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SCA-Seed_MOR◆wN/D/TuNEY 氏_第27話

Last-modified: 2011-10-23 (日) 12:25:19
 

・何時書き始めたのか、一発で分かる前置き。
レイ「……」
ハイネ「……」
ステラ「♪(ワクワク」
『あいつはセツコさんの俺達の敵なのに……!』
ハイネ「これ、立ってるよな?」
レイ「ええ、フラグですね」
ステラ「……あれ? これ、ステラとレイとハイネ出ないの?」
スティング「ほぉーら、ステラ無条件生存で俺もマシな死に方ができるスパロボLだぞぉ!」
ステラ「やったぁー!」

 

シン「あの……」
ルナ「正座」
シン「あれは並行、多元世界の俺で、俺だけど俺じゃない……」
コニール「黙って」
シン(なに、この腐ったラブコメみたいな修羅場……)

 
 
 
 

シン・アスカの帰還より時は僅かに遡り、アーモリー1軍病院では
本来であれば出会う事さえ無かったであろう“兄弟”が対面していた。

 

「久しぶり。 いや、直接会うのは初めてだなキラ、キラ・ヤマト」
その男、カナードを見た瞬間、キラは一瞬鏡を見ているのかと錯覚した。
目の前にいたのは肩までかかる黒い髪と自身とは対照的に吊りあがった黒い瞳、
口元に不敵な笑みを浮かべた男。
「君は、一体……?」
男の態度と言葉、自身に良く似た声にキラは動揺を隠せない。
「俺の名前はカナード、カナード・パルス。 スーパーコーディネイターになりそこねた男」
「キラ・ヤマト……お前の、兄弟だよ」
「そんな、まさか!」
キラは自分と似た顔、同じ声で見下ろす男に困惑を隠せなかった。
今は亡き血の繋がった両親を除けば、ナチュラルとコーディネイターの違いはあれど
唯一の肉親は姉であり妹とも言えるカガリだけの筈だ。

 

「兄弟とは言っても、実際に遺伝子が同じかは知らないがな。
 育った腹、母体は一緒だ。 兄弟と言っても差し支えはないだろう?」
キラの驚いた顔に心底嬉しそうな意地の悪い笑みを浮かべるとカナードは口を開く。
「母体? まさか……メンデルの人工子宮!? じゃあ、君は……!」
カナードの言葉に、引っ掛かりを見出したキラは自身の知識から推論し、その答えを導き出した。
「くくっ、だから最初に言っただろう? スーパーコーディネイターに“なり損なった男”だと」
キラの答えに満足したのか、カナードはくぐもった笑い声を上げ、目を細めた。
「……っ!」
キラはカナードから発せられた殺気にも似た気配にベットから飛び降りると思わず身構える。
「そう身構えるな……別に、今すぐどうこうしようって訳じゃない。 少し話をしに来ただけだ」
先ほどとは真逆の平静とも言えるカナードのその態度はどこか恐ろしさすら感じさせた。
「僕に何の用です?」
警戒を緩めることなく、体に緊張感を張り詰めさせたままキラは
「事情は大凡アスカとジュールに聞いた。 だが、分からない事が1つだけある……
 何故、反撃しなかった?」
「えっ?」
カナードの言っている意図が掴めずキラは聞き返した。
「何故アンドリュー・バルドフェルドとロミナ・アルマフィに反撃しなかったと聞いている。
 斜め読みした資料ではクリティカルフリーダムは殆ど損傷していなかった。 何故だ?」
背にナイフを突き付けられたかのような冷たい感覚にキラは半歩退く。

 

「…………あの人達は、僕の罪の象徴だ。  
 僕はあの人達の大切なものを一方的に奪った。
 僕は殺されても仕方ないし、あの場で死んでも構わなかったんだ」
暫しの躊躇の後、キラは搾り出すように口を開き始めた。

 

「ふん、なるほどな。 ……今日は話だけで帰るつもりだったが、止めだ。
 貴様の甘ったれた性根を叩き直してやる」
カナードは突然キラの胸ぐらを掴むと、そのまま壁に叩きつけた。
「いきなり何するんです!」
抗議の声を上げたキラはカナードの腕を掴むが、鉄のようにビクともしない。
「殺されても仕方ないだと? それは侮辱だ、貴様が犠牲にした命への!
 罪だと? それならば貴様は生まる前からどれだけの罪を背負っている?
 今までに、生きる為、生き残るために……どれだけの人間を殺してきた!」
「君に、君に僕の何が分かるんだ!」
カナードの詰問にキラは、怒鳴り返すと、その腕を振り払う。
「ハッ、その通りだ。 他人の事など誰も理解出来ない!」
カナードはキラを見下すように睨みつける。
「違う! 人には言葉がある! 話せば分かり合える!」
首を振り、カナードの言葉を否定しキラが叫び返す。
「はっ! お前がそれを言うか! まぁ話合いでカタがつけばそれで良い。
 だが、それではどうにもならなければどうする?」
言葉を重ねるにつれカナードの語気が上がり白熱していく。
「最終的には力尽くで相手を黙らせるしかない!
 お前がラウ・ル・クルーゼとギルバート・デュランダルにしたようにな!」
感情が頂点に達したカナードは勢い余り拳を壁に叩きつけた。

 

「あれは……! いや、言い訳はしないよ。 全部僕がやったことだ、後悔はしていない。
 それでも力だけが僕の全てじゃない!」
「だが、その力はお前の一部だ。 お前は自分自身を否定して何を信じる? 
 ラクス・クラインか? アスラン・ザラか? カガリ・ユラ・アスハか?」
詰問するカナードにキラは押し黙る。
「お前が信じるものはなんだ!? 最後に信じられるものはなんだ?」
激情の熱が帯びていた言葉は、次第に諭すような落ち着いた口調に変わっていた。
「僕は、僕が信じるのは……」
「馬鹿野郎、もうわかっているんだろうが! 答えられないなら代わりにいってやる!
 自分自身だ。
 すべてを失って最後に残るのは、最後に信じられるのは、決断を下せるのは自分しかいない」
迷っているキラにカナードは真っ直ぐな言葉をぶつける。
「でも僕は、僕の力は!
 エルちゃんを、アイシャさんを、トールを、フレイを、ラクスを、みんなを!
 ……誰も、誰も救えなかった!  そんな僕自身をどうやって信じるって言うんだ!
 あの男が言ったように僕は!」
カナードの言葉と勢いに、キラは悟ったような態度の仮面、
その奥に仕舞い込んだその心の奥底をぶちまける。
「やっと本音を出しやがったか」
カナードは舌打ちしながら目を細めた。

 

「僕は誰も救えなかった。 その上、友達を、サイを、ミリィを、カズィを傷つけた……」
その場にへたり込むとキラは俯きながらボソボソと呟いた。
「誰かに悩みも相談できなかったのか」
「僕は、僕を周りを信じて……違う、僕は拒絶されるのが怖かったんだ。 だから何も言えなかった」
カナードの問いを聞いたキラは首を振ると大きく肩を落とした。
「ふん、誰にも頼らず、耳を塞ぎ、一人で突っ走って、結果がこれか。 無様だな」
座り込んだキラを見下ろしながら鼻を鳴らすと、カナードはわざとらしく肩をすくめる。
「あなたは……好きなように言って」
顔を上げたキラはカナードを苦々しげな顔で見上げた。
その目の奥にはかつての光が、僅かに力が戻って来ているように見えた。
「はっ、気に入らないか? 言っただろう。 黙らせたいなら、力尽くで来い!」
顔を上げたキラを見て不敵な笑みを浮かべてカナードは挑発する。
「なら、遠慮なく……八つ当たりさせてもらうよ!」
キラが深呼吸を一つすると、小指から一本ずつ指を握って拳を形作っていく。
最後に親指を握りこみ、拳を固めると、声にならない叫びと共にキラはカナードへと飛びかかった。
「いい動きだ」
それに反応してみせたキラの拳を紙一重で避けると、カナードは笑いながらキラの蹴りを入れた。
キラは瞬時後ろに飛び退き、蹴りの勢いを殺し、口元を歪め見たことの無いほど嬉しそうな表情を浮かべる。

