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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第20話

Last-modified: 2009-09-22 (火) 00:29:20

「時間稼ぎをさせてもらうぞ、ザフト!」
頭蓋骨の様な頭部、剥き出しのフレーム、後背部にトマホームとマシンガンを装備し
左右のサイドアーマーにグレネードを装備した鳥の骨格のようなMSは一直線にミネルバを狙う。

 

「あいつ、速いぞ」
『馬鹿な……アシュラソード以上いやクロスフォースに匹敵する速度だと?』

 

そのスピード、機動性にシンとRBは思わず声をあげた。
「ミネルバをやらせる訳には!」
敵の目標がミネルバにある事に気付いたルナマリアは残敵を蹴散らし、ミネルバの援護に向かう。
「迂闊だぞ、ルナ!」
だがシンの叫びはルナマリアには届かない。
『敵接近、無人機だ。 気を付けろ』
「糞っ! 俺のケツを舐めろ!(意訳:消え失せろ!)」
現れたのはドラッツェ。 撃沈した艦から湧き出るように無数の無人機が斬撃痕から飛び出してくる。
それは巨象の死体を食い破って現れた異形のようにシンは見えた。

 

「出来損ない、前に戦った時より動きが良い」
シンを高脅威の敵と認識したのか、無数のドラッツェがインパルスエクシードを狙う。
その動きは以前シンがプロトガルバルディを駆り、相手にした無人機と同じだとは
思えないほど洗練されていた。
『おそらくは戦闘データの蓄積に伴う、アップデートによるものだ。 性能自体に変わりはない』
迫るドラッツェの一群にスラッグ弾と機関砲を浴びせ、代わりに返されたビームの雨に
スラスターは吹かさずに手足を動かし、アンバックで避ける。

「そうは言うけどな!」
RBの正確かつ冷静な指摘に、イラつきを隠せず怒鳴ると、左手でコンソールに何かを打ち込む。
『もう弱音か? ミネルバの鬼神が聞いて呆れるな』
「好きでそう呼ばれたんじゃない!」
煽るようなRBの口調にイラつき、コンソールを叩き黙らせると、右手の操縦桿を押し込む。
全身を捻るような動きと共に脚部が輝く。
回避を続けながら放たれた4基のライトニングエッジは今までとは違い、
四方に別れそれぞれドラッツェを切り裂く。
『ほぅ、戦闘中に軌道パターンのプログラム変更とは。 やれば出来るじゃないか』
「今、思い出した。 お前の喋り方、死んだ知り合いに似ててすげぇ腹立つ」
嫌味すら感じさせるRBの言葉にシンはあからさまに嫌な顔をして見せた。
『それは残念。 む、後方より新手だ。 お喋りしている暇も無いな』
シンの皮肉を気にする様子も無く、RBは淡々と状況を報告する。
後方から迫るのは10機はいるドラッツェ。
「キリが無いな。 一気に突破するぞ」
『了解だ。 ドライバー』
インパルスエクシードのバックパックに火が入り加速する。
それを追おうと、無人機ならではの加速力を発揮しようとしたドラッツェは
ビーム、ミサイル、実弾の嵐に瞬時に残骸と化す。

 

「忘れてたかガラクタども、俺たちもいるんだよ。 アスカさんは追わせない!」
「隊長もな。 ありゃー、やばい時の声だったからな。 後、頼みます!」
「シン、返事は良いから、さっさと行きなさい!」
一気に三人に急き立てられたシンは反射的にフットバーを深く踏み込んでいた。

 
 

「ミネルバはやらせない……絶対に!」
ガルバルディのコックピットの中、ルナマリアは痛いほど操縦桿を握り込み、思い詰めた表情で呟く。
ミネルバ撃沈がトラウマとなっていたのはシンやアーサーだけではない。
寧ろ、ミネルバ艦載機隊三人の中で唯一ミネルバに残ったルナマリアは、
表面には出さないが誰よりも気に病んでいた。
旧ミネルバを守り切れなかった事は、ルナマリアに深いトラウマを残していたのだ。
ある意味、ミネルバクルーで一番ミネルバに固執しているのはルナマリアであるとも言えた。
「……見えた!」
ルナマリアの瞳に暗青色をした鳥の骸骨が映る。

 

いや、それしか見えていなかった。

 
 

