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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第51話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:44:36

「アスカさん、そのモーションは使えませんよ。腕が胴体に干渉しますから」
「じゃ、こっちならどうですか?」
 アークエンジェルのシミュレーションルームで、マシンから半分身体を出したシンと、
シミュレーターの半分ほどもある機械を覗き込んだ研究員が言葉を交わす。2つの機械は
ケーブルで繋がれ、シンがシミュレーターを操作する毎に研究員がキーを叩き、データが
デスティニーⅡのOSへ送られてアップグレードされていく仕組みだ。
「それなら大丈夫です。……役立つシチュエーションがあるかは、わかりませんが」
 シミュレーターのサブ画面には、アサルトパックを装備した大柄なデスティニーⅡが映っている。
クリーバーを両手で構え、真っ直ぐに振り下ろしていた。
「今の機体は大きいから、接近戦が苦手なんです。手札を揃えておかないと」
「あのフリーダムは特例中の特例だと思いますけど」
「二度と来ないって保証は無いでしょう?」
 シンの問いに、データ入力を終えた研究員は肩を竦めた。
「まあ、そりゃね」
「毎回右腕を発射するわけにはいかないし」
「確かに。あれを主兵装にするには、それ専用の改造が要りますな。……楽しそうだけど」
 顎に手をやって薄ら笑いを浮かべる研究員に、シンは溜息をつく。結局、エコー7の
見舞いには未だ行っていなかった。自分が顔を出した所で、彼女の具合が良くなる訳では
無い。唯一彼女の為に出来る事があるとすれば、前回の戦闘の反省点を生かすべく訓練を
重ねるのみ。
 シンには、やはり戦いしか無いのだった。
「プラントの艦隊は、地球の方に行ったみたいですね」
「ええ、よかった。あの規模でこっちに来られたら、どうしようもありませんから」
 力無く笑い合う2人。シンが再び嘆息する。冷たい光を放つ照明を見上げた。
「ラクス=クライン、か」
 2年前、オーブの慰霊碑前でキラと『和解』した時の事を思い出す。
「あいつがその気になったら、俺の夢なんて簡単に叶うんだろうな」
「夢って、ええと、戦争が無い世界にするっていうアレですか?」
 額縁の書を読み上げるような口調で訊ねる研究員に、シンは苦笑いで応える。
「すみません、兵器造ってる人に話す事じゃありませんね」
「あ、いや。こっちとしても冷戦状態が最高ですから。本格的にドンパチ始められると
困るんですよ。生産調整とかうるさく言われてねぇ……けど」
 研究員の指は止まる事が無い。人格面と趣味はさておいて、無能ではないのだ。
「クラインに期待しすぎじゃないですか? あの人、戦争で偉くなったんだし」
「そうなんですけど……でも、すごいじゃないですか」

 自嘲気味に笑って、シンはシミュレーターのコントローラーを握り直す。
「2年前は言うまでもなく、今だってちょっと顔出して喋るだけで、俺達をテロリストに
出来る。あの権力とカリスマ性があれば、何でも出来そうでしょ?」
「そりゃあ、何でも出来るかも知れませんけれど、そもそも……あ、そうだ」
 データをセーブした研究員がシンの方を向く。
「ナスカ級が回収したフリーダムですが、ジュール隊で使うみたいです」
「本気で!? 大丈夫なのか……」
「ええ、スキャンは終えたそうですし。それに……アークエンジェルの中だから余り
大きな声で言えませんけど、彼ら、奪った機体を使う事に関しちゃ経験があるでしょ」
 小声で囁くように言った研究員に、シンは一度口を開けた後小さく頷いた。
「あと、イズモも来るみたいです。物資を持って……って、これは流石に知ってますか」
「イズモが? いえ、初耳です」
「……アスカさん、ミハシラ軍で働いてるんじゃありませんでしたっけ?」
 その言葉を聞いたシンが、大きく溜息をついて何度もかぶりを振った。
「あのね、俺は本当に下っ端なんです。組織の動きなんて知らされるわけ無いでしょ?
ただでさえ、今は情報をやり取りできないんだから……テロリストとして追われてますし」
「ああ……失礼。こっちはお嬢様経由で話が入ってくるんです。で、ですね、イズモは
デスティニーⅡの新パーツを積んでますから、10時間程で再換装できますよ」
「新パーツ?」
「簡単に言えば、壊れた物を作り直して改良したんです。ほら、掌部ビーム砲と、足部
ビームエッジです。元々ついてたでしょ」
 どう見ても簡単に済ませるつもりが無い口調で得意げに語る研究員に、シンが手を打つ。
「あれか! 何か、使って直ぐに壊れたっていう印象しか無かったんですが」
「……そ、それは、納期を無理に繰り上げた急造品だったからです。今度のは違います。
別物です。正直、前のとは比べ物になりませんよ」
「本当に……?」
「勿論ですとも! エネルギー効率とビーム収束率が飛躍的に向上しています。アーガイル
だって頑張りましたよ!」
 熱弁を振るう研究員。丁度その時、よれよれの白衣の内ポケットに入っていた
コミュニケイターが鳴った。
「どうした? ……ああ、こっちはあらかた終わった。うん……うん、解った」
 スイッチを切った研究員が、シンの方へと向き直る。
「イズモが来たようです。行きましょう、アスカさん」
 彼に頷き、シンはシミュレーターから身体を起こした。

