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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第32話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 03:09:21

 (何考えてんだ……)
 ジャスティスとドム・トルーパーの出撃は先行して行われた。カミーユはΖガンダム
のコックピットで出撃待機命令に従いながら、目の前を通り過ぎていくジャスティスを
傍観していた。
 作戦開始前に、偶然アスランと二人で話す機会があった。だが、今にして思えば、あ
れはアスランが意図的に演出したシチュエーションだったのではないかと思えてきた。
 「――そういえば、まだ君にお礼を言ってなかった」
 そう切り出したアスランは、カミーユに向かって「ありがとう」と述べた。アークエンジ
ェルがオーブに帰還した際に起こった、カガリ暗殺未遂事件を指しての礼だと言う。
 その事件の背景をカミーユも既に知っていた。全てはサトーの企みであり、アスラン
はそのことに対して少なからずの負い目を感じていた。曰く、本来ならばカガリのボデ
ィーガードは自分の役目であったのに、事件の際にその場に居合わせることができな
かったばかりか、今までカミーユにその役割を押し付けるような形になってしまったこ
とに申し訳なさを感じているのだという。
 カガリが懸念していた通りだった。アスランという男は、色々と気に病むタイプらしい。
何でもないような素振りでいて、その実、内心に苦い思いを隠している。そのことが、ア
スランと話していて容易に想像できた。
 だからカミーユは、「几帳面なんだな」と言って、そんなアスランの生真面目さを笑い
飛ばそうとした。
 「こっちはお陰で代表とお近づきになれて、飯の種にもありつけたんだぜ? 寧ろ、あ
の場にアスランがいてくれなかったことを感謝してるよ」
 少し悪ぶった態度でカミーユが言うと、アスランも苦笑を浮かべた。
 「そう言われてしまうとな……お礼なんて言って損したって気分になる。じゃあ、これ
からもカガリの面倒はカミーユに見てもらおうか」
 「おいおい」
 「カガリもカミーユには気を許している。大丈夫、上手くやっていけるよ。前任のボデ
ィーガードで二年一緒だった俺が保障する」
 冗談っぽく言うアスランだったが、カミーユは直感的にその殆どが本気で言っている
ように聞こえていた。アスランは何かを勘違いしていて、引かなくてもいい身を引こうと
している。話し掛けてきたのも、このことを言うためだったのではないか。
 だから、「何考えてんだ」である。
 今、ジャスティスは三体のドム・トルーパーに続いてカタパルトデッキに上がろうとし
ていた。カミーユはその背中を見送りながら、「全く!」と小さく毒づいた。カガリは忘れ
て良いと言っていたが、そうもいかないようだ。アスランの動向については、やはり気
を配らねばならない。
 (悪いな、みんな……)
 カミーユは同様に出撃の時を待つ仲間の機体を見やって、心中でそう呟いた。
 
 
 ザフト艦隊は連合軍艦隊に先んじてユニウスセブン空域に侵入した。作戦プランど
おり、メサイアの南極面から戦力を一極集中させ、一気呵成のもとにラクス派の防衛
線を突破せんと攻撃を仕掛けた。
 緊急編成された艦隊とはいえ、プラント防衛の要、巨大空母ゴンドワナの投入にまで
踏み切ったザフトは、緒戦を圧倒的優位に進めた。ラクス派はメサイアの前面に部隊
を展開し、これに懸命に抗っていたが、一方的にザフトの侵攻を許していた。
 このまま、一挙にメサイアまで到達できそうなほど順調に戦況は推移していた。しか
し、異変が起きたのは、次第に戦線が間延びしてきた頃のことだった。突如、味方か
ら背中を撃たれるというアクシデントが発生したのである。
 一発が撃たれると、それは瞬く間に増えていった。戦線の至る所で味方に背中を撃
たれるというケースが頻発したのである。それは、ザフトの識別コードを発信した、元
ザフトでラクス派に寝返った離反兵たちによるかく乱工作だった。緒戦で容易く侵攻を
許していたのは、ザフトが前掛かりになって戦線を間延びさせた隙に、そのどさくさに
紛れて離反兵たちをザフト陣営に送り込むためだった。
 この事態に対し、ゴンドワナの司令本部は一時戦線を後退させることしか打つ手が
無かった。レクイエムの惨禍から続く一連の混乱の中で急場凌ぎ的に艦隊を編成し
た関係で、離反者が出た後の軍隊名簿を精査している時間が無かったのである。従
って、ザフトには味方に紛れ込んだ裏切り者の判別が、ほとんど付かなかった。
 このことは、その後、更に大きな痛手となって響いた。ザフトとラクス派の戦闘が膠
着の様相を呈し始めると、業を煮やしたかのように連合軍艦隊が姿を現したのである。
 この動きに反応して、ザフトは局面打開のため、連合軍艦隊に対して作戦の一部を
公開し、予てより打診していた共闘を改めて申し入れた。そして、手の内を明かしてま
で協力を要請するザフトの姿勢に、流石に連合側の態度も多少の軟化を見せ、何と
か交渉をするところまでこぎつけることができた。
 だが、事件は再び起こった。ザフトと連合の協議が始まると、一部のモビルスーツが
待機命令を破り、連合軍に対して攻撃を仕掛けたのである。この不意打ちによって連
合軍艦隊は二隻の艦艇を失い、その騒動からザフトと連合軍の間で、局地的に、突
発的な諍いが勃発した。
