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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第05話

Last-modified: 2008-12-07 (日) 18:54:31

「……迷った。 ここどこだよ?」

 

ミナとの会合から2日後、未だに治らない左腕をギブスで固定したシンは連絡通路のような場所で迷っていた。
ミナから自由に出歩いてよいという許可を貰い、何もすることが無く暇なのでアメノミハシラをうろついていたらこの様である。

 

「……誰かに案内頼めばよかったかな」

 

とはいってもアメノミハシラに知り合いは少なく、知っている人も、皆忙しそうだった。
ザフトの新兵教育でも知らない場所(艦内)は一人で出歩くなと言われたのを思い出し、二重の意味で気が滅入る。

 

「何で、こんな事になっちまったんだろうな」

 

思わず壁を背に座り込む。

 

「これからどうしよう」

 

やるべき事は前から決まっている。
力の無い弱い人々を守る。

 

ついでに嵌めてくれたザフト、オーブの奴らに借りを返す。
(今回の件に関わった連中は、ミナの部下、情報屋ケナフ・ルキーニに調べて貰っている)

 

だが、やるべき事は決まっていても、どうすれば良いか分からない。
今までのシンは、常に命令に従っていれば良かった。
倒すべき敵を示され、その為の手段、力を与えられ、言われるがまま戦ってきた。

 

……だが、もう命令を与えてくれる上官も、力をくれる軍もシンには関係ない。
全ては自分の意志で決めなければならないのだ。

 

(ザフトにはもう戻れず、オーブは真っ平御免、連合は……論外だな)

 

連合の軍人からすれば、怨敵にも近い様な人間を受け入れてくれる筈が無い。
ユーラシア連邦や、東アジア共和国には少数ながらもコーディネーターが居るらしいが。
シンは思わず頭を抱える。 
シンは元々、考えるよりも先に体が動く方である。
更に、思春期に家族を目の前で失ったことに起因する、力の無い人を守るという脅迫観念に近いトラウマが、何もできない今の状況に、焦りを増大させる。
頑固で一本気な性格、逆に言えば視野が狭く、盲目的な性格ゆえに一度考え込むと、周りが見えなくなるのも相まって思考のループに嵌まり込んでいた。

 

「やめよう、俺一人で考え込んでも良い案が浮かぶ筈も無い」

 

ふと、同室だった親友の顔が脳裏に浮かぶ。 
シンが悩んでいる時、いつもレイは相談に乗ってくれた。
だが、もうレイもこの世界にはいない。
大きな溜息を付くと、開いた掌を見つめ、握り締める。
「弱くなったよな、俺」 答えなどあるはずのない目前の空間へと問いかける。
右の拳を、目前の虚空に振るう事3回、ただ空しく空を切る音のみが聞こえた。
あの時、連合との戦い、フリーダム戦、ロゴスとの戦いではシンはもっと強かった気がした。
そもそも迷う必要など無かった。 ただ与えられた命に従い、定められた敵を討ち滅ぼせば良かった。
あの時のシンにあって、今のシンに無いもの。
憎悪に近い怒りだ。

 

(だったら憎めば、怒れば良い、そうすればまた強くなれる)
(……誰を?)
(自分を陥れた連中全てを! これは正当な理由の復讐だ!)

 

シンの中の何かが囁く。

 

「……それも、なんか違うんだよな」

 

シンは辿り付いた結論に、違和感を抱き、首を傾げる。
『憎しみを抱いたまま戦うな』とあの裏切り者は言った。
確かに、言っている事は間違ってはいない気がした。

 

(偉そうなこと言う割に、言ってる事の大半は訳分かんなかったけど)

 

戦後、キラさん、イザークさんやディアッカさんに聞いた話ではあの蝙蝠は血のバレンタインでお母さんが亡くなったのを切っ掛けにザフトに入ったらしい。
その後、当時連合側だったキラさんとの戦いで先輩と友人を亡くし、最後には自分の手で父親を殺した。そうだ。
『お前は昔の俺に似ているよ』なんて言ってたが、そう考えると、あの若禿は、髪の毛が薄いなりに俺を何とかしようとしたんじゃないだろうか。
自分と同じ道を歩ませない為に。
少なくとも一時期、俺とアデランスの中で築かれた信頼、のような物は嘘ではなかった、と思いたい。

