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SEED-IF_4-5氏_36

Last-modified: 2008-11-19 (水) 18:38:52

「でも、どうしたらいいのかしらね」
マリューは言った。
「ん?」
「これから」
「ま、先日の戦闘ではこちらの意志は示せたと言うところかな」
「ん」
「だが、これでまたザフトの目もこちらに向くとこになるだろうし。厳しいな。色々と」
「そうよね……。カガリさん……。大丈夫かしら。まさかオーブの空母に降りるなんて」
「一旦は攻撃止んだんだがなぁ」
「周りに押し切られてしまったのかしらね」
「だが、モビルスーツは飛んでこなかった。地球軍に対して、戦ってる所を見せただけ、とも考えられる」
「そうね……っつ」
まただ。マリューは襲ってくる頭痛に頭を押えた。
また、ノイマンに痛み止めもらわなきゃ。

 

一応の目的は達せたとか話す一同を背に、一人ラクスは壁を睨んでいた。
カガリのあれはやはり演技だったのね。同じ考えになった振りの。
やっぱり、まだ早かった。もう少し薬漬けにして洗脳してから表に出すべきだった。
誰にも表情を見られないようにして、ラクスは唇をゆがめ、目を吊り上げた。
「大丈夫か?」
マリューのために痛み止めを持ってきたノイマンがラクスに声をかける。
「大丈夫ですわ」
小さな声でラクスは答えた。
「大丈夫。まだ大丈夫。修正可能よ。くじけないで、ラクス! 私の志はこんな事で潰れやしない。私は世界の物、世界は私の物」
ラクスは呪文のように唱える。

 

その言葉をラクスに言ったのは誰だったろうか? ラクスが幼き頃に死んだ母か。
ともあれそれはラクスの心の深い所に刻み込まれた。自分が人類を導かねばと。
そして後悔したのだ。前戦役後に引き篭もってしまった事で混乱した世界を。
ラクスは決意したのだ。
もう一度、始めましょう。最初から。今度こそ間違わずに。
ラミアス艦長やカガリをはじめとする乗員に薬を盛ったのは確かに多少心が咎めるが。
状況が予測と違ってしまったためにウナトには死んでもらったが。それも志を遂げるため。
マリュー、カガリ。
彼らには前戦役の英雄としてお神輿になってもらえばよかっただけ。危険な目になど合わさないはずだったのに。

 

どこで間違ったのだろう。カガリさんに薬など使わず正直に話せば……? 馬鹿な。私が世界を統治するなど一笑に伏されただけだ。
しかし、わたくしは世界を平和の名の下に治めると誓ったのだ。そのために多少手が汚れようとそれが何だろう。
大丈夫。わたくしはラクス・クライン。私は世界の物、世界は私の物。
「そう、たかがオーブですわ。国の後ろ盾という大義名分が無くなっただけ。計画を先に進めるだけですわ」
心を立て直すと、ラクスはいつものように微笑んだ。
「ありがとう、ノイマンさん」
微笑んだまま振り向き、キラに歩いていった。
「ありがとう。疲れたでしょう。ごめんなさいね。キラに頼るばかりで」
そう言ってラクスはキラにキスをした。
「任せてよ! ラクスのためだったらあれくらい軽いさ!」
キラは明るく笑った。邪気の無い、誰もが好意を抱くような子供のような笑いを。
ラクスの頬をなぜか涙が流れた。

 
 

「ルナマリア・ホークです」
「入って頂戴」
ルナマリアはタリアの部屋に入った。
「あなたに極秘任務を与えます」

 
 

「ジェスさんごめんねー、ちょっと用事が出来ちゃった」
「いいさ、待つよ。まだまだこの辺で戦い起こりそうだしなぁ。俺も戦いが起こったら取材行っちまうかも知れねえし。はいこれ」
ジェスはミリアリアに連絡先を渡した。

 
 

「ん? 艦長!」
「「ん?」」
「暗号電文です」
『ダーダネルスで天使を見ました。また会いたい。赤のナイトも姫を探しています。どうか連絡を。ミリアリア』
「ミリアリアさん?」
マリューは驚きの声を上げた。
「赤のナイト?」
「ぁ……アスラン?」
「んー……」
「ターミナルから回されてきたものなんでしょ?」
「はい」
「ダーダネルスで天使を見たって……じゃあミリアリアさんもあそこに?」
「彼女、今はフリーの報道カメラマンですからね。来ていたとしても不思議はありませんが」
ノイマンが答える。
「アスランが戻ってきたと言う事か。プラントから? さあてどうするキラ?」
「え?」
マリューは訝しげな声を上げる。
「誰かに仕掛けられたにしちゃあ、なかなか洒落た電文だがな」
「でも、ミリアリアさんの存在なんて」
「確か、彼女自身は知っているはずですがね。この艦への連絡方法は」
「会いましょう」
キラは言った。
「アスランが戻ったのならプラントの事も色々と分かるでしょう」
「んー……」
バルトフェルドは唸る。
「でもアークエンジェルは動かないでください。僕が一人で行きます」
「え?」
「大丈夫、心配しないで。ラクス」
キラはにっこり微笑んだ。

