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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第18話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 02:57:01

 ザフトと反ロゴス陣営の連合国軍は同盟軍を結成し、大艦隊をなした。一同はジブラル
タル基地を出立し、一路アイスランドにある地球軍の最高司令本部であるヘブンズベー
スを目指した。
 そこに残りのロゴスのメンバーが集っているという情報は、早くから掴めていた。今や
地球圏最大規模に膨れ上がった同盟軍艦隊はアイスランドを包囲、その旗艦と定められ
たミネルバにて陣頭指揮を執るデュランダルは、ヘブンズベースに対して無条件での武
装解除とロゴスのメンバーの引き渡しを要求した。
 ところが、回答期限を待つ間に、ブルーコスモスの盟主も兼任するロゴスの主要構成
員であるロード・ジブリールが、密かに騙し討ちを画策。対空掃射砲のニーベルングや、
東欧戦線で猛威を振るったデストロイのスタンバイを進めていた。
 そして、回答期限が数時間後に迫った時、ジブリールの命令で突如としてロゴス陣営
の攻撃が開始された。騙し討ちである。直後、デュランダルがオペレーション・ラグナロク
の発動を宣言。こうして、戦端は突発的に開かれたのであった。
 
 シャアはセイバーのコックピットの中で、静かに出撃命令を待っていた。
 「メイリン、俺たちの出番はまだなのか?」
 シンは戦いに逸っているようでいて、その声のトーンは実に落ち着いていた。ハイネの
死からフリーダムとの戦いを経て、癇の強かったシンは過去のものとなったのかもしれ
ない。
 戦況は芳しくないようだった。奇襲を受けた直後に発動されたオペレーション・ラグナロ
クであったが、軌道上に待機していた降下揚陸部隊は対空掃射砲の餌食になりほぼ壊
滅状態。想定以上の戦力と五機のデストロイにより、同盟軍の前衛艦隊が大打撃を受け
てしまった。篭城作戦に関しては、基本的には守る側が有利である。戦力では圧倒的に
同盟軍が上回っていても、ヘブンズベースを落とすのは容易ではなかった。
 戦端が開いて、一時間が経過しようとしていた。流石に焦れてきた時、ようやく出撃命令
が下った。
 シャアはセイバーをカタパルトデッキへと移動させた。その間に、オペレーターのメイリ
ンから参謀本部からの指令概要が伝えられた。
 「敵戦力の要はデストロイです。パイロット各位はこれの撃破を優先してください。しか
し、高空からの接近は敵対空砲によるリスクを伴いますので、低空からの接近を心掛け
てください」
 「了解」
 シンのデスティニー、レイのレジェンド、ルナマリアのインパルスが順々に出撃していく。
 「セイバー、クワトロ機、出るぞ」
 そして、最後にシャアが出撃した。
 
 同時刻、ヘブンズベースに向かう三機のモビルスーツがあった。一機は海中を高速で
潜航し、他の二機はモビルアーマー形態で空を行く。アビス、カオス、そしてウェイブライ
ダーだった。
 ネオとユウナの密約がなった後、ネオの計らいのもと、カミーユたち四人は監視の目を
掻い潜ってファントムペインを脱走した。その後は、指示通りにオーブへと向かう予定だっ
た。
 しかし、四人で話し合いをした結果、やはりネオを捨て置くことは出来ないということで意
見が一致した。そして、安いモーテルを拠点として通信を傍受したり八方手を尽くして情報
を集めた結果、ネオがヘブンズベースに転属になったと判明したのはつい先日のことだっ
た。その時には既に同盟軍はジブラルタル基地を出撃しており、衝突は避けられない事態
に陥っていた。
 それでも、ネオの気配なら近くまで行けば分かるかもしれないという曖昧なカミーユの
提言に、スティングとアウルは賛同してくれた。
 「今までこき使ってくれた分のお礼参りは、しとかねーとな」
 あえて憎まれ口を叩くのが、彼らのスタンスだった。
 ――今、彼方に見える島を、カミーユは視界に収めていた。距離はまだある。だが、そ
の周辺は無数の艦船に囲まれていて、黒い煙やビームの光、爆発の閃光などがひっき
りなしに青空を彩っていた。
 「始まってるな……」
 否が応にも激戦を予感させる光景に、カミーユは思わず生唾を飲み込んでいた。
 既に多くの人間の思惟を、ノイズのように感知していた。それは拍子もテンポも違う複
数の楽曲が同時に流れているようなもので、その不協和音にカミーユは堪らずにヘルメ
ットの上から耳の辺りを押さえていた。
 「あっ……」
 無意味ながらも生理的な行為に、カミーユはハッとした。
 「これで本当に大佐の気配だけを判別できるの……?」
 困難を予感したカミーユは、つい不安を口にしていた。
 その声を耳聡く拾っていたアウルが、「何か言ったか、カミーユ!」と怒鳴り気味に言っ
てきた。面倒な奴に聞かれたな、と小さく舌打ちする。
 「何でもない」
 「嘘つけ! 今さら、やっぱ無理、とか言うんじゃねーだろうな?」
 「言うかよ。ここまで来てしまったんだ。そうそう後戻りなんか出来るか!」
 「どーだか。ビビっちまったんなら正直に言えよ? 素直にお願いすりゃー助けてやる
からよ?」
 「誰がアウルの助けなんか欲しがるかもんかよ!」
 アウルに突っかかられると、意地になる。このような口論は、二人の間ではしばしば起
