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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第65話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 20:54:33

 光が消えた後、あちこちが砕け、外側にひしゃげて広がったセレニティの砲身が視界に入る。
その中央部分に赤色を失い、残骸と見間違えそうな、しかし辛うじて人型を保ったデスティニーⅡが漂っていた。

 

 共に戦略砲を食い止めたエンブレイスは、もういない。
 中枢動力部に致命的な損傷を負ったまま出力を上げ続けた為、純白の翼を思わせる巨大な
ビームシールドを収束させる寸前、コロイド場の制御を失ったのだ。
 セレニティの一撃を受け止めたシールドのエネルギーがそのまま逆流し、天使は散った。

 

 跡形も無かったが、エンブレイスが展開するコロイド場のみが異常を起こしていた為に
全ての被害を背負ったからこそ、デスティニーⅡは消滅を免れたのである。

 

『シン、応答してください! シン!』

 

 赤い文字のエラーメッセージで満たされた機内で、シン=アスカは目覚める。
換気機能にダメージを負ったのか、室内に立ち込める白煙が晴れない。
火災だけは消し止めたのか、赤と黒のパイロットスーツは薄桃色の消火剤にまみれていた。

 

「今気付いた。大丈夫だ……全身痛いのは、さっき殴り飛ばされたからかな」
 
ヘルメットを被った頭を上げる。
戦闘が終わった筈なのに、危機は全て去った筈なのに、その瞳は焦点を結んでいなかった。
聞こえてくる声は女性の物だと解るが、誰の声だか認識できない。
さっきまで戦況を伝えてくれていた人間だとは解る。

 

『今、MS隊がそっちへ行きます。全壊したとはいえ、セレニティのジェネレーターは
 まだエネルギーを残しているかも知れません! 自力で離脱しようとしないで!』
『大丈夫だって。シンはエースパイロットだぜ? それくらい解ってるさ』

 

「ぁ……あぁ?」

 

男の声が通信に割り込む。軽薄そうな口調だが、やはり識別できない。
機体が僅かに揺れ、自分のMSが何かに触れた事が解る。
砂嵐に覆われたメインモニターに、重厚な機体とそのモノアイが浮かび上がった。
兵器の名前は瞬時に思い出せた。

 

「ドムトルーパー、か」

 

『いや悪かったねぇシン、助けてやりたいのは山々だったが……
 近づいただけで切り刻まれそうでさ。あの輪っかに』
 低めの女性の声。サブモニターに胸から上が表示される。片目を眼帯で覆っていた。
『せめてストライクフリーダムはとっ捕まえようと思ったが、あれぶっ壊れてる割に素早くてなあ』
『正反対の方向に離脱したのも拙かった』
 続いて割り込んでくる2人の男。シンの虚ろな瞳が、ぼんやりと3人を捉える。
記憶を失ったわけではない。彼らは部下というより、仲間だ。
ドムトルーパーを操って、自分を援護してくれる信頼できるパートナー。

 
 

 だが、どのような人物かが解らない。

 

『さ、帰ろうかいシン。だいぶお疲れだし』
 その言葉に、シンは目を見開く。震える吐息の後、ゆっくりと頷いた。

 

「ああ、かえろう……そうだ、かえろう……」

 
 
 

 セレニティおよびエンブレイス無力化による戦闘終了から72時間後、待ち構えていたかのように
連合軍の大艦隊がプラントに向けて発進した。
混乱によって疲弊したプラント領内の復興援助という名目だが、それを鵜呑みにする者はいない。
 殆どの戦力をエミュレイターによって失ってザフトは、実質的に崩壊していた。
あやふやな命令系統に加え、偶像的存在だったラクス=クラインとキラ=ヤマトも今や彼らの所にいない。
というより、惨事の直前で自ら切り捨ててしまった。

 

