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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第05話

Last-modified: 2013-10-25 (金) 02:28:42

 「これではっきりした! アーモリー・ワンの事件は、やっぱり連合軍の仕業だったんだ!」
 襲い掛かってきたウインダムの右腕を、左手に持たせたビームサーベルで切り落とし、
ビームライフルでその頭部を撃ち抜くと、素早くカメラをその方面へと向けた。
 「俺たちの目の前で奪っておいて、抜け抜けと!」
 追撃のビームがインパルスに注がれる中、シンはそれをかわしながら照準の中心に深緑
色のモビルアーマーを捉えた。シンの紅い瞳が上下左右に動いて、他の機体の存在も確認
する。
 水中を潜航するアビスは、視認できなかった。一方のガイアは、地形的な制約を受けて島
の高所から背部のビームキャノンによる砲撃を繰り返していた。そうなると、ターゲットは自
ずとカオスに絞られた。
 シンはチラとセイバーの位置を確認すると、インパルスに加速を掛けた。相手も察したの
だろう。モビルアーマー形態のカオスは猪突猛進なインパルスに向けてカリドゥスの強力な
ビームを放つと、インパルスがそれを回避している間にモビルスーツ形態に変形し、尚も迫
撃してくるインパルスに対して横にスライド移動しながらビームライフルで迎え撃った。
 インパルスの動きをフォローしていたカメラが、カオスと交戦状態に入ったことをシャア
に教える。シャアはそれを確認しつつも、複数方向にビームを散らして敵を分散し、インパ
ルスとカオスの対決への他の介入を妨害した。
 しかし、シャアの目が追うのは、それらではなかった。
 「あれは間違いなくΖだった……カミーユまで飛ばされていたというのか……!?」
 シャアが見てしまったもの、それは、ウェイブライダー形態のΖガンダムであった。
 パイロットの確認をしたわけではない。だが、シャアには分かる。感覚として、ウェイブ
ライダーを操縦しているのがカミーユ・ビダンであるという確信があった。シャアも、ニュ
ータイプの端くれであった。
 「接触できれば……!」
 UNKNOWNと表示されたウェイブライダーの反応は、既にロストしていた。シャアのいる
戦域を抜けて、ミネルバへと向かったのだ。
 今すぐにでも接触して、自分の存在を伝えたかった。しかし、シャアにそれを追ってい
る暇は無かった。敵は、シャアの都合になど構ってはくれない。
 「シンは陽動に掛かっていることに気付かないのか?」
 シンが、カオスとの戦いだけにのめり込んでいっているように見えた。ガイアの支援砲
撃の仕方を勘案しても、カオスは明らかにインパルスを誘導している。シンが、それに
まんまとはまっていることは明白だった。
 「腕は確かでも、少年だな!」
 シャアにも動揺と焦りがあった。それが、シンを詰る言葉となって口から出てきた。ウェ
イブライダーの出現は、シャアにとっても全くの想定外だったのだ。
 シャアは、焦りを自覚するからこそ急いだ。シンをいつまでもカオスと遊ばせておくの
は、得策ではないと思った。
 モビルアーマー形態に変形し、アムフォルタスビーム砲で進路上のウインダムを排除す
ると、そのスピードを最大まで加速させて一気に突き抜けた。そうして射程距離にカオス
を捉えると、変形を解いてビームライフルを連射した。
 しかし、カオスの反応は早い。インパルスと接近戦を続けていたカオスは、セイバーの
接近を察知すると早々に間合いを開いて、シャアの射撃に備えたのである。そればかりで
はない。カオスの大推力の根幹である二基の大型ブースターポッドは、それ自体が本体か
ら分離して、有線式の機動兵装ポッドとなる。カオスは、シャアに対してそれで反撃をし
てきたのだ。

