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SEED DESTINY × ΖGUNDAM 〜コズミック・イラの三人〜 ◆1do3.D6Y/Bsc氏_第34話

Last-modified: 2013-10-30 (水) 03:10:38

 ザク・ウォーリアの頭部を撃ち抜き、ドム・トルーパーの胴を切り裂く。グフ・イグナイ
テッドのスレイヤーウィップをかわして踏みつけるように蹴りを入れると、カミーユは一
旦機体を岩陰に隠した。
 スクリーンをマルチ表示にして、周辺の状況を窺う。
 「機影なし……抵抗、弱くないか?」
 カミーユは改めて首を回して自分の目で確認した。だが、付近には少数のデブリが
漂っているだけで、敵となるようなモビルスーツの姿は見えない。
 メサイアは、もう港口の中が認識できるほどに迫っている。それなのに、ラクス派の
抵抗が弱いことがカミーユは引っ掛かっていた。
 「当てが外れたかな……?」
 岩陰から顔を出し、もう一度辺りの様子を窺う。
 「ん……?」
 ふと、複数の光が瞬いているのを見つけた。メサイアからはそう離れてない。
 「戦闘の光……!」
 良く見れば、メサイアからその戦闘空域へと向かって伸びる複数のテールノズルの
光も確認できた。
 戦闘空域は、少しずつユニウスセブンに近付いていっているように見える。そのこと
は、メサイアの抵抗が弱いことと無関係ではないと思った。
 「……そうか!」
 カミーユは直感して、岩影からΖガンダムを飛び出させた。そして、ウェイブライダー
形態に変形させると、その戦闘空域に向かって急行していった。
 
 現場に到着してみると、そこでは既に激しい攻防が繰り広げられていた。ザフトの艦
隊に攻撃を仕掛けるのは、同じくザフト系統のモビルスーツである。ラクス派のモビル
スーツがザフトのジュール艦隊に攻撃を掛けているのだ。
 カミーユはその攻防へと介入して、取りあえず二体のドム・トルーパーを戦闘不能へ
と追い込んだ。オーブの識別を出していないドム・トルーパーであれば、確実にテロリ
ストのものであるからだ。
 カミーユはそうして戦闘空域を縫うように移動して、シャアの百式を発見した。
 「クワトロ大尉!」
 百式の背後から襲いかかろうとするグフ・イグナイテッドの胸部を撃ち抜く。百式がそ
れに気付いて首を回し、Ζガンダムを見て双眸を瞬かせた。
 「カミーユか!」
 「援護します!」
 カミーユはシャアにそう告げて、ジュール艦隊の防御に入った。
 「状況を把握してくれているのか?」
 「何となくは!」
 シャアは、ガナー・ザク・ウォーリアの持つオルトロスを狙撃して破壊した。カミーユ
もグフ・イグナイテッドのテンペストソードをシールドで防ぐと、頭部バルカン砲を連射
してそのモノアイを潰した。
 予期せぬシャアとの共同戦線。それは、当初予想していた展開とは違う。が、シャア
と敵対する覚悟を決めていたカミーユにとっては、嬉しい誤算だ。
 「どのくらい持たせればいいんです?」
 「メテオブレイカーがユニウスを砕くまでだ!」
 随分だな、とカミーユは思ったが、それもそうか、とすぐに思い直した。
 ジュール艦隊を見ると、二、三体のモビルスーツがグループを組み、巨大な打ち杭
のような機械を持って出撃していく様子が窺えた。それらの部隊は戦闘には参加せず、
急ぐ様子でユニウスセブンへと向かっていく。
 (あれがメテオブレイカーか……)
 ラクス派のモビルスーツは、それらを追って攻撃を仕掛けていた。ジュール艦隊は
直掩のモビルスーツ部隊と艦船がラクス派のモビルスーツの行く手を遮るように展開
し、メテオブレイカーの工作部隊を守っている。
 カミーユはそれらのことを瞬時に把握し、身の振り方を確定させた。
 しかし、事は容易ではない。ジュール艦隊の動向を察知したサトーは、即座にターゲ
ットをジュール艦隊に定めて戦力を集中させていたのだ。連合軍とザフトの小競り合
いはまだ続いていたが、ネオ・ジェネシスによる損害で双方ともかなり体力を削られて
いる。滅多なことではメサイアを突破される心配は無いだろうと踏んだサトーは、エタ
ーナルを含む大半の艦船までもユニウスセブンの防衛へと回した。
 サトーには、ジュール艦隊の破砕工作さえ凌ぎ切れれば、という期待がある。そして、
それは的を射ていた。
 ユニウスセブンに取り付いて破砕作業を開始する工作部隊も出始めた。しかし、そ
れを全力で阻止しようと目論むサトーの差し金で、ラクス派の戦力の大半がユニウス
セブンへと集い、戦闘は見る見るうちに激化していった。
 押し寄せる敵の群れに、ジュール艦隊は押し込まれた。隊長であるイザーク・ジュー
ルと副官であるディアッカ・エルスマンが駆る白いグフ・イグナイテッドと緑のブレイズ・
ザク・ファントムは強力な戦力であったが、その殆どが破砕工作員で構成されていた
ジュール隊の戦力は、寄せ集めのラクス派と比べても心許ない。シャアとカミーユも
奮戦してはいたが、兵力差を埋めるまでには至っていなかった。
 ジュール艦隊は抵抗を続けたが、防衛ラインは徐々に後退していた。戦域がユニウ
スセブンの地表に接近する頃には、防衛ラインの綻びから突破を許した敵が工作部
隊へと攻撃を仕掛ける場面も見られるようになっていた。
 趨勢は、確実にサトー側へと傾いていた。
 しかし、天秤の秤はサトー側に傾いたままではいなかった。カミーユがそのことを感
じ取ったのは、ふと脳裏に戦艦のイメージが思い浮かんだ時だ。
 「アークエンジェル……!?」
 無意識に口走った次の瞬間、敵艦隊の宙域を二条の強力な複相ビームが穿った。
 一隻がその直撃を受け、爆沈する。他にも数隻の艦船がビームを掠めていて、遅れ
て爆沈するものや、煙を噴いてユニウスセブンの地表に激突するものもあった。
 「ローエングリンだ!」
 「ようやく追いついたぜ、カミーユ!」