「補佐官……これは貴方にしかやれない事だ。ぜひとも引き受けて頂きたい」
「故デュランダル議長の遺志を受け継ぐ方として、貴方はプラントを導くに相応しい」
 使い物にならなくなったコロニーからあふれ出したプラント市民の居住先を用意すべく、
自らのシャトルを使って領内を飛び回っていた補佐官は、コロニーの貨物搬入口で複数の議員に囲まれた。
ラクスが議長となり、自分をデュランダルの残りカスとまで称した彼らが、今愛想笑いを浮かべ
揉み手しつつ自分にへつらっている。

 

 細面の補佐官が、その鋭い目を議員達に向けた。
頭を低く垂れ、足元や床へ視線を貼り付けている彼らは、補佐官を新しい主人として認めるつもりはなかった。
あくまで防衛力を失ったプラントを奪還しようと押し掛けてきつつある連合軍に差し出す生贄の羊を欲しているだけだ。
補佐官には、不穏分子をけしかけ混乱を引き起こしたという罪がある。
結果的にそれは『最後の50人』の計画に対抗する為だったが、犯罪に変わりはない。
 有利な取引として、餌に飛びつく事を期待しているのだろう。勿論、地球連合軍という嵐が過ぎ去れば用済みだ。
適当な不祥事をでっちあげて引き摺り下ろすつもりだ。

 

 ラクス=クラインに悪意は無かった。
彼女は彼の業績のみを判断し、いわば『敵』の腹心だった補佐官の地位を維持した。
そして己の善意が命ずるまま、彼を切った。

 

「そちらの仰る通り、私がもし議長代理の職位を受け入れるとして……任務は?」
「プラントの維持です。具体的には連合との交渉ということになりますな」
「では、プラントとは?」
 その問いに彼らは即答を躊躇った。無論、考えていなかったわけではない。
「連合との協議の中で決めなければなりませんね。よろしい、引き受けましょう」
 そう言い残し、補佐官はシャトルへと歩いていった。ハッチが閉じる。
「まあ、仕事はしっかりやる男だ。大丈夫だろう」
「市民の不安、これはどうしたものかな……未だ50万人以上が、航宙船の中で暮らしている。
 連合軍の侵攻による虐殺を言い立てる者も少なくないと聞く」
「何を取って何を捨てるか、か。いやはや……」

 
 
 

「無用の破壊は起こらないでしょう。理事国はプラントの全てを欲している」
「理事国でなく、私達がでしょう? お婆様」
「国家というものの解釈によるわね」
 ブリュッセル郊外のマナーハウス。そこの応接室にネオロゴスの女性達が集っていた。
 8人の魔女は互いの顔を見合わせ、誰からともなく微笑み合う。

 

「アズラエルちゃんの計画は成功した。後は『50人』の動向を追うだけね」
 紅茶のカップを置いたモッケルバーグが、この場にいない少女の名前を挙げる。
「シン=アスカを使うとは言っていたけれども、本当に上手くいくとは途中まで信じていなかったわ。
 尤も……計画が成功したのは、ラクス=クラインが善人過ぎたからだけど」
「あの子も此処にくれば良かったのに。一応、功労者なんだから」
 別の1人が発言する。アズラエルよりも幼いその少女が、フリル付のドレスを揺らす。
「無理無理。新型MSの売り込みとか、ここぞとばかりに仕事してるんだから」
 一番衝突すると同時に密接なパートナーでもあるジブリールが右手を振って否定した。
「結局……世界を裏で操る悪の産軍複合体ったってこんなもんよね。
 ちょっかいは出せるけど、最後は周りに合わせて小金を稼ぐくらいしか出来ない」
「世界を裏で操る……ボケる前にやってみたいものね」
 モッケルバーグの言葉に小さな笑いがあちこちで上がった。
「ところで皆さん、もしよければお庭を見て行かない?」
「行く行く。随分綺麗になってたわね、老体に鞭打っちゃった?」
「若さを盾にした権勢は脆いものよ、ジブリール。業者の方にやって頂いたの」
 老婆はそう言って窓の外を見遣る。
 美しく完璧に整えられた庭園を、澄み切った小川が流れている。