「やはりフレスベルクは追いついたか」
センサーが敵性機体の接近を告げる電子音を鳴らし、ファントムは僅かに顔を動かし、
後方視界用のモニターに目をやる。
右肩に黒い鳥のパーソナルマーク。 背に三対のフィンスラスターを背負った真紅の機体。
死を喰らう魔鳥、ルナマリア・ホークのトライガルバルディα。
「逃げ切れんか。 まぁ、丁度良い。
 シン・アスカ亡き後のザフトトップエースの実力、この場で見極めるか……」
そう言うとザクスピードはその場でターン、ガルバルディと相対する。
「ルナマリア・ホーク。 相手をしてやろう」
「上等! 返り討ちにしてやる!」
二羽の猛禽はまるで示し合わせたかのように接近戦に移った。
ザクスピードは右手にビームトマホークを、ガルバルディは右手にビームダガー、左手にサーベルを構える。
「先手必勝とも言う……先手は貰うぞ」
ザクスピードは軽量高速機の特性を生かし、中量級のガルバルディよりも早く懐に飛び込む。
サーベルの使い辛いクロスレンジでトマホークは一直線にコックピットを狙う。
ルナマリアはダガーで斬撃を受け流し、ザクスピードの胴体を蹴り飛ばし距離をとる。
体勢が崩れた一瞬の隙を突きサーベルを一閃。
だが、ザクスピードは先程のお返しといわんばかりにガルバルディの左腕を蹴り、サーベルを弾き飛ばす。
「強い……いや、巧い。 でも、まだ!」
しかし、ルナマリアも戦闘のイニシアチブをくれてやるほど甘くはない。
右手のダガーを頭部へ向け投擲すると、シールドからもう一本ダガーを引き抜く。
「くっ、流石にやる!」
飛来するダガーを反射的にトマホークで切り払い、左手は腰後ろに付けたビームマシンガンを手にする。
「隙ありっ!」
一瞬の動きの遅れを突き、ルナマリアはシールドにビームを纏わせ、コックピットに向け突き出す。
ザクスピードは左手をマシンガンからサイドアーマーのグレネードにスイッチ、
ガルバルディαのシールドへと放り投げた。
「その程度で、止められるとでも……」
グレネードがシールドに接触したと同時に閃光が奔り、ガルバルディのカメラを白く塗り潰した。
「フラッシュグレネード!?」
視界が眩み、ガルバルディの動きが止まる。
一瞬にしてルナマリアの頭から血の気が引き、冷静さが戻った。
視力の回復したルナマリアは反射的に回避行動をとる。

 

「動きは良い。 だが、殺意と焦りで隙だらけだ」

 

後方からファントムの感情の篭っていない声がルナマリアの耳に届いた。
「クッ……ごほっ!」
次の瞬間、背中を思い切り殴りつけられたかのような衝撃に、ルナマリアは呼吸困難に陥る。
「こ、この程度の損傷で! 反応が無い……トライフォースをやられたの!?」
ルナマリアは咳き込みながら、機体の立て直しを図る。
だが、ガルバルディαは後背部は推進剤の誘爆によるダメージを負っており
その背にあるはずのトライフォースは今や下部のフィンスラスター1基を残しスクラップ同然となっていた。
「今回の目的は足止めだ。 改めて出直して来るがいい」
システムエラーを起こし、宇宙を漂うガルバルディにトドメを刺そうともせずに、
ザクスピードは再びミネルバIIへと向かう。
「……見逃してくれたって言うの?」
生き残れた安堵、見逃された屈辱、入り混じった複雑な感情を浮かべ、ルナマリアは奥歯を噛み締める。

 
 

「ルナ!」
どれほどの時間が経ったのか、何時の間にか間近まで接近していたインパルスエクシードが接近してくる。
「私は、私は良いから! ミネルバに行って!」
インパルスの頭部にシンの顔を思い浮かべ、ルナマリアは叫ぶ。
エラーは復旧しつつある、何よりもルナマリアはシンを足止めしてはいけない理由があった。
「そうは言ってもこのままじゃ只の的だ。 せめて友軍の近くまで……」
「シン……私はもう、大丈夫だから。 信じてよ」
過剰とも言えるほどに心配そうなシンを拒絶するように叫ぶと、ルナマリアは慈母のような優しい、
しかし哀しげな笑みを浮かべる。
「……」
そのルナマリアの表情に、シンは何かを思い出したかのように硬直する。

 