「ファクトリーの制圧、ご苦労であった」
『其方に労われる理由は無い。任務を遂行したまでだ』
 ブリッジのスクリーンに映ったアークエンジェルの艦長に、ミナは薄い笑みを浮かべる。
「予想外の連続で、さぞ心労も積み重なっただろう?」
『そう言うなら、到着を遅らせるという配慮は出来なかったのか? サハク代表』
 ミハシラ軍の指揮下に入れという、連合軍人として異例の屈辱を受けた艦長。澄ました
ミナを見れば、恨み言の一つや二つ湧いて出てくるというものだ。
『ともあれ……データは全て其方へ送る。例の、無人で動いていたMSについてもな』
 その言葉に、ミナの表情から笑みが消える。
「無人兵器、か。人手の少ないプラントでは、考案されてもおかしくないが」
『同乗したD-techのスタッフによれば、フリーダムとそれ以外のMSでは、プログラムが
若干違っていたらしい。完全自律型のAIとか何とか。結局、詳しくは解らなかった』
「了解した。さて、これからどうするか……だが」
 ミナの言葉に、アークエンジェルの艦長はさも面白くなさそうに鼻を鳴らした。
『地球への航路は、ザフトが現在行軍中だ。生活物資の余裕も無い。月にでも逃げるか』
「ファクトリーの調査を継続せねばならぬ。24時間は此処に留まって貰おう」
『……ネオロゴスか。面子以外、何も変わっていないな。あの連中は』
 非礼にならない限りの不快感を表情に刻み込み、艦長が敬礼する。その時、彼の視線が
右へ流れた。スピーカーから、切れ切れにオペレーターの声が届く。同時に、イズモの
ブリッジで任務についていたオペレーターも声を上げる。
『サハク代表、今、プラントからの通信を傍受した』
「司令官、プラントからの通信をキャッチしました」
 同時に言われ、ミナは瞳を細め唇の端を持ち上げる。動乱の予兆を嗅ぎ付けたのだ。
『ザラ派とデュランダル派を統合した反体制武装組織が、プラントにて蜂起したらしい』
「プラント本国で、反政府主義者が……」
「そちらの報告はよい。……軍事通信では無く、公共の広域通信だな?」
『そうだ。有効距離も短い。届くのはせいぜい、プラント領内と……我々の辺りまでだな』
 ミナに答えた艦長だったが、直ぐに眉間に皺を寄せて彼女を睨みつける。
『プラント領内に押し掛けろという命令ならば、拒否させて貰う』
「ほう? 以心伝心とでも言おうか……」
『明らかな内政干渉だ。ラクス=クラインの真似事をするつもりは無い』
「ラクス=クラインか。奇しくも、此方の艦数は貴アークエンジェルを含め3隻……
フ、興味深い符合だ」
 ミナの冗談にも取り合わず、艦長はかぶりを振る。
『正気の沙汰ではない。軍法会議に掛けられようとも、承服はしない』
「そう言わずとも解っている。どの道少しは様子を見ねばならぬ。少し、な」

