
 穏やかに、だがはっきりと首を横に振る彼女に、シンは手を止めて不満げな顔を向けた。
「……わかりました、行きます」

『こんにちは、皆様。プラント議長のラクス=クラインです』
 2年前、ザフトの新型MSが強奪されたアーモリーワンはすっかり修理を終えていた。
MS隊が列を為し、最前列に立つ4機のG型頭部を持った純白の機体の合間で、平和の歌姫は朗々と声を発する。
『今回のオーブの一件、大変残念に思います。あってはならなかった悲劇です』
 曇り顔のラクスに、ラウンジにやってきたシンも表情を曇らせた。
「何で、キラが近くにいないんだろう?」
「この男……!」
 彼女の傍に立つ白服の男『D』に、イザークが目を見開いた。
「何時の間に!? 一介の『御手』に過ぎず、議会とのコネクションも無かったはずだ!」
「補佐官もいないな。ってーか、議員連中が1人もいない」
 ラクスの周囲には白服しか立っていない。議員の子息であるイザークとディアッカにとって、信じ難い事態だ。
彼らがプラントを留守にしていた間、全てが一変してしまったのだ。
『地球連合軍の皆様にお訊ねしたいのは、何故テロ組織であるミハシラ軍に従い、自由と平和の国オーブを攻撃して、その地位を簒奪したのかという事です』
「……ッ!?」
 悲しげな表情と共に言葉を続けるラクスに、シンは眩暈を起こして後ずさった。血が上り過ぎたのだ。
『平和を護る……その願いと共に貴方がたと解り合えたと、2年前わたくしは信じました。
けれども誤解だったようです。挙句、カガリさんを脅迫してあのようなスピーチを……』
「違う……違う!! 嘘だ……何で、こんな!」
 聞こえる筈が無いのだが、必死の形相でシンが叫ぶ。
『オーブでの戦いでは、夥しい民間人の犠牲者が出たと聞き及んでいます。送り込まれたミハシラ軍の攻撃によって、市街地は悉く破壊されたと』
「情報だ」
「え……!?」
 腕組みしたミナが静かに告げる。精神が掻き乱されたまま、シンは彼女を睨んだ。
「恐らく彼女の耳に入る全ての情報が、何者かの手によって歪められているのだ」
「だからって、ちょっと考えてみれば、自分が変な事言ってるって解るでしょう!」
『これ以上の蛮行を、放置する事はできません!』
 ラクスが毅然として言い放つと、カメラが引いて白き天使達を映し出す。

 デルタフリーダム。キラ=ヤマトのかつての乗機フリーダムの量産型である。背部のウィング4枚と共に折り畳まれた両肩のレールガンに大型のビームライフル。
左腕には細長い、二等辺三角形型のシールド。V字のアンテナが人工照明を受けて輝いた。
『わたくしは戦います。自由と平和を護る為に。暖かく、優しい世界を創る為に……』
 胸元で指を組み、彼女は祈るように目を閉じる。画面が消えて暗転した。けたたましい音に、皆が其方を振り返る。
怒りに任せたシンが、パイプ椅子を渾身の力で蹴飛ばしたのだ。最後にラクスの口から出た言葉が、彼にとって縁深い言葉だったからである。
「ラクス=クラインは……心変わりしたり、思いとどまったりした事が無い」
 椅子が転がる音が収まった後、ミナは発言を再開した。
「正誤はさておき、何事も武力を振るって解決してきたからだ。
最強の戦力を携え戦場を混乱させ、双方をねじ伏せて最強者となった後に主張し、認めさせてきたからだ。
よって、事が終わった後は全てが彼女の味方となる。全て、彼女が正しかった事になる」
 そして彼女にそれを指摘する人間は最早いない。聞き心地の良い情報を疑うべきであると進言した補佐官は、ラクス自身が追い出してしまった。
「どうして、周りは何も言わないんだ! こんな突拍子も無い事を公共放送に乗せたら、プラントにも被害が出る! プラント全体を情報操作するなんて、出来ない筈だ!」
「そりゃ……いつ何をするか解らない私兵を抱えた支配者に、触りたくないだろ?」
「それにしたって無責任すぎる! こんなの、地球とプラントの仲が悪くなるだけで……」
 ディアッカに叫んでいたシンが口ごもる。ガルナハン基地の一件を思い出したのだ。
「誰も得をしない……ただ、仲違いをさせるだけ……」
 呟くシホ。エコー7が引き継いだ。
「最後の、50人……」
「ハハ、あそこにいた白服全員がそうだったりして」
「ふざけた事を言うな!」
「はーいはい」
 イザークがディアッカを叱責する。この場で口に出すには、余りにタチの悪い冗談だ。
「ともかく、これで一刻の猶予も無くなった」
 ミナの言葉に、全員の視線が吸い寄せられた。黒髪と服の裾を揺らし、1人1人に視線を向けていく。
「アスハの声をもってしても変わらなかったクラインを説得する事は、不可能かも知れん」
 拳を握り固め、俯くシン。ミナの言葉は納得できる。善意と信念に満ちた相手は、ただ一度の敗北も経験せず勝ち続け、自らの正しさを主張し続けた彼女達は、異常だ。