 ゴンドワナのザフト総司令部には、これがラクス派の工作員による仕業であることが
分かっていたが、連合軍側はそうはいかなかった。話し合いの最中の出来事ゆえ、ザ
フトが交渉にかこつけて騙し討ちを仕掛けてきたと受け取った連合側は、ザフトとの協
議を即時打ち切り、プラントとラクス派の共謀の嫌疑を確信。交渉は、協定を結ぶ前に
頓挫した。
 これによってザフトとラクス派の判別をなくした連合軍艦隊は、双方への攻撃を直ち
に開始。ザフトは止む無くこれに応戦するしかなくなり、状況はザフトと連合軍の潰し
合いへと移行していくこととなってしまった。
 
 「――間違いないのか?」
 出撃したシャアは、ミネルバから伝えられた情報に対し、そう返した。通信機の向こ
うのメイリンが、「はい」と神妙な声音で答える。
 ザフトと連合軍の衝突については連絡を受けていた。が、シャアが今確認をしたのは
そのことについてではない。
 「アークエンジェルです。モビルスーツの出撃も確認しました」
 メイリンの報告に、シャアは眉を顰めた。
 「こちらに向かっているのか?」
 「そういう動きも見られますけど……」
 「仕掛けてくるか」
 「いえ、それが分からないんです。如何せん、動きがハッキリしなくて。モビルスーツ
ごとにとっ散らかっているもんですから……」
 ミネルバでも目的は掴めていないらしい。メイリンの声には戸惑いがあった。
 「オーブ船籍ですから、ユニウス落しには加担しないでしょうけど――」
 「我々を疑っているか……一応、警戒はしておこう」
 「お願いします」
 シャアは、「ん……」と短く答えて通信を切った。
 「何をしに来たというのだ……?」
 アークエンジェルがユニウスセブンの落下を阻止しに出てくることは予想できた。し
かし、その位置が気になった。ミネルバから送られてきたデータを見るに、アークエン
ジェルはミネルバを狙っているように感じられたからだ。
 「テロリストの工作にまんまと乗せられてザフトと連合が交戦状態の今、ラクスは早
めに仕留めておきたいところだが――」
 メサイアを見やったシャアは、全天スクリーンの映像に妙なノイズが走っていること
に気付いた。メサイアの南極面では、ザフトと連合軍が交戦している光が見える。かな
り激しい。が、その光とは別に、反射光のようなものがチラチラとシャアの目に付いた。
 「星の光でも、戦闘の光でもない……」
 怪訝に思って、シャアはその光を追った。見間違いではない。確かに複数の光が百
式の周囲を走っていて、それは次第にハッキリと見えるようになってきた。
 「ビット……!?」
 口に出した瞬間、何も無いような空間からいきなりビーム攻撃を受けた。ビームは百
式のボディを外れていたが、シャアは咄嗟に足を止めて、周囲の気配を探った。
 サーチレーダーが、今しがたのビームの出所を探る。そして、次に同じような攻撃を
受けた時、カメラがその瞬間をキャッチして、即座にスキャンシステムによる解析が行
われた。
 少しして割り出された答えは、シャアの予想通りのものだった。つい先頃からチラつ
いていた光の正体が別窓に表示されて、シャアはそれに納得した。形状はやや異な
るが、それはレジェンドのドラグーンと似ている。
 「金色のドラグーン……あのモビルスーツか。しかし、本気か?」
 シャアは呟きながら疑問を感じていた。敵の正体は、何とはなしに想像できる。メイ
リンの懸念が的中したと見ていいだろう。しかし、腑に落ちなかったのは、何の警告も
無しに攻撃をしてきたことだ。何か一言、断りがあっても良さそうなものなのにとシャア
は思う。
 「聞き出すしかないな……!」
 考えている間にも、攻撃は続いている。シャアは操縦桿を握りなおし、回避を行った。
 襲い掛かってくるドラグーンの数は、レジェンドのものに比べても控えめである。その
上、そのサイズや目立つ色から、ドラグーンそのものを狙撃することも可能であった。
が、シャアはあえてビームライフルのトリガーを引かない。結果が想像できるからだ。
 それは、シャアが試す前にドラグーンが自ら実践して、シャアの推理の裏づけをして
くれた。案の定、ドラグーンにもヤタノカガミは使われていたのである。
 網の目のようなビームが百式を捕らえるように交差する。七基のドラグーンには、そ
れぞれ三門ずつの砲門がある。それらが縦横無尽に百式の周りを飛び交い、動きを
封じるようにビームを乱射する。そして、シャアにとって何よりも厄介だったのが、ドラ
グーン同士による反射攻撃だった。
 シャアがビームを撃たない理由は、そこにある。ヤタノカガミ装甲には、ビームを跳ね
返す機能がある。
 「チィッ……!」
 絶妙なドラグーンの位置取りに、シャアは完全に翻弄されていた。反射するだろうと
読んだドラグーンがしなかったり、逆に思いがけない場所から反射攻撃が襲ってきた
りと、その見極めが非常に困難で、かなり手を焼かされる。
 お陰で百式の煌びやかなゴールドボディには、既に無数の焦げ跡が残されていた。
直撃を免れているのは、まぐれに近い。戦いの流れは、完全に敵方にあった。
 しかし、それも長くは続かないという確信がシャアにはあった。本体から切り離して
使用する遠隔操作武器には、連続使用時間に制限がある。エネルギー切れが宿命
付けられている以上、避け続けることそれ自体が相手へのプレッシャーへと繋がる。
 そのプレッシャーを、相手も感じているのだろう。ドラグーンの攻撃はより苛烈さを増
し、百式のボディに痣のような焦げ跡を量産していく。シャアは背筋が凍りつく思いで