 それは、攻撃ユニット自体が大型で、キュベレイのファンネルほどの脅威は無かった。
しかし、地上からのガイアの支援砲撃が、対応を難しくさせた。シャアはそれらの砲撃か
ら逃れるために、安全圏まで離脱する必要を迫られたのである。
 「チィッ……!」
 梃子摺らされている自分に苛立ち、舌打ちを漏らす。
 シャアはビームを散らして一時的にガイアを退かせると、素早く反転してインパルスと
カオスの戦闘に突撃した。その僅かな時間が勝負だと、シャアは決めていた。
 インパルスは、機動兵装ポッドの動きを嫌って、強引な接近戦を試みていた。狙いが明
け透けであれば、当然、カオスがそれに付き合うはずがない。しかし、そのインパルスの
追い込みは、シャアにとっては支援となった。インパルスの大振りの斬撃をかわしたカオ
スに、シャアは間隙を突いて猛スピードで肉薄したのである。
 驚きながらも、カオスは反応した。シャアもその反応速度に目を見張りながら、しかし、
もう遅いと確信していた。カオスが機動兵装ポッドで迎撃するより前に、セイバーの右手
に握られたビームサーベルが唸っていた。
 カオスは辛うじてシールドによる防御が間に合ったものの、加速に乗せて殴りつけられ
るようにして繰り出されたセイバーの一撃は重く、著しくカオスのバランスを崩すことと
なった。
 「――んなろぉっ!」
 パイロットのスティング・オークレーは、苦々しげに蛮声を張り上げた。だが、息をつ
く暇も無く、追い立てるような警告音がスティングの気持ちを逸らせた。インパルスが、
横合いからカオスに迫っていたのだ。
 「お前たちはよくもーっ!」
 「こいつっ!」
 ファイアフライ誘導ミサイルで迎撃したものの、シールドを前に突き出したインパルス
には通用しなかった。それでなくとも、実体弾は無効化してしまうフェイズシフト装甲を
展開中である。煙幕が立ち込めた次の瞬間には、それを突き抜けてきたインパルスが
カオスに激突した。
 「うぐっ……!」
 加速に乗ったインパルスは、シールドで体当たりをしてきた。物理的ダメージを遮断し
てしまうフェイズシフト装甲がダメージを防いでくれてはいたが、その衝撃までは相殺す
るに至らず、カオスはきりもみ気味に墜落していった。
 「くそっ! こんな奴らなんかにっ!」
 スティングは、自身の窮状が許せなかった。そのプライドが、無理な抵抗へと駆り立て
た。スティングは分離していた機動兵装ポッドを手繰り、それで同様にバランスを崩して
いたインパルスを狙おうとした。
 しかし、そのスティングの意地は、次の瞬間、あっさりと挫かれた。横合いから一閃し
たビームが、機動兵装ポッドの一基を貫いたのである。
 「狙撃――ポッドをか!?」
 目の前で火を噴いて爆散する機動兵装ポッドに、スティングは目を見張った。カメラが
オートで狙撃者を追尾し、スティングの左側のスクリーンにその姿を表示した。紅のモビ
ルスーツが、今は下方向からのビームをかわして、ダンスを踊っていた。
 「ガイアの支援……!? ――ステラにケツを持たれたら、退くしかねえ……!」
 カオスの生命線とも言える機動兵装ポッドの一基を失った。付け加え、ガイアの懸命な
支援砲撃を目の当たりにすれば、スティングは自らの意地よりも身の安全を優先するしか
なかった。

 
 それは、感情を刺激される感覚だった。
 忘れようにも忘れられない感覚である。神経を逆撫でにするその感覚の持ち主を、ハマ
ーンは否応なく感知していた。
 ハマーンは直感的に部屋を飛び出し、甲板へと走った。甲板への扉は、当然のことなが
らロックされていたが、しかし、被弾して穴が開いた部分から、都合よく甲板に出られるよ
うになっていた。
 「因果だな……」
 ハマーンは自嘲っぽく言うと、そこから甲板に出た。
 ミネルバの周囲に、十数機の敵が展開していた。海面からも水柱が上がっているのを見
て、海中から攻めてくる敵もいるようだとハマーンは感じ取った。
 左右のカタパルト部分の上部甲板では、二体のザクが抗戦していた。懸命に抗戦しては
いたが、所詮は甲板から迎撃するのが精一杯の、固定砲台も同然の二体である。その上、
感覚で敵の動きを捉えるハマーンから見れば、目で追うだけのレイとルナマリアの狙いは
あまりにも稚拙に見えた。
 「……あれか!」
 空と海からの攻撃を受け、ミネルバは激しくうねっていた。ハマーンは、立っているのもや
っとの状況の中、無数のウインダムが飛び交う青空の中に、まるで吸い寄せられでもする
かのようにその姿を探し当てた。
 航空機のシルエットである。太陽の光で少し目が眩んだハマーンであったが、ハッキリと
その形を認識する必要は無かった。意識をそのシルエットに向けるだけで、パイロットの存
在を認識できるハマーンにとって、網膜が映す情報はついででしかない。
 「カミーユ・ビダンめ!」
 叫んだ時、ハマーンの近くにビームが着弾した。辛くもそれを逃れたハマーンであったが、
衝撃でバランスを崩し、ミネルバから転げ落ちそうになった。
 「……えっ!? 何でいるのよ!?」
 ルナマリアが、そんなハマーンの危機に気付いた。慌ててザク・ウォーリアの腕を伸ばし、
海に落ちようかというハマーンを、寸でのところで救助した。
 しかし、その隙を突かれた。ハマーンを受け止めて立ち上がった瞬間を狙われて、左膝
を撃ち抜かれてしまったのだ。左足の支えを失ったザク・ウォーリアは大きくバランスを崩
し、ミネルバの壁にぶつかるようにして尻餅をついた。
 咄嗟にオルトロスを手放して、両手でハマーンを包み込む。それが奏効して、ハマーン
は無事だった。ルナマリアは一先ずそのことに安堵したが、ハマーンに対する憤りはあっ
た。
 「どうしてこんな所にいるんですか!」
 外部スピーカーで、指の隙間から上半身を乗り出したハマーンを怒鳴りつけた。しかし、
そんなルナマリアの憤りを無視しているかのような態度で、ハマーンは眉根を寄せて上空
を見上げるばかりだった。その態度がルナマリアには余計に腹立たしく、いっそのこと、
このまま海に放り投げてしまおうかという考えが、一瞬だけ脳裏を過ぎった。
 「何をしている! 武器も持たずに!」
 ルナマリアが被弾したことに気付いて、反対側の甲板に陣取っていたレイが移動してき
た。レイは叱責しながらもルナマリアの防御に入り、上空のウインダムに抗戦した。
 「ゴメン!」と、理不尽さを感じながらもルナマリアはレイに謝った。

