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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第27話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 03:04:02

 数日後、補給を終えたミネルバがカーペンタリア基地から宇宙へと上がってきた。そ
の間、補給艦で世話になっていたシャアは、百式と共にミネルバへと移動した。
 予てからタリアに告げられていた通り、シャアの移動には、ミネルバへの復帰が決定
していたハマーンとキュベレイも同道した。だが、シャアが驚いたのはそこにミーアを
伴ったことだった。
 ハマーン曰く、デュランダルから今回の件の見返りとしてミーアの面倒を押し付けら
れたから、ということらしいが、シャアにしてみれば、その命令に大人しく従うハマーン
は信じられなかった。らしくない、と思ったのだ。
 アクシズの指導者としての重責から解放され、コズミック・イラで一個人として行動し
てきたことが、ハマーンを丸くさせているのだろうか、とも思う。
 (どうかな……?)
 シャアには分からない。知っているようで、シャアはハマーンを知らない。
 とにもかくにも、ミネルバは百式とキュベレイ、そしてハマーンを加えて、よりザフトの
エース艦としての地位を確実なものとした。そして戦力の更なる増強は、更なる激戦へ
の予兆でもあった。
 
 「だから言わんこっちゃない」
 大破したセイバーの前。マッドの小言がシャアの耳に痛い。
 「悪いな。貴重なモビルスーツを壊してしまった」
 「済んじまったことは仕方ねえがな、全く冷や冷やさせてくれるぜ。助かったから良か
ったものの、命あっての物種なんだから。こういうことは、金輪際無しにしてもらうぜ、
クワトロ・バジーナさんよ?」
 技術屋の習い性か、マッドは説教をしながらも、既にセイバーの調査に入っていた。
口ではああ言うものの、メカニックを生業にしている人間にとっては、人よりも機械の方
に興味があるのだろう。
 しかし、シャアの目にも、セイバーは大破してしまっているように見える。よくも持ち堪
えてくれたと思うが、いくらマッドでもこれを直すのは無理だろう。
 「うわっ! 酷いな、これ」
 シャアと同じ感想を漏らす少年の声が、不意に背後から聞こえた。シン・アスカだ。
見物でもしに来たのか、赤服の裾をはためかせて無重力をこちらに向かって降りてく
る。
 「これを直すぐらいなら、新しく作った方が早いし、安上がりじゃないですかね?」
 「私への当て付けかな?」
 シンは、慣れた様子でシャアの隣に着地した。地上から上がってきて間もないという
のに、既に無重力の感覚に身体を馴染ませている辺りに、センスの良さが窺えた。
 「違いますよ」
 シンはシャアの冗談を全く相手にしない。それどころか、子供扱いをするシャアの態
度に腹を立ててすらいる。シンの神妙な面持ちは、自身が少年であることを許さない
顔つきだった。
 まだまだ尻の青い子供だと侮っていたシャアは、いつの間にか青年の顔つきになっ
ていたシンに驚かされた。少年の成長は驚くほど早い。それは、そう思えるほどに自分
が年齢を重ねてしまったことの証左でもあるとシャアは思った。
 「新型のフリーダムと戦ったんですって?」
 「ああ。私は主にジャスティスの方だったが」
 「どうです? 後学のためにも、クワトロさんの感想を参考にさせて欲しいんですけど」
 嫌味を言いに来たのではないのだろう。シンは純粋にシャアの感想を聞きたがってい
る。ザフトのエースを自認する責任感の表れだろうか。シンはフリーダムとの再戦の時
を予期し、それに備えようとしている。
 シャアは少し笑った。シンがそれを不満そうに見上げる。――おかしかったのではな
い。シャアは初めてシンのことを頼もしいと感じ、それが何とはなしに嬉しくなったのだ。
 「フリーダムのことなら、ハマーンに聞くのが手っ取り早いと思うが――」
 「あの人が教えてくれる人ですか?」
 シャアは苦笑した。シンが言うことはもっともだ。
 「そうだな。期待に応えられるかどうかは分からんが、私のできる範囲で君の問いに
