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SCA-Seed_SeedD AfterR◆ライオン 氏_第07話

Last-modified: 2009-10-27 (火) 07:44:50
 

かつて、戦争があった。

 

実質的な戦争の期間はそう長くはなかった。
少なくとも旧文明で統合戦争と呼ばれる戦乱に比べれば、一瞬に等しい出来事であった。
ヤキン・ドゥーエ戦役、そしてユニウス戦役と呼ばれる戦いは、
三年という短期間で膨大な生命ごと何もかもを焼き尽くし、地球に深刻なダメージを与えた。

 

二度も繰り返された戦争は、クライン派の介入を経てやがて勝利する者もないまま
自然消滅的に終結を迎える。
しかし、地球に住む人類はこの時点で地球に住む同胞の何割かを失い、
プラント側も大規模な損害を受けていた。
だが一番の問題は地球の荒廃であった。

 

ジェネシス、レクイエム、ブレイク・ザ・ワールドなどの人類が生み出した英知は
惑星の魂そのものを削り取っていたのだ。
農作物など食糧の値段は急騰し、地球連合軍が壊滅したことで治安は悪化の一途をたどっている
荒廃した地球で、地球人類は先の見えぬ明日に途方に暮れることとなる。

 

そんな中で人々に救いの手を差し伸べたのは、クライン派の人々であった。。
彼らは過去の騒乱でズタズタにされた地球を保護管理し、人類を滅ぶべき運命から救済すると宣言。
すぐさまオーブを同盟国とし、最強の私兵団『歌姫の騎士団』という圧倒的武力のもと
地球を査察という名目で蹂躙。
数年もしないうちに、ラクス・クラインは実質的な地球圏の新たな支配者となった。
上層部が軒並み崩され、再編に忙しい地球連合軍はこれを静観。
地球に住む人々は地球圏を二度も守った英雄たちを歓迎した。
戦いに疲れた人々は彼らの唱える永遠の自由と正義を歓迎した。

 

それから20年。
彼らの庇護の元で地球人類は再び歴史を刻み始めたのだ。

 

〈『コズミック・イラの歴史』 C.E150年発行 第4版より〉

 

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~ライオン少女は星を目指す~
第七話「アレックス・ディノと血に飢えた魔剣」

 
 

黒海に面した都市、ディオキア。
豊かな生態系を擁している黒海にささえられ、観光リゾート地や漁業の盛んな場所、
他にも地球査察軍の大規模な軍事基地があったり
機械系の大手メーカーの工場が密集した場所としても知られている。
そんな田舎から大都市と言えるまでに発展したその街で、事件は起こっていた。

 

――ディオキア繁華街 
『いいな、これは緊急の依頼だ。よって傭兵組合が攻撃許可を出すまで待機だ。連絡はこちらから出す』
「……はぁ」
『何故そこでため息をつくのだ。貴様、コーディネイターだろうに!』
「ですから、コーディネイターだからってなんでもできるわけじゃあ……」
『この際そんなことはどうでもよい! せっかくモビルスーツを持っているのだろうが! 
 約束どうり、この依頼が終われば入国を許可する! よいな! 返事は了解以外許さん!』
一方的に通信を切られ、コックピットのシートに座る青年はがっくりとうなだれた。

 

「むちゃくちゃだ……」

 

長めに伸ばした黒い前髪をさっと掻き上げ、一人の傭兵アレックス・ディノはスロットルを握りなおす。
今彼がいるのは、繁華街外れのMS運搬用のトレーラー。そこに搭載しているMS"シャッコー"の中だ。

 
 

事の始まりはこうだった。
いつも世話になっている伯母から呼び出しをくらい、数日かけて黒海沿岸まで来たのが昨日。
そして今日、政府役所でモビルスーツを持ったままの入国審査を受けている時、
役所側から飛び込みで依頼が入った。
依頼内容は、街中でテロを行っているテロリストの鎮圧。
地球軍は依然、軍を派遣する意志はないらしい。
だからこそ市民の安全を守る市長として、査察軍の手が伸びないうちに敵を排除、
もしくは拘束しなければ政府から無能者の烙印を押されてしまう。
だからこそ、もし失敗したとしてもアシがつかない傭兵はこの事件に適役だった。
それに、地球軍が動かないのも理由がある。

 

かつての地球連合軍は20年前に今の統一連合軍に編成されたというものの、
長きにわたる平和の中で、プラントが派遣した地球査察軍――かつてはザフト軍と呼ばれていた――に
地球上を支配されてから、すっかり形骸化してしまった。
プラントの大企業「ファクトリー」にモルゲンレーテなどの地球の企業は
ことごとくコンペティションで敗れ去り、まともな兵器、人材を得ることが難しくなった現在の地球軍では、
ビームシールドすらも標準装備していない20年前の「ウィンダム」、もしくはその改良機が現役である。
もちろんそんなガラクタ同然の機体では、どこからともなく最新鋭の装備を仕入れてくる
テロリストたちに通用するはずがない。
(ちなみにテロリストたちのMS『ゾロ』とウィンダムでは1:5ほどの戦力差があるといわれている)
だからこそ今、世界中ではモビルスーツを持った傭兵がジャンク屋に機体のチューンを施され、
それぞれジャンク屋と同じように組合を作り、金のため、ある者は使命感、正義感によって
人々のための剣として日夜戦っている。