 ところが、そんなレイのザク・ファントムを、邪魔だと言わんばかりにハマーンが何かを
喚き立てた。砲撃の音でハマーンの声は掻き消されて、何を言っているのかは分からない。
 「自分が迷惑を掛けてるって自覚、無いのかしら!」
 ルナマリアは不満を口にしながらも、集音マイクの調整をした。そして、調整が済むと
マイクがハマーンの声を拾い上げ、コンピューターが自動でノイズを除去し、スピーカー
からはクリアになったハマーンの声が届けられた。
 「私を乗せろ!」
 「はあ!?」
 何を言い出すのかと驚かされた。しかし、ハマーンを守りながらでは、戦えないのも事
実。それならば、いっそのことコックピットに入れてしまった方が良いのではないかとル
ナマリアは考えた。
 「単座なのよ、これ!?」
 ルナマリアは文句を言いながらもハッチを開き、マニピュレーターに乗せたハマーンを
コックピットに招き寄せた。ハマーンは近くまで寄ってくると、軽やかにジャンプし、ルナマ
リアのいるコックピットに乗り込んできた。
 狭いコックピットスペースに、女性とはいえ二人は厳しい。「余ってるザクで来て下され
ば良かったのに」とルナマリアは指摘したが、それは無駄な一言だと口に出してから気
付いた。ハマーンは、自らザク・ウォーリアを動かすことを嫌忌していたことを思い出し
たからだ。
 ハッチを閉じると、「白いザクに繋げろ」と当然のように命令された。
 「りょーかい!」
 最早、何も言うまい――ルナマリアは半ば諦めたようにレイのザク・ファントムと通信
を繋げた。
 「……何なんだ!?」
 サブスクリーンのレイは、ルナマリアの横にハマーンがいるのを認めると、色々な意味
を込めてそう言った。
 「レイ・ザ・バレルとか言ったな? そのまま壁になるのだ」
 「壁……? 盾にはなってやってるでしょう!」
 レイが反論した時、ミネルバの艦体が一際揺れた。カタパルト付近にビームの直撃を受
けたのだ。
 ハマーンの目が、その姿を追った。ミネルバの対空砲撃で思うように攻撃を仕掛けられ
ないウインダムが多い中、ウェイブライダーは、手数こそ多くなくとも的確なダメージを与
えてくる。
 また、ミネルバが振動した。今度は船底にダメージを受けた。海中のアビスの攻撃によ
るものだ。だが、ハマーンは敢えてそれには構わず、ウェイブライダーの動きにのみ意識
を集中させた。
 「武器を持て」
 ハマーンが命令すると、ルナマリアは戸惑いながらもそれに従った。
 「照準はここに固定だ」
 照準をマニュアルに切り替えさせたハマーンは、操縦桿を握るルナマリアの右手に自身
の手を添え、照準の位置を指定した。
 「これって……」
 ルナマリアは眉を顰めてハマーンを凝視した。ハマーンが照準を固定させたのは、レイ
のザク・ファントムの背中であった。

