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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第64話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:50:31

「この波形と、数値は……」
 
 部下の呟きに振り返ったダイアモンドテクノロジーの生体CPU開発主任。モニターに視線を走らせる。
 シン=アスカの着用するパイロットスーツから送られてくる生体データが次々と更新、記録されているそれに喉を鳴らした。
「SEED……間違いない、SEEDだ」
「本当に実在するんですか? 学会誌に一回載っただけの概念でしょう?」
「勿論実証はされていない。『実例』ならキラ=ヤマトが有名だが」
 部下に返答しつつ、主任は時系列に沿ってデータを遡る。
エンブレイスに機体を中破させられるまでと、現在のそれを二分割された画面に表示させた。

「キラ=ヤマトがC.E.最強と称されたのは、このSEEDを自在に発動させられる故だ。
 スーパーコーディネイターは、常に生物としての限界性能を発揮できるよう設計されている。
 反面、どうあっても予め定められた性能しか出せんわけだが」
「……シン=アスカは、それを超えられると?」
「部分的にはな。本当の意味で生命の危機が迫った時だけ、彼は己の限界を超越する。
 例のザムザザーと戦った時などがまさにそうだ。彼の蓄積された操縦技術とインパルスの機体性能では、
 あのモビルアーマーに勝てなかった……少なくとも、シミュレーションでは」
 キーボードをせわしなく叩きつつも、主任はセレニティの砲口前で戦う2機を見遣る。
 蝙蝠羽のような紅光と天使のそれのような蒼光がぶつかり合い、白い光輪を撒き散らした。

「だが、いちいち死にかけねば真価を発揮せん兵隊など役には立たんだろう。 
 やはり、超兵士計画の母体はキラ=ヤマト以外にないな」

「2年前! 俺は負けた!」
 左のカメラアイを破壊され、隻眼となったデスティニーⅡを駆るシンが叫んだ。

 機内は警報と警告メッセージで埋め尽くされており、ヴォワチュール・リュミエールユニットに
発生した致命的な障害を解決するためには、即刻全機関を停止させるしかない事を搭乗者に伝えている。
1機だけの敵に対し、分離したエンブレイスは総攻撃をかけた。
 5機に減った大型ドラグーンが、視界に捉える事さえ困難なスピードで乱舞し蒼白い光条で
漆黒の宇宙空間を縦横無尽に斬り裂く。デスティニーⅡが後退する事は無かった。
緋色の電光で左腕と繋がった光翼が巨大なシールドと化し、秒間2発超のペースで降り注ぐビーム射撃を弾く。
「アンタがこの前ズタボロにしたラクスとキラに、俺は負けたんだ!」
 両肩と腰から伸びたフィンが動き、左脚を失った人型が弾幕といっても過言でない光の嵐の中、
死を乗せた射線の隙間に自らを割り込ませる。
「ほんの少しだけど、気分が良くなったよ!」
 小刻みなスラスター噴射で機体が踊り、紙一重の所で必殺の一撃を回避した。
「負けるのは惨めだろう、辛いだろう! 自業自得だってな!」
右腕が閃き、機体全高の1.5倍ほどに伸びた真紅のビームソードを真一文字に振り抜く。
シールドを展開したエンブレイスの左翅がそれを受け止め、揺らいだ。
Sフリーダムのレール砲を撃ち込まれた部位を中心に、電光が走る。
『セレニティ再発射まで後2分です! リングは全て無力化されています!退避を急いでください!』

「だけど、あの連中に負けて良かったと思う事がひとつだけある!」

『それは?』
 
 初めての返答に、シンは一瞬目を見開いた後小さく笑みを浮かべる。
 瞳が焦点を結んでいない今、モニターの光に照らされたそれはまさに悪鬼の形相だった。

「戦争の無い世界っていうものが、思ったよりみんなの気持ちを引き付けなかったって事だ!
  誰もが戦いを嫌がるけど、それはあくまで、自分が戦いたくないってだけの話さ!」

