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SEED-IF_4-5氏_37

Last-modified: 2008-11-26 (水) 18:06:09

タケミカズチに帰還した翌翌日、カガリは目覚めると同時に強烈な咳に襲われた。
我慢しようとしても出来ない。
個室なのをいいことに遠慮せず咳をする。
だが咳が遠のいたと思ったら……
「うげぇーーーー!」」
強烈な吐き気と発熱に襲われた。
悪寒がする。滝のように汗が出る。
「ど、どうしたんだい、カガリ?」
横になったまま身体を丸めて身動きできないカガリを見て、心配そうにユウナはおろおろする。
どうやら外から呼んでも返事がないので入ってきたようだ。
いつもならデリカシーのない行為だとぶっ飛ばすところだが今日は助かった。
「医者を……離脱……症状みたいだ。あぶなかった。早くアークエンジェルから逃げ出してよかった。うっおえーっ」
また吐き気だ。もう吐ける物などないのに。喉が焼ける。
もう出るものなどないのに、口から排出しようと腹の筋肉が凝集する。呼吸が、できない! それでも、腹は、声を出そうとする。必死で吸い込んだ空気を端から呻き声に変えて排出する。
「うーーー!」
くそう、水にも食べ物にもなにか混ぜられていたに違いない。
「うーーー!」
鼻水で顔を汚して、カガリは憤った。
覚醒剤かモルヒネを持って来い! 医務室には常備してあるはずだ!
そう言って暴れたくなる。
しかしその気持ちを抑えてカガリは言った。
「私をベッドに拘束しろ! 離脱症状が抜けるまで!」

 

「先生、なんとかならないんですか?」
ユウナが船医に懇願する。
「カガリ様のおっしゃる通り、ドラッグからの離脱症状でしょう。カガリ様から渡された瓶からはサイオキシン麻薬と覚醒剤が検出されました。他にヘロインらしきものを投与されていたと言う事で、最初の大量の鼻水や咳はおそらくそのせいでしょう。すでにメサドンは投与してその症状は落ち着きましたので。後はおそらく最悪と言われるサイオキシン麻薬の禁断症状でしょう。治療法はありません。点滴していますので脱水症状はないでしょう。後は時間を待つ事です」
その声を聞きながら、カガリは閉じたまぶたの奥にきらめく光を見た。まるで戦闘機で急降下しているような不快な感覚が駆け巡る。苦痛と不快感が体中に広がる。皮膚と筋肉の間、筋肉と骨の間を虫が這い回る感覚がする。
カガリはそれらにただ身を任すしかなかった。

 

……ようやく平静を取り戻してきたカガリが気づいて最初に見たのは、自分の顔を濡れタオルで拭くユウナだった。
「お前……」
パッとユウナの顔が明るくなる。
「気がついたのかい!?」
「なんとかねー」
「よかった! ほんとによかったよ!」
「ユウナ、お前、ずっと……」
「僕にはこれぐらいしか出来ないから」
ユウナは照れくさそうに笑った。
「……見っとも無いところをみせてしまったな」
「勇ましかったよ。カガリ。自分を拘束しろと叫ぶ所なんかね。カガリくらいの薬の使用期間なら、薬を持って来いと暴れても無理ないそうだ。医者も感心していたよ。惚れ直したなぁ」
カガリの頬が赤く染まった。
結局、カガリが一応動けるようになるまでにはそれから三晩が必要だった。

 
 