答えよう」
 シャアはそう前置きをして、自分が感じたフリーダムやジャスティスの印象をシンに
話した。
 シャアはまず基本的なことを話した。単体の能力の高さもあるが、それぞれ射撃戦
と接近戦に特化していること。そして、単体を相手にする場合は、相手の得意分野で
は戦わないこと。更に、二機が連携を組んだら、こちらもコンビネーションで対抗しな
ければならないことなどを確認した。
 それらを念頭に置き、シャアは更に細かく説明した。ジャスティスの全身に配された、
数多の格闘装備やファトゥムのこと。そして、フリーダムに関しては、まだシンが体験
していないドラグーンのオールレンジ攻撃や、ヴォワチュールリュミエールを解放した
状態のことなど、シャアが知る限りのことをシンに伝えた。
 「ドラグーンの対処については、全身に目を付けろとしか言えないな。訓練をするな
ら、レイのレジェンドを相手にすると良いだろう」
 「今度、頼んでみます。それで、フリーダムがドラグーンを外した後の凄い加速とい
うのは?」
 「詳細は分からないが、私が見る限り、あれは君のデスティニーのメインスラスター
と同種のもののように感じられた。恐らく、ザフトの技術が流れているのだろうな」
 「やりそうなことです。――でも、俺のデスティニーなら接近戦も遠距離戦もできます。
奴らの連携を分断できれば、臨機応変に戦えるデスティニーは有利ですよね?」
 「その通りだ、シン・アスカ。ミネルバは、今や君とデスティニーが要だ。君の働き如
何によって、ミネルバの命運は左右される」
 シャアはそう言い切って、シンにプレッシャーを与えた。エースとしての自覚を試した
のだ。
 シンの表情には些かの揺らぎもなかった。細波すら立たない、まるで凪状態の海の
ような穏やかさ。
 紅い瞳がシャアを見据えている。驚くほど冷静な眼差しの中に、静かなる闘志を湛え
ていた。
 「俺は、とっくにそのつもりです」
 シンは涼しい顔のまま、一切臆することなく返した。
 オペレーション・フューリーの後、心身ともに疲れ果てた自分を慰め、癒してくれたル
ナマリア。彼女と肌を重ねた時、この温もりは絶対に失いたくないと強く思った。
 「ミネルバは俺が守ります。もう、絶対に誰も死なせたりしませんから」
 「良い覚悟だが、気負い過ぎるのは誤りだぞ?」
 「気負ってるわけじゃありません」
 シンは手をかざした。そして指を開き、その隙間の先に見える光景に焦点を合わせ
た。
 「守れるものは守りたい。力の限り、何でも。俺は、そのために“力”を身に付けたん
だって、今は思えるんです。この気持ちを、俺は信じたい」
 隙間の先に見たのは、もう帰らぬ家族かもしれない。或いは、ハイネ・ヴェステンフ
ルスかもしれない。しかし、いずれにせよ、彼らはもうシンの手の届かないところへ行
ってしまった。
 なら、この手が守るものは何だ――その先に寝息を立てるルナマリアの寝顔が浮か
んだ時、シンはその幻の頭を撫でる仕草をした。指は、ルナマリアの艶やかな髪の質
感をハッキリと覚えている。
 シンは手を下ろすと、固く拳を握った。
 「だから、できることは何でもしておきたい。後で後悔しないためにも」
 戦う意義を見出したシンは、力強かった。その無垢な輝きは、シャアが羨望を抱くほ
どに眩しく見えたものである。
 シャアは百式を見やり、切り出した。
 「――百式な」
 「えっ?」
 「あのデータの中に、先日の記録が残っている。フリーダムとジャスティスの、宇宙
戦の記録だ。君にとって、有益な情報になると思う」
 「いいんですか?」
 驚きながらも目を輝かせるシン。シャアは微笑交じりに頷く。――将来有望な若者を
目にできた、大人の喜びだ。
 「無論だ。――私は艦長に報告があるのでな。操作方法については、一通りマッドに
教えてある。彼に手伝ってもらうといい」
 そう告げて、シャアは颯爽とその場を後にしようとした。
 「あ、ありがとうございますっ」
 少し戸惑い気味のシンの返礼が聞こえる。シャアはその声を背中に受け、シンへの
期待を胸に格納庫を出た。しかし――
 「――にしたって、金ぴかとかいい趣味してるよな。センスじゃアスハといい勝負じゃ
ないか」
