Top > SEED-IF_CROSS POINT_第2話
HTML convert time to 0.011 sec.


SEED-IF_CROSS POINT_第2話

Last-modified: 2010-01-20 (水) 02:34:38

かつて破壊されたコロニーの残骸の中を、一機のブレイズザクファントムが猛スピードで進んで行く。
旋回。急制動。浮遊している残骸の群れを鮮やかに避ける華麗な動き。
それだけでもそのパイロットが歴戦の勇士であることがわかる。

 

だがコックピットの中の彼の表情から、余裕は微塵も感じられなかった。

 

「糞ったれ……糞ったれ!! 糞ったれ糞ったれ糞ったれめ!!!」

 

男は逃げていた。
目は荒み、肩は震え、歯を恐怖でガチガチと鳴らしながらも逃げていた。

 

「何処で間違った」

 

これまでの人生を振り返る。
プラントでは比較的裕福な家に生まれ育った。
軍の学校をトップで卒業し、その身に紅を纏った。
脆弱なナチュラルどものMSを数え切れないほど落とし勲章も貰った。
名パイロットとして称えられる日もそう遠くなかっただろう。

 

「一体何処で間違ったって言うんだ」

 

転機は前大戦が終わってからだった。
ザフトがクライン・オーブ連合軍に破れてからというもの、プラントはクライン派どもに占拠された。
デュランダルの下で最後まで戦った自分は緑に降格、
クライン派のひよっこ白服どもに顎で使われる日々を送り
外に出ては 『ラクス様に刃向かった者』 と白い目で見られた。
妻子はそれに耐え切れず家を出て行き、残った資産もほとんどを新政府に没収された。

 

ザフトを裏切った蝙蝠野郎どもがそのザフトの仕官として幅を利かせ、
ザフトに最後まで尽くした真っ当な軍人が虐げられるその現実。
耐えられなかった。許せるものではなかった。
だからクラインに抵抗する組織に入った。

 

「俺はなんでこんな目に遭ってる」

 

そこには自分と同じ境遇の者が多くいた。
デュランダルの下で戦った熟練のパイロットたち。皆、腕に覚えのある者ばかりだった。
だが補給なしでは力は維持できない。そして少数派である自分たちに届けられる物資はごく僅かだ。
だからクライン派やオーブの物資運搬船を襲うようになったのは当たり前のことだった。
護衛のMSを苦も無く落とし、掃討しに来た軍隊をデブリ帯に引きずり込んで
幾度も返り討ちにしていくうちに、軍でも滅多に手を出せない場所として名が知られるようになった。

 

それがいけなかった。
結果、死神を―――フリーダムを呼び寄せることになってしまった。

 
 

「糞ったれめ」

 

正直な所、奴を甘く見ていた。確かに英雄と呼ばれ数多の敵を倒してきたのは事実だろう。
だがそれらは本当に 『敵』 と呼べる存在だったか怪しいものだ。
奴の戦闘を研究する際、回避動作も防御もせずにフリーダムの攻撃を受け堕ちていくMSの映像を
見せられるたびに内心あきれたものだった。
こんなので英雄か。あの程度の敵を何機落としたところで、なんの強さの証明にもなりはしまい、と。
確かに機体の性能は最高だろう。だがパイロットとしての腕ならば決してひけは取らないはず。
多くのMSを撃墜した経歴があるとはいえ、それはこちらも同じなのだ。
しかもこちらには自分に匹敵する腕を持つ仲間に地の利もある。
まともに連携さえすれば、どんな相手でも負ける筈はなかった。

 

その筈だった。

 

「―――!!」

 

背後で一筋の光が流れる。
何故だ。機体の性能の差は十分承知だ。
だが、この自分がこうまで簡単に詰められるとは―――

 

『鬼ごっこはもう終わりですか? 貴方で最後なんですけど』
「―――ッッ!!!」

 

悪魔の声がコックピットの中に響き渡る。
そして目の前には、白と青で彩られた美しい機体の姿があった。
もう逃げられない。いや、逃げてはいたが分かっていたのだ。
逃げきるにはヤツを殺るしかないという事は。
だがそれは難しすぎる。自分と相手との間には実力差がありすぎる事を、もう認めるしかなかった。
何故なら。