次の瞬間、お互い仁王立ちで怯むことなく無言で応酬する拳と蹴り。
交わす言葉など必要なくなく、ただ室内には打撃音だけが響いていた。
どれほどの時間が立ったのか、いつの間にか両者は限界に近づいていた。
残った体力はお互い一発分、そこに全てを込める。

 

「カナァードォッ、パァァルスゥゥッ!」
「キィィィラッ、ヤァァマトォォォッ!」

 

互いの名を叫びながら、渾身の力を込めた拳を繰り出すし、それは交差しながら顔面に直撃。 
二人は無言で交差するように前のめりに倒れた。

 

「……まるでガキの喧嘩だ」
ゴロンと仰向けになったカナードが馬鹿馬鹿しいと一人呟く。
「こういうの、はじめてかもしれない」
起き上がる体力も残っていないのか、前のめりのままキラは笑う。
「殴り合いの喧嘩か?」
カナードは億劫そうにに上半身を起こすと、運良く手の届く範囲にあった水差しの水を口にする。
「それもそうだけど、兄弟喧嘩かな」
「……俺とお前の間に遺伝子上の繋がりがあるかは確かじゃない。 あくまで母体が同じなだけだ」
苦笑しながら言ったキラに言い返し、カナードは水差しを机に戻した。
「兄弟喧嘩じゃなくても、本音をぶつけ合ったのもはじめてかも。殴り合いなんてしなかったし」
ゆっくりと体を起こすキラ。
「俺は二度目だがな」
少しだけ不愉快そうに顔を歪めるとカナードは立ち上がった。
「少しは気が晴れたか? 迷いが消えたならもっと良いが」
先程まで殴り合いをしていたのが嘘のようにキラを気遣うカナードは問い掛ける。
「何て言えば良いかな。 まだ迷ってると思う……だけど、するべき事は見えた気がする」
「そうか……さて、用は済んだから俺は帰る」
言葉を選びながらもしっかりと答えるキラにカナードは満足そうに頷き、
立ち上がると服に付いた埃を払いのけた。
「もう行くの? 少し休んでいけば良いのに」
「俺も忙しいんでな」
立ち上がろうとするキラを手で制すると、肩を竦めて見せる。
「そうだな、機会があればまた……」
「カナード、僕も戦うよ」
カナードの言葉を遮り、キラは立ち上がる。

 

「僕はもう逃げない。 自分がやったことから目を逸らさない。
 僕が犠牲にした命を背負って他の命と自分自身の為に戦うよ。
 許して貰えないかもしれない。 無理かもしれないけど、やってみる。
 そして生き残って、僕が傷つけてしまった人達に謝る。 それが今の僕に出来ることだと思うから」
「好きにしろ……ただ、手がいるなら貸してやる。きっとアスカもそう言うだろう」
キラの言葉に振り向く事なくカナードは告げる。 その背中はどこか嬉しそうに見えた。
「ありがとう」
キラは深々と頭を下げる。

 

「先生、こっちです! 患者さんと不審者が殴り合ってます」
「何だと! 私の患者に手を出すとはいい度胸だ!」
階下から聞こえる看護師と医師ミハエル・コーストの声にキラとカナードは顔を見合わせる。
「厄介事になる前に逃げるか 」
「……僕も付き合うよ」
迫り来る危機に、顔を引き攣らせた二人は迷わず窓から飛び降りた。
「何処に行った患者ー!? 不審者ー!!」

 
 
 

アーモリー1港湾部軍関係者用食堂

 

「やれやれ、やっと飯にありつけるよ」
食堂入り口までたどり着いたシンは大きく溜め息を付いた。
『半分はお前の所為だがな』
「細けぇ事は良いんだよ!」
携帯情報端末から聞こえるRBの皮肉にシンは大袈裟なリアクションで返した。
『しかしあの男、シンが何故煙草吸いだと分かったのか不思議だな』
内心呆れつつもRBはふと湧いた疑問を口にする。
「多分、におい……だな」
一瞬考えるとシンは声を低くし呟いた。
『まったくギル、デュランダル議長みたいな事を言うな……ん?』
シンの悪ふざけに苦言を呈したRBは自らの言葉を訝しんだ。
「ん、どうした?」
シンは急に黙り込んだRBに首を傾げる。
『……いや、何でもない。 ただの通信エラーだ。
 (ギル……今のはレイ・ザ・バレルの記憶か?)』
RBは無愛想な一言を告げた後、突如押し黙った。
「エラーって昔の携帯電話かよ……」
まぁいいかと首を振るとシンは食堂に足を踏み入れる。

 

ザフトの食堂、少なくともアーモリー1の軍関係者向け食堂はビッフェ形式になっている。
常に食糧難に悩まされているプラントにしては一見豪華に見えるが、
これには大きく分けて2つの事情がある。
一つは少人数化の為、もう一つは嗜好によるものだ。
コーディネーターと一括りにされているが、そこにいる人間の出身人種は様々である。
プラント生まれの第二世代、第三世代は兎も角、
地上生まれの第一世代は人種の坩堝とも言える状態だった。
食事は日常の基礎、ただでさえストレスのかかる低重力下のプラントでは
食生活の変化は多大なストレスとなり得る。
そこでプラントの食べ物は海鮮ジョンゴル鍋に代表される無国籍料理又は
バリエーション豊かな多国籍料理種類が多かった 。
また、この形式は戦災を逃れて来た移民や難民にも非常に好評でシンもその恩恵を受けた一人だった。

シンがふと、私物の時計を見るとプラント標準時で午後二時を過ぎたところだった。
周囲を見渡すと、流石に人は疎らで赤緑黒服それに連合の軍服を着た人間が何人かいる程度。
普通軍の食事は兵員用と士官用将校用に別れているものだが、
狭いプラントでは小型艦船と同じく特に食事の場所に区別はなかった。

 

「さて、何を食おうかな」
とは言う物の元々シンは味には期待していない。
屑肉を固めたステーキのような何かや動物性タンパク質の魚モドキは栄養こそ豊富だが、
味は地上の天然物や養殖物と比べて遥かに劣る。
シンに好き嫌いは無いし、傭兵となってからは現地調達も多々あった為、
食い物に関してはそれほどこだわりは無かった。
だが、最近舌が肥えて来たのか妙に食い物に五月蠅くなった傾向があった。
「コニールの料理美味いし……ルナのも悪くなかったなぁ」
思い起こせばルナマリアも決して下手ではなく寧ろ上手かった。
「よくよく考え無くても恵まれてるな、俺」
入り口につっ立ったままシンは苦笑する。
『なんだノロケか?』
「そんなんじゃない、まぁ感謝はしてるけどさ」
ボケッとしているシンにRBが突っ込むと、シンは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。

 