こることだった。
 互いに嫌いとか苦手というわけではないのに、どうにも反りが合わない。その原因をハ
ッキリと認識しているのは、第三者のスティングだけだった。
 「こうなったら、意地でも大佐を見つけてやる……!」
 カミーユはそう言いながら映像を拡大し、ヘブンズベースの激戦の模様を確認した。だ
が、やはりその大規模な戦闘の様子に不安は残った。
 「おーおー、派手にやってらぁ。こりゃ大変そうだ。ふんどし締めてかからねーとなぁ?」
 同じように戦闘の様子を確認したアウルが、そんな風に軽口を叩く。しかし、今しがた
のやり取りがあったからか、カミーユにはそのアウルの軽口が自分に対する挑発のよう
に聞こえていた。
 「アイツめ……!」
 忌々しげに呟き、アビスが見えるはずの無い海面に目を落として睨みつける。だが、そ
れを見咎められて、「集中しろ、カミーユ」とスティングに窘められてしまった。
 「ネオを見つけられるかどうかは、お前に掛かってんだからな」
 「了解……」
 カミーユはそう言いながらも、態度には不満がありありと表れていた。スティングは、ア
ウルも大概負けん気が強いが、カミーユも相当だと思った。
 しかし、二人の意地の張り合いにばかりかまけているわけにも行かない。
 「そろそろ網に引っ掛かるぞ」
 スティングはそう言って、二人に警戒を促した。
 「ファントムペインの識別信号を出して置くのを忘れんなよ。そうすりゃ、ちったあロゴス
の連中の目を誤魔化せるかも知れねえし、ネオも俺たちを見つけやすいだろうからな」
 「りょーかい、りょーかい」
 不真面目な応答をするのは、アウルである。
 「なら、僕が先行して水中から敵の目を引き付けてやる。お前らはその間に包囲網を突
破して、とっととネオを探して来いよ!」
 「あん?」
 スティングが眉を潜めた時には、既に海を潜航するアビスは加速度を上げていた。
 「見てろよ、カミーユ! 吠え面かかせてやる!」
 そして、アウルは威勢良く言うと、同盟軍の外周部隊に向かって突撃して行った。
 背後からの奇襲を受けた同盟軍の洋上艦は、アビスの強力なビーム攻撃によって一隻、
二隻と立て続けに沈んだ。奇襲成功。アウルはそのまま立て続けに潜水部隊に仕掛けて
いった。
 泡を吹かせられれば、水中はアウルの独壇場だった。潜水艦やグーンやゾノ、それに
新型機であるアッシュといった多数の水中戦力を相手にしても、アビスは無類の強さを見
せ付けた。
 「あっはははっ! ごめんねえ、強くってさぁ!」
 洋上や空中からもアビスを狙って攻撃してくるが、アウルは容易くそれをかわす。海中
では、アビスを駆るアウルは絶対的王者だった。
 そして、海中のアビスを狙う同盟軍の背後から、更にウェイブライダーとカオスが襲い
掛かった。二人は進路上の敵だけを手早く排除し、一気に包囲網の内側へと突入した。
 「アウルの奴……!」
 突破してきた後方を振り返り、カミーユはぼやいていた。スティングはそんな不機嫌そ
うなカミーユに気付いて、「何が気にいらねえ?」と、ふと訊ねた。
 「あの調子じゃ、後でデカい顔される」
 「ぶはっ!」
 子供のような理屈に、スティングは思わず失笑していた。
 「させてやれよ、全員で無事に帰れたらな」
 そう宥めて視線を正面スクリーンに戻した。スティングの顔に、緊張感が宿る。
 そこでは、同盟軍とロゴス派の激しい攻防が繰り広げられていた。当初はロゴス派側
が優勢だった戦局も、同盟軍が奇襲による混乱から立ち直ってくると、次第に押し戻し
始めていた。
 「頼むぜ。お前の勘だけが頼りなんだからな」
 しかし、カミーユはスティングの期待に対して明確な応答はしなかった。
 戦場では、生き死にを懸けて戦う人々の思惟が縦横無尽に飛び交い、複雑に絡み合っ
てもがくようにしてせめぎ合う。カミーユは、それらを人間の生死すら判別できるノイズと
して感じ取れた。
 そのノイズの中から、ある個人を特定するのは並大抵のことではない。全方位に向け
て網を張るように知覚を働かせても、果たしてネオを見つけられるかどうかは未知数だっ
た。
 カミーユが集中できる環境を確保するため、スティングが先んじて露払いをする。ファン
トムペインの識別信号が効いているのか、仕掛けてくるのは殆どが同盟軍陣営の機体
だった。
 だが、どんなに戦場を駆けずり回っても、ネオがいるという確証は得られなかった。
 「くそっ! 戦場のノイズはうるさ過ぎて……!」
 カミーユは焦り始めていた。
 時間が経てば経つほど状況は難しくなる。戦局が同盟軍側に傾きつつある以上、時間
が掛かり過ぎれば、例えネオを連れ出せたとしても離脱が困難になる可能性が高い。時
間との勝負であるだけに、カミーユは余計に焦燥感に駆られた。
 「探してるのは大尉じゃないだろ……!」
 儘ならない状況に、カミーユは自分で自分の頭を叩いた。
 負い目があるだけに、無意識に感知してしまったのだろう。だが、カミーユが探している
のはシャアではない。
 「クワトロ大尉だって、今はザフトなんだから……」
 互いに、今は相手をしている暇は無かった。カミーユは気を取り直し、別の方角へと意
識を集中した。
 戦闘は激化の一途を辿っていた。本格的に攻勢を強めた同盟軍の圧力によって、ロゴ
ス陣営は明らかに劣勢に立たされつつあった。
 しかし、まだ最後の一線が残っていた。ニーベルングは未だ健在で、二機のデストロイ
は同盟軍のヘブンズベースへの侵入を拒み続けていた。
 (あれは……?)