 その精神構造は既に、凡人とは著しく乖離しているのだろう。自身の賛同者を疑わず、もたらされる情報の真偽さえ確かめず発言したのだから。
「選択せねばならん。服従し、今まで通り彼女が正しかった事にするか……」
 切れ長の瞳を更に細め、ミナは裾長の着衣に手を滑り込ませた。
「朽ち果てるまで、逃避を続けるか……」
 護身用の短刀を抜き出し、鞘から抜き放つ。剣呑な輝きを眼前にかざし、顔の左半分が右腕の鋼色に覆い隠された。
「真実を、突き立てるか……だ」

「情報というのは、かくも恐ろしいものなのですね」
 ラクスのスピーチが終わり、アズラエルは眉根を寄せて嘆息する。
ハンニバル級に設けられた彼女のオフィスは照明が適度に落とされ、柔らかな金髪とディスプレイを見つめる双眸が底光りを放っていた。
「自由と平和を愛し、誰よりも人類の未来を憂いていらっしゃるクライン議長が、このような事を仰るとは……悲しい事です」
 桃色の唇の両端が吊り上がった。傍らに控える秘書は、黙って佇んでいる。
「それで、プラントを出た部隊が……地球を目指しているのですね?」
「はい、連合軍からの情報提供です」
「わかりやすい方々……御自分の高潔なるお志を、隠そうともなさらない」
 秘書が肯定すると、少女は喉を鳴らして笑った。
「オーブのサハク様は、ご存知なのでしょうか」
「情報はほぼ同時にやりとりされている筈です」
「けっこう。Ms.ハーケン達の方は、予定通りに?」
 アズラエルの問いに、秘書は即答しなかった。ハンドヘルドPCを立ち上げて、画面を覗き込む。
「約30分後にオーブへ入国します。あそこのマスドライバーが最も近かったので」
 その言葉に頷くと、アズラエルはラクス=クラインの静止映像に視線を戻す。
「ラクス=クライン……おいたわしい」
 胸元で指を組んで祈る彼女の姿に微笑み、少女はモニターの電源を切る。闇が訪れた。

「アビー君、アプリリウスから送られてきた命令書……もう1回読み返してくれない?」
 ナスカ級のブリッジで艦長席に座るアーサー=トラインは、渋面を浮かべたままオペレーターに告げた。
「軌道ステーション『アメノミハシラ』を無力化せよ、との事です」
 黒服姿の艦長は、その言葉に制帽を脱いで無重力の艦内に漂わせた。