 

「畜生、馬鹿にしやがって……!! ビームサーベルだけで俺達を全滅させようってのか!?」
『馬鹿にしているつもりはないんです。ただ、今後の為に接近戦も練習しておかないといけなかったから』
「練習…練習だと……?」

 

何だそれは。そんな馬鹿みたいな理由で俺達を。
怒りが僅かに恐怖を上回った。
いいだろうやってやる。その驕りを抱いたまま―――

 

「くたばれ、化け物が!!」

 

肩のファイヤビー誘導ミサイルを全弾発射、それと同時にトマホークを抜いて前に出た。
守りを考えては負ける。前に出て攻撃することに全精力を注ぎ込まねば絶対に勝てないだろう。
どうせライフルは当たらないのなら、奴の望みどおり接近戦しか選択肢は無い。
奴が回避するならミサイルを盾に、迎撃するなら爆風に紛れて懐に潜り込むのだ。
フリーダムのサーベルが振られ、ミサイルが爆発した。

 

今だ。

 

爆風でフリーダムが煙に包まれる。それを逃さず距離を詰めた。
煙が消えたその時、目の前にフリーダムが映る。無防備だ。いける。

 

「喰らえ!!」

 

男は渾身の力を込めて、トマホークを振り下ろした。が―――

 

「え……?」

 

だがおかしい。あるはずの手応えがない。
いや、それどころかフリーダムの姿が無いのだ。

 

『まあ、こんなものなんでしょうね』
「な……ぐあっ!!」

 

背後に振り向くと同時に爆発が起こった。機体状況を確認、右手がトマホークごと消失している。
そしてザクの背後にはフリーダム。
意味する事は一つ。身体の震えがぶり返してきた。

 

―――まさか、この一瞬で?

 

『まいったな。ここに来たのは、軍ですら手が出せない場所っていうのも理由の一つなんですが』
「あ、ああ……」
『ちょっと拍子抜けですね』
「来るな…」

 

血でも掃うかのようにサーベルを振った後、水平に構えるフリーダム。
出力を上げたのだろう。サーベルが少し太くなった。

 

『それじゃ、今度はこちらから行きます』
「く…来るな……来るなぁ!!」

 

怯える時間すら与えてくれない。
前に出るフリーダムに対し、ザクファントムは残った左腕でビーム突撃銃を連射した。
フリーダムは回避運動すらろくに取らず、数十センチの間合いで見切っていく。
そのうち避けるのも面倒くさいと言わんばかりに、ビームサーベルで突撃銃の光弾を叩き落し――――

 

そして再び擦れ違う。
今度は左腕が落とされた。

 

「何故だ……」

 

圧倒的な実力差。男は力無く呟く。
心は折れた。武器も無い。もう戦えない。
そして数多くのMSを落としてきた海賊の自分に待っている道は一つ。
今死ぬか、それともこの後軍にでも捕まって後で処刑されるか。
近付いてくるフリーダムを絶望と共に見上げながら、男は再び呟いた。

 

「何故だ……」
『今更ですね。貴方も力で誰かを薙ぎ払っていた。今回は貴方が薙ぎ払われる方だっただけです。
 力を使う以上、そんな事は分かっていたはずですが?』

 

違う、そんな事を言いたいんじゃない。

 

何故だ。
何故だ。

 

「何で俺は、こんな化け物と――――――」

 

出会ってしまったんだ――――

 

閃光が奔り、MSのパイロットは意識を失う。
訪れるのは漆黒の闇。
後に残ったのは傷一つ無い英雄の機体と、かつてMSだった金属のカタマリだけ。

 
 

彼の問いに答える者は、何処にもいなかった。

 
 

第2話 『平和の残滓』

 
 

「フリーダムと………キラ=ヤマトと戦っていただきたい」

 

やっぱりそれか。
溜息を噛み殺してシンは男に目を向ける。

 

「キラと…ですか。それは倒しに行く部隊に協力しろということでしょうか」

 

副音声を読み取れと言わんばかりに面倒くさそうな声を上げるシン。
それに答えたのは隣の小太りの男だった。
シンの気持ちを読み取った様子は……無い。

 

