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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第23話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 03:01:35

 カガリの乗るアカツキは、養父であるウズミ・ナラ・アスハが万が一の事態を想定して
遺した“力”である。その金色の装甲“ヤタノカガミ”は、ビーム攻撃を跳ね返す特殊な加
工が施されていた。
 「現在、ジブリールの行方は我々の方でも捜索中である。しかし、ザフトの侵攻によっ
てその作業が滞り、難航している状況でもある。それでは、ジブリールの利にしかなら
ない。それは双方の望むところではないはずだ。貴官らがこれを理解してくれるのなら、
今すぐに軍を退かせて欲しい。その上で、共にジブリールを捕えよう」
 カガリの宣言はオープン回線でザフトにも伝わっていた。
 戸惑いが広がった。まだ少女の声といえど、その宣言は一国の元首の言葉なのだ。
 セントへレンズは判断に迷った。このオペレーション・フューリーの作戦目的は、ジブ
リールの確保にある。軍を消耗させずに目的が達せられるのなら、それに乗らない手
は無い。
 だが、俄かに現場から聞こえてきた声は、その判断は甘いのだと指摘しているようだ
った。
 「そうやって、時間を稼ごうって算段じゃないのか?」
 シン・アスカの声が戦場に轟く。その言葉は、ある意味でザフトの釈然としない気持ち
を代弁したものだった。戦闘になった今、言葉だけで相手を説得できる時期はとうに過
ぎているのだ。
 「本気でそれを言ってんなら、態度で示したらどうなんだ?」
 シンは銃口をカガリに向けた。ビームが効かないことは分かっている。これはカガリに
覚悟を迫るシンの意思表示だ。
 アカツキが頭部をデスティニーに振り向ける。
 「お前は……」
 カガリはその声に覚えがあった。シン・アスカは二年前の災禍でプラントに渡った、元
オーブ国民のザフトであった。そして、シンは養父と自分の一族を憎んでいた。
 ――流石、奇麗事はアスハのお家芸だな!
 苛烈な少年の声は、今もカガリの耳に残っている。そのシンがこうしてオーブに戻って
きて、自分に銃を向ける。それは運命だったのではないかとカガリは思う。
 「……シン・アスカだな?」
 カガリは静かに語り掛けた。シンはビームライフルのトリガースイッチに親指を添えな
がら、その問い掛けに身動ぎした。
 「俺のことを覚えていた……?」
 とっくに忘れ去られているものと思っていた。だから、意外だった。
 アカツキが正対する。その精悍な顔立ちに、シンはカガリの生の表情を見たような気
がした。
 「どうしても私を信じてもらえないのか?」
 「あ、当たり前だろ! そんなふざけたモビルスーツなんか持ち出して!」
 声を荒げて、ビームライフルを更に突き出す。しかし、アカツキは些かも慌てる素振り
を見せない。
 (ビームが効かないことを分かってるから、強く出られるんだろ……!)
