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SCA-Seed_SeedD After◆ライオン 氏_第05話

Last-modified: 2009-01-27 (火) 05:56:18

――ザフト軍基地 ヘリオポリス駐屯所 取調室

 

取調室と言ってもオフィスの一角をすりガラスで区切っただけの粗末なもので、機密も何もあったものではない。
周りは先日の戦闘の被害や犯行グループの引き渡しの手続きに追われ、基地に勤務する大勢の人間が
すりガラスの向こうを右往左往しているのがうっすらわかった。

 

「ねぇねぇ艦長さん。カツ丼ちょーだい。カツ丼」
「いや、だから規律でそういうのはダメなんだって。ステラちゃん」

 

そこには軍人らしき男性と金の髪の少女が机越しに向かい合っていた。
少女の方は、まるで子供が晩御飯をねだるように机をバンバン叩いてる。

 

「ぶー。ケチー。そんなんだから奥さんに逃げられちゃうんだよ」
「フォンドゥヴァオゥ……それは言わない約束だ……」

 

あれから数日がたったある日。
ステラはあの後到着した正規のザフト軍によってグロリアスから降ろされたが、とてもではないがその時点では軍は処理に追われ、
悠長に取り調べをしている場合ではなかったので後回しになったのだ。
数日経った今になってやっとその事件についての取り調べを受けている。

 

「え~と、何々? 今度は作業用MSを乗り回して犯行グループのMSと交戦したあと、
新型兵器『グロリアス』に"勝手に"搭乗し再び別の敵と交戦。そしてこれを撃破……か。
相変わらず無茶苦茶するねぇ。しっかしこの取調室にきたの、今月これでなん度目?」
「え、えっと……三回くらい?」

 

取り調べをしていたアーサー・トラインは、調書に記録を取りながら大きく溜息を吐く。
新型機に民間人が乗り込むという前代未聞の事例のため、
わざわざ艦長の身分の者が取り調べをする羽目になったのだ。

 

「九回だよ九回! しかも全部MS関係!」

 

本来、作業用MSでの戦闘行為は固く禁じられていており、ほとんどが重罪の判決が下される。
しかし今回のケースはテロリストが相手で、しかも正当防衛とも取れえる状況である。
なおかつステラのとっさの機転で敵ごと建造物が比較的少ない自然公園に飛びこませたり、
新型機に搭載されたビーム射撃兵器を一切使わず肉弾戦で敵を沈黙させた(もちろん方法はとんでもない内容だが)。
それにより間違いなく街の被害は格段に減ったという功績が働き、特例中の特例で今回の件は不問にとどまった。
その背景には、各コロニー自治体のほとんどがいざという時に備え、作業用MSをひそかに武装していることを政府が黙認していることで、
この法律自体が少々形骸化していることも関係しているだろう。
ちなみにこの件での死傷者は、奇跡的に敵も市民も含めてゼロである。ただ敵機の内部で股間を押さえ失神した者がいた事くらいだ。

 

「……まったく。今回は運がよかったけどね、こんなこと繰り返してたらステラちゃん
 いつか本当に捕まっちゃうよ? お母さん悲しんでるんじゃない?」
「おーけい。肝に銘じておくよ艦長さん。
 だいたい母さんはたかが目の下の小ジワで一日中家でどったんばったん大騒ぎするような人だよ? 
 あんな年増が娘のことなんて自分のシワの悩みに比べたらそんな……」
「あ~ら、誰が小ジワで悩んでるって? それに年増って誰のことかしら?」

 

背もたれに体重を預けたステラのこぼした愚痴は、中断せざるを得なくなった。
怒気を孕んだ重みのある聞きなれたその声の方向へ、恐る恐る椅子を回転させると、
ステラの顔がまるで見てはいけないものを見てしまったかのような恐怖におののいた表情に変わる。
その視線の先には、燃えるような短い赤毛の女性が仁王立ちしていた。
ルナマリア・ホーク。
ホーク家の主にしてミネルバ隊が誇る部隊きってのエースパイロットであり、いつもは凛としたその表情は、
不気味な笑顔で埋め尽くされている。

 

「か、かかか……母さん!? いつからそこに!?」
「今さっき仕事が終わったから、一緒に外食でもして帰ろうとアンタを迎えに来たの。そしたら何? 年増?」

 

重力に逆らって伸びた一本の特徴的なアホ毛は、いつもとは違い怒髪天を突くようにピンと立っている。

 

