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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第09話

Last-modified: 2009-02-10 (火) 16:31:35

シンが外に出た頃、ガルナハンには既に夜の帳が降り、辺りに人影は無く、街頭だけが街を照らしていた。

 

「早かったな、別れはすんだのかい?」

 

ミネルバから少し離れた所でジャンはシンを待っていた。

 

「はい」
「……下世話で済まないが、少し時間がかかると思ったよ」

 

笑みを浮かべながら、ジャンは少々躊躇いがちに言葉を続ける。

 

「死ぬつもりありませんし、俺が帰って来る場所はここだけですから」

 

迷いの感じられないはっきりとした口調。

 

「成る程、良いな。 帰る場所があると言うのは……」

 

話を聞き、ジャンはどこか羨ましそうに、遠い目でシンを見ていた。
地球で生まれ、プラントに渡り、地球へと戻り、そして追われ、さ迷い歩いた。
帰るべき場所を失った男には、シンの帰るべき所があることが羨ましかったのかもしれない。

 

「そういえば、どうやって宇宙に上がるんですか?」

 

ふと思い出したようにシンは声を上げる。

 

「本来ならオーブのカグヤ二号を……そう、あからさまに嫌そうな顔をしないでくれ。 ミナ嬢が決めたんだ」

 

オーブと聞き、途端に眉を顰め、口元を引き攣らせて見せたシンに、ジャンは諭すように言った。

 

「す、すみません。 つい……で、本来ならって言うのは一体?」

 

本人に自覚は無かったらしく、素直に謝るシン。

 

「丁度、私が君を訪ねた頃、つまり三時間くらい前だな。 オーブ全土で戒厳令が出された。
 詳しい事は分からないが、どうもクーデターが起きたらしい」
「えっ!?」

 

ジャンの告げた話にシンは驚きを隠せない。

 

「既にミナ嬢がソキウスと手勢を率いて向かった。 すぐに鎮圧されるはずだ」

 

大げさな仕草で、シンを落ち着かせるようにゆっくりとジャンは言う。

 

「そうですか……それにしても」

 

考え込むように顎に手をやるシン。

 

「タイミングが良すぎる。 かね?」

 

シンの表情を見つめ、それまでとは違う、真剣な顔つきでジャンは言った。
それにシンも無言で頷く。

 

「現地からの情報では、軍部とオーブの民主化を求める下級氏族と市民の組織、オーブ民主化連合の起こしたクーデターと言う事になっているが……」

 

険しい表情を浮かべ、ジャンは口篭る。
ミハシラにプラント占拠の第一報が入り、ミナとケナフが立ち回り、各国の協議の後、プラント救援の多国籍軍が組織され数日。
第一陣として先発隊がアーモリー1へと向かい、準備を整えたミナが率いる本隊が出撃する直前にオーブでのクーデター騒ぎ、明らかにタイミングが良過ぎる。
アメノミハシラが有事の為に秘匿していた戦力の分担を狙い、起こされたものと疑ってもいいだろう。

 

「クーデターがオーブ市民主体? そんな訳ありませんよ。 ……あの国は、アスハの事を信じきっているんですから」

 

ジャンの推測を後押しするように、苦虫を噛み潰したような表情でシンは呟く。

 

「……今でもオーブが、カガリ嬢が憎いのかい?」

 

シンのその表情に、ジャンは心中の疑問をシンへとぶつけた。

 

「いえ、……寧ろ、可哀想だと思いますよ。 あの人、政治家向きじゃ無いですし」

 

戦場にて幾多の生と死を目の渡りにし、人の死すら割り切れるようになったシンの目は、ここではない遠くを見つめていた。

 

「一先ず、ギガフロートに向かおう……受け取らねばならない荷物がある」

 

シンの目に複雑な表情を覚えるも、それを胸中へと仕舞い、それを振り切るようにジャンは声を上げた。

 
 

人工島ギガフロート。
民間用マスドライバー施設を持ちジャンク屋ギルドの地上本部の置かれている人工島である。
元々は前々大戦の最中、ザフトにマスドライバー施設を奪われた大西洋連合が、民間用施設と偽り出資し、ジャンク屋に建造を委託した施設だった。
だが大西洋連合が軍事利用しようとした事からジャンク屋により遁走。
3年前、CE74年にその是非について、国際裁判にて争われ、他国の利権なども絡んだ結果、ギガフロートは地球に住む、人類の共有財産とされた。
納得のいかない大西洋連合だったが、設備の維持管理運営をジャンク屋ギルドの責任において行い、連合には永久優先使用権と年間利益の30パーセントを配分することで一応の決着を見ている。

 

「ここがギガフロート……」

 

ミハシラ地上連絡員(実際には情報員)の用意した小型飛行機を使い、ギガフロートにたどり着いたシンはその広大さに目を奪われていた。
何しろ全長数十キロ、辺りを見渡しても、とても人の手で作られた場所とは思えなかった。

 

「来たのは初めてだったか……ああ、あれがギガフロートのマスドライバーだ」

 

意外そうにジャンは言うと、闇の中で航空灯によって浮かび上がるシルエットを指さす。
民間用と聞いていたが、その大きさは各地のマスドライバーと比べても遜色無い、戦艦クラスさえ打ち出すのは容易そうだった。

 

(……そういえば、元々軍事利用も考慮に入れてたんだったか)

 

ふとマスドライバーから視線を下ろすと、誰かが二人に近づいてくるのが見えた。

 