 シンは、そうやって看破したつもりになっていた。しかし、それはカガリの正確な心情
とはかけ離れていた。
 「私はふざけてなどいない!」
 刹那、シンは我が目を疑った。アカツキがその手に持ったビームライフルを手放した
のである。
 「このモビルスーツ“アカツキ”は、オーブを守る黄金の遺志だ。私は父の思いを受け
継ぎ、そして、オーブを守ろう!」
 シンはその言葉に、カッと全身が熱くなるのを感じた。
 「守れなかったじゃないか!」
 濁流のように混濁した声だった。自分でも驚くほど醜い声だった。しかし、シンは溢れ
出てくる思いを止めることはできなかった。
 「二年前! アンタたちは何も!」
 ビームライフルを一発撃った。ビームは当然のように反射された。
 「アンタが守りたいのは自分だけだ! そのモビルスーツが証明してるじゃないか!」
 「私は、お前のことも守りたいんだ!」
 アカツキが両手を広げる。シンは目を見張った。
 「はあ!?」
 返された言葉に、思わず絶句した。よもや、そんな言葉が飛び出してくるとは思いもし
なかったからだ。
 「確かにお父様も私も、お前に――あの戦いで傷ついた人たちに何もしてやることがで
きなかった。お前が私たちを憎む気持ちは当然だ。でも、それがオーブに銃を向ける理
由なら、私はその憎しみからお前を救ってやりたい!」
 「救うだと……!?」
 「オーブはお前の故郷じゃないか! それに銃を向けるなんて、そんなの、悲し過ぎる!」
 シンは込み上げてくる笑いを堪えることが出来なかった。
 「また、奇麗事か……」
 「何……?」
 「結局、アンタは自分が討たれたくないだけじゃないか」
 「そんなことは無い! 奇麗事でも何でも、私はオーブの元首だ! オーブに縁のある
あまねくものを、私は守りたい!」
 ギリッ――シンの奥歯が音を立てた。
 「なら、アンタには討たれる覚悟があるのかよ? それでしか救えない人間が目の前に
現れたら、アンタは素直に討たれてくれるってのかよ!」
 「……っ! それは……!」
 「口先だけだ、アンタは! ジブリールが捕まれば、世界は平和へと歩き始める。それ
を今、アンタらが邪魔してるんだって自覚が無いのかよ! アンタたちはオーブは守るく
せに、世界の平和は守らないのかよ!」
 強く迫る。今まで山積していた思いが堰を切ったように溢れた。カガリに死を迫る自分
の荒んだ心から目を逸らし、シンは心の赴くままに怒りをぶつけた。
 その一方で、こうも思っていた。どうせカガリには何も出来やしない。口ばっかりで、自
分が発した言葉に見合う覚悟すら持ち合わせていないだろうと高を括っていた。
 だから、それを目にした瞬間、シンは本当に驚いた。まさかカガリがそんな行為に及ぶ
とは夢にも思わなかったからだ。
 「なら、討て!」
 カガリはハッチを開き、コックピットの入り口まで身を乗り出して、デスティニーの銃口
の前に生身を晒した。
 その場の誰もが度肝を抜かれた。一国の元首がすることではない。
 当然、カミーユがそれを看過するはずが無かった。
 「馬鹿じゃないのか、あの人!?」
 シャアを牽制し、カミーユは急ぎカガリの援護に向かおうとした。
 だが、素早く前に立ちはだかったのは、レジェンドだった。
 「シンの邪魔はさせん!」
 「このっ!」
 無数のビームがカミーユを襲う。間隙を縫って突破を試みようとするも、レジェンドは巧
みにそれを妨害した。
 それは、レイの執念だった。
 (シンは、キラ・ヤマトを討ってくれたのだから……)
 誰のためでもなかったことは、分かっている。シンはザフトとして任務を全うしただけだ。
だが、レイはそれでも報いずにはいられなかった。
 だからカミーユの介入を絶対に許さない。それがシンへの報いになると思っていた。
 チラと様子を盗み見る。デスティニーは尚、アカツキにビームライフルを向けたまま、時
間が止まったかのように身動ぎ一つしない。
 シンは苦悩していた。
 ビームライフルの射界に生身の人間を収めるのは、初めての経験だった。しかも、相
手はカガリ・ユラ・アスハ――オーブの国家元首である。
 それは元首が取る態度ではない。シンでも当たり前のように理解できていることだ。国
家元首が自ら死を選ぶなど、言語道断。論外だ。
 だが、カガリは現実に自らモビルスーツを出て、ビームライフルを向けているデスティ
ニーの前に生身を晒している。
 「さあ、討て! 私を討つことでお前が救われ、その先に世界の平和が待っているとい
うのなら、この命、いくらも惜しくは無い!」
 大声で催促する姿が、狂気の沙汰に見えた。
 「アンタは、自分を一体何だと……!」
 「ここで私が果てようとも、オーブの志は必ず次の者が継いでくれる。オーブは他国を
侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。私は、そういうオーブを信
じている!」
 認めるしかなかった。例え元首として相応しくない態度でも、カガリの覚悟はシンの怒
りを上回っていた。トリガーを引く指を躊躇っている現実が、その証明だった。
 操縦桿を持つ手が震えた。怒りだけではない。苛立ちに似たやるせない気持ちが、心
の中で際限なく膨らんでいった。
 (俺は、悔しいのか……!?)