「少し違います。露払いは我々の部隊が行いますので、貴方には彼を倒してほしいのです」
「……ちょっと待ってください。味方の援護無しで?」
「はい。下手な援護は足を引っ張るだけだと思いますので」
「無茶言うな」

 

思ったことが口に出てしまったが、それがシンの正直な感想だった。
確かにかつてシンはインパルスの換装システムを利用した作戦で、フリーダムに勝利したことがある。
だがそれは 「シルエットの数だけ戦線に復帰できる」 という利点を利用しただけであり、
厳密にはまともな1対1ではなかった。
実際デスティニーに搭乗して戦った時には、ストライクフリーダムにまともなダメージひとつ
与えることができなかったのだ。
しかも自分は今戦いから身を引いている。
今も尚戦いの中に身を置いているキラとは差が離れこそすれ、近づいているということはまず無いだろう。

 

「無茶……ふむ。一つお聞きしますが、貴方は今の状況をご存知なのでしょう?」
「ええ。テレビとかで、一応」

 

知らないわけがない。視線を外しながら思い出す。

 

血染めの歌姫。
復讐鬼と化した英雄。
感情の赴くままに世界に宣戦布告し―――

 

そしてそのまま、全てを薙ぎ払った。
同胞も、かつての仲間も、実の姉も。いつものあの戦い方で。
フリーダムに傷一つも付けることすらせずに。

 

「では先のオーブ軍や我らザフトの大敗も知っているということですね。
 ……ならば、何か思うことがおありでは?」
「思うこと?」
「キラを許せない、止めたいという気持ちです」

 

聞き飽きた言葉だった。
クラインを憎め、仲間の敵を取りたくはないか、キラを止めるのはお前の仕事だ。
そんな言葉を聞くたびに、相手とどうしようもないほどの温度差を感じる。
こいつらは俺が値踏みしてるとでも思っているのだろうか。
大体それで義憤や憎悪を感じるなら、自分は今この地にはいないというのに。

 

「それで俺を選ぶのは人選ミスですね。大体、他に適当な人間がいるでしょう。
 アスランはまだ説得をあきらめてないでしょうし、何より俺より強い。
 それにオーブにはアカツキもあります」
「謙遜はやめてください。アスラン…オーブ軍のアスラン=ザラ少将ですな。
 確かに彼は強い。
 ですがキラと彼は親友の筈です。本気では戦えないでしょう。
 それにキラ=ヤマトはザフト軍司令官でした。
 それをオーブの者に駆除してもらっては、プラントの立場がありません」

 

それが本音か。しかもかつての主を 「駆除」 ときた。

 

「立場、ね……」
「キラとの戦いに関してならご心配なく。
 貴方の為にストライクフリーダムをも上回る機体を用意しています。
 貴方にも喜んでもらえると思うのですが」
「なら他のヤツをそれに乗せればいいでしょう」
「扱える腕の者がいません。いや、こちらにはキラと戦う覚悟を持った者すらいません。
 先ほどの発言、露払いはこちらがと言う話ですが、
 正確にはキラ以外となら戦ってもいいという者しかいないのです。
 無論彼らは軍人ですので命令すれば行くでしょう。そのような人間が勝てるとは到底思えませんが」

 

なんだそりゃと思う反面仕方ないかとも思う。キラもラクスも神格化されすぎていた。
神に喧嘩を売れる者はそうはいないだろう。
尤も、それで納得するわけにはいかないのだが。

 

「白騎士どもはどうした? オーブの5本槍は?」

 

とりあえず有名どころの名を出してみる。敬語を使うのも面倒くさくなってきた。
白騎士とはラクス子飼いの白服の集団の事で、シンも彼らが軍の中を我が物顔で歩いていたのを
幾度か見た事がある。
自分が元デュランダル派なのにクライン議長のFAITHになったのが妬ましかったのか、
それともかつてキラを一度落としたことが気に入らなかったのか。
その際に侮蔑と嫉妬の目で見るのはお約束だった。正面きってどうこうされたのは皆無だったが。
5本槍は文字通りオーブの5人の精鋭、レドニル=キサカを始めとした壮年のナチュラルの異名だ。

 