 

……あんにゃろうのせいで艦内の人間関係無茶苦茶になるし、
連合の基地落とした時は兎も角(あれも口で言えばいいのに)フリーダム落とした時、理不尽に殴られたりした事は今でも根に持ってるが。

 

「……どうだろな、凸だし」

 

禿げ上がった元上司の頭を思い出し、自然と顔に苦笑が浮かぶ。
そこまで考えて、シンは彼らに憎しみを抱いていない事に気づいた。
艦内の人間関係を無茶苦茶にして、理不尽に殴られて、いまだにオーブが間違っていないとか言ったり、議長の手柄を横から乱入して掻っ攫ったり、戦場でフリーダムなを行動したのは根に持っているが。
行動の是非は、一万二千光年ほど横に置いておいて、人間性を考えれば御人好しと言うか、善人ではある。 
敵対してたシンをそのままザフトに残すぐらいではあるし。

 

「……大人になったって事かな?」

 

過ぎた事は仕方ないと割り切れるようになっただけか、諦める事を知ったのかシンには分からなかった。

 

(……ただ、忘れないようにはしよう。 家族を、ハイネを、ステラを、ヨウランを、議長を、艦長を、レイを)

 

過ぎ去った、喪われた命があった事は決して忘れないように胸に刻もう。
キラは言った「人はまた花を吹き飛ばす、それでも僕らはまた花を植える」
アスランは言っていた「過去に捕らわれるな、明日に目を向けろ」
誰もが新しい花、明日に目を向け、吹き飛ばされた花、昨日生きた人たちが忘れ去られる。
それは、そんな世界は悲しすぎる。 彼らは確かに生きていたのだ。 
彼らが忘れても、自分だけでも、いつまでも覚えていよう。 シンはそう誓っていた。

 

「……そうか、あの人達が明日を作る為に戦うなら、俺は」

 

何か、嵌まり込んだ思考の迷宮の光明が見えた気がしてシンは声を上げた。

 

「アスカ、一寸よいか?」
「えっ?」

 

急に上のほうから声を掛けられ、シンは、はっと上を向いた。

 

「ミナさん、いつからいたんですか?」

 

そこにいたのはアメノミハシラが主、ミナだった。

 

「凸だし。辺りからだ。 部下から廊下で笑ってたり、泣いたりしている見掛けない奴が居て、気持ち悪いので何とかしてくれと泣き付かれてな」

 

訝しげな表情でシンを見下ろすミナ。

 

「声を掛けてくれれば良いじゃないですか」

 

独り言を聞かれ、多少不機嫌そうにシンは言った。

 

「……余り人の趣向に口を出すのは好きではないし、お前の思春期に何があったかも知っているので、言いたくはないが」

 

珍しく言い淀むミナ。

 

「何です? もったいぶって」
「………そのなんだ、その歳で邪気眼…だったか? それはどうかと思うぞ、私は」

 

本当に心配そうな目でシンを見ると、余り刺激しないように普段よりも優しげな声でミナは言う。

 

「だっ、誰が邪気眼だよ! あんたって人は! 俺はまだまともだ!」

 

想像の斜め上をいかれたシンは焦りと怒りで顔を真っ赤に染め、叫ぶ。

 

「違ったのか、私はついに気が触れた物だとばかり……」

 

ああ、と納得した表情でみなは頷く。

 

「……もういいです」

 

心底疲れた様子でシンは溜息を付く

 

「ふむ、暇そうだな」

 

シンをからかい飽きたのか、真面目な顔を見せるミナ。

 

「誰のせいでこうなったか、分かって言ってます?」

 

なるべく顔と声には出さぬようにできるだけの皮肉を込める。

 

「勿論だ、アレは不幸な事故だった」

 

平然と、顔色一つ変えずにミナは言った。
ミナの中ではアレは事故になるらしい。
確かに事故ではあるし、間違ってはいない、しかもシンとしては命の恩人に文句は言い辛い。