 カガリの覚悟の前に気持ちを挫かれ、ビームを撃つ指までもが固まってしまっている。
それは完敗と言えるほどの屈辱だった。
 しかし、その屈辱を削ぐにしてもトリガーは引けない。それをした瞬間、シンは永遠にカ
ガリに勝てなくなってしまう。それは地獄の拷問に等しい。
 生き地獄のような時間だった。時間にしてほんの一、二分。それが何十倍にも長く引き
伸ばされたように感じられ、その間、シンは押すも引くもできなかった。
 討たれる覚悟を示したカガリと、いざとなると討つ覚悟を放棄した自分。それは自らの
矮小さを思い知らされた時間でもあった。
 「シン、何をしている!」
 その時、通信回線から突然叱咤する声が届いた。
 「今の内にアスハを押さえるんだ!」
 「あっ……!」
 我を取り戻させてくれたのは、レイの檄だった。そして自分が思考停止していたことに
気付く。
 (目的を思い出せ!)
 頭の中で自らを叱責した。シンの目論見は、いち早くオペレーション・フューリーを完遂
させることである。ジブリール捜索のためにはオーブ軍の抵抗を止めさせる必要があり、
そのためにはカガリを押さえてしまうのが一番手っ取り早いのだ。
 それを思い出した。討つ討たないの問題ではなく、今はその絶好の機会ではないかと。
 「動くなよ、アスハ!」
 「何っ!?」
 シンはビームライフルを収めると、代わりにアロンダイトを抜いてアカツキに接近した。
 カガリは様子が変わったことに気付いて慌ててコックピットに戻ったが、時すでに遅し。
デスティニーのアロンダイトは、カガリが逃げられない状態で突きつけられていた。
 シンはすかさずオープン回線を開いた。
 「オーブ軍に告げる! ザフトは、オーブ国家元首カガリ・ユラ・アスハを押さえた!」
 「何だと!? 貴様、私を人質にして降伏を促すのか!」
 「黙ってろよ。それが最善の方法だろうが」
 個人的には悔しい。だが、それは大局の中では露ほどの意味も持たない。だから、こ
れでいいのだ。ザフトとして、最低限の被害で戦闘を終了させる。それが最大の目標だ
ったのだから。
 通信アンテナが多くの電波を傍受した。シンの宣言を受けて、オーブ軍が激しく動揺し
ている様子が伝わってくる。少しだけ胸がすいたような気がした。
 「卑怯だぞ、こんなやり方!」
 「抜かせ。迂闊なアンタが悪いんだろうが。大将の癖に、そんな冗談みたいなモビルス
ーツでのこのこ出てくるもんだから、卑怯でも何でもない!」
 「開き直るのかよっ!」
 「恨むんなら、自分の頭の悪さを恨みやがれってんだ!」
 仕返しとばかりにシンは嫌味っぽく返す。
 唸るカガリ。ハンカチがあれば思いっきり噛みたい気分だ。
 呆気ない幕切れ。だが、勝敗は決したのだ。カガリが人質に取られたと知れれば、オー
ブは白旗を揚げるしかない。
 そして、然るべき後にザフトの全兵力を動員して捜索すれば、オーブはそれほど広い
わけではないのだ、ジブリールもすぐに見つかるというものである。それが叶った時、世
界はようやく平和への道を歩み始めるのだ。シンが望む平和な世界へ――
 「繰り返す。ザフトはカガリ・ユラ・アスハを押さえた。直ちに武装を解除し、こちらの指
示に従わない場合――」
 ――しかし、その時だった。晴れ渡ったオーブの空が、突如ビームの雨を降らせた。
 シンの宣言は遮られた。それどころか現場は一時騒然となり、パニック状態に陥った。
 「何だよこれ!?」
 ビームシールドを展開し、雨を凌ぐようにシンはアカツキから離れた。離れざるを得な
かったのだ。そのビーム攻撃は無差別に戦場に降り注ぎ、危険に晒されたのはアカツ
キとて例外ではなかった。
 ビームの雨が降りしきる中、カミーユは動いた。土砂降りのビームはレジェンドの動き
すら鈍らせる。カミーユはその間隙を縫って、デスティニーから逃れたアカツキと合流し
た。
 ウェイブライダーに変形し、その背に乗るように促す。
 「何なんだこれは、カミーユ!」
 「知りませんよ!」
 二人とも、突然のことに絶叫するように声を張る。
 「何発か貰ったんだ! アカツキじゃなかったら、私は落とされていた!」
 「いいから早く!」
 カミーユが急かすと、カガリは少し不満そうにしながらもウェイブライダーの背に乗った。
 「お前の勘で敵か味方か分からないのか?」
 カガリが問う。だが、カミーユにも判断はつかなかった。このビーム攻撃の主はオーブ
の純粋な味方のようにも感じられたし、一方で腹黒い陰謀めいたものも感じる。
 (一人だけのものじゃない……?)
