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Last-modified: 2009-04-18 (土) 20:14:27

プラント攻撃にあたった地球軍艦隊は3度に渡るネオ・ジェネシスの発射によりその8割を消失した。

 

「どうやら、一先ずは地球軍の攻撃を防げたようだな。次はなんとか交渉に持ち込んでプラントの存続を図らねば……」
デュランダルがひとまずアプリリウスへ戻り、プラント評議会の会議が終わらせて執務室へ戻ろうとした時である。
「か~ん~ぞ~く~!」
前から突進してくる男の言葉が『奸賊』を意味する言葉だと理解した時だった。デュランダルの腹部に、熱い物が突き刺さった――

 

「議長の容態はどうなのだ?」
「……」
医師は首を振った。
「後は本人の体力次第です」
「犯人は?」
「奥歯に、シアン化化合物の入ったカプセルを仕込んでいました。それを噛み砕いて……」

 
 

混乱するプラントに近づく艦隊があった。
「あれはなんだ!?」
「地球軍の艦艇だぞ!」
「いや、待て、先頭はエターナルだ!」
その時、謎の艦隊から通信があった。
『ザフトのみなさん。わたくしは、ラクス・クラインです!』

 

苦しい状況の中、地球軍の艦艇を数多く強奪してきたと言うラクス軍の行為はプラント市民に英雄のように捉えられた。
フリーダム強奪事件の真相などは、まだ一般市民に知らされていなかったのだ。
『で、あなた方はどうしたいと? ラクス・クライン?』
「もちろん、祖国の勝利に貢献する事ですわ」
にっこりラクスは微笑んだ。
「わたくしが持ってきた艦隊もお役に立ててくださいな」
『……条件は?』
「そうですわねぇ。今はまだ、わたしくが上に立つのもおかしいでしょうから、アイリーン・カナーバを釈放、評議会議長に復帰させてくださいな」

 

「ラクス・クラインが? 私を釈放? 評議会議長に?」
知らせを聞いた拘禁されていたアイリーンは驚いた表情をした。そして突然笑い出した。
「ほほほほ!」
笑い止んだアイリーンは言った。
「いいでしょう。これが運命と言う訳ね。引き受けましょう!」

 
 

地球軍のプラント攻略部隊は、アノレ・サレム少将、戦死。ウラソフ少将、戦死。ムーマ少将、戦死。
かろうじて一番後方にいたポロティソ中将だけがなんとか生還を果していた。
「どうすればいいのだ、どうすれば……」
その時、颯爽とサハク姉弟が現れた。
「ヤキン・ドゥーエのジェネシスと同じ武器にやられたようだな。若干威力は弱いようだが」
「代わりに、連射ができるようだ。それで、8割まで艦隊が損害を受けた」
「どうしたのだね? なにか用なのか?」
ポロティンが質問した。
「ザフトの新要塞、要塞砲、正面はオーブ宇宙軍に任せてもらおう!」
ギナは自信ありげに言った。
「なんだって? オーブに戦艦なんか4隻しかおらんだろうが!」
「残りは無人艦でも配置して増量して艦隊に見せかければよい。とにかくオーブ宇宙軍のイズモ級をジェネシスに狙って欲しいのだ」
「あの金ピカの艦か?」
「ふふふ。金色(こんじき)の艦隊と呼んでくれ。あの金ピカ装甲に秘密があるのだよ。ザフトの奴ら、驚くであろうな」
ミナはほくそ笑む。
「ザフトが混乱したら、地球軍に側方から攻撃してもらえばよい」
他に適当な案もなかった。もしジェネシスが撃たれても、被害はオーブ宇宙軍4隻と無人艦だけである。
サハク姉弟の案は承認された。

 

地球軍のプラント攻撃は再開された。ただ、とりあえずの目標は変更されている。新しく確認されたザフトの要塞だ。
そこに、オーブ宇宙軍の金ピカのイズモ級4隻を先頭に無人艦がまるで艦隊が行動しているように見せかけ、続く。第3、5、6、8艦隊は前回の戦訓から、ジェネシスの効果範囲に入らないように注意してオーブ艦隊の周囲を取り囲み、全体として紡錘形を保って進んでいく。