 俄かに聞こえた声に、カミーユは咄嗟に頭上を仰ぎ見た。
 「大佐!」
 アカツキを先頭に、カオス、ストライクルージュ、アビスが駆け抜けていく。
 「ザフトの作戦は了解している。加勢するぜ!」
 「勝手に突っ走ってピンチになってんじゃねーよ、ぶゎーか!」
 アビスが茶化すように双眸を瞬かせると、「アウル!」とステラがヒステリックに窘め
た。「集中しろ、お前ら!」と叱責するスティングは最早お約束である。
 「俺たちが前に出て、敵の陣形を崩す! その間に、態勢を立て直せ!」
 アカツキはドラグーンを展開して、敵モビルスーツ隊のかく乱を始めた。アビスが一
斉射撃で艦船を沈め、カオスも機動兵装ポッドを駆使してドム・トルーパーを一機、落
とした。ストライクルージュはビームライフルとビームサーベルそれぞれで二体のザク・
ウォーリアを撃墜した。
 「――何とかなりそうだな?」
 カートリッジを交換し、接近する百式を見やる。――ネオがシャアを援護した。つまり、
そういうことなのだ。
 「話、いつの間に付けたんです?」
 「つい先ほどな。今は些事に拘っている場合ではない……それより、Ζはいいな?」
 「は、はい。行けます」
 「よし。ならば、ユニウスに降りるぞ。彼らがモビルスーツ隊を抑えている間に、私た
ちは突破を許した敵の掃討を行う。付いて来い、カミーユ」
 「了解!」
 百式が加速し、カミーユもそれに続く。そしてユニウスセブンの地表に降下すると、
交戦中の破砕工作部隊の援護に向かった。
 アークエンジェルの介入により、攻めるサトー側の陣容は乱された。イザークはそれ
を利用して、崩壊しかけていた戦線の立て直しを急いだ。
 サトーはその動きを嫌がり、態勢を立て直される前にジュール艦隊を突破するように
攻撃部隊に発破を掛けた。
 だが、イザークの指揮も素早い。ジュール艦隊はサトーたちの突破を許すことなく防
衛ラインの立て直しに成功。そして、妨害が一段落したことで、滞りかけたユニウスセ
ブンの破砕作業が進捗を始めた。少しずつではあるが、ユニウスセブンは割れ始めた
のである。
 これに、サトーは業を煮やした。
 「ユニウスに全戦力を集結させろ!」
 激昂して怒鳴るサトーに、「それだと、メサイアを空にしなければなりません!」と通
信回線越しに参謀が抗議する。しかし、サトーは「構わん!」と切り捨てる。
 「ドリルを潰せば、もうユニウスを止める手立ては無いのだ! メサイアなどくれてや
れ!」
 「しかし……!」
 「くどい! 構わんと言っている!」
 「……っ! 了解……!」
 参謀は、渋々といった態度で了承した。
 「……メサイアを引き払えってよ……」
 「……俺たちの船も出せって……? ……何考えてんだか……」
 回線の向こうから聞こえてきた小さな声に苛立ち、サトーは殴りつけるように通信ス
イッチを切った。
 「指揮官は俺なのだぞ!」
 所詮は寄せ集め。しかも、ラクス目当てにザフトを離反したミーハーである。毛色が
違うのだ。――サトーに、ラクスのようなカリスマは無い。
 「――ラクス・クラインは何をちんたらやっているのか!」
 苛立ちは、尚もミーアと舌戦を続けているラクスにも向けられた。
 「御覧なさい。ユニウスは、もうここまで地球に近付いています。もうこれを止めるこ
となどできません」
 「いいえ、ザフトにはまだユニウスを破壊する手立てが残されています。ユニウスは
地球に落ちることなくバラバラになります」
 丁々発止の論戦と言うよりは、どこか水掛け論のようなやり取りに聞こえる。それは、
聞いているものにとっては退屈なもので、サトーにはこれが歯痒かった。舌鋒鋭いラ
クスの実力であるとは、到底思えなかったのだ。
 「見込み違いだったというのか……?」
 偽者が思ったよりも手強いのか、それともラクスを買い被り過ぎていただけなのか。
サトーに、今はその答えは出せない。
 だが、信念は一貫している。望みは、ただ一つ。
 「しかし、必ず成功させなければならんのだ……アランやここで死んでいったクリス
ティのためにも……! そうでなければ、何のために二人が死に、俺は生きてきたと
いうのだ……!」
 サトーはユニウスセブンを見つめて独り言を呟いた。正面スクリーンには、収まりき
らないほどの地球が迫っていた。
 
 メサイアから、多くのテールノズルの光がユニウスセブンに向かって伸びている。そ
れは、ユニウスセブン破砕部隊であるジュール艦隊が激しい攻撃を受けていることを
意味していた。
 しかし、レイにとって、それは他人事のようなものであった。レイには、他に優先すべ
きことがあるからだ。
 同じ遺伝子を共有している者同士は、通じ合う。それは、呪いのようなものである。
 今、レイはユニウスセブンに向かう一つのテールノズルの光を見ていた。それを凝視
していると、意識を刺激されるような閃きが走った。レイは、それだけでその正体を把
握できた。
 「見つけたぞ!」
 レイはレジェンドの速度を上げて、そのテールノズルの光に迫った。
 敵の速度は並大抵ではない。だが、レイは強引にドラグーンを展開して襲い掛から
せた。敵もレイの接近を察知していたのだろう。ドラグーンが攻撃を始めると、テール
ノズルの光は複雑な軌道を描き、レイはドラグーンの攻撃が全て回避されたことを悟
った。
 それでも、お陰でスピードが落ちて、距離は詰められた。レイにとっては、それで十
分だ。端からドラグーンの攻撃が当たるとは思っていない。
 カメラスクリーンを拡大表示にして、その姿形を確認する。レイの口角が、自然と上
がった。
 「――キラ・ヤマト!」
 全長百メートル近くにも及ぶ巨大追加武装ミーティア。その前方から伸びる長大な
ウェポンアームの間に、挟まれるようにしてコアユニットであるストライク・フリーダム
が収まっている。
 レイはドラグーンを呼び戻しがてら、ビームライフルを連射してミーティアを攻撃した。