 

 脇の排水口に、遺伝子調整を施された駆虫剤で殺された大量の害虫が流れ込んでいた。
 花の蜜を吸いにきた蝶が、鳥の声ひとつない庭園を舞う。

 
 
 

「お前達は貴重な戦力だ。が……」
「心配無用だ、サハク司令官。プラント付近に配属をしてくれさえすれば良い」
 イズモの艦内でイザーク、ディアッカ、シホと相対したロンド=ミナ=サハクは、その言葉に頷いた。
慢性的な人不足に陥っているミハシラ軍だが、質の低い人材を入れる事もできない。
そういう意味で、プラント宙域を熟知したジュール隊は確かに欲しかった。
「クライン政権時代にファクトリーを攻撃してしまった時点で、俺達は反逆者だ。今更ザフトには戻れん。
 ……にしても、アスランがあの作戦に参加していたとはな」
「リングに突っ込んで自爆したムラサメに乗ってたんだっけ。それで脱出できるあたり、やっぱアスランだよなあ」
「サハク代表、いえ司令官。シン=アスカは無事なんですか? あんな風になって……」
 その言葉に、ミナの柳眉が寄せられた。
「確かな事は何も言えぬ。日常業務と生活を営める以上、疾患レベルは軽度だそうだ」
「人間を機能としてしか認識できない機械、MSの生体CPUってわけだ」
「ディアッカ!」
 イザークに睨みつけられても、ディアッカは悪びれた様子を見せなかった。肩を竦める。
「アイツにとっちゃ、一番幸せな結果だろうぜ。……そうだろ?」

 
 
 

「キラ=ヤマトとラクス=クラインは、無事連合軍の医療施設に収容されたようです」
「つまり我が社が身柄を押さえた、と。それはけっこう」
 ダイアモンドテクノロジー本社工場の研究施設で、変わらない灰色のツーピースを着たアズラエルが
秘書の言葉に対し鷹揚に頷いた。
「歌姫は生かしておきなさい。
 少なくとも、スーパーコーディネイターの遺伝子情報を完全に解析し終わるまでは」
「は。生かしておくだけならば、そう難しくは無いと向こうのスタッフも言っております」
「……おっとお嬢様、ようこそいらっしゃいました」
 殆ど休み無しで自身の趣味兼仕事に没頭していたのか、左右色違いのスリッパを鳴らし研究員が歩いてきた。
秘書が一礼し、その場を立ち去る。

 

「ええと、今日はどう言ったご用件で?」
「2つあります。デスティニーⅡの修繕は可能なのですか?」
「今やってますが、何とかなりますよ。
 ベイオウルフが今回、正式に次の量産機として認められたもんだから、パーツにも不自由しないし。
 しかしどうなんでしょうかね? あの犬頭がそのまま採用されるっていうのは……ほら、生産性とかも」
 頬を掻いて苦笑する研究員。データ取得用の試作ヘッドパーツが軍部に受け、
量産用にリファインする事となったのだ。名称はまだ決まっていない。
「こっちとしちゃ、あの頭が許可されるならベイオウルフか、ウォードッグとかが良いんですけどねえ。
 まあ、名前はいっつも揉めますから」
「もう1つ。デスティニーⅡのOSとサポートAIを汚染した例のバグは、やはり除去できないのですか?」
 不快感を隠そうとしない少女の物言いに、研究員の営業スマイルが凍りつく。

 