 
 

「どうやら、勝ったな。このカシオミニを賭けてもいい」
アメノミハシラで戦況を見ていたユウナが言った。
ここでザフト軍が地球軍を撃退したとしても、もう次の攻勢に耐える体力がない事に気づいていたのだ。
「ああ。オーブもクーデターが鎮圧完了と言う。早く本土へ戻ろう。私のむじな姿をオーブ国民に見せて、笑顔を取り戻してやりたい」
「そう思って、準備しといたよ」
そう言うとユウナはタヌキの着ぐるみを取り出した。
……10分後、彼らはシャトルでオーブ本土を目指した。

 
 

「また懲りずにやってきたか」
メサイアに向かってくる地球軍を見て管制室のクルーが馬鹿にしたように言う。
「……? ただメサイアのまん前に進んで来るだけではないか? 何かの罠では?」
「どっちにしろ撃たずには居られまい。対空砲火開始! ネオ・ジェネシス発射用意! 狙い、敵中央部!」

 

メサイアからの対空ビーム砲がオーブ艦隊を包み込む。
メサイアの司令室から金ピカ艦の後ろの艦隊が撃破されていくのが見えた

 

そして……メサイアが揺れた――!
「主任! メサイアに衝撃!」
「何事だ!?」
メサイア前面表面、対空施設、全滅! 応答ありません!」
メサイア表面に多数設置されていた対空ビーム砲――それは『ヤタノカガミ』の反射によって破壊された。
「ええい、細かい事はいい! ジェネシスを撃てば終わる! ネオ・ジェネシス発射!」
――ネオ・ジェネシスが発射され、光がオーブ艦隊を包み込む!

 

そしてネオ・ジェネシスも――
金ピカの『ヤタノカガミ』でネオ・ジェネシスの光を真っ直ぐに反射されたその光はネオ・ジェネシスの砲口に威力を減衰しないまま突き刺さり……その内部で爆発! ――メサイアは崩壊した。

 

「なんと言う事だ。悪夢だ」
プラント評議会の皆はアイリーン・カナーバを除いて頭を抱えた。
アイリーンは何を考えているのか、表情に変化を見せない。

 

「おい、なんでコロニー全基に急にフレアモーター付けろなんて?」
「さぁ? とにかく評議会議長からの命令だ。手早くやっちまおうぜ!」

 

「……どのような手か知りませんが、地球軍にも策があったと言う事ですね」
エターナルの艦橋でラクスは冷静に言った。
「では、マンハッタン作戦の発動を命じます。各艦には事前に送ってあったコード1945を開き、それに従うように伝えてくださいな」

 

「ラクスか」
通信を開くと苦々しげにアスランは呟いた。
「あの女……」
アスランはラクスを憎んでいると言っていい。
だが、ラクスは何か事態を打開する策を持っているらしい。
また、自分の地位も何かを為せる地位にある訳ではない。3隻の艦を統率するだけのただの臨時のザラ隊隊長だ。
アスランは感情を理性で抑えた。
不本意ながらそれに従うしかなかった。

 
 