ミーティアは機体を横に傾けてかわすと、巨体に似合わぬはしっこさでターンした。と、
同時に無数の発射管の蓋が開き、夥しい数のミサイルが一斉に襲い掛かってきた。
 「くっ!」
 レイは頭部バルカン砲とビームライフル、更に一部ドラグーンを駆使して懸命にミサ
イルを撃ち落しながら、全速で後退する。
 「何て数だ!?」
 咄嗟に岩陰に身を隠す。だが、追尾してきたミサイルがそこに殺到して、たちどころ
に岩を砕いてしまった。
 砕けた岩の破片が飛び散り、炸裂したミサイルの爆煙でレイの視界が曇る。レジェン
ドは素早くその煙幕から抜け出たが、そこにミーティアのウェポンアームから発せられ
た高エネルギー収束火線砲の強烈な一撃が襲来した。
 「うっ!?」
 息を呑む。一瞬、心臓が止まったかと思った。
 反射的にビームシールドを開いて、直撃こそ免れた。だが、大口径のビームの威力
は凄まじく、掠めただけのレジェンドを容易く吹き飛ばしていた。
 「うおぉーっ!」
 レイは咆哮を上げて、懸命に暴れる操縦桿を握り締める。
 レジェンドはきりもみしながら岩に激突し、跳ねた。激震するコックピットでレイは歯を
食いしばり、目まぐるしく星や地球が回るスクリーンを凝視する。そして、一瞬だけ捉え
たフリーダムの姿を見て、レイは無我夢中に機体を加速させた。フリーダム本体が、
ビームライフルを構えている姿が見えたからだ。
 フリーダムは右のマニピュレーターをウェポンアームから放し、自前のビームライフ
ルを構えていた。狙いは、乱回転するレジェンド。キラの正面スクリーンに表示されて
いる照準が不規則な跳ね方をしたレジェンドを追尾し、その中心に収める。キラはそこ
からマニュアルで照準を少しだけずらし、それからトリガースイッチを押した。
 しかし、キラがトリガーボタンを押すのとほぼ同時にレジェンドは強引に加速して、照
準の範疇から逃れていた。ビームライフルは撃たれたが、その先にターゲットとなるレ
ジェンドの姿は既に無い。
 「左……!」
 キラの意識に刺激が走った。左のウェポンアームを操作し、大型ビームソードを左側
に向けて薙ぎ払う。
 ミーティアの左側面からは、レジェンドが迫っていた。キラはそれを読んで、ビームソ
ードをそこに置いたのだ。
 しかし、レイもその程度は予測していた。レジェンドはそのウェポンアームの動きに鋭
く反応し、下方向へ沈んで長大なビームソードを回避した。
 「そこっ!」
 レジェンドはバックパックに接続した状態のドラグーンを前方に向けて、一斉射撃を
狙う。
 だが、フリーダムのビームライフルの発射の方が早い。鋭く一閃するビームが、砲
撃態勢に入っていたレジェンドの脇を掠める。
 「チッ!」
 咄嗟に砲撃態勢を解いて、二発目、三発目のビームを避ける。辛うじてかわしたが、
近距離でキラの正確無比な射撃に晒され続けるのは自殺行為だ。レイは無我夢中で
ミーティアの底部へと潜り込み、張り付いた。
 しかし、それが奏功した。武器庫そのもののミーティアの、唯一と言っていい死角、
それがミーティアの底だ。そこには、どんな攻撃も届かない。
 これには、流石にキラも焦った。このままでは一方的に攻撃を受けるだけ。すぐさま
ミーティアを左右に振って、レジェンドを振り落とそうと試みる。しかし、両手の指先を突
起に食い込ませるようにしてしがみ付くレジェンドは、簡単には振り落とせない。
 「お前をユニウスに行かせはしないぞ、キラ・ヤマト!」
 接触回線から聞こえてきた声に、キラは強く記憶を刺激された。ブロンド髪の、目元
を隠すマスクを付けた男の顔がフラッシュバックする。その男の声とレジェンドのパイ
ロットの声が、一致した。
 「君は……!」
 刺すような頭の痛みに、キラは「ううっ!」と呻いた。
 「気付いているだろう! 俺がここに来た意味を!」
 「君は、本当に彼なのか!?」
 「その感覚が知っているはずだ! 運命からは、決して逃れられないと!」
 レジェンドはミーティアの底に張り付いたまま、バーニアを全開にした。下から不意に
推力が加わり、ミーティアはウィリーをするように機首が上がって、複雑な回転を始め
た。
 キラは暴れる操縦桿を力づくで押さえ込む。
 「そんなはずは無い! 君は、ラウ・ル・クルーゼじゃない!」
 抵抗するように否定するキラ。しかし、レイは首を横に振る。
 「いいや、俺はラウだ! 俺はラウをベースにして造り出された! だから、俺はラウ
だ!」
 「君も……!?」
 キラは驚愕して目を見張った。
 「そんな……どうして!?」
 「出来たからだ。ただそれだけの理由で、俺は造られた!」
 怒りも悲しみも無い。レイの叫びは、ただ現実を受け入れた少年の、どうにも出来な
いやるせなさを表現するだけのものだった。
 「たった、それだけの理由で……!?」
 キラは愕然とした。クルーゼがムウ・ラ・フラガの父であるアル・ダ・フラガのクローン
であることは知っていた。だが、更にそのクルーゼのクローンが存在していたことを知
って、キラは底知れぬ人の業の深さに戦慄した。
 「……だが、キラ・ヤマト、お前が俺を哀れむ必要は無い」
 レイは静かに言う。キラは、その抑揚の無い声に、魂を引きずり込まれるような空恐
ろしさを覚えた。
 「お前も、似たようなものなのだから」
 「……!」
 その宣告に、キラは息を呑んだ。
 「究極のコーディネイター、クローン人間……どちらも科学の力で可能だったから造
られた。同じなんだ、俺とお前が造られた経緯は。そして、そういう自然の摂理に反し
た存在は世界に波紋を広げる。かつてのジョージ・グレンのように。――ラウは苦しん
でいた」
 「ラウ・ル・クルーゼ……」
 「分かるだろう。だから、同じことが繰り返されないためにも、あってはならないんだ、
これからの世界に、お前も……俺も!」
 レイの捨て身の覚悟がキラの心を抉る。クルーゼのように絶望して、全てを道連れ