 チリッとした刺激があった。その刺激に導かれるように、カミーユの意識は何か確信的
な予感に引き寄せられ、自然ととその攻防へと吸い込まれていった。
 激しい闘争心だけの思惟が、無差別に四方八方に放射されていた。それは荒々しく、
目の前の敵を倒すことだけを強制された、哀れな魂でもあった。カミーユは、その中にネ
オの気配を感じた。
 「道理で分かりにくかったわけだよ……!」
 カミーユはそう独り言を呟きながらもスティングに回線を繋げ、「見つけたぞ!」と告げ
た。すると、待望の瞬間にスティングも、「どこだ!?」とやや興奮気味に声を上げた。
 カミーユは微かに戸惑いながらも、「ちょい右、二時方向だ!」と指示した。
 「ンだと? あの方角は……!」
 歓喜も束の間、カミーユが示した先に、スティングは顔を顰めた。
 既に複数の黒煙が立ち昇っている。少なく見積もっても、三体は沈んでいるように見え
た。そして、今正に四体目のデストロイも撃破されようとしていた。
 カミーユが指し示したのは、その少し奥、地下からの出撃口であった。
 「今、出てこようとしている奴だ!」
 「あのデストロイだと……? 間違いないのか!」
 スティングが確認すると、「ああ……!」とカミーユも歯痒そうに返した。
 「マジかよ……!」
 操縦桿を固く握り込むスティングの手が、キュッと音を立てた。
 「――ったく、俺たちを逃がして左遷させられた挙句、捨て駒にされてたんじゃ世話ねえ
ぜ!」
 スティングは、ネオは特殊部隊の指揮官としては潔癖に過ぎる男だと思っていた。自分
たちエクステンデッドに対しても、ネオだけが唯一、戦争の道具としてではなく人間として
接してくれた。ステラをデストロイに乗せるとなった時も、最後まで苦悩していたことをス
ティングは知っている。
 (甘っちょろい野郎だぜ。俺たちに情けなんか掛けたって、損をするのはテメーだけだっ
てのに……)
 そんな男がスティングたちを不憫に思い、自らの責任問題を覚悟の上で脱走を促した。
そして、その責任を取って、今や自分自身が戦争の道具に成り下がって、デストロイの
部品にされてしまっているという体たらくである。
 「惨めなもんだぜ。だが――」
 スティングは辟易としながらも、機首をデストロイの方へと向けていた。
 「借りっぱなしってのは、性に合わなくてな!」
 スティングが加速を掛けると同時に、四体目のデストロイが背中から煙を噴いて沈んだ。
紅い翼を広げたモビルスーツがその影から現れて、その姿にスティングは肌が粟立つの
を感じた。
 「ミネルバめ! 新型を投入してきやがったな!」
 「急げ!」
 血相を変えて叫ぶカミーユに言われるまでも無く、スティングはスロットルを全開にして
いた。
 
 二体のデストロイが、シンの行く手を阻んでいた。ジブラルタル基地で既に十分に錬度
を高めてあるが、このオペレーション・ラグナロクが初陣であるデスティニーの力を測るに
は、デストロイは恰好の相手だった。
 実戦となると、訓練の時と少し勝手が違った。緊張感が、僅かながらに感覚を狂わせて
いるのだろう。出撃直後、シンはデスティニーの余りあるパワーに振り回されている自覚
があった。
 だが、それでも不安は無かった。デスティニーの潜在能力の高さは慣熟飛行の時点で
把握していたし、シンはそこに絶対の信頼を置いていた。自分の腕が裏切らない限り、こ
のモビルスーツは必ず期待に応えてくれる。そう確信していた。
 今、デストロイという難敵が現れたことで、シンはデスティニーの真価を引き出そうと試
みていた。そして、シンは戦闘に意識を集中させることによって、徐々にデスティニーの
潜在能力を解放しつつあった。
 デストロイには、相変わらず遠距離からの攻撃というものが効かなかった。デスティニ
ーの高エネルギー長射程ビーム砲でも、レジェンドのドラグーンの一斉射撃でも、デスト
ロイは揺るがなかった。
 だが、弱点はある。バリアの干渉を受けない接近戦なら、確実にダメージは通る。
 使ったのは、レーザー対艦刀のアロンダイトだった。デスティニーの背部マウントラック
に装備されているそれを手に取り、展開して斬りかかる。利刃一閃。振り抜かれた一撃は
デストロイを見事に切り裂き、撃破した。
 デストロイの巨躯を相手にするには、対艦刀くらいの大振りの武器の方が有効であるこ
とが実証された。そこで三人はミネルバにソードシルエットの射出を要請し、レイとルナマ
リアはそれぞれ一振りずつエクスカリバーを手にした。
 「シン、援護を!」
 「任せろ!」
 レジェンドの突撃に合わせて、デスティニーの砲撃がデストロイに注がれる。シンとレイ
の同時攻撃に、デストロイの迎撃のビームは二方向に分散させられた。レジェンドは見た
目の重量感とは裏腹の小回りの良さでそのビーム攻撃をかわし、低空からデストロイへ
と肉薄した。そして、その足元に着地すると、大剣を大きく振りかぶってその両足を薙ぎ
払った。
 膝の辺りを切断され、デストロイの巨躯が仰向けに倒れた。そこへ間髪入れずにデス
ティニーが飛び掛り、胸部にアロンダイトを突き立てた。そうして、瞬く間に二機目のデス