「いやー、危なかったね。 まさかコースト先生が走って追いかけてくるとは思わなかったよ」
「俺としたことがあやうく捕まりかけるとはな」
どこかで聞き覚えのある2人の良く似た声にシンは思わず振り向く。
「あ」
「お」
「まだいたのか、ロンゲ」
「黙れ、ウサギ野郎……生きて帰ってきたようだな」
目があったシンとカナードは挨拶がわりに罵り合う。
「まぁ、な。 何時も通りさ」
カナードのどこか安心したような声にシンは頷くと肩を竦めてみせた。
「そうか、いつも通りか」
シンの態度にカナードは鼻を鳴らした。
「カナード、何食べる? あ、シンだ」
カナードの後ろから歩いて来たキラは気の抜けた声でシンを指さした。
「キラさん。 あんた、なにやってるんです?」
キラとカナード、違和感のある組み合わせとキラの妙に毒気の抜けた態度にシンは眉を顰める。
(しかも二人とも顔腫れてるし、何かあったんだろうか)
「ご飯食べようと思って」
「そうですか」
不思議そうに首を傾げるキラに釈然としない顔を見せるシン。
「シンもご飯?」
「ええ、そんなとこです」
キラの問いにシンが答える。
「じゃあ、ここは僕が奢るよ」
「……では、遠慮なくご馳走になります」
キラの好意を無下にするのも悪いと思い、シンは素直に頷いた。

 

「おい、あれ、シン・アスカじゃないか?」
「本当だ……なんでキラ・ヤマトと飯食ってるんだ? 仲悪いって聞いたぞ」
「イケメン三人が仲良くご飯食べてるなんてハァハァ、もう……!」
(なんか、凄い注目されてる気がする……)
天ぷら蕎麦を啜りながら、シンは周囲の声と視線を気にしながら目だけを動かした。
気にしないようにしても、傭兵として染み付いた習慣、
つい周りの声に聞き耳を立ててしまう癖からどうしても気になる。

 

「……シン」
一頻り笑い終えたキラはシンの顔を真正面から見ると驚くほど真面目な表情で言った。
「な、何ですか?」
急なキラの変化に戸惑い、シンのの声が僅かに上擦る。
「君は、人はそれぞれの場所ですべき事があるって言ったよね。
 君に言われて、僕は考えたんだ。
 今の僕に、これからの僕に何が出来るのかって。
 カナードと会って……まぁ色々合って、ようやく答えが出た。
 僕はもう逃げない。 自分がやったことから目を逸らさない。 
 僕が犠牲にしてしまった命と傷付けてしまった人の想いも、悲しみも、憎しみも、怒りも
 全部受け入れて背負ってみせる。
 背負って僕も戦う、戦い抜くよ。
 傷付けてしまった人たちへの贖罪の為に、生き残って謝るため、何より自分自身のために」
はっきりとした力強い口調でキラは言い切った。
シンはキラの目をまじまじと見る。
質の良いアメジストのように驚くほど澄んだ瞳の奥には確かな覚悟と決意の色が見えた。
数時間、数日前。 そして記憶の中にある数年前の姿とは別人かと見違えるようなキラの顔に、
この僅かの間に何があったのかと目だけを動かし、カナードに訴える。
シンの視線に気づいたカナードだが、返答は口元に笑みを浮かべるだけだった。

 

「シン?」
傍目にはボケッとしているように見えるシンを不審に思ったのか、キラが声をかける。
「(まるで憑き物でも落ちたみたいじゃないか)……期待、させてもらいます」
喉まで出かかった内心を飲み込み、シンは言葉を選びながら口を開いた。
「うん、任せてよ」
キラは力強く頷いた。
「そういえば、キラさん乗る機体あるんですか?」
キラに気圧されている雰囲気を変えるために、シンはふと湧いた疑問を口にした。
「一応、ダコスタさんには頼んで置いたけど、無ければジンだろうとゲイツでも構わないよ」
「いや、ゲイツやジンは拙いでしょ」
「お前は何を言ってるんだ。 せっかく拾った命を無駄にする気か」
さすがのカナードも慌ててキラに言った。
「フリーダム系列はなくても、ガルバルディの予備機位はどこかにありますよ」
「なければうちのヘリオスを貸してやるから早まるな」
必死な二人だが、今のキラには実行しかねない妙な説得力と勢いがあった。

 

「話は聞かせてもらいました!(バンッ!
「ひっ!」

 

真後ろからのバンッ!という机を叩く音にシン達は一斉に振り向く。
運悪く近くにいたどこぞの国の官僚らしき女性が悲鳴にも似た驚きの声を上げていたのに
ご愁傷と思いつつ、シンは声の主の顔を見る。
その男はこの場には場違いにも見える小奇麗なスーツに身を包み、
黒髪に眼鏡を掛けた何処にでも居るような東洋人だった。
ただし、作り笑いを張り付けたような顔と胡散臭さが服を着て歩いているような雰囲気を除けば、だが。

 

「乗る機体がないのなら、是非我が社、我が企画6課設計のヘリオスmkIIにご試乗ください」
「出たな、インチキセールスマン」
男の顔を確認した瞬間、カナードは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「あ、どうもお久し振りです。 先日の暗幕の件ではありがとうございました」
一方シンはペコリと頭を下げ、仕事モードの口調になる。
「いえいえ、此方こそ丁寧なレポートをありがとうございます。
 流石インパルスのテストパイロット、とても参考になりました。
 いずれ試供品をガルナハンの方に送らせてもらいます」
「いつもすみません。 ……ところで、個人的な相談なんですが。
 あの暗幕、素材と色変えて夜間用とか砂漠用、密林用にできませんかね? 個人的に購入したいんですが」
「……なるほど、それは思い付きませんでした。
 後で社の方に連絡を入れて検討してみます。 見積もりはいつも通り……」
シンと男は一通りの形式的な会話を終えると、声を潜めコソコソと悪巧みを始める。
「ええい! 普通に話し込むな! なぜ貴様がここに居る!?」
周囲の目も気にせず怪し気な話をし始める二人にカナードが声を荒げた。
「チッ、ウッセーナ…ビジネスですよ、ビジネス。
 それに各国の最新鋭機の実戦をこの目で確かめるチャンスですからねぇ」
カナードの嫌味に一瞬、嫌な顔を見せた男は渋々といった様子で言った。
「さっきヘリオスmkIIに試乗とか言っていたが、なんのかんの理由をつけて
 うちにも回さないのにそんなにすぐ用意できるのか!」
「貴方の所にはこっそり試作品回してるから良いじゃないですか……。
 それにあのキラ・ヤマトが乗るなら今直ぐにでも用意させますよ。
 戦闘データだけでどれだけの価値がつくことか。
 乗る機体がないならスーパーストライク、フル装備ストライクの
 アッパーバージョンを用意させたのですが……惜しいことをしました」

 

「ねぇ、シン。 あの人誰なの?」
口論を始めた二人にキラは声をひそめ、こっそりとシンの肩を叩いた。
「ああ、あの人はアクタイオンの……」
「これは申し遅れました。
 私、アクタイオンアジア極東支社で企画六課課長をやっている者です。
 機会があればぜひご贔屓に」
振り向いたシンの言葉を遮り、恭しくキラに名刺を差し出す課長。
「はぁ、わざわざご丁寧にどうも」
キラは名刺を受け取ると頭を下げる。
「それで如何ですか? そちらが良ければすぐにでも」
「一寸待った! うちもレイダーなら余ってるぞ!」
課長の言葉を遮り、ドヤ顔で颯爽と現れたのはエドだった。
「ヤタガラスでも良ければ予備機はいくらかあるね」
その後ろから普通に歩いて来たジャンが付け加える。
「また誰か現れた!……ってまさか、ジャン・キャリーさん!?」
次々現れる見知らぬ人達に困惑していたキラは数年ぶりにあった顔見知りに驚きの声を上げた。
「ん……君は。 久しいね、キラ・ヤマト君。 一先ず健啖でそうで何よりだ」
キラに気付いたジャンは爽やかな笑みを見せた。
「あんたら、どこから現れたんですか」
驚きの表情を浮かべるキラに対し相次ぐ顔見知りの来訪にうんざりとした顔をした。
「補給補充の受け取りに手間取ってたらこんな時間になってな。
 昼飯にしようとしたら見知った顔がいたんで声を掛けたって訳だ」
「シンに丁度用があったからね」
エドの説明に片手に紙袋をぶら下げたジェーンが一言加える。
「ほぅ、それで営業妨害ですか」
貼り付けたような笑みを絶やすこと無く課長はいった。
「仕方ないだろう! キラ・ヤマトのデータにボーナス出るんだから!」
「うちだって金一封でるんですよ! 邪魔はさせません!」