「ターミナルによって、正確なポジションは把握できています。キラ=ヤマト様率いるラントからの本隊を待ち、1時間後に攻撃を開始する予定となっています」
 ガルナハン事件の後、プラントに呼び戻されたアーサーらはテロリストとの協力関係を問われ、反逆罪を免除して貰う条件として本作戦の部隊へ編入されたのだ。
元々いい加減な罪状で、実際は釈明の必要さえ無かったのだが、反逆の罪は即銃殺である。
死にたくなかったし、クルーの命も軽視できなかった彼は仕方なく『贖罪』に励む事にしたのだが、やはり気が進まない。
「僕らは……ミハシラ軍が濡れ衣を着せられてるって解ってるんだよね」
「仕方ないじゃないですか。ラクス様が敵って言ったら敵なんですよ……嫌だけど」
操舵手のマリクに言われ、アーサーは艦長席で肩を落とした。
「……逃げちゃおうかな」
「ちょ、艦長!?」
「ウソだよウソ……でも」
 一斉にブリッジクルーの視線を集めてしまい、縮こまるアーサー。彼はラクスの意図とこの後の展開が、解り過ぎるほど解るのだ。
 ミハシラ軍の本拠地、未完成に終わった軌道エレベーター『アメノミハシラ』のトップブロックを陥落させる事で、まず気勢を上げようというのだ。
その後再びスピーチを行い、『テロリスト』に対し敢然と戦いを挑む事を宣言する。あとは泥沼だ。
恐らく『オーブ奪還』の為の降下作戦や、連合軍総司令部などに歌姫の騎士団を放り込んで、ゲリラ的な戦闘を繰り返すのだろう。
「どう見ても、プラントの為になるとは思えないんだよね。いや、命令は絶対だけど」
 浮かべた帽子を取って、指を引っ掛けて意味も無く回す。
「……バート君、付近に僚艦はいるかい?」
 キーを叩く音が、ブリッジに響く。アーサーは帽子を被り直し、つばの向きを整えた。
「いませんね。20分後にローラシア級2隻と合流しますが」
「オーブか、アメノミハシラに通信届く?」
「オーブには届きます。アメノミハシラは、アドレスが解りません」
 その報告に悪戯っぽい笑みを浮かべ、アーサーは頷いた。
「通信、繋いでくれる?」
「艦長……?」
「命令には背かないよ。君達を死なせたくないし」
 笑みを絶やさず、アーサーはアビーに振り返った。
「ただ、ラクス様はテロとの戦いを宣言して、その第一歩が踏み出されつつあるんだ。 そのご意志を広く知らしめる事は、ザフト軍人として当然の責務じゃないかい?」

『久しぶりだねえ、隊長。よくも騙してくれたもんだ』
「だ、騙したつもりはない! ただその、あまりに予想外でさ……」
 整備員が忙しく走り回る戦艦の格納庫内部で、シンは小型モニターに言い訳する。
「それにな、ヒルダ……そっちだって、俺がいないのを良い事に好き勝手吹き込んだろ!」
『何の事かねえ。あたしはちゃんと、確かな事は何もないけどって言い置いたよ?』
「く……!」
 モニターに映った隻眼の女に歯軋りするシンだったが、気を取り直して顔を上げる。
「ともかく、凄く良いタイミングで来てくれた。有難う」
『いや、こっちも状況が掴めてないもんでね……それより、アーサー=トラインってのは信用できるのかい? 怪しすぎるよ』
 20分前、連合軍が占拠したオノゴロ島司令部に通信が入った。アーサー=トラインを名乗るザフトの黒服を着た男が、得意げにラクス=クラインの命じた作戦をまくし
立てたのである。
 ロンド=ミナ=サハクはアメノミハシラに連絡を入れて非戦闘員を退避させ、『海賊』として正式に、連合軍に援助を依頼。
非合法組織への援助など本来ならば却下される筈だが、上層部に何者かの圧力が掛かったらしく、あっさりと許可が下りた。
 戦艦1隻ほか、必要な設備を『貸与』されたミハシラ軍は現在、オーブの丁度真上にあるアメノミハシラへ 向かうべく、急ピッチで準備を進めているのだ。
「大丈夫だよ。……多分。艦長なのに黒服だったけど、前もそうだったし」
『ま、ラクス=クラインが最初に狙いそうな所は他に無いだろうしね。クラインは混乱を巻き起こすが、根が善人だから故意は無い……となると』
「だろ? ……にしても、こんな艦乗りたくなかったなあ」
 忌々しげに舌打ちするシン。
『へえ? 良い戦艦だと思うけどね?』
「嫌な思い出があるんだよ……それよりヒルダ、後から来いよ。遅れるな!」
『あいよ』
 モニターが切れると同時に艦内アナウンスが響き渡った。ミハシラ軍を援助する目的で編成された、連合軍所属のブリッジクルー達である。
『本艦はこれより、マスドライバーにて大気圏を離脱しアメノミハシラに急行する。総員、配置に着け! 緊急発進である! 繰り返す、緊急発進である!』
 駆け足で艦内通路を移動するスタッフ達に混じり、シンも走った。自分の番号が付いた部屋に駆け込み、シートに座ってベルトで身体を固定した。
両隣の軍人もそれに倣う。
『マスドライバー、起動確認。……アークエンジェル、発進!』

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