トロイも黒煙を噴いた。
 「凄い……!」
 その激しさに、ルナマリアは圧倒されていた。二つの都市を壊滅に追いやり、多くの兵
力を出動させてようやく倒せたデストロイを、シンとレイは立て続けに二体も撃破して見
せた。
 小人が巨人に立ち向かい、勝つという構図に、モビルスーツパイロットとして闘争心を
刺激されるのは自然の成り行きだった。二人に出来るなら、自分にも出来るのでは――
錯覚したルナマリアは、新たに二体のデストロイが地下から現れると、それを待っていた
かのようにインパルスを突撃させていた。
 「ルナ!?」
 「あたしだって、やるわ!」
 自信はあった。今しがたのデスティニーやレジェンドの動きが目に焼きついていて、ル
ナマリアはそれと同じことが自分にも出来ると思い込んでいた。
 しかし、それはすぐに覆された。所詮は、根拠など無い自信でしかない。先に撃破され
たデストロイの惨状を目の当たりにしていた新たな二体のデストロイが、二の轍は踏む
まいと連携を組み始めた。ルナマリアの勇み足は、その二体の連携による迎撃によって、
あえなく跳ね返された。
 迫り来る無数のビームが、スクリーンの全てを埋め尽くすほどに光っていた。ビカビカ
と瞬くビームは、一見花火のように幻想的で美しくはあるが、ルナマリアが感じるのはそ
んな悠長な感覚ではなく、ただただ恐怖だけだった。
 「あ、あたしだって、伊達で赤を着てるわけじゃないのに……!」
 シールドを駆使し、身の竦むような思いでビームを凌ぐ。
 その時、デスティニーが突き飛ばすようにインパルスを押して、フォローに入った。
 「シン!」
 両手甲のソリドゥスフルゴールから発生するビームシールドがデストロイのビームを完
全にシャットアウトするが、ビームの多さに身動ぎできない状態が数秒ほど続いた。
 その状態を打破するために、レジェンドが別方向から砲撃を仕掛け、デストロイの注意
を引き付けた。シンはデストロイからの砲撃が弱まるのを待ってから、インパルスを伴っ
て安全圏まで後退した。
 「大丈夫か、ルナ!」
 シンが心配して呼び掛けてくる。だが、ルナマリアはそれに答えること無く、レジェンドの
方へと目を向けた。
 インパルスに目立ったダメージは無い。装甲が少し焼けた程度である。デストロイの土
砂降りのような砲撃の中、数秒間ではあるが無事でいられたことを誇りたくはあったが、
それもレジェンドの戦いを見ていると惨めなものに思えた。
 (レイは、あの中でもやれてるのに……!)
 レジェンドは少しずつ後退しながらも、デストロイのビーム攻撃を避け続けている。ルナ
マリアにはそれが、レイに技量の高さを見せ付けられているように感じられて、延いては
自分が三人の中で足手纏いなのではないかとさえ思えた。
 「無茶だ。一人で立ち向かおうだなんて」
 シンはルナマリアの胸中を知ってか知らずか、宥め賺すかのように言った。それが子
供扱いを受けているように思えて、ルナマリアはつい「うるさいわよ!」と反発していた。
 「あたしだって赤なのよ!? 二人にできて、あたしができないなんてことは……!」
 こんな時に何をヒステリックになっているんだと思いながらも、ルナマリアは感情を抑
えることができなかった。それが自らの不甲斐なさに対する憤りであることを理解してい
ながらも、その憤りを誰かにぶつけずにはいられなかった。
 レジェンドを追って、デストロイが前進してきていた。デスティニーはインパルスを抱え
るようにして、更にデストロイから間合いを取った。「構ってくれなくていい!」――ルナマ
リアは声を荒げたが、シンは聞く耳を持たなかった。
 「落ち着け、ルナ」
 シンの声音は、ルナマリアとは対照的に、些かも感情に走ったりはしていなかった。
 (何なのよ……)
 あの感情に任せるばかりだったシンが、いつからこんな大人びた声色を出せるように
なったのだろう――ルナマリアはそう考えると、取り乱す自分が酷く子供染みているよう
に感じられて、急に恥ずかしくなった。
 「戦場では、視野の狭い奴から死んでいく。今のルナは、周りがまるで見えてない」
 「あたしはそんな――!」
 「ルナ、俺を信じろ」
 「えっ……!?」
 不意に言われたその言葉に、ルナマリアはドキリとさせられた。
 デスティニーはインパルスと同じ目線の高さで、同じ方向を見ていた。ルナマリアは、
それが不思議と安心できた。
 同期の二人に負けたくないという思いは、女だてらにあった。だが、シンはミネルバへ
の配属と同時に急激に腕を上げ始め、大きく水をあけられてしまった。ベルリンの戦闘
後、落ち込むシンを慰めている内に淡い感情を抱くようになった一方、そこから更に成長
を続けたシンに嫉妬に似た対抗心を抱くようになっていた。
 置いて行かれてしまうという焦燥があった。もっと自分がやれるところを見せなければ、
シンはやがて自分に愛想を尽かすのではないかと思った。
 だが、それがただの思い込みだったのだと、今気付いた。シンは、どんなにパイロット
として先に行ってしまっても、ずっと自分の傍にいてくれる。そう思えた。
