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SEED-IF_4-5氏_47

Last-modified: 2009-02-04 (水) 20:04:09

「結局、パリはどうなっとるんだ?」
「パリ市の24の新聞は現在の政権に反対しています」
「騒いでるのは、19区と20区。外国人と貧しい者だけです」
「……では、無差別爆撃と言う訳には行かんか」
「後が怖いですな」
マンネルヘイムの司令部は頭を抱えていた。
親ザフト軍はパリ市の市民を露骨に人質に使っていた。
聖職者が監獄に収容された、と言う話を聞いた時は、誰しも嫌な気分になった。
共産主義者が宗教を敵視する事は予想されていたが、それが現実となると衝撃は大きかった。
「……ヴァンドーム広場の円柱が、引き倒されたそうです。帝政を象徴するからと言う理由で」
マンネルヘイムは顔をしかめた。
「良き伝統も、宗教も、連中は批判し弾圧するのだろう。そんな奴らは一人残らずこの世から抹殺せねば」
マンネルヘイムは胸の前で十字を切った。
このままでは凱旋門さえも破壊されてしまうかもしれない。
誰もが民間人に被害の及ぶ、悲惨な市街戦を覚悟した。
だが……その心配は杞憂に終わる。
偵察のためにパリの下水道から潜入したスカンジナビア兵が見たのは、あちこちに倒れている死体だった。
そう、クーデター政権に参加した者すべて――もちろん第19、20区の愚かにもクーデターに同調した者達も含め――が、女子供も、有象無象の区別無く、打ち倒され、血を流しゴミのように放り出されていた。
一体何者と戦ったのか、ぼろぼろに破壊されたモビルスーツがそこかしこで煙を上げている。
そして、親ザフト政権が立てこもっていたエリゼ宮では首班のエドワール・モローや共産主義者のリーダー、ヴァルランが体中を銃剣に貫かれて亡くなっていた。
近くにいた住人に聞いて見ると、つい先日の夜中、大量のヘリコプターがやって来、クーデター政権が保持する区画に次々と降下し、戦いの音が、絶え間ない悲鳴が続き、一夜にしてパリを支配していた賊徒は駆逐されたと言うのである。
この知らせを聞き、スカンジナビア軍はパリに入城した。

 
 

その少し前――
「なにが、何が起こったんだ!」
セダンでの味方大敗の報を聞き、詰問に訪れたオルレアンの地区委員を出迎えたのは、昨日まで親しく会話を交わしていた者達の屍の山だった。
「……くっ」
彼は踵を返した。
「何があったので?」
部下が呼びかけてくる。
「うるさい! ……いや、伝令を出せ。私はトゥールまで下がるとな。ルーアン、カーン、ナント、レンヌ、ル・マンの各地区に頼む。」
「アミアンはいかが致します?」
アミアンは、ブリュッセルのあるベルギーに対抗するため比較的有力な部隊が張り付いていた。
「ああ、一応出しておいてくれ。それからザフトに救援要請を。強くだ。もし受け入れられない場合には、我ら、ザフトの非道を世界に説いて地球連合に降伏してやる、とな!」

 
 

「何が、起こったんだ?」
奇しくも同じ台詞を、パリに入城したスカンジナビア軍もパリ市民に尋ねた。
「賊徒に監禁されていた聖職者達を連れてきました」
「おお、よくぞご無事で。賊徒はあなた方を殺害すると言う噂も流れておりましたでな、焦りました」
「ふふふ」
聖職者達はマンネルヘイムに微笑んだ。
「神の、ご加護があったのですよ」
「神の、ご加護?」
「そう。神のご加護です。あの夜、パリに天使が舞い降りたのです」
「十字軍が発動されたのですよ」
「聖戦です」
にこにこと微笑む聖職者達に、マンネルヘイムはさっぱり分からんと言うように首をひねった。

 
 

第9次十字軍は任務を終えて早くも帰還の途にあった。
「大司教様」
「普段どおり呼んでよいですよ、アナキン」
「はい。アンデルセン神父。スカンジナビアもプロテスタント――異教徒でしょう? なぜ、パリでは異教徒同士殺しあうままにしておかなかったのですか? わざわざ十字軍まで出すなんて……」
「それは、パリの異教徒どもが無神論者のコミーどもと手を組んだからですよ。異教徒でも、心ある人々は神への道に近い所にいます。神への畏れを抱いているのです。それは道こそ遠いものの正道へと通じるものです。ですが! コミーの糞ったれの赤どもは違います! 神への畏れなど毛頭無い! 現にパリの聖職者を収監して殺害しようとしたじゃあありませんか! 彼らを救うためにも急がねばならなかったのです。エイメン!」