 

そこでアレックスはゆっくりと、敵にバレないように迷彩を施したモビルスーツ
『シャッコー』の機体に火を入れた。
機体全長は16mほど。機動性隠密性ともに優れたバッテリー機である。
機体頭部に装備された通称『ネコ目』『キツネ目』とも称される集光複合メインカメラに灯がともり、
センサー防御用シャッターが人間のまぶたがまばたきするように開閉した。
メインモニターに表示された外のリアルタイム映像を見て、アレックスは驚くとともに悪態をつく。
「くそっ、なにがテロリストの数はたった三人だ。モビルスーツがあるなんて聞いてないぞ!」

 

『我々は地球解放同盟である……ダワ!』
半壊した映画館の前でテロリストと思わしき人物が声を張り上げて叫んでいる。
リーダー格と思わしき赤い髪の男が、妙な語尾をつけたまま演説を始めた。
彼らを包囲している警官たちの銃口に怯む様子もない。
どのテロリストも言ってる内容は基本的にいつも同じ。
これは腐敗した地球統合軍への警鐘だ、
プラントは一刻も早く査察軍を地球上から撤退させろ、
地球人類は今こそ立つべきだ、etc。
しかしそんなことよりもアレックスが気になっていたのは、テロリストらの背後に立つ巨大な影。
モビルスーツだ。
『ゲドラフ』という名のその機体は、この時代では非常にポピュラーな機種だ。
全長14mとただでさえ小型のシャッコーよりも一回り小さく、
ずんぐりむっくりな外見に反してバッテリー機の中でも比較的パワーがあり、
ジャンク屋が作業用としてよく好んで使用している。
そのため入手性だけは高いのだが、絶望的なまでに機体の機動性が低く、
本来はとても戦闘には耐えられるものではない。

 

しかし、そのゲドラフは違った。
その機体は手足のハードポイントにありったけのロケット、ビームガン、機関銃を装備していたのだ。
それは一歩間違えればあたりが火の海になるのは確実なほどの火力。
さらに運が悪いことに、モビルスーツが物珍しいのか、
警察が作ったバリケードの向こうに野次馬が群がっている。
青ざめたアレックスの額にさっと冷や汗が流れる。前髪が額に張り付いて気持ち悪い。
メインモニターから目を離すと、フットペダルを踏む足が震えているのがわかった。
あの大量の火器が解き放たれれば、いったいどれだけの被害が出るだろうか――

 
 

(逃げて、ニコル!)

 

炎に焼かれた屋敷、崩れ落ちる瓦礫、自分を覆いかぶさるようにして守る人物。

 
 

「……っ!!」
煩悶が襲うアレックスの脳内に、昔起こった『あの事件』の光景がフラッシュバックする。
自分は傭兵だ。死ぬのはいい。だが、目の前の罪なき人が死ぬのは許せない。
だからこそ傭兵になったんだ。『あの事件』を繰り返さないために。
「くそ、くそっ……!」
何をしているんだ。さっさと逃げろ。何でカメラを構えているんだ。見世物じゃないんだぞ。
身勝手な市民たちの行動に腹が立つ。しかし、それ以上に目の前の惨状に脅えている自分がいた。
様々なことから逃げ出したい自分が、ここにいた。

 

「まだか、まだなのか!」
政府からは以前、応答なし。口ではそういうものの、足の震えは止まらない。
『よって我々はこの街にいる同志"ウィード"に助力を請い、
 今こそナチュラルによる真の自由を手にする……バリ!』
テロリストの一人と思わしき妙な髪形の人物が二の句をつなげる。
ウィード。聞いたことがある。確か何年も前から活動しているレジスタンスの一つで、
その実態はどこかの大企業の下部組織だとも。
そして、ロミナ母さんが言ってた――

 

『あ、コラ! キミ、戻りなさい!』

 

アレックスの思考は、高性能集音マイクが拾ったバリケードを形作る一人の警官の声にさえぎられた。
『おい、誰か止めろよ!』
『キミ! は、早く引き返しなさ――い!』
すぐさまセンサーの倍率を上げ高解像度モニターに映る現場に目をやると、
野次馬をかき分けて現れた一人の少女が警官の横を素通りし、
バリケードとび越えテロリストたちの前にずかずかと歩み寄っていく。

 

アレックスはその少女を見たとき当然の様な疑問を抱いた。
「なんだ? なんでこんなところに女の子が!?」
細い体つきにしなやかな手足。輝くように白い肌。
まるで風にたなびく草原のような短い金髪は、光を受けていっそう輝いているように見えた。
きれいに整った顔立ちはもちろん、特に印象的だったのはその目だろう。
愛らしく、純真な少女らしいルビーのような紅い瞳は、とてもまっすぐな目をしていた。
おそらく年は10代後半である自分と、そう変わらないだろう。
ただ、その細い手に持つ数枚の小さな紙切れと棒状の"何か"が少しだけ気になった。
そのまま少女はリーダー格と思わしき赤毛の男と、もう一人の妙な髪形の男の前に立ち止まる。