 

「暇ならば丁度いい、 私がアメノミハシラを案内してやろう」

 

言外に断るなといっている。

 

「……お願いします」

 

迷子になるよりはましなのと、暇なのは確か、考えも纏まりそうに無いので頷くとシンはゆっくりと立ち上がった。

 
 

とても宇宙ステーション内とは思えない、屋敷のような外観の長い廊下をミナの後に付いていく。
暫くすると急に配管が多くなり、まるで工場に入ったようにシンは感じた。

 

「驚いたようだな」

 

シンの様子に気づいたのか、ミナはシンの顔を見ると満足げに微笑む。

 

「ここが、正確にはこの先が、アメノミハシラのファクトリーだ」

 

辺りを見渡し、ミナは正面の金属製防火扉を指差した。

 

「部外者の俺に見せて平気なんですか?」

 

不安になりシンは疑問の声を上げる。
まず無いだろうが、見てから、見られたからには……となるのは勘弁だ。

 

「お前に見せてどうなるものでもあるまい? それに例えザフトの技術者だろうと、アメノミハシラの技術は盗めないだろう」

 

少々の苦笑をもらすと、自信のある表情でミナは言った。
そこにあるのは部下とその技術に対する絶対の自信。

 

「もしかして自慢ですか?」
「そうでもあるがな」

 

シンの問い掛けに、少し照れくさそうに、どこか誇らしげに、唇の端を吊り上げ、嬉しそうに笑った。
こんな風に笑えるミナをシンは羨ましいと思った。

 

ファクトリー内部で生産されていたのは青いM1アストレイ、空間戦闘用のM1Aとムラサメ、そしてその改良型オオツキガタだ。

 

「すごい数ですね」

 

キャットウォーク状の通路でシンは驚嘆の声を上げた。
アーモリー1のザフト工廠に匹敵する設備と数だった。

 

「何分、基本技術的はオーブだからどうしてもアストレイが主力になってしまうがな。
 新規機体の導入を行うにも、初期開発が同一な連合系はなんとかなるにしても、ザフト系の導入は難しい。
 お前に言ってどうにかなる物ではないが、悩みの種の一つではある」

 

並び立つアストレイの群れを見るとシンの顔は見ずに、僅かに顔をしかめた。
更に足を進めると、コンテナなどが多く点在するエリアに入った。

 

「ここは、アメノミハシラのターミナルだ」

 

そう言うと少し離れた場所で荷の積み下ろしを行っている民間の宇宙船と二隻の軍艦があった。

 

「あれは……連合の輸送艦に、ザフトの輸送艦!?」

 

落ちる寸前までフェンスに身を乗り出し、シンは叫ぶ。
そんなシンを怪訝そうな顔で見ていたミハシラのスタッフは、ミナが隣にいることに気づくと慌てて仕事に戻っていった。

 

「アメノミハシラは民間、国家問わず輸送航路の中継点と護衛を提供している。……勿論有料だが。 ああ、あれはうちのエースの一人だ」

 

シンの真横に来たミナは輸送船の近くにいる白く塗装されたムラサメを指差す。

 

「でも正規軍の護衛はどうしてるんです?」 シンは横を向くと、ミナの顔を見た。
「二度の大戦の復興で、今はどこでも人手が足りん。
 それにどの軍隊でもそうだが、腕の良いパイロットほど、最重要任務である、輸送航路の護衛はやりたがらない。
 腕がいいからこそ、最前線で活躍したがる。 護衛など二線級の仕事だと嘯いてな。
 輜重兵が兵隊ならば、蝶々、蜻蛉も鳥の内っという奴だ」

 

ミナはそう言うと、やれやれと言わんばかりに首を振って見せた。

 

「……少し、分かります」

 

確かに、アカデミー卒業後、ミネルバではなく、輸送部隊の護衛に配属されたらシンも不満の声を上げただろう。
誰しも日の当たる華々しい部署で仕事がしたいだ。

 

「やりたい奴がいるならば、やる気の無い死ねば金のかかる軍人よりも、やる気のある死んでも『事故』ですむ連中の方が安くあがると言うわけだ」

 