正直、どちらも微妙なネーミングセンスだと思う。

 

「5本槍は貴方が先ほど仰ったオーブによる説得が決裂した際の戦闘で、全員が重傷を負いました。
 白騎士、ですか。そのような人たちもいましたね。
 キラ相手だと分かると途端に戦う気を失くしたようですが。
 まああの方たちはキラやクライン前議長の後ろで吠えることしかできない方たちですから」

 

お前とどう違うと喉から出かけた声を押し殺し、他の2人を見た。
ディアッカは苦笑いしながら肩をすくめ、
サングラスを外した男は手を組んでコップの中の茶を見つめている。
2人とも口を挟むつもりはないようだ。諦めて目の前の男に視線を戻した。
まだこのつまらない演説を聞かなきゃならんのか。

 

「キラ=ヤマトもクライン前議長も、自分の正義を他者に押し付ける独りよがりな部分があったと
 私は思います。だから今回の様な事が起きた。
 もし今回の事が収まったとしても、また似たような事を彼は起こすでしょう。
 ならば誰かがあの子供に現実の厳しさを教えなければならない。
 ……貴方ならそれができます」

 
 

(シン、こいつ殺っちゃっていい?)
(頼むからやめて)

 

誰にも聞き取れない声でルナマリアが聞いてくる。
無理もない、クライン議長と彼女は友人だったのだ。提案は当然のことながら却下したが。
どうでもいいがこの男もよくもまあそこまでかつての主人の文句が言えるものだ。
自分の後ろで飛ばしている彼女の殺気にいい加減気付いて欲しい。

 

「どうでしょう、断る理由はないと思うのですが」

 

自分自身の演説に満足したのか、それとも気が乗らないこちらの態度にやっと気付いたのか。
ようやく男はこちらの話を聞く気になったようだ。
話も十分聞いてやったし、これ以上付き合う義理も無いか。ディアッカの面目も十分立つだろう。

 

「答えを聞きたいですか?」
「もちろん」

 

男を見下しながら告げる。コイツにはもう敬語を使う必要はない。

 

「断る」
「!!………何故です?」

 

どうやらこの男は、なぜ自分が断るのかが解らないらしい。
魔王を倒す勇者に選ばれたのに、なぜそれを喜ばないのか。そう考えているようだ。
アホか。何故って、そんなの決まってる。

 

「付き合ってられない」
「なっ………」
「大方俺がキラを倒したら、『シン=アスカを説得した功労者』 として
 要職に就こうとしてるだけだろうが。戦いもせずにアンタはさ。
 誰が認められるかよそんなもの。
 安全な場所から他人を見下す事しかできないくせに、偉そうに世界だの何だの語るな」
「そんなことは……ただ私はあの男を止めたいと思っているだけです。
 あの男は敵味方関係なく一方的に兵士を襲い、『殺したくない』 と言いつつ
 MSの四肢を奪い嬲り殺しにするような男ですよ?」
「へえ。 『敵の兵士と言えど、命を奪うまいとするキラ様はお優しい』 って、
 アンタがキラに言ってたのを聞いたことがあるんだけどな? クライン議長が生きてた頃に。
 考えを改めたにしてもタイミングが良すぎじゃないのか?」
「いや、それは……」
「それにキラの不殺はあれはあれでまともな信念だ。
 誰だって死にたくないし、生きてりゃいつか笑えるだろう。それが仇になっても死ぬのは自分だしな。
 平和な場所から民間人そそのかして戦いに放り込んで、
 そのくせ美味しいとこだけ掠め取ろうとする奴よりは遥かにマシだ」
「ぐ……」

 

小太りの男が俯く。やっと諦めたか。
話が済んだら帰れと言おうとしたシンだったが、

 

「貴方の言うことも尤もです」

 

黙っていたもう一人の男が口を開いた。
静かな言葉とは対照的に、目の奥には鋭いものが感じられる。
多分この人は軍人だ。それもかなりの修羅場をくぐってきてる。この作戦の担当者だろう。
彼はシンの反応に構わず言葉を続ける。

 

「確かにキラの攻撃によるパイロットの死者はそこまで多くはありません。
 ですが、戦闘に巻き込まれた市民の被害は増える一方です。
 また住民を避難させてからとはいえ、レジスタンスの本拠地ごと街を焼き払うといった
 暴挙も行っています」
「……」