にしようとしているわけではない。しかし、未来を案じて共に滅びろと迫るレイの破滅
願望は、正にクルーゼの執念そのものだ。
 「でも――!」
 キラはミーティアのバランスを回復させると、更に旋回速度を上げて本格的にレジェ
ンドを振り落としに掛かった。レジェンドは粘りを見せたが、やがて強力な遠心力に引
っ張られてミーティアから吹き飛んでいった。
 「キラ・ヤマト!」
 「例え、君や僕が不自然な存在だったとしても、生きていてはいけないなんてことは
無いはずだ!」
 「詭弁を! 自分の存在を正当化しようとするな! 認めろ!」
 レジェンドが撃つビームが、ミーティアを追い立てる。キラは加速による荷重でシー
トに身体をめり込ませながら機首をレジェンドに向け、両端の高エネルギー収束火線
砲を連射した。
 「僕には、僕を必要としてくる人たちがいる! ――君だって! ……君がそう言うの
は、君が大切に思っている人たちの明日を案じているからじゃないのか!?」
 「そうだ! だから、俺たちは共に滅びるべきなんだ!」
 「違う!」
 レジェンドは高エネルギー収束火線砲のビームをかわしながら、迫るミーティアを迎
撃する。キラはミーティアをロールさせながらレジェンドに迫り、猛スピードで肉薄した。
 「その人たちと一緒に生きることは、不幸なことじゃない! その人たちにとって一番
幸せなことは、そこに君がいることなんだ! だから、君も生きようとしなくちゃいけな
い!」
 「くっ!?」
 そのすれ違いざま、フリーダム本体が持つビームライフルの一撃が、レジェンドのビ
ームライフルを撃ち抜いていた。咄嗟にレジェンドが投棄した次の瞬間、ビームライフ
ルはひしゃげるように爆散した。
 「どんな未来が想像できても、そんなものはいくらでも変えていける! 君の大切な
人たちは、必ず君を助けてくれる! 君さえその気になれば、必ず!」
 レイは顔を顰め、ミーティアの姿を追った。ギリッ――噛み締めた奥歯が軋んで、苛
立ちの音を立てる。
 「――ギルの居ない世界なんかで!」
 レジェンドはビームサーベルを抜いて、旋回するミーティアに突撃した。
 キラは迫るレジェンドに照準を合わせ、ビームライフルを撃った。ビームがレジェンド
の右膝を貫いて、もいだ。
 「避けない……!?」
 レジェンドは躓いたように前のめりにバランスを崩しながら、尚も強引に突っ込んで
くる。捨て身の特攻――キラにはそのように見える。
 「自分を捨てちゃ駄目だ!」
 レジェンドはビームサーベルを振り上げ、ミーティアに斬りかかった。しかし、ミーテ
ィアは四輪車が片輪走行をするように左側を持ち上げ、レジェンドの斬撃をかわした。
 レジェンドに隙ができる。キラは左のウェポンアームでレジェンドを殴りつけると同時
に右のウェポンアームからビームソードを伸ばして、それをギロチンのように振り下ろ
した。
 レジェンドが咄嗟に反応して、左手甲のビームシールドで受け止める。が、出力が違
う。ミーティアのパワーはレジェンドのガードをこじ開け、左肩を縦に切り落とし、左脚
も外脛から斜めに切断した。
 切り落とされたレジェンドの左腕と左脛が、割れたユニウスセブンの破片の一つに向
かって流れていく。いつしか、ユニウスセブンにかなり接近していた。
 右手に持っていたビームサーベルも、ウェポンアームに殴られた時に落としていた。
右腕以外の四肢を破壊されたレジェンドは、力尽きたように漂うだけになった。
 「これで……」
 もう抵抗はできない。キラは確信していた。
 だが、その時だ。ふとレジェンドの首が動いて、キラを見据えた。
 「何……?」
 その双眸が、笑うように瞬く。その瞬間、キラは腰から背筋を駆け上る悪寒を感じた。
 「ようやく捉えた」
 喜色を含んだレイの、確信めいた声。
 「――はっ!」
 キラは気付いた。レジェンドのドラグーンが、全て放出されている。
 「しまっ――!」
 俄かに警告音が鳴り響き、キラは慌てて後方に目を向けた。だが、一歩遅い。その
瞬間、無数のビームと二基のビームスパイクが四方八方からミーティアを貫いていた。
 
 ジュール艦隊の援護をアークエンジェルに任せたミネルバは、単独航行にてメサイ
アへと向かっていた。開戦当初は付近にラクス派の艦隊が展開していて、とても近寄
れたものではなかったが、今はもぬけの殻同然に静かに佇んでいる。
 「バリアも機能していないようです」
 解析担当のオペレーターの報告に、タリアは「了解」と頷き、肘掛けの受話器を取っ
た。発信先はルナマリアである。
 「メサイアの偵察に行ってもらえて?」
 「メサイア、ですか? 出払ってるように見えますけど……」
 「罠の可能性もあるわ。くれぐれも慎重にね」
 タリアが注意を促すと、ルナマリアは「了解」と答えてメサイアへ向かった。
 メサイアとユニウスセブンの距離は、既にかなり離れてしまっていた。それだけユニ
ウスセブンが地球に近付いているということだ。
 タリアは時計に目をやって、シミュレーター上の阻止限界点到達時刻に迫っている
ことを確認した。
 (このままでは、ユニウスの落下は阻止できない……)
 だが、焦りを感じ始めたその時、オペレーターの一人がユニウスセブンに変化が現
れたと声を上げた。
 「本当なの!?」
 タリアは反射的にサブスクリーンに目を移した。
 「おお……遂にやったか!」
 アーサーが興奮を抑えきれない様子で立ち上がった。ユニウスセブンは、ゆっくりと
ではあるが確実に二つに割れていた。
 「この調子でどんどん細かく砕いていけば、地球は助かるぞ!」
 「時間に間に合えばね……」
 楽観するアーサーに対し、タリアは懸念を隠さない。問題は、阻止限界点までにユニ
ウスセブンを粉砕できるかどうかだ。
 ユニウスセブンは二つに割れたものの、スケジュールは大幅に遅れている。色々と
イレギュラーが重なって、破砕作業に取り掛かるまでに無駄な時間を費やしてしまっ
