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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第23.5話

Last-modified: 2010-02-15 (月) 02:26:44

request23.5 『影の軍神の演説』

 
 

オーブ首都オロファス近辺 

 

オーブ民主解放同盟を名乗るクーデター軍に首都が制圧され数日経ったオーブ。
多数のMS、AFV、ヘリなどの戦闘兵器群が首都を包囲するように銃口と監視の目を向ける。
PMCアメノミハシラ社主、オーブ影の軍神 ロンド・ミナ・サハクが自社の戦力を中核として、
残存オーブ軍を纏め上げたオーブ解放軍、その先鋒だ。
その戦力の大半は前線から多少離れた場所に臨時の司令部と仮設の整備場を作り、
攻撃開始の機会を見定めている。

 

PMCアメノミハシラが長、ロンド・ミナ・サハクが仮設の通信テントに入り、
どれ程の時が過ぎただろうか。
落ち着かない様子でテント前をうろうろと彷徨う女性が一人。
黒いスーツに身を包み、軽くカールの掛かった茶色の髪、
手に持ったメモを落ち着かない様子で開き、また閉じる。
「ベルさーん こっちは準備できましたよー」
緊張感漂う戦場に似つかわしくない暢気な声がベルナデットの耳に届いた。
「何の騒ぎだ?」
通信テントの隣、情報収集班用のテントから箒にも似た髪の男が顔を出す。
その口元には一本の棒。 だが煙草や葉巻ではない。
「あ、ケナフさんお疲れ様です」
暢気な声の主、PMCミハシラ技術主任ユン・セファンがぺこりと頭を下げ。
クッキーにチョコレートを塗した菓子を咥えたまま、
PMCミハシラ情報責任者ケナフ・ルキニーニは挨拶代わりに片手を上げる。
「で、何の騒ぎだ? ん……撮影機器か?」
ユンが持つ何か、小型のビデオカメラに気付いたケナフは菓子を口から放すとベルへと問い掛けた。
「ええ、折角なので撮っておこうかと」
(元ジャーナリストの血騒いだか?)
ベルの言葉に興味深そうな顔をしてみせるケナフ。

 

一方、ミナの長かったプラントとの通信も終ろうとしていた。
『ミナさんも御武運を……』
大型モニターの向こうでシンがオーブ式の敬礼をする。
珍しく殊勝な態度だな。 そう思うがミナは口には出さずに心中へと仕舞う。
「言われるまでもないが礼は言っておこう。 死ぬなよ、シン。
 ……貴様には貸しが山ほどあるのだからな」
別れを惜しむ事無く此方から通信を断ち切った。
戦場では何があるか分からない。 
これが今生の別れと言うこともあるだろうか?
そう感じる自分に僅かな戸惑いを覚えながらミナは苦笑する。
乙女座の男は、センチメンタルなロマンティスト。とは誰かの戯言だったか。
「変わったものだな、私も……」
かつての自分、愚弟にして最愛の分身、ギナと共にいた頃からでは考えられ無い。
奴に影響を受けたか? だが、決して不愉快ではない。
ふん、と愉快そう鼻を鳴らしミナは立ち上がる。

 

「ミナ様、よろしいですか?」
タイミングを見図っていたのか、ベルがテント内に足を踏み入れた。
「ああ、構わん……なんだ? 撮影するのか?」
頷いたミナはベルの手元にある小型のビデオカメラを見ながら問い掛ける。
「はい。 使えるものは有効に使いませんと」
「……だそうだ」
ベルのすました態度にどうするんだ? と言わんばかりに肩を竦めるケナフ
「やれやれ困ったものだ。 まぁ良い。 ……行こうか」
二人のやり取りに微笑みを浮かべると外套を翻し、テントから出て行った。
黙認と受け取ったのか、ベルはユンから受け取った小型カメラを構え、ミナの後に続く。

 
 