 
 

「あっという間にここまで追いやられるとはね」
「いや、まったく。弱いと言うか……」
「彼らの前でそれはだめよ? アーサー?」
「は、はい!」

 

ミネルバはトゥールでフランス残余の親ザフト軍と合流した。
「これで、全部、と言う訳かしら?」
「ええ、まぁ。フランス東南部の軍がありますが……彼らは地球連合派でして」
「とりあえず、まぁまぁの戦力と言ってもよさそうね。スカンジナビアと戦って、一当たり位はできそう」
ここには、アミアンの部隊も参集していた。だが、アミアンを放棄した代わり、フランス北部は完全に親地球連合派の支配する所となっていた。
「しかし、ミネルバ一艦だけとは。これでは敗北しろと言うも同全ではないか」
ナントの地区委員が吐き捨てるように言う。
タリアはそれに不快を感じながら言った。
「我々は、負けに来たのではありません。私の策に従ってくれれば勝てます!」

 
 

「ふーん。スカンジナビア王国軍、ドイツを解放、旬日を待たずしてパリ開放かぁ」
シャムスが休憩室のテレビを見ながら呟いた。
「おお、なかなかやるのう」
原田が、効果こそ元となったγ-グリフェプタンに比べごくわずかになってしまったものの、副作用を完全に解消し子供でも飲めるようになった栄養ドリンク『元気一発! グリフェプタン1000』をぐびっと飲む。
「なかなか、やるなじゃい。スカンジナビアも。ただ中立唱えて布団に潜り込んでいただけじゃないのね」
ミューディーも感心したように言う。
「おはよう諸君」
スウェンが休憩室に入ってきた。両手に何か持っている。
「お、出来たのか?」
「ああ、その他の衣服は別室でスタイリストが待っている」
スウェンは手にしていた物を広げた。Tシャツだ。アースグリーンの地にスカイブルーの地球が浮かんでいる。そこに『ブルーコスモス』と言うロゴが浮かぶ。
「ふーん、なかなかいいじゃない」
ミューディーは手に取った。そして服を脱ぎ出す。
「わ、馬鹿! ミューディ! ここで脱ぐな!」
「きゃはは、だーいじょうぶだって! どうせ見せブラだからぁ」
ミューディーはさっさと着替えてしまった。

 

「どう?」
Tシャツを着たミューディーはくるりと回った。
「ああ、似合っている」
「なかなかいいな」
ミラーと原田が言う。
「シラークザ近辺に着きました。皆さんご用意お願いしまーす!」
部屋の外から声がかかった。
「おおう、しかし、俺がスタイリストにかかるとは。恥ずかしいのう」
原田はあわてて部屋を出て行った。後の皆も続く。

 

「はーい、もっと笑ってー。ミューディーちゃん、いいよいいよー」
「こそばゆいなぁ、ミューディーちゃんなんて」
ミューディーは照れて顔を赤らめる。
「その照れた顔もグッド! いただき!」
「もう」
「ほら、ふくれっつらしてていいのい? いいの? 笑う顔が君の魅力だよ? そう! いい感じ!」
カメラマンの言葉に、ミューディーはどんどん魅力的になっていく。ちなみに、今日の化粧はおとなしめだ。
「シャムス! そろそろ混じれ」
シャムスの背が押される。
シャムスはミューディーと手を繋ぎ、カメラに向かってウインクしてみせる。
何枚かシャムスとミューディーの写真が撮られる。
すぐにスウェン達も混じり、最後はミューディーを真ん中にしたカットで終わった。
余談だが、カメラマンは男のイタリア人だけあって、ミューディー一人に注いだ時間の方がはるかに長かったのである。

 

「はーい、お疲れ様でしたー」
こうして世界遺産『シラクーザとパンターリカの断崖の墳墓群』での撮影は終わった。
「次は、『ヴァル・ディ・ノートの後期バロック様式の町々』か」
「ああ、『アグリジェントの遺跡地域』までは車で行く予定だな」
「へっへっへー。どうだった?」
ミューディーがやってきた。
「ああ。見惚れた」
「ああ。見直したぞ」
「またまたー」
ミューディーはシャムスの背中をバシンと叩く。
「――っ! 本気で痛いよ! お前!」
ふっとスウェンが笑う。
「ミューディーの奴、照れてやがる」
「しかし、いいのか? こんなにのんびりして? まるで観光旅行だぜ。写真まで撮って」
「時間調整だそうだ。ジブラルタルはできるだけスカンジナビア軍と同時に攻めるとさ。映像は、宣伝で使われるそうだ。地球を守るファントムペイン! ってな感じで」
「そう言えば。今日回ったのシチリアの南岸だけだな」
ふとミラーが気づいたように言った。
スウェンは顔を曇らせた。
「北岸のティレニア海にはユニウス7の破片が落ちてな。壊滅状態だそうだ。世界遺産の『エオリア諸島』も……」
「そうか……」