シンが理解したか確認するように、シンの顔を見るミナ。

 

「傭兵みたいなものですか?」

 

凡そは理解できたシンだが、理解できない部分も有り首を傾げ、ミナに問う。

 

「どちらかと言えば、PSC……分かりやすく言えばPMC、つまり民間軍事企業だな」

 

顎に手を掛けると暫しの思案の後、シンの疑問に答える。

 

「違いは……戦闘に特化したのが傭兵。 整備や場所の提供などの後方支援も行うのがPMCだ」
「後は仕事だから戦うか。 依頼者の、他人の為に戦うかだ」

 

シンの顔を見ると説明に納得したようで頷いている。

 

「……そう考えると、お前は傭兵向きかも知れんな。 他人のために命懸け戦えるのが傭兵だと知り合いが言っていたよ」
「おれが、傭兵ですか?」

 

考えもしなかったが、そんな道もあるのだなとシンは思わず頷いた。

 

「それは兎も角、今言った理由はアメノミハシラが存続していられる理由でもある」
「情けない話だが、昨今の事情だと独立勢力を維持するにはPMCになるしか無くてな」

 

自嘲しながらミナは呟く。

 

「でも本拠地を提供する必要は……」
「アメノミハシラを提供しているのは情報収集の為だ」
「情報ですか?」

 

ミナの言葉に不思議そうな顔を見せるシン。

 

「そうだ、現代戦の基本だ。 物資の推移、人員の移動等の情報からある程度の状況は読み取れる、そして人が集まる場には噂がある」
「噂なんて、当てになるんですか?」
「火のない所に煙はたたない。 噂には少なからず真実が混じっている、選別すれば使い手はある。 ……人と同じようにな」
「そんなものですかね」

 

ミナはじっとシンを見つめ、シンは目を逸らす。

 

「シン、私の元に来い、部下になれ。 お前の望みを叶えてやろう」

 

その言葉にシンは正面へと振り返り、ミナは右手を差し出した。

 

「本気ですか?」

 

顔色も声色も変わらずに、シンは答えた。 額から一筋の汗が流れ落ちる。

 

「私は冗談は好きではない」

 

自信に満ちた不敵な笑みのミナ。  無言の圧力が答えを迫る。

 

「……少し、考えさせて貰っていいですか」

 

永遠にも感じる数瞬の思考の後、絞り出すようにシンは声を出した。

 

「何か不満か?」
「いえ、そうじゃないです。 ただ、今のままじゃ駄目なんです」

 

下を俯き、言葉に力を込め、シンは答える。

 

「分かった。 怪我が治るまでに決めておけ。……ひとまず戻るとしよう」

 

外套を翻し、ミナは元来た方角へと歩き出す。
シンから表情は見えなかったが、何故か嬉しそうな顔をしていた。

 

「……今までのまま、誰かの言うことに従っているだけじゃ駄目なんです」

 

ミナの後姿を見ながらシンは一人呟く、ミナの耳には届かぬほどの小さな声で。

 
 

それから更に数週間の後、アメノミハシラ執務室。

 

「ミナ様、アスカ様がお会いになりたいと」

 

連合との輸送航路の書面の確認を行っていたミナはサーティンソキウスの声に顔を上げた。

 

「通して構わん」

 

短く許可を出すと万年筆をペン立てへと戻し、机の上で両手を組んだ。
「失礼します」 サーティンとともに扉の中へと足を踏み入れるシン。
その顔は数週間前の迷いは既に無く、決意を決めた男の顔であった。

 

「良い面構えだ。 己の道が見えたか……行くのか?」

 

シンの顔を見た瞬間に、ミナは組んだ両手を解き、頷くと問い掛けた。

 

「はい、世話になりっぱなしで、何も返せないですみません」

 

真剣な表情で頭を下げるシン。

 

「殊勝だな。 悪いと思っているならここに残り、我が部下となれ」
「貸しにしといてください、出世払いで返します」

 

ミナの言葉に笑みを浮かべ、再び頭を下げる。

 

