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SEED-クレしん_15-960

Last-modified: 2009-03-31 (火) 19:51:03
 

 私は幸せなんかじゃない。

 

 お金や権力をいくらもってたって……幸せなんかじゃない。むしろそんなの私は欲しくなかった。
 私にだって夢はあった。しかしその夢がかなう事はなく……ある日突然、私は鎖に縛られた。
 その時から、私の人生は私自身のものではなくなった………

 

 自分の境遇を変えたかった。ぶち壊したかった。
 だから彼らに惜しみない協力をした。私自身も懸命に戦った。世界と。運命と。何かが変革される事を願って。
 その結果……変わった、のだろうか? 私自身が望む未来は……未来、は………

 

 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・
 ・・・

 

 スコーン!

 

「いたッ!?」
「こら! ワン・リューミンさん?居眠りしてたら単位はとれないわよ~。それとも、私の授業はそんなに退屈?」

 

 ははは……… 教室中に笑い声が響く。
 いけない、つい居眠りを……せっかく猛勉強してかすかべ大学の学生になれたのに、これじゃ本末転倒だわ。
 ……しかし、セレーネ・マクグリフ助教授のチョーク投げはもはや芸術的よね。後ろの席で聞いてる私の額に命中させるなんて。

 

   ※   ※   ※

 

 昼休み、キャンバスのベンチでひと休みしている私。
 しばらく反省しつつぼーっとしてるとふいに声をかけられた。
 『この世界』での友人の一人、大原ななこだ。

 

「災難だったわねー。だからセレーネ先生の授業だけは気をつけてって言っといたのに」
「一応カモフラージュはしてたつもりだったんだけどね」
「あんな特製アイマスクなんかじゃ誤魔化せないわよ。リューミンもいい加減、徹夜続きの勉強やめたら?」
「ん……でも私他のみんなに比べて勉強遅れてるから。頑張らないと」
「そっか。でも…………うん、リューミン変わったね」
「そ、そう?」
「うん。以前の刺々しさがなくなった気がする」
「そう、かな………?そうならいいな」

 

「お嬢様、昼食買ってきました。あと飲み物は……お茶でよかったですか?」
「お兄様!」
「あ、ホンロンさんこんにちは。今日もリューミンの付き添いですか?」
「ええ。ボディガ―ドも兼ねて……どこに敵が潜んでいるかわからないものですから」
「もう!こんな所に敵なんているわけないでしょ!」
「いえ、万が一ということも」
「ないの! この世界じゃ戦争なんてしてないし、私はもう王家の当主じゃないんだから!」
「それでも、お嬢様をお守りするのが執事たる私の役目」
「むぅ……もう変なとこで頑固なんだから!」

 

「お二人って、本当に仲がいいんですね~」
「どこが!」
「あ、そうだ知ってる? ホンロンさんって、ここでは結講モテモテなのよ」
「え……?」
「そういえばお嬢様を警護してる最中によく女性の方から手紙を貰ったり、食事に誘われたりします」
「うそッ!」
「もちろん、仕事中なので全部お断りさせてもらってますが」
「い、いやいやいや! そういうお誘いは有難く受けなさいよ!」
「ふむ……わかりました。それがお嬢様のご命令とあらば」
「そ、そうじゃなくて命令とかじゃなくて……!」

 

「ほんと兄妹揃って仲がいいのね。羨ましいわ♪」
「ち、ち、ち………ちが~~~~う!」

 

   ※   ※   ※

 

 夕方。
 大学を出て、商店街で夕飯の買い物を済ませて帰路につく。

 

「…………ねえ」
「はい?」
「いいのよもう……執事なんかしなくて。私は王家の当主じゃなくなったし、お兄様が私に仕える必要もないの」
「……」
「私、この街で目覚めて……いろいろな人たちに助けられて、今は自分がしたかったことを思う存分してる。
 私の夢、人生……この春日部でこれから取り戻すの」
「……」
「だからね、お兄様も自分のしたい事をすればいいと思う。王家に縛られていたのはお兄様も同じだと思うし」

 

「私がしたいこと、ですか?」
「そう。なんかあるでしょ? 仕事とか恋愛とか」
「そうですね…………とりあえず、お嬢様の身辺警護と身の回りのお世話ですか」
「……い、いや!だからそうじゃなくて!」
「ああそうだ、今日は特売でいろいろ安かったので美味しい中華料理をお出しできると思います」
「もう! いいかげんにしろこの朴念仁ッ」

 
 

 俺にも夢がある。
 俺が不甲斐ないばかりに重荷を背負わせてしまった妹の幸せを見届ける。それが俺の願い………夢。
 俺自身のことはその後でいい。
 いや……今こうして兄妹仲良く暮らせる事こそが俺の幸せなのかもな。

 

 だからもう少し、お前だけの執事でいさせてくれ………リューミン。

 
 

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