 百式を酷評されていることは知らないシャアであった。
 
 マッドから簡単にレクチャーを受け、シンはいざ百式へと向かった。金色の外装はと
もかく、初めて体験する全天スクリーンとリニアシートで構成されたコックピットは、嫌
でもシンのテンションを上げた。
 シートに腰掛けると、自動でコンソールパネルが目の前に来る。
 使用言語は自分たちと同じ英語だ。操作も特に変わっているわけではない。
 シンはハッチを閉じ、データバンクから戦闘記録を呼び出して、先日のフリーダムと
ジャスティスとの交戦記録の鑑賞を始めた。
 全天スクリーンとリニアシートの組み合わせは、まるで自分がその場にいるかのよう
な臨場感をシンに与えた。360度全てが画面で構成されていて、途中で見切れるとい
うことが無いから、シンは常に首を動かして懸命にモビルスーツの動きを追った。
 初めて見る宇宙でのフリーダムとジャスティスの動きは、シンが想像していた以上だ
った。そして、シャアが操縦する百式の動きは、それと同等に刺激的だった。
 ナチュラルでもコーディネイターでもない。時々、理解不能な反応速度を見せること
がある。それこそ未来が見えているのではないかと疑うほどにである。しかし、どのよ
うに攻撃の気配を察知しているのか、その原理はシンには遂に分からなかった。
 どんな戦闘訓練を積めば、このようなセンスを身に付けられるのだろうか。シャアは
検査結果からも純粋なナチュラルであるという結果が出ているが、シンにはそれが不
思議でならなかった。
 一通り観終わった時、シンはいつしか気分が高揚している自分に気付いた。
 このような機会が得られて、心底から良かったと思う。シャアのテクニックにも、フリ
ーダムやジャスティスの動きからでさえも触発されるような刺激を受けた。それらを自
分のイメージに融合させて、糧にすることに興奮を覚えるのだ。
 その後、シンはもう一度観賞しようと思って、パネルを操作した。もっとしっかりとイメ
ージを脳に焼き付けたいのだ。
 だが、再生を始めようと思った矢先、不意に正面のスクリーンが消え、扉が開いてし
まった。
 「何だ?」
 怪訝に思い、シンは身を乗り出した。壊してしまったのかと一寸焦ったが、そうではな
いらしい。どうやら、外から強制的にハッチを開かれたようだった。
 ハッチの外に最初に目に付いたのは、マッドの姿だった。ハッチの強制解放は彼の
仕業だった。
 シンはシートから立ち上がり、「何です?」とマッドに訊ねた。
 「“何です?”じゃないわよ!」
 そう言って横から躍り出たのは、ルナマリアだった。
 「ルナ!?」
 驚くシンを尻目に、ルナマリアはむっつりと顔を顰めながら、やや強引にシンを押し
込みつつ中に入ってきた。その後ろで、「ごゆっくり」と薄笑いを浮かべて離れていくマ
ッド。野次馬の顔だ。
 「な、何だよ!?」
 ばつが悪い。シンは、図々しく入ってくるルナマリアを邪険に扱うように言う。
 しかし、ルナマリアはシン以上の剣幕で怒鳴ってきた。
 「冗談じゃないわよ!」
 尻込みするほどの迫力だ。結構頭にきているらしい。逆らわない方が身のためだと
察したシンは、仕方なくルナマリアの随意にさせた。
 「ずっと呼んでたのに、ちっとも気付かないんだから! ……わっ、凄い! こんな風
になってるんだ!」
 愚痴を零しながらも、ルナマリアは周囲を見渡すなり、ケロッと態度を変えて、全天
スクリーンの迫力に子供のようにはしゃぐ。
 (まったく、これだ……)
 シンは内心で呆れつつも、「当然だろ」と言うだけに止め、ルナマリアに横取りされま
いと素早く先にシートに陣取った。
 「それより、俺は今忙しいんだ。ルナの相手をしてる暇は無いんだよ」
 「フリーダムとジャスティスの研究でしょ? あたしも一緒にするわ」
 「おい、何勝手に弄ってんだ!」
 ルナマリアは当然のようにシンの膝の上に座ると、勝手にパネルの操作を始めた。
 そのうなじから甘いにおいが香ってきて、頭がくらくらした。そして、股間の辺りに押
し付けられる、程よく引き締まった形の良いヒップの感触である。短いスカートの中身
を想像して、シンは思わず腰を引いた。
 (前から思ってたけど、何でこんな短いんだよ? 軍服、だよな……?)