 

『な……何者バリかお前!? 後ろのMSが見えないのかバリ!?』
『あ、わかったダワ。さてはお前、派遣された査察軍の狗ダワね? けど無駄ダワ。
 アイツらコーディネイターはいつも偉そうにしているクセに、
 我々地球軍の給料をピンハネしてセコいって』

 

『……よくもっ!!』

 

リーダー格の男の言葉は、途中で止められた。
理由は至極簡単。少女が一瞬のうちに跳躍して、男の横っつらに強烈な蹴りを叩きこんだからだ。
横回転しながら放つとび蹴り――ローリングソバット。その一撃で男はその場に崩れ落ちた。
リーダー格の男が一撃で倒され、目に見えて動揺する奇妙な髪形の男。
すると少女は手に持った棒状の物体……もとい大きめのナイフ、
いや短剣といっても差し支えのない大きさの刃を鞘から抜き、切っ先を崩れかけた映画館の看板に向けた。
やけに豪華な意匠が施されたその短剣が陽光の光を反射してきらりと光る。

 

『な、お前何するバリ!?』
『……約束、してたの』

 

少女はうつむきながらぽつりとつぶやいた。肩がわなわなとふるえている。
『ミーアとね、今度の休み、一緒に映画を見ようって。なのに』
その少女の纏い始めたその雰囲気に、観衆が息をのむ。
手に握られた小さな紙切れは、映画のチケットか。アレックスは一人納得する。
『バ、バリ……? お前いったい何が言いたいバリ!?』

 

『ギャーギャーやかましい――ッ! あたしは昨日親知らずを抜いて痛くてカリカリしてんのよ!』

 

「―って逆恨みかよっ!?」
アレックスはシャッコーのコックピットで一人ツッこんだ。

 

しかし少女の攻撃はまだ終了していなかった。
少女は膝を曲げると力いっぱい振りおろし、リーダーの男の鳩尾にブーツのかかとを埋めた。
『ダワッ!?』
『アンタ達さえ……アンタ達さえいなければ! せっかくおじいちゃんからもらったプレミアムチケットが!』
おらおらおらおら! と吠えながら何度も何度も少女は男に蹴りを入れ続ける。
リーダー格の男はそのたびに珍妙な声を上げて身体を震わせた。
唖然とする野次馬と警察の間に何とも言えぬ空気が漂い始める。

 

「な、なんだなんだ、何なんだ!? どこのバカだアイツは!?」
そこで、アレックスの狭くない額がキラリと閃いた。
ここに来る前にルナ伯母さんがしゃべっていた情報。

 

伯母いわく――その人物は金髪の女の子である。
伯母いわく――頭のネジが5,6本飛んじゃっている。

 

つまりその人物は――平たく言えば――“バカ”である。
名前は確か……ステラ・ホーク。

 

(ま、まさかコイツ……)
『さぁ覚悟しなさい。アンタ達はあたしを怒らせた。
 そして、今宵のあたしの魔剣は血に飢えているんだから!』
少女は――ステラは、手にした短剣を流麗な動作で右手に持ちかえた。
嫌な予感がする。
そう言えば今朝のTV番組『カリスマ占い師ミツーオ・フクダの星占い』によると、
今日のおとめ座の運勢は最悪で、女難の相が出ていたことを思い出す。

 

そこでようやく、腹部を押さえフラつきながらリーダー格の男は立ちあがった。
『よ、よくも我々ディオキア反乱組合相手に、なめた真似をしてくれた……ダワ!』

 

(さっきと名前が違っているし……)
アレックスは再びツッこむ。地球解放同盟じゃなかったか?

 

『ホ、ホントは弾薬費がもったいないからやりたくなかったバリが……ウィッタ――! 
 さっさとMSを起こすバリ――! というよりお前さっきからずっと寝てたバリね――!』
その刹那、周囲の空気が変わったのを感じた。テロリストのモビルスーツが動き始めたのだ。
ゲドラフのメインカメラに光が灯り、右腕が振り上げられるだけで
周囲の野次馬たちは何か見えない力に押されるように悲鳴を上げながらぐぐっとその輪を後退させた。
流石にステラも驚き少し後ずさる。
警官が頭部に向けて銃撃を試みるも、改良型発泡金属製の装甲はそんなものでは傷ひとつつかない。

 

(くそっ……まずい……!)
ずっと昔に忘れていたはずの感情がアレックスの心臓を鷲掴みにする。
『我々が本気だということを思い切り思い知らせてやるのダワ!』
リーダーの男が右手を振り、ゲドラフの右手のビームガンが足元のステラを照準に収める。
《傭兵、聞こえるか》
「なんですか!?」
《傭兵組合からようやく戦闘許可が出た。しかしできるだけ事は穏便に――》

 

次の瞬間、アレックスが操縦するシャッコーはMSトレーラーの天井を突き破り飛び出していた。
考えなど、何もなかった。