ていたからだ。故に、現状ではユニウスセブンの完全な落下阻止は絶望的な状況で
あった。
 「このままでは、被害が分散されるだけ……何とかしないと……!」
 タリアは、この状況からどのようにして挽回すべきかを思案した。メサイアにやって来
たのは、その可能性を探るためでもある。
 「ルナマリア機、戻ります」
 メイリンが報告する。タリアはすぐにルナマリアとの通信回線を開き、偵察の結果報
告を受けた。
 それは、正に朗報だった。メサイアは、やはり放棄された後だということが判明したの
だ。これぞ神の思し召しか。タリアは、少しだけ希望が見えてきたような気がした。
 「なら、こちらでジェネシスを使えるというわけね!?」
 タリアは、すぐさまネオ・ジェネシスでユニウスセブンの半分を地球の重力圏から押
し出せるかどうかの計算をするように命じた。
 そして数分後、それは可能だという結論が出た。
 「決まりね! 半分だけなら、何とかなるかもしれない!」
 間髪いれず、ゴンドワナの司令部へと回線を繋げる。そして、ネオ・ジェネシスでユニ
ウスセブンの半分を押し出す作戦を具申し、前線の破砕工作部隊にはもう半分の岩
を砕くことに専念するように伝えて欲しいと要請した。
 その一方で、ザフト本隊と連合軍との小競り合いにも好転の兆しが見えていた。
 ユニウスセブンは、まだ大雑把に半分に割れただけであったが、外見的にそれが分
かったことで連合軍が態度を軟化させる気配を見せ始めたのである。
 これを好機と踏んだゴンドワナの総司令部は、タリアの作戦を了承し、メサイアに上
陸部隊を送り込むと同時に、連合軍に停戦を呼び掛ける段取りを進めた。
 停戦は、即時成立した。開戦当初、ザフトは連合側にメテオブレイカーによるユニウ
スセブンの破砕作戦の概要を伝えていて、今、その通りのことが起こったからだ。付
け加え、サトーが全戦力をユニウスセブンの防衛に回したため、ザフトに潜入してい
たかく乱分子が一掃されていたことも好材料となった。それで、連合軍はザフトの言葉
をようやく信用したのである。
 交戦状態が解除されたことで、ユニウスセブンの落下阻止作戦が本格的に始まった。
メサイアに上陸したザフトは素早くコントロールルームを制圧し、メサイアの方向転換
とネオ・ジェネシスの発射準備に取り掛かった。一方の連合艦隊もユニウスセブン方
面へと進路を取り、破砕作業の支援へと動き出した。
 ミーアは、その様子をブリッジの後方から眺めて、全ては好転していくのだろうと感
じていた。
 正面の大スクリーンには、神妙な面持ちをしたラクスが映ったままになっている。
 「……どうされましたか?」
 ブリッジの状況を眺めてミーアが暫く黙ったままでいると、ラクスが様子を窺うように
呼び掛けてきた。
 ミーアは活気に沸くブリッジの空気を感じながら、ラクスに目を向ける。
 「……ここまでです」
 ミーアはふわりと無重力に身を躍らせて、示威的に両手を開いた。スカートの裾と髪
が広がり、ミーアを大きく見せる。
 「もう終わりにいたしましょう。あなたの思いは、十分に理解いたしました」
 「どういう意味でしょうか?」
 問い返すラクスの表情には、どこか覚悟めいた雰囲気を感じる。ミーアはその表情
に胸を痛め、少しの間、震えて声を出すことが出来なかった。
 それは、思い込みだったのかもしれない。しかし、スクリーン越しに自分を見つめる
ラクスの強い眼差しが、話を続けるように強く促しているように感じられた。
 会話を重ねていく過程で、ミーアはラクスの思いを汲んでいた。ミーアはその覚悟の
重さを察し、その望みに応えなければならないと感じていた。
 (ラクス様……)
 躊躇いを見せてはならない。ラクスの覚悟を無駄にしてはならない。
 ミーアは意を決し、口を開いた。
 「ユニウスは崩壊を始め、最早、地球へ落ちるようなことは無いでしょう。あなた方の
負けです」
 「そう考えるのは早計ではないでしょうか? ユニウスは割れたとはいえ、まだ十分
な質量を持っています。いずれにしろ、このままでも地球に大ダメージを与えることは
できます」
 ラクスは減らず口を叩くように反論する。だが、その時ラクスの反論を否定するように
ネオ・ジェネシスが発射されて、その直撃を受けたユニウスセブンの片割れが徐に地
球から離れ始めた。
 作戦の成功に沸き立つミネルバのブリッジとは対照的に、エターナルのブリッジは静
まり返っていた。だが、対峙する二人の表情に変化は無い。ミーアは歓喜せず、ラク
スは悲嘆せず、互いに神妙な面持ちで見詰め合うだけ。
 「……もう一度、申し上げます。これで終わりです……」
 ミーアは、止めを刺すように言った。
 「……」
 ラクスは答えなかった。残されたもう半分のユニウスセブンも、順調に破砕作業が
進んでいる。
 ラクス派の作戦は、明らかに失敗へと向かっていた。そのことでラクス派の、特にメ
サイア強奪以降に合流したザフトの離反兵を中心とした部隊が、独自の判断で撤退
行動を見せ始めた。所詮は即席の烏合の衆。結束は脆弱であった。
 エターナルも例外ではない。次々とユニウスセブンからの離脱を始めた友軍の動き
に触発されるように、動揺するクルーはエターナルもユニウスセブンから離脱させよう
とした。
 「何をしているのです!」
 その時、轟いたラクスの怒号。意外な姿に、エターナルのブリッジが凍りつく。
 「な、何をとおっしゃられても……」
 艦長が立ち上がり、恐縮気味にラクスに言った。
 「今ユニウスを離脱しなければ、当艦も巻き込まれます!」
 「その覚悟で、わたくしに付いて来たのではないのですか!」
 ラクスがキッと睨みつけると、艦長は怯えたようにビクッと身動ぎをした。
 「地球は、もうすぐそこに迫っているのです! エターナルはこの場に固定! ユニ
ウスの落下が確認できるまで、守り通すのです!」
 「冗談じゃない!」