4年前からずっと、ルナマリアは自分がシンを縛っているのだと枷となっていると感じていた。
実際、それは間違いではない。
シンはアスランの脱走騒ぎ。 つまりメイリンを巻き込んだ撃墜事件から
今迄ではあり得ないほどにルナマリアに甘くなっていた。
おそらくシン自身は気付いてはいない。
元よりルナマリアに対してシンは恩義と友愛等、一言では表せない複雑な感情を抱いていた為、
強く出れない事があった為だ。
肉親である妹を手にかけた。
妹を目の前で失った自身の境遇とオーバーラップするその事がシンを縛り付けて、心を束縛していた。
その為、恋愛関係になってからもそれは続き、4年前言葉を交わすことなく別れた事で、
心のどこかでしこりとなり残ってしまっていた。
「……すまない」
少々の葛藤の後、一言だけ口にするとシンは再びインパルスエクシードをミネルバへと向ける。

 

「全く、世話がやけるんだから」
小さくなって行くインパルスの後姿を見ながら、先程から僅かに表情を緩め、
ルナマリアは手の掛かる弟を見送った姉にも似た笑みを見せる。
ルナマリアがシンを真に理解する事が出来たのはシンがいなくなってからである。
基地から送られて来たシンの遺品を整理していた内にあった日記と携帯。
力の無い人を守りたい。 
例え理想が打ち壊されようとも、自身の身がどうなろうとも暖かく優しい世界を求めた
シンの心境が書かれた日記。
色あせた妹の携帯を大切に持ち続けていたシンの心を理解できたルナマリアは
シンとレイの意思を継ぐ事を決めた。 
「シン、貴方は誰にも縛られず、自分の道を進んで。 私なんかに足止めされちゃ駄目」
ルナマリアは両腕をだらりと投げ出し、目を瞑ると誰に言うでもなく呟く。
暫くそうしていたルナマリアだが、その内エラーメッセージが消え、システムが復旧した。
目を開き、損傷状況を確認。 まだ戦闘続行可能な事を確かめると、機体を立て直す。 
ゆっくりと深呼吸をした後、ルナマリアはシンとは逆方向に機体を走らせた。

 
 
 

その頃ミネルバブリッジでは
「バート君、対空火器の稼動状況は?」
敵の襲撃も1段落し、飲み物を口にしていたアーサーはバートに被害状況を確認する。
「稼動率68パーセント……あれだけやられた割にはマシな方ですかね」
バートは状況の報告をしながら、肩を竦め溜息をつく。
対空火器や迎撃機の対応能力を超える襲撃を受け、半分以上の迎撃火器が残っているのは
幸運であると言えた。
「まぁ、これで一段落付くだろうからなんとかなるか」
表情を緩め、アーサーは再び飲み物を口にした。
「センサーに反応! 数1、高速で接近してきます!」
その瞬間、オペレーターの叫びがブリッジに響き、アーサーは飲み物を噴出し、玉となり周囲に浮く。
「(汚いなぁ……)艦長、各隊に迎撃要請します」
その様子に嫌悪感を露わにしながらもアビーはアーサーの許可を取る。
シェダー隊、連合、オーブ、アメノミハシラは指揮系統が違い、指揮権が無い為要請となるのだ。
「ゴホンゴホン……頼む! 主砲、発射準備」
むせながら、アビーに頷くと、牽制の射撃命令を下した。

 
 

「新型か! 楽しませてくれる!」
「余裕だなー、大西洋の人は」
新たな敵に高揚を隠しきれない様子の大尉に呆れ半分、半ば感心しながらオシダリは呟く。
大尉の部下はいつもの事なのか何も言わない。
「あの動き……乗っているのはエースか」
遠距離観測の映像を見ながら、ジャンは一人呟く。
「フォビドゥンじゃ捕捉も出来ないわね」
「カラミティもだな。 レイダーに乗ってくりゃ良かったぜ」
諦め気味に言うジェーンに、エドは自身の乗る機体に舌打ちをした。
「今更言っても仕方ないさ。 私が行こう、君達はミネルバを頼む」
「任されたぜ」 「了解」
二人の返答と共にジャンの駆るヤタガラスが前にでる。
「すまないが、手を貸して貰いたい」
アメノミハシラ三機の内、唯一の高速機にのるジャンは通信を繋ぐ。
「望む所だと言わせて貰おう!」
自信満々に言い放つ大尉。

 