 カミーユはかぶりを振った。
 「僕はそんなに便利じゃありません。今はこの状況を利用して後退します」
 「……そうしてくれ」
 カガリは後方を気にした。シンに対し、後ろ髪を引かれる思いがあった。シンとは、もっ
と話をしなければならない――カガリは痛感していた。
 だが、カミーユはそれを気に掛けるほどのセンチメンタリズムは持てなかった。
 直感が告げている。このビーム攻撃の主とはあまり関わり合いになるべきではないと。
 ビーム攻撃への対応をカガリに任せ、カミーユは一刻も早く離脱するため、スロットル
を全開にした。スクリーンの隅に表示した後方カメラの様子を確認しながらである。
 その先には、シャアのセイバーの姿があった。
 天上より降り注ぐビームの雨は、かつてアクシズが地球圏に帰還した際の出来事を思
い起こさせていた。大量のガザCの群れから放たれる、宇宙を埋め尽くさんばかりのビー
ムの嵐。ハマーンにアクシズの戦力をひけらかす目的があったあの時ほどではないが、
如何せん、不調のセイバーでは辛うじて被弾しないようにするのが精一杯だった。
 「クワトロさん!」
 やって来たのは、この混乱に乗じてオーブの防衛線を抜けてきたルナマリアである。
ルナマリアはセイバーの動きが鈍いと見るや、自らシャアの防御に入った。
 「どうしたんです!?」
 「大丈夫だ!」
 「嘘ですよ! ――あたしが援護に入りますから!」
 ルナマリアはそう言って、インパルスで強引にセイバーを後ろに押し込んだ。
 「無理に構わんでいい!」
 「無理をしてるのはクワトロさんです! セイバーが不調なのは、あたしが見たって丸
分かりなんですよ!? ほんっと、男の人の意地って女を不安にさせるんだから!」
 「ん……! すまない……」
 言うと、シャアは一旦回線のスイッチを切った。
 「カミーユに遅れを取った挙句、小娘の増長まで許すとは!」
 愚痴を零すと、すぐに回線を繋げた。
 「これって、敵の増援なんですよね?」
 「そうだろうな。この感覚、成層圏を抜けてくるものがある。――多いぞ!」
 「キャッチしました!」
 ルナマリアが声を上げると同時に、レーダーに複数の機影が映った。それはあっとい
う間に数を増やしていき、最終的に二十機程度にまで膨れ上がった。
 青い空に、ぽつぽつと黒点が広がる。それはやがて鮮明になって、肉眼でもその姿を
認識できるほどにまで迫ってきた。
 「黒いモビルスーツですよ! ザフト系っぽいけど――知らないですよね!?」
 ルナマリアの言うとおり、データには無い機体だった。
 だが、シャアには見覚えがある。それは例の如く、ジオン公国軍のモビルスーツを模
倣したかのような意匠だった。
 「ドムだ!」
 「ドム? じゃあ、あれはクワトロさんの世界のモビルスーツ……?」
 「いや、君たちのザクやグフと同じように、この世界独自のモビルスーツだろう。しかし
――」
 今さらドムが出てきた程度では驚かない。問題はその性能だ。ザクやグフの例に漏れ
ないのだとすると、間違いなく厄介なことになる。
 次々と降下してくるドム・トルーパー部隊。シャアたちも応戦するが、デスティニーやレ
ジェンドが持つようなビームシールドを備えていて、ビームが通らない。しかも全身をバ
リアのように覆う装置も付いていて、バズーカ砲はビームと実体弾の二連装ときた。ある
程度は覚悟していたが、こんなドムは最早シャアの知るドムではない。
 「小癪な! オーブはこんな戦力を隠していたのか!?」
 「そうなんです!? でも、これって……!」