「え、ええと……初期化すれば大丈夫だと思いますが」
「最後の戦闘前に、バックアップを取ってあるでしょう?
 エミュレイターのデータは確かに貴重ですから、それは残すとして……
 シンには、そういう不確かなシステムを積んだ物を使わせたくありません」
「残念ながらお嬢様、エミュレイターが侵入し書き換えてしまったOSとAIは、
 我々の組んだプログラムより遥かに高いパフォーマンスを有しています。
 彼女はシン=アスカさんの戦闘データを元に機体性能を細大漏らさず調整し直し、
 今やデスティニーⅡは、シン=アスカさん専用機という弱点を抱えてしまいましたが、
 より強力な機体として……」
 少女に視線を向けられ、体温が下がるのを感じつつ研究員は声を無理に張った。

 

「ライバルが次々と脱落し、今やアスカさんは地球圏最強のMSパイロットです!
 その座を少しでも長く維持する為には、エミュレイターが書き換えたシステムは必要かと!」

 

 その言葉に、アズラエルは小さく溜息をつき目を閉じる。
「最強の人物には、最強の装備。致し方ありませんね」

 

 胸中で拳を振り上げつつ、研究員は深々と頭を下げた。

 
 
 
 

 オーブ。土砂降りの雨の中、慰霊碑の前に4人の人物がいた。
レインコートを着た男が2人。女性が2人。
1人はジャケットとスラックスを身に着けた細身で、もう1人はやや小太りである。
細身の女性が、慰霊碑の前で両膝を折った。目を閉じ、指を組む。
「カガリ様、お洋服が……」
「少し静かにしていてくれ、マーナ」
 侍女に呼びかけ、元オーブ代表にして元地球連合主席カガリ=ユラ=アスハは慰霊碑に向き直った。
跳ねてぼさぼさだった髪は丁寧に梳き下ろされ清潔感が見て取れるが、着衣は至って質素。
護衛を勤める2人の連合軍人も、本来の目的は監視だ。脇に停めてある乗用車の運転手に目配せする。
「……行こう。この時間を用意してくれた事を、感謝する」
 侍女が差し出した傘の下で立ち上がったカガリは膝の汚れを軽く払った。
遠くから自分達の方へ近づいてくる黒いレインコート姿を一瞥し、車へと向かった。

 
 

 走り去る乗用車から視線を外したシンは、そのまま慰霊碑の前まで歩いてきた。
 碑から顔を上げると、其処には荒れ狂う海が見える。
 オーブの天気はよく変わる。
 黒いレインコートのフードを取った。冷たい雨が、風が髪と顔に吹き付ける。遠くで雷が光った。
 虚ろな紅の瞳に、白と薄紫の輝きが映り込む。

 

 オーブを訪問する事を望んだシンを、止める者はいなかった。
 何人も同行を申し出たが、私事だからといって全て断った。

 

 誰の申し出を断ったかは、認識していない。

 

「俺は……何処にも、行けない」

 

 誰であろうと、命を救う。

 

その狂おしい渇望と自身の危機によって、シン=アスカはエンブレイスとの戦いでSEEDを発動させた。
あの時自分に言葉をかけてくれたのが 誰だったのか、手を取ってくれたのが誰だったか、
記憶はあるが思考に結びつかない。 
 
  あらゆる人々との繋がりを、今のシンは失っていた。

 

  全ての人は救う対象でしかなく、そこに分け隔てはない。

 

  分け隔てがない故に、誰に近づく事もできない。

 

  狂気に犯されたシンのSEEDは比類無き力を与え、代償として個人という概念を奪った。

 
 

 空を見上げる。真っ黒な雲が渦を巻いていた。また、雷が光る。
 髪を濡らす雨が鼻筋を伝う。見開いたままの瞳に雨粒が落ちるが、瞬きする事はない。
 腹に響く重苦しい雷の音が響いた。懐で甲高いアラーム音が鳴った。
 携帯端末を取り出し、通話スイッチを入れて耳に当てる。

 

「はい、シン=アスカ……了解。いえ、大丈夫です。それじゃ」

 
 

 フードを戻し歩き出す。彼は、真の英雄となった。

 
 
 

         Gundam Seed Chronicle episodeI“Corruption” <FIN>

 
 
 

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