メサイアを崩壊させた地球軍は、プラント目指して突き進んだ。
――突然、一隻の戦艦が爆発した。その爆発は数を増していき、地球軍は混乱に陥った。
「今だ、行くぞ! イザーク! アスラン!」
「「はい!」」
上級指揮官となったクルーゼの声に従い、イザークとアスランは旗下の艦に攻撃を指示する。
メサイアの崩壊に巻き込まれなかった残存ザフト軍が攻撃を開始する。
「なんだ、あの金ピカの艦は!?」
後ろに引き連れていた無人艦艇はネオ・ジェネシスに破壊され、イズモ級4隻だけが孤立して、崩壊したメサイアの前面に存在していた。
「いい度胸だ、やっちまえ!」
「あれだけ突出していると言う事は何かの罠かも知れない! 気をつけて!」
マユが叫ぶ。
「罠なんてありませんよ!」
カン・トークがM1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を放つ。
一瞬、何かが光った。
「ああ!? カン・トーク!」
何故だかわからないが、カン・トークのザクが爆発した。
「よくもカン・トークを!」
シリー・ズ・コウセイが叫んだ。シリーはカン・トークと恋人同士の間柄だったのだ。
シリーは顔を歪ませてオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を構える。
プロ・デューサーも同じくオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を構える。
そして……発射。
次の瞬間、シリーもデューサーも訳もわからずザクの爆発の中で命を落とした。

 
 

「ははは! 見事な物だ。この金ピカ装甲は。ザフト軍に突っ込むぞ!」
ギナが笑った。
「物理的攻撃には無力だと言う事を忘れるな。あと、ビームサーベルにもな」
ミナが指摘する。
「わかっている。最大戦速で一回だけ、突き抜ける。どうだ?」
「いいだろう」
イズモ級4隻は地球軍を攻撃するザフト軍に突撃した。
ザフト軍の内側に入り込み、『ローエングリン』、『ゴットフリートMK.71』を撃ちまくる。
ザフト軍艦艇は内側に入ったイズモ級を攻撃するが、イズモ級の金ピカの装甲『ヤタノカガミ』で反射された自らのビームでわけもわからず撃破されていく。

 
 

「行くよ! こいつら、なんとしても許さない」
「ああ、姐さん!」
ヒルダ達はオーブ艦隊に接近、攻撃を仕掛けた。
JP536X ギガランチャーDR1マルチプレックスで実弾とビーム砲を発射する。
ヒルダは実弾が金ピカ艦隊の装甲に食い込み破裂するのを見た。
「はは、ざまあ……」
その時、ヒルダは何かが高速で迫ってくるのを感じた。
「くっ」
あやうく何かの攻撃を躱す。
「くそ、なんだってんだい! レーダーには何も……」
向こうで何かが急速旋回してくるのが見える。
「まぁいいさ! いくよ! ジェットストリームアタック!」
「おうよ」
「いいともさ!」
「――く、スピードが! 間に合わない!?」
ヘルベルトとマーズのドムトルーパーからJP536X ギガランチャーDR1マルチプレックスが放たれる!
ヒルダは咄嗟にドリルランスMA-SX628フォーディオを手に取り、突き立てた。
「ざまぁ! これで……効いてない!?」

 

「はははは! 貧弱、貧弱ぅ!」
それは、ギナの操る高速高機動モビルスーツ、ゾッグであった。ガンダニュウム合金の装甲により、ヒルダ達の攻撃をいとも簡単に受け止めたゾッグは、頭頂部のメガ粒子砲を発射する!
次の瞬間、ヒルダのドムトルーパーは、ビームシールドを使う余裕もなくメガ粒子砲に貫かれ爆散、ヒルダの意識は四散した。
次に突進に移ったゾッグは両手のツメにドムトルーパーを引っかけ、急激な加速を行う。
「ち、装甲が剥がれた!」
その代わりにゾッグのツメからは逃れられたのだが、マーズとヘルベルトは喜んではいられなかった。
「遅いわ!」
いつの間にか、真っ正面にゾッグがいた。そして、両肩から放たれる四つの光――!
「行動不能! 脱出する!」
だが、その瞬間マーズとヘルベルトのドムトルーパーは再びのゾッグからの光を浴びて、破壊された……
「あっけない、つまらんな」
ギナはつぶやき、それ以上艦隊に近づくモビルスーツが無いのを確認するとイズモに帰還する。

 
 

このオーブ宇宙軍の突撃により、混乱する地球軍は撤退する貴重な時間を得た。

 
 