 「……どうすればいい?」
 ルナマリアはシンに問い掛けた。デスティニーの頭部がモニター越しにルナマリアを見
つめて、優しく双眸を瞬かせた。
 「俺たちとタイミングを合わせてくれ」
 「タイミングを?」
 「そうだ。ルナならできる。でなきゃ、赤は着れないはずだ」
 シンの激励はシンプルではあった。しかし、それがルナマリアを勇気付けていた。
 「……分かった。やってみる!」
 ルナマリアは力強く返事をした。
 シンはそれを聞くと、カメラをレジェンドへと転じた。デスティニーの頭部が陽動を続け
ているレジェンドを見て、パッパッと双眸を細かく瞬かせた。レジェンドもそれに気付いて、
ビームをかわす合間に頭部をこちらに向けて、短く双眸を瞬かせた。
 「レイが了解してくれた!」
 「合わせて見せるわ!」
 ルナマリアが言うと、「よし!」とシンは意気込んだ。
 「三、二、一で仕掛ける。頼むぞ、ルナ!」
 「了解!」
 「――行くぞ! 三、二、一!」
 カウントダウンを掛けると、それまで囮になっていたレジェンドが後退した。シンはそれ
と同時にスロットルを全開にして、入れ替わるようにデストロイに突撃した。
 背部の大型スラスターが開いて、紅い光の翼を広げた。全開出力のデスティニーは、
仄かに光を纏い、無数の残像を見せて猛スピードで駆けた。
 二体のデストロイの周りを飛び回る。ビームを四方八方から浴びせると、その光のイリ
ュージョンに幻惑されたデストロイは翻弄された。
 シンはそこへアロンダイトで斬りかかった。しかし、迎撃の弾幕は厚く、さしものシンも容
易に接近することは出来ない。だが、自身への火力の集中こそが、シンの目論見だった。
 大量のビームに追い立てられ、デスティニーは咄嗟に急上昇を掛けて高空へと逃れた。
デストロイの砲門も、それを追った。シンはそれを確認すると、「今だ!」と叫んだ。
 その号令と同時に、砲撃の止んだ低空からレジェンドとインパルスがデストロイに急接
近した。前後から挟み込むように接近し、レジェンドが前から右足を切断すると、次の瞬
間には後ろからインパルスが左足を刈っていた。
 「貰った!」
 インパルスは素早く反転し、地面を蹴って跳躍した。そして両足を切られて崩れ落ちる
デストロイに向かってエクスカリバーを振り上げ、そのままその胸部に突き立てた。
 深々と突き刺さったエクスカリバーを引き抜き、素早く離脱した。直後、デストロイは損
傷部から血を噴くように火を噴き、爆発を起こした。
 「できた……!」
 ルナマリアは息を切らせながら、自らが撃破したデストロイの残骸を見つめた。「やる
な」とレイから賛辞を送られたが、ルナマリアは感慨に浸ること無く、既に次の敵へと意
識を向けていた。
 「まだよ! まだ残ってる!」
 自らに言い聞かせるように声を上げ、もう一体のデストロイに目を転じる。だが、その
時にはシンは既に仕掛けていた。その圧倒的な運動性能でデストロイの無数のビーム
を鮮やかにかわし、接近して斬りつけたかと思った次の瞬間には、既に間合いを離して
いた。
 ぼやぼやしてられないと、立て続けにルナマリアも斬りかかる。パニックに陥ったデス
トロイはデスティニーにばかり気を取られていて、ルナマリアでも接近は容易だった。
 「レイ!」
 「分かってる!」
 レジェンドとタイミングを合わせ、今度は左右から挟みこむ。インパルスがエクスカリバ
ーを振り抜いて左腕を斬り飛ばすと、デストロイがそれに気付いてインパルスを見やっ
た。刹那、それを嘲笑うようにレジェンドが右腕を斬り飛ばすと、デストロイはいよいよ慄
いて、ビームを出鱈目に撒き散らしながら後ずさりを始めた。
 だが、その背後から紅の翼が接近していた。デスティニーは人間の手と同じ形をした五
指のマニピュレーターを広げ、それを掌底のようにデストロイの背中に突き込んだ。その
瞬間、掌に埋め込まれた短距離ビーム砲パルマフィオキーナが炸裂し、フィニッシュを決
めた。
 双眸から光を失って、デストロイは背中から黒煙を噴き上げながら前のめりに沈んだ。
 「これでラストか?」
 倒れたデストロイを見て、シンが誰にともなく言った。「流石に、じゃない?」とルナマリア
が辟易したように言うが、レイはこれで終わりとは到底思えなかった。
 大脳皮質に直接纏わりつくような不快感がある。それは、開戦当初から微かに感じてい
たものだったのだが、それがここに来てより一層、無視できないほどの濃度を持ち始めた。
 目が、自然とそちらを追っていた。地下からの出撃口が開いて、また一体のデストロイ
が姿を現した。レイはそれを目の当たりにした瞬間、全てを把握した。
 アーモリー・ワンのモビルスーツ強奪事件の際、特別な感覚を放つ白いモビルアーマー
がいた。それは見事にガンバレルを操って、新兵同然だったレイたちを苦しめた。
 そのモビルアーマー、エグザスと同じ感覚を、新たに現れたデストロイから感じた。
 それは、当時は分からない感覚だった。だが、今なら理解できた。それは、フラガという
特殊な家系の血統だけが持つ認識能力――
 (奴も俺と同じなのか……?)