「いや、あの、これは、その……どこぞのお仕置きと称して娘を川に放り込むようなおばさんの話なんかではなくて――」
「……覚悟は、いいかしら?」
「の、のお!!」
「却下」

 

その年齢を感じさせない美貌もあってか、ルナマリアの周囲には言いよる男が絶えないとの噂だ。
だが駐屯所での次の光景を見ると、男たちはすごすごと撤退していくという。
平常の彼女とのギャップにノックアウトされるのだ

 

ぐりぐりぐりぐり――
「あだだだだ! こんだけグリグリされたら頭がパーになっちゃうよ、アンタって人は~! のぎゃぁぁぁぁ!!」
「そのパーな頭はもう手遅れ! 処置の施しようがないわ! どこかで取り替えてもらおうかしら」

 

もはや駐屯所名物となり果てたホーク親娘の取調室でのお仕置きだ。
なんでも、ここで働く事務員に聞けば『この騒ぎがあれば、つくづく平和だなって思うんです』とのこと。

 

「フンだ! 今日は絶対謝らないよ! せいぜいその錆びた肌を―――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ!!」
「…………今日という今日こそは、親の威厳ってのをしっかりと叩きこんでやるわ」

 

母親によってゴリゴリと拳をねじ込まれるステラを横目に、アーサーは調書をイソイソとしまい退席した。
あぁ、今日も平和だ。

 
 
 

ガンダムSEED DESTENIY AFTER ~ライオン少女は星を目指す~
        第五話「マッドメカニックとグロリアスガンダム」

 
 
 
 

「ステラ・ホークの居場所はここか? 話がある」
一人の少年が、取調室の仕切りから顔を出した。長い前髪に隠れてはいるがその額はキラリと――

 

「イテテ……あ、デコッパゲ」
「うるさいバカ! 誰がデコッパゲだ!」
声の主アレクシス・ザラ――通称アレックスは、うめくステラを視界にとらえながら抗議の声を張り上げた。

 

勇ましさと少年特有の憂いを同居させたかのような面差し。
その女性と見間違うような暗めの青い長髪が、張り上げた声に合わせてなびいた。
整った顔立ちに加え、身長もすらりと高い。彼に微笑まれれば大半の女性は頬を染めるだろう。
若さゆえの脆弱さも併せ持ったその体は軍人という経歴のせいか年齢の割に頑強さがうかがえ、アンバランスな魅力を醸している。

 

「あら、アレックス。このバカに何の用?」

 

ルナマリアは意外や意外、といった表情だ。まるで絞った雑巾をわたすかのようにステラを前へ押しやる。

 

「あ、いえ。用があるのは私ではなく、本国から到着したウチのメカニックが今すぐグロリアスを操縦した民間人に会いたいと。
 それで私が用事のついでに呼びにきたのです。
 ――おいお前。あれだけ無茶苦茶な使い方をしたんだ。ウチのスタッフからの怒号の一つや二つは覚悟しておいてくれ」
「えぇぇ~!? まだ怒られんの?」
「当たり前だ! というより自覚がないのか!? 大体お前は――」
「ハイハイ、そこまで。いとこ同士、仲がいいわねホント。つい最近まで初対面だったのに」

 

ルナマリアにより制止され、アレックスはしぶしぶと口を引き結んだ。
それから間もなくして、嘆息。

 

「ではルナマリアさん。このバカ、少々お預かりしてもよろしいでしょうか? すぐ済むと思いますので」
「わかったわ。無期限貸与でいいわよ。けど一応、晩のエサの時間までには帰しといてね」
「(エサ?)――了解しました。それと……」
「何? まだ何かあるの?」

 

けげんそうな表情のルナマリアに向き直り、急にアレックスは真剣な面持ちになった。
ピシッと姿勢を正し、一言。

 

「……先日お話した例の件はどうでしょうか? 父もそれなりの待遇するとのことです」

 

一瞬の間。

 

「ああ、あれ。――ここはこの子とミネルバがいる。それが答え。司令にはそう伝えて」

 

ルナマリアのその姿に、母親としての面影はなかった。目を細め、淡々と答える。

 

「そうですか。では父にもそう伝えておきます」

 

アレックスは残念そうに頭(かぶり)を振った。
だが落胆した様子はなく、まるでこう答えることが分かっていたかのような表情をしている。

 

「ねぇ、母さん。ちょっと……」

 

ステラが唐突に声を上げた。
少女の真剣なまなざしで見つめられ、ルナマリアも顔を引き締める。

 

