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SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第01話

Last-modified: 2008-11-15 (土) 23:44:00

 かつて、戦争があった。
 二度も引き起こされた連合軍とプラント間の戦争を止めたのは、
連合でもザフトでもない組織「歌姫の騎士団」であった。
 双方を圧倒的な武力で沈黙させた騎士団はその功績を買われ『世界平和』の名のもとにザフトに編入された。
 プラントの工業は「ファクトリー」なる技術組織が一手に担う形になり、
プラント最高評議会においては騎士団を指揮するラクス・クラインが議長となり、数名の部下が議員に選ばれた。
 普通ならありえないような身内人事だが二度の大戦で疲弊しきった人々の大半は、
彼らを咎めたりせずむしろ喝采と共に受け入れた。
 しかし疑問に思うものも少なからずいる。

 

 ――なぜあんなに事がうまく進んだのか?
 ――なぜこうも簡単に新型機が強奪されたのだ?
 ――なぜこうも……人々は彼らをあれほど支持するのだ?

 

 彼らは『この数年をどう思いますか?』という私の取材に対し、こう言った。

 

『この数年は、まるで出来の悪い英雄劇を見せられているようだった』と。

 
 

 まさかこのセリフが『真実』の一端だとは、当時夢にも思わなかった。

 

 ――「ジェス・リブル・レポート」の序章より抜粋――

 
 
 

ガンダムSEED DESTENIY AFTER ~ライオン少女は星を目指す~
        第一話「歴史の授業と紅い瞳の少女」

 
 
 
 

 ――コロニー「ヘリオポリス2」 ハイスクール職員室

 

「失礼します」

 

 のんびりとした放課後の喧騒にあふれる中、一人の少女が職員室の扉を開けた。
 扉を閉め、騒がしい生徒たちの声から隔離されると、
ナナリー・リブルは愛想よく挨拶しながら、狭い机と机の間を早足で歩く。
 気の弱そうな少女である。年は15歳くらいだろうか。
 ぶ厚い眼鏡をかけ、三つ編みにした黒髪を肩まで伸ばしている彼女は、一番奥にいるクラスの担任教師に愛想よく話しかけた。

 

「こんにちわ、先生」
「おお、委員長。どうした?」

 

 40代手前の無精ひげだらけのラフな教師は、少女に気付くとテストの採点をやめ、ふり向く。

 

「えーとですね、先ほどの歴史の授業に関しての質問なのですが……」
「おお、今日は近代の歴史だったな。それで?」

 

 ナナリーは緊張した面持ちで意を決したように、言った。

 

「アスハの反乱についてなんです」

 

 アスハの反乱、かつて行われたメサイア戦役の1年後に起こったオーブ・プラント間の戦争である。
 15年前のオーブ首長カガリ・ユラ・アスハが、大規模な軍拡を行ったクライン政権を
 猛烈に批判し勃発したといわれる。
 この戦争は、島国オーブに対するザフト軍、特に『騎士団』と呼ばれる精鋭達による圧倒的武力によって終結した。
 しかし終結後すぐプラント本国からこの戦争に対する情報規制が敷かれ、
 関係者も固く口をつぐんでいる今日では、その全貌を知る者はほとんどいない。
 ワイドショーなどでもこの不自然な動きがたびたび取り上げられることがあったが、すぐに廃れていった。

 

「ふむ、それで?」
 教師は頬杖をつきながら少女の質問を促す。

 

「授業中ずっと疑問に思っていたんですが、アスハ代表はなぜあんな暴挙を犯したのでしょうか?
 いくら技術大国オーブといえどプラントとでは国力の違いは歴前なのに……
 教科書には、アスハ代表は乱心したとか、野心に目覚めたとか書いてありましたが、正直私には信じられません。
 そして一番おかしいのはほとんどの戦闘記録が抹消されていることです! こんなこと普通はありえません!
 だから……って真面目に聞いてるんですか先生!?」
「……え? あ、いやスマン、スマン。毎年同じような質問を何度も受けるんでね、飽き飽きしてたとこだ」
「え!?」

 

 驚きだった。まさか自分と同じ考えの人が何人もいるとは。

 

「ああ、俺は歴史を教えてもう10年にもなるけど毎年さっきのに毛が生えたような質問をするのが何人もいてな。
 けどあのとき先生はただの世間知らずのガキだったし、よく知らないんだ。
 アレだなアレ。
 『アスハ代表は世界のためではなく、オーブのためにしか行動できなかった愚か者だ』って議長もおっしゃってたろ?
 議会が敵っていったら敵なんだ。多分」

 

 その声は含みある言い方をしていた。

 