 ルナマリアは新鮮な百式のコックピットに興味を奪われているのか、やきもきするシ
ンにも気付かずにパネルを弄ることに夢中になっている。それで股の辺りで無造作に
もぞもぞと動くヒップが、シンには堪らない。
 「アナザーモビルスーツって言っても使用言語は一緒だし、それほど難しくは無いの
ね?」
 「そ、それより、前くらい閉めろって!」
 外からこちらを覗き込むヴィーノとヨウランの、囃すような視線が気になる。だが、ル
ナマリアはそれに気付こうともしない。
 「いいじゃない? 今は自由時間なんだし。――それとも、気になっちゃう?」
 そう言って、ルナマリアは開いている自身の胸元の襟を摘んで見せ付けてきた。
 「えっ?」
 その仕草で、今さらになってルナマリアの胸元がはだけていることに気付く。シンが
つい覗き込んでしまったのは、本能的な仕草だ。
 が、それがすでにルナマリアの罠だった。はだけた胸元の白い肌に、思わず赤面。
そんなシンを、ルナマリアの山なりの目がおちょくる。
 シンは咄嗟に姿勢を正し、慌ててコックピットハッチを閉じた。
 「――じゃなくって、こっちだよこっち!」
 「しっかり見てたくせに」
 「見せたんだろうが! っていうか、もっと持てよ、慎みとか恥じらいとか!」
 「別にいいじゃない、今更。どうせ、シンにはもっと見せちゃったんだし」
 「はあ!? そ、それは! ……あ……いや、いい……」
 カッと顔が熱くなる。シンが咄嗟に反論を諦めると、ルナマリアは勝ち誇ったようにフ
フンと鼻を鳴らした。どうにも勝てる気がしない。シンは、仕方なく動画の再生を始めた。
 「ひゃあ、凄い迫力! 夢中になるわけだわ」
 「いいから黙って観てくれよ。こっちは必死なんだから」
 「あ、ゴメンゴメン」
 はしゃぐルナマリアを落ち着かせ、シンは記録映像に集中した。
 記録映像の再生が始まれば、ルナマリアも静かになった。いや、静かにならざるを
得なかったのだ。スクリーンの中で繰り広げられる戦いは、ルナマリアの常識を軽く超
越していたのだから。
 観終えると、ルナマリアは老け込んだようなため息をついた。
 「レベルが違いすぎて、参考にならないって感じ」
 お手上げといった様子で、ルナマリアは髪をかき上げた。シンは呆れ顔をして、ルナ
マリアを見やった。
 「あのなあ――ん?」
 ふと気付く。髪をかき上げて露出したルナマリアの耳に、キラリと光るものを見た。
 「何だ、そのピアス?」
 「えっ?」
 シンが指摘すると、ルナマリアは思い出したように指でそれを弄った。
 それは、ただの金属チップのようなデザインだった。とう見てもファッションアイテムに
は見えない、非常に味気ないピアスである。ルナマリアのような年代の少女がチョイス
するものとは、到底思えなかった。
 「ああ、これね……」
 シンが抱いた違和感を証明するように、ルナマリアは困惑した感じで言う。
 「ハマーンさんが、ね。“お前は今まで良く尽くしてくれたから、ほんの礼だ”ですって」
 ハマーンの物真似をするルナマリア。「全く、参っちゃうわよねー」と苦笑した。
 「あの人がプレゼント? へえ、意外だな」
 「あたしもびっくりしたわよ。でも、これってサイコレシーバーとかっていう、サイコミュ
って技術の研究の副産物でさ、そのモニターテストも兼ねてるだけだから、別にファッ
ションで身に付けてるわけじゃないのよ」
 「サイコミュ? 何だそれ?」
 「脳波コントロールシステムってやつらしいんだけど、あたしも詳しくは知らないわ」
 「大丈夫なのかよ?」
 「さあね。でも、身に付けていればお守り代わりにはなるだろうって言うから、それを
信じてはいるんだけど……どうも怪しいのよねえ」
 ルナマリアが怪しむ気持ちは良く分かる気がした。早い段階からミーアを偽者と見抜
いていながら、それをずっと内密にしていた例からも分かるように、ハマーンは何かと
いかがわしい。そういうハマーンが普段からは考えられない行動をすれば、何か企ん
でいるのではないかと疑って当然だ。
 (――とは言え、何だかんだでルナはあの人に従っちゃうんだよな。現にピアスだっ
て素直に付けちゃってるし……)
 ハマーンはルナマリアを都合の良い駒として利用している節があるが、ルナマリアも
ルナマリアで、何故かそれを当たり前のように受け入れてしまっている。それがどうに
も解せない。この二人には、何か契約のようなものでもあるのだろうか。
 シンが内心で首を捻っていると、そんなことも露知らず、その間にもルナマリアは勝
手にパネルを操作してデータを物色していた。
 「ねえ、折角なんだし、他のも見てみましょうよ?」
 「おい、いいのかよ勝手に」
 「減るもんでもないんだし、構わないわよ」
 そう言ってルナマリアは適当な記録映像を選択し、躊躇無く再生を始めた。シンはそ
んなルナマリアに呆れながらも、再生される映像に内心では期待していた。
 それは、巨大な建造物の内部での戦闘のようだった。円筒形の内部の底に強烈な
光を放つシリンダーのようなものが何本も並んでいて、百式を操縦するシャアはそれ
を守ろうとしているようだった。
 敵は二体のようだった。一方は重量感のあるシルエットに黄土色のカラーで全身を
彩った、一つ目のモビルスーツ。そして、もう一方はキュベレイだった。
 「これ、ハマーンさんが乗ってるの……?」
 「やっぱり二人は敵同士だったんだ」
 「そんな!」
 黄土色のモビルスーツが、シリンダーのようなものを潰した。百式がそれを阻止しに
向かうも、待ち伏せを受けてダメージを受けた。立て続けにキュベレイに組み付かれ、
ビームサーベルで右腕を切り落とされる。直前にトリガーを引いていたのだろう。切り
落とされた右腕が握っているビームライフルが、何も存在しない上天に向かって一発
のビームを撃った。
 致命傷を辛くも逃れたシャアであったが、その勢いで背中からシリンダーのようなも
のに衝突し、墓穴を掘ってしまった。
 「仲間の援護は無いのかよ……!」
 結果は分かっていても、あまりの劣勢にシンは焦れていた。
 そうこうしている内に、百式は二機に取り囲まれていた。シャアは、それでも何とか活
路を見出そうと足掻き、急上昇を掛けて二機から逃れようと試みた。
 (でも、あの二機が手負いの百式を逃がすはずが無い……!)