「ステラ、この話はアンタには関係ない――」
「"ムキゲンタイヨ"って……何?」

 

空調が完備された取調室に、さぶい空気がふきこんだ。

 
 

――ザフト軍駐屯所 整備ドック 

 

ステラは、比較的奥のブロックへとアレックスに招き入れられた。
なお、扉にはモルゲンレーテのマークがプリントされてある。
赤い非常灯しかなかった薄暗い通路を抜けると、30メートル立方はあろうかという広大な空間が照らし出されると、
ステラは瞼(まぶた)を閉じて光源に顔を向け、即座に明るさに目を慣らしてから周囲を見渡す。
招き入れたアレックスもまた眩しそうに顔をしかめ、目を瞬かせていた。
そしてドックの中を急がしそうに右往左往する作業員たちの中でアレックスはドックの中央で作業にいそしむ男性を見据え、声をかける。

 

「シモンズ主任! グロリアスに搭乗した民間人をお連れしました!」
「え? ああ、アレックス君。その子が例の?」
「はい。例の『バカ』です」
シモンズと呼ばれた東洋系の青年が嬉しそうにつぶやくと、アレックスが肯定する。

 

ひょこっとアレックスの横から顔を出したステラは、その青年が口を開くよりも早く恒例のアレをたたみかけた。
「あなたが呼んだの……かな? ともかくはじめまして! あたし、ステラ・ホークっていいます。よろしく!」
「はい、僕はこのモルゲンレーテのMS開発部主任をさせてもらってるリョウト・シモンズだ。よろしく、元気な方」
シモンズという青年が手を差し出すと、少女は握手に応じた。線の細い割にその手はゴツゴツしていて、茶色い錆びが付着している。

 

「さて……キミををわざわざこんなジメジメしてカビ臭いとこに呼んだのはワケがあるんだ。グロリアスのことでね」

 

リュウタは纏った白衣をたなびかせながら背後の巨大な白い機影――グロリアスに向き直った。頭部にあるV字アンテナが目立つ。
「君はこの機体に乗って初めて実戦を行ったそうだね。
一応話は聞いているんだけど、君はこの機体に乗った時どんな行動を取ったんだっけ? 今後の参考に本人から聞きたいんだ」

 

ステラは、青年の背後に係留されている機体を見上げながらたどたどしく答えた。

 

「え~っと、まず最初に機体が合体したら、あのデコッパゲにコントロールをもらって、それから『なんかこのスイッチは押さなきゃいけない』って
宿命(?)みたいなのに後押しされちゃって、気が付いたら機体の腕が飛んで行ってたの。
そんで敵がそれにぶつかっちゃったのを見て、あたしは『必殺・ロケットパンチ』を編み出したんだ!!」

 

今、ステラはありのまま起こったことを話している。
何を言っているのかわからないと思うが、当事者のアレックスも何をされたのかわからなかった。
アレックスの額もどうにかなりそうだった。
幻覚だとか夢オチだとか、そんなチャチなものでは断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を見せつけられたと、のちに彼は語る。

 

「ロケット……パンチ……だって?」

 

ほほう、といわんばかりにリュウタの目が細められた。
アレックスはそれを見て、ホラ見ろと呟く。
これはいい機会だ。いつも叱り慣れている母親などではなく、他人であるシモンズ主任に叱ってもらえれば、
これでコイツも少しはおとなしくなるはずだ……。

 

彼が期待して見守る中で、リュウタは大きく息を吸い込んだ。そして細めた目をかっと見開き大声で、

 

「すばらしい! ステラ君! 君は英雄だ! 大変な功績だ!」

 

アレックス一人が、まるでその足元だけ重力が反転したかのように『ガターン』と背後の工具棚に倒れこんだ。
そのとき、数本の前髪が散っていったのを彼は知らない。

 

彼はうめきながら、生まれたての小鹿のように立ち上がった。

 

「シ、シモンズ主任……」
「おや? アレックス君どうしたんだい?」
「どうしたのデコッパゲ?」

 

他の二人はその光景を見てキョトンとしている。

 

「どうしたもこうしたもない! どこが素晴らしいんですか!! だいたいMSの腕を飛ばすようなバカがどこにいるんです?」
「やだなぁ、キミの目の前にいるじゃないか。そうだステラ君。君は巨大ロボットの腕は何のために付いていると思う?」

 

再びずっこけるアレックスを横目に、リュウタは再び質問を行った。

 

ステラは純粋無垢な子供のように目を輝かせながら、ふふんと鼻を鳴らし、元気よく答える。

 