直撃を免れながら、相手の焦りを感じ、ドラグーンのエネルギーが尽きる時が近いこ
とを察していた。
 「くっ!」
 猛攻に晒されて、均衡が崩れる。一発のビームが百式の左脛を抉り、外装甲が溶融
した。
 だが、それが最後だった。ドラグーンの攻撃は雨が上がるように止み、百式の周りは
一瞬の静寂を取り戻した。
 直後、一息ついたシャアの耳を、けたたましいアラートが劈く。
 ――金色が、出会う。
 「後ろ!」
 青い双眸が、ギラリと光る。シャアは首を背後に回しながら百式を反転させ、左マニ
ピュレーターにビームサーベルの柄を握らせた。
 腰の後ろからビームサーベルを抜き、反転と同時に振り上げる。刹那、閃光弾が炸
裂したかのような眩い光が広がった。スクリーンが白く染まる。ビーム刃同士がぶつか
ったのだ。
 切り結んでいた時間は、一瞬だった。互いの刀身を固定しているフィールドが反発し
合い、お互いは仰け反るようにして弾かれた。
 干渉波の光が消えて、スクリーンには果たして百式と似た金色のモビルスーツが現
れた。ORB-01アカツキ。その正体を、シャアは実際に目の当たりにする以前から確信
していた。
 「まだやるつもりか?」
 アカツキはビームライフルを構え、百式に照準を合わせていた。シャアが横にスライ
ド移動すると、それを追ってビームを撃った。
 シャアは岩陰に百式を飛び込ませ、素早くクレイバズーカに持ち替えさせた。
 アカツキのビームが百式の隠れている岩を砕く。と、同時にシャアは岩陰から飛び
出し、クレイバズーカを連射した。
 煙の尾を引いて、複数の弾頭がアカツキに襲い掛かる。アカツキは後退しながらビ
ームライフルで数発の弾を撃ち落とし、残りは頭部イーゲルシュテルンで処理した。
 「やはりか」
 アカツキは岩陰を利用しながら牽制を掛けていた。シャアは、その挙動から素人臭
さが抜けているのを見て取って、アカツキのパイロットが代わったことを洞察していた。
 「装備がオーブや月の時と違う。ドラグーンが使えるということは、パイロットは手練
れだな」
 気を引き締めなければならないと心で念じ、シャアはアカツキへと迫った。
 「オーブの金色、聞こえているか!」
 シャアは通信回線をオープンにし、アカツキに呼び掛けた。
 「我々は現在、ユニウス落下阻止作戦を展開中だ! どういう意図か知らんが、冗
談や遊びで仕掛けてきたのなら直ちに戦闘を止めて――」
 「百式のパイロットは、クワトロ・バジーナと承知している!」
 「む……?」
 「あえてアンタを狙わせてもらった。アンタが相手だと、カミーユも腕が鈍るだろうか
らな!」
 聞こえてきた声には、覚えがある。それは、かつて捕虜にしたステラとカミーユのト
レードを行おうとした際のことである。その時、交渉団の代表としてシャアが相対した
のが、奇妙な仮面を被ったネオ・ロアノークという男であった。今、シャアの耳に聞こ
えてきた声は、そのネオの声だ。
 しかし、それは瑣末な問題である。カミーユが大佐と呼んでいた男が、カミーユと共
にオーブに渡っただけの話だ。それより問題なのは、どうして仕掛けてきたのか、であ
る。
 百式が接近すると、アカツキは岩陰から飛び出して間合いを開いた。その双眸がゆ
っくりと瞬き、シャアの注意を引く。
 「確認したいことがある。カミーユは、先日の演説をやったデュランダルがアンタの変
装だと言っていた。それは本当か?」
 「……!」
 シャアは、咄嗟には答えられなかった。
 「その沈黙は、肯定と受け取らせてもらう!」
 「事情があったのだ!」
 「そうだろうが、しかし、だからこそ仕掛けさせてもらった!」
 ネオは強く言いながら、しかし、それとは裏腹に十分に間合いを取って安全マージン
を稼ぐ。シャアはネオの言葉に気を取られて最初はその矛盾を怪訝に思っているだけ
だったが、ふとその消極さの意味に気付いて、慌ててスピードを上げた。
 「チッ! 気付くの早いよ! 最初ので仕留められなかったのが――!」
 ネオもそれを見て、速度を上げた。ドラグーンのエネルギーが満タンになるまで、ま
だ時間が掛かる。その時間稼ぎをしようと小細工していたのだが、シャアには通用しな
かった。
 シャアにとっては、アカツキがドラグーンを使えない今がチャンスである。アカツキが
いくら岩を利用してかく乱しようとも、シャアの目がその金色の成金ボディを見逃すは
ずがない。アカツキはビームライフルで抵抗したが、シャアはそれを掻い潜り、徐々に
間合いを詰めていく。
 「オーブはユニウスを落としたいのか!?」
 「誰が!」
 「なら、なぜ我々の邪魔をする!」
 空いている左手にビームライフルを持たせ、アカツキが隠れている岩を撃つ。岩が
砕けて破片が飛び散ると、追い立てられたアカツキが飛び出し、百式にビーム攻撃
を加えた。シャアはそれを避け、クレイバズーカの残弾を全て吐き出した。
 「ザフトがラクスを討つつもりと知れば、それをさせるわけにはいかんだろうが!」
 アカツキはかわしながら、見せ付けるように弾を撃ち落した。一見、無駄な行為に見
えるが、バズーカ弾は通用しないと思い知らせる示威的な意味があり、シャアもその
ネオのメッセージは受け取っていた。
 シャアは、今度は自分が岩陰に隠れ、クレイバズーカのカートリッジの交換を行った。
 「アンタも言わされてたのか知らんが、彼女を偽者呼ばわりした当人だろ! だが、
偽者はアンタたちのところにいる奴だってことは、アンタにも分かってるはずだよな!」