「隊長! 連邦の意地を!」
「GAT乗りの実力を見せてやって下さい!」
部下の声援を受け、推進部を科学燃料ロケットに換装したジェットストライカーに良く似た装備。
ラケーテンストライカーを装備した黒いウィンダムが先陣を切る。

 

「隊長、出番ですよー」
「オーブにその人ありと呼ばれた実力が見たいなー」
「……てめぇら。 後で覚えとけ畜生」
大尉の部下とは正反対の態度の自分の部下に怒りで肩を震わせるオシダリはムラマサを嫌々進ませる。

 

三機は隊列を組む事もなく、絶妙な距離を保ちながら前進する。
「で、仕掛けはどうしますか?」
嫌々ながら仕事は仕事と割り切ったのか、オシダリは両機へと問いかける。
「どうせぶっつけ本番だ。 合わせ様が無い、バラバラのタイミングで三方向からそれぞれ仕掛けよう」
「決まりですな」
言い切った大尉に同意し、ジャンが頷く。
「じゃあ、行きますか!」
オシダリの言葉を合図に三機は散開
「私は正面から行かせて貰おう。 それしか芸が無いものでな!」
ラケーテンウィンダムIIIは増速し、そのままザクスピードと真っ正面から相対する位置に付く。
「んじゃ、俺は下から行かせて貰いますかね」
自信に満ち溢れた大尉の言葉に肩を竦めると、オシダリはザクスピードから見て8時方向に移動。
斜め下からカチ上げるように攻める事になる。
「では私は上から行くか」
オシダリのムラマサとは逆方向、2時方向に機種を向ける。
白い機体色のヤタガラス、色調の違う複数のグレーで低視認塗装が施されたムラマサは
元となった機体が同じでありながらまるで違う機体の様に見える。
胸部を展開、コックピットを機種とし背後のウィングスラスターを展開、全身のスラスターを後部に集中、
白いヤタガラス本体にダークグレーのミサイルポッド付き増加装甲、両肩の短砲身レーザーカノンを装備した
ジャン専用ヤタガラス重装高火力型。
シールドを機首とし、背後のバインダーを展開主翼とし、推進部を脚部に持ち、
機体上部ににロングレンジビームランチャーを装備したムラマサ。
三機それぞれ別方向からザクスピードへと向かう。

 
 

「展開が早い! もう交戦しているのか?」
前線から急ぎ戻ったシンの目に対峙するMSの姿が映る。
『いや、まだのようだ。取り敢えず落ち着け、このままなら何とか間に合う。取り敢えず通信を繋ぐぞ』 
焦りからか、声のトーンを上げるシンを宥めつつRBは次の行動へと移る
「ジャンさん、聞えますか!? 俺は後ろから仕掛けます!」
「シン君か! ……良し、このままなら挟み撃ちの形になるな」 
シンからの通信にジャンは意地の悪そうな笑みを浮かべて見せた。

 

「挟まれたか、少々厳しいな。 だが、エース4機を誘引できるなら安い代償か」
ファントムは一人呟くと戦況マップに目をやる。
内心、味方とは呼びたくない元連合軍部隊の撤退状況は未だ3割。 
一応囮として30機近い無人機のドラッツェを放ち、撃沈された艦内部の機体も遠隔操作で起動させたが、
まだ時間を稼ぐ必要がある。 
「しかし、昨日の敵のために命懸けで時間稼ぎとは……やれやれ、因果な商売だ。
 もっとも、それが良いのだがな」
ファントムのバイザーで隠された顔が歓喜で打ち震えているように見えた。
「徒党を組むか! ならば、相手になって貰おう!」

 

「先ずは小手調べと行こう」
「「了解!」」
ファントムの叫びを合図としたかのように、三機は挨拶代わりにミサイルを乱射。
ヤタガラスの全身の増加装甲に仕込まれた、ラケーテンウィンダムIIIの、
ムラマサの主翼下に懸架されていたミサイルポッドが無数のマイクロミサイルを吐き出していく。
ほぼ全周囲から迫るミサイルの隙間を縫うように、ザクスピードは回避する。
「もう一押し!」
更に追加のミサイルがウィンダムIIIより放たれ、覚悟を決めたのかザクスピードはその場で動きを止める。
直撃を諸に受けたザクスピードは爆風と共にぐにゃりとフレームが歪む。
「良し!」
「いや、まだだ!」
思わず握り拳を作ったオシダリに、大尉の叱責が飛ぶ。
爆炎の中から現れたもの、それは鳥のような戦闘機形態へと可変したザクスピードの姿。