 シンは、その動きを見ていて直感していた。映像で見ているシンが恐ろしいと思える
ほどに、黄土色のモビルスーツとキュベレイには底冷えするような絶望感があった。
 (逃げ切れるわけがない……!)
 シンが睨んだとおり、逃げようとする百式の前に、キュベレイがあっさりと立ち塞がっ
た。
 『シャア! 私のもとへ戻ってくる気は無いか!』
 『今さら!』
 どことなく縋りつくような感じの、少し弱気なハマーンの声と、そのハマーンの差し伸
べた手を払い除けるかのようなシャアの返し。――ルナマリアは、ふと胸にチクリとし
た痛みを覚えた。
 ギリギリの攻防を、シンは手に汗を握って食い入るように見つめた。黄土色のモビル
スーツの撃ったビームが、百式の左膝を撃ち抜く。しかし、シャアは尚も粘りを見せ、
キュベレイに追い立てられながらも壁の隙間に逃げ込み、一先ずその場を切り抜け
た。
 シャアは安全な場所まで移動すると、百式を降りたようだった。そして、映像はそこ
で一旦終わっていた。
 「まだ続きがあるのか……」
 シンは誰にともなく呟くと、当たり前のように続きを再生した。
 百式に再び乗り込んだシャアは、すぐさま先ほどの場所に戻ってきた。すると、そこ
にΖガンダムと黄色のずんぐりとしたモビルスーツが現れ、また敵が増えた、と咄嗟
にシンは思った。だが、Ζガンダムが追い掛けてきたキュベレイと黄土色のモビルス
ーツを攻撃している場面を見て、カミーユがかつてシャアの味方だったことを思い出し
た。
 Ζガンダムは損傷した百式を庇い、一人でキュベレイと黄土色のモビルスーツに立
ち向かおうとしていた。シンは、その中で繰り出された攻撃に思わず目を奪われた。
 「今の――」
 だが、その時だった。Ζガンダムがビームライフルを連射している途中で不意に映
像が止まり、スクリーンの電源が落ちてしまったのだ。
 「あれ?」
 白い壁面に戻ってしまったスクリーンを呆然と見回す。そして、その時になって、初
めてルナマリアが顔を俯けていたことに気付いた。
 「……ルナ?」
 パネルに置いた指が教えている。映像を止めたのは、ルナマリアだ。
 「ゴメン、シン……でも、切なくて……」
 「え……? ――ああ」
 ルナマリアは叱られた子供のように震えていた。シンはその意味に気付くと、そっと
肩に手を置いた。
 「入れ込み過ぎだよ、ルナは。これは、昔の映像なんだからさ」
 「分かってるけど……」
 ルナマリアはハッチを開くと、一人で先に出て行ってしまった。
 シンは追いかけようとしたが、何とはなしに憚られた。その背中が、暗に一人にさせ
ておいてくれと言っているような気がしたからだ。
 「おいシン、何やらかしたんだよー?」
 上がってきたヨウランがルナマリアを見送りつつ、シンの胸を肘で小突いてくる。その
冷やかしの目を冷ややかに受け流しつつ、シンは無重力に身を躍らせた。
 「ナイーブなんだよな、ルナは……あの二人は今、一緒にミネルバに乗ってるんだぜ
……?」
 途中から膝にルナマリアを乗せていることも忘れて、映像に見入っていた。ならば、
ルナマリアの心境の変化に気付けなかったことは、果たして鈍感の証明となるのだろ
うか――そうは思いたくないと、シンは小さなため息をついた。
 
 慣れないミネルバの通路を行く。行きすがら、あからさまに気を遣ってくれているクル
ーに道順を尋ねつつ、ミーアは居住区に割り当ててもらった自分の船室を目指してい
た。
 その途中で、突き当たりの通路を流れていくシャアの姿が垣間見えた。ミーアは慌て
