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SCA-Seed_SeedD AfterR◆ライオン 氏_第07.5話

Last-modified: 2009-10-27 (火) 07:40:13

華やかなディオキアの街。その裏路地を抜けた先に、ある小さなレストランがある。
くたびれた店の扉には『開店中』を示す札。
その昼すぎの少々薄暗い店内で、一人の女性が遅めの昼食を食べていた。
丈の短い着なりのジャケット、かかとを低めにしたハーフブーツに加え抜群のプロポーション。
さっと短めの赤い髪を掻き上げるしぐさだけで、並の男なら骨抜きになってしまいそうなほどの
妖艶さがある。

 

「あいかわらず流行ってないわよねぇ、ここ」
テーブルに座る赤毛の女性が一口サイズのハンバーグを口に運ぶ。
「バカを言うな、ルナマリア」
厨房の奥から声がして、白い調理服を着た老人が現れた。

……”老人”である。
白髪の混じった金髪とシワの寄った顔つきの中に、かつての美貌が垣間見える。
しかしその足取りは重い。
その昔、機動兵器に乗って戦っていた際のGや戦場でのケガが老体に響いているのだ。

 

「もうすぐ夕食時だろう。本当に大変なのはこれからだ」
焼き立てのパンを入れたバケットを持って女性と同じテーブルに着く。
女性が見わたしても、こじんまりとした店内でテーブルについているのは二人しかいない。
「けど昔、レイがいきなりレストランなんか始めるって言い始めたときは、
 いったいどうなるかと思ったわ。でもなんでアンタがレストランなんか?」
「さて、な」
レイと呼ばれた老人は皺だらけの頬をほころばせた。

 

『あ! 犯人が出てきました! モビルスーツです!』
その声に、二人は一様に店内のディスプレイに目を向ける。
『こちらは、現在ディオキアの街上空からのヘリの映像です!
 繁華街の中心で地球解放戦線と名乗る武装集団に――』
店の備え付けのディスプレイに緊急のニュースが流れている。
外からけたたましいヘリのローター音や、警察の車両がサイレンを鳴らす音が聞こえる。
「なんか物騒になったわよね、このへんも」
「ああ。ここ最近は特にひどい。もっとも、20年前に比べればまだマシにはなったがな」
そこで、ルナマリアの顔つきが引き締まった。

 
 

――こんなの、いつか終わるよ。
――また誰かがやってくれるさ。

 

そんな事態の本質を理解していない人々の行いの果てに、
この20年間で世界は次元がずれたかのように様変わりをしてしまった。
地球軍が腐敗し形骸化したせいで治安は乱れ、企業が倒産し、多くの人材と技術が流出した。
俗に言うクライン派の『大きな力は争いを呼ぶ』という美辞麗句だ。

 

だが、それがいけなかった。
その結果、世界のパワーバランスを一変させ、
テロリストは連合軍以上の最新鋭装備を装備して我が物顔で暴れまわり、
逆にそれらから人々を守るため市街では小型MSに乗った傭兵が街を闊歩する。
爆発や銃撃戦など日常茶飯事。時にはMS同士の格闘戦も繰り広げられる。

 

――この世界は異常だ。狂っている。

 

何度もそう耳にした。実際、20年前はただのザフト兵だったルナマリアはそう肯定する。
しかしこのディオキアの街はまだ天国の様なものだと、ルナマリアは思う。
年頃の女の子が買い物をするような繁華街には戦車と装甲車があるわけでもなく、
海辺沿いの道にトーチカと防空壕が幅を利かせていることもない。

 

「“グロリアス”と“アラグサ”の開発のほうはどうなの?
 もうここが査察軍にバレるのも時間の問題のはずよ?」
「なに、"そっち"はすでに手をまわしてある。ミーアがもうすぐOSの構築が完了すると言っていた。
 ――今は、息抜きに外へ行かせている。これがまた、ずいぶんと喜んでくれてな」
そこでレイは、嬉しそうにそわそわしながら映画のパンフレットを取りだした。

 

『劇場版 真・Gカイザー VS ネオプランA!!』

 

と書かれたタイトルをバックに、巨大な黒いロボットと股間に刀を握った珍妙な形の物体が
向かい合ってお互い火花を散らしている。

 

「そういえばルナマリアこそ、信頼できる人材というのはいつ来るんだ?」
「もうすぐ着くはずよ。昨日、地中海沿岸に到着したって連絡があったわ。
 ま、あいつならなんとかなるでしょ」
思わずルナマリアは懐に手を伸ばしタバコを取りだそうとしたが、
店内が禁煙だったことを思い出し、やめた。
どこかぼんやりと、窓の向こうの青空を見つめつつ、
ハンバーグに添えられた人参スティックをタバコ代わりにくわえる。