 
 

「ふぁ~あ」
エジプト・カイロにある武器屋の店長はあくびをした。事故なのか生まれつきなのか。片脚がない。義足だ。
ふいに、その右脚がない体が緊張する。
「だ、誰だ……いやぁ、あんたか」
店に入ってきたのは以前、武器を売った相手だった。
奇妙な相手だった。100発の弾丸が入った入れ物を80発まで試射し、20発の残りを持って行ったが、その腕前と言ったらもう、1点に80発撃ち込み、まるで一発しか命中してないように見えた物だった。
「一体どうしたんで?」
店長は探るように問いかける。
「……お前が入れた不発弾、どこでどう言う役目を果たしたか……知りたくないか?」
「え!?」
店長はぎくりとした。
「い、いまなんとおっしゃいました?」
「100分の1の好奇心の結果を知りたくはないか……と言ってるんだ!」
「さ、さあ……旦那が、いったいなんの事をおっしゃってるのか、あっしにはさっぱり……」
「……」
男は無言で店長を見つめ続ける。
「……」
店長は、蛇に睨まれた蛙のようになった。
「聞きたくないんだな……」
ふ……と男は視線を外し、立ち去ろうとする。
「ま、まってください、旦那!」
店長は土下座した。
「だ、だんなっ も、申し訳ございません! つ、つい出来心で! やっちまったんでさ!」
男は立ち止まり振り向き、店長をじっと見つめる。
「い、一流と呼ばれるプロにちょいと小石を投げて見たくなったんでさ……そ、そう思ったら……つい、この手が……100発の中に1発の不発弾を……」
「……」
「し、しかし旦那、どうしてあっしの事を……」
「不発弾が故意に入れられた可能性を当たっていった。最後に残ったのが、元プロで、まだ現役に興味のある……おまえだ!」
「うっ!!」
「最初にお前の目を見た時に、それはわかっていた」
「そ、そうですかい。何もかもお見通しだったんですかい。その通りでさ……あっしも、元はプロの端くれに数えられていた男なんでさ……この脚をちょいとしたミスでもぎとられるまではね! ……そ、それで……あの不発弾はどう言うシーンに登場したのです!? お、教えてくださいっ 旦那!?」
「……おまえの期待していた以上のシーンに登場したよ……」
店長の目は歓喜に輝いた。
「えっへへへ執念でさ! これこそ執念でさ!」
「……」
男は無言で銃に消音器を付けた。
店長の顔が恐怖に染まる。
「お前も元プロだ……その結果が、どう言うシーンを作り出すかはわかっていたろうな……」
「も、もとプロと言っても、あっしはこの通り片脚の哀れな年寄りなんですよ……お、おねげえだ! かんべんしておくんなさい! 命だけは助けておくんなさいよ、旦那!」
「……」
「だ、だんなのおっしゃることなら、なんでもします! 靴を舐めろとおっしゃるなら、よろこんで舐めます……」
店長はそう言うと、男の靴に口づけた。
「股をくぐれとおっしゃるなら、喜んでくぐります! だんな! こ、こんなあっしを……哀れなあっしを撃てるんですかい……だんな……」
男は無言で狙いを付ける。
「だんな……」
――!
店長はよろよろと後ずさり、倒れる。胸には血のシミができていた。
「う、撃ちやしたね、だんな……こ、こんなあっしを撃ちやしたね……」
「……」
男は無言で店長を見下ろしている。
「へへへ……」
店長の頭が、ずるっと床に付く。
「だ、だんなはやっぱり……あ……あっしの見込んだ通り……超……一流のプロフェッショ……」
店長は息絶えた。男はそれを見届けると、何もなかったかのような堂々とした態度で店を後にした。

 
 

「つまり?」
「街道を、指示した場所に陣地構築して下さい。戦闘開始後は各自知略の限りを尽くして、敵が固まるようにしながらゆるりと後退して下さい」
タリアはユーラシア西部の親ザフト軍に説明した。
「それだけで、いいのか?」
「ええ。河を渡れば、橋も落としてくださって結構! 後はミネルバがやります!」

 
 