 

「それで、用ってなんですか?」
課長とエドのやり取りを溜息をつき大きく首を振り無視を決め込むと、ジェーンに問い掛けた。
「必要だろうと思って、折角着替え持ってきたのにその言い方?」
投げやりなシンの態度にジェーンは不愉快そうな顔で紙袋をシンに押し付ける。
「あ、本当ですか。 お気遣い有難うございます」
中身を確認したシンは態度を一変させると、深々と頭を下げた。
「最初から素直になりなさい。 それとシン、偶にはスーツをクリーニングに出しなさい。
 自分でやるのが面倒ならコニールにやってもらうとか、誰かに頼むとか、色々あるでしょう。
 あんたももう21でしょ? ナチュラルでも成人なんだから。
 普段の着るものくらい自分でしっかりしなさい。
 後、Yシャツは皺になってたからアイロンかけておいたからね。
 これからはちゃんと着るのよ。 分かった?」
「はいはい、分かってますよ」

 

(オカンか)(母さん思い出すなぁ)(母親みたいだな)(メリオルより口煩いな)

 

ジェーンのお小言に辟易しながらシンは頷く。
「返事のはいは一回! 第一あんた言わないと分からないでしょう? 言ってもやらないんだから……」
「お説教中すみませんが、私はこれで失礼しますね」
今日は長くなりそうだな。とシンが説教から抜け出す算段をつけ始めた時、
絶妙のタイミングで課長が口を挟む。
「ああ、どうも。 暗幕の件はでき次第ガルナハンの方に詳細と見積り送ってください」
シンは内心で手を叩いて喝采したいほどだったが、あくまで押し隠し事務的に事を進める。
「分かりました。 ヤマトさんも何か有りましたら気軽に連絡をください。
 私で良ければ、力になれるなら微力ですが喜んで協力させてもらいますので」
シンの言葉に頷いた課長はキラに向き直り一礼する。
「はい。 有難うございます」
「あやしいなぁ」
「ふん、何を企んでいるのやら」
素直に頭を下げたキラに対して、エドとカナードは課長に疑いの目を向ける。
「ああ、カナードさん今思い出しましたがメリオル女史が貴方を探していましたよ。
 かなり怒っていらっしゃるようでしたから早めに連絡したほうがよろしいのでは?」
課長は口元にいつもの貼り付けたようなものとは違う、隠し切れない愉快そうな笑みを浮かべた。
「あ……助言感謝する」
課長の言葉を聞いた瞬間、カナードの顔が引きつり、冷や汗が吹き出る。
「いえいえ、では私はこれで失礼します」
「何だよ、あ……って」
最後まで楽しそうな笑みを浮かべていた課長の後ろ姿を見ながらシンはカナードに聞いた。
「こっちのことだ。 気にするな……ああ、そうだ! おれはようをおもいだしたからかえる!」
「必死だな」
「確実に何でもなくはないな」
「素直にメリオルさんに謝りなさい」
冷や汗だらだらかいているカナードに追い打ちをかけるミハシラ三人組。
「ええい! うるさい、放っとけ!」
「カナード! 行く前に教えてよ!」
必死にその場を後にしようとするカナードにキラが声を掛けた。
「っ何だ!?」
キラの真剣な表情にカナードは思わず立ち止まる。
「メリオル女史って誰さ! シンもコニールって誰!?」
「貴様ァ……っ!」
キラの思いもしない言葉にカナードは奥歯をギリギリと鳴らす。

 

「嫁だ」
「嫁?」
エドはニヤつきながらキラの言葉に答える。
「見つけた! カナード、貴方は一体何を! なんで道草食ってるんですか!」
肩を震わせながら現れたのはショートカットの髪の眼鏡を掛け白い軍服を着た女性、
傭兵部隊X副官メリオルだった。
「あの人ですよ」
キラを見ながらメリオルを指さすシン。
「違う、道草など食っていない。 食べているのはヌードルだ」
「カナード、貴方と言う人は……」
カナードの子供以下の言い訳に思わずメリオルは溜息を付く。
「はは、カナードにしちゃ面白い冗談だな」
「赤鬼、なにが面白いんですか!」
他人事だとケタケタと笑ってシンに怒りの矛先が向いた。
「そういえば、メリオルさんなんでここが分かったんですか?」
シンはすかさず話を変えメリオルの気を逸らす。
「アクタイオンアジア、企画6課課長からメールが入りまして……。
 初見の方も居るようですね。 お見苦しいとこを見せて失礼しました。
 私、傭兵部隊Xで副官兼任の統括責任者をしていますメリオル・ピスティスと申します。
 以後お見知りおきを」
怒りが冷め、我に帰ったメリオルは周囲を見渡したメリオルは深々と頭を下げた。
「あの野郎、チクリ入れてやがったか……!」
一方、カナードは課長への恨み言をぶつぶつと呟く。
「なにブツブツ言ってるんですか、帰りますよ。
 挨拶もそこそこですが、彼のせいで多忙なもので失礼します」
「痛、痛、分かった。 行くから引っ張るな。 キラ、アスカ、また会おう」
耳を引っ張られながらカナードは退散していく。
「……行っちゃった」
「忙しない男だな」
呆気に取られ立ち尽くすキラの隣にいつの間にか食事をトレーに乗せていたジャンがいた。

 

「所でシン、コニールってだ…「あんた、結構しつこいな! ……住処世話になってる奴ですよ。
 小煩い小娘です」
コニールとの関係を詮索するキラに思わずシンは声を荒げる。
「随分な言い方じゃないか? 健気で面倒見の良さそうな娘に見えたが?」
「本当に可愛くていい子なのにひどい事言うわね」
「未成年誑し込んで、しまいにゃ手を出してその言い方か」
「誑し込んでも手を出してもいませんよ! ジェーンさんもエドさんも余計なこと言わないでください!」
面白がってシンをからかう三人にシンは思わず声を上げる。
「う、羨ましい……! 自分を慕ってくれる未成年の子と同棲とか、
 クールビューティな副官のメガネっ娘とかsneg! ずるいや!」
「それ何てエロゲ? って何言ってんだ、あんた。 第一、プラント評議会議長が恋人じゃないのか?」
突如変貌し始めたキラに冷淡な視線とツッコミを入れるシン。
「君に僕の気持ちが分かるかぁ!」
「良いから落ちつけ。 割とマジで。 あぁ、この人面倒くさいよ! 殴りてぇ」
周囲の視線も気にも止めず狂気の叫びを続けるキラにシンは思わず殴りかかりそうになった。
「シン、気持ちはわかるがお前も落ち着け」
エドはシンの肩を掴み殴りかからんとしようとするのを静止する。

 

「僕は、僕は……ゴメン少し錯乱した、僕疲れてるみたいだ」
「錯乱するのはアスランだけで十分なんで落ち着いてください。
 俺も人の事言えませんけど、キラさんそんな人だったんですね」
ようやく落ち着いたのか、肩で息をするキラに水の入ったコップを渡すとシンは唖然とした表情で言った。
シンにとってキラはもっと超然とした悟ったような雰囲気のある落ち着いた人という印象が強かった。
「私の知るキラくんは妙に悟った所もあるが、歳相応の気の良い青年だよ、君と同じね」
タイミングを見計らったジャンがその場をまとめる。
「はぁ……なんだか疲れてきた。 時間も近いんでシャワー行って、会議に行ってきます」
「おう、行って来い」
「またすぐに会うと思うけど、またね」
大きな溜息を付き、立ち去るシンにエドとキラは他人事のような笑顔で手を振っていた。

