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SEED DESTINY “M”_第7話

Last-modified: 2009-02-26 (木) 16:11:04

「ふー」
 着艦デッキに降り立ち、ハンガー形のクレーンでガイアが格納庫へと運ばれていく。
 マユはスーツのヘルメットを脱ぎ、息をついた。
「お疲れ、マユ」
「あっ」
 少し離れた位置からマユに向かって、褐色肌に金髪を男性と見紛いそうなベリーショートにした女性が、ハスキーな声をかけつつ、チューブタイプのスポーツ飲料を投げてよこした。
「ありがとう、ゲイルお姉ちゃん」
 苦笑気味の笑顔を向けて、それを受け取る。
 連れ立って歩き、格納庫のキャットウォークに出る。並ぶ搭載機の中でも、ひときわ目立つ紅いゲイツDが見えた。
「ルナお姉ちゃんすごいなー、1人で3機撃墜だって」
 マユは紅いゲイツDを見ながら、呟くように、感心した声を出した。
「こらこら、あたしのアシストはなかったことかい」
 口調も少年の様なゲイルが、苦笑気味に唇を尖らせ、後ろからツッ込む。
「あ、ごめん」
 再び苦笑して、マユはゲイルを振り返る。
「それに、マユが最初に相手したって言うあの新型だか不明機は、結局逃げたしね」
「あれは……」
 マユは、背中にガンバレルを背負った“不明機”の姿を思い返す。
「対艦装備で来たみたいだったけど、それでルナは攻めきれなかったしね」
「うん、あのパイロットはすごい」
 ゲイルが言い、マユも頷いた。2人とも、表情が引き締まる。
「…………」
 僅かな沈黙の後、マユが何か言いかけたが、
『マユ、マユ・アスカ、第1医務室へ向かってください』
 と、艦内放送が、それを遮った。
「あ……ごめん、ちょっと行ってくるね」
「うん、また後でね」

 
 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY “M”
 PHASE-07

 
 
 

「失礼します……」
 リニアサーボ動作の自動ドアが開き、マユは医務室の中に入る。
 その途端、奥から聞こえてきたのは、ただ事とは思えない絶叫だった。
「うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「な、なに!?」
 常人が出しているとは思えない声を聞き、マユは慌てて、傷病者用ベッドの方に走る。
「いやぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
 そこには、手足を激しくばたつかせ身をよじり、ベッドの上で暴れるステラがいた。
 精神錯乱者の自傷行為を抑止する為のゴム製拘束具で、ベッドに縛り付けられているが、ベッドを破壊してしまいそうな勢いで暴れ続けている。手首や足首の拘束部分には、内出血で黒ずんでいた。
「あっ、アスカ君!?」
 マユに気付いた軍医長が、マユの方を向く。
「どうなってるんですか、軍医長!?」
「わからん! 突然暴れだしたんだ!」
 マユは問いただすが、軍医長の答えは要領を得ないものだった。
「スデラじにたぐなぃい゙い゙い゙、じぬのいやぁあ゙あ゙あ゙!!」
「ステラさん! 大丈夫だよ! マユがここにいるよ!!」
 マユが枕元に顔を寄せ、呼びかけるが、ステラには聞こえている様子すらない。
「軍医長、早く鎮静剤を!」
「打ったよ、でも効かないんだ!」
「えぇ!?」
 マユと軍医長が困惑のやり取りをしていている間にも、ステラは暴れ続ける。
 このまま暴れ続ければ、ベッドや拘束具より先に、ステラの身体が壊れてしまうだろう。
「仕方ないかっ」
「な、何を?」
 マユは懐から、平たい樹脂製のケースを取り出した。それをあけると、中に注射器と一体になった、アンプルが数本、並んでいる。
 ガラスキャップを外し、針を露出させると、マユはそれをステラの首元に注射した。
「ひぃっ!?」
 注射の痛みに、ステラは一瞬甲高い悲鳴を上げる。
「はぁっ!」
 やるせないため息を混ぜて、マユは息を吐き出した。
「あ、ぅ……あ……ぁぁ……」
 ステラは、暴れるのを止め、身体をベッドに横たえる。
「ぅ……ステラ……マユ……?」
 まだろれつは回っていないようだが、ステラはマユを見て、その名前を呼んだ。
「うん、ここにいるよ」
 マユは優しげに微笑んで、そう言った。
「マユ……おかあさん……」
 呟くように言いながら、ステラは瞼を下ろした。軽い寝息を立て始める。
 マユは姿勢はそのままで、眠りについたステラを見ながら、表情を曇らせる。