 いずれにせよ、レイは捨て置くつもりは無かった。全ては、アル・ダ・フラガという男のエ
ゴから生まれた。レイは、そのエゴによって生まれた呪いのようなものを全て駆逐する義
務が、自分にはあると思っていた。それはキラも含め、自分自身も同様であると考えてい
た。
 「シン、ルナ! 行く手を阻む障害は全て排除する! あのデストロイも、確実に仕留め
るぞ!」
 レイは二人に檄を飛ばして、レジェンドを加速させた。
 
 ロゴス陣営の士気は急速に低下しつつあった。同盟軍の猛攻に加え、デストロイが立
て続けに沈んでいることがロゴス陣営の抵抗力を弱めているようだった。
 それは即ち、シンたちの活躍によるものであった。
 「大した子どもたちだ」
 遊撃として三人のサポートに回っていたシャアは、また一機のモビルスーツを撃墜して
いた。
 趨勢は同盟軍側に傾きつつあった。ヘブンズベースの陥落は時間の問題である。この
ままニーベルングを破壊し、ヘブンズベースに立て篭もった残りのロゴス構成員を捕えれ
ば、オペレーション・ラグナロクは完遂したことになる。
 事は順調に思えた。
 しかし、それだけでは終わらなかった。招かれざる者の出現が、シャアに緊張を走らせ
た。
 レーダーがそれをキャッチするより先に、感覚でそれを察知していた。
 「あの先……」
 動きを止めたセイバーに、ウインダムが背後から襲い掛かった。しかし、セイバーは後
ろに目が付いているかのようにひらりと迫撃をかわすと、振り返りざまにビームサーベル
を抜き、一刀の下にウインダムの胴を切り裂いた。
 「カミーユか!」
 変形して現場へと急行した時、既に場は混迷を極めていた。
 デストロイに攻撃を仕掛けるレジェンド。そのレジェンドにカオスが攻撃を仕掛ける一方、
デストロイは、その味方であるはずのカオスにも攻撃を浴びせていた。そして、デスティニ
ーがその間隙を縫ってデストロイに攻撃を仕掛けようとするも、Ζガンダムがそれを阻み、
更にそのΖガンダムをインパルスが阻む。デストロイは、そのΖガンダムすら攻撃に巻き
込んでいた。
 一見しただけでは、何がどうなっているのか判別不可能な状況だった。
 だが、チャンスだとも思った。
 (この乱戦を利用すれば、カミーユに接触できる……)
 シャアには確かめたいことがあった。それは、ベルリンでモビルスーツ形態のΖガンダ
ムを目にした時から漠然と気に掛けていたことである。
 シャアは、少し遠めの位置から介入の機会を窺った。Ζガンダムはデスティニーとイン
パルスの攻勢に押されていて、その対応に追われている。シャアの接近には気付いてい
ないように見えた。
 しかし、研ぎ澄まされたカミーユの感性は、その中でも敏感にシャアの接近を感知して
いた。
 不意に、シャアは身体に何かの圧力を感じた。重苦しく、感覚が狂うような圧力である。
ニュータイプが放つ特有の波動、“プレッシャー”と呼んでいる感覚である。戦闘の中で
意識を拡大させ、周囲に拡散されるカミーユのプレッシャーは、ニュータイプの中でも特
に重く感じられるものだった。
 ニュータイプ能力が類を見ないほどに肥大化したカミーユのプレッシャーは、シャアを
一寸怯ませた。だが、その淀みの無いプレッシャーは、ある種シャアに更なる期待を抱
かせた。
 (直接、本人に確かめる価値はある……)
 シャアは強かに間合いを取り、機を窺った。
 カミーユには、そのセイバーの動きが介入を躊躇っているように見えた。
 「来ないのか……?」
 カミーユには、そのシャアの消極的な動きが疑わしかった。何か奸計を企んでいるので
はないか――そう訝るカミーユであったが、シャアばかりに気を取られている場合ではな
い。正面から飛来したビームが強烈な光をカミーユに浴びせ、目を細めさせた。デスティ
ニーの高エネルギー長射程ビーム砲の光だった。
 「何てパイロットだ……!」
 事前に攻撃の意図は感知していた。カミーユはシンの思惟を読んで、それに対応したつ
もりだった。だが、デスティニーはそのカミーユの反応を後読みで追って、咄嗟に照準を
修正したのである。結局、外れはしたものの、あと少しデスティニーの狙いが正確であっ
たなら、カミーユは撃墜されていたかもしれなかった。
 「大尉に現を抜かしてたら、やられる……!」
 カミーユには明確な危機意識があった。敵はカミーユの都合などお構い無しに、攻勢
の手を緩めることはしない。
 デスティニーは肩から柄を取り出し、それを投擲してきた。短いビーム刃が発生したそ
れは高速で回転し、ビームブーメランとなって襲い掛かってくる。
 弧を描いて迫る軌道は慣れないものであったが、速度はビームや実体弾の比ではな
い。カミーユはイージーな攻撃を怪訝に思いながらも易々とかわし、デスティニーに反
撃を試みようとした。
 「……っ!」
 しかし、ビームライフルのトリガーを引くスイッチを押す指は、寸前で止まった。
 「――そこだっ!」
 咄嗟に操作を切り替え、左手側に向けてシールド裏に仕込んであったミサイルを発射
した。そこには、フラッシュエッジの軌道に気を取られている隙にΖガンダムに斬り掛か
ろうとしていたインパルスが迫っていた。
 「きゃあっ!」
 カミーユの放ったミサイルはインパルスに直撃した。フェイズシフト装甲がダメージを
無効化したものの、パイロットのルナマリアは想定外の反撃に面食らって、咄嗟に後退
した。
 しかし、インパルスを退けている間にデスティニーがフラッシュエッジを回収し、それを
ビームサーベル形態に切り替えて襲い掛かってきた。
 「くぅっ……!」
 大推力のスラスターの加速に乗せて、デスティニーはビームサーベルを力任せに叩き
つけてきた。回避している猶予は無い。カミーユはシールドを構えて辛うじて防いだが、
デスティニーの突進の勢いがΖガンダムのパワーを凌いで、吹き飛ばされてしまった。
 地面に背中が着いて倒れそうになるところを、カミーユは懸命にコントロールして体勢
を立て直そうと試みた。しかし、バーニアやアポジモーターを駆使して四苦八苦している