「あれは、あの爆発は何だったので?」
撤退していく地球軍を見ながら、エターナルに連絡士官として派遣されていたザフト軍人がラクスに尋ねた。
「ああ、あれ。核爆弾ですわ。ミラーシュコロイドをつけてあらかじめあの宙域に設置しておいたのです」
「か、核爆弾!?」
「あらあら、宇宙には原子爆弾の発する以上の放射線が飛び交っているのに今更ですわね」
あわてふためく軍人に嫣然とラクスは笑った。
「どうやって、核物質を手に入れたので?」
プラントには、ニュートロン・スタンピーダに使うだけでほとんどの核物質を消費していたと言うのに。
「大洋州の同士が、協力してくれましたの」
ラクスはくすくす笑った。
「後は、地球連合に、もう一度ユニウス7を経験したいかと脅しつけて交渉するだけですわ! 核でもよいですけど」
「すごいや、さすがラクスだよ!」
キラがはしゃいだ。
「キラ…・・・今、幸福かい?」
ふいに、バルトフェルドが聞いた。
「うん? 幸福だけど? だってラクスが希望を果たして……」
「そうかい」
バルトフェルドはつぶやくように言い……
――!
バルトフェルドはいきなり左腕の義手を抜いて、キラに向けて銃を連射した。
キラは倒れこんだ。血溜りが広がっていく。どう見ても死亡するのに充分な流血の量だった。
「――! どうして? どうしてこんな事を!? キラ君を!?」
混乱した様子でマリューが叫んだ。
「こいつはアイシャを殺した」
ぽつりとバルトフェルドは言った。
「で、でも! あれは戦いで!」
「ああ、最初は恨みになんか思っちゃいなかったさ。キラが心を病んだ時も本気で心配していた。だがねぇ」
バルトフェルドは溜息をついた。
「楽しかったよなぁ、ラクス。世界をこの手に握る計画を練るのはさ」
バルトフェルドは両手を広げて見せた。
「でもな。俺が、ラクスと作ったデュランダル議長の野望の書。粗末なもんさ。デュランダル議長本人が書いたと言う事にした訳でもなかった。知り合いが書いたと言う事にした。筆跡でばれるからな。……それを簡単に信じ込み、ラクスの言葉を簡単に信じ込むキラを見ている間に、思ったんだ。……ああ、こんな奴なら、アイシャの仇を取ってもいいかなぁってな」
「そんな……」
「一度思っちまうと、恨みが表れてきた。募ってきた。だが、これでも我慢したんだぜ? 義理を果そうって。ラクスが天下を取るまではってな。さぁ、行けよ、ラクス。その血だらけの手で世界をつかめ!」
「くっ」
ラクスはキッとなるとキラの死体から銃を取り出し、バルトフェルドに向けて発砲した。
銃声が響く。
「あ。ああ……」
数発発射した後、ラクスは自分がした事が信じられないかのように気が抜けたように座り込んだ。
バルトフェルドはその身体から血を流し倒れこんだ。
「……へへ。いい顔だったぜ、ラクス……いつもの作り笑いよりよっぽど……」
「しゃべらないで! 衛生兵!」
一番早く正気に戻ったのはマリューだった。
最近いつも感じていただるさを、精神の高揚が吹き飛ばす。
マリューは呆然と座り込んでいるラクスの頬を叩いた。
「しっかりしなさい! ラクス軍の皆の命はあなたに掛かっているのよ!? さあ、気を取り直してアプリリススに向かいなさい!」
もう一度、マリューはラクスの頬を叩いた。
「……大丈夫……」
低い声でラクスは声を出した。
「負けるもんですか。私は世界の物、世界は私の物!」
血を吐くような口調でラクスは言い、立ち上がった。
「アプリリウスに行きます! 用意しなさい!」
張りのある声でラクスは命令した。もう後ろは、キラの姿は振り返らなかった。

 

