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SCA-Seed_SCA ◆ZiprQ.wXH6氏_第03話

Last-modified: 2008-02-04 (月) 13:30:45

第三話「亡霊たち」

 
 

アーモリーワンから少し離れた宙域。
警備隊の網に引っかかるか引っかからないかの微妙なラインで。

 

『言っておくけど、俺はお前らなんかと協力するつもりはないからな』

 

「あぁ、それでかまわないさ。大切なのはお互いの利益を優先させることだしな」

 

『お互いの利益か、ふん……』

 

「気に食わないのは分かるがね。それじゃ、作戦開始ということで……」

 

だが、ネオが全てを言うより早く通信は切られて。
その態度に思わずネオは仮面の下で苦笑する。
どことなく、自分が受け持っている部隊の子達に似ていたからだ。

 

「……しかし、よくこちらの話に乗ってきましたな」

 

と、後ろに控えていたイアン・リーが声を掛けてくる。
寡黙で任務に忠実な生粋の軍人タイプの男だ。

 

「普通であるなら、とても信用できるものではありますまい」

 

その言葉の裏に、彼がブルーコスモスであることを窺わせる。
彼らにとってコーディネーターとの間に約束事など成立しないのだ。

 

「まぁ、彼にしてみれば渡りに舟だったろうからな」

 

「敵の敵は味方、ですか……」

 

「彼はそうは思ってないみたいだけどね」

 

「もちろん、我々もそうですが」

 

ただ、お互いに争って共倒れをするような馬鹿なことを避ける。
それが先程の少年と交わした約束だった。
しかし、考えようによってはこちらが少年を助けることになる。
だからだろう、イアンは腑に落ちない様子で尋ねてきた。

 

「ですが良いので?」

 

「何がだい?」

 
 

「あの機体……あれもセカンドシリーズの一種のようですがスティング達に捕獲させた方が……」

 

「別にいいだろう。元々こちらの予定にそれはないわけだし」

 

「ジブリール卿への報告はどうするおつもりで?」

 

「ありのままを話すさ。欲の皮を突っ張らせて良いことそうはない……ってのが俺のポリシーなんだが不満かい?」

 

「いえ。それがあなたの判断ならそれに従うのが私の役目ですから」

 

この“ガーティー・ルー”の艦長は実に理想的な部下と言えるだろう。
きちんと進言することはしておき、上の判断には大人しく従う。
共に仕事をするようになって日は浅かったが、ネオはこの男を信頼していた。

 

(まっ、誰かに似て少し小言が多いのが玉に瑕かな?)

 

と、その時ふと思い浮かんだ見覚えのない顔にネオは戸惑う。
まったく自分の記憶にない人物なのだ。
地球連合の制帽をしていることからして軍人になってから出会っているはずなのだが思い出せない。
ひどく、ひどく懐かしい気がするのに……

 

(……って、思い出すだけ無駄か……)

 

毎度の如く、そう言って自らを納得させる。
軍医によれば「酸素欠乏症」の後遺症らしい。
命が助かっただけでも儲けものだそうだ。

 

「よぉし、それじゃあこちらも動くとするか」

 

なら、やることはひとつだった。
頭のスイッチを切り換え、ネオは本来の任務に取りかかる。

 

「微速前進と共にミラージュコロイドを解除、後にミサイル発射管1番から16番まで発射」

 

「目標は?」

 

「何だっていい。ただし、コロニーには当てるなよ。敵さんの注意をこちらに引きつけるだけだ」

 

目標は、あくまでも「Z.A.F.Tの新型MSを奪う」こと。
非戦闘員を巻き込めという指令は頂戴してはいないのだ。
何より、「なにごともスマートに」、それもネオのポリシーのひとつだった。
無駄に戦火を広げる必要はない。
少なくとも「今」は。

 

「了解。微速前進、ミラージュコロイド解除。続いてミサイル発射管1番から16番まで開け」

 

ネオの指示をイアンが復唱し、一気にブリッジ内に緊張が走る。

 

「おそらく噂の新造戦艦が出てくるぞ。本艦は対艦戦の準備、MS隊もスタンバっておけ」

 