 言葉を失う艦長に代わるように、オペレーターの一人が立ち上がった。
 「どう見ても作戦は失敗だ! 我々は自殺をするために来たんじゃない!」
 「さっきから聞いてりゃ、あんた、本当にラクス・クラインなのか!?」
 別のオペレーターも立ち上がり、ラクスに迫る。それに続いて全員が立ち上がって、
ラクスを見上げた。
 見上げる表情には、不信感が浮かんでいる。ラクスは、その様子を値踏みでもする
かのようにゆっくりと見渡し、クスッと笑った。
 「……顔と声が同じというだけで、随分と付き合って下さいましたのね?」
 瞬間、ブリッジが騒然となった。その一言は、自らが偽者であると認めるもの。
 ミーアは、咄嗟に「ラクス様!」と呼びそうになったのを堪えた。ここで、全てを水泡
に帰すような真似はしてはならない。これが、ラクスの望みなのだから。
 不信が憤りへと変わろうとしている。ラクスを見る士官たちの目に、かどわかされた
ことに対する憎しみが宿りつつあった。
 「貴様っ!」
 士官の一人が、ラクスに銃を向けた。
 「最初から俺たちを騙していたのか!」
 ラクスは動じることなくその士官を見やる。
 「わたくしの両親はナチュラルに殺されたのです。プラントがわたくしたちを無視する
と言うのなら、わたくしは自ら動き、その恨みをぶつけさせてもらいます」
 「何が恨みよ!」
 女性士官が金切り声を上げた。ラクスは、その声のした方に目を移した。
 「ユニウスが砕けたら、何にもならないじゃない!」
 「まだ破片が残っています。これが降り注げば、まだ地球に――ナチュラルにダメー
ジを与えられる。少しでも、ほんの僅かでもナチュラルに復讐しなければ……」
 「そ、そんな中途半端な復讐のために命を懸けるというの!? ……狂ってる! あ
なた、狂ってるわ!」
 ラクスが口を歪めて薄笑いを浮かべると、女性士官は「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
 「紛い物と心中なんて御免だ!」
 銃を構えていた男性士官が、ぐっと銃を突き出した。ラクスは顎を上げ、見下すよう
に横目でその男性士官を見やった。
 「なら、お逃げなさい。でないと、このやり取りを聞いていた誰かさんが、じきにわたく
しを殺しにやって来るでしょう」
 「何……!?」
 「御覧なさい!」
 ラクスが見るように促したスクリーンには、三体のドム・トルーパーが高速で接近して
くる様子が映されていた。そして、その三体のドム・トルーパーはエターナルに肉薄す
ると、ブリッジに接触してきた。
 その接触でブリッジが激震して、不意に無重力に投げ出された士官たちが壁や天井、
スクリーンやコンソールパネルにぶつかってバウンドを繰り返した。その衝撃で全周波
通信は途切れ、ミネルバとの回線も切れた。いくつもの悲鳴が上がり、士官たちは我
先にと出口に殺到した。
 (ドムが三体は、ヒルダ・ハーケンか……)
 クルーたちは脱兎のごとく逃げ出し、脱出艇を目指した。シートにしがみ付いていた
ラクスは振動が収まると、ブリッジ内に人気がなくなったことを確認してからオペレー
ター席へと向かった。
 通信スイッチをオンにして、インカムを装着する。スクリーンが表示されると、そこに
は予想通りヒルダの顔があった。
 「ラクス様、お助けに上がりました!」
 意気込むヒルダに、「わたくしは大丈夫です」とラクスは返す。
 「それよりも、ヒルダさんたちはユニウスの破砕作業の支援を続けてください。サトー
がまだいるはずです」
 「し、しかし……」
 「今のこの流れを止めたくありません。サトーには、絶対に邪魔させないでください」
 「ラクス様……」
 ――ヒルダは、ラクスの思惑を解していた。
 自らヒールを演じ、本来は偽者であるはずのミーアを本物のラクスとして仕立て上げ
る――それがラクスの描いたシナリオだ。
 そのために、人質に取られる以前から今日のような事態を想定し、キラに電波ジャッ
クされた画面の表示や音声に細工を施せるプログラムをハロに組み込んでもらったり
していた。ラクスはサトーの口車に乗った振りをして、そのハロのプログラムでミーア
の口の動きと声を操り、一人二役を演じて自らが負けるように仕向けようとしていた。
 だが、ラクスの予想に反してミーアは存外に健闘した。
 それでラクスは思った。ミーアなら、十分に自分の代わりが務まるだろうと。だから、
あえてハロのプログラムを使わなかった。
 ヒルダは、その全てを把握しているわけではない。だが、その本懐については察して
いた。そういう意味では、ヒルダは実に深くラクスのことを理解している女性であった。
 一方で、ラクスはそんなヒルダの甲斐甲斐しさに引け目を感じていた。ヒルダの秘め
られた自分への思い――察していながら、気付かない振りをしてきた。
 「わたくしも今すぐ脱出の準備を始めます。このままユニウスの破片が地球に降り
注ぐようなことがあれば、元も子もありません。ナチュラルとコーディネイターの未来
に、これ以上の禍根は残してはならないのです」
 ラクスが促すと、ヒルダは左右を見やった。ヘルベルトとマーズとアイコンタクトを取
ったようだ。
 ヒルダは、ヘルベルトとマーズに何かを確認すると、意を決したように一つ頷いた。
 「今すぐ、脱出なさるのですね?」
 「はい」
 きっぱりと言い切るラクス。画面を通して、二人の視線が交わる。
 「……承知いたしました」
 ヒルダは、少し間を置いてから了承した。
 「限界高度ギリギリまで破砕作業の支援を続ける! ヘルベルト、マーズ、続け!」
 「了解!」
 三体のドム・トルーパーはエターナルに向けて単眼を瞬かせ、敬礼を決めると名残
惜しむように離れていった。
 その少し後に、エターナルから数隻の脱出艇が飛び出していった。逃走を図るクル
ーたちを乗せた小型艇だ。
 「……行きましたか」
 スクリーンでそれを確認し、ラクスは呟く。――エターナルの脱出艇は、それが全て