 「しかし、ラクス・クラインはメサイアを占拠し、ユニウスを地球に落とそうとしている!」
 シャアはタイミングを見計らい、岩陰から飛び出した。アカツキが一瞬遅れてその動
きを追う。ドラグーンはまだ展開しない。ビームライフルで迎撃しだすと、シャアはそれ
をかわしてクレイバズーカの発射スイッチを押した。砲口から弾頭が飛び出し、アカツ
キに向かう。
 「だから、バズーカなんか何発撃ったって――!」
 ネオはビームライフルを構え、バズーカ弾に照準を合わせた。
 しかし、次の瞬間、バズーカ弾が急に弾け飛ぶ。
 「なっ!?」
 ネオの指はビームライフルのトリガーに添えられただけで、まだ押していない。
 「散弾っ!?」
 気づいた時には、もう遅かった。バズーカ弾は自ら炸裂し、子持ちの魚のように内蔵
していた散弾をぶちまけたのである。
 咄嗟にシールドを構えたが、全身をカバーすることは出来なかった。散弾は雨のよ
うにアカツキに降り注ぎ、右肩周辺にダメージを負った。貫通するまでには至らず、内
部フレームも無事であったが、ヤタノカガミには無数の散弾がめり込んでいた。
 「くっ……!」
 「かつては英雄と謳われていても、今の彼女は人類の脅威だ!」
 「――ったく、何も事情を知らない奴ってのは!」
 百式が距離を詰め、二発目を狙っている。そうはさせるかとネオは逃れようと試みた
が、強かなシャアの狙いが完全には回避させてくれなかった。
 「今度は右足!」
 アカツキの右脛に、右肩と同じような散弾のマーキング。ネオの歯が、ギリッと音を
立てる。
 百式は、尚も飽くことなくクレイバズーカでアカツキを狙っていた。
 「くそっ、冗談じゃない! これ以上お嬢ちゃんのバカ高いモビルスーツを傷つけたら、
減俸されちまう!」
 チャージの途中であったが、ドラグーンを使わざるを得ない。ネオは止む無くドラグー
ンを展開し、撃てるだけのビームを百式に浴びせた。
 しかし、それが奏効した。散弾による攻撃に手応えを感じていたシャアは前掛かりに
なっていて、急にはドラグーンの猛攻に対応できなかったのである。
 嵐のようなビームが、百式を追い立てる。シャアは薄氷を踏む思いでビームをかわ
した。しかし、本体へのダメージこそ免れたものの、クレイバズーカを撃ち抜かれて壊
されてしまった。
 「レジェンドのタイプよりチャージが早いのか!?」
 「メサイアを奪ったのも、ユニウスを落とそうとしているのもラクスじゃない!」
 「――ネオ・ロアノーク!」
 シャアはビームライフルを構え、ドラグーンの攻撃を掻い潜りながら細かく照準を絞
っていった。それは、車を運転しながら針の穴に糸を通すような繊細さが求められる行
為である。
 しかし、シャアにとっては通す穴があるだけ幸せである。一年戦争末期、アムロ・レイ
が乗るガンダムは、シャアに通す穴さえ見出させてくれなかったのだから。
 ミリ単位で操縦桿を調節し、照準の中にシャアが狙う箇所を収める。じりじりとひり付
くようなじれったい感覚を我慢しながら、シャアは辛抱強くその時を待った。耳には、ネ
オの絶叫しているような声が聞こえている。
 「ラクスは、間違っても地球潰しなんか思いつくような子じゃない! 彼女はサトーと
いう男が率いる、対ナチュラル強硬派――つまり、旧ザラ派の残党に人質にされてい
るだけだ! メサイアを奪うように命令したのも、今ユニウスを落とそうとしているのも、
全部そいつらの仕業なんだよ!」
 「……!」
 アカツキが前に出て、ビームライフルを構えた。その瞬間、シャアはビームライフル
の発射スイッチに添えた親指をグッと押し込んだ。
 百式のビームライフルが火を噴くと、一瞬遅れてアカツキのビームライフルもビーム
を放った。双方のビームはニアミスしながらもすれ違い、アカツキのビームは百式の
頭部を外し、百式のビームはアカツキの右肩アーマーの大きく迫り出した部分を消し
飛ばした。
 「うっ……!?」
 ネオは顔を顰め、咄嗟に防御行動に移った。散弾のダメージを受けた部分のヤタノ
カガミは、ビームの反射機能を失っていたのだ。
 シャアは好機と踏み、更にビームライフルを連射した。しかし、アカツキもドラグーン
を巧みに操り、ドラグーンのヤタノカガミを盾にして百式のビームを跳ね返した。
 「くっ! まったく、こんな使い方までしてくる!」
 シャアもそのコントロールの正確さには面食らったが、最初だけだった。いくら自在
に操れようとも、七基のドラグーンで全てを凌げるほどシャアの狙撃は甘いものでは
ない。
 百式の撃ったビームが、ドラグーンの盾をすり抜けてアカツキの右外脛を掠めた。
その途端、アカツキがたじろぎ、咄嗟にドラグーンを呼び戻した。
 それを見て再装填するつもりだと思ったシャアは、一気に攻勢を掛けた。
 ビームライフルで迫撃を掛ける。しかし、百式の撃ったメガ粒子ビームは、アカツキ
に届く手前で突如として掻き消されてしまった。
 「何だ……? ――バリアだと!?」
 シャアは思わず驚嘆した。そして、ドラグーンがアカツキのバックパックに接続され
ずに、その周囲に展開されていることに気付いた。六基のドラグーンを頂点とし、うっ
すらと八面体を形作る光の輪郭が見えた。
 「そんな機能まであるとは、たまげたな!」
 つい、舌を巻く。シャアの驚きは、本心だ。
 「しかし――!」
 だからといって怯むシャアではない。百式を加速させ、再びビーム攻撃を加え始め
る。ビームは全てバリアに弾かれたが、シャアは構わず攻撃を続けた。
 アカツキは、バリアを仕方無しに使ったように見えた。シャアは、そこにピンとくるもの