「ラクス! 会いたかったわ!」
アイリーン・カナーバが言った。
評議会室にラクスが入ると、銃を構えた男達が周囲を取り囲み、ラクス達に狙いをつけた。
「これは一体どう言う事です?」
予想と違うアイリーンの出迎えの様子に、硬い声でラクスが尋ねた。
アイリーンはプラント内の腹心のはずだった。はずだったのだが、これはなんだ?
「お黙りなさい。この父親殺しが!」
アイリーンは怒鳴った。
「私をプラント内の腹心と思っていたわよね。おあいにく様。このような時が来るのを待っていたのよ! シーゲル様の仇のお前を始末できる時をね!」
「父親殺し? なぜわたしくがそのような事をしなければいけないのです?」
「今更しらを切る気? フリーダム強奪の際、監視カメラにわざと顔を見せたわね。そして、わざわざシーゲル様と別れて身を隠し、シーゲル様の潜伏場所を通報した! 全てネタは上がっているのよ! 不肖の子が!」
「……ええ。確かに私は父親殺しをしたと言えるかもしれません」
ラクスは認めた。
「でも、それは父、シーゲルが人類滅亡を企んでいたからです!」
とんでもない言葉だった。
だが、それを聞いても、アイリーンの表情は変わらなかった。
「知っていたわ」
表情も変えずアイリーンが言った。
「え?」
ラクスが戸惑ったような顔をする。
「知っていたわ。そんな事。奥様が死んだ後、誰よりもシーゲル様に近かったのはこの私よ」
「そんな……」
「シーゲル様は地球環境が悪化していく事に非常に苦悩していらしたわ。そして気づいたのよ。人間がいなくなれば全ては解決するってね」
「狂ってる……」
「そうかも知れないわね。」
アイリーンはにっこり笑う。
「では、私の狂気はあなたが保証してくれるという訳ね。では、あなたの正気は誰が保障してくれるのかしら? あなたがオーブのウナト宰相を暗殺し、デュランダル議長を暗殺しようとした事はネタが上がっているのよ。ああ、ついでにあの可哀想なあなたの偽者、ミーアもね。そこまでして落ち目のプラントの支配権が欲しかった? それとも地球の支配権かしら」
「……」
絶句したラクスをよそに、アイリーンはデスクにある通話機を取った。
「緑の豆へ。『最後のラッパを吹き鳴らせ』」
「……?」
「同士への暗号よ。これで、全てのプラントのコロニーが地球に落下を始めるわ」
「そんな! 地球が滅びてしまう!」
「些細な事よ、そんな事」
アイリーンは事も無げに言った。
「地球は、太古に植物を繁栄させて嫌気性生物の発展の道を奪ったわ。それって地球環境には大変化じゃない? 大体大昔は人類が住める環境じゃなかったのよ。そこまで昔に行かなくても、古生代のオルドビス紀末、約4億3500万年前の大量絶滅では、当時生息していた85%の生物種が絶滅したと言うわ。2億5000万年前、古生代後期のペルム紀末に過去最大規模の大量絶滅が起こっているわね。当時、海洋生物のうち96%、全ての生物種でも90~95%が絶滅したと言われてるのよ? 最近じゃあ白亜紀末、6500万年前には大型爬虫類の恐竜やアンモナイトなど地球上の全生物の70%が絶滅したと言われているわ。……ふふ、地球環境を守るって何よ? 人間に都合のいい環境の事だけじゃない。些細な事よ、地球にとっては。プラントが落ちて起こる災害なんか。プラントが落ちても地球は平気で存在するわ」
「く、狂っているわ! あなた! 父は、父はそれでも現在の地球環境を守ろうとして!」
「どうでもいいのよ。今更ね。シーゲル様はシーゲル様。私は私。私にとっては現在の地球環境もコロニーが落ちた後の地球環境も等価値なのよ」
「くっ――!」
皆がラクスとアイリーンの会話に注目する中、隙を掴み、突然、アーノルド・ノイマンがマリューの身体を掴み、部屋の外へと脱出する。
「撃ちなさい!」
度重なる銃声。
背中から血を流しながらノイマンは、重い扉を閉め、自らの身体をもたれかけさせ扉が開くのを防ぐ。
「ノイマン! あなた!」
「これを……お飲みください」
ノイマンは胸ポケットから小瓶を取り出す。
マリューはそれを飲んだ。どこかだるかった身体が、さーっと軽くなる気がする。
「身体がだるかったでしょう? それが取れたはず。覚醒剤です」
「覚醒剤!?」
「ラミアス艦長……謝罪します。私はあなたを洗脳する役目を引き受けていました。ラクスの思い通りになる人形に……」
「なんですって!」
「あなたに使われた薬剤と治療法のデータは自分のパソコンの中に。パスワードは『Natarle Badgiruel』」
「ナタル!?」
思いがけない懐かしい名前にマリューは驚いた。
「バジルール中尉を殺したあなたは、愛する男を殺された、ただの私怨でローエングリン発射を命じた様に見えた……。そのくせ憎しみあって戦争は終わるのかときれい事を言う。それがずっと拘りだった。先の戦役が終わった時から、ラクスはそんな自分の気持ちをすべて見抜いていました。そしてユニウス7落下事件の後、自分に声をかけてきた。復讐だったのですよ。あなたに自分を愛させてやると言うラクスの言葉に乗って……あなたに自分を愛させ、そして自分は……」
「あなた……ああ、ごめんなさい。血が止まらない……」
マリューはノイマンの告白を聞きながら彼の止血を試みるが、見る見るうちに血溜まりが作られていく。
「もう、いいんです。やっとわかった……ああ、バジルール中尉! 迎えに……? ラミアス艦長? 早く、早く逃げてください! 私はもうだめです! 自分はこのままバジルール中尉と……」
すでにノイマンの意識は混濁しているようだった。
「――わかったわ!」
マリューはノイマンの唇にキスをすると、救命艇のある場所を目指して走り出した。
「絶対、生き残ってやる!」