仮設テントの前に立つのは鉄騎兵の群れとその足元に立つ屈強の兵士達。
左にはオーブ精鋭の空挺師団に陸軍首都防衛隊。
黄金色のアカツキを先頭に、M2アストレイに地上使用のムラマサ。
右にはPMCアメノミハシラ一騎当千の兵達。 
先頭に立つ三機はロンド・ミナ・サハクが近衛、フォー、シックス、サーティーンソキウスの
後期GAT改良型。
真紅のソードカラミティ、濃緑のレイダー、紺色のフォビドゥンにヤタガラスとイナバが続く。
満足そうにミナは周囲を見渡すと、仮設テントへと振り向く。
仮設テントの後ろに立つのはミナのもう一つの体とも言える愛機。 
黄金色のフレームに黒き鎧を纏った、王道を外れた者。
名をプロトアストレイ01。 
超最新強化型重武装新アストレイGF天M改CE77仕様ユン・セファンスペシャル”アマテラス” 
外見こそ以前の天とさほど変わらないが、ここ数年の間に幾度もの大規模改修を受け、
頭部と一部フレーム以外の全てが新造品へと置き換わっている。
「ミナ様、拡声器を……」
「いや、よい。 私の肉声で伝えたい」
ユンより手渡されたマイクを受け取る事を拒否すると、用意された台に乗ることも無く深呼吸をした。

 

「諸君! 我がアメノミハシラの精鋭達よ! 勇敢なるオーブの防人達よ!」

 

ミナの張り上げた声に空気が震え、兵達の顔が一層引き締められる。

 

「敬礼はいらぬ、そのままで良い。 楽にしてほしい」

 

場の雰囲気を一瞬で作り変え、思わず敬礼をしようとしたオーブ軍兵士──
──指揮官たるキサカも含め──を右手で制する。
楽にせよと言葉を受けても、全員が直立不動のままミナの発する言葉に耳を傾ける。
(これが……カリスマか)
キサカは内心その重圧にも似たものに惹かれ始めている自分に気付いた。
かつてオーブの獅子、ウズミの若い頃の雰囲気に似ている。
カガリとは年齢の差があるとは言え、良くも悪くもミナの方が勝っている。
“今の”カガリでは太刀打ちできない。
後数年、いやどれだけ年月が経とうとも今のままのカガリでは、
父の、アスハの妄執に捕らわれたままではミナと対等の位置に付くことさえ不可能だろう。

 

あるいは“この世界”では起きなかった、彼女を変える出来事があれば、
カガリはミナさえも越える事が出来たのかも知れない。

 

「我が精鋭たちよ。 アメノミハシラはPMCであり利益追求団体である。
 その活動を継続させる為には利潤を上げなければならない……だが!
 各国より依頼を受けた、プラントが首都、アプリリウス周辺宙域で行われる戦とは違い、
 このオーブで行われる戦に利益はでない。
 故に! これは私、ロンド・ミナ・サハクの私闘である!
 この中に居る者はオーブ出身の者だけではない。 
 だからこそ、この戦に不服のある者は立ち去って構わぬ。
 私はその事について責めようとは思わない」

 

ここで一旦言葉を区切り、ミナは周囲を見渡す。  
事前にプラントへと増援として送る兵を外したとは言え、
見事に組まれた隊列から抜け出そうとする者は一人もいない。

 

「…………立ち去る者のいない事に、先ずは感謝しよう。 ありがとう」

 

深々と下げたミナの頭に僅かなざわめきが走る。 
だが、それの小さな波紋もそれを打ち消すようなミナの声が聞えるまでだった。

 

「私は諸君らをミハシラへと招いた時の言葉を忘れていない。 私は諸君らの多くに、こう言った筈だ」

 

 『生の充足を感じられる場所を与えよう。  
  己の死様に満足出来る場所を与えよう』

 