があったのだ。アカツキがバリアを最初から使わず、もったいぶったのには訳がある。
シャアは、仮説を立てていた。
 ドラグーンによるバリアフィールドの形成は、エネルギー消費が激しい――シャアの
その推測が正しいことを証明するように、避ける必要の無いはずのアカツキは百式の
ビームに対して回避運動を行った。そして、何発かのビームを弾いた時、ドラグーンは
フォーメーションを崩し、アカツキのバックパックに再装填された。シャアの推測は、当
たっていたのだ。
 「――接近する!」
 刹那、シャアはダミーを放出するスイッチを押して、スロットルを全開にした。百式の
指の付け根が折れて、そこからダミーバルーンが放出され、百式っぽい形に膨らむ。
 「ダミー!? しまっ――」
 複数のバルーンが無造作に流れて、アカツキの照準がそのダミーに一瞬だけ惑わ
された。シャアは、ネオがその修正に手間を掛けている一瞬の間に百式を肉薄させ、
ビームサーベルで斬りかかった。
 しなる刃が、袈裟に振り下ろされる。アカツキがシールドを構え、百式のビームサー
ベルがその表面を擦った。粒子が散り、百式とアカツキの視線が交わる。
 「……!」
 「……!」
 無言の言葉を交わす。その一瞬、時間は止まっていた。
 「――でやーっ!」
 先に動いたのは、ネオだった。アカツキの右腕が、ビームライフルの砲口を百式の
胸部に刺すように押し付け、ピタリと止める。そして、ネオはビームライフルの発射ス
イッチに添える親指に力を込めた。
 「……っ!」
 しかし、シャアはその呼吸を読んでいた。アカツキがビームを撃つ瞬間、そのタイミ
ングの一呼吸前、百式は身体を半身になるように動かして、ビームライフルの砲口を
逸らしていた。
 押し付けていたビームライフルの砲口が百式の胸部装甲の上を滑り、狙いを逸らさ
れる。ネオが発射スイッチを押した時、砲口はもう何もない虚空に向けられていた。一
閃のビームが、真空の宇宙空間を穿つ。
 刹那、百式の左足がアカツキの右腕を蹴り上げ、ビームライフルを弾き飛ばした。ア
カツキは咄嗟にビームサーベルを掴もうと、手を伸ばす。しかし、その手が柄を掴む寸
前に、百式のビームサーベルがアカツキの腹部に突きつけられていた。
 ネオの頬を、冷や汗が伝う。呼吸を止め、目の前のスクリーンの向こうに、実際にビ
ーム刃が迫っているのだと想像して、背筋が寒くなった。――ネオは、敗北を認めた。
 「……こちらから仕掛けたんだ。やるなら、やれよ」
 ネオは観念して、シャアに告げた。
 しかし、その時、百式は突如としてビームサーベルを収めた。その行為にネオは眉
を顰め、「何のつもりだ?」と訝った。
 「話をしたい」
 百式の双眸が淡く瞬き、コックピットハッチが開いた。
 「正気か?」
 「我々の目的は、ユニウスセブンの落下を阻止することだ。そのためには、貴官らと
争っている場合ではないと考えた」
 コックピットから、シャアが姿を現した。ネオは、そのあまりに無防備な行為に我が目
を疑ったが、シャアは至って本気のようだった。
 「そちらの言うことが真実であれば、倒すべきはラクス・クラインではなく、その旧ザ
ラ派の残党ということになる。もし、その認識を共有できれば、我々が争う理由もなく
なる。月の再現だってありうるはずだ」
 「信じるのか?」
 「無論」
 事も無げに答えるシャアに、ネオは辟易したような心持にさせられた。シャアは、どう
にも特殊な感性の持ち主のように見える。
 「しかし、プラントはラクスの偽者を担いで、本物のラクスを偽者と断定しちまってる
んだろ? いいのかよ、代理とはいえ、デュランダルのアンタがそんなことを口にして」
 「プラントの現状を考慮すれば、ああするしかなかったんだ」
 試すような口振りのネオに、シャアはそう返して理解を求めた。
 ラクスの求心力は、無視できないほど強い。そのラクスが起こしたテロ行為によって、
ただでさえレクイエムで打ちのめされていたプラントは、更に絶望のどん底へと叩き落
された。ミーアが再び必要になったのは、デュランダルを演じるに当たって自身の言葉
に説得力を持たせる以上に、そんなプラントを励ます意味が大きかった。
 「プラントにも、ラクスの力が必要だったのだ……」
 「そりゃあ分かるが……」
 「連合が見境をなくしたことで、テロリストたちに好きに動かれている。この状況では、
メテオブレイカーでユニウスにアタックを掛けるジュール隊のアシストも難しくなるだろ
う。先ずはユニウスをどうにかするのが先決で、ラクスのことについてはその後で考え
たい」
 「棚上げ論か。――ラクスには手を出さないでくれると受け取ったが?」
 「そちらが協力してくれるのなら、やぶさかではない」
 シャアがそう言うと、ネオは少しの間思案を重ねた後、「ふー、分かったよ」と言って
ハッチを開き、シャアと同じように外に出た。
 「ラクスの救出部隊は既に動いている。余計な争いを避けるためにも、互いの合意
は早い方がいい。ここからならアークエンジェルが近いはずだ。そこからミネルバに
繋いで、話を纏めたい。仲介役を頼むぜ」
 「了解した。話が早くて助かる」
 「一応、大人なんでね。モビルスーツに乗ってはしゃいでばかりもいられねえよ」
 ネオは冗談っぽく言ってシャアに笑い掛けると、再びアカツキに乗り込んだ。
 シャアも愛想笑いを返して、百式のコックピットに戻った。
 「モビルスーツに乗ってはしゃいでばかりもいられない……か」
 シートに腰掛け、ため息をつく。シャアには、少し耳の痛い話だった。
