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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第53話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:45:34

「ひどい幸運ね。まともじゃない」
 攻撃失敗を悟った女性艦長が、褐色の美貌を変えぬまま呟いた。全ては両舷同時砲撃を
命じた自分のミスだ。2点からの高出力ビーム射撃で、シャトル、民間船、MS隊全てを
破壊しようと目論んだ為だ。
 あのゴリラのように肥大化した上半身と恐竜のような脚部を持った黒と赤の大型MSは、
ビーム射撃その物を斬り裂いたのではない。高収束ビームシールドを纏ったクリーバーは、
2条の砲撃が合わさる寸前に射線へ割り込んで合流を阻止、つまり『押し退けた』のだ。
もし片舷斉射なら、今頃デスティニーⅡはこの世から消え去っていただろう。
「直ぐに2射目を。偶然は続かないわ、両舷で交互に……」
「前方に反応あり。アークエンジェルだ。来るぞ」
 女性の柳眉が顰められる。深く被った制帽の下から、底光りする瞳が覗いた。
「視認距離外からの砲撃……シールド起動。上下回避機動急げ」
 民間船の相対的上方から閃光が走りブリッジが照らし出されるが、直後に発生した紅い
靄のようなフィールドがセクメトの前面を覆う。彼方からのビーム射撃が、それに弾かれ
霧散した。その残光が消えぬ内に、女性艦長は右手を軽く上げる。
「撃ち返す。シールドを維持しつつトリスタン斉射。減衰する火力を手数で補う」
 命令は迅速に伝達された。ブリッジの両サイドから連続して光が走り、見えぬ相手へ向け幾条も
伸びていく。怜悧な表情のまま、セクメトの艦長は小さく息を吐く。
「ブリッジを下げて。戦闘形態へ移行……歓迎し難い状況ね」

「ビームシールド!? 大きい……!」
 蒼と白のセクメト前面に展開された光の膜に、シンは思わず呻いた。艦首中央、陽電子砲の
代わりに装備されたシールドジェネレーターから放たれる輝き。揺らめき渦巻くそれは、
行く手を遮る炎の壁にも見える。クリーバーのコロイド場が再び安定し、元の輝きを取り戻した時、
イズモからの通信が入った。
「こちら第1小隊のデスティニーⅡ、シン=アスカ! ……司令官?」
『全部隊に告ぐ。想定外の危機が現在進行中だ。プラントが有する全コロニーの内、その
6割が大気循環システムを破壊され、市民はパニックに陥っている』
「ッ!?」
 剣先を⊿フリーダムに突きつけたまま、シンは眼を見開く。密閉されたコロニー内部は、
放っておくと加速度的に大気が汚染されていく。循環システムの破壊は、言ってみれば、
あらゆるライフラインが寸断されたエイプリルフール・クライシス並の災害と言っても
過言ではない。
「じゃあ、民間船はコロニーから逃げてるのか……何でザフトがそれを攻撃するんだよ!」
『尚、ザフトの大部隊を引き連れプラントを出たエターナルには、通信が繋がらない』
 全員に伝達しているので、ミナがシンに答える事は無い。