 

 軍医長は呆気にとられていたが、我に返ると、マユの足元に転がっていたアンプルの、キャップを拾い上げる。
 貼られていたラベルを覗き込んで、驚愕の色を見せた。
「こんな強い薬……どうして持ち歩いているんだ!」
 ギリギリ合法と言うその薬品名を見て、軍医長は即座に立ち上がり、そしてマユに問いただす。
「それは」
 マユは苦笑気味に言い、軍医長の方を向くと、
「こういうことなんです」
 と、そう言って、軍服のボタンを外し、上着を脱いで、空いているベッドに無造作にかけた。ブラスリップに包まれた上半身が露わになる。
 そして、軍服・ノーマルスーツ・私服と衣装を問わず常に身に着けている、右手の白い長手袋を、左手でするりと外した。
「!」
 軍医長はそれを見て目を見開き、絶句する。
 マユの右腕は、上膊部の中ほどから先が、金属フレームの可動式義手だった。その動きの滑らかさは、むしろ故に不気味に見える。
下腕部には一部オープンになっている部分があり、そこには───────────────────。

 

「高度な神経接続……それでか」
「はい」
 軍医長が合点が行った、というように言うと、マユは答えながら、長手袋をはめなおした。
「もっとも、私の身体は慣れてきちゃってるんですけどね、この腕にも、薬の方にも」
 上着を着て、ボタンを留めながら、マユは苦笑してそう言った。
 シューン……
 ちょうどマユがボタンを留め終わったところで、医務室の廊下側の扉が開く音が聞こえた。
「失礼するよ」
「議長!」
 軍医長が素っ頓狂な声を上げる。デュランダルが随員も伴わず、1人でやってきた。
 マユも慌てて、直立不動の体勢で敬礼する。
「硬くならなくても良い」
 デュランダルは、優しげな口調でマユを制してから、視線をステラの眠るベッドに向けた。
「ナチュラルの民間人が1人収容されていると聞いていたのだが……どうやら、ただ事ではないようだね……」
 険しい表情になり、視線を今度は軍医長に移す。
「は……普通の人間ではないようです。どうやら、神経を弄られているようですね」
 軍医長は、苦しそうに言った。
「う」
 ある程度予想していたマユだが、その言葉を聞いて、呻くように声を漏らす。
「ブーステッドマンかね?」
 デュランダルが、軍医長に問いかける。
「いえ、薬物依存といった中毒症状はないようですが……情緒が半ば破壊されているという点では、大同小異です」
 軍医長は、デュランダルにそう説明した。
「…………」
 マユはステラを振り返り、哀しそうな表情で見る。
「先程も重度の錯乱状態に陥り、暴れ始めたというわけでして。アスカ君のおかげでなんとか助かりましたが」
「あっ、いえっ」
 軍医長がマユの名前を出したところで、マユは慌てて正面を向きなおす。
「私は、別に……」
 気まずそうに、視線を伏せしてまう。
「そうか……本来なら後送すべきなのだろうが……どうも取り扱いの難しい問題になりそうだね」
 デュランダルも険しい表情で言い、視線をステラに向けた。

 

 その報せが入ったとき、ミネルバは衛星軌道ベースステーションにいた。
 “月のL3点”に位置するこのベースステーションは、ヤキン・ドゥーエ戦役で月での拠点を失ったZAFTが、月軌道艦隊の拠点として新たに設置したものだ。もちろん、その大きさは軍艦数隻を入港整備できるという、コズミック・イラの世では“人工衛星に毛が生えた”程度のものでしかない。
 ミネルバは本格的な航海に向けて、自身とMSの、予備パーツや装甲モジュール、それに銃弾や推進剤や粒子ビーム用の薬剤といった消耗品を補充している。
「えーっ、ゲイツDの予備機ないのー?」
 ミネルバの格納庫で、ミレッタが不満そうに言う。
「ちょうど出払っちゃってるって……」
 手にリストの差し込まれたクリップボードを持ったヴィーノが、苦笑しながら答えた。その隣でマユも苦笑している。
「マユちゃん、FAITHでしょ、1機ぐらい何とか都合させてよ」
「いくらなんでも無理だよ。私のFAITHなんて都合でつけてるようなものだし……だいいち、実機があるんならともかく、アーモリーかマイウスからの取り寄せ待ちなんだから」
 駄々を捏ねるように言うミレッタに、マユはまるで年下を嗜めるように言った。
 そんなやり取りをしていると、
 フィーッ、フィーッ、フィーッ……
 警報が鳴り、警告灯が点滅を始めた。
 3人は驚いて、辺りを見回す。
『コンディションレッド発令。ミネルバ、発進待機シークェンスに移れ。コンディションレッド発令、ミネルバ、発進待機シークェンスに移れ』
「一体、何があったの?」
 3人がおろおろとし、マユが声に出す。
「何をしている。マユ、ミレッタ、急いでブリーフィングルームに来るんだ」
 積載用デッキの方から走ってきたレイが、2人に強い口調で言う。
「あ、う、うん」
 マユが答え、ミレッタと共にレイを追いかける。
「何があったってのよ、一体」
 ミレッタが、後ろからレイに問いただす。
「ユニウス7が動いているんだ」
「ええ!?」
 ミレッタが素っ頓狂な声を出す。マユも驚愕に目を見開いた。
「ユニウス7て、100年単位の安定した公転軌道に入ってるんじゃなかった?」
 マユが聞き返すように言うと、レイは、彼にしては珍しく、声を上げた。
「それが動いてるから問題なんだ!」