て身を隠し、シャアが行き過ぎ去るのを待った。
 「何をしている?」
 不意に背後から声を掛けられ、ミーアは思わず飛び上がった。
 「あっ、あっ!」
 驚いた拍子にバランスを崩し、無重力に身体を翻弄される。それを、ため息混じりに
助けてくれたのは、名目上は付き人であるハマーンだった。
 「全く――」
 ミーアの手を取り、「世話が焼ける」とハマーンはゆっくり床に下ろしてくれた。
 「あ、ありがとうございます……」
 相変わらずの鋭い眼差しに、ミーアは畏まった態度で礼を述べた。
 このハマーン・カーンという女性は、どうにも心臓に悪い。今のように音も無く背後か
ら忍び寄られたのもそうだが、それ以上にハマーンの持つ雰囲気が怜悧で近寄りが
たいものを感じた。何せ、ディオキアでの初見時、それまで誰も見抜けなかった自分
の正体をあっさりと見破ってくれたのは、他ならぬ彼女だったのだから。
 そういう女性が自分の付き人になると聞かされた日には、生きた心地がしなかった。
何か奸計があって近付いてきたのではないかと思ったのだ。
 しかし、ハマーンは現状、ミーアのことを面倒がって放置している状況である。あまり
ハマーンと接触したくないミーアとしては、この状況は好都合ではあった。
 ただ、ハマーンには一つだけ気になる点がある。
 「シャアがいたのではないのか? なぜ隠れる必要がある?」
 ハマーンの指摘には、若干の底意地の悪さが滲んでいる。ミーアはそれを感じ取っ
て、露骨に憮然とした表情を浮かべた。
 シャアを見れば飛びつきたくなるのが、ミーアの習性だ。しかし、今はそれはできな
い。できることなら過去に遡ってやり直したいくらいの、残酷な記憶があるからだ。シャ
アの見てる前で盛大にリバースしてしまったという悪夢が。
 「くくっ……聞いてはいるがな」
 「な、何ですか!」
 ミーアの思考を読み取ったかのように、ハマーンは冷笑を浮かべた。ミーアはそれが
面白くなくて、キッとハマーンを睨み付ける。
 ハマーンはその視線に目をそばめ、からかうように「恥じらいという奴か?」と言った。
 「しかしな、あの男にそういうのを期待するのは間違っている」
 「何を――」
 「悪いことは言わない。シャアは止めておけ。あれは、女を道具として使うことしか考
えていない。そのためには見せかけの愛情だって示して見せるのが、シャアという男
の本性だよ」
 視点が変わればこうも違うものなのだろうか。ミーアが見るクワトロと、ハマーンが見
るシャアはあまりにも違い過ぎる。ミーアは、それが不思議でならなかった。
 そして、ハマーンが妙にシャアと親しく見えるのも気になった。二人の過去を知らな
いミーアにとって、シャアのことを語るハマーンは、自分の恋路を邪魔しているように
しか見えない。
 「あなたは、あの方の何を知っているの?」
 シャアを扱き下ろすハマーンの言い草に、ミーアは露骨に反感を示した。普段は目
も合わせられないハマーンの顔を、瞬きを惜しむほどにきつく睨む。シャアへの思い
が為せる業である。
 ハマーンはその目が気に入らなかった。ただ単に生意気だからというだけではない。
シャアを純粋に慕う気持ちがさせた目が、酷く鬱陶しく思えたのだ。
 ラクスと同じ顔と声を持つミーアだが、ハマーンにしてみれば全くの別人である。しか
し、ミーアの愚直な恋心は、ラクスとは違う意味でハマーンを苛立たせていた。
 愚劣な人間には、吐き気を催すほどの嫌悪感を覚える。ハマーンが一睨み利かせ
ると、ミーアは一瞬だけ怯む仕草を見せた。だが、それだけだった。