だった。
 艦橋にはラクスが一人、取り残された。エターナルは、ユニウスセブンの破片と共に、
既に地球の重力に引かれていた。
 
 ストライク・フリーダムは爆煙を抜け出した。
 ミーティアは粉々に爆沈し、跡形も残らなかった。その爆発の衝撃で吹き飛ばされた
レジェンドは、ユニウスセブンの破片に横たわるように引っ掛かっていた。
 その双眸が、また笑うように瞬いた。予感がした。キラは眉を顰め、そして次の瞬間、
気配を察して咄嗟に右を向いた。
 「……っ! 君は……!」
 「キラ・ヤマト、お前を倒すのは俺じゃない――」
 キラはレイの声を耳にしながら、その姿を凝視していた。
 「お前に引導を渡せる男……それは、アイツだ!」
 デスティニーがフリーダムを――キラを見ていた。
 「そうか……やっぱり来たんだね」
 フリーダムはデスティニーに向き直り、正対した。対峙する自由と運命。ユニウスセ
ブンの破片は無数に広がり、地球は肉眼でその地形がはっきりと識別できるほどに迫
っていた。そこは最早、地球の重力圏内であった。
 デスティニーとフリーダムの視線がぶつかった。シンとキラの視線がぶつかった。
 「時間が無いけど、一応、先に聞いておく」
 「うん」
 シンが聞く。キラが応じる。
 「アンタ、一体何のためにこんなことするんだ?」
 「ラクスのためだよ」
 「そうか……」
 デスティニーのスラスターユニットが開いて、紅く燃える翼を広げた。フリーダムもド
ラグーンを展開し、蒼く輝く羽を開いた。――臨戦態勢。
 「キラ・ヤマト……今さらアンタを恨みはしない。ラクスの考えてることも、何となく分
かってる。けど……」
 「シン・アスカ……分かってる。君とは色々あった。でも、理屈じゃない」
 数泊の間ができる。微動だにしない両者は、静止画のよう。しかし、確実に地球の重
力に引かれて落下を続けている。
 「これはケジメだ。君と僕の、戦いの」
 「どんな結果になっても、恨みっこ無しだ」
 デスティニーがユラリと前傾した。ビームライフルを構えるフリーダムの指がビクッと
動いた。
 「行くぞ!」
 デスティニーが加速した。微かに発光し、キラに残像を見せる。しかし、キラの射撃
は、確実にデスティニーの本体を捉える。
 シンは小さく操縦桿を動かし、最小限の動きでフリーダムのビームを回避した。ビー
ムが装甲を擦って、火花を散らす。が、減速はしない。
 迎撃を切り抜け、ビームライフルで迫撃しながら後退するフリーダムに肉薄する。右
手に抜いたビームサーベルを振り回し、避けるフリーダムを追い立てる。
 フリーダムは、多彩に繰り出される斬撃をかわしながらビームライフルで反撃。だが、
デスティニーはそれを紙一重でかわし、激しく追い込んでくる。背後には、ユニウスセ
ブンの破片が迫っている。
 キラの目が、チラとそれを一瞥する。そして、大振りの一撃をかわした瞬間、フリー
ダムはその破片を足場にして跳躍し、急激なターンを掛けた。
 その鋭いターンに、デスティニーの反応が一瞬だけ遅れた。顔からユニウスセブン
の破片に突っ込み、慌てて逆噴射を掛ける。寸でのところで激突は免れたが、フリー
ダムは既にユニウスセブンの破片の影に回りこんでしまったのか、姿が見えない。
 慌ててフリーダムを探す。刹那、けたたましい警告音がシンの耳を打った。危険察
知。デスティニーは急加速してその場を緊急離脱し、回避運動を行った。
 無数のビームが、どこからともなくデスティニーを追い立てる。デスティニーは、そ
の辺に漂っているユニウスセブンの破片を隠れ蓑に、ビーム攻撃を凌いだ。だが、ビ
ームはどこまでもデスティニーを追いかけてくる。
 ビームはドラグーンによるオールレンジ攻撃だ。シンは、ドラグーンのテールノズル
が放つ光を追った。岩陰からチラチラと見え隠れするその光を追い、砲撃を掻い潜り
つつチャンスを窺う。
 ドラグーンは、時間差でデスティニーの上下左右から攻撃を掛けてくる。しかし、デス
ティニーも素早い身のこなしで掠らせもしない。
 根気勝負。息詰まる攻防。攻めるキラが有利。だが、先に機を見つけたのはシン。
 その紅い翼の動きに誘われるように、ドラグーンが群れるイワシのように纏まって集
中砲火を浴びせてくる。凄まじい火力に、デスティニーが隠れているユニウスセブン
の破片が瞬く間に砕かれていく。
 その、一瞬の間隙を縫う。砲撃の隙間を見つけてデスティニーは岩陰から飛び出す
と、フラッシュエッジを投擲し、そこにビームライフルでビームを何発も撃ち込んだ。
 高速で回転するフラッシュエッジにビームが当たり、拡散する。拡散する刃になった
ビームは群れるドラグーンに襲い掛かり、その八基の内の五基を落とした。そして、辛
くも逃れた三基の内の二基も、咄嗟のことでコントロールミスを犯し、ユニウスセブン
の破片に激突して動かなくなった。だが、残った一枚は最後のエネルギーを振り絞り、
道連れにするようにデスティニーのビームライフルを破壊して力尽きた。
 デスティニーはもう一本のフラッシュエッジを抜き、周囲に目を配った。左後方、斜め
上からの警告音に反応し、咄嗟に反転する。飛来する複数のビームをビームサーベ
ルで切り払いながら、迫撃するフリーダムの蒼く輝く羽を見据える。
 ビーム攻撃を凌ぎながら、デスティニーは再び岩陰に身を隠した。キラはそれを見
ると、二丁のビームライフルを連結させてデスティニーの隠れた岩を砲撃した。威力
が増した強力な一撃が岩を貫通し、砕く。が、手応えは無い。デスティニーの紅い翼
が駆け抜けていくのを、キラは視界の片隅に見た。
 増え続けるユニウスセブンの破片で、視界もレーダーも不良。並外れた機動力を持
つデスティニーの動きを、正確には追尾できない。
 デスティニーは紅く輝く翼と残像で幻惑するようにフリーダムに迫ってくる。キラは勘
と経験則に基づいてその動きを先読みし、狙撃した。が、それが裏目に出た。デスティ