 

「もう20年かぁ……」
二人がミネルバに乗っていたのが20年前。
"あの事件"から10年近くが経つ。

 

「本当にステラとミーアはいい娘に育ってくれた。
 よく笑い、駆けまわり、こんな時代でも元気で心豊かに育ってくれた。
 贅沢をさせてやれなかったのが唯一の心残りだ」
レイは目を細め微笑み、頷いた。
「いい娘? 私の若い頃にに比べたらまだまだガキンチョよ」
「そうか? 最近はめっぽう綺麗になった。しかし、ステラは本当にお前の若い頃にそっくりだな。
 とにかく明るく元気で思いやりがあり、面倒見もよく、なにか人を引き付けるものを持っている」
レイのその言葉は、まさに孫がかわいくてかわいくてしょうがない老人のそれであった。
ルナマリアはふふんと鼻で自慢げに笑う。
「でしょ? 私の教育がよかったのよ、教育が」
「他にも頑固で猪突猛進で後先を考えて行動しないところや、フォローする側のことを考えず
 物事を突っ走るところなど、まるで瓜二つだ。確かに教育の賜物だな」
バツが悪そうにルナマリアはそっぽを向いた。
「へ、へ~……。月日が過ぎるのは早いってのは本当ね~。もうあれから20年近くたったのね~。
 20年前の私ははもっとこう……あの子以上のピチピチで」

 

「『光陰矢のごとし。少年老い易く、学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず』」

 

「なによそれ? なにかの呪文?」
「幼少より学問を志しながら、そろそろ老いを迎える年齢になっても、未だ大きな成果を果たせずにいる。
 もはや残り少ない人生だからこそ、ほんの瞬きする刹那ですら、時をおろそかにしてはならないのだ。
 ――という、アジアのことわざだ」
「……ようするに?」
「過去の栄光を思い返している暇があるなら、現在の自分を磨く方が時間を大切にできるということだ、
 ルナマリア」
ルナマリアはうげぇ、と露骨にいやな顔をして、
「……ねぇ、アンタ昔っからじじむさかったけど、さらに拍車がかかってない?」
「はて、最近歳のせいか物忘れが激しくなってな。何のことかさっぱりわからんな」
「こ、このボケ老人が――って、あら?」
ルナマリアががらりと真顔になってモニターに注視し始めた。口直しにカップに入ったコーヒーを飲む。

 

『こちら、現在テロリストが大規模なデモを行っている現場です!
 現場は凄惨な状況で背後の映画館はすでに半壊しており、
 市議会は辺境査察軍に出撃要請をかけました!』
ディスプレイには、先ほどと変わらぬレポーターが必死の形相で中継を行っている。

 

「どうした?」
「ねぇ、この現場って、あの子とミーアが出かけて行った映画館の前じゃない?」
「……そういえばそうだな――む?」

 

『おや、現場の様子が……?』

 

〈お、お姉ちゃん!? なんで!? 何やってるの!?〉
〈バカ! 戻ってこい! 何考えてんだお前!〉
〈危ないぞ、危険だ! 早く逃げろテロリストのおっさん!!〉

 

画面のレポーターの声がすこしうわずった。
そしてレポーターが映るカメラの端っこに、ピンクの髪の毛や金髪のツンツン頭などが映り、
なにやらきき覚えのある声が複数聞こえてくる。

 

「ミーア……だと?」
「それにスティングくんとアウルくんよね、今の……」
嫌な予感しかしないルナマリアは、気分を落ちつけようとコーヒーを口に含んだ。
冷や汗が首筋を伝う感触が気持ち悪い。

 

『……と。あ、女性……いや金髪の少女が警察の制止を振り切り、バリケードをとび越えました! 
 そしてそのまま――強烈なとび蹴りっ!?』

 

画面の向こうで金髪の少女――ステラがとび蹴りを放つ様子が流れ、ルナマリアはコーヒーを噴き出した。
レイは瞬時にトレイを盾にして防ぐ。
『おぉ~と、これはいい蹴りが入った~! テロリスト、ダウン! ぐったりと動かない!』
画面の向こうでは、ステラがテロリストを踏みつける映像が中継で流れている。
レイが汚れた床を見て眉間にしわを寄せた。

 

『謎の少女、さらに追い打ちをかける! しかしなんだか手慣れているぞ!?』
「な、な……!」
ようやく出た声には怒気が含まれていた。
咳き込みつつルナマリアはダン、と両手をテーブルに叩きつけた。肩を怒らせながら立ち上がる。

 

「……あンの、ド馬鹿娘ぇぇぇ!」

 

扉を鳴らし、ルナマリアは夕暮れに差し掛かろうとしているディオキアの街に飛び出して行った。