ところを、シャアに狙われた。
 少し目を離していた隙に、セイバーがいつの間にか接近していた。カミーユはそれに気
付くも、牽制攻撃を受けて抵抗を封じられた。
 そこからのセイバーの挙動は鮮やかだった。一瞬、右方向に動くと見せかけてフェイン
トを掛けると、次の瞬間には素早く左方向に動いていて、目で追う間もなくカミーユの視
界から消えた。そして、シャアの気配を探知している間に背後から迫り、組み付いてきた
のである。
 「ク、クワトロ大尉!」
 セイバーはビームライフルの銃口を突きつけて、カミーユに抵抗を許さなかった。しか
し、カミーユが思わずエゥーゴ時代に親しんだ呼び名を叫ぶと、セイバーは少し驚いたよ
うに双眸を瞬かせた。
 「やはり、記憶が戻っていたのだな?」
 「す、すみません……」
 詫びると、シャアは「気にするな」と言った。
 「元に戻れたなら、いい。だが、ここが落ちるのも時間の問題だ。もし、連合軍を抜ける
気があるのなら、私がデュランダル議長を説得して、プラントに亡命できるように取り成
すこともできる」
 「クワトロ大尉、それはありがたいですけど……」
 カミーユの歯切れが悪い。「どうした?」とシャアは問いかけた。
 「大尉、実はもう連合軍は抜けたんです。今の僕は、脱走兵なんです」
 「何だと? ……いや、なら、何でこんな所にいるのだ?」
 「それは――」
 しかし、事情を説明しようとしたカミーユは、言いかけて言葉を止めた。そして、「すみま
せん!」と大声で断ると、サイドスカートアーマーからビームサーベルの柄を取り出し、
それを逆手に持って背後のセイバーに対して振り回した。
 咄嗟のことに、シャアも思わず飛び退く。カミーユはビームライフルの銃口を向けて、
シャアがすぐに追ってこられないように牽制しながらデストロイに向かって跳躍した。デ
スティニーとインパルスがデストロイに向かっているのが見えたからである。
 「僕たちは、あのデストロイに乗っている人を助けに来たんです!」
 「あのデストロイだと?」
 「あのデストロイに乗せられている人が、脱走の手引きをしてくれたんです! でも、そ
のせいで左遷させられて、デストロイの生体コアにさせられてしまって……だから!」
 「――助けに来たというわけか」
 シャアはカミーユの言葉を継ぐように言うと、デストロイへと目を転じた。
 デストロイは、カオス、レジェンドと三つ巴の攻防を繰り広げている。その攻撃は、救出
に来たはずのカオスに対しても見境なく注がれていた。しかし、それでもカオスはレジェ
ンドにデストロイを攻撃させないようにしながら、綱渡りのような状況の中で何とか立ち回
っていた。
 シャアはそれを見て、カミーユの言っていることは嘘ではないようだと思った。
 「――しかし、脱走兵であるカミーユたちがこの戦闘に介入するには、大きなリスクを伴
う」
 脱走といえば極めて重罪である。正規兵ではなかったにしろ、カミーユもエゥーゴの軍
規に従っていた人間である。脱走の罪がどれだけ重いものであるかを知らないはずがな
い。
 しかし、それでもその罪を咎められる危険性を承知した上でヘブンズベースにやって来
たということは、それなりの理由があるということだ。シャアは、そのカミーユたちの心情を
何とはなしにではあるが察した。
 「つまり、そうさせるだけの人物が、あのデストロイには乗っているということか……」
 そう結論付けたシャアは、少し様子を見る必要があると考え、追撃の手を緩めた。
 デストロイは、幾度となくレジェンドに好機を作られていた。しかし、その度にカオスの妨
害が入り、事無きを得ていた。だが、そのギリギリの防波堤も、徐々に破られつつあった。
 デスティニーとインパルスが駆けつけてきたことで、デストロイを巡る攻防は更に激化
した。スティングはその中で、切羽詰る一歩手前の状態で何とか堪えている状況だった。
 今日のスティングは、自身で冴えていることが自覚できるほどに調子が良かった。いつ
も以上に反応が良いし、状況判断も優れている。だが、そんな絶好調の状態でさえ、辛
うじて敵がデストロイへ接近するのを妨害するのが精一杯だった。
 「クソッ!」
 画面を走る光に、スティングは目を細めた。それは、デスティニーが放った高エネルギ
ー長射程ビーム砲のビームがカオスを掠めた光だった。
 「モビルアーマーってのは、高速機動形態なんだぞ!」
 思わず声を荒げたスティングが悲鳴でも上げているように見えたのか、デスティニーは
尚もお構い無しにカオスを攻め立てた。
 「コーディネイターどもが!」
 デスティニーの攻撃は、スティングの動きに合わせて自在に繰り出される。それは、先
読みをされる以上に厄介なことだった。
 「あのフリーダムも似たような動きをしてやがった! これじゃあ地球軍に俺たちのよう
なのが必要だった理由が、よく分かるってもんだぜ!」
 スティングはデスティニーにフリーダムと同質のものを感じていた。それがどれほどの
脅威であるかを理解しているスティングにとって、持久戦は自殺行為に等しかった。
 「ネオ! 聞こえねえのか、ネオ!」
 最大速度を維持したまま、スティングは通信機のマイクに向かって怒鳴っていた。しか
し、先ほどから何度も呼び掛けてはいるものの、デストロイからの応答は一切無い。ステ
ィングは、今度も無駄だと悟ると、再びデスティニーの攻撃に意識を戻して苛立たしく舌
打ちをした。
 「ネオはネオで機械なんかに操られやがって!」
 儘ならぬ状況に、焦りと苛立ちが募る。デストロイは接近を繰り返すレジェンドを良く退
けてはいたが、それも次第に突破されつつあった。レジェンドが手に持つレーザー対艦刀
エクスカリバーは、その刃の部分に紅いレーザーを走らせ、黒い鉄を切り刻む瞬間を今
や遅しと待ち構えている。
 「アウルはどうした!? カミーユは!」
 焦れる気持ちが抑えきれずに、スティングは叫んでいた。
 だが、その声が届いたのか、数発のビームが別方向から飛来して、デスティニーを襲っ