 

「着弾の瞬間、変形して、衝撃を逃がした!? なんつー出鱈目だよ!」
「あの技、前に一度……相手はザフトの特務出身か?」
神業とも言える妙技に驚愕するオシダリとは反対にジャンは冷静だった。
その技に以前ジェネシスαで交戦したある男の陰を見出していた。
「ちょっと! R2Sが変形するなんて聞いてない! 変形するなら火器追加して私が乗ったのに!」
遠距離望遠と通信で状況を察したらしく叫び声を上げるリーカ。
「その機動性では装甲を犠牲としている筈……ならば、直接斬り伏せるまで!」
冷静な判断の後、大尉は叫ぶとビームサーベルを引き抜く。
エールストライカーとは比べ物にならないほどの加速力でザクスピードへと迫る。
「斬り捨て御免!」
ラケーテンウィンダムは大上段からビームサーベルを一気に振り抜く。
後方にシンのインパルス、後詰めにオシダリとジャン。 
ほぼ完璧な布陣にファントムが取ったのは前進。
迷う事無くウィンダムIIIの懐にタックルで飛び込む。
「なんと!」
密着している為、サーベルを振るう事の出来ないウィンダムIIIのコックピットを狙い
ザクスピードのビームトマホークが瞬く。
だが宙に舞ったのは血液の粒ではなくウィンダムIIIの左腕。
「よくも私のウィンダムを!」
「喧しい男だ。 一々喚くな」
激昂する大尉を軽く受け流し、ファントムは一旦距離を離す。
「私は敵に回すと煩くて面倒臭い、とても迷惑な相手なのだ!」
「それは自分で言うことでは無い! 思った事をそのまま口にするな、
 今一度自分の言っている事を良く考えてみろ!」
叫びながら大尉は銃身とストックの長いアーティラリーモデルのビームライフルを残った右手で掴む。

 

アーティラリー(砲兵)モデルは一般的によく用いられるカービンモデルとは違い取り回しが悪く、
重量がある為、一般的には不人気である。
だが、威力と命中精度で勝っており、一部のベテランパイロット達からは非常に評判が良く、
大尉も好んで使っていた。
ウィンダムIIIの動きに反応し、ザクスピードもビームマシンガンを構え、真正面から撃ち合う格好になる。
細かな機動変更により、回避しながらグレネードを織り交ぜ、弾をばら撒くザクスピード。
シールドでバイタルパートを防御しながら、一撃を狙うラケーテンウィンダムIII。
だが、次第に手数で劣るウィンダムIIIは徐々に追い詰められて行く。
飛来してきたグレネードの破片をシールドで受けた瞬間、過負荷に耐えられずシールドは砕け散る。
「しまった!」
がら空きになった防御、致命的なその隙に放たれたビームの内の一発がアーティラリーライフルを貫通、
右手が肘部分まで吹き飛んだ。
「両腕が無くては戦う事もできまい。 諦めろ勝敗は決した」
体勢を崩し吹き飛ぶウィンダムIIIに、ザクスピードの銃口が狙いを定める。
「忘れんなよ、敵は一人じゃないんだぜ?」
「やらせんよ!」
ムラマサのロングランチャーとヤタガラスのミサイルが火を噴きザクスピードを襲う。
ロックオン警告に気付き、寸前で回避したザクスピードの左肩をビームの矢が掠め、装甲を焦がした。
「くッ……手負いではこれ以上は無理か。 すまん、離脱する」
ウィンダムIIIは援護代わりにラケーテンストライカーに懸架したミサイルを全て放つと、
名残惜しそうに後退して行く。

 

「逃がしたか……欲を張っても仕方ない。 しかし、あの長槍は厄介だな。 先に潰させて貰おう」
頭部を回し、ムラマサを見るとピンク色のモノアイが輝く。
それはまるで獲物を見つけた猛禽にも似た恐ろしさを感じさせた。
「そう簡単にやられるか」
格闘戦も考慮し、MSへと変形。 ビームランチャーを向け、狙いを定める。
「落ちろ!」
気合と共に両手で構えたビームランチャーが火を噴く。
だが、中遠距離射撃が主目的の移動砲台とも言えるムラマサではCRでの高速極接近格闘戦を得意とする
ザクスピード相手は分が悪過ぎた。
瞬時に距離を詰めたザクスピードのビームホークによってランチャーの銃身が切り落とされ、
MGの銃口がムラマサに向けられる
「やらせるか!」
「離れろ!」
4本のビームブーメランがビームホークを弾き飛ばした瞬間、ミサイルの雨降り注ぎ、
間一髪でオシダリは離脱する。