 「各個に対応していたのでは不利だ! シンやレイとも合流すべきだ!」
 「賛成です! このままじゃ……えっ? レーダーに反応――まだ来ます!」
 「何だと!?」
 降下したドム・トルーパーと入れ替わりになるように、シャアとルナマリアは中空へと逃
れていた。どうやらドム・トルーパーに飛行能力は無いらしく、それは幸いと言えた。
 だが、安堵したのも束の間、ルナマリアが更なる敵の出現を予告した。その存在は、セ
イバーのレーダーも察知していた。
 上空を振り仰ぐ。天空より降下してくる少数のモビルスーツがある。その姿がハッキリ
としてくると、シャアは思わず眉を顰めた。
 「バカな……!」
 同じ台詞を、シンとレイも呟いていた。降下してくるドム・トルーパーの群れの中に、信
じられないモビルスーツを見つけてしまったのだ。
 見覚えのある青い羽。白と黒のコントラストのカラーリング。多少の意匠の違いはあれ
ど、それは明らかにフリーダムだった。
 
 オーブの危機に、遂にラクス派は動いた。地球の衛星軌道上に艦隊を展開させ、そこ
からモビルスーツ部隊をオーブに送り込んだのである。
 再突入を終え、センサーが回復すると、上空からでもオーブ軍が劣勢である様子が窺
えた。既にカガリがオーブに戻ったことは聞き及んでいる。アークエンジェルの反応も、
オーブ海軍の中にあった。
 アスランは操縦桿を握る手に力を込めた。ザフトに対する奇襲は成功したが、オーブ
軍側にも混乱が広がってしまっている。
 「サトー、見境なく撃ったな?」
 ほぼ同じ速度で降下を続けるドム・トルーパーを見やった。そのモノアイがギョロッと動
いて、ジャスティスを見る。
 「データに無い機体が多かったもので。あなた方ほどの腕が無い我々では、識別して
いる余裕は無かったのです。――ザラ殿こそ、トリガーを引く指に躊躇いがあるのでは
ありませんかな?」
 「どういう意味だ?」
 「世を正すおつもりでしたら、迷いは禁物。違いますかな?」
 「俺はそこまで傲慢じゃない」
 「……これは失礼をば」
 ジャスティスにはラクスも同乗していた。そのラクスの目が、サトーの乗るドム・トルー
パーを見つめていた。
 アスランは視線をキラのフリーダムに移した。
 「キラ。俺はラクスをカガリのもとへ送り届けてくる。少しの間、頼んだぞ」
 「了解、アスラン。ラクスをよろしく」
 アスランが告げるとジャスティスは単機離脱し、キラは暫時それを見送ると、目線を眼
下の戦場へと落とした。
 ビームの一斉射で完全に布陣が崩れたヤラファスでは、ザフトとオーブ・ラクス派の
連合軍が乱戦を繰り広げていた。
 戦況はオーブ側が優位になりつつある流れだった。だが、その中でもミネルバのモビ
ルスーツは流石と言えた。唯一、セイバーの動きがいつもよりぎこちなく感じたが、それ
を僚機がカバーする良いコンビネーションには、キラも感心させられた。
 キラの目は真っ先にインパルスに向けられた。
 脳裏に深く刻み込まれた敗北の記憶。自分の腕とフリーダムがインパルスとそのパイ
ロットに劣っていたとは、今でも思わない。機体の性能やパイロットの腕で負けたという
よりも、その意志の強さに呑まれて負けた。そんな印象だった。
 だが、その強さを今のインパルスからは感じない。それは寧ろ――
 「……間違いない」
 ミネルバに新型が配備された噂は聞いていた。その中の一機、大型のスラスターから
光の翼を広げるモビルスーツに、その強さを見た。そのモビルスーツ――デスティニー