「キラ」
海中に潜むアークエンジェルから海底の様子を眺めているキラに、ラクスは声をかけた。
「ラクス」
「ここでしたか」
「うん」
「綺麗ですわねえ。地球って不思議」
海底の奇妙な景色を眺めながらラクスは言った。
「そうだね」
「アスランの事を?」
「うん。何が本当か、彼の言う事も解るから。またよく分からなくて」
「そうですわね」
ラクスは相づちをうった。
ああ、本当に彼はわからないのだろう。行き当たりばったりに行動しているだけ。……でも私は、そんな彼を……。
「プラントが本当にアスランの言う通りなら、僕たちは……オーブにも問題はあるけど、じゃあ僕達はどうするのが一番いいのか」
「分かりませんわねえ」
「ですからわたくし、見て参りますわ」
「ん?」
「プラントの様子を」
「ええ!?」
「道を探すにも手がかりは必要ですわ」
「そりゃ駄目だ! 君はプラントには……」
「大丈夫です、キラ」
「ぁぁ……」
「わたくしももう、大丈夫ですから」
「ラクス……行かないで……」
キラは泣き出した。
「行くべき時なのです。行かせてくださいな、ね? キラ。キラは強い子でしょう?」
ラクスはキラの頭を優しく包み込み、撫で始めた。
「早くこんな事は終わらせましょう。そうしてキラにはゆっくり休んでもらうの。そうすればあなたもきっと治るわ。大丈夫」
「ラクス? 僕は元気だよ?」
「ふふ。わからなくてもいいですわ。大丈夫、大丈夫……」
キラは訳のわからないまま、心地よい感触に身を任せた。

 

キラと離れると、ラクスはノイマンに小さな声で声をかけた。
「わたくしもバルトフェルド隊長も宇宙へ行ってしまいます。後は頼みます」
「はい、わかっております」
ノイマンも、小声で答えた。

 

「さーって、どうすっかなぁ。スカンジナビアのシャトルでも借りるか、ジャンク屋ギルドに頼むか」
バルトフェルドが宇宙へ行く方法を考えていた時だった。
『先月より行われていた各地ザフト軍基地へのラクス・クラインの慰問ツアーも、いよいよ明日その幕を閉じることになります』
テレビでは偽ラクスのニュースが流れている。
「おぉ? ……んー……」
『先の大戦でも父、シーゲール・クラインと共に終始戦闘の停止を呼びかけ、またこの新たなる戦いにも心を痛めて、早期の終結を願うデュランダル議長と行動を共にするこのザフトのカリスマ的歌姫の歌声は、長く本国を離れ厳しい状況下で過ごす兵士達にとってまさにこの上ない心のオアシスとなりました』
バルトフェルドはにやりと笑った。

 
 

「断る」
その東洋人風の男はタツキ・マシマに告げた。
「な、何故だ?」
「振り向くな。そのまま話せ。他の依頼で彼女を狙った事があった。だが、失敗した。何かがあるのか、ただの偶然か。それがわかるまで依頼は無しだ」
「そ、そうか」
タツキ・マシマはそれ以上言うのをあっさりあきらめた。
男が流儀に反して色々しゃべってくれたのはタツキ・マシマにもわかった。こちらも誠意に答えなければならない。
「わかった。今回はあきらめよう。だが、依頼は継続していると考えてくれ。そちらから連絡があり次第、スイス銀行に金を振り込む手はずは整えておく」

 
 

「はいはいはいはい、どうもどうもどうも、あんじょうたのむでぇ~」
「みなさ~ん、こんにちわ~。お疲れ様で~す」
ラクスがディオキア基地の空港に現れた。
「ラクス様こそ、本当に御苦労さまでした」
「いえいえ~」
「早速で悪いんやけどなぁ、時間がないんや。ケツかっちんやさかいシャトルの準備はよしてんか」
「ぁはい! ぁしかし定刻より少々早い御到着なのでその……」
「急いでるからはよ来たんや!せやからそっちも急いでーな!」
「ぁぁはい、ただちに」
ピンクハロが
「アカンデー」と飛び回る。

 

『ラクス様搭乗のシャトルは予定を早め、準備でき次第の発進となった。各館員は優先でこれをサポートせよ。繰り返す……』
椅子に座ったラクスは手馴れた感じで行列しているザフト軍兵士にサインを色紙に書いていく。
「はい」
「ありがとうございます! 光栄です!」
「いいえ。うふ」
ラクスは笑った。
「失礼します! シャトルの発進準備完了致しました」
「ありがとう。では、みなさま、また」
ラクスは立ち上がった。

