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SEED-クレしん_07-289_03

Last-modified: 2009-07-17 (金) 23:57:50
 

キラ・ヤマト、人生を賭けた史上最大の作戦!だゾ
【最終日】

 
 

 ……私は深い眠りの中で夢を見ます。
 幼い頃の自分……わたし、ラクス・クラインの始まりを……

 

 私は小さい頃から父に決して怒ったり怒鳴ったりしてはいけない、と教えられてきました。
 父は言います。「ラクスはただ黙って微笑んでいればよい」と。
 それだけでみんなが安心するんだよ。だからラクスは常に優しく微笑んでいなさい……そう父に繰り返し言われました。
 だから私はいつも微笑んでいます。つらくても……悲しくても……怒りたい時でも。いつもいつも私は笑っています……

 
 

 私は幼い頃から歌うのが好きでした。別に流行の歌とかじゃなくてもいいのです。自分の思うままに、自分が感じたことを自分の好きな言葉で歌う。ただそれだけで充分でした。

 

 ある時……お父様にこう言われました。

 

「最近、プラントと地球の関係がギクシャクしてきてみんな不安がっている。ラクスの歌でみんなを安心させてあげてほしい」

 

 こうして、それからの私はプラントの皆さんの為に歌う事になりました。
 その事自体は別にイヤじゃないんです。私の歌でみんなが元気を取り戻してくれるのなら……私も嬉しいのですから。

 

 ですが……この頃からでしょうか。私が、私じゃなくなっていくような感覚を感じるようになったのは。

 

 みんなが求めるのは『平和の歌姫 ラクス・クライン』と言う名の偶像……
 では本当の私は……どこにあるのでしょう? 本当のラクス・クラインとは?いえ、そもそもそんなものは始めから無いのかも知れませんね。私は皆さんの望むように振舞えばそれでよろしいのでしょう?そう……なのでしょう………?

 
 

 ある日私の所に、父に連れられて1人の少年がやってきました。

 

「彼はザラ国防委員長の息子、アスラン・ザラだ。今日からラクスの婚約者であり……将来伴侶となる若者だよ」
「は、初めましてラクス・クライン。僕はアスラン・ザラです……よろしく」

 

 ……いい方だと思いました。美男子で……優しくて、頭も良くて。手先の器用なアスランは私にたくさんのハロを贈ってくれました。親に決められた婚約ですけど……私にはもったいない程の男性だと思います。

 

 だからこそ、私はここでハッキリ言っておきたいのです。私は……そう、アスラン・ザラという方が好きです。でも彼に対して恋をしてはいませんでした。おそらくアスランも同じだと思います。だから私とアスランが表面上どんなに仲が良く見えても、どことなくお互いの心が真に通いあっていない事を常に感じていました。

 
 

 それからプラントと地球との間に戦争が起こり……私はザフト軍を慰問したりする毎日を送るようになりました。
 ある時。地球の軍艦に助けられた私は、そこでキラ・ヤマトという方に出会ったのですが……
 不思議な方でした。MSのパイロットでありながら繊細で、それでいて優しくて……傷つきやすくて。
 誰かが支えてあげないとすぐに脆く崩れてしまいそうな……出来れば私が支えてあげたい。強くそう感じさせる方でした。

 
 

 プラントに戻ったある日。私は父から「クライン派」と呼ばれる政治結社の存在を聞かされました。
 そして父は私にこう言ったのです。

 

「……パトリックの強行路線は無理がありすぎる。私もずいぶんと議会で説得したが、このまま戦争が続けばいずれ恐ろしい事態になるやも知れん……そこで、だ。いざという時は軍で極秘に開発されているニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載された例の新型MS2機……とそれの専用運用艦を我等の手で確保しなければならん………やってくれるね?ラクス………」

 

 わたしは……この瞬間……自分の中のなにかが……音を立てて崩れさっていくのを……感じ……ました。

 
 

 私は。ラクス・クラインはみんなの為に微笑み続けました。みんなの為に歌い続けました。みんなの為にアスランと婚約しました。
 そして今度は。みんなの為にみんなを裏切り、事によっては、みんなと戦うことになりました。

 

 わたしは誰?ラクス・クライン?そんなのわたしじゃありません。みんなが知っているその偶像に本当のわたしはいません。

 

 わたしは……本当はなにがしたかったの……?わたしが望んだものってなんですか?わたしが欲しかった物はなんですか? 

 

 分かりません。何も分かりません。だって私言ったことないもん。自分が本当に言いたいこと。本当の気持ち。

 
 

 だから、だからわたしは………わ、た…し……は………

 
 
 
 
 
 

「……ッッ!(がばッ)はあ……はあ……ゆ、夢でしたの……?」

 
 

エル  「う、うう~ん……ラクスお姉ちゃん……どうしたの~~……?」
ラクス 「あ、ごめんなさいね?まだ6時ですから。エルちゃんはもう少しおねむしててくださいな」
エル  「……うん。……すう……すう……

 
 

ラクス 「また眠ちゃったようですわ。良かった……ふう。私が本当に望んだ事……です、か……」

 

   ※   ※   ※

 

 そして、その日の夕方。

 

キラ 「ラクス~~~!おかしいなあ、どこ行ったんだろ?」

 
 