た。ビームは直撃こそ無かったものの、デスティニーのシールドを弾き飛ばしていた。
 インパルスが咄嗟にデスティニーの前に出て、更なるビームの襲来に備える。だが、ビ
ームはインパルスのシールドをも弾き飛ばして、更にエクスカリバーまで貫いていた。
 堪らず、再びデスティニーが前に出て、両手甲のビームシールで身を固めながらイン
パルスを伴って後退した。
 「カミーユか!」
 低空から、土煙を上げて迫ってくるΖガンダムの姿をキャッチした。スティングはモビル
スーツ形態にカオスを変形させて、素早くΖガンダムに接近した。
 「大佐は!?」とカミーユは問う。しかし、スティングはそれには答えず、「援護しろ、カミ
ーユ!」と怒鳴った。
 「何をするつもりだ!?」
 「デストロイからの応答がねえ! 多分、洗脳されてやがるんだ! だから、俺が直接
デストロイに取り付いて、ネオをコックピットから引っ張り出す!」
 「無茶だ!」
 「もうそれしか策(て)はねえんだよ!」
 一瞬、閃光を発するスクリーン。デスティニーから発射された高エネルギー長射程ビー
ム砲のビームは、長い刃のように空を薙ぎ払い、辛うじてカオスを外していた。
 スティングは忌々しげにデスティニーを睨みつけると、「無茶でも何でもやって見せねえ
と!」と吐き捨てて、レジェンドの死角になるようにデストロイの背後に回りこんだ。
 「さっきからしつけえんだよ、テメーは!」
 デストロイの砲撃に合わせて、その影から飛び出す。そして、素早くモビルアーマー形
態に変形すると、最大出力のカリドゥスをレジェンドにお見舞いした。
 大口径のビームがレジェンドに伸びる。その一撃はレジェンドが咄嗟にビームシールド
を展開して防がれてしまったが、それでも最大出力のカリドゥスはその威力でレジェンド
を吹き飛ばすことができた。
 「ざまあみやがれ、コーディネイターめ!」
 スティングは快哉を上げると、その間隙を縫ってデストロイの正面に飛び出した。そして、
ファイアフライ誘導ミサイル叩き込んで爆発による煙幕を作り出すと、それを利用して一
気にデストロイに肉薄した。
 「世話の焼けるオヤジが! 今すぐそこから引きずり出してやる!」
 煙幕の向こうにうっすらとデストロイの影が見えている。スティングは、そのコックピット
がある首元目掛けてカオスを突撃させた。
 だが、その時だった。
 「何っ!?」
 煙幕を突き破る一条のビームが、血気に逸るカオスの頭部を穿っていた。
 スティングの正面のメインスクリーンが、ブツンと音を立てて切れる。直前に目にしたの
は、こちらを見上げているデストロイの口腔部がビームの粒子を散らしている光景だった。
 次の瞬間、激しい衝撃が襲った。デストロイの巨大な腕が、杭を打ち込むようにカオス
を叩いたのだ。スティングは何をされたのか分からぬまま、墜落の衝撃に「ぐえっ!」と
呻き声を上げた。
 デストロイの殴打とそれに伴う墜落による二度の衝撃で、身体にベルトが深く食い込む。
スティングは、その痛みを堪えながら、手早くサブカメラへのメイン表示の切り替え操作
を行った。
 だが、ようやく表示の切り替えを済ませて正面スクリーンが復活した時、その瞬間にス
ティングの目に飛び込んできたのは、巨大な鉄の塊だった。
 「げえっ!?」
 スティングは悲鳴を上げ、思わず腕を前に出して身を守っていた。逆光になって細かい
ディテールは潰れてしまっているが、その分銅の底のような鉄の塊は、デストロイの足の
裏だった。
 そのデストロイの足の裏が、自重を乗せてカオスを踏みつけてきた。カオスは腕を前で
交差させて耐えようとしたが、それも焼け石に水。抵抗は虚しかった。
 「うおぉーっ!?」
 フェイズシフト装甲のお陰で、圧殺されることは無い。しかし、自機の倍以上あるデス
トロイに踏み潰されるということは、なまじのことではない。バキバキッ――駆動関節の
シャフトが折れる音が、コックピットの中にまで響いてくる……
 ポイ捨てしたタバコの火を揉み消すようにグリグリとカオスを踏みつけると、デストロイ
はようやく足を上げた。その跡には、半分ほど地面に埋まったカオスが横たわっている。
原型は留めているが、腕と肩の関節は千切るかすり潰されでもされたかのようにもげ、
細かいパーツの破片が散らばっていた。
 デストロイはゆっくりと一歩後退すると、息をしてないかのようなカオスに向けて右腕を
掲げた。その五本の指先の砲口から光が漏れ、カオスを照らす。
 だが、その時、横合いからエクスカリバーを振りかぶったレジェンドが飛び込んできて、
デストロイの右前腕部にその刃を食い込ませた。
 エクスカリバーのレーザー刃はデストロイの右前腕を焼き切りながら、その刀身を深く
深く沈ませていき、やがて両断した。
 ズン、と地面にデストロイの右前腕が落ちた。レジェンドの双眸が、ギラリと光る。
 「――これで終わりだ!」
 デストロイは、うろたえたように後退しながらもレジェンドに正対し、胸部に横並びに三
連装されたスキュラの砲口を光らせていた。レイは左手にビームサーベルを抜き、真ん
中のスキュラ目掛けて突きを繰り出した。
 その瞬間だった。
 ――やめてくれーっ!
 「うっ!?」
 鈍器で脳を直接殴られたような声を錯覚すると、金縛りのように身体が動かなくなった。
 (しまった! やられる――!)
 眼前ではデストロイのスキュラが煌々と輝いていた。しかし、その光も、レイが不覚を
悟った途端に尻すぼみするように消えていった。
 ずしっと身体が重くなるような感覚が、一段と濃くなった。
 その感覚に、シャアが思わず呟く。
 「カミーユ……!」
 Ζガンダムはデスティニー、インパルスと対峙していた。シャアはそのΖガンダムから
オーラのようなものが発散されているのを知覚した。そして、それがデスティニーとイン
パルス、さらにレジェンドやデストロイにも伸びて、絡みつき、動きを止めているように錯
覚した。
 「人の意思がマシンを金縛りにする……!?」
 それは、シャアにとっても信じがたい現象だった。