 

「インパルスもどきから例のユニットの反応……赤鬼とか言ったか、
 それにジャン・キャリー……またしても、とは。 因縁すら感じるな」
ザクスピードを挟むような位置の二機をモノアイのみを動かし確認すると、ファントムは一人呟く。

 

『気を付けろドライバー。あの機体の行動パターン、
 私が起動する前に逃がしたドラッツェのパイロットのデータと酷似している。
 同一のパイロットである可能性が高い。 そうなら、手強いぞ』
RBの警告にシンは無言で頷く。
「ザクのパイロット聞きたいことがある。 君はザフトの特務出身だな」
「ジャンさん?」
全周囲通信で語りかけるジャンに首を傾げるシン。
「だとしたら……どうだと言うのだ?」
質問に答えることなく、ファントムは不敵な笑みを浮かべる。
「悪いが手加減は出来ない。 この世との別れは済ませたか」
「愚問だな……我が心は既に死地にあり。 ……行け」
言い終わると共に後方より姿を現すドラッツェが3機。
「何!?」
「卑怯な!」
「一機で相手をするとは言ってはいない。 ジャン・キャリー貴様は後だ。
 傭兵赤鬼、いや、シン・アスカ。 再戦と行こうじゃないか?」
3機全てがジャンのヤタガラスへと向かい、必然的にインパルスエクシードとザクスピードが対峙する。

 

「名乗った覚えは無いんだが」
『いや、あれだけやれば名乗らなくても普通に分かるだろう』
「……RB、少し黙ってろ」
皮肉を言うシンに、RBは茶々を入れ、シンはコンソールを睨み付けた。
「傭兵赤鬼……噂は聞いたことがあった。 
 まさか上に上がって来ているとは思わなかったし、その正体がシンアスカだとは思わなかったが」
シンの疑問に何処か嬉しそうにファントムは答える。
「それは嬉しいな。 で、どんな噂だ?」
「命の安い死にたがり。だそうだ。 ただし、実力は折り紙付きとも」
「はっ、そうだな。 俺の命なんて安いもんさ。 あんた達みたいのは除いてな」
「ほう、で如何程かね? 手持ちはあまり無いのだが」
「100万アースダラーでも足りないな」
話は終わりだと言うようにシンは言い切ると、インパルスエクシードはロンゴミアントを
ザクスピードへ突き出すように構える。
「それはいい! 世界一高価なワンマンアーミーか!……ならばその命、奪い取るとしよう」
嘲笑を浮かべ、吐き捨てるとザクスピードはビームマシンガンを向ける。
間髪入れず、サイドに吹き飛ぶようにスラスターを吹かし、マシンガンを連射。
シンは両腕のビームカタールを急速展開、撒かれたビームを全て防ぐ。
「ったく、いきなりやってくれるよ」
『なら、お返しに鉛玉でもくれてやれ』
「オマケも付けてな!」
狙いを一点に絞らず、点ではなく面で攻め、散弾、機銃、機関砲、ライトニングエッジを放つ。
「そんな射撃では当たらんよ」
嘲るような声と共に、機体を高速で旋回させながらグレネードを投げる。
「速いな」
シンは言いながら、頭部機銃でグレネードを叩き落すと距離を離した。
『いっそロンゴミアントを分離させて接近戦で仕留めるか?』
「そりゃ、ヤケクソの屑手だ……ブタもいいとこだぜ」
RBの提案に僅かに肩を竦めシンは答える。
『懐に飛び込まれたら一巻の終わりか』
「ああ、マシンガンで牽制しながら高速で接近して、
 サーベルが使えない程の距離からのビームホークで仕留める。
 シンプルな戦法だが、だからこそ崩しにくい。 だが、槍の状態ならリーチを活かして戦える」

 