 

偽ラクスのマネージャーに化けたバルトフェルドはシャトルを制圧した。
「ぁぁ……」
「ふん」
『シャトルを止めろ! 発進停止!』
「すまんなぁ。ちょっと遅かったぁ。さあて、では本当に行きますよ?」
「はい」
バルトフェルドはシャトルを発進させた。

 

「てえぇい!」
「あぁ……」
「くっそー! 上がれー! くっ……」
下から対空ミサイルが襲って来る!

 

……と、ミサイルが一気に破壊された。
空の向こうからモビルスーツがディオキア基地に向かって来る!
「何だ? あぁ!」
「こいつ……うわぁ! 馬鹿なっ!」
「うわうわぁぁ!」
シャトルを追跡していたバビが、一斉に撃墜される。

 

「ははは! ラクスの邪魔をする奴はみんな死んじゃえ!」
キラだった。
急所を避ける事もなく、効率的にザフトのモビルスーツを撃破していく。
ラクスの不在でタガが外れたように。
フリーダムは空中のモビルスーツを一掃すると、基地の施設の破壊に移る。
基地は大混乱に陥った。
十分なスピードを得たシャトルは、誰にも邪魔される事無く天空へと消えていった。

 
 

デュランダルの元に、強奪されたシャトルが発見されたとの情報が入った。
強奪犯は疾うにそのシャトルを去っており、縛られた乗員だけが発見された。
「そうか……。それでそのシャトルを奪った者達のその後の足取りは?」
『現在、グラスゴー隊が専任で捜索を行っておりますが、未だ……』
「ん……。しかしよりにもよってラクス・クラインを騙ってシャトルを奪うとは。大胆な事をするものだ」
『はっ! 救出したシャトルのパイロット達も、基地の者等も本当にそっくりだったと。お声まで』
「兎も角早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかまだ判らんが、どこの誰だろうがそんな事をする理由は一つだろう。彼女の姿を使ってのプラント国内の混乱だ」
『はっ!』
「そんなふうに利用されては、あの優しいラクスがどれほど悲しむ事か」
『はい』
「連中が行動を起こす前、変な騒ぎになる前に取り押さえたい。頼むぞ」
『はっ! 心得ました!』
通信は切れた。
デュランダルは考え込んだ。
やはりアークエンジェルか。それにしても何を考えている、ラクス・クライン。私の世界平和へのプランを阻むなら……。
デュランダルの目が光った。

 
 

「あ、アスランさん! どこ行ってたんですか♪」
アスランが帰投すると、シンが飛びついてきた。
「ああ、ちょっとな」
「秘密任務ってやつですね! わくわく♪」
「ふふ」
アスランは微笑んでシンの頭を撫でる。
俺は……やっぱりここにいるのがふさわしいのかもな。
ミネルバの仲間を思い浮かべる。
自分を慕っていてくれるらしいルナ、マユ、無愛想なレイ。頼りになるハイネ。それからゲイルにショーン。
うん。ここが俺の居場所だ。
ふと、カガリの事を思い出した。カガリの事だけが、胸の奥をちくっと刺した。
戦場に現れたあれは本当にカガリか? なんであんな所に。本当だったら……いや、なんと言ってもオーブ元首だ。とっくに安全な場所へ後送しているだろう。
ふいに、寂寥感がアスランの胸を襲う。
少し前までオーブで一緒に暮らしていた事が嘘みたいだ。
遠い、なんと遠い所に来てしまったのだろう。
もう、あの生活には戻れないだろう。
いや、自分で選んだのだ。
俺はザフトのアスラン・ザラだ!
そう心の中で唱えるとアスランは頭を振った。
カガリへの想いを振り捨てるかのように。

 
 
 

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