「ふふん、決まってるよ。巨大ロボットの腕は…………『飛ばすため』についてるね!
あ、そうそうあと熾烈な一戦を交えた宿敵【とも】と固い握手をするためかな? みんなも、そう思うよね!!」

 

一瞬の、間。

 

その大声で叫んだ一言がドック中に響き渡ると、一気に30メートル立方の空間は水を打ったように静まりかえり――

 

「――――素晴らしい、満点だ! すばらしぃぃぃぃ! やはり君は英雄だ!!」
ひゃっほう。リュウタは体を変態チックにくねらせながら狂喜乱舞した。

 

「えへへ~。英雄? そう? ありがと!」

 

ワアアァァァァァァァァァ――!!
「英雄!」
「英雄!」
「英雄!」
恥ずかしそうに頬を朱に染めたステラが頭をポリポリと掻くその姿を見せると、周囲を囲う鉄の壁を吹き飛ばせそうな爆音のごとき歓声が上がった。
ドックで働くメカニックたちもいつの間にか全員作業を中断し、『英雄!』と輪唱している。鼻血を噴き出している者もいる。
汗臭いつなぎの作業員全員が肩を組んでわき立つその姿はどこかしら不気味であり、
もしこれを事情を知らない他人が見たら新興宗教の会合かと思うだろう。

 

「(ダメだこの人たち……早くなんとかしないと、どんどん前髪が――)
ま、待ってくださいシモンズ主任……これはいったい……腕が飛ぶことに何の意味が?」
よろめくアレックスは血を吐くように声を絞り出した。

 

「フフフ……キミはわかってない、わかってない!」
最初の印象に比べるとまるで人が変わったようにリュウタは叫ぶ。大事なことなので二回叫んだ。

 

アレックスの目の前でチッチッチと指を振って見せる。

 

「な、何がですかっ!?」
「ロケットパンチ……それは男の夢! 男の望み! 男の業! それをこの子は果たしてくれた!
腕が飛ぶことに意味があるんじゃない! 飛ばすことに意味があるんだ! そこに痺れる憧れるぅ!」
「意味がさっぱりわかりません! 落ちついてくださいシモンズ主任!」

 

アレックスが全力でガクガクとリュウタの肩を揺さぶることで、ハッと気づいたようにリュウタはやっと正気に戻った。
それに合わせて作業員も黙々と作業を再開させる。先ほどの騒ぎがウソのようだ。
モルゲンレーテの誇る若き天才設計者、リュウタ・シモンズ――通称(マッド・メカニック)の本性を垣間見た瞬間である。

 

「ハッ! あ~、またやってしまったか。すまないね、
巨大ロボットのことになると、ぼかぁどうにも意識がアッチに逝くんだ。部下も一緒に。」
「アッチってどっちですか。それに、どこにどういったらああなるんですか……。
(もう駄目だ。前髪最前線は壊滅。一刻も早く前線を後退させないと……)」

 

アレックスはげんなりした様子でそう答えた。彼の足もとに目から出た水滴がポタポタ落ちる。なんか細いモノもいっしょに。

 

「まぁともかく。この機体――グロリアスはもともと戦場で破損部分を交換するというシステムを搭載してるんだけど、
僕たちモルゲンレーテの開発部はパーツ自体が壊れてもいいように、あと撃ち落とされないようにってまず考えた。
そのため、各パーツの部品を低コストで揃えたり、コア部分からの無線操縦システムを組んだりしてたんだ。
けどステラ君が『パーツをぶつけて敵を撃破した』っていう先日の報告を聞いた時、本当に驚いたね。まさにコロンブスの卵だよ。
多分、あんなことを考えるような人はまずいないんじゃない?」
「いや~、それほどでも」
「………たぶん、誉めてないぞ」

 

ちなみに、『あんなことを考えるような人は誰もいなかった』というこのリュウタの言葉は間違いである。
パーツを分離してぶつける、回避するという方法はこのシステムの大元であるインパルスガンダムのパイロットで、
ステラの父親であるシン・アスカが初めて編み出した戦術であり、それは17年前のエンジェルダウン作戦に披露された。
その奇怪奇天烈極まる戦法は、当時無敗を誇ったフリーダムすらも落とす快挙を見せた。
だが、戦後発足したクライン政権によってザフト最強のパイロットであるキラ・ヤマトというイメージを保つために、
ザフトでのエンジェルダウン作戦の映像と記録はすべて破棄されたため、企業側は存じえなかったのだ。