 
 
 

アーモリー1ザフト総司令部正面玄関前

 

Yシャツに袖を通し上下に黒いスーツを身に纏い、
サングラスをかけ全身を黒く染め上げたシンはその場で待っていた。
「まだなのか?」
『コートニーは迎えを寄越すと言っていたが、来ないな』
僅かな苛立ちを感じさせるシンの独り言にRBは相槌を打つ。
「向こうから時間指定してこれか。 っ!」
シンは無意識にスーツの内ポケットに仕舞っていた煙草に手を伸ばしたが、
すぐさま吸えない事に気付いたが構わず一本取り出し咥えた。
『そういらつくな、せっかちな男だな』
「別に苛付いてはないさ」
呆れたようなRBにシンは言い返す。
『そうか? まぁ、お前が言うならそういう事なのだろうな』
「そうだよ、それよりも随分黙りだったじゃないか」
意外そうな声を上げたRBに先ほどの事を思い出したシンは忘れかけていた文句を言った。
『私にもそういう時がある。
 ……それに“あの男に似た私の声”でキラ・ヤマトを無駄に刺激する事も無いだろう?』
「へぇ、案外色々考えているんだな」
理路整然としたどこか陰を帯びたRBの言葉にシンは感心したように唸る。
『論理だった考慮の結果、そういう結論に至っただけだ』
フフンと自慢気に鼻を鳴らすRB。
「そういえば、迎えが来るって誰が来るんだろうな」
RBを軽く無視するとふと思った疑問を口にする。
『まぁ、多分ルナマリア辺りだろうな』
「ん? 理由は?」
迷い無く言い放ったRBにシンは首を傾げる。
『簡単だ。 アーサー艦長は会議に出るし、アビーはその付き添い。 
 ヴィーノは裏方だから除いて、暇そう……残っている士官クラスはルナマリアしかいない」
「なるほどね」
そんな事も分からないのかと言いたげなRBにシンは頷くと、
一人暇そうなルナマリアの姿を思い浮かべ思わず口元が緩む。
『ふっ、嬉しそうだな』
シンの表情を見てからかうRB。
「止めろよ、一応俺とアイツは……」

 

「話の途中ですが、ルナマリアじゃなくてすみませんね」

 

眉をひそめたシンの言葉は女性の声に遮られる。
「……聞いてたのか。 君が来たんだな、アビー」
声の方へと振り向き、書類ケースを左手に抱えたアビーの姿を確認したシンの声は不躾だが、
顔はむしろ穏やかだ。
口ではそう言いながらも、シンは目の前の彼女の事が嫌いではなかった。
ルナマリアやメイリンのようなアカデミーからの知り合いではないからこそ、
シンを客観視し、率直な意見を述べることが出来る。
シンに対しても遠慮なしに物怖じせず文句をつけることができる数少ないできる存在だった。
メサイア戦役中では増長しがちだったシンの静止役であり、年齢も上であることからの
姉が弟を諌めるような物言いは、どこか師匠の一人で自称姉代わりだったリーカを思い出させ、
アビーの提言はシンも珍しく反発すること無く素直に受け入れていた。

 

「ええ、それよりもルナマリアのことを過小評価しすぎですよ」
頷くとアビーは若干不機嫌そうにずいっと一歩詰め寄ると右手の人差指をシンに突き付ける。
「ん、そりゃ腕は認めるけどさ。 内勤はその……わかるだろ?」
アビーの勢いに押され、口元の煙草を胸ポケットに仕舞うとシンはフォローを入れながらも、
最後に言葉を濁す。
「……それでも、昔よりはいいですよ」
ルナマリアの内勤が言葉を濁すほどなのは事実なのか、アビーは突きつけた指を戻すと腕を組む。
『その様子だと、相変わらず内勤は論外なのか』
どこか感慨深くRBは呟く。
「だろうな」 
「……はぁ」
シンは小馬鹿にしたように軽くため息をつくが、
当事者であるアビーにとっては笑い事ではないのだろう言葉もでない。
「それよりも公の場でサングラス位外したらどうですか?」
「これ付けてないと目立つんだよな……」
アビーの指摘に渋々シンはサングラスを胸ポケットへとしまった。
シンの赤い目は一目でコーディネイターと見抜かれ、なによりシン・アスカの特徴と言える物だったので、
普段はサングラスやヘルメットで隠していた。
「付けていない方が格好良いですよ?」
不満気なシンの顔を下から上目遣いで覗き込みながらアビーは褒める。
「あんまり煽だてると本気にするぞ?」
思わぬアビーの行動に、シンは目を細め右手でアビーの軍帽を抑えると上からその顔を覗き込む。
「いいですけど。 私、結構面倒臭い女ですよ?」
軍帽に掛かったシンの手を払い除けると、アビーはシンの顎を抑えながらぞっとするような笑みを浮かべた。
「勿論、冗談だよ」
背筋に冷たいものが走るのを感じたシンは自分の顎に触れている
アビーの氷細工のような細い指をそっと下げさせる。
『怖い女性だな』
「全くだ」
RBの感想に心の底から頷くシン。
どうも自分は自分をよく知る年上の女性に頭が上がらない運命にあるらしいと心の底から噛み締める。
「では行きましょうか、ミネルバを長く留守にできませんし」
今度は穏やかな微笑を浮かべるとアビーは総司令部入口の方へ足を進める。
「あれ、留守番だったのか?」
「忘れ物をするようなルナマリアには『まだ』留守は任せられませんよ」
シンの問いかけに答え、アビーは大きく肩を竦めた。

 
 

「お疲れ様です」 
「どうも」
総司令部入り口で立哨に立つザフト兵に許可証を見せながら敬礼し、
中に入るアビーに続きシンも建物の中に入る。
「ふぅ……」
建屋の中に入ると適温に調整された空調が心地良く、シンは襟元に手を伸ばした。
「連合が担当の区域がありますから、気を抜かないように」
シンが入り口を通った事で安心し、Yシャツのボタンを外そうとした事をアビーが咎める。
「了解」
襟から手を外し、ふと先に目をこらすと、白い連合の軍服を着た立哨に立つ兵士の姿が見えた。
おそらくは隊長或いはリーダー格と思われる色黒なスキンヘッドの中年男性、
言い方は悪いがどことなく軽薄そうな若い金髪の青年。
それに黒いロングヘアーとどこか憂いを帯びた表情が印象的な若い女性の三人だ。
女性に何故か既視感を感じるシンは無意識の内にじっと視線を送っていた。
「どうしたんですか? 変な顔して、何か有りましたか?」
「いや、別に何でもない」
シンの様子に気付いたアビーは首を傾げるが、シンは気のせいと思うことにして、言葉を濁した。
「あ……」
シンの視線と先程のやりとりで気付いたのか、女性がシンとアビーに敬礼し、
一瞬遅れシン達も返礼を返した。
「お疲れ様です。 ミネルバ隊アビー・ウインザーです。 シン・アスカを連れてきました」
アビーはスキンヘッドの隊長に会釈をし書類を渡すと、後ろに立つシンを指し示す。
「……確かに、状況は伺っています。 お手数ですがボディチェックと銃をお預かりします」
書類の内容の確認をした隊長は、すっとアビーとシンの顔を見ると二人の部下が傍に立つ机の方へと促す。
「あー、銃ですか。 ちょっと待って下さいね……えっと……」
隊長の言葉にシンは内ポケットや袖口、靴の裏あらゆる所から銃やナイフを取り出し机の上に置いていく。
「どんだけ持ってるんですか」
一足早くボディチェックを終えたアビーは次々出てくる武器に呆れ気味にシンを見る。
「仕方ないだろ。 こっちはこの武器に色々掛かってるんだから……あ、これで最後です」
アビーに顔を向けながら、ジャラジャラと武器を並べると最後に胸ポケットに入ったライターを机に置いた。