「久しぶりだな、ロウ・ギュール!」

 

ジャンは髪を逆立て黄色いバンダナをつけた男、その筋で知らない者のいないジャンク屋、ロウ・ギュールに声を掛けた。

 

「あんたも元気そうで安心したよ、ジャン・キャリー」

 

ジャンの顔を間近で確認すると、ロウは嬉しそうに笑った。

 

「荷物って、ロウさんだったんですか?」

 

シンは驚きの声を上げ、ジャンの顔を見る。

 

「まさか! ってシ……じゃ無かった赤鬼じゃないか! お前も元気そうだな!」

 

ロウはシンの顔をみると、挨拶代わりに右手を上げて見せた。

 

「知り合いだったのかね?」

 

少し意外そうな顔でジャンは言う。 とはいってもロウの異常とも言える程の人脈の広さは今に始まったことではないが。

 

「ガルナハンに居付く前、3年位前です。 東南アジアの辺りでグフクラッシャーが故障して動けない所を世話になりまして……」
「ああ、グフクラッシャーはまだ現役だろうな?」
「ええ、お陰様で」

 

ロウの悪戯めいた顔に、シンは微笑み、大きく頷いた。

 

「そうだったか……ああ赤鬼君、すまないが手続きを済ませてくれないか? アメノミハシラ名義でサインだけしてくれればいい」

 

談笑している所に、ジャンク屋ギルドの職員が手続きの書類を持ってきた事に気付き、ジャンはシンへと向き直った。

 

「あ、ええ、別に構いませんけど」
「すまない」

 

首を傾げながらもシンはギルドの職員に連れられ、事務所へと向かって行った。

 

「……ロウ、例の物は?」

 

シンが視界から消えたのを確認し、ジャンは小声でロウへと本題を切り出す。

 

「あんたの機体じゃない方に積み込んである。……本当なら俺も、プロフェッサーも、キャプテンもあれは戦闘用にしたくないんだが」

 

これまで見せなかった、どこか辛そうな表情でロウは呟いた。

 

「本当にすまない、君の手まで血に染めてしまうことになるな」

 

ジャンは頭を下げると、謝罪の言葉を口にする。 
その表情は硬く、本当に罪悪感を感じているようだった。

 

「止めてくれよ、元々死の商人呼ばわりされてるんだ、なんて事は無いさ……ジャン、死ぬなよ」

 

大きく首を振り、ジャンを励ますと、ロウは真剣な顔で言った。

 

「私は煌く凶星Jだ、そう簡単には死なないさ」

 

ロウの不安を振り払うように、ジャンは不適に笑って見せた。

 
 

「……ミナ様、シン・アスカとジャン・キャリーの乗ったシャトルが大気圏を突破したそうです」

 

ミナの執務室、その机の前でフォーソキウスはその端正な顔に一切の表情を見せる事無く、ただ淡々と結果を報告する。

 

「そうか、こちらの準備はどうだ?」

 

ミナはフォーソキウスの報告に小さく頷き、傍らにいる二人のうち右手に立つベルデナットを見る。

 

「第一から第五までの5個中隊、それにミナ様とソキウスの4機、計64機、全機降下準備完了しています」
「……よろしいのですか? プラント、アプリリウス奪還に派遣した2中隊24機を加え、全88機。 アメノミハシラはほぼ丸裸です」

 

手元の書類をめくり、ベルデナットは答える。 その表情には不安の色が浮かんでいる。

 

「留守を任せられるからこそ行くのだ。……何より、捨て駒、囮だとは分かっていても、オーブを奴らの好きにされる訳にはいかん」

 

忌々しいと言わんばかりに、憎悪の表情を見せ、美人に部類されるであろうその顔を醜く歪める。

 

「ここで私が行かなければ、天空の宣言に意味は無意味になってしまい、あの男を、私自身を裏切ることになる」

 

オーブの守護者。 それがロンド・ミナ・サハクが自身に科した鎖。
スッと目を細め、思い起こすのは今まで歩んできた道と赤鬼の名を持つ、黒髪赤目の男。

 

『ご立派な事で』

 

物思いに耽っていたミナに、机に備え付けられた通信用モニターから流れてきた男の声が聞こえた。
フェイス部分に特殊加工された連合系のヘルメットで表情こそ見えないが、その男のラテン系特有の陽気な声に、ミナは気を取り直すと表情を崩した。

 

「フ……それよりプラントは任せたぞ、『リッパー』 『モビーディック』にもそう伝えて置いてくれ」
『昔の怖い知り合いも来るらしいんで、あんまりやる気でないんですが』
「自業自得だろう?」

 

だるそうに言うリッパーに、ミナは意地の悪い笑みを浮かべる。

 

『そりゃそうですけどね……やれやれ、怖い人に拾われちまったもんだ』
「そう言うなよ、そこに居なきゃ今頃お前は墓の下だ。 それに、な。 狂犬と桜……狂犬の方はユーラシアに戻ったらしいぞ」

 

ミナの左側に立っていたケナフは愉快そうな顔で、通信モニターを覗き込む。

 

『えっ、ホントかよ、それ? ま、いずれにせよやるしかないですからね、とりあえず御武運をお祈りしておきます』

 

連合式の敬礼をするリッパー。 ヘルメットで表情こそ見えないが笑っている気がした。

 

「ああ、君もな、ハレルソン」

 

オーブ式の敬礼を返すと、ミナはモニターの電源を切った。