『が、プラント領内では通常通り交信できている。恐らく指向性のジャミング装置が、
領外への通信を妨害しているのだろう。イズモとそのMS隊は、ジャマーの発見、破壊と
通信状況の復旧を担当する。他部隊は、引き続き避難する民間船の保護に努めて貰いたい』
 通信モニターの映像が歪み、唐突に切れた。ジャマーに近づきすぎたのかもしれない。
悪い考えに行きそうな自分を、激しく頭を振って現実に帰すシン。背後の、中破した
ザクに通信を送る。
「船を連れて、早く避難しろ! 安全な……少しでも安全な場所に!」
『アスカさん……アスカさん、なんですか?』
 空色の髪と紫の瞳を持った少女が震える声で訊ねる。艦砲射撃を前にした恐怖から未だ
立ち直れていないのだろうか。そんな的外れの苛立ちを覚え、シンは叫ぶ。
「そうだよ! 早く行ってくれ! 巻き込まれるぞ!」
『……はい』
 一言告げて俯く少女。落ち込んだその様子に、シンの記憶が蘇った。
「し、シミュレーターには、絶対付き合う!」
 彼女が驚いて顔を上げかけた時にはもう、シンは通信を切り替えていた。
「ヒルダ! まだ敵艦は動いてない! 回り込……」
 メインモニターのグリッドが赤く染まる。ロックオンアラートが鳴り響くと同時に、
シンはフットペダルを蹴飛ばし機体を右へと跳ねさせる。其処を、レールガンの
2連射が駆け抜けていった。純白に塗装された天使のような⊿フリーダムが、こちらに
ビームライフルを向ける。
『遅かったな、アスカ君……遅すぎたよ』
「アンタは……ガルナハンの!」
 叫び返しながらも、シンはトリガーを引いていた。脚部のハッチが開き、ミサイルを
撃つ。光を引いて迫る2発の誘導弾を、⊿フリーダムは軽々と左右にかわした。
『その機体、おぞましい姿だ。君の傲慢さと欲深さを適切に表現している』
「アンタ達は……そうか。アンタ達が、これをやったんだな……」
 現状を打開できない己への怒りと憎しみによって歯を食い縛り、シンが唸る。
『その通りだ』
「何でこんな事をする!? プラントに復讐するんなら、他に幾らでも方法があった!」
『幾らでも? そうだな』
 ⊿フリーダムから撃ち込まれたビームを、クリーバーで打ち落とすシン。今度は反撃
しなかった。相手は並のパイロットではない。剣を正面で構え、出方を伺う。
『事前に発覚しやすく、派手な方法なら幾らでもあったろう』
『シン、受け取れ!』
 マーズから通信が入り、シンは機体に左腕を伸ばさせた。宇宙空間を飛ぶような速度で
流れてきたシュレッダーを左腕のセンサーが感知し、しっかりと受け止める。

 FCSが瞬時に再調整され、銃身に電光が走り、上部のスコープが凶悪な光を放った。
「そうだ……コロニーに住んでる人間を殺す方法は……」
『迅速な死を与える方法、だな?』
 シンの言葉を遮り、ガルナハン基地でシンと戦った男は低い声で告げた。
『迅速な死。そう、君が私から奪ったような』
「アンタはっ……!?」
『50人は、そのような物を望んでいない』
 ⊿フリーダムが猛然と加速する。連射されるビームライフルを、機体サイズの大きい
デスティニーⅡはぎりぎりで回避していく。肩や脚を掠め、緑の光粒子が散った。
『確かにこの状況の中で、幾人かは早すぎる死を迎えるだろう。それは致し方ない事だ。
不可抗力という事もあるし……コストという概念も存在する』
「『50人』だと!? じゃあ、アンタ達が!」
 ジグザグに動き回る⊿フリーダムにシュレッダーを向け、バースト射撃。ばら撒かれた
機銃弾が⊿フリーダムの左こめかみを掠り、ツインアイの片側が瞬いた。
「直にラクス=クラインが来る! あいつも根は善人だ。アンタ達の計画は終わる!」
『どうかな』
 全く表情を変えないまま、男は告げる。レールガンが肩にセットされ、照準器が鈍く
光る。しかし、発射される前にデスティニーⅡの光翼が大きく羽ばたいた。
『ラクス=クラインは、自分の考えの外にある物を認めない。存在を、認識できない』
「だからどうした!」
『彼女は帰還した後、一連のテロが地球連合軍によって引き起こされたものだと知る』
 2つの機体が衝突する。ツインアイ同士が睨み合い、質量の大きいデスティニーⅡが
競り勝った。ミサイルが搭載されていない左膝で⊿フリーダムを蹴り付け、弾き飛ばす。
「な……んだって……?」
『アスカ君、我々にとって破滅とは終わりではない。デッドエンドへの苦痛と憎悪と
哀しみに満ちた狭き路が、永遠に引き延ばされる事だ』
 ⊿フリーダムのシールドが真横に割れ、上腕部へスライドする。剥き出しになった
ビーム発生器から、先程のビームサーベルよりも遥かに幅広で、長大な光刃が伸びた。残った
シールドのグリップを、マニピュレイターが握り直す。
右手のビームライフルをデスティニーⅡに向けつつ、それを下段に構えた。
『そして、我々は破滅を望んでいる……全ての』
 ラクス=クラインの一声によって戦争が起こる。通常ならば考えられない話だ。しかし、
笑い飛ばせなかった。2年前に彼女がやった事を知っているからだ。そして、今地球は
戦災とブレイク・ザ・ワールドの被害から復興している最中である。加えて、プラントは
相変わらず、食料などの有機資源を地球に頼ったままだ。恐ろしい予想が脳裏をよぎった。
「やらせるか……! 3度目の戦争なんて、あってたまるかよ!!」