『オーブという国で暮らしながら、そのように基本的な事を理解していなかったのですか』

 デスティニーⅡの左腕手甲が大きく開いて内側が輝き、掌から艦砲並の高出力ビームが放たれる。
射線に稲妻を纏うそれを、エンブレイスは光翼を膨れ上がらせ左右にかわした。
 
 互いに、設定された機体の限界を超えている。
手数で勝るエンブレイスは、全方位からビームをばら撒きつつ必殺のタイミングを計り、
デスティニーⅡはシールドと高い機動性で弾幕を掻い潜り、肉薄を試みる。
 セレニティの真ん前で金の光輝を浴びる。退避など出来る筈もない。
 一瞬でも目の前の敵以外に意識を向ければ終わり。
 それはどちらも同じ事。
 生きる為には、存在を続ける為には戦って勝たねばならない。
 かつて、人類がそうしてきたように。

「ああ、何も考えてなかったからな。何も考えない内に戦争に巻き込まれて家族が死んで、
 俺は力が無かった自分を憎んだ!」

『そして貴方は力を欲し、手に入れた。手に入れた力を戦争に使い、更に多くを殺した。
 貴方がかつて味わった哀しみ、憎しみ、無力感を何倍にもして他者に押し付けた』

「そうだ、俺は勘違いをしていた」
 
 ジェス=リブルの乗る報道船によって、広域回線を使った自分達の会話は余す所なく伝えられるだろう。
自分のものになるかもしれない地位や名声を捨てる事になるだろう。
だが、シンは構わなかった。彼の欲しい物ではなかったから。

「戦争をしたい人間なんて、本当はいない。何か特別な原因があって戦争が起こるから、
 みんなはそれが叩き潰される事を願ってるってな! 大間違いだったよ!」
 
 エンブレイスからの全方位射撃を回避し続けるデスティニーⅡ。
 シン=アスカの集中力は途切れない。
 虚ろな紅の瞳は全てを視る。
 覚醒した彼は、人間とそうでない何かとの境界に足を踏み入れつつあった。

「だからこそ、解る! キラとラクスを落ちぶれさせてプラントに住んでる2000万人を飢え死にさせて、
 セレニティで地球圏に睨みを効かせても、平和にはならない!」
 
2機の残存するカメラアイ全てが、同時に輝いた。
  
「誰も、平和なんて望んでないんだからな! 
 脅して俺達を管理しようったって無駄さ! 
 昔から、CEが始まる前から、俺達人類はそういうのが大嫌いなんだ!」

『私は貴方ほど人類に絶望していないのです、シン。
 何かのきっかけさえあれば、人々は 理性と平和を取り戻すと信じています』
 
 全てのドラグーンを収納し合体するエンブレイス。
 両掌に光を湛え、巨大な片翼を後方に伸ばすデスティニーⅡ。
 エンブレイスは前傾姿勢を取り、デスティニーⅡもまた身を屈めた。
 焼け付いたスラスターノズルの奥が、淡く輝き始める。

「間違ってるよ。平和っていうのは、みんなの理解を期待するものじゃない。
 殴りつけて、首根っこを掴んで、硬い地面に押し倒して耳元に怒鳴りつけるんだ。
 何度も何度も、絶対に諦めず、端折らずに。アンタのやり方じゃ、何億人殺しても平和にはならない」

『あくまでそう主張するならば、シン。まず私を殴り付け、耳元に怒鳴りつけなさい』
 
 2機の背面が爆光を放ち、一瞬で距離を詰める両者。
 3体に分離したエンブレイスがドラグーンを射出しながら取り囲もうとした時、中央ユニットと右翅の隙間を悪魔がすり抜ける。
 翼同士が触れ合って、白い羽毛のような光の粒子が散った。
 正面衝突すら恐れない相手の動きにドラグーンが躊躇するような動きを見せるが、直ぐにデスティニーⅡの位置を捉える。
 エンブレイス本体が反転する時間を稼ぐべく、背面へ回って前進し制圧射撃をかけようとした直後、
デスティニーⅡがスピンして向き直る。
「遅い!」
 右掌から光が迸り、MS1機を丸々握り込めそうなまでに巨大化したビームクローが機体の回転速度に合わせ振り抜かれた。
隊列を組み直す寸前だった5つのドラグーンが、まとめて引き裂かれる。