『ほ、報告します! 3分前、当コロニーの保安装置が破壊されました! 循環システムの
主機関が露出しており、危険な状態です!』
『各オクトーベルコロニーでも被害が続出! 大規模にして広範囲ですが、MSは使用
されていません! 外壁修理用のビークルに爆薬を積んで、衝突させたようです!』
 オクトーベル市の運営を任されている市長は、庁舎の執務室で指が白くなるほど拳を握り締めた。
 全ては、5分前の奇妙な通信から始まっている。反クラインを叫ぶテロリストが、
プラント領内で一斉蜂起したというのだ。テロリストの主張は無く、その通信内容自体、
まるで他人事のようである。直後、歌姫の御手が設置した大気循環システムを守る保安
装置が、あちこちで破壊され始めたのだ。
「エターナルへは、ラクス様への通信はまだ繋がらんのか!」
「強力な妨害電波によって阻まれています! 10分前まで問題なかったのですが……」
「この肝心な時に……! もし循環系を破壊されれば、大惨事になるぞ!」
 大気の循環システムを破壊されるという事は、毒ガスを注入されるに等しいダメージを
プラントの住民に与える事となる。大気の流れが滞り易い砂時計型コロニーの内部は
あっという間に空気が澱んでいく。
 人間の肺は空気の薄さに対応できても、大気のバランス変動には脆い。吸収する酸素が
欠乏し、代わりに炭酸ガスが増えていけば呼吸器不全に繋がる。病によって起こる症状と
違い、加速度的に進行するだろう。
 そして、そのような災害に対処する能力は、今のプラントに無い。圧倒的物量差を持つ
地球連合と戦う為に、工業や物流を戦時体制に切り替えていたからだ。その影響から、
未だ立ち直れていないのである。
「市長!」
「今度は何だ!?」
 傍らの副市長に怒鳴りつけつつ、市長は新たな情報を表示したモニターに眼を通す。
其処には破壊された保安装置と、ある兵器の映像が記載されていた。市長の青ざめた顔が、
青を通り越して白く変わっていく。
「……グングニール……EMP兵器だと?」
「全ての市庁舎に、同様のデータが送信されているようです……」
「馬鹿な。合成したものではないのか!?」
「そ、それが……オクトーベル3の監視衛星が偶然捉えた映像とも一致しています」
 その言葉と映像を見せられた市長の判断は早かった。
「衛星が撮影した画像を、全ての庁舎へ送れ! 駐留するザフトには、歌姫の御手からの
命令を受け付けるなと伝えろ! 直ぐにだッ!!」
 確かに彼の判断は素早かった。しかし、事態を収拾するには遅すぎたのである。

 アーモリーワンのドック。ミネルバ級二番艦のブリッジに座る褐色肌の女性艦長の前で、
球状の三次元モニターが赤と緑の光と、変わり行く数値を映し出す。
 攻撃開始から6分で、4割の『保安装置』が破壊された。現場はプラント領内に幅広く
散らばっており、全てが行政、工業の中心から離れた場所。住民の多いコロニーである。
作戦の遂行者は、1人でも多くのプラント市民を救うつもりなのだろう。だが、無駄だ。
「始めて」
 短い命令に、傍らの少女が頷く。義手の右腕を操ってコンソールを叩き、最後に赤いキーを押し込む。
「グングニール、起動」
 BEEP音が2秒間鳴って、静まり返る。プラント領内に存在するコロニーの6割。
それに仕掛けられた高出力EMPエミッターが作動した。循環システムの中枢に直結され、
バックアップごと砂時計の『呼吸』を殺す。
 これから起こる出来事は、補佐官が以前ラクスの前で警告した事だ。『50人』は、補佐官
の能力を高く評価していたのだ。即死者は出ない。『50人』は即死者を望まない。
炭酸ガス濃度上昇の恐怖、呼吸不全の初期症状、足りないノーマルスーツ、シェルター。
 それらが起こすパニックこそが、エイプリルフール・クライシスで大切な人を奪われた
『最後の50人』が真に望むモノ。
「プラント領内のザフト基地全てに、通信を」
 先程の少女が幾つかのキーを叩き、回線を開いた。女性艦長が声を張り上げる。
「全ザフト兵へ伝達! 領内に潜伏していたブルーコスモスの手により、コロニーの循環
システムが破壊された! 被害の詳細は確認できていないが、広範囲に及ぶと推測される!
卑怯者の逃亡を、断じて許してはならない! 1隻の船舶も、コロニー内の発着場から発進
させるな! 警告に従わない船については、撃沈を許可する! ラクス様の名の下に!」
 この通信は多くのデマを生み出した。ラクス=クラインの振るった力に酔った兵達は、
自らの長所である『柔軟な判断能力』を失ってしまっていたのである。次に、女性艦長は
自艦のMSハンガーに通信を繋げた。
「ジャミング衛星だけど、効力圏が意外に狭かったわ。アークエンジェルのいる宙域まで
カバーしきれていない。邪魔が入りそうよ」
『了解。すぐにMS隊を出す』
 ガルナハン基地でシンと戦った男がそう答え、通信が切れる。
「システムオールグリーン。発進準備完了」
 『02』と書かれた分厚い隔壁がゆっくりと開いていく。無重力ドックに彼方の太陽光が
差し込み、青と白に塗り分けられた艦体を照らし出した。
「セクメト、発進」
 炎と疫病を司る女神の名を与えられた戦艦が離床する。殆ど同時に発艦した純白の
⊿フリーダム部隊を侍らせ、急加速したセクメトが矢の如く虚空へ飛び出していった。

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