シン 「あれ?キラさんじゃないですか。どうしたんです?」
キラ 「ああ……シン君にみさえさん。ラクス、見ませんでした?」
みさえ「ラクスちゃん?知らないわねえ」
キラ 「そうですか……困ったな。昼頃から急に姿が見えなくなったんですよ。
    なんか顔色悪かったし、迷子にでもなっちゃったのかな?」
シン 「ありそうですねそれ。じゃあ俺達も手伝いますから手分けして探しましょう!」
キラ 「ありがとう!それじゃ僕は公園の方を探してみるから!」

 
 

 その数分前。
 児童公園でひとり、暗い顔でブランコに乗っているラクスの姿があった。

 

シロ 「きゃん!きゃん!」
しん 「おお~いシロまてってば~~~!ふう、ふう……あれ?ラクスおねいさん?」
ラクス「……」
しん 「どうしたの?顔暗いゾ?」
ラクス「…………私ね」
しん 「ん?」

 

ラクス「私ね……ほんとは政治とか戦争とか、ぜ~んぜん分からないんですの。
    政治家としての経験なんかまったくないし……戦艦の艦長さんなんてのもそうですわ。
    でも……それでも構わないそうです。ただ座ってるだけでいいんですって。
    実際のお仕事はみんな他の人がやってくれるそうですから……」
しん 「おお~。お仕事しなくてもいいの?父ちゃんが聞いたら泣いて羨ましがるゾ」
ラクス「そうですか?でもそれって、私なんかただのお飾りで実際には何の役にも立たないって事ですわよね?」
しん 「ん~~……そうかなあ?」
ラクス「……そうですわよ。だって今までの私がやってきた事を全て思い出してみなさいな。
    成功の原因は全部人の力ですわ。私はただ交渉したり、少し演説をしたり……
    キラ達に比べれば全然大した事ないですわ……」
しん 「そんな事ないゾ?ラクスおねいさんが居るから、みんなが頑張るんじゃない?」
ラクス「……うそ。私は……そんな価値のある女じゃありません。そんな……」

 
 

キラ 「あ、あの……ラクス……?」
ラクス「あ……キラ……?」
しん 「ほらね? ここにひとり、ラクスおねいさんを必要としているお兄さんがいるゾ」

 

キラ 「ラクス……その、物陰から君としんちゃんとの会話をちょっと聞いちゃったんだ。その」

 

ラクス「う、うるさいですわッ!

 

キラ 「え?」
しん 「ラ、ラクスおねいさん?」

 
 

ラクス「もううんざりですの!こうして自分を押し殺して生きるのは……!
    大体キラ! あなたに私の何が分かるっていうんですの!」
キラ 「な、何ってその……」
ラクス「例えば私が宇宙に上がるって言った時!ほんとはキラに止めてほしかった!
    ラクスと離れたくないって、我がままでも側にいてほしいって言ってほしかったの!
    なにが『ラクスがそう決めたのなら』よ!」
キラ 「え……あ……」

 

ラクス「ファクトリーで私、ずう~っとキラの事だけ考えていましたわ!
    そ、そんなキラがフリーダムと共に撃墜されたと聞いたときなんか……と、き…なんか……!
    私、部屋で泣きましたわ!ええ、みなさんに迷惑がかからないようにきちんと日々自分の仕事をしながら!
    それも慰めに来てくれる人たちを逆に私が励まして!それから自分の部屋で声を押し殺して泣いたんです!」
キラ 「……ラクス」

 

ラクス「戦争なんて、戦争なんて!ほんとは関わりあいになりたくなかったんです!
    キラだけ側にいてくれれば、戦争で誰がどれだけ死のうと知ったことですか!
    あんな暗殺部隊なんか来なければこんな事に、戦争になんか巻き込まれずに済んだのに!」
キラ 「ラクス……僕は……」
ラクス「う、ふふふ……!
    そうですよキラ? これが私の、ラクス・クラインという女の本性ですわ!
    ふふふ……さぞかしびっくりしたでしょう?プラントの歌姫が、こんな自分勝手……」

 
 

 ラクスは最後までその言葉を口にすることは出来なかった。
 何故ならキラがラクスを、思いっきり抱きしめたから……

 

キラ 「ごめん……ごめんねラクス。僕が悪いんだ。
    一番君の側にいるはずの僕が、ラクスの本当の気持ちを分かってあげなきゃいけなかったのに」
ラクス「キラ……うっ…キラ、キラぁ……うっ…ぐすっ、うえぇぇ~~~ん!」
キラ 「ラクス。僕は嬉しいんだ……だってやっと本当の君を知る事ができたんだから。
    これからは自分を押さえる必要なんてないんだ。
    君が嬉しい時は僕も喜ぼう。君が辛い時は僕も一諸にそれを分かち合うから。ね?」
ラクス「ひっく、ぐすっ、キラ…キラぁぁ……」

 

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

 

シン  「う、うう……ええ話やなあ」
しん  「……ひどいゾ、シン兄ちゃん。おらを急に茂みにひっぱりこんで……」
みさえ 「あのね。こーゆーのは当事者が2人っきりで何とかするもんなのよ。それが恋愛の最低限のルールよ?
     いい機会だからしんのすけも憶えときなさい」
ルナ  「で、さ。結局これで、キラさんの作戦は成功した事になるのかしら?」
アスラン「まあ……ラクスが自分の意見をハッキリ言えるようになったんだから、
     少なくとも電波ではなくなったんじゃあないのか?」

 
 

(おしまい)

 
 

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