 5つの小爆発を蹴散らし、反転を終えたエンブレイスが猛然と加速。
 デスティニーⅡが、斉射される青白い高出力ビームに機体を掠めさせつつ迫る。
 Vアンテナの右半分が至近を掠めたビーム光で溶解するが、デスティニーⅡはまだ撃たない。
 少ない手数ゆえに、牽制攻撃さえかけられないのだ。回り込みつつ、左腕を引き寄せ一気に突き出す。
 巨大な光剣の切っ先はエンブレイスの左翅へ。回避機動を取りつつビームシールドを張って防御しようとする左翅だが、
眼前に展開された光壁に紅の光が突き刺さった直後、霧散してしまった。
そのまま純白の装甲に食い込み、各部がスパークを放つ。
 
『50人』の乗ったSフリーダムがレール砲を撃ち込んだ左翅。

動力部にまで食い込み、パワーが下がり続けていたそのユニットを、シンは見逃していなかった。
爆発の炎に包み込まれるデスティニーⅡ目掛け、エンブレイスが全砲門の火力を叩き込む。
光の中で、デスティニーⅡの左腕が砕け散る。
稲妻のような軌跡を描きつつ、紅の光翼を広げた隻眼の悪魔が天使に襲い掛かった。
右翅のビームシールドを銛のように鋭くさせ、フルパワーで殴りつけるエンブレイス。
ビーム光を纏ったデスティニーⅡの右脚が跳ね上がり、放たれた蹴りで僅かに光拳の軌道がずれた。
爆発に消える右脚。
「ぐっう……ァアアアッ!!」

 シンが獣じみた咆哮を上げる。コロイド場が安定する時間はとれない。
光を引きずる右掌を、そのままエンブレイスの中央ユニットに叩き付けた。
エネルギーチャージを終えかけた胸部ビーム砲に右腕の肘上までめり込み、両機の間で激しく火花を散らした。
 致命傷を負ったと判断したエンブレイスのシステムが、自動的に機関を停止させる。
モノアイと光翼が消えて、デスティニーⅡの翼もまた光を失う。
エンブレイスの右翅が中央ユニットに再接続され、満身創痍の悪魔を包むような姿勢で停止した。

 

 白き裁定者が動きを止めるのを目の当たりにした皆が歓声を上げる。
 五体満足な機体は殆どなかった。
 1人の兵士がスクラップになったダガーLのハッチを開け、身体を乗り出し拳を突き上げる。

『エンブレイス、沈黙しました! 各機、射線上からの退避を確認! シン、離脱してください!』
『すげえ……本当にサシで勝ちやがった』
『俺はやると思ってたけどな』

 回線に入ってくる驚きの声に、シンは笑いつつかぶりを振る。
「ぜんぜん1対1じゃなかったんだけど……なにっ!?」

 スタビライザーを破壊されて無力化した筈のリングが、突如回転を始める。
 内側の金光が明滅し、押し退けられたMSの残骸が漂っていった。
『リングの……再起動を確認! 攻撃範囲不明です! さ、再発射まで1分を切りました!』
「なんだ……なんだよ、これはっ!」
『バックアップが作動したようです』
 聞こえてきた声に、シンがまばたきする。戦闘モードに入らないまま、復旧した白い機体がデスティニーⅡから離脱する。
各部から火花を飛ばしながら、淡い光翼を広げた。
呼応するように、デスティニーⅡの紅翼も蘇る。相互干渉はまだ終わっていなかった。
『此方から停止させる事もできません。このような異常が発生するとは、予想外でした』
「待て、何する気だ!」
『砲身内部を通過して出力が増幅する前に、エンブレイスのシールドで砲撃を食い止めます。直ぐに退避しなさい』
「アンタは……」
『見るべきものは見終えました。確かめ終えました。無意味な喪失を、私は望みません』
 シンの返答を待たず、巨大な砲口の中へ飛び込むエンブレイス。
直ぐさまシンは、アークエンジェルで自機のモニターを続ける研究員に通信を繋ぐ。
「戦闘は見てましたよね! エンブレイスは、セレニティを防げそうですか!?」
『成功確率は50%未満ですなあ。中枢動力部に大打撃を負っていますので』
 事の外落ち着き払った口調で応える研究員。冷静さでなく、諦めかもしれない。