 「何をさせようって言うんです!?」
 「しゃべるな。気が散る」
 ハマーンの声音は、鋭かった。真剣な眼差しは、どこを見ているのか分からなかったが、
ルナマリアは何とはなしにハマーンがいつになく本気であることを感じた。
 「こちらで合図を出す。そうしたら、レイ・ザ・バレル、お前は――」
 ルナマリアはハマーンがレイに指示を与えている横で、緊張しながらオルトロスの照準
を固定させることに集中していた。
 指示を終えると、ハマーンはカミーユの気配を探った。独りでに存在感を放ってしまう
ほどのニュータイプであるカミーユを感知することは、ハマーンにとって容易であった。
 だが、違和感を覚えた。
 (……?)
 カミーユが強力なニュータイプであるということは、即ち、同じニュータイプであるハマ
ーンのことも相手からは丸見えだということである。しかし、そうであるはずのカミーユ側
から感じられる思惟は、戸惑いだった。
 知らない仲ではない。不本意ながら、交感して互いの心に足を踏み入れた経験もある。
それなのに、ハマーンを感じているはずのカミーユは動揺していた。それは、おかしいと
思った。
 だが、動揺や戸惑いが真実であることを証明するように、ウェイブライダーの動きには
揺らぎが見えた。それは、慄いているようにも見える。まるで、未知の感覚に怯える稚児
のように。
 カミーユは、自身がニュータイプであることを忘れているのではないか――ハマーンは、
咄嗟に直感した。そして、その未知の感覚に対する恐怖は攻撃性へと転化され、ハマーン
に向けられた。
 「――だが、おあつらえ向きだな」
 「えっ?」
 含み笑いをして独り言を漏らすハマーンに、ルナマリアが思わず反応した。ハマーンは
それを見咎めて、「いいから集中しろ」と厳しく注意した。
 「わ、わかってますよ……」
 ルナマリアは、渋々とメインスクリーンに目を戻した。
 その動揺は、ハマーンに有利に働く。その方が思考が単純化して、動きを読みやすいの
だ。
 だからこそ、ハマーンはルナマリアに弛緩を許さなかった。動揺が誘った焦りは、カミー
ユをハマーンの排除へと急がせる。それを逆手にとって、逆襲するのだ。
 目の前で盾になっていたレイのザク・ファントムが、ぐらりと揺れた。ハマーンはその時を
待っていたかのように、「今だ!」と通信回線に向かって叫んだ。
 「……!」
 レイはハマーンの声が聞こえると同時に、反射的にザク・ファントムをしゃがませた。そう
すると、それまでレイのザク・ファントムで塞がっていたルナマリアの視界が開けた。
 すると、ハマーンが固定させていた照準の中に、まるで打ち合わせていたかのようにその
後姿が収まっていた。レイのザク・ファントムに一撃を加えた後、離脱しようとしたウェイブラ
イダーがピッタリと収まっていたのである。
 「撃て!」
 ルナマリアに、そのことに驚いている暇は無かった。間断なく怒鳴るハマーンの声に突
き動かされ、ルナマリアは慌ててオルトロスの発射スイッチに添えた親指を押し込んだ。

 ドウッと放たれる強力なビームの反動で、紅いザク・ウォーリアは振動した。ルナマリア
が操縦桿を力一杯に押さえてその振動を緩和しようとしている傍らで、ハマーンはその
エネルギーの奔流の行く先をジッと注視した。
 ハマーンの意識に流れ込んでくるカミーユの思惟は、焦りだ。だが、ハマーンが狙って
いることを感知していたカミーユは、その分だけ早く反応することができた。
 咄嗟の操縦が、ウェイブライダーの機体を傾けさせた。オルトロスのビームは、そんな
ウェイブライダーの翼端を掠め、空を穿つ。高熱で溶かされた翼端は黒い煙を噴き、バラ
ンスを崩したウェイブライダーは海へと墜落するように高度を下げていった。
 「当たった!」
 ルナマリアは手を叩いて快哉を上げた。だが、ハマーンはそんなルナマリアの声に重ね
るように、「しくじったか!」と苦渋の声を上げていた。
 「えぇ……!?」
 どうしてなのよ! と文句を言いたかったルナマリアであったが、直後、ハマーンの言葉
の意味を理解した。海面に叩きつけられそうになったウェイブライダーは、寸前でバランス
を取り戻し、再び中空へと舞い上がったのである。
 ウェイブライダーはそのまま後退を始めた。ハマーンはそれを睨みながら、忌々しげに
舌打ちをした。
 しかし、撃墜こそ成らなかったものの、後退させることはできたのである。それは成果だ。
直撃ではなかったが、命中はした。ルナマリアは、それを喜んでもいいはずだと思っていた。
 だが、ハマーンにとっては、それは失敗なのだろう。ルナマリアは、その妥協の無いハマ
ーンの姿勢が、アカデミーの教官よりも遥かに厳しく思えた。
 