 

「ふ……まぁいいわ。さぁ、抗うものは抗えばいいわ。私達は人類滅亡までゆっくり楽しみましょうよ。あなたは生かしておいて上げるわ」
そう言いながら、アイリーンはラクスの四肢に銃弾を撃ち込んだ。
ラクスはその痛みに悲鳴を上げる事すらできなかった。
「椅子に座らせて上げなさい」
「はっ」
四肢を破壊され身動きできなくなったラクスは男達の手で椅子に座らされた。
ラクス、そしてアイリーンの前には刻々と近づいていく地球。
「さあ、このアプリリウスもどこまで持つかしらね。その内自壊するわ。地球に激突するまで生きていられないのが残念。ワイン、飲む?」
男の手がワイングラスをラクスの唇に近づける。
「ええ、頂くわ」
ラクスは一気に飲み干した。こぼれ落ちたワインが首を伝う。アルコールが身体に廻り熱い。どの道できる事はもうないのだ。
「お望みなら毒入りのワインにしてあげるけど? この光景を見ていられないと言うならね」
「結構よ」
ラクスはアイリーンの提案を断った。
この結末を出来る限り自分の目で見届ける事……それが自分の責任だと――世界をこの手に握るために、最初にウナトを殺し、ミーアを殺し……デュランダルを襲わせ――次々に引き起こした事態への責任だと思ったのである。
「ほほほ。さすがね。ウナト・エマ・セイランを殺し、ミーア・キャンベルを殺し、ギルバート・デュランダルの暗殺を謀る女だけはあるわね」
「……」
ラクスはただアイリーンを睨み付けた。
「否定しないのね」
「今更しないですわ。ただ、私には志がありましたわ。手を汚して悔いない……」
「へぇ、どんな?」
「世界を平和の内に治める事ですわ。もう少しで可能でしたのに!」
「あはは! 核やコロニー落としで脅しつけて作り出す平和の世界? 笑っちゃうわ。……ねぇ、聞かせて頂戴。何故、世界を混乱に落としいれ、そして世界の覇権を握ろうとしたの? 普通に選挙に出てプラントを支配しなかったの? そうして、コロニー落としで地球連合を脅せばよかったじゃない? ねぇ、何故? そうすれば、私だってあなたの目を掻い潜ってこんな事は出来なかったかもしれないのに」
「こちらも聞きたいですわ。なぜ、前戦役の終わった時に事を起こさなかったのですか?」
「ジェネシスで十分と思ったからよ。見事にあなたたちに邪魔されたけど」
「では、あなたが! ……その後評議会議長になったのにコロニー落としをしなかったのはなぜですの?」
「地球軍に警戒されていたからに決まっているじゃない。それに平時にコロニー落としをしようとしてもプラント市民が邪魔するわよ、さすがに。コロニー落としを成功させるには今のように攻撃されて混乱している時でないとねぇ」
「――まさか! ユニウス7を堕として再び戦争を起こしたのは!?」
「それも私よ。もっともギルバート・デュランダルも彼なりの思惑があってテロリストに手を貸していたようだけど」
アイリーンはにぃっと笑った。
ラクスはアイリーンから目をそらした。
敗北感が身に満ちた。
スクリーンを見つめ、もはやアイリーンに話しかけなかった。
ただ、後、思う事は……
ああ、今更かもしれないけれど。あなた達はなんとか助かって、ラミアス艦長達……
――!
その時、どこからともなく飛来した一発の弾丸が、ラクスの頭を吹き飛ばした――
それは、神の慈悲であったのだろうか?