 

「グロリアスは、MSを構成する上で重要な部品、コンピュータをすべて胴体部にあたるコアスプレンダーⅢに搭載してある。
そのおかげで昔のインパルスよりも手足のコストが大幅削減されて、コア以外は壊れて工廠に送るよりも、
ずっと低コストで手足を取り寄せるだけで前線に復帰できるようになっているんだ。だからぶつけても財布はあんまり痛まない。
その証拠に、手足のパーツだけならここには数機分あるよ。ほら、立てかけてあるアレが全部」

 

興奮さめぬ表情でリュウタが指した先に、全体を青いシートに覆われた巨大な物体が
何機も壁に立てかけるように係留してあった。一部のシートが脱落してあらわになった部分には、
確かに『足』や『肩』のようなものが見える。それらがズラリと並んでいる様子はどこかしら奇妙だ。

 

「けど、まさかこんな形で男の夢、ロケットパンチが完成するとは……。キミは英雄だよホント。
フフフ……素晴らしぃ、素晴らし――」
「機体の説明はわかったけど、あたしはどうすればいいの!? ていうかもう晩御飯の時間だから帰っていい?」

 

再びアッチに逝きそうになったリュウタを、ステラが大声で押さえつける。早く帰りたいからだ。

 

「――うん。我々モルゲンレーテは、あの戦闘のデータを見て
この機体の新しい使い方ってものがあるかもしれないということに気づいたんだ。そこで、だ」
しっかりとステラに向き直ったリュウタはハッキリとした口調でとんでもないことを口にした。

 

「君にはこの機体――グロリアスの企業専属の正式なテストパイロットとなってもらいたい」

 

「ちょっと待ってくださいシモンズ主任!? なんでこんな民間人に!?」
「ああ、アレックス君は安心して。次のテスト機体が次の便で来るから。名前は確か『コン……』」
「そういうことじゃなくて! 私の首などどうでもいいのです! ……すべて民間人を巻き込んだ私の責任で――」
「――やるよ!」

 

さっきからずっと考える様に黙り込んでいたステラが、急に声を上げた。
その場にいる作業員含めた全員が、その素直で屈託のない笑顔に集まる。

 

「あたし、この機体に乗るよ! このガンダムに!」
――なんだって……!? 

 

アレックスは、再び崩れたばかりの前線を早急に建て直させねばならなくなった。

 

「――さぁぁ野郎ども! 我らが英雄は、我々の作った機体に乗ってくれるそうだぞ!
素晴らしぃぃ素晴らしぃぃ! 」

 

再びアッチに逝ったリュウタが、感激にふるえ拳を天に突き上げる。その目じりには涙すら浮かべていた。

 

ウォォォォォォ――!!

 

それと同時に、先ほどの爆音をさらに上回るほどの巨大な歓声の嵐が巻き起こる。
その作業員30人ほどの魂の咆哮の威力はすさまじく、
この同時刻に駐屯所周辺において局地的な大地震が発生したとかなんとか。

 

「だ、駄目だ駄目だ! そんなこと許せるわけがないだろう!」

 

アレックスはたじろぎながらそう言い放った。
彼にとっては民間人とは守るべき対象であり、その者が間接的に
人殺しの手伝いをさせられることに強い嫌悪感を催したのだ。

 

「なんで? 人の夢の第一歩を踏み出せるんだから別にいいでしょ?」

 

少女はそれを、けろりと言い返す。

 

「……夢?」
「そう、夢。まだ母さんにしか言ってないんだからアンタには内緒~」

 

少女は無邪気そうに細い自分の人さし指を唇の前で持って行った。内緒の意味合いだ。

 

「グフフ……良いですねぇ! すごくいい! 
作業員、主任含めて逝っちゃってるで有名な
モルゲンレーテMS開発部、通称『タカマガハラ』は、キミを歓迎するよ。
キミの場合立場的には『民間の協力者』ってことになるからMSを乗り回しても法的には大丈夫。
もちろん給料も出るし、安心してくれ。ハハ……。 
……ハッ!? そうと決まれば、一秒も早く『あの機体』を取り寄せないと! 忙しくなるぞ野郎ども!」

 

――応っ!! 
そう吼えた彼らは、まだまだ働けそうだった。というより全員、目をギラギラ光らせ、クククと忍び笑いを漏らしているその姿は、
むしろ先ほどよりパワーアップしているようにさえ見える。
無機質でどこか重い印象のあるハンガーは、壁が融解せんばかりの熱気で充満し始めていた。

 

(なぁ、せっかく造ったんだからボインのあの子にファイヤーライオンソード使ってもらおうぜ)
(いや、そこはハイパワームゲン砲だなやっぱり)
(待て待て、ハイパーライナークラッシャーもだ! おい誰か本社倉庫から取り寄せろ!)