「誘いには乗らんか。 ならば強引に行かせて貰う!」
「させるかよ!」
叫びと共に回避重視だった機動から一転、一直線にインパルスエクシードへと突撃する。
縦横無尽に宇宙を駆けながら、マシンガンを乱射。 
当てるつもりもない、シンが推測した通りの牽制射撃。
「弾切れか! ……なら!」
カートリッジが無くなり、弾切れとなったマシンガンを投げ捨て、ビームホークを引き抜く。
『来るぞ!』
「騒ぐな、分かってる!」
フェイントを交えつつ、一直線にインパルスを狙うザクスピードを迎え撃つ為、
ロンゴミアントを下段に構える。
「頂く!」
「何でも思い通り上手く行くと思うな!」
大きく振りかぶり、胴体を狙ったザクのビームホークの斬撃をロンゴミアントで弾き、
肩の銃口からスラッグ弾を放つ。
「小賢しい!」
ビームホークは牽制、叫びと共に爪先よりナイフが飛び出て、右足の蹴りが飛ぶ。
「人の事を言えるか!」
爪先に仕込まれたナイフを踵のライトニングエッジで切り落とし、シンはロンゴミアントを振り下ろす。
振り下ろされたロンゴミアントの横腹を左足で蹴り飛ばし、距離を取るザクスピード。

 

(流石にやる……ふむ、少々揺さぶってみるか)
体勢を整えながらファントムはバイザーで見えない表情に怖気のする笑みを浮かべる。
「流石だな、シン・アスカ。 ここまでの領域に達する為にどれほど殺してきた?」
「……っ!」
ファントムの言葉にシンの手が止まり、インパルスエクシードの動きが停滞する。
真空の宇宙に唾を飲み込む音が聞え、シンの瞳から再び光が消えかけ、
額に一筋の汗が流れ、心音が早くなる。
『シン、何をしている! むざむざ殺されるつもりか!』
コックピットの中にRBの叫びが響く。
「R、B……悪い。 分かってる。 あんたに言われないでも、分ってる!」
一瞬の忘我状態から復帰すると、シンは歯を食い縛る。 目に光が戻り、操縦桿を握りなおす。

 

「ああ、そうだ。 分かっているんだ。
 俺がどれだけ言い繕うと、俺は……人殺しの傭兵だ。
 俺の手は血で汚れている。 俺の体には死がこびり付いている。
 俺はどこまで行こうと殺人者に過ぎない。
 ……俺は全ての罪を背負う。 背負って、罵られようが恨まれ様が最後まで生き続けてやる!
 だから、こんな所で死ぬ訳にはいかないんだよ!」

 

シンはファントムの言葉を振り切るように言い放ち、ロンゴミアントを中段に構え、突撃する。
「いい覚悟だ。 戦士とはそうでなくてはいけない。 生き抜く覚悟も無い人間が戦える筈が無い。
 強い戦士は常に二通りだ。 何かを背負っているか、あるいは、何も失うものが無いか。 
 シン・アスカ、貴様はどちらか……見極めさせてもらおう」
ビームホークで突撃をいなし、ファントムは嬉しそうに微笑む。
「……これは如何だ?」
ファントムの声と共にザクスピードが宇宙の闇に溶け込んだ。
「消えた? 拙い、見失った……! RB索敵頼む!」
『光学迷彩とミラージュコロイドの併用か、厄介だな』
シンが周囲を見渡そうとした瞬間、首筋のぞわりとした寒気、額の痛みと共に、
脳裏に後方上方向から来るビームのイメージが浮かんだ。
『シン、後方から高エネルギー反応……まずい、避け切れん!』
RBの警告が聞える数瞬前に、シンの体は意思とは別にフットバーを蹴り飛ばし、
インパルスエクシードは回避運動に移っていた。
エクシードの右側面を大出力ビームが掠めていくように通り過ぎる。
瞬時に右腕が切り離され、スパークが発生し、切り離されたショルダーアーマーの弾薬に引火する。
『バランサー再調整…… 避けきれた?』
「なんだ、今のは? 敵の動きが見えた……?」
シンは上方を向きザクスピードの姿を視認する。
ザクスピードの胸部の装甲が展開し、カラミティのスキュラに良く似た砲。
おそらくストライクフリーダムのカリドゥス複相ビーム砲の後継だろうと推察できた。
カリドゥス2から発せられた熱とビームにより機体を覆っていたミラージュコロイドは剥がれ、
光学迷彩もその効果を失ったのかその姿を現しかけていた。
「今しかないな……倒すけどいいよな?」
『好きにしろ』
誰にでもなく問い掛けるシンに、RBの冷たい言葉は聞えない。
残った左手でロンゴミアントを構え、唯一つの目標に向け、インパルスエクシードを走らせた。