 (気の強い娘だ……)
 普通の人間なら、ハマーンのプレッシャーを感じたら気後れするものである。それな
のにミーアは、シャアへの慕情だけでそれをはね退けて見せた。
 (その気の強さを、ラクスの前でも見せられていたならな……)
 気が変わった。ここまで愚かなら、教えてやっても良いと思えた。
 ハマーンはミーアを改めて見据えると、徐に口を開いた。
 「奴はクワトロ・バジーナなどと名乗っているが、それがあの男の本名でないことは、
分かっているのだろう?」
 「あなたの言う“シャア”というのがそうだから、あたしには勝ち目が無いって言うの?」
 気が立っているのだろう。ミーアは思った以上に食い掛かってくる。
 ハマーンは内心で鬱陶しがりながらも、ミーアを軽くいなすように苦笑を浮かべた。
 「勘違いするな。シャア・アズナブルというのも、あの男の数ある仮称の一つに過ぎん」
 ミーアが眉を顰めて、「どういうこと?」と聞き返す。ハマーンは、前のめりになるミー
アを「慌てるな」と手で制しながら、シャアについての解説を続けた。
 「本名キャスバル・レム・ダイクン――サイド3、旧ジオン共和国の創始者ジオン・ズム・
ダイクンの忘れ形見だ。政変によって国を追われてな、一頃はエドワウと名乗っていた
こともあったようだが、シャア・アズナブルというのは、その後にザビ家への復讐のため
に取得した名前なのだ」
 「ジオン? ザビ家?」
 聞き慣れない単語にチンプンカンプンといった様子のミーアに、「気にするな」と告げ
つつハマーンは続ける。
 「遠い世界の話だ。――そして、私から逃げたシャアはクワトロ・バジーナを名乗り、
我々を裏切ったのだ」
 「逃げた? あなたから……?」
 流石にミーアは動揺していた。それがまともな反応だと思う。
 「これで分かっただろう? あの男は常に自分を偽り、他人を欺き続けている。信用
を裏切りで返すような男に、甲斐性を期待したところで虚しいだけだろうが?」
 ハマーンはそう言って、ミーアに追い打ちを掛けた。
 ミーアの恋心を否定することを、特に酷いことだとは思わなかった。シャアの毒牙に
かかって感覚を麻痺させられた哀れな子羊に正気を取り戻させてやるのだから、寧ろ
善行であるとすら思った。
 しかし、シャアの毒は想像以上に深くミーアの中枢に浸透していた。ミーアの瞳に、
一度は消えかけた光が再び戻ったのである。
 ハマーンは、それに目を見張った。
 「……それでも、あたしはあたしが見初めたあの人を信じる! あなたが見てきたも
のが、あの人の全てではないわ!」
 ミーアは感情的に言い放った。それを聞いたハマーンは、露骨にため息をついた。
 「救いようが無いな。その思い込みの激しさは、他人を演じ続けてきたが故の弊害か」
 「あの人はあたしに優しくてくれた! あたしはあなたとは違うの!」
 「それはそうだろう。私はお前ほど愚かではないつもりだよ?」
 ハマーンの辛辣な返しに言葉が詰まり、ミーアは思わず閉口してしまった。何か言い
返してやりたかったが、良い返しが浮かんでこない。
 とりあえず何かを言わないと――そう思ってミーアが口を開こうとした矢先、「しかし」
と言って先に声を発したのは、ハマーンだった。
 「シャアは己を偽り、自分のできることもしようとしない卑怯な男だ。そういう男には、
お前のような女がお似合いなのかも知れんな?」
 嘲笑含みで言われ、反論しようとしたミーアは出鼻を挫かれてしまった。
 (この人の会話のペースに合わせていちゃ駄目よ……!)