 

「なんで……こんなことに……」
「さぁ~て、今日の晩御飯は何かな?」

 

そんな声が出始めたかどうかのところで、ステラとアレックスはハンガーを辞した。

 

――こうして、少女は力を手に入れた。

 
 

――ところ変わって、ホーク家。
けたたましく鳴り響くアンティークな電話機をしずめるため、一人で帰宅したばかりのルナマリアは慌てて受話器を取った。

 

『もしもし? ホークさんとこのおうちはここでよかったかのぉ……?』

 

取った受話器からは、とぼけたような老人の声。その声色は弱弱しい。

 

声の主がどちら様か理解したルナマリアは、わざとらしく声を上げる。

 

「あら、おじいちゃん! 元気? 家にいる『孫』について話がしたいのね?」
『そうじゃ、早くあの元気な子のことを――――いや、もういい。もうこんな三文芝居も必要ないだろう』

 

老人の声は、急に途切れた。それから聞こえるのは弱弱しい老人の声などではなく、くっきりとした声。

 

「レイ……? どうしたの? 傍受されたら困るからって最初こうしようって言ったのはアンタでしょ?」
『もうあれは無意味だ。……ステラの存在がクリエイターに察知された。あのテロリストはヤツらの差し金だ』

 

声の主は、ルナマリアの旧友。緊張を孕んだ声が受話器越しに伝わる。
それに対し、ルナマリアは「そう……」とだけ答えた。

 

薄々感づいていたのだ。最新鋭のゾロ数機をそろえられる潤沢なテロリストなど、いるわけがない。

 

『すまない。〈ウィード〉の幹部として、総力を挙げて情報の隠ぺいを続けていたんだが……力が及ばなかった』
「いいのよレイ。どうせいつかはバレると思ってたし。……あと半年、だっけ? 
私こそ、アンタの短い人生をあんな馬鹿のために使わしてごめんね?」
『それは気にするな。おれはこの時、この瞬間もあの二人の子を守る使命を持ったことに誇りを持っている。
俺は、ギルの時のような与えられた運命ではない自分自身の運命……使命ともいうべきものを、
初めてこの手でようやくつかみとれたからな』

 

「……運命ね。ねぇ、あの子が敵を撃破した白いMSに乗っていたって事件の後に聞いた時、どうだった?
私はまず『やっぱり』って思った」
『奇遇だな、俺もだ』

 

それを聞いたルナマリアは、ふふっと軽く笑った。やはり考えることは同じか。

 

「でしょ? 今まで育ててきたけど、あの子はいつも力があったらまず他人のために使って、自分は二の次。
勉強じゃあ歴史と数学の点数が悪くて手先は不器用。小さいころから軍人仕込みの訓練をさせていたけど、
その中でも特にMSの操縦――特に近距離でのセンスは群を抜いてる。
ホント、どこもかしこもアイツそっくり。……運命っていうのを信じたくなったわ」
『ルナ……』
「わかってる。アイツはあの子に戦い方を教えた私を憎むでしょうね。でもあの子は、私の一番の宝物なの。
死んでほしくないから、生きる術をしっかりの叩きこんだつもり。地獄であいつに罵られるのは私だけで十分よ」
『そのことなんだが……』
「何?」
『――いや、なんでもない』
「……? でもさぁ、聞いてよ。あの子に銃の扱い方を何度も教えても、弾が逸れてるみたいに絶対にマトに当たらないのよ。
街のヤンキーには『金殺しのホーク』とか言われるくらいケンカだけは強いらしいのに。
それに自分に素直すぎるし、はっきりモノを言うトコは誰に似たのかしら?」
『…………誰に似たのか、まだわからないのか? というか金殺し……』
「全然。――あ、もうこんな時間。あの子のエサの準備があるから、切るわね」
『ああ、こちらもウィードの皆に呼びかけてみる。もし何かあったら地球で匿うつもりだ』

 

了解の意を伝え、ルナマリアは受話器を置いた。
そして重い吐息をつく。

 

「たっだいま~!!」

 

元気な声がリビングにまで届いた。
――さぁ、エサの時間だ。