 ガイアを追討した先には、目当てのものがあった。タリアとシャアの推測は、正しかった
のだ。
 島嶼の中の一つの島、そのジャングルの中に、明らかに急造されたものと思しき軍事施
設を発見した。規模は、それほど大きくはない。しかし、カーペンタリア基地と地理的に接近
していることを考えれば、看過できる存在ではなかった。
 「……! あいつらっ!」
 シンはガイアの存在を無視して激した。それは、基地の内部で繰り広げられている虐殺
に向けた怒りだった。
 新設の基地は、ミネルバの侵攻で混乱していた。明らかに統率が取れていなかった。強
制徴用されたと思しき現地住民が、その混乱を利用して脱走を図っていたのだ。敷地を仕
切る柵の外には、その脱走を幇助するための人々も詰め掛けていた。主に、親類たちだろ
う。
 しかし、連合軍の兵士はそれを許さなかった。脱走を試みる現地民に対し、兵士たちは
弾丸を浴びせたのである。背中を撃たれ、コンクリートに倒れる者、金網をよじ登り、後一
歩というところで叶わなかった者――基地の外で迎えに来ていた女たちが、悲鳴を上げて
涙を流す光景は、シンに二年前のオーブ戦の時の出来事を髣髴とさせた。
 「シン君!」
 シャアの呼ぶ声が、基地の様子に目を奪われていたシンの耳を打った。その次の瞬間、
襲ってきたビームがインパルスのビームライフルを溶かしていた。
 慌てて投棄し、シールドで爆発を防いだ。インパルスを狙撃したガイアは、ジャングルの
木々の間を巧みに走り抜け、更にインパルスを攻撃した。シンは、流石に次の攻撃は避
けた。

 「くそ……!」
 四本足形態のガイアは、木立の間を動物そのものの俊敏性で駆ける。レーダーがその
位置を特定していても、狙撃は困難だった。
 ガイアはそのまま逃走していった。だが、今のシンには奪われたモビルスーツの奪還任
務よりも、基地の様子の方が気掛かりだった。ガイアが逃走すると、シンは追撃もそこそ
こにインパルスを基地へと向かわせた。
 シャアは、シンのその転進の早さが気になった。
 「カミーユは……」
 付近に気配は感じなかった。シャアは、気にしつつもシンの後を追った。
 先に基地に降り立っていたインパルスは、胸部のチェーンガンで基地に掃射を掛けてい
た。シャアは思わず目を剥き、慌ててそのインパルスの行為の阻止に入った。
 「何をしている!」
 シャアは、ミネルバでは下っ端のパイロットであることを心掛けていた。そうであることが、
現状に対して最も真摯な態度だと思っていたからだ。しかし、シンの暴虐を目にした時、そ
のことをすっかり失念して怒鳴っていた。
 シャアはセイバーを、掃射するインパルスの前に立たせてバリケードとなった。そして、
腕を伸ばしてマニピュレーターでインパルスの肩を掴み、咎めるように迫った。
 「正気か!?」
 「うるさいっ!」
 インパルスが、そんなセイバーの腕を払い除けた。そうして、再び基地を掃射しようとし
た。
 しかし、それ以上はシャアが許さなかった。シャアは咄嗟にビームライフルを抜いて、
その銃口をインパルスに向けたのである。
 インパルスは、流石に止まった。
 「シン君、君は自分がやっていることが分かっているのか!?」
 そう呼びかけたシャアに、シンは一寸だけ言いよどむと、「へっ!」と嘲るように笑った。
 「そうかよ。やっぱり、アンタもナチュラルかよ!」
 「……何を言っている?」
 要領を得ない。シャアは、シンの普通ではない様子に眉を顰めた。
 「ここの連中は、逃げようとした人たちを撃ったんだ! 強制労働させられてた人たちを
だぞ! 俺は、その人たちを守ったんだ! 俺は間違ったことはしてない! けど、アンタ
はその俺を咎めて、連中の味方をするような真似をした!」
 フィクションの検事や弁護士がする様に、インパルスはセイバーに向かって人差し指を
突きつけた。シャアは、思わずカッとなりそうな自分を堪えた。
 (子供の理屈が……! これで軍人か……!?)
 シャアは、流石にその心の内を声に出したりはしなかった。シンに釣られて感情的にな
るのは愚の骨頂。子供の調子に合わせる必要など無いのだから。
 シャアは気を落ち着けて、徐に口を開いた。
 「……君の言い分は分かった。だが、基地を発見したのだから、ミネルバへの連絡が先
だということを忘れてもらっては困る。それが、グラディス艦長との決め事なのだからな」
 「……」
 シンは気が済んだのか、それとも反論できなかったのか分からないが、黙っていた。
 (まるで赤ん坊だな……)
 シンの態度が、癇癪を起こして泣き叫ぶ赤ん坊の姿に重なったのだ。
 シャアは、そう内心で詰りながら、「ここの物資は、我々でも使うのだから」と言い、ミネル
バへと通信を繋げた。