「よく言う。 当てはあるのか?」 苦笑しながらミナは左手で頬杖をつく。
「いえ、ただ傭兵になろうと思っています。 傭兵なら他人の為に戦えますから」
「そうか。 それがお前の意志ならば仕方あるまい……気が向いたのならいつでも戻ってくるが良い。 腕利きは何人いても困らないからな」
「考えておきます」 冗談めいた口調に二人は苦笑しあう。
「そういえば、MSはどうするつもりだ?」
「MSを借りれるまでは、暫く歩兵でもやって凌ごうかと」

 

ジャンク屋の一部では戦闘用MSのレンタルもやっているとシンは聞いたことがあった。

 

「……MSを買う前に死ぬな。 近頃は山賊の類でさえMSを持っているぞ」

 

呆れたようにミナは溜息をつくと、椅子から立ち上がった。
ミナの発言をより正確に言えば、MS乗りが山賊になるのだ。
地球では軍縮により職を失った兵士や、傭兵が山賊になり。
ザフトでは数週間前にラクス・クラインが主要な基地を除いた地上からの撤退を命じた為、それをよしとしない脱走兵が増加していた。

 

「まあ、なんとかなりますよ」 勿論シンもそのことは知っているが楽観的だ。
「お前は先のことを少しは考えろ……ついて来い」

 

そう言うとミナはサーティーンを伴い、シンに付いて来るよう促し、扉を開けた。

 
 

シンを連れた来たのは、つい先日も来たターミナルエリアだった。
そこにいたのは一組の男女。

 

「よう、準備できてるぜ」
「ミナ様、バッチリ整備してあります」

 

一人は箒のような髪型の陰険そうな男、情報屋ケナフ・ルキーニ。
もう一人は茶髪をサイドポニーに纏めたツナギの女性、ユン・セファン。

 

「手間をかけさせたな、ご苦労だった……シン、選別だ。 くれてやる」

 

ミナは二人に労いの言葉をかけると二人の背後にあるMSを指差した。
その先に合ったのは真紅のグフ。
右腕が左腕よりも一回り大きく、左の肘には万力だろうかようなものが装備され、スレイヤーウィップはオミットされているようだ。
フライトユニット上部にはトゲ付きの鉄球が装備されていた。

 

「こいつは、グフクラッシャー! 何でこいつがここに?」

 

そのMS、グフクラッシャーの特徴的な姿は映像のみではあるが、見覚えがあった。
次期主力量産機、ニューミレニアムシリーズの座をザクとグフで争った時、コンペに提出された機体だ。
ザクが背部の兵装パックの換装により戦況に対応するのに対し、武装を搭載した手足を換装することで、
より細かく戦況に対応する事をアピールする為に1機のみ製作された火器を使わない対MS格闘戦用の機体だ。
コンペの結果ザクが勝利したことによりモスボール保存され、その後へブンズベース攻略戦に使用されたという話だ。
ちなみにシンがグフクラッシャーについて知っていたのは、インパルスのテストパイロットだった際、たまたま資料を見たためだった。

 

「ザフト試作型近接格闘・制圧戦仕様MSグフクラッシャー。 知っていたか。 ま、データを貰って作った『レプリカ』だがな」
「レプリカでも性能はほぼ変わりません! 装甲に質の良い発泡金属を使ってますから、寧ろ機動性は向上しているくらいです!」

 

レプリカを強調するケナフに、ユンは頬を膨らませ、抗議する。
ユンとしては単なるレプリカ扱いは気に入らないらしい。

 

「でも何で俺にこれを?」

 

二人の言い争いを横目で見つつ、シンはミナへ疑問を投げかける。

 

「言っただろう、私はお前を認めよう、と。 これは初期投資だよ、借りを返してくれるのだろう?」

 

相変わらずの自信に満ちた不敵な笑みを浮かべ、ミナは答えた。

 

「……ありがとうございます」

 

暫く頭が上がらないなと内心シンは思った。
暫くどころか、4年経ってもシンは、ミナに頭が上がらないのだが、この時のシンはまだそんな事は知るよしもなかった。

 

「礼なら、二人に言うが良い」
「お二人とも、ありがとうございます」

 