 

 ミネルバの、司令部公室として使うために用意されている会議室。
「予測される進路はこの通り。遅くても7日目に地球への突入軌道に入ります」
 大型ディスプレィに、地球周辺の太陽系軌道図が表示され、動き出したユニウス7の予想進路がその上に描かれている。
「ただし、これも楽観的な予測でしかありません。ユニウス7の軌道と速度はなお変わり続けているというのが現在の状況、との事です」
 アーサーがそう説明した。
「どう転んでも面白い結果にはなりそうにないな」
 デュランダルは目を細めてそう言った。
「既に、月軌道艦隊からジュール隊を中心とする破砕部隊が出撃していますが……」
 アーサーは言いよどんだ。ユニウス7は血のバレンタインで核ミサイルにより死滅したプラントのコロニーだ。当然内部にはなお犠牲者の遺体が眠っている。それを破壊するというのは、若干の抵抗があった。
「迷っている場合ではないわ!」
 タリアが声を上げる。
「ミネルバは全速で急行、破砕作業の支援に移ります」
「はっ」
 一度そうと決まればアーサーにも異論は無い。短く返事をし、敬礼した。
「申し訳ない、姫」
 一方で、デュランダルは、その場にいた2人のゲストの方を向き、そう声をかけた。
「本来ならばここで下船いただくべきだったのでしょうが、何分事態が事態です。我々も現状では姫を安全に地上へ送り届けることが出来ない」
 今、シャトルで地上へ向かったとしても、それはユニウス7が大気圏に突入せんとしているところへ着陸することになる。安全なわけが無い。
「いや、これは我々にとっても非常事態だ。むしろ同道を願い出たい」
 カガリも険しい表情で、そう答える。
「今しばらく不自由な思いをさせてしまうかと思いますが、ご辛抱ください」
 デュランダルは謝罪するように言った。
 そう言ったカガリのさらに隣で、アスランは俯き、複雑な表情で、軽く歯を噛み締めていた。
 デュランダルはそんなアスランの姿を見て、目を細めた。

 

「砕く、か……」
 はぁ、とため息をつくように、ルナマリアが言った。
 士官・パイロット用食堂。ガラス越しに地球が見える。
「でも、あそこにはまだ死んだ人がたくさん眠ってるんでしょう……?」
 メイリンが後ろめたそうな、切なげな表情で言う。
「でも、そのまま地球に衝突するようなことになったら、どっちにしろパーなんだし。それだったら、生きてる人間のこと考えるってのは、まともだと思うけどね」
 ミレッタが言った。
 傍らにマユがいて、こくこくと頷く。
「そりゃ2人とも、元オーブだから言うのもしょうがないけどさ」
 ヴィーノが言う。緊急発進といっても戦闘ではなく、移動中は即時待機を解かれていた。
「ちょっと、そーいう問題じゃないでしょぉ?」
 ミレッタは、むすっとして言い返す。
「だいたいボクはオーブに未練ないし、仲良かった従姉のマユラだって……」
「へ?」
 愚痴交じりに言いかけたミレッタの言葉に、マユが反応して、軽く驚いたようにミレッタを見る。
「え、あ、いや、なんでもない……関係ない話だった、あはは……」
 ミレッタはパタパタと手を振って、慌てたように誤魔化す。
 マユはわざとらしく苦い顔をしてみせてから、ミレッタから視線を離した。
「けど砕くったって、あんなデカブツ、そう上手く破壊できるのかね」
 砕けた少年のような口調で、ゲイルが言う。
「デブリや小惑星とはワケが違うよー?」
「だが、やらないわけにはいかないだろう」
 対照的な、スマートな口調で、レイが言う。
「ユニウス7の構造物は比較的原形を保っている。もしそのままで地表に落下することになれば……」
「…………」
「地球、滅亡、だもんな」
 レイ以外の面子がゴクリと息を呑んでから、付け加えるようにヴィーノが言った。
「はー、でも、それもしょうがないっちゃしょうがないんじゃね? 不可抗力だろ?」
 軽い口調で、ヴィーノの傍らにいた整備員が言った。ヨウラン・ケント。ヴィーノとは同期生で今もコンビといって言い仲だ。
「むしろ鬱陶しいゴダゴダがなくなって、俺達ZAFTにとっては案外楽かも」
「そんなわけ……」
 マユが言いかけたとき、