 
 

「なぁ、モビルスーツに乗ってこない奴を、なんとか倒す方法はないか?」
カガリは額の汗を拭きながらためらいがちにユウナに聞いた。
倦怠感が強くなっている。楽になる方法は、ある。ポケットの中の栄養剤の瓶。
飲むものか。
カガリは唇を噛み締めた。
「そりゃあ……特殊部隊を送るとか手はあるけど
「ふぅ、相手は戦艦の中だ」
「……もしかして、ラクス・クラインかい?」
「ああ」
決意したように、カガリは頷いた。
「アークエンジェルはラクスが牛耳っている。ラミアス艦長やバルトフェルド隊長を立てる振りをして、ドラッグまで使ってる。ラクスさえ片付ければなんとかなるんだ」
「わかった。僕の方でも考えよう」
確か賛美歌13番だったかな? とある有名なスナイパーへの連絡方法をユウナは考えた。タツキ・マシマに命じて接触させてみよう。
「……カガリ?」
ユウナは焦った。
カガリの様子がおかしい。ぐったりしている。
「……心配ない……覚醒剤の効果が切れただけだ」
「覚醒剤!?」
「ラクスだ……ラクスに一服盛られた。あの船は狂ってる。コーヒーとレキソタンでも持ってきてくれ。リタリンとデパスでも構わん」
「あ、ああ……」
カガリはそれで離脱症状が済むと思っていた。この時は。

 
 

「キラ!」
待ち合わせの場所に現れたキラを見て、ミリアリアは声を上げた。
「ミリアリア」
「あーもうほんとに信じられなかったわよー。フリーダムを見た時は。いつオーブを出たのよ?」
「いやあ。それよりアスランは?」
「ぁ……ごめん。用心して通信には書けなかったんだけど、彼ザフトに戻ってるわよ?」
「ザフトに!?」
「うん」
「あの機体……」
海の向こうからこちらに向かって飛んでくるモビルスーツが見えた。

 

彼らを遠くの岩陰から監視している者がいた。
ルナマリアである。

 

「キラ」
インパルスから降りたアスランはキラに呼びかけた。
「アスラン……」
「……」
「あれは君の機体?」
「ああ」
「じゃあこの間の戦闘……」
「ああ、俺もいた。今ミネルバに乗ってるからな」
「ぁ……」
「お前を見て話そうとした。でも通じなくて……。だが何故あんな事をした! あんな馬鹿な事を」
「ぁ……」
「おかげで戦場は混乱し、お前のせいで要らぬ犠牲も出た」
「……でもそれで……」
「ん?」
「君が、今はまたザフト軍だって言うならこれからどうするの? 僕達を探してたのは何故?」
「やめさせたいと思ったからだ。もうあんなことは。ユニウス7の事は解ってはいるが、その後の混乱はどう見たって連合が悪い。それでもプラントはこんな馬鹿なことは一日でも早く終わらせようと頑張っているんだぞ! なのにお前達は、ただ状況を混乱させているだけじゃないか!」
「本当にそう?」
「え?」
「プラントは本当にそう思ってるの? あのデュランダル議長って人……」
「……」
「戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって」
「ぁ……」
「お前だって議長のしている事は見てるだろ!? 言葉だって聞いたろ! 議長は本当に……」
「じゃあ、あのラクス・クラインは?」
「ぁ……」
「今プラントにいる、あのラクスは何なの?」
「ぁぁあれは……頼ったんだよ! 議長はラクスの影響力に! プラントの混乱を鎮めるために! 議長は自嘲していた。ラクスの力を使わなければいけない自分に!」
「ぁ……」
ミリアリアは息を呑んだ。
「じゃあ何で本物の彼女はコーディネイターに殺されそうになるの?」
「え!? 殺されそうにって……なんだそれは!」
アスランは驚きの声を上げた。

 

「ぇ?」
ルナマリアも驚きの声を上げた。
本物のラクスって……?