 

「た、確かにお預かりします……これは、飴?」
シンの武器の量に唖然としながらケースへと仕舞おうとした女性士官は
零れ落ちた何かを手に取ると小首を傾げた。
「あ、飴ですね。 良かったらどうぞ。 人工甘味料無しの貴重品ですよ」
両手を上げ金髪の男性兵士にボディチェックされながらシンは微笑んだ。
「はぁ、有難うございます」
困惑しながら軽く頭を下げる女性士官。
「相変わらず甘党ですね……あ」
シンの飴を見て突如アビーの表情が曇る。
どうやら思い出さなくても良い事を思い出してしまったらしい。
「はい、チェック完了です。 中へどうぞ」
「まったく余計な手間を掛けて。 ほら、急ぎますよ」
「ちょっ、引っ張るな! ちゃんと行くから待ってくれ」
チェックが終わり、不機嫌そうにシンの袖を引っ張り先へと促すアビーに
シンは抗議の声を上げながら引張られて行った。
「……甘くておいしい」
一方、シンから貰った飴を口に入れた女性士官は幸せそうな顔を見せていた。

 
 

「アビー、子供じゃないんだからそう引っ張らないでくれ」
「子供じゃない割には飴なんて持ってるんですね。 ああ、そういうやり方で粉かけているわけですか?」
シンに言われ手を離したアビーは若干の侮蔑を含んだ視線をシンに向ける。
「なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「……別に不機嫌ではありません」
シンの問いに顔を背けるアビー。
まさか貴方が紅茶に砂糖三杯も入れたからでしょうが!と怒るわけに行かず言葉に詰まる。
(俺が何をしたって言うんだ……)
『何故あんな目で見られるか分からないなら、自分の胸に聞いてみるんだな』
RBの言葉にシンが憮然とした表情のまま暫くアビーの後を付いて行くと、
廊下で話し込んでいる一団に出くわした。

 

「やはり……」
「しかしそうなると……」
「あ、イザークさん」
見覚えのあるおかっぱ頭を目にしたシンは声を上げた。
「あ、シン。 帰ってきたんだ」
シンの声に真っ先に気付いたルナマリアは軽くシンに手を振る。
「シンだと? おお、良く帰って来たな」
ルナマリアの声でシンに気付いたイザークは早足で駆け寄って来た。
「ええ、なんとか帰って来れました。 それより、報告遅れてすみません」
「気にするな、ディアッカから連絡は受けていた」
頭を下げるシンにイザークは頭を上げるように促すと肩を叩く。
「あれ、そういや艦長とシホさんは?」
「艦長はミネルバ改装工事の打ち合わせで一寸離れててるの。
 シホさんも補給の事で少し外に出てる。 アビーも案内お疲れ様」
「忘れ物なんて子供じゃないんですから、もっとしっかりしてください」
傍らに立っていたアビーにルナマリアは労いの言葉をかけると書類を受け取る。
「忘れたのは艦長だもの。 私は何度も確認したわよ」
「また、子供みたいな言い訳を……まぁ、そんな事はどうでもいいですが、会議の進捗状況はどうです?」
悪びれもしていないルナマリアに一瞬呆れたような顔を見せたアビーはすぐに意識を切り替えると聞いた。
「今の所は今後の方針と戦略を纏めた位ね」
「方針って言うと?」
ルナマリアの言葉にシンが聞き返す。
「ザフトとオーブは近日中は部隊の再編成。 
 それ以外は哨戒と索敵をローテーションで持ち回りする予定だ。
 それに各国軍は指揮系統を別にする事が決まった」
ルナマリアに代わりイザークがシンの問いに答える。
『と言うことは連合は一纏めに? それとも国ごとか?』
「大まかにいえば大西洋連邦、ユーラシア連合、東アジア共和国、ザフトの4つに分けられることになった」
「オーブ軍とミハシラはどうなるんですか」
「オーブは絶対的に戦力……総数が足りん。 ミハシラや傭兵も集め、遊軍として働いてもらう」
「なるほど」
イザークの答えにシンは頷いた。

 

「まだ時間があるな」
チラッと壁に掛かった時計に目をやるとイザークはシンへと言った
「それで俺は何で呼ばれて何を聞かれるんですか?」
「概要は報告書とスリー・ソキウス中尉から把握している。
 お前が見つけた物について聞かれた事を素直に答えれば良い。 寧ろ余計な事は喋るなよ」
シンの疑問に答えるとイザークは釘を刺した。
「わざわざ墓穴掘るようなことしませんよ」
「だと良いがな」

 

「休憩時間終了です。 会議を再開しますので参加者はお集まり下さい」

 

不服そうなシンに鼻を鳴らしたイザークの言葉は会議の再開を告げる若い兵士の声に遮られた。
「時間だ……取り敢えず俺と来い」
シンは無言で頷くとイザークの後に続いた。
部屋に入った瞬間、ピンと張り詰めた空気を感じたシンは思わず新兵のように背筋を伸ばした。
(あら、珍しい)
こんなに初々しいシンを見るのはどれくらい久しぶりなのだろうか。
ルナマリアの記憶ではデュランダル議長に会った時やインパルスの正規パイロットに選ばれた時以来だ。
本人にそのつもりはなくても案外人見知りで口数も多い方でない上基本的に不機嫌そうな顔なので
ふてぶてしく見える為、比較的付き合いが長く心を許しているルナマリアにも珍しく見える光景だった。

 

三人(アビーは帰ったのでいない)は用意された椅子にイザーク、シン、ルナマリアの順で腰掛ける。
「そう緊張するな(と言っても無理な話か)」
シンの態度に気付いたイザークは振り向くとシンに声を掛けた。
「すみません。 あんまりこういう所慣れてないもんで」
ザフト時代のシンは常に前線か現場に出ていた。
アカデミー(士官候補生)→テストパイロット→正規パイロット→傭兵という遍歴の為、
お偉いさんを含む会議など縁がなかった。
傭兵になってからは言うまでもない。
戦術眼やMSを始めとする機械関係の知識、戦闘能力と反して事務処理能力はかなり低い。
「よし、分かった。 分かりやすく三行で説明してやる。
 静かに大人しく座ってろ。
 呼ばれたら立って、あそこまで行って聞かれた事に答えろ
 終わったら元の席に戻ってまた座れ。 OK?」
「あそこ?」
「あの正面の、お偉いさんの目の前のとこだ」
イザークは大きな机の前に置かれたパイプ椅子を指差した。
「大丈夫か?」
「多分……」
「よし、会議が始まってすぐ呼ばれるだろうから準備はしておけよ」
「うぃっす」
シンの返事にイザークは怒っているような呆れたようなどこか悲しそうな、
なんとも言えない微妙な表情を見せたが、シンは見なかった事にした。
「すみません、遅れました」
「間に合ったぁ」
始まるのを見計らったようにアーサーとシホが空いていたイザークの両隣に座る。
「全員着席なされたようですので再開させていただきます」
進行役であろう女性士官の顔には見覚えがあった。
『ん、音声記録領域のデータと一致。 進行役はレナ・イメリアか』
「みたいだな」
RBの言葉にシンは憮然とした表情で答えた。

 