 基地の座標を送って、ミネルバからの応援を要請した。それを終えると、シャアは基地の
様子に目を配った。
 インパルスの掃射を受けて、出来上がったばかりの基地施設は、いくつかが炎を上げて
いた。眼下には連合軍兵士が複数人倒れていて、生きてるのか死んでいるのかは定かで
はなかったが、中には一目見て絶命していると分かるほどに身体が損傷している者もいた。
生き残っていた兵士は、最初こそ抵抗していたものの、モビルスーツの強大さと先ほどの
インパルスの行為への恐怖で完全に戦意を喪失していた。そして、もう一方へ目を向けれ
ば、脱走に成功した現地民が再会を喜ぶでもなく、不安げな眼差しでインパルスやセイバ
ーを見上げていた。
 疲れ切った光景だった。それは、不幸な光景だとシャアは思った。
 (見えているか、シン? これが、君の正義の結果なのだ……)
 そして、シャアが不甲斐ないのは、その言葉を口に出して言えないことだった。シャアは
自身の立場の弱さを自覚して、遠慮したのである。それはシャアの律儀なところであり、
また、情けないところでもあった。
 (しかし……)
 シャアはシンの幼児性を心配する一方で、忘れてはいなかった。勿論、カミーユのこと
である。
 鑑みるに、カミーユが連合側に拾われたことは確かである。ならば、早々に連絡をつけ
る必要性を感じていた。味方同士で争うなど、それほど馬鹿らしいことは無いのだから。
 そのシャアの願いが通じたのかは知れない。応援を要請して少しした時、セイバーのレ
ーダーに一瞬だけ“UNKNOWN”の光点が表示されたのである。
 ウェイブライダーの反応ではないかもしれない。しかし、確認はするべきだと思った。
シャアは、それを運命の導きだと信じようとした。
 「シン君」
 シャアが呼び掛けると、インパルスの頭部が徐に振り向いた。表情の無いマシーンの面
差しなのに、その顔にはどこか不信めいた感情が覗いていた。
 しかし、シャアはそれに構わず、「ここを君に任せたい」と告げて、セイバーのバーニア
を点火させた。
 「はあ!?」
 「すぐに戻る!」
 言うが早いか、シンの反論も許さずにセイバーは飛び立っていた。
 シンは呆気に取られ、飛び去っていくセイバーの後姿を見送っていた。
 「今さら、はしゃぎたい年頃かよ? 子供じゃあるまいし……」
 シンには、シャアに邪魔をされたという不満がある。毒づいたのは、そんなシンの未熟
さがさせたことだった。
 
 ウェイブライダーの本来の航行速度ではなかった。だが、シャアはその姿を視界に収め
た時、瞬時に得心した。ウェイブライダーの翼端部分が、溶けて損傷している。それで、
航行速度を意図的に抑えていたのだ。
 「ハマーンがやったな……」
 何とはなしに、そう思えた。しかし、真偽はともかく、それはシャアにとって好都合だっ
た。お陰で、こうして接触できそうなのだから。シャアは、セイバーの高機動力に感謝
した。
 接近するセイバーの存在を、カミーユも察知していることだろう。シャアはそれを承知
して、回線をオープンにし、自身に交戦の意思が無いことを呼び掛けた。
 「カミーユ、私だ。クワトロ・バジーナ大尉だ」