 アカツキが腕を扇いで、付いて来いとシャアを促す。シャアも軽く腕を上げるアクシ
ョンで応え、アカツキの後に続いた。
 
 ニュータイプとは互いを感じ合い、引かれ合う関係にあるのだと言われれば、それは
信じられることだとカミーユは思う。――それは、まるで運命の糸に手繰り寄せられる
ようにして遭遇した。
 白い流線型のシルエットは、遠目の肉眼でも判別できるほど特徴的なデザインをし
ている。キュベレイである。その後方からは、インパルスが追随している。
 カミーユはウェイブライダーの加速度を上げて、キュベレイへの接近を試みた。だが、
その行く手に、カミーユの接近を察知したらしいインパルスが割り込んできた。インパ
ルスが、迫り来るウェイブライダーにビームライフルを連射して、カミーユを妨害する。
 カミーユはウェイブライダーをモビルスーツ形態に戻して、インパルスの牽制をやり
過ごした。が、キュベレイより先に反応したインパルスが、意外に感じた。
 「インパルスのパイロットもニュータイプなのか……?」
 カミーユはそう推測して警戒を強めたが、しかし、インパルスの動きはそれにしては
凡庸に見えた。それどころか、調子が悪いようにも見える。その挙動や反応は、どう見
てもニュータイプのものとは違う。プレッシャーも感じない。
 「どういうんだ? たまたまだったのか?」
 カミーユは戸惑いながらもインパルスに肉薄し、驚いてシールドで防御しているとこ
ろに蹴りを入れた。インパルスはそれだけで容易く吹っ飛び、カミーユはそれに拍子
抜けしながらもビームライフルを向けた。
 だが、その時、俄かに意識を刺激する思惟を感じた。複数方向から見られているよ
うな感覚である。カミーユは咄嗟に構えを解き、素早くその場を離脱した。
 一瞬の後に、今しがたまでΖガンダムが存在していた空間にビームが殺到した。そ
して、そのビームは更に離脱したΖガンダムを追い立てた。
 カミーユは一瞬の間を見つけてビームサーベルを取り出すと、それを回転させなが
ら投擲して、そこにビームを撃ち込んだ。ビームサーベルの干渉波によって鎌状の刃
のようになったビームが広範囲に拡散し、Ζガンダムを追い立てるビーム――ファン
ネルに襲い掛かる。以前にもコロニーレーザー内で使ったことのある、ビームコンフュ
ーズというテクニックだ。
 ビームコンフューズは、空間に制限のあるコロニーレーザー内の時のように多くのフ
ァンネルを駆逐することはできなかったが、退けることには成功した。ファンネルは蜘
蛛の子を散らすように本体であるキュベレイに呼び戻されていき、カミーユはビームコ
ンフューズで使用したビームサーベルを回収すると、今度こそキュベレイに突撃した。
 迎撃のビームガンを掻い潜り、肉薄してビームサーベルを振り上げる。キュベレイは
半身になってそれをかわすと、袖からビームサーベルの柄を滑り落とし、Ζガンダム
に向けて突き込んだ。カミーユはそのキュベレイの腕をシールドでかちあげて、頭部
のバルカン砲を発射した。
 咄嗟に身を低くしたキュベレイはその攻撃をかわし、肘でΖガンダムの腹部を突い
た。それで揉み合っている状態から逃れると、素早く後方へ飛び退いた。
 「ハマーン!」
 カミーユはバランスを回復させると、すぐさまその後を追った。
 「誰のところに行くつもりだったんだ!」
 追いかけつつ、カミーユはオープン回線でハマーンに問い掛けた。キュベレイは、両
腕のビームガンで追走するΖガンダムを迎撃する。
 「それを聞いてどうする?」
 「ラクスのところに行こうとしているのなら!」
 背走するキュベレイが急に前に加速を掛けて、猪突するΖガンダムと擦れ違った。
 その瞬間、キュベレイはビームサーベルを抜き、その背中へと刃を振り下ろす。
 刹那、Ζガンダムの頭部が回り、グリーンの双眸が睨みつけるようにキュベレイを見
た。次の瞬間、Ζガンダムの左腕が振り上げられて、そのシールドがキュベレイのビ
ームサーベルを弾いた。
 「彼女を助けてやってくれ! あの人には、ハマーンの助けが必要なんだ!」
 「知ったことではないな!」
 キュベレイの尾が上がり、一斉にファンネルが射出される。ハマーンは一基一基の
ファンネルに向けて思惟を拡散し、Ζガンダムに対する攻撃命令を与えた。
 カミーユは、そのハマーンの思惟の拡散を殺気と同じような感覚で捉えて、危機を
感知し、咄嗟にΖガンダムを後退させた。ファンネルの無数のビームが豪雨のように
降り注いできて、カミーユは全開速度でそれから逃れた。
 「ハマーン! お前はラクスのことを気に掛けていたんじゃないのか!」
 カミーユはファンネルの攻撃から逃れながらキュベレイの周囲を旋回した。それを、
キュベレイの蛇のような瞳がハマーンの意識と連動しているように追った。
 「そうだよ? 危険な影響力を持つラクスは、いずれ世界に脅威をもたらすと考えた
私は、様々な形で接触して忠告を与えてきた。だが、あの女は我を押し通すことしか
知らんようだ。私の忠告を無視して、挙句の果てに今日のような危機を招いた!」
 「ハマーン……!」
 キュベレイの撃つビームガンをかわして、その背後に回り込む。Ζガンダムは右腕
を上げ、前腕部のグレネードランチャーからワイヤーを射出した。
 だが、キュベレイはそれを知っていたかのように素早く反転し、ビームサーベルでそ
れを斬り飛ばした。
 思惟の飛ばし合いなのだろう。高いニュータイプ能力を有する二人の戦いは、それ
故に激しい読み合いの応酬に終始し、永遠に決着の目を見ないかに思われた。
