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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第11.5話

Last-modified: 2009-02-21 (土) 23:56:42

アーモリー1工廠地下。
エザリア・ジュールは『彼ら』が最高傑作だと自負する巨人の前に立っていた。

 

照明が無いため、その姿ははっきりとしない。
だが、彼女自身の髪色にも似た灰銀色の待機状態から無機質な恐ろしさを感じていた。
恐る恐る『それ』に手を触れてみる。
触れただけで他者を切り裂くような鋭い印象を持っていたが、触った程度で傷つきはしなかった。
(冷たい……)
それがはじめてMSに触れた感想だった。
エザリアの息子もまた、この鉄騎兵の同類を駆り、戦場にいると言うのに、
彼女ははじめてこの鉄騎兵に触れたのだ。

 

「ジュール議員」
名を呼ばれたことに気付き、後ろを振り向く。
そこに立っていたのは栗色の髪の青年。 息子、イザークより一回り程度歳上だろうか。
「如何ですか、『アスラーダ』は?」
「まるで棺桶ね……」
あまり表情を変えない男、コートニー・ヒエロニムスに率直な感想をぶつけるエザリア。
人の形をしていると言うのに、何故かエザリアには棺であるかのように感じられた。

 

「言い得て妙ですね。 MS乗りに取ってMSは死に装束も同然ですから」
コートニーはほんの少しだけ頬を歪め、僅かに皮肉げな笑みを浮かべる。
「これで完成度はどれ位?」
再び機体を見上げ、興味本位でエザリアは問う。
「既に機体自体は完成しています。 あとはパイロットです」
仏頂面へと戻るとコートニーは淡々と告げる。
「外部から呼ぶと聞いたけれど大丈夫なの?」
「問題ありません。 私の知る限り、最も優秀なパイロットです」
コートニーの脳裏に浮かんだのは、自分の記憶の中ではまだ少年に近かった黒髪赤目のパイロット。
思わず懐かしさから笑み(良く知った人間で無ければ気付かないほど微かにだが)がこぼれた。

 

「そう、ところで『アスラーダ』という名前は正式名称?」
「いえ、まだコードネームです……局長は相応しい名前は一つだけだと言ってますが」
エザリアは基本的に仏頂面と言っても良いほど表情を変えないコートニーの
困ったような顔が妙に可笑しくて微笑みを浮かべる。
「……議員、有り難うございます。 議員のご助力がなければ『アスラーダ』は日の目を見ませんでした」
仏頂面のまま、コートニーは深々と頭を下げた。
表情は分かりにくいが声色からも本当に感謝しているのが感じられた。
「気にすることはないわ。 私も、私の目的があって貴方方に協力しているのだから」
「目的……ですか」
「ええ」
訝しげな表情のコートニーに静かに頷き、エザリアは微笑む。
それきり会話はなくなり、二人は『アスラーダ』を見上げていた。

 

それからどれほど経っただろうか。 いつの間にかコートニーはいなくなっていた。
一人きりになったのを確かめ、薄紅色の唇をゆっくりと開く。
「ロミナ……あなたは私が止めてみせる。 議員としてではなく貴女の友人として」

 
 
 

アプリリウス1 工廠内
「エザリア?」
コンピューターに向き合い、作業に集中していたロミナ・アマルフィは誰かに呼ばれた気がして、
思わず顔を上げた。

 

「アマルフィ女史……少し休憩されては?」
ちょうどコーヒーをもって入ってきたバルドフェルドが、ロミナを見て訝しげな表情を浮かべる。
「顔色がよろしくないようですが、大丈夫ですか?」
バルドフェルドの後ろから来た若い声の男が、僅かに感情をみせた。
シンとドラッツェで対峙していたパイロットは、緑のパイロットスーツに
ヘルメットを被っている為、詳しい表情は伺い知れない。
「ええ、大丈夫です」
そうは言うが、ロミナの目の下にはくっきりとした隈があった。
「……それならば良いのですが」
バルドフェルドは何も言わずコーヒーを差し出す。
「…………」
パイロットは腕を組み、黙り込む。

 

明らかにオーバーワークだ。
本来ならばすぐさま充分な休養を取り、療養すべき程衰弱している。
……だが休む事を彼女は良しとしない。
亡き夫と息子の為に休む事は許されないと思っているのだろうか?
元々はピアニストであったという彼女が、MS等の各種調整を手掛ける様になるまで何があったか……
余人には伺い知れない。

 

「アマルフィ女史……『アルザード』の修復はどうなりましたか?」
男は自分の気遣いなど余計な事だと頭の片隅に追いやり、本来の目的を口にする。

 

『アルザード』
キラ・ヤマトのフリーダムとアスラン・ザラのジャスティスを緒戦にて破った彼らの切り札だ。

 

「終わっています。 元々ウェポンバインダーの欠損だけですから」
モニターに映った甲殻類の物に似た鋏状のパーツを指差し、存外はっきりとした口調でロミナは答えた。
「フリーダム、ジャスティス相手にウェポンバインダーの欠損のみか」
「元々フリーダム、ジャスティスの基本骨子は、あの人が創ったものですから……
 弱点は分かり切っています」
最強と呼ばれる機体相手の戦果に目を細め、感心していた男は、
ロミナの僅かに見せた憎悪の表情に、一瞬たじろいだ。
「バルドフェルドさん」
「あ、……何か?」
バルドフェルドもまたロミナの憎悪に驚きを隠せなかったようだ。
急に名を呼ばれ、思考が出来ずに答える事ができなかった。
「ユニットABが仕上がったそうです。 最終調整に来て欲しいと連絡がありました」
「! そうですか。 フフッ……失礼します」
歓喜の表情を隠すことなく、頬の肉皮を釣り上げ、バルドフェルドは笑う。
そのまま軽く頭を下げると笑みを浮かべたまま退室する。
「……失礼」
男もまたロミナに一礼すると、バルドフェルドの後を追った。

 
 

「……全ては吹き飛ばされた花の為に」
二人が退室のを確認し、ロミナは目を瞑るとただ一言だけ呟いた。