 そう呼び掛けながらモビルスーツ形態に戻り、巡航状態のウェイブライダーに徐に接近
した。
 しかし、ウェイブライダーはそれまで温存していた力を解放するように急加速すると、
鋭く弧を描いて機首をセイバーに向けた。かと思うと、次の瞬間には上部にマウントした
ビームライフルがメガ粒子ビームを発射したのである。
 油断していたシャアは、突然の事に避けることを忘れていた。ウェイブライダーの撃った
ビームは辛うじて外れてくれていたが、直撃を受けていたらと思うと、シャアの背筋をゾッ
とさせた。
 「聞こえないのか、カミーユ!?」
 ウェイブライダーは立て続けにセイバーにビームを浴びせた。シャアは弛緩した気を引
き締め直し、その鋭いビーム攻撃をかわした。
 「敵だと思っている……?」
 シャアはそう考えたが、それはおかしいと感じた。カミーユほどのニュータイプが、自分
の存在を判別できないはずがないと思ったのだ。
 その矛盾が、シャアを混乱させた。カミーユは、セイバーのパイロットがシャアであると
分かっていながら攻撃を仕掛けてくる。エゥーゴ時代、一年近くも共に戦った間柄である
にも拘わらずである。
 「回線が閉じてるからと言って!」
 シャアはそう言い訳をつけて、納得しようとした。しかし、ウェイブライダーの攻撃には、
シャアの精神を抉り取るような重いプレッシャーが含まれている。それは、明らかにシャ
アへ向けた敵意だった。
 「いい加減にしないか、カミーユ!」
 シンとのことで、シャアもストレスが溜まっていた。シャアは本気になったのである。
 シャアはウェイブライダーの砲撃をかわすと、遂にビームライフルを抜いた。そして、
ウェイブライダーの上側に回り込むと、機体のギリギリを掠めるようにビームを散らした。
 バランスの悪くなったウェイブライダーは、シャアの思惑通りに減速した。シャアはそ
こを狙って、突撃した。
 ウェイブライダーの上から、圧し掛かるように取り付く。大きく揺れたが、本来ウェイブ
ライダーはサブフライトシステムとしても機能する。セイバーの一機が取り付いたくらい
で、墜落したりはしない。
 シャアはセイバーのマニピュレーターをウェイブライダーの機首の付け根の辺り、コッ
クピット付近に当てると、「接触回線を開いた!」と叫んだ。
 「これで傍受の心配は無い――カミーユ!」
 「傍受……!?」
 ようやく返ってきた声であったが、その声音にシャアは違和感を覚えた。
 「カミーユ……? 分かるだろう? エゥーゴのクワトロ・バジーナだ。お前と一緒にティ
ターンズと戦った――」
 「何をわけの分からないことを!」
 そんな返事があると、ウェイブライダーはロール回転を繰り返してセイバーを振り落と
しに掛かった。
 「くっ……!」
 ドリルのように回転し、必死にそれに耐えるシャアであったが、頭の中では疑問符ばか
りが浮かんでいた。
 パイロットが別人であったというわけではない。その声は、確かにカミーユ・ビダンの声
だった。だが、その反応はまるで別人のようだった。

 一瞬、デュランダルと自分の声が瓜二つだと言われたことを思い出した。自分にとって
のデュランダルであるように、カミーユにとってのそういう人物がいたのかもしれないと
推測した。
 だが、それはナンセンスだった。シャアのニュータイプ的な勘は、確かにウェイブライ
ダーのパイロットがカミーユであると感知しているのだから。
 「……どういうことだ、カミーユ!? 私を覚えていないのか!?」
 「どこの誰だか知らないけど!」
 ウェイブライダーはロール回転を止めると、反り返るように上昇を掛け、背面飛行に入
った。
 「敵が馴れ馴れしくくっ付くんじゃないよ!」
 「カミーユ!」
 「離れろ! お前たちは不愉快なんだ! 離れろ!」
 重力が、セイバーを下へと引っ張った。セイバーはそのせいでウェイブライダーから引
き剥がされたが、シャアはそうは思わなかった。ウェイブライダーから離れてしまったの
は、自分の気が抜けたからだと思っていた。
 「待て、カミーユ!」
 逃げるように彼方に去っていくウェイブライダーを、シャアは追い掛けようとした。しか
し、そのシャアの足を、下方向からの警告が止めた。咄嗟にシールドを構えると、海面
から強力なビームが突き出てきて、それがセイバーのシールドを擦った。
 「うっ……!」
 正面モニターに、大量の火花が散っていた。画面の警告表示は、まだ消えていない。
カメラを斜め下方向に向けた瞬間、不意を突くように海面から青いモビルスーツが飛び
出してきた。
 アビスだ。中空に躍り上がったアビスは、両肩のアーマーを広げると、片側二門ずつの
ビームと腹部のカリドゥスを同時に一斉射して、セイバーに浴びせかけた。
 シャアは、その凄まじい量の攻撃に、引き続きシールドで耐えるしかなかった。ダメー
ジを負わなかったことが不思議なくらいだった。
 アビスはからかうように双眸を瞬かせると、再び海中へと沈んだ。その時には、ウェイブ
ライダーの姿も反応も、もう消えていた。
 シャアは、ふぅっと大きく息を吐いた。
 「……そういうことか、連合め……」
 戦いの潮が引いていく。目が覚めるような海の青と、群島に萌える緑。その美しさを感
じる余裕を取り戻したシャアは、察して深い嘆息を漏らした。
 