 

「今のを避けるだと!? 死角からの、完全に回避不能なタイミングでの攻撃だぞ……! 
 いくらユニットの操縦補佐があるとはいえ、ありえるのか!?」 
必殺の、絶対に避けられない筈の攻撃の回避に、ファントムは動揺を隠せなかった。
それは時間にして一秒にも満たない空白。
だが、その一瞬の隙に普段であれば見逃さないはずのシンの動きを見逃してしまった。

 

「……答えは、聞いてない!」
「何の答えだ!?」

 

鍛え上げれば、コロニーシャフトさえも両断するレアメタル製の刃が
ザクスピードのフレームごと右肩を切り落とす。
「ビームホークが! ちっ!」
お返し言わんばかりにカリドゥスを発射、残ったグレネードを全てばら撒く。
『一時引くぞ』
RBの言葉と共に、インパルスエクシードが後退、距離を取る。

 

その瞬間、アプリリウス方向より、赤、青、白の閃光弾が上がる。 
「後退の合図か……頃合だな。 今回はここまでとしよう」
「二度目はない、誰が逃が……」
反転するザクスピードを追撃しようとインパルスエクシードは何かにぶつかり出足を挫かれる。
「何だ……脚!? 非常識な!」
『お前も昔やったことだろう?』
蜥蜴の尻尾の如く下半身を切り捨て、インパルスにぶつけたザクスピードに憤りを隠せないシン。 
自分がやっても人にやられると腹が立つらしい。
ザクスピードの上半身は既に追い着けないほどの距離に離脱して行く。

 

「意趣返しはしたとは言え、このまま帰るのは癪だな。 
 ……シン・アスカ、一つ良い事を教えてやろう。
 貴様の機体に積んであるユニット。 その正体は・・・・だ」
下半身にも通信機を仕込んでいたらしく離脱したファントムの声がインパルスのコックピットに響く。

 

「なんだと! 口からでまかせを!」
「ならばその機体を与えた者に聞いて見るがいい……また会おう、シン・アスカ。 次こそ」
「くっ……黙れ!」
ロンゴミアントで下半身を叩き切り、一方的に会話を打ち切る。
「どういう事だ。 答えろRB!」
しかし、RBからの応答は無い。

 
 
 

「シン君! 無事か?」
「退いていったな……死んでねぇだろうな、シン」
「早々に戦線離脱するとは……情けない。 この借りは必ず返すぞインパルス!」
「あーあ、俺も借り一つだな」
「ありがとね、シン。 ちゃんと借りは返すわよ」
「……ええ、生きてます」
味方からの通信に、言葉少なく答えるシン。
その時、長距離通信を受信したアラームが鳴る。
「……アスカです。 何か?」
「おお、シン、無事か。 お疲れさん、損傷はあるか?」
イラツキを隠せないシンの耳に届いたのは、音声通信のみのインパルスエクシード開発者である局長の声。
「……右腕を持っていかれました。 それ以外は特に」
「腕一本で済んだなら上等だ。 積もる話もあるだろう、帰りはミネルバに乗せてもらって……」

 

「局長、聞きたい事があります。 ユニットRBってなんなんですか?」

 

局長の言葉を遮り、シンは声を上げる。
その顔に鬼気さえ浮かべながら局長へと詰め寄る。
「な、何を言ってるんだ。 分かっているだろう?
 教育型コンピューターを利用した新型戦闘補助システム……」
「嘘だ。……言わなければ分からない、とでも思ったんですか? 答えろッ!」
声の上擦る局長に、シンはアームレストを叩き、吼えるかのように叫ぶ。

 

「……どこで、知った? いや、いつ気付いた?」
「さっきの敵からです。 でも、最初からなんとなくは感じていた。
 あれはキャプテンGG、GGユニットと同じ物だ……!」
「ああ、その通りだ」
誤魔化す事を諦めたのか、悲痛とも言える声で局長は答える。
「なら! 中に納められているのは……」

 

「お前の聞いた通りだ。 GGユニットと同じく、unitRB、
 RBユニットにはメサイア戦役で戦死したお前の戦友、レイ・ザ・バレルの脳が納められている」

 

「何で! 何でなんですかっ! 局長! ……答えろっ! レイ!」
シンの慟哭がコックピットに響き、コンソールに拳を叩き込む。

 

答えを持っている筈のRB……レイ・ザ・バレルがその問いに答えることは無かった。