「シン・アスカ氏、前へとお願いします」
会議は特筆すべき事もなくつつがなく進行し、シンが退屈そうな顔を見せ始めた頃シンが呼ばれた。
「ルナ、持っていてくれ」
「いいわよ」
RBの入ったタブレットを後ろのルナマリアへと渡すと立ち上がり、前へと進んだ。
「あんたも移動出来なかったり、預けられたり、体が無いと不便ね。
 誰かに頼んで移動用の入れ物でも作ってもらったらどう?」
『ふむ、一考に値するアイディアだ。 検討してみるか』
(……他人事だから呑気だな)
後ろから聞こえるルナマリアとRBの歓談から意識を外し、シンは正面を見る。
レナ・イメリアが若干不愉快そうな表情で見ていたので一礼すると、スッと視線を外し数歩下がる。
(幸いにして入ったことはないけど、死刑囚の裁判所ってのはこんな感じなんだろうな)

 

「あれはミネルバ隊の……良かった、生きていたのか」
「話には聞いていたが生きていたか」
「あれが、シン・アスカ。 デュランダルの懐刀、ミネルバの鬼神か、まだ若いな」

 

小声で囁かれる話を無視し、見渡せばシンでも知っているほど、名の知れた連合、ザフトの提督指揮官揃い。
一方、面識のある人間も何人かいた。 
オーブ軍はイツクシマ艦長に、元マハムール基地司令官であり、ガルナハン解放戦において
旗艦デズモンドでミネルバ隊と共闘した現アーモーリーシティ防衛艦隊総司令ヨアヒム・ラドルや
端の方にはアンリ・ユージェニーの姿もあった。
アンリは先程言葉を交わした以上に随分早い再会で、
ラドルに関してはローエングリンゲートの後にも会ったというか、結構な借りがあった。
「アスカ氏?」
正面から掛けられた威厳すら感じる野太い声と潮の香りにシンは顔と意識を正面に戻した。
「ぉ……」
「?……」
声にならないと言うより何か感情を噛み殺したような声を上げた目の前の連合の軍服を着た将官……
階級章を見るに中将、おそらくこの部隊の最高司令官にシンは心の中で首を傾げた。
「あー、すまない。 足労感謝する。
 概要はユーラシア軍のスリー・ソキウス中尉から聞いているが、
 目撃した君の口から直接状況を聞きたくて呼ばせてもらった」
RBの作ったレポートを手に取った中将はシンを一瞥する。
そこでシンは目の前の中将が煙草を分けたサンダルを履いたゴリラ似の男、
提督であることに気付いたが心の奥に仕舞っておいた。
「それはどういう意図で、でしょうか?」
「君の率直な意見が聞きたい。 君はアレを何だと思う」
「兵器でしょうね、それもジェネシス級の」
「ほう、理由は?」
RBとの会話の結果導きだされた、シンのジェネシス級という言葉に反応した周囲がざわつく中、
提督は動じずにシンへと問いかける。
「あの巨大さ、ミラージュコロイド、ビームすら弾く強度のPS装甲。
 間違いなくジェネシス級の戦略……」

 

「し、失礼します!」

 

シンの言葉は突然部屋の中に入ってきた兵士に遮られた。
「何事だッ!」
提督の横に座っていた少将の階級章をつけたおそらく参謀であろう男が立ち上がり兵士を叱責する。
「も、申し訳ありません! しかし暗号データの解析が完了した結果、とんでもないものが……」
「この場で再生をしてくれ。 アスカ氏は一旦元の席に戻ってもらえるか」
提督の言葉にシンは無言で頷くと足早に席へと戻る。
「お早いお帰りで」
「遅いよりはいいさ」
席に戻ったシンはルナマリアからRBのタブレットを受け取る。
『思ったよりも早く解析が終わったな。 数日かかるかと思ったが』
「連合の技術力侮りがたしってとこだな」
RBの言葉にシンが付け加える。
「では、再生を開始します」
兵士の声で室内が暗くなり、お偉い方の後ろに設置されたスクリーンに映像が映し出される。

 

『……ますか、わた・は……私はラクス・クライン。 プラント評議会議長です』
スクリーンに映し出されたのは鮮明ではないもののピンク髪の若い女性、ラクス・クラインの姿だった。
『このデータを、私の知る全てをコネクター、巨大な建造物のミラージュコロイドの中に偽装し……
 時間が、あまりありません。
 アプリリウス近郊での歌姫の騎士団、アンドリュー・バルトフェルド造反を手始めに、
 アプリリウス1が占拠され・・・。
 この裏にはターミナルが、旧クライン派が暗躍しています。
 地球連合、オーブ、どの国の方でもどのような勢力の方でも構いません。
 お願いです、ターミナルを、EDENを止めてください。
 このままでは世界は……「失礼! ラクス・クライン閣下ですな!」ガガッガガッガg… 』

 

ラクスの声と映像は男の声とノイズと共に途切れた。
「続いて添付ファイルを開きます」
ラクスに代わりスクリーンに映ったのは巨大な円筒形の物体の設計図だった。
端に惑星間短期航行用電磁加速カタパルト『コネクター』と書かれたそれは
多少の差違はあるものの、シンが目撃した建造物に違いなかった。
「こいつは」
『データと約20パーセント程違いがあるが、間違いないな。 設計変更があったか改修でもされたのか』
「……待てよ、まさかあの位置は? RB、あれを見つけたポイントを見せてくれ』
『構わないが……そう言う事か!!』
慌てたシンの様子にQBははっとしたように声を上げた。
続いてスクリーンに映し出されたのはコネクターの推定位置を示した宙図とそのカタパルトの行き先。

 

「奴らの狙いは地球だ!」
「馬鹿な、連中ブレイク・ザ・ワールドを再びやるつもりか!」
「いや、あのカタパルトならBTWほどの被害を出さずにピンポイントに狙った場所へ撃ち込める。
 無論多少の誤差はあるだろうがな」
青ざめた顔情で思わず立ち上がった東アジアの司令官に提督はどこか冷めた様子で淡々と言った。
「他人事のように言う! あれで我が国がどれほどの被害を負ったか!!」
提督の言い方が癪に触ったのか、憤慨した東アジア司令官が机を叩いた。
「他人事? 他人事だと!?」
東アジア司令官の言葉に、提督の肩眉がつり上がり肩が震えた。
「中将、ご自分の立場をお忘れなく」
「っ! 分かっている」
ぐっと奥歯を食いしばり立ち上がろうとした提督を右隣に座っていた参謀が声を掛けて制止した

 

「私は貴官とその祖国があの事件でどれほどの被害を受けたかは数字の上でしか知らず、
 そのお気持ちは察する事しか出来ません。
 しかし、私は以前海軍にいました。 
 貴方と同じように私も同期を始め、少なくない親しい者を失っています。
 BTWの再来は私、いえ我が国もまた他人事などではないのです」
深呼吸を一つし、気を沈めると提督はゆっくりと穏やかに言葉を紡いだ。
「……失礼しました、私も頭に血が登っていたようです」
提督の言葉に平静を取り戻した東アジア司令官は深々と頭を下げ、謝罪する。
東アジアはBTWで上海をはじめとした沿岸部に多大な被害を受けており
数年経った今でも復旧していない地域も存在した。
それを思い起こさせる今回の事で頭に血が登っても無理はないだろう。
事実室内のざわめきは未だに収まっていない。
しかし、将官や上級士官クラスでこうなら末端の兵達の動揺は如何程の物か。
「お気になさらずに。 それよりも今は力を合わせBTWの再来を防がねば」
提督は首を振り、謝罪など不要だと示すと動揺の隠しきれない周囲を見渡し、
わざと声を張りこの場にいる全員に聞こえるように言った。
他国の将官が東アジア司令官だけではなく意図に気づき頷く。