 だが、その激しい思惟の読み合い、飛ばし合いは、次第に二人の意識をシンクロさ
せるように絡まり、高まっていく。ニュータイプ同士の感応とも呼べるそれは、かつてカ
ミーユとハマーンが体験したことであった。
 「最早、これ以上あの女をのさばらせておくことはできん! だから、排除する!」
 「それは嘘だ!」
 Ζガンダムの撃ったビームとキュベレイの撃ったビームがかち合い、メガ粒子ビー
ム同士の衝突が膨大なエネルギー爆発を起こした。エネルギー爆発は全周囲に向
けて衝撃を巻き起こし、それに伴って拡がった光がスクリーンを白く染めていった。
 
 アークエンジェルに辿り着くと、それの直掩に当たっていたカオス、アビス、ストライ
クルージュから銃を向けられた。損傷したアカツキを伴っていたからだろう。人質にさ
れたと思い込んだようで、ネオが事情を説明するまで百式のスクリーンからはロックオ
ンアラートが消えなかった。
 「カミーユ、どこ……?」
 ストライク・ルージュが辺りを見渡して、ステラがそんなことを呟いた。その声を、百
式のアンテナも拾っていた。
 ネオのアカツキが擬人的な動きでその肩に手を掛けて、宥め賺すように双眸を瞬か
せた。
 「心配するな。ミネルバとは、また共同戦線を張ることになるだろうから――」
 ネオは優しくあやすようにステラに告げたが、内心では多少の心配もあった。ネオは
カミーユと共にミネルバの動向を探りに出たのだが、その途中で百式を発見し、カミー
ユと別れた経緯があったからだ。シャアとカミーユの関係を案じていたネオは、とにか
く二人を接触させるのは不味いと思ったのである。
 そういうことでカミーユを一人にしてしまったのだが、それに対するアウルの風当たり
は強かった。曰く、「カミーユから目を離すなっつったろうが!」ということだったからだ。
 「そんなに心配しなくても、すぐ戻ってくるって」
 ネオは安心させようと、あえておどけるように言ったが、アウルの癇癪は収まらない。
 「ステラがな、もう帰ってこないかもしれないって言ってんだよ!」
 「どういう意味だ、そりゃ?」
 「知らねーよ! そんな気がするって言ってるだけで……とにかく、一緒じゃないって
んなら僕たちは出るからな!」
 「あ、おい!」
 ネオが制止しようとするも、アウルはその前に「行こうぜ!」と他の二人を促し、アー
クエンジェルを離れていってしまった。
 シャアはそのやり取りを傍で聞いていて、カミーユは大事にされているのだなと感じ
た。それが分かると、カミーユが何故シャアと合流しようとしなかったのか、その心情
が理解できるような気がした。
 しかし、ステラという少女が言っていたという「もう帰ってこないかもしれない」という言
葉が気になっていた。
 「……急いでくれないか?」
 シャアが呼び掛けると、アカツキは我に返ったように首をもたげて百式を見た。
 「ああ、すまない。みっともない所を見せた」
 「いや、なんの」
 照れ臭そうなネオに、シャアも気に留めてない態度で返した。
 
 アークエンジェルに入ると、ネオはクルーにシャアをブリッジまで案内するように告げ、
自身は踵を返して再出撃していった。カミーユを探しに出た三人を追うのだという。
 シャアは、案内役を買って出たメカニックに拳銃を渡し、アークエンジェルのブリッジ
へと上がった。
 ブリッジに上がって驚いたのは、その運用クルーの少なさだった。アークエンジェル
はミネルバ以上に艦機能のオートメーション化が進んでおり、少ない人数でも運用で
きるように改良が加えられていた。
 シャアがブリッジルームに入ってくると、オペレーター席を立った少女が一番最初に
出迎えた。
 「オーブ連合首長国代表のカガリ・ユラ・アスハだ」
 そう言って手を差し伸べる少女と握手を交わす。テレビで見覚えがある。相違ない。
 「ザフト、ミネルバ隊所属のクワトロ・バジーナです」
 名乗ると、その途端、ブリッジ内が少しざわついた。が、それは最早シャアにとって
飽きた反応だ。寧ろ、シャアにしてみれば国家元首がブリッジクルーをやっていたこと
の方が驚きである。
 (庶民派なのか……)
 ふとそんな考えが頭を過ぎって、シャアは若き国家元首が支持されている背景を推
察してみた。
 「――元セイバーのパイロットだな?」
 副長席を立った大柄な男も、シャアに握手を求めてくる。シャアがそれに応じると、そ
の浅黒い肌の隻眼の男は「いつかリベンジさせてもらいたいもんだねえ」と笑ってブリ
ッジを後にしていった。
 シャアがそれを見送って怪訝そうにしていると、「アンディは何度かあなたと戦ったこ
とがあるのよ」と艦長席に座る女性が言った。
 「北欧の戦いでは、彼も私たちもあなたのセイバーに苦しめられたわ」
 艦長席の女性は座したまま、「このままで失礼」と前置きしてシャアに手を差し出した。
 「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」
 「なるほど、彼はあの時のムラサメのパイロットでしたか」
 シャアは握手に応じ、先ほどの浅黒い肌の男、バルトフェルドが、モビルスーツデッ
キに向かったのだと察した。アークエンジェルに入った時に、見覚えのある黄色のム
ラサメを見ていた。それで、バルトフェルドが手薄になったアークエンジェルの防御の
ためにブリッジを出て行ったのだと分かったのだ。
 「――それで、フラガ少佐が説明していたことには納得させてもらえるのか?」
 一先ずの挨拶が済むと、カガリがじれったそうに切り出した。