 

「オーブで。僕等はコーディネーターの特殊部隊とモビルスーツに襲撃された」
「ぅ……」
「狙いはラクスだった。だから僕またフリーダムに乗ったんだ」
「そんな……」
「彼女もみんなのも、もう誰も死なせたくなかったから。彼女は誰に、何で狙われなきゃならないんだ?」
「ぅ……」
「それがはっきりしないうちは、僕にはプラントも信じられない」
「キラ! ……それは……ラクスが狙われたと言うなら……それは確かに、本当にとんでもない事だ。だが、だからって議長が信じられない、プラントも信じられないというのは、ちょっと早計過ぎるんじゃないのか? キラ?」
「アスラン……」
「プラントにだって色々な想いの人間がいる。ユニウス7の犯人達のように。その襲撃の事だって、議長の御存じのない極一部の人間が勝手にやった事かもしれないじゃないか!」
「アスラン……」
「そんな事くらい解らないお前じゃないだろ!」
「……それはそうだけど……」
「兎も角その件は俺も艦に戻ったら調べてみるから。だからお前達は、今はオーブへ戻れ」
「ぁ……」
「戦闘を止めたい、オーブを戦わせたくないと言うんなら、まず連合との条約からなんとかしろ。戦場に出てからじゃ遅いんだ!」
「カガリは、少なくともオーブの攻撃を一旦は止めたよ? あれからモビルスーツの出撃もなかった」
「だが! また出てきたらどうする! 条約は条約だ。それをどうにかしなければオーブの立場は苦しくなるばかりだ!」
「でもそれじゃあ、君はこれからもザフトで、またずっと連合と戦っていくっていうの?」
「……終わるまでは仕方ない」
「じゃあこの間みたいにオーブとも? オーブ軍にはカガリがいるかも知れないのに?」
「……俺だって出来れば討ちたくはない。でもあれじゃ戦うしかないじゃないか! 連合が今ここで何をしているかお前達だって知ってるだろ!? それはやめさせなくちゃならないんだ!」
「……」
「だから条約を早く何とかしてオーブを下がらせろと言っている!」
「……でも、アスラン……それも解ってはいるけど、それでも僕達はオーブを討たせたくないんだ」
「キラ!」
「本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは、もう二度と戻らないから」
「――! 自分だけ解ったような綺麗事を言うな!! お前の手だって既に何人もの命を奪ってるんだぞ!!」
アスランは一瞬怒りに身を包まれた。
「……うん。知ってる」
表情も変えず、淡々とキラは言った。
「ぅ……」
アスランの怒りは静かな怒りに変わった。
本当に知っているのか? 単に先の大戦でニコルを殺した事とかをそう思ってるだけじゃないのか? 自分の手が血に染まっていると自覚しているなら、なぜ武装だけ破壊して高空から墜落死させるような真似をする!?
戦闘を止めるために、どっちの陣営にも等しく犠牲を出す。それをわかってやっているのか?
――まともに見えて、こいつは狂ったままだ! そのベクトルが違うだけ……
思いがアスランの胸に込み上げ、一気に迸る。
「お前は結局自分以外の誰も信用できないんだな。自分が間違っていると思うから周囲は全部間違っている。だからオーブには帰らない。とりあえずやりたい事をやる。そんな感じだ。。結局お前は大して情報を集める手段もないくせに、全ての物事を自分にとって都合のいい事にしかとらない。都合の悪い情報は信じない……俺の事だって! アークエンジェルへの連絡方法をミリアリアが知っていてなぜ俺には……!」
「だからもう、ほんとに嫌なんだ、こんな事は」
アスランの台詞を無視してキラは言った。
「キラ……」
「討ちたくない、討たせないで」
……恫喝と来たか……勇者症候群か……。
幻聴だろうか?
『やめてよね、僕にかなうわけないだろ』
そんな台詞が聞こえた気がする。
アスランは絶望的な想いにとらわれた。
キラは、自分がスーパーコーディネイターだから、フリーダムがあるから、自分が強いように、偉いように、だから何をしてもいいと錯覚している。キラの周りにまともな大人はいないのか?
それらの思いを押し殺してアスランは言った。
「ならば尚の事だ。あんな事はもうやめてオーブへ戻れ。いいな?」
そう言うと、後ろを振り向き、振り向く事無く去って行った。
3隻同盟で一緒に戦った仲間達から急速に心が離れていくのを感じる。
ラクスだって……アークエンジェルへの連絡方法を俺に教えもしなかった。くそっ!
キラ……次に会う時は……手加減せずにぶちのめしてやる。
アスランはそれがキラに対する自分の義務だと決意した。

 
 
 

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