「次のファイルを開いてくれ」
「は、はい」
スクリーンに映った次のファイル。
離反した艦隊の推測数やアプリリウス1防衛網の隙間が映し出されてもざわめきは止まらない。
本来であれば値千金の情報が霞むほどコネクターの衝撃は大きかった。
この場にいた全員、特に連合兵の脳裏に最悪のケースが浮かんでいた。
あれは地球を、自国を狙い撃ちに出来る、と。

 
 

「拙いな」
「ええ、本国が何時撃たれるかも知れないんで士気が落ちてます」
イザークの呟きにシンが相槌を打つ。
「状況がはっきりとすれば逆にあがるんでしょうけどね」
ザフト勢も若干揺らいではいるが、大半がそれ以上に首都奪還の怒りに燃えている状況故に
地球軍よりはマシだ。

止まらないざわめきに提督は技官を連れてこなかったのは失敗だったかと内心舌打ちする。
「誰か、この中にあれの現状を説明出来る者はいないのか」
「僭越ながら、我が軍の技官であればこの場にいますが?」
提督の呟きが聞こえたのか、ザフトの指揮官ヨアヒムが口を挟んだ。
「お願い出来ますか?」
背に腹は変えられないと提督が深く頷いた。
「局長、局長はいるか!」
「ん、局長?」
ヨアヒムの声にシンは周囲をキョロキョロと探す。
「……ここにいますが」
あからさまに嫌そうに渋々立ち上がったのはゴリラのようにガタイの良い白衣の男局長だった。
「彼は元ヴェルヌ設計局局長で統合設計局設立後はアーモリー1工廠で特殊設計室主任を勤めています。
 今回のコネクターについても一部解析を担当しています。
無言で頭を下げる局長。 見かけの割に人見知りする質なのだ。

 

「では局長、このコネクターの現状について説明して貰えるか?」
「……只今御紹介に預かりました者です。
 あくまで推察ですが、この画面の設計図と観測データ……
 皆さんのお手元にあると思います。  両者を見比べるに完成間近である事は確かだと断言出来ます」
ヨアヒムの有無を言わせぬ態度に、局長は諦めたのかレーザーポインターで
スクリーンの設計図をを差しつつ解説をする。
「どれくらい開発が進んでいるかは分からないか?」
「設計に多少の変更があったようなので断言は出来かねますが、
 パワーユニットや伝達関係、照準装置が未了に見えます。
 現状の完成率は凡そ90パーセント前後でしょうか」
「完成までの時間は?」
「通常なら1ヶ月……早くて、突貫工事の最速で一週間程度かと」
「わかりました。 有難うございます」
提督の言葉に局長は一礼し、席に座る。

 

「……一週間」
「それで地球が、撃たれるだと」
何処か怯えを含んでいたざわめきが、若干の怒りの色が混じったものへと変わる。
(一先ず、士気は戻ったか)
「中将、各々の情報や方針を纏める時間が必要ではないだろうか」
「ええ、どうやらそのようです」
場に熱が戻ったことに提督は内心ため息を付くと、ヨアヒムの提言に提督は同意する。
「一旦解散としよう。 中佐、後は頼む」
「では、本日はこれにて閉会となります。 皆様お疲れ様でした」
レナの言葉で席に着いていた殆どの人間が一斉に立ち上がる。

 

決戦が近い。
言葉はなくとも肌で感じる気配。
その場を去る人々の足は一様に早く、表情は強張っていた。

 
 

「アスカ君」
所詮は雇われの身、急ぐ理由もないと混雑に巻き込まれるのを嫌い
椅子に座ったまま辺りを見ていたシンに声が掛けられる。
「あ、シュバリエ大尉」
声の方に向き直るとモーガン・シュバリエがそこにはいた
「ああ、そのままで構わない。 しかし、大事になったものだな」
立ち上がろうとしたシンを手で止めるとモーガンは言った。
「きっと、後でなるか、先になったかの違いですよ」
モーガンの言葉にシンは肩を竦めながら答える。
「そうかもしれんが、随分落ち着いているな」
「騒いでも何も変わりませんよ。 俺は俺が出来る事をやるだけです」
感心したようなモーガンを真っ直ぐ見ると、シンははっきりと答えた。
(……言い切って見せるか、若いな)
シンの真っ直ぐな言葉、視線にモーガンは無意識に羨望の眼差しを向けていた。

 

「おい、何をしている! シン、行くぞ!」
出口付近からイザークの大声が聞こえた。
近くにはルナマリアや局長、アーサーとシホの姿も見える。
「はぁ……はい、はい。 今行きますよ! 少佐、呼ばれているみたいなんでこれで失礼します」
イザークの顔を見て溜め息を吐くと、シンは立ち上がりモーガンに頭を下げた。
「気にしないでくれ」
「本当にすみません。……あの人、まだ俺の事部下かなんかだと思ってるよなぁ」
(若いってのも良し悪しだな)
小声で愚痴りながらイザークの方へと歩いて行くシンの背中を見送りモーガンは内心苦笑した。

 
 

大多数が立ち去った大会議室。
その室内に残ったものが数人いた。 
それぞれ各国軍を代表する将官。
僅かにいる佐官も艦隊参謀を勤める者ばかりだ。

 

「厄介な事になりましたな」
最初に口を開いたのはユーラシア軍の司令官だ。
「持久戦や消耗戦は無理だ。どの道艦隊決戦にはなっただろう」
「しかし、向こうにイニシアティブを取られたのは若干痛いですな」
それに東アジア司令官とその参謀が続く。
「あの大物、予兆はなかったのですか?」
「本国、アプリリウス本部ではどうか知らないが、
 少なくとも前線であるアーモリーで聞いたことはなかった」
「マティウスシティでも同様ですね。 情報収集は進んでいるのですか?」
「今はキラ・ヤマトやマーティン・ダコスタを始めとする歌姫の騎士団関係者や
 本部での勤務経験がある者に聞き取り調査をしている最中です」
イツクシマ艦長の疑問にヨアヒムが答え、続くアンリの言葉にもヨアヒムは返した。
一通りの話が終わり、全員の視線が最高階級者である提督に集中する。

 

「それでどうするのですか、提督?」
「……ユーラシア艦隊は動けますか?」
目を閉じていた提督は問い掛けた参謀の言葉に口を開いた。
「もう少し調整にかかりますな」
「東アジア共和国はどうですか?」
「要の部隊の到着が遅れています。 2日ほどで到着するでしょう」
「オーブ艦隊?」
「補充人員の練成に三日ほど頂きたい」
「ザフト、プラントは?」
「マティウスとアーモリーの摺り合わせにもう少し時間がかかりますね」
「それに、傭兵の召集と手札の一枚、ミネルバの完全修復まで4日ほど欲しいところです」
全ての意見を聞いた提督は再び考えこむ。
「モリシタ艦隊付き本部参謀……なにか意見はあるか」
傍らに立つ参謀、モリシタ少将に意見を求める提督。
「アルガ。 トップは、最高司令官は貴様だ。 上層部より貴様に全て一任するように指示を受けている」
「……事後の責任問題も含めて、か。 ふん、上等じゃないか!
 全軍、全部隊に通達しろ。
 一週間、一週間後全てのケリを付ける!」

 

予期せぬ戦略兵器コネクターの出現により当初連合軍の予定していた中長期的戦略、
数回に分けた波状攻撃作戦は破綻。
これにより次善の策とされていた大規模攻略規作戦すなわち全戦力での艦隊決戦が実行されることとなる。

 

後にヤキン・ドゥーエ、レクイエム攻略戦と並び語られる、コネクター攻略戦アプリリウス沖海戦。
つまり、アプリリウス戦役の最終局面は静かに、その幕を開けようとしていた。

 
 

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