 

「依頼、完了……」
地球へ向けて動き続けるアプリリウスの中で、裏の世界で有名なスナイパー、ゴルゴ41はそうつぶやくと、焦る様子もなく手に持ったフォーティーワンアイスをなめながら、コロニーから脱出するために移動をはじめた。

 

「なんだと? ふざけるな!」
デュランダルが暗殺されかけたと言う事で慌ててアプリリウスへ詰め掛け入港したクルーゼである。
いきなり、通信方向が全方位に向けた広域発信通信を受信した。
それは……アイリーンとラクスの会談の映像だった。
「くっ。ギルを暗殺しようとしたのか、許さん! お前らだけは……」
クルーゼは立ち上がった。
「レジェンドで出る! 用意しろ!」
「お待ちを」
レジェンドを出し、評議会議長室へ行こうとしたクルーゼを押えたのは副官だった。
「あなたが先の戦役で何をしようとしたのかは存じております。ですが! 今、ここにあなたの指揮を待っている者がおります! あなたを信じて指示を待っている者が居ります! それでも行かれますか!? あなたの個人的な事情を満足させるためだけに! それでも、それでも自侭に行動なされるというなら勝手になさるが良い!」
「……くっ……」
クルーゼは呪った。かつてなら面白がってみていたであろう、この世界を滅ぼさんとする者達を。
席に座りなおすと指揮官として言った。
「港に、避難者が退去して来よう。限界まで、避難者を救助せよ! 離脱限界高度までだ! 港にも伝えろ!」

 

「何が起こった!」
アスランは目の前の光景が信じられなかった。
プラントのコロニー全基が、地球に向けて落下をはじめていく。
ユニウス7落下の時の光景が頭を過ぎる。
「ミネルバのタンホイザーで……」
プラントから脱出艇が次々に発進しているのが見える。
「だめだ。プラントには人が居る!」
アスランは決意した。自分の父の、ある意味では呪われた名前を利用する事を。
「全軍、聞いてくれ! 俺はパトリック・ザラの息子、フェイスのアスラン・ザラだ! 一時的に全軍の指揮を取らせてもらう! まず地球軍に休戦を申し出る。プラント住民の救援のためである! どうか、受け入れられたい!」
そしてシンに言った。
「シン、長距離通信で地球軍に講和と救援を申し込め、アスラン・ザラの名でだ!」
「はい!」
「続いて、ザフト軍残存全艦に告げる! プラントから脱出艇が発進している! 彼らを一人でも多く助けるんだ! もう戦っている場合じゃない!」