にインパルスのパイロットだったシン・アスカが乗っているに違いない。
 キラは確信していた。その動きは、インパルスと戦った時の記憶と一致した。
 「まずは彼を止めないと!」
 野放しには出来ない。デスティニーはドム・トルーパーが相手といえど歯牙にもかけず、
キラが降下してくる少しの間に二体のドム・トルーパーを戦闘不能に追い込んだのである。
 見せしめだ。キラは目標を定めると、迷い無くスロットルを全開にした。
 そのデスティニーは、キラを待ち構えていた。シンにも分かるのだろう。互いに、最も先
に潰さなければならない相手が誰であるのかを。
 シンはキラが自分を狙ってくることを分かっていた。それは同じ次元にいるパイロット同
士だからこそ共有できる認識だった。キラはデスティニーにシンが乗っていることを理解
し、シンはキラが自分を標的にする理由を知っていた。
 宿命と呼ぶのは適切ではない。しかし、二人の認識は決して大袈裟ではなかった。
 新たなフリーダムは武装が変更されている。以前のフリーダムを良く研究したシンだか
らこそ、それを瞬時に見分けられた。
 銃撃を交える。まずはほんの小手調べだ。
 互いに新たなモビルスーツの性能を探る。使わない武器も含め、戦っている間におお
よその威力や性能を推測する。二人は、瞬く間に互いの機体の性能を把握していった。
 やがて、先にギアを上げたのはキラの方だった。あらかたのデスティニーの性能を把
握すると、キラは途端に猛攻を仕掛けたのである。
 その豹変振りには、シンも些か驚かされた。これほど攻撃的なフリーダムを、初めて
見たからだ。余程シンとデスティニーのことを警戒しているのだろう。
 ならば、とシンもギアを上げる。スラスターを全開にし、猛スピードでフリーダムへと迫
った。
 フリーダムの両手に持つビームライフルが連続して火を噴いて、迫るデスティニーを
迎撃する。連射しているのに、恐ろしい精度の射撃だった。
 だが、それでもシンはそのビームを掻い潜り、フリーダムに肉薄した。
 「食らえ!」
 ビームライフルで牽制し、フリーダムが動きを止めたところへ左腕を伸ばす。デスティ
ニーの掌に埋め込まれた短距離ビーム砲パルマフィオキーナ。流石にこの武器の存在
には、気付いていないはずである。そして、確かにキラはそれには気付いていなかった。
 しかし、それでもキラには瞬間的に見極める目がある。デスティニーの手に内蔵され
ている砲門。それをデスティニーが手を伸ばした一瞬で確認したのである。
 刹那、キラは常人では考えられないような反応速度でフリーダムを操ると、デスティニ
ーの下へと潜り込ませた。そして至近距離でクスィフィアスを叩き込むと、くの字に折れ
たデスティニーに向かって前後に連結したライフルの砲口を突きつけたのである。
 だが、次の瞬間、キラは目を見張った。デスティニーの姿が一瞬淡く見えたかと思うと、
その姿がまるで幻であったかのように消えてしまったのである。
 「――後ろ!」
 ピピピッ! ――アラームが鳴る前にキラは目線をそちらに向けていた。スクリーンに
は、既にデスティニーが眼前に迫っている様子が映し出されている。その手には大剣ア
ロンダイトが握られていて、それを大きく振りかぶって、今正に斬りかかろうとしていた。
 咄嗟に翻るキラ。振り下ろされたアロンダイトは空を切ったが、立て続けに突き込んで
くる。キラはそれを両マニピュレーターで挟み込み、真剣白刃取りの要領で受け流した。
 「チッ!」