ニーは、その逆を突いてきたのだ。左斜め下方向にロングライフルを撃った次の瞬間、
デスティニーはフリーダムの右側面から急襲して来た。
 反射的に反応して回避運動をするも、ロングライフルの前部分を斬られた。キラは
咄嗟に連結を解除して、前部分のビームライフルを遺棄。残ったビームライフルでデ
スティニーに反撃したが、ビームシールドに邪魔をされてダメージが通らない。逆にデ
スティニーの頭部バルカンが火を噴き、キラはそれを嫌がって防御姿勢をとった。
 その途端、デスティニーが左腕を伸ばした。ふと、キラの脳裏にオーブでの交戦の
記憶が過ぎる――素早くビームライフルから手を放し、間合いを開いた。
 デスティニーの手の平が、手放したビームライフルを掴むように添えられる。と、次
の瞬間、パルマフィオキーナが炸裂してそれを消し飛ばした。
 尚も前に出るデスティニーの勢いは止まらない。突撃の勢いそのままに旋回し、ビ
ームサーベルを振りかざして躍り掛かってくる。
 フリーダムも腰からビームサーベルを抜き、対抗した。ビーム刃が交錯し、干渉波の
光が放電のように広がる。
 互いのパワーを競うように、鍔迫り合いをする。デスティニーが少し優勢気味に押す
と、フリーダムがそれを嫌忌して予備のビームサーベルを空いている手に掴み、逆手
に握った状態で振り上げた。
 ビーム刃の軌跡が、デスティニーを逆袈裟に切り裂く。が、それは残像。キラは、そ
れも織り込み済みだった。
 飛び退いたデスティニーを、間髪いれずにフリーダムは追う。フリーダムは二本のビ
ームサーベルを、舞いでも踊っているかのように振り回し、デスティニーを追い立てる。
 何度目かの攻守逆転。逃げるデスティニーと追い詰めるフリーダム。だが、シンも防
戦一方ではない。徐々にフリーダムの攻撃の回転速度に呼吸を合わせていき、一瞬
の反撃のチャンスを狙う。
 フリーダムが右腕を振り上げる。瞬間、シンはカッと目を見開いた。
 その手に持つビームサーベルの柄尻を弾くようにデスティニーが左腕を振り上げる。
左前腕の実体盾が、目論見どおりフリーダムの右拳の下を叩く。その衝撃でフリーダ
ムのマニピュレーターのホールドが緩み、ビームサーベルが零れた。
 フリーダムの右脇ががら空きになる。シンはその無防備な部分に向けて、ビームサ
ーベルを振るった。
 しかし、流石のフリーダム。身体を折り曲げて紙一重でかわすと、右腕を伸ばしてデ
スティニーのシールドを掴んだ。そして、引き千切るようにジョイントを破壊し、投げ捨
てた。
 よろめくデスティニー。フリーダムのクスィフィアスが前を向く。刹那、デスティニーの
双眸が鋭く瞬き、急加速した。体当たり。二体は激しく衝突し、その衝撃で間合いが開
いた。
 ほぼ同時にバランスを回復する。フリーダムがビームサーベルを右手に持ち替えた。
一呼吸置くように互いに一定距離を保ちつつを旋回し、そして息を合わせたかのように
再び正面からぶつかった。
 機先を制したのはデスティニーのビームサーベル。しかし、後の先を制するようにフ
リーダムの左マニピュレーターがデスティニーの腕を掴み、イニシアチブを握る。だが、
デスティニーもフリーダムの右腕を蹴り上げて、ビームサーベルを弾き飛ばした。
 フリーダムは咄嗟にデスティニーの右腕を放し、その腹に前蹴りを突き込んだ。そし
て、その反動を利用して後退しつつ、腰のクスィフィアスレールガンを連射した。
 超電磁砲が連続でデスティニーに叩き込まれる。フェイズシフト装甲が直接的なダ
メージをカットしているものの、衝撃まで打ち消せるわけではない。デスティニーはサ
ンドバッグのように一方的に嬲られ、コックピットのシンも同様にベルトを身体に食い
込ませた。
 クスィフィアスの弾が切れて、ようやくサンドバッグ状態から抜ける。デスティニーは
我を取り戻すように双眸を一度瞬かせると、いつの間にか手放していたフラッシュエッ
ジの柄を探した。
 だが、フリーダムもそれを待ってやるほど甘くない。高速で迫り、デスティニーを蹴り
飛ばした。
 デスティニーは吹っ飛び、ユニウスセブンの破片に激突して、その表面を滑るように
転がって陰に消えていった。
 追撃を掛けるフリーダム。デスティニーが消えていった岩陰へと飛び込む。
 だが、そこにデスティニーの姿は無い。
 キラは一寸惑った。そこへ、急な激しい衝撃。いつの間にか背後に回りこんでいたデ
スティニーが、お返しと言わんばかりにフリーダムの背中に飛び蹴りをかました。
 フリーダムが、前のめりになってバランスを崩す。そのチャンスを、シンは逃さない。
 すかさず高エネルギー長射程ビーム砲を構える。操縦桿を握る手が滞りなく流れる
ように動き、照準を合わせる。躊躇は無い。シンはトリガースイッチに添えた指を一気
に押し込んだ。
 大口径のビームが、一直線にフリーダムへと伸びる。だが、フリーダムはそれを見
ていたかのように少し右に避けた。完全な回避ではない。されど致命傷には至らない。
シンの放った必殺の一撃は、フリーダムの左翼と左腕を消し飛ばすに留まった。
 損傷した部分からスパークを迸らせ、よろめくフリーダム。そのダメージは、決して安
いものではない。しかし、キラの目はまだ死んでいない。
 止めを狙って、高エネルギー長射程ビーム砲の二射目を構えるデスティニー。その
トリガーに添えた指を引こうとした、その刹那、それよりも早くフリーダムが反転し、腹
部のカリドゥスが火を噴いた。
 勝利を確信していたシンは、それを咄嗟に避けることができなかった。致命傷こそ避
けられたものの、デスティニーも右腕と右翼を失った。

 二人の決闘は、そこで幕引きとなる。互いに腕一本と片翼ずつを奪い合った両者は、
そのまま無数のユニウスセブンの破片と共に流され、別れていった。
 
 もう、地球は眼前に迫っていた。砕けたユニウスセブンの破片は、少しずつ燃え始め
る気配を見せていた。