『何故私がこうも、ペラペラ喋っていると思う? 最早止められないからだ』
 ⊿フリーダムの左拳が殴り付けるように繰り出され、伸びたビームソードをクリーバーで
受け流し、デスティニーⅡのツインアイが輝いた。至近距離でシュレッダーを向けるが、
必殺の銃撃はしかし、純白の左肩装甲を浅く削るに留まる。射角が浅過ぎたのだ。
 武器が大きすぎるのだ。シン=アスカの腕ならば問題ない範疇だったが、相手が同等か
それ以上の技術を持っている以上、取り回しの悪さは致命的だった。
「この会話を流せば、ラクス=クラインだって……!」
『捏造したと信じ込むだろうな。我々は、歌姫に絶対の忠誠を誓う存在の『筈』だから』
 互いを読み合っていた⊿フリーダムとデスティニーⅡが、全く同時に寸分違わぬ動きを
見せた。渾身の力で接近戦武器を叩き付けようと、その場で360度ターン。紅の光翼が
巨大な扇を描いた。
『それとも説得してみるか? 彼女にテロリストのレッテルを貼られた君達が。彼女の、
あの平和の歌姫の柔軟性に期待するというのかね?』
「他に方法が無いなら、そうするだけだ! そう簡単に諦めるか!!」
 高収束ビームシールドを纏ったクリーバーとビームソードが激突し、光輝が満ちた。
『君自身が無駄だと解っている筈だ、アスカ君』
 モニターが映す光に目を細め、男は静かに告げる。彼の、否、『最後の50人』の過ちが
実体を持って顕現しつつある事など、まるで知らぬままに。
『ラクス=クラインを止める者など最早存在しない。我々の計画は、既に完了している』

『何度でも繰り返します。軍をお退きください。クライン議長がなさろうとしておられる
のは、れっきとした侵略行為です。我々は断固として立ち向かわねばなりません』
「そう、ですか……」
 ザフト旗艦『エターナル』艦橋。ラクスは深く、悲しげに溜息をついた。彼らは何も
解っていない。自分達はただ、三度争いと混乱が満ちようとする地球を、世界を救わんと
しているだけなのだ。にも関わらず、彼は自分の説得に耳を貸さない。
 しかし、彼らを責めるのは酷だろう。己の利益のみを考える一部の権力者によって
操られた地球連合軍に所属する兵士達に罪はない。自分の意思で行動するという事を禁止
されているのだから。
「『エンブレイス』と、『セレニティ』の起動を」
「は、ラクス様!」
「それと、キラに繋いで下さい」
 オペレーターがエンブレイスを格納した輸送艦に通信を送るのを見遣った後、ラクスは
モニターに映ったキラを見上げた。
「キラ、まだ撃ってはなりません。エンブレイス発進まで、お待ち下さい」
『解った、ラクス』

 巨大なミーティアユニットを装着したストライクフリーダムが、エターナル前方で待機
している。ブリッジクルーは、全員ノーマルスーツを着用していた。バルトフェルドが
半ば強引に命じた為だ。無論、ラクスも例外ではない。
「ラクス様、私もMSで出ます」
「お願いします」
 こちらを見ずに返答したラクスに敬礼し、『D』がブリッジを出た。
「力に力で対抗する。何時まで、このような事が続くのでしょう……」
 憂いを帯びたその声をドアが遮断すると、『D』は格納庫へと急いだ。ラクスに敬礼した
右手が熱に浮かされたように震えてくる。ついに目覚めるのだ。『真の』キラ=ヤマトの
力とラクス=クラインの信念を併せ持った機械仕掛けの調整者<コーディネイター>が、
最強の器に宿る。
 同時に、2年を費やした『賭け』も終わる。あらゆる小細工を弄したが、肝心の一点には
決して触れられなかった。模倣者に過ぎなかった筈のエミュレイターは自己進化しすぎ、
嘘も甘言も通じなかったからである。よって、最後の判断は『彼女』次第だ。
 レバーに掴まり通路を流れる彼の表情に、ひきつった笑いが貼りついていた。