 負けられない。ミーアは念じて、取り乱しそうな心を落ち着ける。
 「……じゃあ、どうしてあなたはもう一度、クワトロ様と同じ船に乗ろうと思ったの?」
 苦し紛れの反論である。だが、それが存外にハマーンの動揺を誘った。
 女の勘だったかもしれない。珍しく顔を曇らせたハマーンは、何故か切なく見えた。
 ミーアはそれで、何とはなしに察してしまった。
 「……シャアには利用価値がある。だから、フリーダムやジャスティスに対抗するた
めに、百式を与えもした……」
 もっともらしく答えるハマーンだったが、歯切れは悪かった。その歯切れの悪さこそ
が、ハマーンの断ち切れないシャアへの未練の証明だとミーアは思う。ハマーンは、
シャアを諦め切れていない……
 「あなただって――」
 しかし、その時だった。俄かに鳴り出した警報に、ミーアは口に出しかけた言葉を飲
み込んだ。
 
 警報は緊急事態を告げていた。その情報は瞬く間に伝わり、クルーは仕事の手も止
めてスクリーンに釘つけになった。そして、そこに流れる映像に誰しもが凍りついたの
である。
 
 
 アークエンジェルは宇宙に上がり、カガリを乗せてプラントへと向かっていた。目的
はデュランダルとの会談だ。
 オペレーション・フューリー、そして件の世界放送による影響で、地球とプラントの関
係は冷え切っていた。再燃したコーディネイター脅威論と、デュランダルへの不審が
主因である。
 当然、その切欠を作ったオーブとの関係は悪化していた。しかし、プラントが大きく信
用を落とした一方で、オーブへの国際的な支持も思うように集まってはいなかった。オ
ーブ内閣府は、それを問題視していた。
 電波ジャックでは強くデュランダルを批難したが、過程はどうあれ、ジブリール逃亡
の責任がオーブにもあることは確かであった。オーブに支持が集まらない背景には、
そのことが大きく影響していたのである。それ故、反ロゴスの機運が残る以上、この事
実を放置しておくわけにはいかなかった。
 そこで打開策として提案されたのが、今回のプラント訪問だった。秘密裏にではある
が、カガリとラクスが直々に出向くことを条件に、何とか首脳会談を取り付けることに
成功したのだ。
 オーブの目的は、ラクスを出しに水面下で交渉を行い、和睦のための妥協点を探る
ことである。そして、和睦が成立した暁には電撃的にザフトと共同でジブリールの捕獲
作戦を展開し、確保。そこで改めてデュランダルと共同声明を発表し、対ロゴス戦の
終結を宣言。それと同時に、全世界にプラントとの関係修復とオーブの減点を帳消し
にしたことを大々的にアピールし、更にその流れで地球側に和平を訴え、あわよくば平
和条約の締結を取り成す仲介役をも担ってしまおうというのがオーブの皮算用だった。
 しかし、その予定は大幅に狂うことになった。その情報は、カミーユが突如激しい嘔
吐感を訴えた直後に伝えられた。
 速報を受け、すぐに情報収集を始めた。プラントの報道番組の電波を傍受し、一同
はその映像に注目した。そして、その様子を目の当たりにし、戦慄するのである。
 監視カメラによる映像が、その一部始終を記録していた。
 宇宙を穿つ一閃の光。それが複数のコロニーを一遍に貫く。暫時、何事も無かった
かのように見えたが、やがて徐々に目に見える形で崩壊を始めた。
 被害はそれだけではなかった。崩壊したコロニーの残骸が他のコロニーをも巻き込
んでしまったのだ。そして残骸に巻き込まれたコロニーも、間もなく最初に崩壊したコ
ロニーと同じ運命を辿った。
 誰しもが息を呑み、現実とは俄かには信じられないその光景を見守っていた。
 「……発射元は、月面ダイダロス基地からのようです……」
 オペレーター席に座るミリアリア・ハウが、遠慮がちに言う。
 暫し重苦しい空気が場を支配していた。
 「これが現実なら、和睦どころではなくなる」
 ネオがいつになく神妙に言った。カガリは、その通りだと思った。ジブリールの仕業に
違いないからだ。
 「艦長……」
 カガリは艦長席に座るラミアスに目配せをした。ラミアスはカガリの胸の内を察し、頷
いた。
 「予定を変更する。針路を月へ……」
 カガリは静かに下命した。
 
 プラントを襲った未曾有の大惨事は、住民をパニックのどん底に陥れた。この危機
に対し、プラント最高評議会はすぐさま緊急事態宣言を発表。パニックになった市民
の安全確保のために治安維持部隊を出動させ、併せて崩壊したコロニーの住民の救
助活動も行った。
 被害は甚大だった。崩壊したコロニーの住民の安否は、絶望的である。新たな報告
が上がってくるたびに大きくなっていく被害状況と犠牲者数に、デュランダルは頭を抱
えた。
 ヤヌアリウス・ワンからフォー、そして、その残骸でディセンベル・セブンとエイトが沈
んだ。計六基のコロニーが沈んだのだ。犠牲になったプラント国民の数は、二百万人
近くに上る見通しである。
 予兆はあった。哨戒任務に就いていたジュール隊が連合軍の不穏な動きを察知し、
その調査に当たっていた。そして、不審な廃棄コロニーの付近でロゴスのものと見られ
る部隊と交戦状態になり、その最中にプラントは攻撃されたのである。
 その結果、プラントを撃った光の正体が反射衛星砲であることが判明した。廃棄コロ
ニーにゲシュマイディッヒパンツァーを取り付けて巨大なビーム偏向装置へと改造し、
それにビームを通して曲げることで、月の裏側にあるダイダロス基地から直接プラント
を狙撃したのである。
 最早、一刻の猶予も無かった。デュランダルはすぐさま月軌道艦隊に出撃を命じ、ダ
イダロス基地上空の第一中継ステーションの破壊指令を出した。