 その曲芸には、流石のシンも舌を巻かざるを得ない。
 勢いで、双方が抱き合うように正面からぶつかる。だが、互いに微塵も引かない。
 「生きていたのか、アンタ!」
 先に呼び掛けたのはシンだった。その第一声は当然と言えば当然である。ザフト内で
は、フリーダムは完全に撃墜したことになっていたのだから。当のシンも、フリーダムは
完全に倒したものだとばかり思っていた。
 事実、キラは九死に一生を得ていた。撃墜されたあの時、エクスカリバーに貫かれる
直前に咄嗟に動力炉を停止させていなかったら、今頃キラの命は無かった。あの時は
本当に肝が冷える思いを味わったのである。
 だからこそ感じたこともある。アークエンジェルに迅速に救助され、大した怪我も負わ
なかったのは単純に運が良かったからだ。そして、そういう幸運がこれからも続くとは限
らない。
 あの時の敗北は、動揺と迷いが生んだものであった。そして、フリーダムの性能と自
身の腕を過信していた自分に気付いた。それは戦士としての甘さを痛感した瞬間だった。
 こんなことではラクスを守れない――ハマーンとの出会いとその言葉が、キラの意識
を変えた。シンに受けた敗北が、キラを本気にさせたのだ。
 新たなモビルスーツを得たシンは、一層の強さを手に入れていた。スクリーン一杯に
広がるデスティニーの双眸が、キラを射抜くように瞬いた。キラは、それを睨み返す。
 「僕には死ねない理由がある。絶対に守らなくちゃいけない人がいるから……」
 「無駄だ! 何度蘇ろうと、アンタは必ず俺が倒す!」
 ギシギシと金属が擦れる音が響く。デスティニーは今にも自分を弾き飛ばし、襲い掛
かってくる勢いだった。
 だが、キラに動揺は無い。
 「君はあの時、僕に言ったよね? 僕を倒すのは君がザフトだからで、それが君の使
命だって」
 キラの声は、妙に落ち着き払ったものだった。シンには、それが殊更に不気味に感じ
られた。
 シンの本能が警告していた。単純に性能が上がっただけではない。今のフリーダムか
らは、パイロットの――キラ・ヤマトの並々ならぬ気迫が伝わってくる。
 「僕にも使命がある。そのためには、もう誰であっても負けるわけにはいかない……」
 グググッと、フリーダムがデスティニーを押し返し始めた。――予感した。シンは操縦桿
を握り直し、身構えた。
 「それは、君が相手であってもだ!」
 言葉と共に強い意志が流れ込んでくる。黄金色に光る双眸は、キラの気迫が目に見え
る形で表れたかのようだった。
 「ほざけよっ!」
 シンはアロンダイトの柄から手を離し、後ろへ飛び退くと同時に両肩からフラッシュエッ
ジを抜いて投げつけた。フリーダムはアロンダイトを持ち直すと、襲い来るそれを一振り
で薙ぎ払った。
 ぶつかり合う意地。互いを最大の障害と認めるからこそ、一歩も引かない。
 シンは殆ど瞬きをしなかった。フリーダムからは一瞬たりとも目が離せない。以前とは
違う鬼気迫る猛攻は、気を抜いた瞬間に命脈が尽きることをシンに思い知らせていた。
 戦場が混沌としている。本来ならもう終わっているはずの戦闘が、泥沼へと向かいつ
つある。それはシンが望んでいた光景ではない。こんなオーブを見たくて戦っているの
ではない。
 (いきなりこんなことになっちまってさ……でも――!)
 相反するようなジレンマがある。シンはフリーダムとのギリギリの攻防に、意識が絡め
取られていくような錯覚を覚えていた。
 (俺はフリーダムとの戦いにのめり込んで、アスハのことも、オーブのことも忘れようと
している……!)