それは全くの予想だったが、ネオには確信があった。
優秀な艦長であるなら、この事態にはそう動くはずだ。
少なくとも自分なら、MSを強奪した者達を回収する母艦があると判断してそれを叩く。

 

「それと各宙域を哨戒中の船に何か異変がないかを調べさせてくれ」

 

その中でひとつ気がかりなのはあの少年の存在だった。
セオリーからすればこの付近に彼の仲間がいるはずなのだ。
だがその気配は今のところない。

 

(だからきな臭いんだよなぁ……)

 

そのために、少年を泳がせることに決めたのだ。

 

(さてさて……蛇が出るか鬼が出るか……)

 
 

                    *     *     *

 
 

『レイ・ザ・バレル機とシホ・ハーネンフース機、共に敵戦艦登載のMS部隊と交戦に入りました!』

 

『イザーク・ジュール機、ディアッカ・エルスマン機、カオス、アビス、ガイアとまもなく交戦に入ります!』

 

「まったく、いったい何だっていうのよ!!」

 

次々と入るリアルタイムの戦況報告に、ルナマリアは堪らず悪態をついた。

 

そんなに気負うほどの任務じゃなかったはずなのだ。
かなり退屈なぐらいの、平凡な任務。
それは新型MSと新造戦艦の単なるお披露目式になるはずだった。
もちろん、ルナマリアも馬鹿ではない。
このイベントが持つ軍事的・政治的な意味合いは分かっていた。
だとしても、こうなることを誰が予想しえただろうか。
四機もの新型MSの強奪。
合わせて、コロニーへの敵戦艦による強襲。

 

「こっちの都合なんてお構いなしに……!」

 

半舷上陸で浮かれていた気分もすっかり吹き飛んでいた。
しかも、こんな形での新型機による実戦。
Z.A.F.Tのエリートたる証、赤服のひとりとして新型MSのテストパイロットに選ばれた嬉しさも今はない。

 

『ルナマリア機、あと二十秒後ほどでセイバーと接触します』

 

「分かってるわよ、そんなこと!」

 

『ご、ごめんなさい……』

 

だから、ミネルバで通信士を務める妹に対してもつい当たってしまう。

 

『……でも、気をつけて下さい…………相手は既に駐屯部隊のMSを八機撃墜していますから……』

 

「……」

 

心配してくれる妹に、「ごめん」の一言を言う余裕もなくて。

 

「……まもなく敵MSと交戦に入ります。こちらかの通信は以上……」

 

意識を戦闘に集中させるために通信を切る。
なのに、身体は言うことを聞かない。
操縦桿を握る手には、いつになく力が入ってしまって。

 

「大丈夫よ……きっと大丈夫…………そうよ、模擬戦を思い出しなさい……」

 

こんな状態で、果たして自分は生き残れるのだろうか。
ついついそんなネガティブな疑問に支配されてしまう。
だけど、時は待ってはくれない。

 

「来たわね……!」

 

インパルスのカメラがついに“敵”を捉えた。
ひときわ目立つ赤い戦闘機が、徐々に大きくなっていく。
間違いない。
ZGMF-X23S“セイバー”。
カテゴライズ的に、その性能特性はフォースシルエットを装備したこのフォースインパルスと同じ機体だ。
いや、宇宙空間に限定すればこちらの方が機動性は僅かに上のはずである。
その証拠がこの会合なのだし、それを見越してのタリア艦長の判断だった。

 

「こんのぉおおおおお!!」

 

先に仕掛けたのはインパルスの方。
腰部にマウントさせていたビームライフルを右手に構え、四、五発撃ち込む。
射程は明らかにセイバーが上だから、牽制の意味を込めての先手だった。

 

だが緑の光は闇にむなしく吸い込まれて。
セイバーの方は全く意に介していないようで、そのままの加速を保ったままインパルスへと近付く。

 

そして二機はすれ違う。
インパルスは闇雲にビームをまき散らしながら。
セイバーは一発も弾を使うことなく。
傍目からすれば、その力の差は歴然だった。
機体の特性を上手く扱えているかどうかも大きい。
インパルスは、機体の反転にアポジやスラスターを使って一度動きを止めてしまう。
逆にセイバーの方はMA形態からMS形態への変形を上手く活かして一瞬で回頭を終える。
そうして生まれたタイムラグは、セイバーがインパルスの背後を取るのには十分過ぎて。