「セトナ!」
「お兄様!?」
セトナは信じ難い物を見た。
兄の、ジブリールが駆け寄ってくる。
セトナはふわりとジブリールの腕に包まれた。
「心配、したのだぞ。ドイツが親ザフト政権になった時は、お前と連絡が取れなくなってどうしようと思った……!」
「お兄様……うふ」
二人がひとしきり抱き合った所で声がかけられた。
「あのー、すんません」
「あ、ああ、何かな?」
名残惜しそうにジブリールはセトナから身を離す。
「俺、ジェス・リブルって言います! フォトジャーナリストです! セトナさんの取材をさせてもらっています!」
「ふふ。力が入っているな。楽にしてもらっていいぞ?」
ジブリールは微笑んだ。
足元で猫のブータとスキピオがじゃれあっている。
「ふふ。こいつらも久しぶりに会って嬉しいのだろう」
ジブリールはブータの背を撫でる。
「いやぁ。楽に、って言ってもらうと助かるわ。何しろロゴスの偉い人だって言うから緊張しちゃって」
「セトナが取材を許可したのだろう? セトナの人を見る目は信用している。だから君も信用できる人物なのだろう」
「あ、あの!」
ミリアリアが声をかけた。
「私もジャーナリストなんです! 取材させてもらっていいですか?」
「いいとも」
ジブリールはミリアリアに向かって鷹揚に微笑んだ。

 

「……つまり、今回、そして前回の戦役は、昔からある植民地の独立運動ではない。理事国が建設したプラント(工場)を占拠したテロリストに対する、つまりテロとの戦い、と言った側面の方が強いでしょう」
「では、プラントとの和平はありえないと?」
ジブリールへのインタビューはもっぱらミリアリアが話し、ジェスは写真を撮る事に徹した。
「我々が望む物は、プラントで働くごく普通の労働者です。現在プラントに居住する者達は、自らその範疇から外れてしまった。ユニウス7は彼らに思い入れがある地だと言う事で、彼らの管理に委ねたが、結果はご存知の通りです。彼らは施設の管理能力の欠如も露呈してしまった。要するに地球の人々の彼らへの信頼は回復不可能なほどに失われてしまっているのです」
「では、このままどこまでも戦いを続けると?」
「いや、戦いの拡大は我らも望みません。彼らにプラントから退去してもらえるならばそれでよい。彼らにプラント(工場)での労働者としての資格がなかった、と言うだけの話ですので。現在のプラント住民の地球への移住計画も進めております。生活の面倒はプラントを離れてもきちんと見ますよ」
「地球上では、コーディネーターが不利益な扱いを受けるのでは?」
「そう、プラント住人、では無くコーディネイターとあなたも言います。ですが、それは間違いです。先の戦役では一部の先鋭化した者達が、単に理事国とプラントを占拠したテロリストとの争いに過ぎなかった些細な事を、ナチュラルとコーディネーターの争いにすり替えてしまいました。それが、戦争が拡大した原因です」
「現在は、違うと?」
「ええ。実際に調べてみてください。確かに新しいコーディネーターの作出は禁止されております。ですが、すでに存在するコーデイネーターに関しては、地球軍、あるいはそれ以外の職場に、かなりの地位に地球を愛するコーデイネーターがそれなりの数で存在し、その能力にふさわしい敬意を示されております」
「先日の、プラントのデュランダル議長の演説については何か?」
ジブリールはあふれてくる涙を抑えるかのように目頭を押さえた。
「……残念ながら、ギルバート・デュランダル氏、彼に扇動された者によって、犠牲者が出てしまいました。LVMHグループの会長、サノレコヅ氏が先日、パリで暴徒によって殺害されたそうです。痛ましい事です。デュランダル議長の論説への反論は、先日のセトナ・ウィンタース嬢の会見を見てもらった方がいいでしょう。あれは非常によくまとまっています。ロゴスと名指しされたものを始めとする財閥は、現在行われているような戦争を望みません。一刻も早い解決を望んでいるのです」
「では、ロード・ジブリールさん、長時間に渡り、ありがとうございました」

 

「ふぅ、疲れたぁ」
「お疲れさん!」
「では、私は次があるので失礼するよ」
ジブリールはスキピオを抱き上げる。
「気をつけてね、お兄様」
「ジブリールさん、ありがとうございました!」
ミリアリアも挨拶をする。
「ふ。良いジャーナリストになるのだな」
「あ、そう言えばジブリールさん。今更ですがイタリアへは何の用事で来られたのですか?」
「え……何の、用事……」
ジブリールは珍しく口ごもった。
「もしかして! セトナさんに会うためにわざわざ!?」
ミリアリアがわくわくした口調で尋ねる。
「あは。あはは。あはははは……」
照れ笑いながらジブリールはヘリに乗り込み去って行った。
「初めて会った時怖かったけど……普通の人ね」
「ああ。財閥のトップって言えばもっとエラソーにしてるかと思ったが」
「ふふ。私の自慢のお兄様よ!」
セトナは胸を張った。

 
 
 

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