 シンが 次にやる事が、解ってしまったからだ。

『細かい説明は省きますが、お察しされているであろう通り、
 今のデスティニーⅡとエンブレイスはヴォワチュール・リュミエールによる相互干渉で繋がっています。
 あと、エミュレイターの判断が最も的確である事に疑いの余地はありません。幸運を』
 
 モニター越しに笑みを見せ、シンは出力の下がり切ったデスティニーⅡを砲口へ向けた。

 

 回路状の紋様が金色の輝きを放つセレニティ砲身内部を、よろめきながらエンブレイスが進む。
 既に戦闘能力は喪失しており、機敏な動きは出来ない。内壁にぶつかり、金色の粒子が散った。
 
 操るエミュレイターにもはや懸案事項はない。過ちによって生み出された自分は、最後に正しい事をするのだ。
 
 不意に青白い光翼が輝きを増し、広がった。
 自分の機体より損傷の激しい機体が、紅の片翼を力強く羽ばたかせつつ隣に寄り添う。
『セレニティ再発射まで、40秒!』
『先程の言葉、嘘だったのですか? シン』
「アンタひとりじゃ頼りないから、手伝いにきたんだ」
 言葉を交わす間にも、2機は砲の基底部に辿り着く。
 8つのビーム発生器が光の輪を浮かべ、中心軸に先端を向け破滅の一撃を放たんとしていた。
 輝きに照らし出され、デスティニーⅡに残された左の光翼が一層輝く。エンブレイスの右の翼も同様だ。
『再発射まで30秒! 打つ手……ありません!』
 シホの悲痛な叫びに反し、輝く中核を見上げるシンに恐れは無い。

  
  『ならば、よろしいのですね』

  
  「俺は、こういう時の為に『在る』。そう決めた」
 
 
 シンがそう口にした直後、サブモニターにウィンドウが表示された。
 膨大な数のデータがデスティニーⅡのコンピューターに流れ込み、OSとサポートAIを書き換えていく。
『残り20秒! 攻撃範囲算出終了……艦隊全てをカバーしています!』
『私の複製を、そちらに。ヴォワチュール・リュミエールの出力調整は此方でやります。
 ビームシールドのタイミングを、お願いします』
 紅と蒼の翼が混じり、ヴォワチュール・リュミエールユニットの相互干渉が臨界値へと達する。
 
 純白の翼が砲内で輝いた。
 
 右腕を突き出すデスティニーⅡ、
 
 右翅を分離させ、 デスティニーⅡの右腕に沿わせるエンブレイス。

 基底部が電光で満ちる。
『残り10秒! 9、8……』

 セレニティ砲口の輝きが、金から白に変わる。
 内側で巨大な光が弾け、砲身に幾筋もの亀裂が走って光が溢れ出した。

 
 そして、崩壊。

 巨大な白の双翼が戦略砲の砲身を突き破り、雄々しく、漆黒の宇宙の全てに向けて伸びる。

 生み出された金の輝き。ビームシールドとなった翼がその輝きを押さえつけ、

 否、抱きしめ包み込んだ。

 全てが終わり、光翼は羽毛となって散った。

 
 静寂と闇が宇宙に戻り、彼方で星が流れた。

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