『おいあれは何だ! でかいぞ……!』
『先制攻撃は禁ずる! 繰り返す、先制攻撃は禁ずる!』
『くそ、相変わらずこっちはルール、ルールか! 相手は好き勝手やってるのに!!』
『メディアは下がれ! おい、お前だよ野次馬!』
 通信で怒号が飛び交う連合軍戦列の片隅で、『PRESS』と書かれた小型艇の傍に待機する
アウトフレーム。操縦をカイトに任せ、ジェスは頭部で撮影を続けていた。
『おいジェス! もう良いな? 下がるぞ!』
「待て……待ってくれ、カイト! もう少し……」
 ファインダーを覗き続けるジェスの喉仏が、音を立てて上下した。

 エターナルの右に居る、蛹のような船が中央で分割される。フレームで繋がった船内が
露出し、⊿フリーダムと同じ純白で彩られた全長50メートルもの巨体が出現した。
 彼方の光を受け、『白』が左右に広がる。優美なウィングユニットが展開され、折り畳まれていた砲身が
鈍く輝く。我が子を抱き止めるように連合軍へと広げられた天使の双翼がその場で回転し、
先端が後ろへと伸びた。縁から片側3門、計6門の砲が突き出し、前方に向けられる。
翅の最前部ユニットが伸びて突起を形作り、青白いビームシールドを一瞬だけ起動させた。
 ずんぐりと膨らんでいた胴体部が相対的下方へと伸び、船首像の如く美しい姿を見せる。
胸部大口径砲の砲口が開いて燐光が灯ると同時に、胴部と翅部に2基ずつ配備された小型
砲台のような装備が機体表面に展開される。胸部ビーム砲の両脇からも砲身が突き出した。

 最後に、ザフトのMSジンを思わせる鶏冠のようなブレードアンテナを持った頭部が、
ゆっくりと正面を向く。全身に配備された8つのモノアイが一斉に輝き、両翅部、胴部
から光翼が迸る。純白の巨体と蒼い光が、連合兵とザフト兵の目に焼き付いた。
 その巨体にまるで相応しくないスピードで、エンブレイスはエターナルの前に滑り込む。
各ブロックを独立して動かす事で、3基の核エンジンによってエネルギーを供給される
3基のヴォワチュール・リュミエールユニットが、『彼女』に並外れた機動力を与えるのだ。
ストライクフリーダムが左に避けた。遠くの陽光を受け、白き巨体が燦然と輝く。
 エンブレイスのセンサーが、連合軍の傍に寄り添う報道船と1機のMSを捉えていた。

「さあ、今こそ……」
『ラクス=クライン』
 発進し、斜め後ろに伸びた胴部の背後をエターナルに向けたまま、エミュレイターが
声を発する。ラクス=クラインと寸分違わぬ声に、ザフト兵の幾人かが背筋を伸ばした。
『私は資料を通し、過去と現在に渡って貴女の行動を観察してきました。そうせよ、と
貴女が仰ったからです。貴女に倣い、人類世界を守護する為に』
「その通りです。貴女は、私やキラに万一の事があった際の希望なのですから」
 エターナル艦橋のラクスが、微笑みを浮かべて頷く。傍にいるバルトフェルドが、顔を
歪めて義手を押さえた。何故か、痛みが走った気がしたのだ。
『しかし実の所、私は疑問を覚えていました。何故なら、このエンブレイスは余りに強力。
人類を平和へと導くとしても、その過程で破壊と恐怖がもたらされれば、人々は平和を
抑圧と感じ始めてしまうかもしれない。またその前提において、貴女の手法を採用するならば、
導き手である我々が絶対に正しくなければならない。果たして全知全能ではない我々に……
それが可能なのか……疑問でした。貴女の言動も、不審な点は多かった……』
 エミュレイターの言葉を聞いたラクスの表情に、幼子が見せるような戸惑いが浮かぶ。
『しかし今の私に疑問はありません。ラクス=クライン、私はやるべき事を見出したのです』
 その言葉に、ラクスに再び笑みが戻る。バルトフェルドが低い声で告げた。
「退避しろ」
「え? バルトフェルドさん、いま何と……?」
『ラクス=クライン、私は貴女の軌跡を可能な限り調査し、吟味しました』
「ブリッジから退避しろ!!」

『ラクス=クライン、私は貴女の代行者として、貴女の名の下に……』

 バルトフェルドの言葉で動けた者は殆どいなかった。ブリッジの正面で、蒼い光翼が
その輝きを強め、翻る。左翅が外側に膨らみ、高速でターンした。

『貴女を、平和の敵として』

 エターナルを振り返ったエンブレイスのモノアイと砲口全てが、神々しい輝きを放つ。

『排除します』

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