 

初めて聞いた。あいつ、そんな事までやっちまってたのか。

 

「伴侶の死は確かに悲劇であり、それからの彼の行動も全くの間違いというわけではないでしょう。
 ですが自分1人の思想を振りかざし、自分以外の人々を傷付け、ようやく訪れかけた平和を乱す
 まるで世界が自分の物であるかのようなこの所業。これは許されることではありません。
 世界が彼の物でない事を証明するためにも、我々は彼を止めなくてはならない」
「だったら」
「だが、我々では彼を止められない。アスラン=ザラが彼を止められるのであればそれもいいでしょう。
 しかし彼はかつてキラに敗れている。不安は残ります。
 貴方がいれば、とも思ったのですが…」

 

現場の人間、しかも軍人の言葉だ。隣の男の戯言より遥かに重みがある。
しかしシンの気持ちが動くことは無い。

 

「大して変わりゃしませんよ。俺はそんなに大した存在じゃないですから」
「この際貴方の自己評価は関係ないのです。……ふむ、これ以上は無駄のようですな。
 今回はこれで失礼させて頂きます。もし気が変わりましたらこちらの方に連絡を下さい」

 

男はそう言いながら名刺を置いて席を立つと、一礼して部屋から出て行った。
小太りの男が慌ててその後を追う。
ルナマリアは玄関へと歩いていき、塩を撒……かずに皿に盛っていた。
ルナ、それ招く方だから。うろ覚えのオーブ文化するのはやめて。
2人の男が去ってからしばらく静寂が続く室内。シンは唯一部屋に残った男に顔を向ける。

 

「ディアッカ、アンタは帰らないのか?」
「そうだな。なぁ、今日の夕飯は?」
「なんだよいきなり……ルナ、こんな事聞いてきたけど?」
「これで良し、2度と来んな……夕食? えーと今日はボルシチにする予定だけど」
「うーん。ボルシチはこの間他の所で食ったからいいや。
 茶も飲んだことだし、今日はこのへんで失礼させてもらいましょうかね」
「なんなんだよもう」
立ち上がるフリーダムなディアッカに一言告げる。

 

「今度あの小デブに会ったら言っといてくれ。『放っとけ』ってさ」
「オーケー、言っとく。……じゃあな、また今度寄らせてもらうわ」
「ああ」

 

そしてディアッカも去っていった。後に残ったのは自分たちだけ。
シンはカップを片付け始めた2人に頭を下げた。

 

「すまなかったな、変なのに付き合せて。けど俺放って仕事行ってても良かったんだぞ?」
「そういうわけにもいかないでしょ。何があるかわかんないし」
「そーそー。もしかしたら私達を脅しのネタに使うって事も考えられるしな。
 あの2人に何かあってもいいのか、みたいな。
 本人達の目の前じゃ脅しにくいかなって思ってさ」
「なるほどな」

 

確かにその可能性もゼロじゃないか。
それにしても自分に手を出してくるなど、ザフトも相当余裕が無くなってきている。
クライン派が多い今のザフトでは俺、キラを倒したことあるから影じゃ相当嫌われてたのに。

 

「ま、用心に越したことはないな。2人とも身の回りには十分注意してくれ」
「わかってるって」
「ま、何か来ても返り討ちだけどね」

 

頼もしい言葉だが、念のため他の仕事仲間にも事情を説明しておいた方が良いかもしれない。
彼らも元軍人だし、変な人間が近付いたらすぐに気付いてくれるだろう。
それにしても、注意するのが敵だったキラではなく味方だったザフトだというのは皮肉な話だ。

 

「やれやれ。自由の代償は高い、ってことか」

 

呟きながら部屋の中を見渡す。
台所で皿を洗うルナマリア。人の部屋のソファに寝転がって、テレビのチャンネルを変えているコニール。
その光景を見ながらシンはささやかに息を零した。
世界は平和には程遠くて、それどころかまた戦争が始まってしまいそうなくらいだけど。

 
 

自分はなんとか、平和の端っこくらいは掴めている。

 
 

 戻る