 「そのために、私が出向きました。先ずはミネルバと」
 シャアは言うと、振り返って「オペレーターの方?」とミリアリアに訊ねた。
 「はい」
 「ミネルバとは少し距離があるが、上手く捕まえてくれるかな、綺麗なお嬢さん?」
 シャアがキザな笑みで話し掛けると、ミリアリアは「お上手!」と歯を見せて笑った。
 「ミリアリア・ハウです。これでも経験は豊富な方ですし、期待してくれていいですよ」
 「これは失礼。ではよろしく、ミリアリア・ハウさん」
 ミリアリアが「了解」と答えてパネルの操作を始めると、シャアは満足げに前を向いた。
 その様子を、カガリが感心したような目で眺めている。
 「人ん家の敷居を跨いでおきながら、その図々しい物慣れた態度。アンタがデュラン
ダル議長の代わりに演説をやっていたっていうカミーユの言葉は、信じられそうだな」
 「そうですか、カミーユにはバレていましたか」
 シャアは改めてカガリに向き直った。
 「どうしてそんなことになったんだ?」
 「それは機密事項ゆえ、アスハ代表であろうとも詳細を申し上げることはできません。
ですが、あの演説が本来デュランダル議長が言うべきだったことを私が代弁しただけ
に過ぎないということは、ご理解いただきたいのです」
 「クワトロ・バジーナの本心ではないということか?」
 「そうです」
 カガリの追及に対しシャアがそのように答えると、何とはなしに内情を察したのか、カ
ガリは「分かった」とだけ言って理解を示した。直情的な雰囲気とは裏腹に、意外と物
分りがいいのだな、とシャアは思った。
 「――正面、出ます」
 そうこうしている内に、ミリアリアがミネルバを捕まえてくれたようだった。ミリアリアの
声に反応してメインスクリーンを見上げると、そこにはミネルバの艦橋の様子が映し出
されていた。
 「これはどういうこと、クワトロ?」
 タリアはシャアの姿を見つけるなり、ぶしつけにそう訊ねてきた。シャアは前に進み出
て、タリアに事情を説明した。
 「ラクス・クラインは旧ザラ派の残党に人質にされています。ユニウス落しは、彼女の
意思ではありません」
 「根拠は?」
 「彼らがそう証言しています」
 シャアはアークエンジェルのクルーを指して言った。
 しかし、タリアから返ってきたのは辟易したようなため息だった。
 「彼らの言葉を信じろと?」
 「グラディス艦長、この際、彼らの言葉が真実であるかどうかは問題ではありません。
ザフトが連合によって押さえ込まれている分、メサイアのテロリストたちが有利です。
ジュール隊のアタックを妨害されないためにも、ラクスを救出しようとしている彼らの動
きには乗じるべきです」
 「共闘ではなく、利用しろと?」
 画面の中のタリアが、チラとカガリとラミアスを窺った。
 「利用、大いに結構。ラクスの命を保障してくれるのなら、この危難の時、我々は貴官
らへの協力を惜しまない」
 「カガリ代表に同じく、アークエンジェルにはミネルバ支援の用意があります」
 二人はそう言って、タリアに信用を促した。
 タリアは暫し黙考していた。しかし、あまり悠長にしてもいられない。シャアは、「艦長」
と呼び掛けてタリアに即断を迫った。
 しかし、その時、不意に横からメイリンがタリアに何事かを伝えた。何かをキャッチし
たらしく、タリアは「失礼」と一言詫びると、メイリンの報告を優先した。
 それに触発されたのだろう。後ろでも、ミリアリアが何やらパネルを操作し始めた。
 「……連合の方で動きがあったようです」
 メイリンからの報告を受け終えたタリアは、再びスクリーンに向かってアークエンジ
ェルの面々に語りかけた。
 「動き?」
 カガリが訊ねると、タリアは「はい」と応じて続けた。
 「ユニウスの進行方向、つまり、ユニウスと地球の間の低軌道上に、新たな連合軍
の艦隊が確認されました」
 タリアが答えると、「こちらでもキャッチしました!」とミリアリアが声を上げた。
 「艦船、モビルスーツが多数――核マークです!」
 「核……!? まさか、ピースメーカー!」
 ミリアリアの報告に驚いて声を上擦らせるカガリに、タリアは一つ頷いた。
 「ピースメーカー隊は前大戦末期に壊滅しましたが、あれはその流れを汲む部隊が
新設されたものだと我々は見ています。連合は、ユニウス落下阻止の切り札として、
このカードを切ってきたのでしょう」
 「なら、ユニウスはザフトのメテオブレイカーの到着を待たずして……?」
 ラミアスが期待混じりに言うも、「それはどうでしょうね」とタリアは否定した。
 「メサイアはプラント防衛の新たな要衝として建造された要塞です。なら、ピースメー
カー隊のような核兵器部隊を想定して、“あれ”が積まれているはず」
 「“あれ”とは……?」
 意味深長なタリアの言葉に、ラミアスが詳細を促すように訊ねた。
 「それは――」
 しかし、タリアが答えようとした時、まるでタイミングを見計らったかのようにユニウス
セブンの様子を映しているスクリーンに俄かに光が広がった。それはユニウスセブン
の影――即ち地球とユニウスセブンの間の低軌道上で起こったもので、そこで無数
の光球が連続花火のように広がっては消えていった。
 普通の爆発ではない。一つ一つの火球が遠目からでも分かるほどに大きく、そして、
どこまでも膨張していくかのような広がり方をしていた。そのスペクタクル映画のワン
シーンのような凄まじい光景の前に、誰もが言葉を失った。それは、プラントにとって
は悪夢の光だった。
 「核だ……」
 一同が押し黙る中、誰かがそう呟いた。