「愚か者って……為政者が自国を守って何が悪いんですか? 
 世界全体を救うなんてことができるのは神様ぐらいのものですよ!
 私にはアスハ代表がまるで無理やり悪役に押したてられたみたいで、不自然に感じるんです!」

 

 いつもおとなしい印象があった少女がこうまで感情的になっていることに教師は驚きを隠せない様子だった。
 吠えている子犬をなだめるように手のひらでその声を制する。

 

「まぁまぁ、落ち着きなって。
 ここで先生たちがどう議論しようとそれらはもうすでに起こってしまったことであって、どうしようもないんだ。
 ベストセラーにもなったザラ司令の名言集にもあったぞ? 『過去に縛られず、明日に目を向けろ』ってな」

 

 最後に教師は、つまりそういうことさ、と付け加えた。
 そんな態度に少女は心の中でため息をつく。
 不自然が浸透しているこの世の中に、憤りを隠せないという心中が表情に出ていた。

 

「質問をきいていただき、ありがとうございました」

 

 軽く会釈して出て行こうとしたその時、ふいに呼び止められる。

 

「おお、参考にならなくて済まんなぁ……
 そうだ委員長、頼みがあるんだ。B組のホークのやつにこれ届けてくれないか?
 屋上でバイトの時間まで暇をつぶしてるはずだから」

 

 そうして担任が差し出したのは半分に折った一枚のプリント。テストの採点結果だ。

 

「すまないな。教室で渡すとアイツ本当にやかましいんだわ、これが」
「(やかましい?)はぁ……、私は別にかまいませんけど……」

 

 この教師は面倒くさがりで、ちょっと有名だ。
 ナナリーは特に断る理由もないのでしぶしぶ受け取ると踵を返し、少女は職員室から出ていく。

 
 

 放課後の屋上。そこは生徒にとってはある種の聖域だった。
 太陽のない青い空は赤みを帯びていき、人工の夕焼けが屋上を赤く染め上げている。
 ナナリーが錆びかけた扉をあけると、屋上の一角に男子二人がカードを広げているのが見えた。
 一人は、黒いざんばら髪と切れ目の真面目そうなイメージの少年。
 もう一人は長めの茶髪に人懐っこそうな瞳の少年で、二人ともナナリーと同じクラスだ。

 

「ん? 何か用か委員長?」

 

 人懐っこそうなほうが問いかけた。

 

「ええ、デュプレ君、ケント君。先生に頼まれたんだけど、ホークさんっていう人知りませんか?」
「――ホーク? ああ、ステラね。ステラはあっちだよ」

 

 クイッと親指で指された先では、数メートル向こうの給水塔のてっぺんで何やら座り込んでいる人影が見える。

「ええ!? あ、危な――」
「おーいステラー! なんか呼ばれてんぞー!」

 

 元気な声が、ナナリーの警告を遮った。

 

 その声に気付いたのか、ステラと呼ばれた少女は振り向いた。

 

「え? 何? 今降りるからちょっと待っててー!」

 

 立ち上がり、とう、という掛け声とともに少女は跳躍した。
 そのまま軽やかに一回転すると、
 着地。
 その見事な体術は、猫を連想させるに充分だった。
 二人の男子からは、「お~」という感嘆の声と軽い拍手が小さく起こる。

 

 その拍手を茶目っ気たっぷりな笑顔で返しながら歩み寄ってくるそれは、一人の少女だった。
 細い体つきにしなやかな手足。
 まるで風にたなびく草原のような短い金髪は、光を受けていっそう輝いているように見えた。

 

 ナナリーの前に立つと、なぜか深呼吸して――

 

「廊下ですれ違ったりもしたけど、こうして話すのは初めてだよね?
 母さんが言ってた、初対面ならまず自己紹介をしろって。
 あたし、ステラ! ステラ・ホーク!」
 ステラと名乗った少女は元気に声を張り上げた。

 

「好きなものはハンバーグ! ……と星を眺めること!
 そうそう、さっきのは星を眺めていたんだー!
 それでね、他にもバイトでMSの操縦とか――」

 

 エネルギッシュな声に圧倒されながらナナリーは思った。なんて綺麗な少女なのだろうと。
 きれいに整った顔立ちはもちろん、特に印象的だったのはその目だろう。
 愛らしく、純真な少女らしいルビーのような紅い瞳は、とてもまっすぐな目をしていた。
 いかなる障害ががあろうとも、その目を歪ませることはできないだろう――と思わせるほどに。

 

「バカステラが……いつも大声出すなって――」
「まぁまぁ……いつものことじゃん?」

 

 男子二人は、やけになれている様子だった。どうやらこれは少女にとっては日常茶飯事なのだろう。

 

「以上、自己紹介終わりっ! 
 ナナリーちゃん……だっけ? よろしく!」

 