「私は諸君らに先の約束を果たしたつもりではあるが、後の約束は未だ果たされていない。
 故に、どんな理由が有ろうともこの場所での死は許さない!
 繰り返し言おう! この戦に置いて一兵の死も許さぬ!
 まぁ、諸君らの中に戦友を差し置いて死という安息を得ようと思う愚か者はいまいが……
 念の為の一押しだ。
 ……ああ、もし私と契約した事を後悔している者がいるなら、
 死んだ後、冥府にいるであろう閻魔にでも泣きつけ。
 私はロゴスの銭ゲバ共と違いケチではない。
 約束を違えた馬鹿者にでも、慰労金替わりに三途の川の渡し賃を払ってやろう」

 

冗談めかしたミナの言い方に戦列から含み笑いが漏れる。 
咳払いをすると弛緩した空気が元に戻るのを確かめ、ミナは再び口を開く。

 

「しつこいだろうが、最後にもう一度言おう。
 PMCアメノミハシラの長としての業務命令だ。
 我が敵を討ち、生き残れ!」

 

一斉に最敬礼を取るミハシラ兵。
その光景を見て再びミナは満足そうな笑みを浮かべる。
ミナが全世界を駆け回りスカウトした一癖も二癖もある腕利き達。
彼らはサハク派でもオーブ人でもない。 生まれも育ちも境遇も全て違う
そんな彼らが自分に付いて来てくれる事がミナは純粋に嬉しかった。

 

「……さて、オーブの防人諸君待たせてしまったな。
 私は五大氏族の身でありながらオーブを捨てた身である。
 サハク家を慕い、信じた者達の中には私に失望した者もいるだろう。
 その事に関しては謝罪を述べよう。 すまなかった」

 

再びミナが頭を下げる。 今度は明らかに動揺が奔る。

 

「しかしながら、今は私の非力さを釈明する前にすべき事がある。
 今、オーブが侵されようとしている。
 ……しかも、それを行おうとしているのは私と同じ、諸君らと同じオーブ人だ。
 これを許してもいいのか?  否! それだけは断じて許してはならない。
 かつて英霊達が命を賭して守ったモノを蹂躙される事などあってはならない!
 私は、その為に戻ってきたのだ!
 だから、私に、このロンド・ミナ・サハクに諸君らの力を貸して欲しい。
 オーブという国を守る為に!
 オーブの防人諸君よ。 君達にも我が社の社員達と同じ事を言おう。
 諸君らは死んではならない!
 諸君らには戦後やらなければならない事がある。 それは国の復興だ。
 全てが終わった後、人の心も土地も国も何もかも荒れ果てるだろう。
 だが、どんな事があろうともオーブは滅びぬ。 
 何故なら、国とは土地ではなく、軍でも無く、議会でも、ましてや氏族などではありえない。
 人だからだ!
 人々の中にオーブを故郷とする心がある限り、オーブは滅びぬ、必ず復興する。
 その時こそ、諸君らの力が必要とされる時だ!
 故に死んではならぬ! 生きろ!
 どんな絶望的状況であろうとも諦めるな! オーブの敵を討ち、生き残れ!」

 

最前線に立つ屈強な兵士達も、それを裏から支える後方部隊からも声を発する事が出来ずに押し黙る。 
周囲には物音一つ無い。 ここでミナは言葉を区切り深い深呼吸をした。

 

「諸君! 我がアメノミハシラの精鋭達よ! 勇敢なるオーブの防人達よ! 今一度言おう!」

 

より一層大きく、良く通る熱気が多分に含まれた声でミナは言う。

 

「 我 ら が 敵 を 討 ち 生 き 残 れ ! ! 」

 

大きく頷くと外套を翻し、司令部へと戻り始める。

 

背中越しに兵士達の声が聞こえた。 
大気が振るえ、大地が揺れる。 
その場は熱狂の渦に飲み込まれていた。

 