 「――今回のことは、貸しにしておくからな!」
 カミーユは、そんな得意気なアウルの声を聞きながらヘルメットを脱いだ。頭痛がする
のだ。
 「アウルに借りを作るのか……面白くないな」
 「お前が雑魚いのがわりーんだぜ?」
 「……うるさいよ」
 普段であれば一悶着あるようなアウルの挑発にも、カミーユは乗らなかった。そんな気
分にはなれなかったのだ。
 今まで経験したことの無い不快感が、カミーユの意識の中に居座っていた。頭痛は、そ
の不快感によって誘発された症状だと感じた。そして、その原因がミネルバにあるという
ことまで、カミーユは把握していた。
 脳裏に、おぼろげなイメージがある。それは二人の男女のイメージだ。カミーユは、本
能的に自分は彼らのことを知っているのかもしれないと考えた。

 何故、そう考えられたのかは分からない。それは酷く妄想めいていると思えるし、現実
的であるとは到底思えない。だが、そんな考えが浮かんでくるような感覚を、カミーユは
その二人から受け取った気がした。
 (どうかしてんだ……俺……)
 カミーユは両手で髪をかき上げて、天を仰いだ。独特の全天スクリーンに囲まれたリニ
アシートは、あたかも空を飛ぶ椅子のようである。中天で強い光を放つ太陽が、カミーユ
の目を眩ませた。
 
 
 ミネルバへ帰還すると、既にインパルスは分離した状態になっていて、コアスプレンダ
ーのコックピットにはシンの姿は無かった。
 シャアはセイバーを格納庫の定位置に収めると、コックピットを出た。そこへマッドが
作業車に乗ってやってきて、降りるなり若手に向かって「点検作業、急げ!」と怒鳴り立
てた。
 「傷を付けてしまったな」
 セイバーの装甲にはビームによる焦げ跡がそこかしこに点在していた。その殆どは、最
後のアビスの攻撃によるものだった。
 「内部にダメージは無いだろ」
 マッドは電子パッドを小脇に抱えて、シャアと入れ違いになるように昇降ワイヤーでセイ
バーのコックピットへと上がっていった。シャアは、「頼む」とマッドに言うと、コアスプレン
ダーの整備に取り掛かっていたヨウラン・ケントに声を掛けた。
 「シンはどうした?」
 「呼び出しっスよ。クワトロさんもご存知でしょ?」
 「まあ……」
 コアスプレンダーのシートに座ったヨウランは、先ほどマッドが持っていたのと同じ電子
パッドとコンソールパネルをケーブルで繋いで、戦闘データの吸出しを行っていた。急ぎ
らしく、殆どシャアと目を合わせることなく気忙しくパッドに指を走らせている。
 「どうなんスかねえ」
 ヨウランはパッドに指を走らせながら言う。
 「クワトロさんは、その場面は見てたんでしょ?」
 「そうだが……あれは流石に擁護は難しいな」
 「やっぱりっスか……」
 ヨウランはやれやれといった感じで軽くかぶりを振ると、ため息をついた。
 「派手にやり過ぎるんスよね、アイツ。もっと賢くやりゃあ、大目玉を食らうことも無かっ
たのに」
 そう言うヨウランの口元から、褐色の肌に映える白い歯が覗いた。
 「そうだな……」
 シャアはそれを横目で見やると、格納庫を後にした。
 
 その後、シンは三日間の謹慎処分を言い渡された。