 何も考えずにただ戦いに没頭することは、とても楽だった。それは、オーブの被害を慮
る自分の考えに逆行する心理であったが、シンは抗うことができなかった。カガリの覚悟
の前に屈した屈辱が、それだけ耐え難いものだったからだ。
 やがてシンの意識はより深く戦いへと没入していった。まるで、フリーダムが繰り出す
色とりどりのビームの光に幻惑されるように、シンの意識はフリーダムとの対決へと先
鋭化していったのである。
 戦えば戦うほどに冴え渡るデスティニーの動き。アロンダイトを失っても、フラッシュエ
ッジを失っても、パルマフィオキーナだけでシンは接近戦をこなして見せた。フリーダム
の精密射撃にも怯まず突撃し、身軽になった機体で両腕を振り回す。
 一方のキラも、一歩も引かなかった。シンの反応速度が上がれば、キラはそれ以上
に反応速度を高める。シンが得意としている格闘戦の間合いになっても、キラは冷静に
その動きを見極め、的確な反撃を見舞っていく。
 キラの意識も、いつしかシンとの戦いに引き込まれていた。どんどん手強くなるデステ
ィニーが、キラの意識を独占していた。一瞬も気が抜けない戦いは、次第に周りの存在
を蚊帳の外に押し出していった。
 だが、その二人の戦いにあえて介入する意思があった。
 「――何だっ!?」
 脳裏を掠める不快感。シンとの戦いに囚われていたキラの意識は一瞬にして解放され、
そして次の瞬間、その不快感が形になったかのようなビームが降り注いできた。
 キラは一転、デスティニーとの交戦を中断し、素早く後退した。
 射線元に目を向ける。だが、そこに姿は無い。
 再び不快感が襲って、警告音と共にまた別方向からのビーム攻撃を受けた。
 「そこか!」
 連結したロングビームライフルを差し向けて、撃つ。ドッと放たれたビームは外れてしま
ったが、その姿は確認できた。ミネルバに新たに配備されたという、もう一機の新型モビ
ルスーツだ。
 「あのモビルスーツは……!」
 そのモビルスーツを目にした瞬間、キラは最も思い出したくない記憶を思い出していた。
 プラントへ上がる前、久しぶりに再会したムウがキラに告げていた。――“アイツ”が生
きていた、と。
 「でも、あれに乗っているのは……」
 キラは戸惑った。“彼”が生きていたことに対してではない。“彼”と同じ感覚がするの
に、何故か別人のように思えてしまうことに、キラは戸惑っていた。
 キラが見たレジェンドは、ラウ・ル・クルーゼが最後に乗っていたプロヴィデンスを思わ
せた。だが、乗っているのはレイ・ザ・バレルである。その意味を、キラはまだ理解できな
かった。
 レジェンドはフリーダムを牽制するとデスティニーに接触した。
 「……はあっ!」
 接触回線が繋がってサブスクリーンにレイの顔が出ると、それまでの緊張が一気に解
けて、シンは大きく息を吐き出した。
 ずっと息を止めていたかのような感覚だった。まるでそれまで堰き止められていたかの
ように、全身から急に汗が噴き出してくる。目も少し霞んでいて、喉はからからになって
いた。気付けば、シンは自分でも信じられないほど消耗していた。
 「疲れているな、シン」
 「レイ……」
 「お節介を焼きに来た、と言いたいが、どうだ?」
 レイの問い掛けに対し、シンはバイザーを上げて指で汗を拭った。
 「いや、まだだ……まだ俺はやれる!」
 力のあるシンの返答に、レイは頷いた。
 「よし。ならば、俺がサポートに回る。協力してフリーダムを殲滅する。俺たちの連携で、
今度こそ復活できないように完全に奴を倒すんだ」
 呼び掛けるレイの声は力強かった。普段はクールで冷静なレイが、珍しく言葉に熱を
込めている。そういうレイは、とても心強く感じられた。
 「ああ……そして、この無意味な戦いを終わらせる!」
 操縦桿を強く握り直す。消耗した体力とは裏腹に、シンの気力はますます充実してい
た。
 レイは、一瞬だけフッと笑いかけた。
 「挟撃を掛ける。お前のタイミングで仕掛けろ。俺がそれに合わせてフリーダムの動き
を封じる」
 「分かった。任せるぞ、レイ!」
 散開するシンとレイ。キラの目が交互に二機を追った。
 フリーダムを中心に、三機が一直線に並ぶ形になる。その瞬間、シンはレイを信じ、迷
わずスロットルを全開にした。
 「アンタだけが強い時代は、もう終わったんだ! 今日こそ終わりにしてやる、フリーダ
ム!」
 シンの声が、オーブの高い空に響き渡った。