 

「ふ」
イザークはその通信を聞くと微笑を浮かべた。
「やはり。これでこそアスラン・ザラだ。いつも俺より上を行きやがる。自慢の……弟だ!」
そして部下に命令した。
「プラントに急行しろ! できるだけ多くの人々を助けるんだ!」

 
 

その光景は地球軍艦艇からも確認されていた。
「おいおい、なんだこれは!」
「まさか、戦争に負けるからって俺達を道連れにする気じゃあるまいな!」
「なにかできる事はないのか!?」
その時、アスランからの長距離通信が届いた。
「なに? 講和と救援要請!?」

 
 

「ええい、私の独断で構わん! レクイエム、発射用意!」
「はっ」
地球連合軍ダイダロス基地の司令官は命令した。
『レクイエム』――巨大ビーム砲を、月の周辺に配置されたビーム偏向装置を設置した複数の廃棄コロニーで全方位に攻撃可能と言う代物である。その威力は前戦役時のジェネシスに匹敵する。
「とにかくできるだけ多くのプラントを破壊できるコースを取らせろ!」
「プラントからは、まだ脱出艇が……」
「知るか! 奴らの自業自得だ! 人類を心中させる訳にはいかんだろうが! これこそ積極的自衛権の行使って奴だ!」
――軌道間全方位戦略砲『レクイエム』が発射された。
レクイエムは数基のプラントを両断した。
だが、両断されたプラントはそのまま落下を続ける。
「司令! あの大きさでは落ちたらどの道……」
「わかっておる! だが、何かやらなきゃいかんだろうが! 1%でも可能性がある内はよぅ、あがくのが男ってもんだ! レクイエム撃てるだけ撃て! 撃ちまくれ! プラントを細かく破壊しろ!」

 
 

「アスラン!」
帰還したルナマリアがブリッジに入ってきた。
「何が起こったの?」
「ブラントが……全基、地球に向けて落下を始めた」
「何か……できないの?」
「メテオブレーカーも無い! それにプラントの中には人が居るんだ!」
「地球、滅びちゃう……」
「地球も滅べば宇宙に居る俺達も、終わりだ……」
「アスラン!」
ふいにルナマリアは叫んだ。
「何だ?」
「死んじゃうなら、私言いたい! 私、あなたが好き! ずっと前から好き!」
「俺もだ! ルナ!」
二人は抱き合い、むさぼるようにキスをした。

 

その間にもプラントは地球に落下していく。

 

全基のプラントは、大気との摩擦熱で赤熱しながら、地球に落下していく。
「ああ……!」
ルナマリアとアスランはその様子をどうしようもなく見つめていた。

 

「お兄様……」
セトナがジブリールの手を握る。
ジブリールはシャトルまで使って赤道連合までやってきた。
プラントが落下を始めたと聞いた時、ジブリールの頭に浮かんだのはセトナのそばに行きたい、ただそれだけだったのだ。
ジブリールは優しくセトナの髪を撫でる。
「この様な事が起こらないよう、なんとかしようとやって来たが、すまんな。力不足だった」
「いいえ!」
「不思議だな、こんなに穏やかな気持ちなのは。セトナと一緒のおかげかな。出会ってくれてありがとう」
ジブリールはセトナに微笑んだ。

 

「ユウナ、あぶないぞ! さっさと避難を……」
カガリの声に、海岸に出ていたユウナは振り返った。
「やれやれ。アメノミハシラを出る時はこれで事は済んだと思ったのにねぇ。ユニウス7一基であれほどの被害だったんだ。今度こそ地球は終わりさ」
「ユウナ……」
「カガリ、こんな時だから言うけど」
「なんだ?」
「ありがとう。僕の人生を豊かにしてくれて。君と一緒で楽しかったよ」
ユウナはカガリに向かって微笑んだ。

 

地球滅亡――地上のある者は絶望に陥り、ある者は覚悟を決めた――

 
 
 

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