(……凄い)
民間人ながら元統合開発局テストパイロットの経歴を買われMS隊の指揮を務めるリンナは
ミナの演説、それに惹かれた兵士達の熱狂に感嘆する。
カリスマ性ならば、かつて間近で見た若かりし頃のウズミやプラント前議長デュランダルにも
引けを取らないだろう。
「生き残れ、か……」
口中でミナの言葉を反芻するとは天を仰ぎ見る。
「私は生き残って見せるわ。 だから貴方も無事に帰ってきてよ、タキト」
今は遥か彼方にいる伴侶の無事の帰還を願いながら、
リンナは乗機である灰色に塗られたムラサメの元へと歩き出した。

 
 
 

「見事な演説で」
ミナが司令部のテントに足を踏み切れるとそこには忙しそうに動く司令部要員に混じり、
オーブ軍の軍服を着た癖のある金髪の男がいた。
「フラガ一佐か。フッ……道化と笑うか?」
その男、ムウ・ラ・フラガを視線に捕らえたミナは自嘲じみた笑みを浮かべ聞いた。
「いえ。 施政者ならば道化にならくてはいけない場面もあるでしょう。
 それに道化ということでは俺は人の事を言えませんよ。
 生きている事自体が喜劇みたいなモンですから」 
二、三度首を振ると、ムウは過去を悔いる罪人の様に呟く。

 

「……襲撃を受けたと聞いていたが、健啖そうで何よりだ」
無関心な表情を装うと、ムウの言葉をわざと聞き流すと、ミナは話題を変える。
「……すみません、アークエンジェルを奪われてしまいました。
 自分は掠り傷程度で済みましたが、マリュー、艦長や他のクルーは結構な怪我です」
「改装後の公試中に仕掛けられたのでは仕方ないだろう。 気にするな。
 第一、私に謝った所で何かが変わる訳でもあるまい」 
深々と頭を下げたムウを片手で制すると、ミナは言葉に若干の皮肉を込めた。
「上には部下や坊主……シン・アスカも居るのに心配そうではないですね」
何処か楽しげにも感じられるミナの態度に疑問を感じたのか、不思議そうな顔でムウは聞く。
「“不沈艦”アークエンジェルが敵。 フン、結構な事だ。
 その程度で怯むような部下を持った覚えはないし、奴ならば何とかして見せるだろう。
 要らぬ心配と言う物だ」
楽しくて堪らないのか上機嫌に鼻を鳴らし、ミナは答えた。
「そうですか」
ミナの言葉の裏に隠された部下とシンへの絶対の信頼を感じとったのか、静かにムウは頷く。

 

「ああ。 シンから伝える様に言われた事がある。

 

 俺はアンタを許せない。
 だから、生きて、生きて最後まで苦しみ続けろ。 楽に死ねるなんて思うな。
 俺は……人の死は、嫌と言うほど沢山見て来た。 この手で命を奪いもした。
 今から俺が言うのは綺麗事だ。 だから、あえて言う。 生きてくれ。

 

 ……だそうだ。 MS隊の指揮を取ると聞いたがアカツキで出るのか? 
 せめてM2に乗ったらどうだ?」
「アカツキなら敵に対する威嚇効果もありますし、味方の士気も上がります」
腹を括り、覚悟を決めた男は悲壮なる決意を顔に浮かべる。
「……贖罪のつもりなら止めておけ。 私もシンも寝覚めが悪くなるだけだ。
つまらない物を見た様に眉を顰め、顔を歪ませるとと吐き捨てるミナ。
「そう言うつもりじゃないんですがね。
 ……いや、心のどこかで死んで楽になろうとしてたかもしれません。
 俺にはそれ以外思いつかなかった」 
「貴官にも先程の兵達に言った事と同じ事を言おう。 死ぬな、生き残れ。
 贖罪ならば生き残って考えれば良いだろう」 
「ええ、生き残りますよ。 俺は不可能を可能にする男ですから」
自分自身の言葉に苦笑しながら敬礼をすると、ムウは司令部より立ち去る。

 

「かの大天使まで敵か……さて、どう動くかな?」
ムウが居なくなったのを確認すると新しい玩具を得た子供のように無邪気な笑みを浮かべ、
答えの出ない問いを今は見えない空へと投げかけた。