 目の前の少女、ステラは元気いっぱいの笑顔を作った。

 

「よ……よろしく、ホークさん……」

 

 そう言ってずり落ちた眼鏡をかけ直しながら、ナナリーはテストの答案プリントを差し出した。
 よく見ると、たくさんの赤い×印のインクが裏側まで滲んでいるのがわかり、顔が引きつる。

 

 ――その後、屋上から発せられた少女の絶叫が、ハイスクール中に響いたのは言うまでもない。

 
 

――某コロニー・兵器研究所――

 

 緊急事態を示すブザーの音がけたたましく鳴り響いた。
『緊急事態発生、緊急事態発生。
 最強兵士が突如培養槽から脱走。
 繰り返す、最強兵士が培養槽から脱走。銃殺の許可は出ている。
 コード「S・A」を逃がすな!』

 

誰もいなくなった指令室の監視カメラの映像に映るのは、
無謀にも最強兵士に立ちはだかった警備兵たち『だったモノ』が廊下に散乱している光景だった。

 

『ターゲット、「アブソリュート」の格納庫へ到達』
 無機質な電子音が、屍の山と化した廊下にむなしく反響していた。

 
 

 『彼』は廊下を抜け、目的地――格納庫に到達した。
 まるで未来が読めているかのような動きで銃弾の雨をかいくぐりコックピットに滑り込むと、
 彼は文字どうり機体と『一体』となった。

 

「ええい何をしている! 何としてでも奴を『アブソリュート』に乗せるな!!」

 

 無能で知れ渡っている指揮官のヒステリーの混じった声と、兆弾の音が格納庫に響く。
 ――神経接続良好、全兵装アクティブ、システムは戦闘モードへ。
 格納庫にて、まるで神話に出てくる封印されし巨大な悪魔のような機体に灯が入った。
 他の機体の追従を許さない有り余る出力で単分子ワイヤー製の戒めを引きちぎり、灰色の装甲が血のような赤に染まる。
 血の涙を流しているような頭部カメラがきらめいた。

 

――飛べ。

 

 彼がそう念じると、機体が思念に追従して紅の翼をはためかせた。光の粒子が撒き散らされる。
 跳躍の余波を受け、キャットウォークにいた兵士はまるで埃のように吹き飛ばされた。
 そのまま機体を上昇させ天井に当たる隔壁を紙きれのように突き破ると、『アブソリュート』は凍てつく真空の世界へ飛び出した。
 そのとき、すぐれた性能を持つ機体の無線が、唖然とした兵士の無線を鮮明に聞き拾っていた。

 

 『恐ろしい……あれは人間がかなう相手じゃない!』
 『まさに悪魔のようだ……化け物め』

 

 ――それは光栄だな、と最強兵士『シン・アスカ』は口元に弧を描いた。

 

 逆襲の、始まりだった。

 
 

――『アプリリウス1』 某高級ホテル最上階 個室

 

 プラントのきらびやかな街並みが一望できるこの場所に、一人の男が机に山積みとなっている書類に目を配っていた。
 そのそばでは秘書らしき女性が携帯端末で誰かと連絡を取っている。

 

「――ウォフ様」
「なんだ?」

 

 男は不機嫌そうに秘書を睨(ね)めつけた。

 

「連絡が入りました。計画は15年前までの状態へ修復が完了したそうです」

 

 その報告を聞くと男はフン、と鼻を鳴らした。

 

「15年前。あのカスみたいなアスハの小娘のせいで我らの計画が一度は崩れ去ったりもしたが、やっと元どうりか」
「……ですが同時に、不幸な報告と、それほどでもない報告が入りました。いかがしましょう?」
「――何? ……悪いほうを先に言え」
「……最強兵士・シン・アスカが『アブソリュート』を持ち出し、脱走した――とのことです」

 

 秘書はまるで機械のように無表情で淡々と告げた。
 それを聞くや否や、男が持っていた高級そうな万年筆がミシミシと音を立て砕け散った。
椅子から体を浮かせ、顔には血管が浮きあがっている

 

「……『アシャ』を派遣しろ。今すぐだ!」
「そう言うと思い、すでに派遣させています」

 

 有能な部下の手際のよさに感嘆し、再び椅子に腰かけた。

 

「ふむ、ご苦労。まったく……奴の維持費にいくらかけていたと思ってるんだ!
 逆襲というわけか? 飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこの事だな。
 ――もうひとつの報告というのは?」
「はい。ヘリオポリス2にて『獅子の後継者』を確認した、と監査員から報告が――」

 
 

 男――ウォフ・マナフは口元を釣り上げた。

 

――C.E90年 錆びついた運命の歯車は再び動き始める。