言い合いも終わり、そっぽを向きあう二人にシンは頭を下げた。

 

「いえ、私なんて……」
「気にすんな。 それより坊主、傭兵になるのは良いが名前はどうすんだ? シン・アスカは死んだ事になってるんだぞ」

 

ユンが謙遜していると、ケナフはその言葉を遮り声を上げた。

 

「あ、名前か、考えて無かったな」

 

シンは頭を掻き、考え始める。

 

「お前は本当に、先の事を考えていないのだな」

 

最早、呆れ返った様子でミナは言う。
それに対して、微妙に嫌な顔をするシン。

 

「なら、赤鬼ってのはどうだ? お前と、この機体には丁度良い」
「赤鬼か、いいですね」

 

グフを見上げるシン、昔見た御伽噺を思い起こす赤い体色、一本角。 オマケにトゲ附き鉄球まで付いている。
確かにこれ以上相応しい名前は無い気がした。

 
 

『それじゃあ、お世話になりました』
「ああ、また会おうシン・アスカ」

 

通信が切れると同時にグフを積み込み、シンを乗せた地上行きシャトルはアメノミハシラから離れていった。
行き先はギガフロート。 其処でシンは傭兵となるはずだ。

 

「行ったか……おっと、あいつに頼まれてたリストを渡すのを忘れてたな」

 

ターミナル管制室の窓際からシャトルを見ていたケナフは、思い出したように懐から一枚のファイルを取り出した。

 

「ああ、それが奴を嵌めたオーブとザフトのリストか、まぁその内渡してやればいいだろう。 奴に遣って貰う仕事は山ほどある」

 

頬の肉皮を吊り上げた邪悪な笑みを浮かべるミナ。
どうもグフを無償で渡したのは地上でシンを扱き使う為でもあるらしい。
(酷いことするなぁ……)とユンは思ったが口には出さない。

 

「(全く坊主も災難だな)ああ、だが妙な事がある」

 

意味ありげな間を置いて、ケナフはファイルをミナに手渡した。

 

「……これは?」

 

ファイルを流し読みしたミナはあることに気づいた。

 

「気付いたか、よく考えてみれば妙な話だったんだ。 元々プラントとオーブは敵国だった、歌姫の騎士団を除いてな」
「オーブ、ザフト、今回の件に関わった上層部の軍人の中に、事前にもう一方と繋がりのあった人間がいないとは……」

 

先程の冗談めいた笑みとは真逆な、苦虫を噛み潰したような表情でファイルを読み進める。
つまり、双方は相手をよく知らぬまま、今回のシン・アスカ抹殺のために手を組んだ。
しかもミナが介入しなければ、ラクスとカガリ、二人の国のトップに隠したまま、シンを抹殺するのに成功する筈だった。
そんな事は不可能に近い。

 

「だれか、いや、複数の連中が裏で糸をひいてる」
「……ケナフ、地上にいるお前の弟子、ベルナデットを呼び戻して、二人でこの件をもう少し突っ込んで調べろ」
「あいつを弟子にした覚えは……まあいい、じゃあ、地上のエレベーターシャフト基部建設は中止でいいんだな?」

 

元々軌道エレベーターの頭頂部として作られたアメノミハシラは未完成であった。
長らく凍結されていてが、最近、軌道エレベーターとしてのアメノミハシラを完成させる計画が復活した。
現在アメノミハシラにいないベルナデットは現在オーブでの軌道エレベーターシャフト基部建設の折衝に行っていたのだった。

 

「いや、続けさせる。 その方が怪しまれず済む」
「分かった」

 

ケナフは通信室へと向かって行った。

 

「ユン、すまないが、ムラサメとオオツキガタを元にした例の新型の設計をもう少し煮詰めてくれ」
「わっ、分かりました!」

 

ユンもまたファクトリーへと駆け出していく。

 

「恐らく敵は世界の裏に潜む悪意。 名前の分からぬ敵。 さしずめ、名も無き者達、『ネームレス』か」

 

二人が出て行き、ただ一人となった管制室でミナは呟く。
その視線はシンの降りた地球へと向けられ、憂いに満ちた表情をしていた。