 

「良くそんなことが言えるな! お前達は!!」
 と、別の大声がそれをかき消し、割り込んできた。
 その場にいた面子が振り返る。そこには、カガリの姿があった。
「しょうがないだと!? 案外楽だと!? これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのか、お前達はっ!?」
 カガリは猛烈な勢いで、ヨウランを指差し、糾弾する。
「すいません」
 ヨウランはしかし、ヴィーノ達と顔をあわせてから、形式ばかりに頭を下げた。
 その姿に、カガリはさらに顔を紅潮させた。
「くっ……やはりそういう考えなのか、お前達ZAFTは! あれだけの戦争をして、あれだけの思いをして、やっとデュランダル議長の下で変わったんじゃなかったのか!?」
 激情のままに、ヨウランやマユ達に怒鳴りつける。
「もうよせ、カガリ」
 傍らに控えていたアスランが、カガリを制止しようとする。
「止めるな、これは許されるような問題じゃないぞ!!」
 だが、カガリはそれすら振り払おうとする。
 ミネルバクルーの面々は困惑気な顔だったが、その中で1人、表情を引き締めている者がいた。
「私もそう思います」
「えっ!?」
 本人以外の全員が、驚いたような声を出した。
「ヨウランおに……ヨウラン、言っていい冗談と悪い冗談があるよ。それに、地球が壊滅するような事態になれば、自給できていないプラントだって危機に陥る。楽なんて問題じゃない」
 マユは険しい表情で、ヨウランに向かってそう言った。
「いや、だけどよ……」
 弁護しようとヴィーノが口を開きかけるが、言葉に詰まる。
「過程の話にしたって、現実になってる今口に出すべきじゃない。良識あるZAFTの一員なら」
 指を振る仕種で、マユはぴしゃりと言い切った。
「そーだそーだ、ボクもそう思うぞ」
 ミレッタがマユを支持する。
「あっ、ひでぇ、元オーブ組でつるみやがって」

 

「えっ!?」
 ヴィーノが反射的に言った言葉に、カガリとアスランは、軽く驚いたような表情で、ミレッタを見た。
「だが正論だな。俺もマユを支持させてもらう」
 2人を他所に、レイがそう言った。
「あたしもだわ」
 ルナマリアがそう言って、マユの方に寄る。
「お姉ちゃんがそう言うなら、私もーっと」
 メイリンがそう言って、ルナマリアに寄り添った。
「きたねー!!」
 ヴィーノが不平の声を上げる。ミレッタがそれに向かって舌を出した。
「とにかく、今はやるだけのことをやる。しょうがないや不可抗力なんて言葉は、出来ることをやりつくしてから言うべきだ」
 レイがその場をまとめるように言って、
「そうだな、マユ」
 と、わざわざ一度、マユに振った。
「うん、まぁ、そういうこと」
 マユは例の顔を見て、そう言って微笑んだ。
「よし、いっちょやりますかぁ」
 バシッ、と、ミレッタは左手に右手の拳を打ちつけた。
「こ、こいつら……」
 身内の軽い雰囲気になったことに憤りを感じつつも、話に入る余地を失ったカガリは、拳を握って震えていた。
 アスランは、少し呆けたように、マユを見ていた。

 

「遠距離熱センサーに感。大形艦接近します!」
 ユニウス7。死の街と化した筈のコロニーで、蠢くモノの姿があった。
「来たか、牙を抜かれたナチュラルの犬どもが……ここで死んでいった者たちのせめても
のはなむけに、道連れにしてくれようぞ!」