 

「きゃぁ!?」

 

パイロットスーツとシートで緩和されたとはいえ、それでも激しい衝撃にルナマリアは悲鳴を上げる。
セイバーがインパルスに組み付いたのだ。

 

『……勝負はついた。おとなしくコアスプレンダーに分離しろ』

 

と、いわゆる「お肌の触れ合い回線」でセイバーのパイロットの声がインパルスのコックピットに響く。
低く、ドスの効いた声だった。
だけども若い。それに……

 

「何よ、余裕のつもり? 変な哀れみなんかかけないでさっさと殺せばいいじゃない!」

 

が、今のルナマリアに僅かにわいた疑念を突き止める余裕などなかった。
あまりにもあっさりと着いてしまった決着。
その上、MSを奪った泥棒に情けをかけられたのだ。
エリートである赤服として、これ以上の辱めなどない。

 

『…………』

 

なのに、相手は中々動かなかった。
のど元にナイフを突きつけているというのに、あとほんの少しを動かさないのだ。
もちろん、敵パイロットのその態度にルナマリアは切れた。

 

「はん! あたしが女だからって躊躇ってるの!? そんな時代遅れの価値観持ってるなんて馬鹿じゃないの?」

 

死ぬのが怖くないわけじゃない。
ただ、プライドを傷付けられるのが我慢ならなかった。
特に「女だから、女のクセに」という理由を付けられるのが一番嫌いだった。
アカデミーにいた頃からそういった偏見は存在した。
今自分が乗艦しているタリア艦長に対しての悪口も聞いている。

 

だから精一杯努力した。
男なんかに負けないように、だけど女らしさを失わないように。
そうやって掴み取った赤服なのだ。
なのに、それが今壊されようとしている。

 

「ほら、さっさと殺さないとあたしがあんたを殺すわ!」

 

泣きたい気持ちだった。
泣けば認めてしまうようで嫌なのに、泣いてしまいそうで……

 

『…………ルナ?』

 

「え……」

 

聞き慣れた声。
それはさっき聞いた声と同じはずなのに、どこか懐かしい。

 

『その機体に乗っているのは、ルナマリア・ホークなのか……』

 

「……シン?」

 

そこで、初めて分かった。
消えていた疑念が蘇り、しかも一本の糸としてつながる。

 

「シン…………それに乗っているのはシン・アスカなの!?」

 

思い出す。
紅い瞳の少年。
人見知りで、全然明るくなくて、いつも斜に構えていた生意気な男の子。
いつも自分より成績が上で、模擬戦でも一回も勝ったことはなかった。
たまに笑った表情が可愛くて、でもそれ以上に垣間見せる深い憎しみが印象的だった奴……

 
 

『あぁ……俺だよ、シン・アスカだよ……』

 

「なんで……なんであんたがそんな……!」

 

あまりの衝撃に、言葉が上手く紡ぎ出せない。
MSを奪った犯人がシン?
アーモリーワンの駐屯部隊を撃墜したのがシン?
さっき自分がその命を奪おうとしていた相手がシン?
が、

 

『ルナ、ごめん……!』

 

「えっ…………きゃっ!?」

 

再度の激しい衝撃にルナマリアの思考は停止させられる。
セイバーが組み付いていたのを解き、インパルスをその脚で蹴り飛ばしたのだ。
そのままセイバーは変形し、その場を離脱して。

 

「ちょっ……シン……!!」

 

何とかインパルスが体制を立て直した時には遅い。
モニターに映ったのは、既に遠く伸びたテールノズルからもれる光の尾。

 

「……いったい何なのよ……」

 

うつろな瞳でルナマリアは呟く。
まだ、頭が混乱していた。
こんな状態で追いかけることなど無理だった。

 

と―

 

『……こ、交戦中のMSは全機本艦へ帰投して下さい! 繰り返します……』

 

『ユニウスセブンが地球へ向け軌道を変化、これより本艦は……』

 

『……よってMS隊は速やかに帰投し補給を受けて下さい……』

 
 

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